やっぱり話の区切り微妙過ぎて短くなっちゃったぁ……
ルーレットを回す。
「ミギテ、アカ」
「はい!」
「おっけー!」
「だ、だいじょぶです……!」
「ふたりここ!」
「わんっ!」
ルーレットを回す。
「ヒダリアシ、ミドリ」
「はい! じゃあ私ここで!」
「うっ、喜多ちゃん攻めるね……ならあたしはここ!」
「あっあっ、こっここ!」
「おねーちゃんの下潜っちゃおー」
「わぅん!」
ルーレットを回す。
「ミギアシ、アオ」
「きゃっ!? い、伊地知先輩、そんなところに置かれたら……!」
「ふっふっふっ、策士策に溺れるってやつだね喜多ちゃん!」
「あっ、ひっ、も、もう……!」
「おねーちゃん足プルプルしてるー」
「わんわん!」
ルーレットを回す。
「ヒダリアシ、アカ」
「ひ、左足赤!? うっ、こ、これは……」
「ぼ、ぼっちちゃんにジャージの下借りてなかったらこんな体勢絶対できなかったよ……わ、脇腹攣りそう……!」
「アッアッアッアッ」
「やだぁ! おねーちゃん倒れてこないでぇっ!」
「くぅーん……」
ルーレットを回す……。
──約束手形を振り出す。
「──あ、ありがと……あっ、えっえっと、じゃあこれで、交通事故の治療費……払い、ます」
「ぼっちちゃんのターン終わりだね。じゃあ次あたしの番! ……えーっと、出た目は7。いち、にぃ、さん……っと、なになに? 『お腹を空かせた幼馴染にランチを奢る。五千ドル支払う』……って山田ァ!」
「いいなぁ伊地知先輩、私もリョウ先輩にご飯奢ってあげたいわ……!」
──約束手形を振り出す。
「──あっあっ、えっと、じゃ、じゃあこれで、ふっ、ふたりの結婚のご祝儀……」
「おねーちゃんありがとー」
「ふふっ、ふたりちゃん結婚おめでとう。旦那さんは誰なのかしら? 幼稚園のおともだちで好きな子とか?」
「ううん、ふたり、いっくんと結婚する!」
「……え゛っ゛!?」
「いやいやぼっちちゃん、そんなガチで驚かないで……」
「ご、後藤さん……」
──約束手形を振り出す……。
「──って、結局めちゃくちゃ遊び倒してしまった……!」
「私、ツイスターも人生ゲームも久々にやりました!」
「うん、うん、確かに楽しかった、楽しかったよ……でもそろそろ」
「ば、バンドTシャツのデザイン考えないと、ですよね……うぅ、す、すみません、私があれこれ用意してたばっかりに……」
「いいんだよぼっちちゃん。まだ時間はあるし、頑張って考えよう!」
「……ところで此崎くん、まだ復活しませんね。せっかくだから此崎くんにもアイデア出してもらったら良いと思うんですけど……」
「うーん、此崎くんこういうのネタに走りそうだからなぁ……でも、どっちにしろ早く帰ってきてほしいね。ずっと白目むいてるの、いい加減怖いよ」
「……あっでも、さっ、さっきより黒目が見えてきてますよ……も、もうじき帰ってくるのでは……」
「そういうシステムなの?」
「此崎くん、おもしろい仕組みね〜」
「──おっ、リョウからもTシャツのデザイン届い……うん? 何この雑コラ」
「カレーとお寿司の写真? ……『今日の晩飯どっちがいい?』ですって」
「知るか! 自分で考えろ!」
「……あっあの私のデザインも見てください……」
「ん-? どれどれ……うっ、こ、これは……!」
「お、おしゃれすぎますかね……これじゃライブ中服の方ばっかり目がいっちゃいますよね……」
「――ダッセェ」
「……あら? 今此崎くん何か喋ったかしら?」
「ホント? ヘイ此崎くん、もう一回言って」
「ダッセェ」
「ホントだ、よく聞こえないけど何か言ってる。黒目も半分くらい見えてきたからもう一息って感じかな……まぁ此崎くんのことはいいとしてさ、まさかとは思うけどぼっちちゃん、私服もこのTシャツみたいな――」
――声が、聞こえる。
「――……っくん、いっくん! いったい何があったの!? この状況は何!?」
「……あ、お父さんお母さん……?」
目が覚めたような感覚があった。
俺は、今まで意識を失っていたのか……?
