また前書き後書き書く前に誤爆した……サブタイ編集にカーソル合わせてるときにエンター一発で投稿されるのマジさぁ……
まぁ特に本編の内容は変わんないので後から足してます。
Twitterで告知した通りオリジナル回だよ☆
あといつもより長いよ☆
「――おはよう、此崎くん」
「は……はい……おはようございます……」
「声が小さいね?」
「もっ、申し訳ございませんッ!!! おはようございますッ!!! 虹夏先輩ッ!!!」
腰を折る角度は九十度。
不肖此崎衣久、誠心誠意の最敬礼である。
スターリーのフロアにぽつんと置かれたパイプ椅子に足を組んで座り、ステージを背にして腕組みをしている虹夏先輩。
右手の人差し指が、静かに、ゆっくりと、無駄に正確なリズムで二の腕を叩いていた。
「此崎くん」
「――はいッ! 申し訳ございませんでしたッ!」
「何が、かな?」
「はいッ! わたくしめは結束バンドの皆様の自主練に参加すると以前からお約束しており、また集合時間も昼の三時と遠方に住むわたくしの事情にご配慮いただいていたにもかかわらず気の緩みと不摂生から寝坊し、結局土壇場で約束を反故にし、その後行きずりの女性と居酒屋に入って楽しい時間を過ごしておりましたッ!!!」
「改めて言葉にされると、本当に酷いね」
「はいッ!!!」
「はいじゃないんだけど?」
……か、顔あげらんねぇ……虹夏先輩がどんな顔してるか見れねぇ……見たくねぇよ……。
「──ぼっちちゃん」
「ッ! はっはい!?」
「先にスタジオ行ってていいよ。リョウと喜多ちゃんももういるから」
「はっはい! しっ失礼いたしますっ!」
頭を下げる俺の視界の端に、そそくさと走り去るピンクジャージの足元が映る。
……奴への恨み言は、言うまい。
俺が今虹夏先輩に頭を下げているのは自業自得……いや、それにしたってもう少しマシな話の伝わり方があったとは思うが……自業自得、なのだ……。
「で、此崎くん?」
「あっはい! いかがいたしましたでしょうか!?」
「もうその感じいいよ。顔上げなって」
「あっはい」
別に冗談のつもりでやってたわけじゃないんですけどね。マジで虹夏パイセンにビビってたんすけどね。
まぁとにかくこういう感じはお気に召さないようなので俺は顔を上げる。
……すると、虹夏先輩は不機嫌というよりも、なんだか心配そうな表情で俺のことを見上げていた。
「此崎くん、あたしは怒っています」
「は、はい。それはもう、当然のことと……」
「何に怒ってるかわかる?」
「え、いや、昨日約束ドタキャンしたから、かと」
「違うよ」
虹夏先輩は首を横に振って、はぁ、とため息を吐いた。
「バイトならともかく昨日は自主練だったわけだし、ましてやぼっちちゃんが来るわけでもなかったんだからやっぱりやめたって言っても怒らないよ。此崎くん、夏休み入ってからもほとんど毎日バイトと自主練に顔出してくれてるでしょ? たまには自分の時間を過ごしたくなったっていいと思うんだ」
「あ、ありがとうございます……? ……いやでも、だったら何に怒ってらっしゃるので……?」
……や、やっぱりきくりちゃんとのお食事ってのがまずかったか? でも俺は結束バンドの仮マネージャーでしかないし、食事って言っても逢引的なサムシングでは全然ないし……?
「……まぁね、今日になってぼっちちゃんが言葉足らずだっただけかも、とは思い直したんだけどさ……此崎くん、まさか本当にお酒飲んだりしてないよね」
「……は、いやいや! 飲んでない飲んでない! 全然飲んでないっす……飲んではない、です」
「
「い、いやぁ……」
……これ、説明して信じてもらえるのか?
