うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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ほぼ推敲なしで投稿。これもまたロック。


#2 後藤ひとりはスピードスター

 

「はいこれ、今日のセットリストと楽譜ね! あと、あたしたち今回はインストバンドだから!」

「あっはい」

 

 スタジオの中に入るなり、後藤は伊地知先輩から紙の束を渡された。

 そうしてしばらく紙束に目を落としていたかと思えば、不意にニチャッと笑った後、突然ドラミングを始めたのだった。

 

「……こ、此崎くん、あれは……?」

「ええ、なかなかに調子がよさそうですね。期待していいと思いますよ」

「ねぇそれって演奏のこと? 演奏のことでいいんだよね? ね?」

 

 もちろん違う。おもしろい奇行が見られることへの期待だ。

 

「というかさ、此崎くんのことはお客さんとして呼んだつもりなんだけど……」

「……っ! っ! っ!」

「やめろ後藤。ネクタイを掴むな引っ張るな」

 

 俺がスタジオの中にまで同行しているのは、後藤がどうしても付いてきてほしいと拝み倒してきたからだ。そして今も伊地知先輩が苦言を呈すや否や、俺のネクタイを鷲掴みにして首をぶんぶん振っている。

 

 俺だって、伊地知先輩が言うように観客のつもりでここに来た。

 スタジオ、密室、初対面の先輩二人と後藤、何も起こらないはずがなく……ということで是非ともその様子をこの目に焼き付けたいとは思うが、俺はきちんと引くべきところは引く男だ。バンドだとかライブだとかには全然詳しくないが、たぶんライブ直前のスタジオ練習に引率するのはがっつりライン超えてると思う。

 

「まぁいいんじゃない? それでひとりがやりやすいなら」

「え~、あたし練習みられるのちょっと恥ずかしいなぁ~……」

「私は恥ずかしくない」

 

 山田先輩が謎に胸を張った。この人も大概おもろいな……。

 

「うーん、しょうがないかぁ……よし、時間も限られてるし、とりあえず一曲やろっか! あ、ひとりちゃんすぐ行ける?」

「あっいけます」

「おっけー! じゃ、此崎くんはそっちの方で座って見ててね! そこのパイプ椅子出していいから」

「了解です。おい後藤ネクタイ離せ」

「うっ、ううっ、あとちょい、あとちょーい……」

 

 ダメ。

 俺は後藤の手をぺしっと振り払い、自分が座るためのパイプ椅子を取りに行った。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 その後、少しの音合わせがあってから、後藤と先輩方の初めてのバンド演奏が繰り広げられた。

 

 後藤のギターの音色が走り、伊地知先輩のドラムがリズムを刻んで、山田先輩のベースがそれら包み込むよう支え、後藤のギターの音色が駆け抜けて、後藤のギターの音色が走り去っていった。

 

 そう、後藤はスピードスターだった。

 その走りっぷりは、他の追随を決して許さないものだった。

 

「――ド下手だっ」

「ヴィ˝ッ」

 

 そうして後藤は死んだ。

 彼女は上がりまくったハードルの根元に自らの墓穴を深く深く掘って、そのまま埋まって息絶えたのであった。

 

「ちょっと此崎くん集合!」

「うっす」

 

 伊地知先輩に呼び出しを食らった。

 俺は地面に転がった後藤を跨いで伊地知先輩の前に駆け寄り、腰の後ろで手を組んで休めの姿勢を取った。

 

「あのさ此崎くん、ひとりちゃんってめちゃくちゃギター上手いんじゃなかったっけ。あれ? あたしの記憶違いかな? ん?」

「いえ、言ったっす。自分、『後藤めっちゃギター上手い』って言ったっす。すんません」

「だよね、言ったよね。あーよかった、なんかあたし自分に都合の良いように記憶を改ざんしちゃってるのかと思って不安だったわ」

「ひとりのギター、ちょっと信じられないくらい突っ走ってた。あれに合わせるのは私でも流石に厳しい」

「うん、私なんて全然無理……」

「プロのドラマーでも限界はある。虹夏は悪くないよ」

 

 伊地知先輩と山田先輩が喋るたびに仰向けに倒れている後藤の遺体がびくびくと跳ねているのが視界の端に映る。

 ちょっとこう、さすがに罪悪感が芽生えてきたな……。

 

「……いやあの、ホントすいません。別に嘘言ったつもりはなくて、後藤、普段はもっとあきらかに上手いんですけど……」

「そうなの? じゃああれかな、一人で弾くのは上手いけど、ってやつ?」

「バンドでやるのと何か違うんですか?」

「バンドは一緒にやってる人間と息合わせないとだから。その点、ひとりとは目すら合った覚えがない」

「あぁ……なるほど……」

 