きょろきょろと周囲を見回し、ここが後藤の部屋であることを把握する。なぜか真っ暗でなんとなく埃っぽい気がした。
時計が目に付く。
確か、みんなで昼ご飯を食べていたはずだが……嘘だろ、六時間近く経過してる……!?
「バ、バカなッ、時間が消し飛んでいる……ッ!? す、スタンド攻撃、スタンド攻撃を受けて――って、何ィーッ!? に、虹夏先輩と喜多さんがッ……死んでいる……ッ!?」
これ絶対スタンド攻撃じゃん! これ絶対スタンド攻撃じゃん!!
俺は倒れ伏した虹夏先輩の傍に膝をつき、肩を揺すって声をかける。
「虹夏先輩ッ! 虹夏先輩ッ! いったい何が、何があったんですかッ!?」
「……う……こ、此崎くん……」
「虹夏先輩ッ!」
「……い、いつも明るさと勢いだけで乗り切ろうとして……ごめんなさい……」
「な、何を言って……ッ!?」
「──いっくん! 喜多ちゃんが、喜多ちゃんが何か言おうとしてるわ!」
後藤ママに呼ばれて、俺はタンスに寄りかかってぐったりとしている喜多さんのすぐそばに移動した。
「喜多さんなんだッ!? どうしたって言うんだッ!?」
「……ぎ、ギターいつまでも上手くならなくてすみません……あと可愛くってすみません……」
「き、喜多ァアアアアアアア!」
どっかの誰かと比較して高すぎる自己肯定感が死に際にまで溢れ出てやがる……ッ!
クソっ! いったいどうして、どうしてこんなことが……!
「い、いっくん、これ……!」
「……これは……」
後藤パパが見つけたのは、青と黄色のキュービィロップな髪飾り──後藤のもので間違いない。
「後藤は……どこにも、いない。でも、部屋には陰キャの陰気な雰囲気とほのかな防虫剤の香りが充満している……まさか」
──あいつ、量子化したのか……? いや普通に気化しただけか。いや普通に気化ってなんだよ。人間が固体以外になるな。
……さてしかし、どうしたもんかなこの状況。
「……空気清浄機とかってありましたっけ」
とりあえず綺麗な空気で呼吸をさせれば後藤の瘴気に当てられたと思しき虹夏先輩と喜多さんは復活させられるはずだ。
あとはなんかこう、フィルターとかに後藤の粒子を溜めてさ、そこから肉体を再生できないかなって。
♪ ♪ ♪
「──何日か前から思ってたんだけど、ぼっち、なんか綺麗になったね」
「えっ」
「リョウ先輩、なに急に後藤のこと口説いてんですか」
ぼリョウなの? ぼリョウなんですか!? ──っと、なんか変な電波を受信しちまった。なんだろう、外宇宙からの交信かな?
……ともあれ、危うく結束バンドが壊滅しかけたXデーから、はや数日が経過していた。
それはすなわち初ライブも明後日にまで迫っているということであり、結束バンドの面々は今日も今日とてスターリーに集合する予定となっている。
ただ、今現在、スタジオにいるのは俺と後藤とリョウ先輩の三人だけだ。虹夏先輩は少々席を外していて、喜多さんはまだスターリーに顔を出していない……念のため言っておくが、二人の心身に過日の後遺症はない。はず。
それにしても、だ。
リョウ先輩の唐突な発言は、一瞬トンチンカンに思えるかもしれないが実は鋭い。
「まぁね、実際後藤は綺麗になってると思いますよ」
「……えっ!?」
「わお、此崎、随分と大胆だね──ハッ、まさか、『俺が後藤のこと綺麗にしてやったんだよ』的な……!?」
「いや、変な意味でなく、一回空気清浄機で濾過されたからっすね」
「……何を言ってるの?」
「何をって、事実を」
ほぉら、後藤を嗅いでみてご覧なさい? 染み付いていた防虫剤の匂いもしないでしょう?