これは、今朝になってようやく確信したことなのだが。
昨日の俺、ごりごりに酔ってた。たのしかったです。
意外かもしれないが記憶はハッキリしているのだ。
居酒屋から出てきたきくりちゃんとぶつかって二人で仲良くゲボ吐いて、一旦公園に移動してから別の居酒屋でお酒奢ることになって、途中できくりちゃんのベースを回収しに行ったり夕方頃に後藤を無理やり連れて路上ライブして……それから後藤家に泊まることになったのも、一から十までしっかり覚えている。
ただ、だからこそ、自分のテンションがあきらかにおかしかったことも認めざるを得ない。
後藤からも散々言われていたが、昨日の夜に後藤パパや後藤ママにも「いっくん酔ってるみたい。遺伝的にアルコールに弱いのかも」と言われたので、たぶんそういうことなんだろう。
しかし……。
「あのぉー……し、信じてもらえるかわかんないんですけど……俺、めちゃくちゃアルコールに弱いっぽくてぇ……き、昨日も居酒屋にずっといたのと、酔っ払いの吐く息を至近距離で浴び続けたせいでちょっと……それでがっつり酔っちゃったと言いますか……」
「えぇ……? いやいや、お酒弱いって言ったってそんな……」
「――と、俺も思うんですけど……あっ、ここで試しにグイっと飲んでみます? たぶん急性アルコール中毒で死ぬと思うんでそれを証拠ということに」
「いやいやいやいや証明方法がロックすぎるからっ! わかったって! そこまで言うなら信じるよっ!」
あ、よかった。さすがにアルコール中毒で死んだら蘇れる自信なかったからな……。
「はぁ……あのね、あたしは心配だったの。ほら、スターリーでもお酒出してるでしょ? それで興味が湧いちゃって、ちょうど良い機会だから飲んじゃったり……なんてこともあるかもと思ってさ」
「え、俺ってそんなイメージですか」
「法律で決まってるんだから守らなきゃ! ってタイプではないでしょ?」
「……まぁ」
きくりちゃんに勧められた時も法律がどうこうとかで断ったわけじゃないしなぁ。そもそも大して酒に興味がないのもあるけど、状況が許すならその場の流れでってのは……。
……いやいや、良い子のみんなも良くない子のみんなもお酒は二十歳になってからだぞ! いっくんとの約束なんだぜ!
「とにかくさ、あたしはそれが心配だから怒ってた……怒ろうと思ってたの。まぁでも、勘違いだったならいいし、あんまり堅苦しいこと言いたいわけでもないんだけどさ……法律がどうとか、結束バンドのマネージャーなんだからとか、そういうのでもなくって。ただ、此崎くんの身体に悪いと思って……あーもー、なんかよくわかんなくなってきちゃったなぁ」
虹夏先輩は頬を掻きながら苦笑いを零す。
というか、要するに虹夏先輩は俺を責めようとしていたのではなく、叱ろうとしてくれていたのだ。
「……や、虹夏先輩の言いたいことはわかりました。ホントにすいません、誤解させるような真似して……あと、心配してくれてありがとうございます」
俺はあらためて頭を下げながら、心の底から真面目にそう言った。や、別に今までのが不真面目だったってわけではないんだが……。
きくりちゃんと仲良くなれたのは良かったし、強引だったとはいえ後藤に路上ライブを経験させられたのも、ノルマチケットの残りを売り捌けた点も含めて結果オーライだったとは思う。
しかし、虹夏先輩に心配をかけるのはダメだ。
この人に迷惑をかけるのは、超えちゃいけない一線だ。
だから……やるなら、今度からは絶対にバレないようにしよう!
「此崎くん?」
「はぁい?」
「バレなきゃセーフ、じゃないからね?」
「……エスパー?」
「顔に書いてあるよ」
ほんとぉ? 後で顔洗っとこ……。
──と、なんとなく話がひと段落したところで、タイミングを見計らっていたのか、スタジオの方から結束バンド御一行が現れた。
リョウ先輩がなんにも気にしてなさそうな態度で最初に姿を見せて、その後ろから喜多さんと後藤が俺と虹夏先輩の様子を窺うようにおずおずと付いてきたのである。
「リョウ先輩、喜多さん、おはようございます」
「おはよう此崎」
「お、おはよう此崎くん……」
「三人とも、どうかした?」
「此崎が説教されてるのを野次馬しにきた」
「ちょ、リョウ先輩っ! ……いえあの、後藤さんに話を聞いたらちょっと誤解があったのかもと思いまして……」
こくこくこくっ! と後藤が喜多さんの背中に隠れながら首を縦に振る……さてはあいつ、キレ気味の虹夏先輩見て怖気付いたな?