 そりゃそうなるわけだ、とミジンコみたいなポーズで床に転がる後藤を俺が見ると、先輩たちも釣られたように後藤へと視線を送った。

 それを感知したらしいミジンコはぴくぴくと震えながら声を絞り出した。

 

「どっどうもプランクトン後藤です……」

「売れないお笑い芸人みたいな人でてきた……!」

 

 ミジンコなのに喋れてえらいねぇ。

 

「…………」

「何してるの此崎……写真?」

「記念に撮っておこうと思いまして。後藤ミジンコ化記念」

「いや後藤ミジンコ化記念って何!? やめたげなよ!」

「いい写真。ねぇ私にも送ってよ」

「いいっすよ。じゃあロイン交換しましょうか」

「それ今やること!? ねぇそれ今やること!? あたしたちこの後初ライブなんだけど!?」

 

 やばい。今日めっちゃたのしい……。

 

 俺が今日という日の充実感を噛みしめながら山田先輩とロインを交換している間に後藤はスタジオから逃亡していた。

 どこへ行ったのかと思えばスタジオ近くにあった控室へと逃げ込んでいて、ゴミ箱の中にすっぽり納まってめそめそと泣いていたのだった。

 

「おーい、後藤ー。悪かったってー」

「ひとりちゃんお願い出てきてぇ~もうライブ始まっちゃうよ~」

「ムリ……ムリデス……」

「いやいや即席バンドだから下手なのはしょうがないって! ほら、あたしだってそんなに上手くないし!」

「私は上手い」

「リョウは黙ってて!」

「それにしてもゴミ箱のサイズぴったりだな。可燃のゴミ箱でしっかり分別もできてる」

「此崎くんはホントに黙ってて!!」

 

 クソ怒られてしまった。いやうん、ちょっと調子に乗りすぎたな。許せ後藤、また今度だ(常習犯)。

 

「へへっ、へへへっ、へへへへへっ……私なんて可燃ごみ……MCもできない役立たず……あっでも私の命でもってハラキリショーとかどうですかねバンド名くらいは覚えて帰ってもらえるはずですよハハハハハハハ」

「いやいやロックすぎるから!」

「よし、介錯は俺に任せろ。苦しくないよう一思いに」

「此崎くん」

「すいません」

 

 伊地知先輩にすげぇ低い声で名前を呼ばれて速攻謝った。クソ、いちいち後藤がおもしれーこと言うからどうしても口挟みたくなる……!

 

「ひとり、大丈夫。ひとりが野次られたら私がベースで『ぽむ』ってするから」

「『ぽむ』ってかわいげな音ですね。そんな音出るんすか?」

「カスタム次第」

「へぇー」

「リョウ、素人相手に適当なこと言わないの……はぁ、いやまぁ、流血沙汰もロックではあるけどさ」

「そう、ロックだからしょうがない」

「ちょっと伊地知先輩ボケに回るのはマジで収拾付かなくなりますよ」

「え? ボケ?」

「え? マジですか?」

 

 そうか、流血沙汰がロックなのはマジなんだ……じゃあ後藤のハラキリショーもやっぱり悪くないのでは? 血がいっぱい出るだろうからその分だけロックマシマシなのでは?

 

「それにねひとりちゃん、今日うちのバンド見に来るのたぶん私の友達だけだから! リョウは友達いないし!」

「うん、私の友達は虹夏と此崎だけ」

「あれもう此崎くん友だちカウントしてる!? ……って、今それはどうでもよくて! とにかくほら、普通の女子高生に演奏の良し悪しとかどうせわかんないからさ! だからひとりちゃんも大丈夫だって!」

 

 伊地知先輩が少々焦げ臭い慰め方をするが、後藤はゴミ箱から出てこない。スンスンと鼻を啜る音が聞こえてくるだけだった。

 

「…………」

「……虹夏。無理強いするもんじゃない」

 

 山田先輩の方がスパッとそう言うと、顔を見合わせていた伊地知先輩も苦笑いを浮かべる。

 

「……だよね。ひとりちゃん、無理なお願いしてごめんね?」

「あっいや!」

「わっ、びっくりした」

「あっごめんなさい」

 

 へただなあ、後藤くん、へたっぴさ……! 声量の調整の仕方がへた……。

 

「……あっあの、本当にごめんなさい……でも、無理なお願いっていうのは違くて、私、バンド誘ってもらえたのは本当に嬉しくって……」

「そっか……ねぇ、ひとりちゃんって普段どんな曲弾くの?」

「あっその、カバーばっかりなんですけどバンド結成した時すぐ対応できるようにここ数年の売れ線バンドの曲は一通り」

「えっすご」

「いや全然そんな……」

 