そうさ、後藤ひとりは生まれ変わったんだ、空気清浄機から生まれた空気清浄機太郎……空気清浄機姫? とにかく空気清浄機原産の後藤さんなんだぞ! 今までとは一味違うんだぞ!(鼻に抜ける香り的な意味で)
……と、そんなおバカなやり取りをしていると、不意にスタジオの扉が開いて喜多さんと虹夏先輩が姿を見せた。
「おはようございます! すみません、遅くなっちゃって」
「おはよう喜多さん。や、まだ時間前だし別にいいでしょ。ね? 虹夏先輩」
「うん、だいじょぶだいじょぶ! それに今日はすぐ練習始めるわけじゃないからね」
「え? そ、それってどういう……」
後藤が無駄にビビりながら尋ねると、虹夏先輩は「ふっふっふ」と不敵に笑いながらその場にしゃがみ込み、小脇に抱えていたダンボールを床に置いてから中身を取り出して、
「──じゃじゃーん! バンドTシャツ、届きました〜!」
「わぁ、すごいですっ! 虹夏先輩、宅急便の人からこれ受け取ってたんですね!」
「そーそー! いやぁ、流石に納期ギリギリだったけど無事届いてよかったよ〜」
「おー」
リョウ先輩がちゃんと感動してるのかどうか微妙なラインの歓声を上げながら小さな拍手を送ったその一品。
虹夏先輩の説明の通り、結局Xデーにはデザインが決まりきらなかった結束バンドのバンドTシャツであった。
「うん、やっぱりシンプルなデザインでいいですね。俺、こういう感じ好きですわ」
黒単色のTシャツで、胸の辺りにはちょっぴりポップな書体の白文字で書かれた『結束バンド』という文字列をベースとして、原義での結束バンドのイラストが『ン』の字の部分を補いつつ背景になっている……なんて説明で伝わるのだろうか。とにかく、結束バンドのロゴみたいなのが描かれているというオリジナルTシャツだ。
あの日の翌日、俺は虹夏先輩に「Tシャツのデザインどうしよう」という相談を受けていた。……まぁこのデザインは一から十まで虹夏先輩が考え出したもので、俺はそれに「いいっすね」と一言言っただけなのだが。
「私も素敵だと思いますよ! ロックバンドっぽいかっこよさとちょっと可愛いらしいロゴデザインがシンプルにまとまってて……これ、伊地知先輩が考えてくれたんですよね!」
「ふふん、あたしってばこういうデザインとか得意なのだ〜」
うむ、実際なんのツッコミどころもなく虹夏先輩は絵もデザインも上手いんだよなぁ。
今回のTシャツデザインに限らず、スターリーで作ってるビラとかのデザイン、割と虹夏先輩作のものが多いのだ。以前、本人に教えてもらったりシスコンお姉ちゃんから自慢されたりした。
ちなみに、だったら最初から虹夏先輩が考えればよかったのでは、なんて思ったがこれまた顔に書いてあったらしく「みんなの意見も聞かないとでしょ」と至極真っ当なことを言われてしまう一幕があったり。
「──ぼーっちちゃん?」
「ひゃい!?」
「今さ、だったら最初から虹夏先輩が考えればよかったじゃん、って思ったでしょ?」
「あっあっ、あっあっあっ」
……こんなふうに。まぁ後藤の顔には確かに書いてあったな。
「まったくもう、二人揃っておんなじような顔でおんなじようなこと考えてるんだもんなぁ……」
「……なんのことやら」
虹夏先輩のジトっとした目が俺の方にも向けられて、俺は静かに視線を逸らす。
……が、逸らした先ですげぇニコニコしてる喜多さんと目が合ってしまった。ハンドル切った先で事故っちゃったぁ……。
「まぁともかく、せっかくだからサイズとかの確認がてら一回着てみよう! はい、これ此崎くんの分、先に渡すね」