ああやって言葉足らずに虹夏先輩たちへとロインしたのは俺に対するちょっとした復讐のつもりだったのだろうが、思った以上に俺が怒られそうな感じで日和ったんだろう。まったくもって後藤らしいヘタレっぷりだ。
「あー、それは大丈夫。虹夏先輩もその辺のことはわかってくれたから。……ですよね?」
「うん。此崎くん、すっごいお酒弱いんだってね? ぼっちちゃん、此崎くんが嘘ついてるわけじゃないよね?」
「は、はい、たぶん……」
「まぁなんだ、喜多さんも……心配かけてごめん? あと、自主練ドタキャンしたのも」
「ううん、私に謝ることなんてないわよ。でも実際、此崎くんがついにグレちゃったのかと思って心配にはなったわね」
「ついに?」
あれ? もしかして結束バンド内での俺の評価、だいぶヤバい……?
「此崎。どうして私には謝らないの?」
「え、だってリョウ先輩俺が酒飲んでたら心配するどころか褒めてきそうだし自主練ドタキャンもむしろ先輩のお家芸だし謝る要素なくないっすか?」
「……確かに!」
「いや納得するんかいっ!」
リョウ先輩が俺の指摘にあっさりと納得し、虹夏先輩にお手本のようなツッコミを入れられる。
リョウ先輩、マジで「気分が乗らない」とか言って何回か練習サボってるからな。まぁライブも迫ってきてるからそんな怒るほどの頻度でそういうことがあるわけじゃないけど、俺の初ドタキャンを責められる立場にはないと思う。
俺が酒飲んだら褒めてきそうなのは詳しく語るまでもあるまい。「此崎こそバンドマンの鑑」とか普通に言ってきそうだ。行きずりのきくりちゃんと居酒屋入ったあたりも含めて。
「そんなことより此崎」
「はい」
いやそんなことじゃないと思うけどな。
良い子のみんなも良くない子のみんなもお酒は二十歳になってからだぞ! いっくんとの約束なんだぜ!
「此崎聞いてる?」
「はい」
聞いてます。
「ぼっちから聞いた。昨日、ぼっちと一緒に路上ライブやったんだってね。しかもボーカルで」
「えっ、そうだったの?」
リョウ先輩の発言を聞いて虹夏先輩が目を丸くして俺の顔を見てきた。
そういや昨日の後藤のロイン……路上ライブへの言及ゼロだった? おい、俺のことチクってる場合じゃねぇだろ。
……あと喜多さんさ、絶対にリョウ先輩と同じタイミングで後藤から聞いているはずなのに俺の口から聞きたいとばかりに目を輝かせてやがりますよね。なんなんすかね、その圧。
「……あー、まぁその場の流れで……ちょっと、出しゃばりましたね」
「出しゃばったなんて卑屈な言い方することないわよ此崎くん! 此崎くん歌上手じゃない!」
いやね喜多さん、上手い下手の問題じゃないんすよ。
結束バンドがライブでお披露目するはずの歌を仮マネージャーごときがゲリラ路上ライブで先行して歌っちゃったのがねぇ……まぁ観客も10人いたかどうかってくらいだし、ノルマチケットは二枚売っただけなんだけどさ。
「ぼっち情報によると『あのバンド』を歌ったらしい。しかも好評だったとか」
「へー! 新曲宣伝してくれたんだ!」
「いや新曲宣伝のつもりは……あと、好評だったのも後藤のギターだと思いますよ」
曲の前半はともかく、サビのあたりで目を開けて、顔を少し上げてからの後藤のギターは格段に良いものだった。さすがに家で弾いている時ほどではなかったけども……あと後藤、ほんのちょっと褒めただけででろでろに溶けるな。
「──ということで、此崎」
「はい?」
俺が視界の端の(無事に溶け切った)後藤に気を取られていたところで、リョウ先輩が脈絡なく切り出した。
「今から、歌ってほしい」
「……ぱーどぅん?」
「今から、歌ってほしい」
すごいこの人ワンフレーズとは言えまったく同じ抑揚でもう一回再生してきた……。
……いやそうじゃなくって、マジで文脈が迷子だよ。どの辺りが
「リョウ先輩、日本語できなくなりました? 昨日の路上ライブが好評だったのは俺じゃなくって後藤のおかげで、したがって俺の歌を聞かせる理由はまったくないんですが」