 後藤は相変わらず死にそうな顔で首を横に振った。せっかく伊地知先輩が褒めてくれてるのに。

 

「……てかそれってあれだね、ギターヒーローさんみたい。リョウ知ってる? カバー動画いっぱいアップしてる人なんだけど」

「オススメに何回も上がってくるから見たことある。すごく上手だった」

 

 ……おや、先輩方は『guitarhero』をご存知だったか。世間が狭いというべきかネットが広いというべきか。

 

 ちらりと後藤の顔を窺ってみれば、驚愕と歓喜がない交ぜになったような得も言われぬ形相をしていた。

 

「……ギターヒーロー、俺も知ってますよ。めちゃくちゃ上手いですよね」

「此崎くんも知ってるんだ!」

「……え゛っ゛!?」

「お、なんだ後藤どうした」

「えっあっ、いいい、いやぁ~? な、ななななんでも~……」

 

 ――なんとなく察せられるだろうが、ちなみに。

 

 実は、後藤が『guitarhero』であることを俺が知っている、ということを後藤は知らない。

 後藤は俺の前で普通にギターの練習はするし、俺がその時その時にハマっている曲をわざわざ弾いてくれたりもするのだが、動画投稿していることだけはひた隠しにしているのだ。もちろん動画のための録音なんかにも居合わせたことはない。

 

 どうしてそんなおもしろいことになっているのかと言えば、まぁ後藤自身が結構徹底して隠しているから指摘するのは悪いかなというのが1割、そして動画の概要欄にどう考えても虚言でしかないリア充設定をつらつらと載せてるのがおもしろすぎるから泳がせているのが9割である。

 

 そもそも、後藤がネットに動画をアップし始めたのは後藤パパの勧めがあったからだ。

 つまり、その時点で親には動画投稿していることがバレてる(しかも家族共有のアカウント流用しているらしいので最初からアカウントもバレてる)のだが、たぶん後藤はその事実を完全に忘れ去っている。そうでなければあの生活で彼氏とラブラブだとか東京のブティックで友達と買い物しただとか書いたりはしないだろう。

 で、後藤一家において周知の事実であるのだから、しょっちゅう後藤家にお邪魔してる俺がその事実を知らないわけがない。にもかかわらず、なぜか後藤は自分がネットに動画投稿していることが俺にバレていないと思い込んでいるのである。最高にアホだが、しかしそれが状況として最高におもしろいので、俺は徹底して素知らぬ顔をしていたのである。

 

 したがって、俺が『guitarhero』の存在を知っていることすらも、今初めて後藤の前で言った。

 

 今日という今日まで温めてきたのに、軽率だと思われる方もいるかもしれない。

 

 しかし、俺が長年培ってきた勘が囁いたのだ。

 今ここで言っておけば、後々ものすごくおもしろいことになるぞ、と。

 

「ねぇひとりちゃん」

「はっ、はひっ!」

「あたし思うんだけどね、ギターヒーローさんみたいな人だって、最初っからギターが上手だったわけじゃないと思うの。たぶん、ううん絶対! みんなが見てないところでいっぱい練習してきて、それが楽しくてずっと続いたから、ああやって上手に弾けるようになったんだよ」

「は、はい……そう、だと思います……」

「要するに何が言いたいかっていうと、まずはとにかく楽しもうよ! ってこと! ほら、音ってすっごく感情が出るでしょ? だからとにかく楽しんで演奏する! そうやって次も、そのまた次もって続けていけば、実力は付いてくると思う! ……たぶん!」

 

 伊地知先輩の言葉に山田先輩もうんうんと頷いている。最後ちょっと日和ってたけど。

 

 要約してしまうのはちょっと無粋な気もするが、つまりは「好きこそ物の上手なれ」ってやつだ。

 物事そんなに単純だろうかなんて思ってしまう一方、単純だからこそ実は真理に近いのかもと思わなくもない……いやまぁ何かに打ち込んだことのない俺がそんなこと言っても滑稽でしかないだろうけど。

 

「ひとり。どうしても人前で弾くのが嫌なら、これ使ったら」

「……完熟マンゴー?」

 

 と、書かれた段ボールである。

 

「つ、使うって、どうやって……?」

「これに入って演奏すればってこと。此崎、ちょっと手伝って」

「ういっす」

「えぇ……」

 

 山田先輩が持ってきた段ボールカッターとガムテープで継ぎ接ぎすること数分。

 