「あいあい。じゃ、俺は控室行ってるんで着替え終わったらロインでもしてください」
……というような具合で、俺含めた全員でバンドTシャツに袖を通し、再びスタジオに集合した。
「お、此崎くんはやっぱり似合ってるね!」
「此崎、結構黒シャツ着てること多いから新鮮味はない」
「あはは、確かにそうですね」
うるせぇやい。どうせ黒と白ばっかのモノトーン男だよ俺は……って、俺のことはどうでもいいんだわ。
それにしてもなるほど、こうして四人がお揃いのTシャツを着ている姿を目にすると、確かにいつもの制服姿よりもずっと統一感があった。
虹夏先輩を見る。
リョウ先輩を見る。
喜多さんを見る。
そして、後藤を見る。
不思議な四人組だ。バラバラな四人組だ。
学校が違う、年齢が違う、住んでいる場所が違う、育ってきた環境が違う、築いている人間関係が違う。
性格はてんでバラバラだし、何が好きで何が嫌いかも違っている。
一番肝心な音楽の趣味ですら、重なり合っている部分はあっても、全部が全部共通しているわけではない。
彼女たちは、
バラバラな個性の人間たちが集まって、ひとつの音楽を作り上げる――それこそがバンドであるとリョウ先輩は語っていた。
あれはリョウ先輩だけの哲学だったのかもしれないけれど、結束バンドは結果的にそれを体現していると思う。
だからきっと、それでいいのだ。
……でも、そうやって個性がバラバラな四人だからこそ、こうやって目に見える一体感にはより一層の価値を感じる。
目に見えない心や価値観の繋がりは尊いかもしれないが、目に見える繋がりだって同じくらいに大切だと俺は思うから。
たかがTシャツ一枚。
でも、それを身に纏った彼女たちは――。
「――うん、かっけぇ。みんなかっけぇわ。」
「……あはは、な、なんか照れるね……」
「当たり前。素材がいいから」
「リョウ先輩の言う通りです! 私たち、素材が良いですからね!」
「えっあっ、わ、私は別に……」
ちょっと視線を逸らして誤魔化すように笑う虹夏先輩に、お手本のようなドヤ顔を披露する自信満々なリョウ先輩。
喜多さんがそのリョウ先輩を全肯定しつつ相変わらずの自己肯定感と自己評価の高さを見せつけて、逆に後藤はカス肯定感にゴミ評価を滲ませながらちらちらと俺に視線を送ってくる。
しかし、二言はない。
今の結束バンドは、誰が何と言おうとかっけぇんだ。
それに、まだまだ、もっとかっけぇところを見せてもらわないと。
「明後日のライブ」
零すようにそう言うと、結束バンドの四人から今一度視線が集まる。
俺はそれぞれと視線を交わした後、彼女たちを挑発するように片方の口角を上げてみせた。
「仮マネージャーって立場からすると変な言い方でしょうけど、俺、楽しみにしてます。だから、見せてくださいよ」
「何を?」
リョウ先輩が、わかっているだろうにわざわざ意地悪そうな笑みを浮かべて聞いてきてくれる。
なので、俺もそれに応えて、答える。
「結束バンドの、今の全力」
♪ ♪ ♪
「――はーっはっはっはっはっはぁっ!」
「こ、此崎くん、なんで笑ってるの……」
「笑うしかないですやん後藤さん……笑うしかないですやん……」
俺、あんなにかっこつけたのに
某年8月14日、日曜日。
結束バンドの記念すべき初ライブ。
いの一番に駆けつけてくれたのは、非常に勢力の強い台風8号さんでした。
……帰れ! 台風のおバカ!! 今すぐ帰れえええええええバカああああああああああああ!!!
あーあ、此崎がすごい一体感感じたから風吹いてきちゃった。