「私が聞きたいから。ダメ?」
「私も聞きたい! 此崎くん、歌って!」
「お、あ……ち、近付いてくるな……っ!」
リョウ先輩と喜多さんがじりじりと距離を詰めてこようとする。
――瞬間、フラッシュバックしたのは過ぎし日のトラウマであった。
「――あ、ああぁ……っ! に、虹夏先輩……!」
俺は縋るような気持ちで虹夏先輩に顔を向けた。
すると、彼女は優しく微笑みながら、言った。
「此崎くん、昨日のドタキャンの罰ゲームね。歌って?」
最後の審判は、こうして下されたのであった。
♪ ♪ ♪
かくして、此崎リサイタル on STARRYが急遽開催されることとなった。
家でぐーたらしていたらしい店長(伊地知家はスターリーが入っているビルの上階にある)を虹夏先輩が呼びつけて機材のセッティングまでやって、ステージに立って歌わされることになったのである。
最初は俺一人でマイクを持ってアカペラで歌わせるつもりだったらしいが、さすがにそれは見ていて寂しいということで後藤がギターで伴奏をすることになった。
以前……というか、虹夏先輩とリョウ先輩に初めて会った日か。あの時、後藤がここ数年の売れ線バンドの曲はだいたい弾けると言ったのを先輩たちがしっかり覚えており、「これでいろいろリクエストしても大丈夫だね」なんて話になったのだ。
いやそもそも何曲歌わせる気なんだよ、と言いたいところだった。
が、急に無茶ぶりをされて液体から固体へと凝固しつつも「あっあっあっ」としか言えなくなった後藤が大層愉快だったので、俺は口を噤むことにしたのであった。死なば諸共である。
……と、そんな感じでステージ上に俺と後藤が立ち、虹夏先輩とリョウ先輩、喜多さんの結束バンドメンバーと駆り出された店長を加えた四人だけを観客にした三時間にわたるリサイタルがおこなわれた。
三時間。
……そう、三時間だ。
もうね、アホかと。バカかと。
とりあえず昨日の路上ライブでやった『あのバンド』ともう一つのオリジナル曲である『ギターと孤独と蒼い惑星』を歌わされたのはいいとして、そのあと順番に自分の好きな曲リクエストしてくるのなんなの?
虹夏先輩は無難な往年のヒット曲やちょっと趣味入ってそうな曲、喜多さんはミーハー全開な感じでここ二、三年くらいに流行った邦楽や洋楽をそれはもう容赦なく注文してきて、また最初はあくびをしながら見ていた店長もいつの間にやら口を挟むようになり、俺と後藤のレパートリーを探りつつ好き勝手にリクエストしてくる始末である。
あ、ちなみにリョウ先輩は初っ端からサウジアラビアの今週のヒットチャートからリクエストしてきたので以降無視しました。どう考えたって歌えねぇし弾けねぇでしょうが。
とは言え、なまじ俺も後藤もリクエストに応えられてしまうものだから辞め時を完全に失ってしまい、最終的には長時間立ちっぱなしでギターを弾いたことがなかった後藤の体力が尽きたことでようやくお開きになったのであった。
さて。
その後はというと、割と普通に結束バンドとしての練習をすることになった。
うん、そもそも今日は練習の日なのだ。決して俺と後藤の贖罪ライブの日ではないのだ。
「よくよく考えたらライブ来週なのに何してんですかね……」
「たまには息抜きも大事」
「そうそう! いや~楽しかったね~! 此崎くんやっぱり歌上手かったし、ぼっちちゃんともすごい息合ってたね!」
「そりゃどーも……」
いつものように最初はギター組とリズム隊で分かれて始めた練習。
喜多さんが力尽きた後藤を引きずってスタジオのひとつに向かっていったので俺も後藤の介護のために付いて行こうと思ったのだが、虹夏先輩とリョウ先輩に呼び止められてリズム隊の練習に付き合ってくれと言われてしまった。
一応喜多さんに大丈夫かと尋ねると「後藤さんのお世話は任せて! 最期まで面倒見るわ!」と頼もしい返事を頂戴したので、俺は彼女に後藤を託すことにした。バイバイ、後藤!