「――いっ、いつも弾いてる環境と同じです!」

「押し入れにでも住んでるの?」

 

 伊地知先輩鋭いな。正解です。

 

 俺と山田先輩合作の連結段ボールタワー(仮称)にギターを装備して収まった後藤。ぺけぺけと弦を掻き鳴らして「みっみなさん下北盛り上げていきましょう!」とすっかり調子に乗っている。

 

「これならいけそうだね」

「これで行くのかぁ……まぁいっか。あ、そうだひとりちゃん、名前どうする?」

「な、名前ですか?」

 

 伊地知先輩に尋ねられ、後藤が連結段ボールタワー(仮称)の正面部分に作ったキャットドアみたいな開閉式の小窓から顔を出す。

 

「うん、ライブで紹介するのに本名でいいのかなって。あだ名とかある?」

「ちゅっ中学では『あの~』とか『おい』とか……」

「いやそれ絶対あだ名じゃなくない!? あっ、此崎くんは? ひとりちゃんのあだ名とか……」

「プランクトン後藤でいいんじゃないですか? もしくはミジンコ」

「此崎くんどうしてそんなにひとりちゃんに辛辣なの!?」

 

 だって打てば響くから……楽器みたいなもんよ。あれ、俺も楽器やってるじゃん。ライブ参加しようかな。

 

「……ひとり……ひとりぼっち……じゃあ『ぼっち』ちゃんとかは?」

「おぉうまたデリケートなところを……!」

「ぼぼぼぼぼっちです!」

「喜んでるし……なんか涙出てきたよ……」

 

 後藤は目を輝かせて『ぼっち』の名を襲名した。俺もぼっちって呼んでや……いや逆に後藤のままの方がおもしろいから後藤呼びだな。

 

「あっそういえばまだバンド名聞いてない……」

「うっ、そ、それは……」

 

 不意に後藤が呟くと、何やら伊地知先輩が苦々しい表情を浮かべて言葉を詰まらせた。

 だが、そんな伊地知先輩の代わりとばかりに山田先輩がさらっと答えてしまう。

 

「結束バンドだよ」

「けっ……結束、バンド……?」

「ぬあああああ! ダジャレ寒いし! 絶対変えるから!」

「ぷぷ、傑作……そう思うでしょ?」

「あっはい」

「俺も結構好きですね」

 

 そういう変な名前、俺大好物。噛めば噛むほど味がしてくるような気がするな……うん、結束バンド、良い。

 

 伊地知先輩が頭を抱えて唸っていると、スタッフさんから結束バンドにお呼びがかかった。どうやら出番が近いらしい。

 

「うっ、け、結局一曲しか通せなかったけど……ま、なんとかなるよね! というかなんとかするしかない!」

「大丈夫、私に任せて」

「ほ、ほんば、ほんばん、ほんば……」

 

 段ボールの中から聞こえる過呼吸気味の息遣い以外は割と頼もしい……だろうか。いやホントさっきの練習一回で本番ってこの人たち大丈夫なのか。

 

 しかしまぁ、伊地知先輩が言うようになんとかするしかないのだろう。そして当然、俺にできることは何もない。

 

「じゃ、そろそろ俺はライブハウスの方に戻りますよ。楽しみにしてますね」

「こっ此崎くんっ!」

「なんだよ」

「い、一緒にライブ……」

「……まさか段ボールの中入れとか言おうとしてる?」

「う、うん」

「バカ」

「あひぃ」

 

 そりゃ絵面はめちゃくちゃおもしろいだろうけど普通に嫌だわ。

 

「すいません先輩方、そこのバカのことよろしくお願いします」

「うん、此崎くん応援よろしくねっ!」

「よろしく」

 

 伊地知先輩と山田先輩のサムズアップに同じくサムズアップで応えた俺は、後藤の死にそうな呼吸音が微かに響く控室を後にしたのだった。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 かくして、俺は人生で初めて生のライブを鑑賞した。

 ライブハウスは押しかけたバンドファンたちでぎゅうぎゅう詰め……なんてことは全然なく、その場で等間隔に広がればラジオ体操くらいはできそうな客入りだった。そこら辺にいた金髪ロングのスタッフさんに聞いてみると、今日はあんまり人気のバンドがいないらしい。結束バンド含めて駆け出しや売り出し中のバンドたちがライブをする日だったようだ。

 

 しかし、それでも十分すぎるほどにすごいと俺は感じた。

 ……ここであの機材がどうとかそのギターがこうとか言えればいいんだが、残念ながらでけぇスピーカーのでけぇ音がすげぇってくらいしか言えぬ。スマホで見るライブ映像はもちろんこと、後藤が家で聴かせてくれるギターとも迫力が全然違った。

 

 で、肝心の後藤……もとい結束バンドがどうだったかと言うと、まぁ、うん……うん。

 

「――いやぁ~ミスりまくった~!」

「MC滑ってたね」

 

 ライブ終了後、スタッフさんに話を通してから結束バンドの控室に顔を出すと、いい汗かいてる先輩方と壁際に転がる段ボールのゴミがいた。

 

 後藤は本当にマジのガチで連結段ボールタワー(仮称)の状態でステージ上に現れて、さっきの練習よりもひどい独走っぷりを観客たちに見せつけたのであった。

 

「おう、どうだった後藤」

「今までの人生で一番惨めな気持ちがしました……」

「だろうな」

 

 段ボール被らないで出た方がマシだっただろうな……いやまぁ今日やってたバンドの中でインパクトはぶっちぎりだったと思う。後藤のおかげだな!

 

「此崎くんお疲れ~、ねぇねぇどうだった?」

「結構楽しかったですよ。俺、こういうライブハウスとか初めてだったんで」

「比較対象がなくてよかった」

「こらこら」

 

 うん、山田先輩の言い草からすると、やっぱりあの演奏はだいぶアレだったんだな。

 でも楽しかったというのはお世辞ではない。本当に楽しかった。特に後藤の勇姿は動画に収めておきたいくらいだったが、ダメ元でスタッフさんに聞いたらやっぱり撮影はNGだった。本当に残念。

 

「……あ、あ、あのっ!!!」

「うるせぇ耳元で叫ぶな!」

「ヒンッ」

「ちょっと此崎くん! もう……で、どしたのぼっちちゃん?」

「アッ、アノ」

「もう少し大きい声で。全然聞こえない」

「あっはい。あっあの……」

 

 後藤はうつむいたままこぶしを握り締め、大きく息を吸った。

 

「つっ、次は! 次はクラスメイトに挨拶できるくらいになっておきましゅっ!!」

「いや何の宣言!?」

 

 マジで何の宣言だよ。それはもう社会の一員としての前提条件だよ。

 

 さすがに呆れたかな、なんて思いながら俺は伊地知先輩と山田先輩を見たが……二人とも、なんだか優しげな笑みを浮かべていた。

 

「でも、そっか。うん、()ね――よーし! じゃあ今日の反省会も兼ねて、ぼっちちゃんの歓迎会しよう!」

「ごめん眠い」

「あっ今日は人と話しすぎて疲れたので帰ります」

 

 後藤……あと山田先輩もか……。

 

「ちょっと待って今の流れで断る普通!? ねぇこれあたしがおかしいの!?」

「いや伊地知先輩おかしくないっすよ」

「だよね!? あたし絶対おかしくないよね!? 何が結束バンドだ全然結束力ないじゃん! てかもうリョウいないし!!!」

 

 ホントだ、いねぇ。

 

「此崎くんもう帰ろお疲れさまでしたまたいつか……」

「ぐえっ、おま、ネクタイ引っ張るなっ!」

「こ、此崎くーん!」

「伊地知先輩おつかれさまです!」

「お、置いてかないでよーっ!」

 

 俺は後藤にネクタイを掴まれ引き摺られ、あっという間に外に連れ出された。

 後藤とかいう生き物、家の方向へ進むときのパワーだけ異常がち。しかもスピードスターと化す。家に向かって引力でも働いているのかもしれない。

 

「……はぁ。もう外出たからいいだろ、ネクタイ離せって」

「……うぅ……」

「……毎度のことだけど、なんで俺がリード引かれる側なんだよ……」

 

 たまにある構図だ。だいたい後藤が学校でメンタル崩壊寸前になった日の下校時はこんな感じなのである。あと休み明けの月曜日。毎週じゃねぇか何がたまにだ。

 

 後藤曰く、なんか落ち着くらしい。まぁ後藤の生態としては割とおもしろい部類なので好きにさせているが、さすがに夜の下北でこれはマズい気がする。いやどこであっても良くはないんだが。

 

 とぼとぼふらふらと歩く後藤の歩調に合わせる。後藤は普段から歩く速度が遅い方だが、今日はやはり相当疲れたのだろう、いつにもましてのんびりなペースだ。

 

「後藤」

「……なに?」

「お疲れ」

「……うん」

 

 返事の方も元気がない。猫背曲線も当社比三割増しである。

 

 ――ただ、少し俯いた後藤の横顔は、とても満足げなものに見えた。

 





さすがに明日は投稿無理かも。
感想もらえるとよろこびます。
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