そんなこんなで俺はリズム隊と共にスタジオに入り、ちょっとした準備をしつつ雑談をしていたのであった。
「あっ、そうだ此崎くん」
「はい?」
「ぼっちちゃんってさ、〝ギターヒーロー〟だよね?」
「はい……はい?」
はい?
「――いや虹夏、いきなり飛ばし過ぎ。此崎フリーズしちゃった」
「あちゃ~、勢いで聞いちゃった方がいいかなって思ったんだけど……おーい此崎くーん! ごめんだから戻ってきて~!」
「……ハッ! 夢か……」
夢を見ていた……虹夏先輩にお説教されかけた後にトラウマを刺激された挙句罰ゲームとして三時間リサイタルさせられる夢……。
「まさかそんな、いくらリョウ先輩の頭がおかしいからってサウジアラビアのヒットチャートから曲をリクエストしてくるなんてことがあるわけ……」
「此崎くん、それは現実だよ。リョウはきちんと頭がおかしいよ」
「虹夏?」
「そんな……リョウ先輩……」
「此崎?」
バカな、夢じゃないだと……?
だったら、俺の頭に残ってる最後の記憶は……。
「……ギターヒーロー、後藤が」
「……あれ!? も、もももしかして此崎くん気が付いてなかった!? あ、あたしやっちゃった!?」
「あいや、めっちゃ気が付いてます。一本目の動画投稿した時点で後藤パパから聞いてます……」
「なんだ、気が付いてるんだ……って、やっぱりそうなんだね?」
……おいおいマジかよ、こんな流れかよ。
俺、割と真面目に後藤が『guitarhero』であることは隠し通そうと思ってたのに、こんなタイミングでこんなあっさりバレちゃうのかよ……。
「……いや、あの……いつ気が付きました? というか、どうやって……?」
「きっかけはオーディション。直前の練習からぼっちの演奏が全然違ってた」
「うん。それでね、此崎くんが本当はぼっちちゃんがソロだとすごく上手いって言ってたのを思い出して……今日までずっとぼっちちゃんがギターを弾いてる姿をじっくり見てきた。だから気が付いたんだよね――」
「――ギター同じじゃんって。ぼっちのギター、いろいろカスタムされてるから」
「あぁ……」
それかぁ……っつーか普通にいつものピンクジャージで動画に出てるしな……マジで身バレ対策が皆無なんだよギターヒーロー。まぁ今までバレる相手がほぼいなかったからアレだけどさ。
「ちょっとちょっと、それだけじゃないからね? あたしは結構ギターヒーローの動画見てるからさ、演奏のクセとかでわかったんだ。キレのあるストロークとか、ビブラートのかけ方とか……」
「……なるほど、それで今日、ひとまず俺と答え合わせをしてみたと?」
「うん、そういうこと……今日のぼっちちゃんの演奏さ、最初の方はいつもとおんなじで硬かったけど、段々と力が抜けていったでしょ。此崎くんと一緒に演奏してたのも相まって、いつもより自然体になってたんじゃないかな」
だから、いつもよりギターヒーローらしいクセが出ていた――と、虹夏先輩は言う。
「でも、結局確信はできなくって。だって……」
「ぼっち、動画とそれ以外の時じゃ別人レベル。ソロだと上手いって此崎言ってたけど、ここまで差があるとは思ってなかった」
「ですよねぇ……だからまぁ、秘密にしておくつもりだったんですよ。信じてもらえない可能性が高いと思ってましたし、本当はあんなに実力があるのに……なんて思ったり思われたりするのはお互いに不幸だと思って」
虹夏先輩たちの人格を疑っているわけではない。むしろ、ギターヒーロー云々以前にあんな調子の後藤をおもしろがって付き合ってくれているのだから、本当に良い人たちだと思っている。
ただ、彼女たちだって聖人君子ではない。
一人でならあんなに上手に弾けるのに自分たちとはダメなのか、とネガティブに捉える気持ちがゼロではない……かもしれない。
期待は、薬だ。
適度な量のそれは本来の力や、あるいはそれ以上の力を引き出す鍵になると思う。
期待は、毒だ。
過度なそれは容易に反転して、期待する方もされる方も傷付けるような結果を生み出しかねないと思う。
今の結束バンドには、後藤が『guitarhero』であるという期待が毒になってしまうような気がしたのだ。
「……すいません、別に、先輩たちや喜多さん、後藤のことを信じていないわけじゃ……いや、そんなの言い訳か。でも、俺はただ……」
「此崎」
いつの間にか俯いていた俺は、リョウ先輩に名前を呼ばれて顔を上げる。
「そんなにビビる必要ない。私たちは、大丈夫」
「そうだよ此崎くん、あたしたちは大丈夫!」
むんっ、と力こぶを作るポーズを取った虹夏先輩とリョウ先輩。
俺はそれを見て、口角を上げた。
「……そっすか」
「そうだよ」
「そうそう」
この二人が大丈夫だと言うなら、大丈夫なんだろうな。
「……でもあれだね、ぼっちちゃんにプレッシャーかけちゃうっていうのは確かにそうかも。此崎くんは、言わない方が良いと思ってるんだよね?」
「まぁ、一応……ただ、そこはそれぞれで判断してもらった方が良いんじゃないですか。ほら、俺ビビりだし」
「此崎、心臓にびっしり毛が生えてるタイプだと思ってたけど、意外にナイーブなところあるんだね」
心臓に毛が生えてるとかリョウ先輩にだけは言われたくねぇ……あぁいや、同じ穴のムジナ的なニュアンスか? それなら納得。
「そう言えば此崎くん、喜多ちゃんはどうなのかな? ぼっちちゃんがギターヒーローだって気付いて……る、わけないかな?」
「そもそも喜多さんがギターヒーローのこと知ってるかどうかはわかんないですけど、とりあえず後藤がもっとギター上手いってことはわかってるみたいです。後藤が一人でギター弾いてるのをこっそり見たことがあるらしくって」
「そっか……じゃあ、秘密のままの方が良いのかな? 一人だけ仲間外れにしてるみたいで引っかかるけど……」
「……いや待ってください。喜多さんにも教えておいた方が良いです、間違いなく」
虹夏先輩、よくぞ言及してくれた。これはとんでもないアイデアだぞ……。
「どうして? やっぱり結束バンドの結束力に影響あるかな」
「まぁそれもあります。でも、何より……」
「何より?」
俺は虹夏先輩の目をまっすぐ見つめた。
「――ギターヒーローとして身バレしてないって後藤だけが思ってる構図、死ぬほど面白くないですか?」
「今までの話の流れ全部台無しだよっ!!!」
ここ数か月聞いてきた虹夏先輩のツッコミのうち、間違いなく一番大きな声での一太刀だった。
へい毎度! お気に入り高評価感想ここすき誤字報告等々ありがとう!!
あとちょっとで評価者数700人行くから「べ、別にアンタの小説なんて全然好きじゃないんだからねっ!」っていう古き良きツンデレ読者さんは高評価してくれると喜びます。低評価されると半ギレになります。よろしくぅ!
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