なんか~ちょっと短めっていうか~区切りがわかんない的な~?
「「「「「「「かぁんぱ~い!!!」」」」」」」
ひゃっはぁー!!! 新鮮な打ち上げだぁ!!!
「お前ら、今日はライブよく頑張った。私の奢りだから飲め」
「ゴチになりまぁすっ! ――くぅ~! 人の金で飲む乳酸菌飲料うめぇ~!!」
「此崎くん、いい飲みっぷりですねぇ」
「ホント遠慮がないね……まぁでも、とにかくお姉ちゃんありがと~!」
「おごりやったぁ〜! えへ〜先輩好き〜!」
「お前は自腹だよくっつくな死ね!」
隣でワインだかカクテルだかを飲んでいるPAさんの向こう側で店長ときくりちゃんがじゃれ合っている。微笑ましいね。
──さて、ここは下北駅付近のとある居酒屋である。
結束バンドの初めてのステージが無事に……無事に? いや、どうにかこうにか成功を収めたということで、ライブの終了後に打ち上げをおこなうことになったのだ。
後藤のギターソロが起死回生の一手となり、あの後の結束バンドは正直いつも以上にノっていた。
一曲目に関しては……まぁお世辞にも良いとは言えなかったが、それを含めても贔屓なしで、今日ステージに立ったバンドの中で一番良かったと思う。
だから、打ち上げだ。これは祝勝会だ。
いや、もちろん敵はいなかった。
結束バンドにまるで興味がなかった例のお嬢さん方もライブが終わった後にわざわざ俺のところに来て「ちょっとよかったです」なんて言ってくれて、いたく感動した俺はお近づきのしるしに結束バンド公式グッズの結束バンドをプレゼントした。
なにこれウケるー、とか言いながら笑って受け取ってくれたし、なんかよくわからんがロインも交換した。堕ちたな(確信)。
……という具合なので、彼女たちすらも敵でないなら、やっぱりあの場に敵なんていなかったわけで。
結局、結束バンドが打ち勝った相手というのは、他ならぬ結束バンド自身だ。
すなわちこの祝勝会は結束バンドを打倒したことを祝う会なのだ! どうだ結束バンドめ! 参ったか! ……それは違うな?
……うむ、とにかく本当にいいライブだった。本当にいいライブだった……。
「此崎くんどうしたの? 急に静かになったけど……」
「ん? あぁ、虹夏先輩……ちょっと……今日のライブを噛み締めてましたねぇ……」
「ふふっ、なんか照れるなぁ。そんなによかった?」
「ええ、一曲目はだいぶアレでしたけどね?」
「うぐっ、あ、あれはですね~……」
はす向かいに座っている虹夏先輩にニヤニヤしながら返すと、彼女はグラスを両手で持ったまま目を泳がせる。
「こらこら此崎くん、意地悪言っちゃダメですよ」
「あ、あはは、確かに私たち、一曲目はダメダメでしたから……」
「私は最初から絶好調だったけど」
「いやリョウ、お前も全然周りの音聞けてなかったろ。見栄張んな」
「まぁでもぁ~最終的に盛り上がったんだしなんでもいいじゃんねぇ~?」
俺がPAさんに窘められて喜多さんが自嘲し、リョウ先輩がしらばっくれて店長にツッコまれ、きくりちゃんが既にふにゃふにゃになりながら身も蓋もないけれどもっともなことを言った。さすがきくりちゃんだぜ。
「……そう言えばそちらの……店長さんの後輩さんでついこのあいだ此崎くんを居酒屋に連れ込んだ上に後藤さんを差し置いて『いっくん』呼びしているそちらの方はどちら様なんですか?」
「尋ねてきてる割に持ってる情報量多くない?」
きくりちゃんが酔いが醒めたみたいな真顔になってめっちゃ早口だった喜多さんの顔を見た。っつーか喜多さんの顔も真顔過ぎて怖いんですけど……。
「……え、えーっと、だ、誰よりもベースを愛する天才ベーシストの廣井きくりで~す!」
「きくりちゃん、ちなみに今日は命より大切なベースどうしたんすか?」
「え? あ~……昨日飲み屋に忘れちゃったぁ! どこの飲み屋かもわかりませ~ん!」
「ヒューッ! さっすがぁ~!」
「此崎くんまさかとは思うけどもう酔ってる? もしかして酔ってなくてそれなの?」
前回のアレが酔いだとしたら今は全然酔ってないので、素面でこれですね。
うん、なんかきくりちゃんと喋ってるとテンションおかしくなるんだよな……楽しくって……。
「――あの、きくりさん。私よくライブ行ってました……」
「え~ほんと~? 君見る目あるねぇ~!」
リョウ先輩が四つん這いでスススっときくりちゃんの傍に近寄ったと思うと、珍しく興奮気味に続ける。
「観客に酒吹きかけたり暴言とかその他諸々吐いたり、泥酔しながらのライブ最高です。顔面踏んでもらったのも良い思い出……実力あるのにメジャーで売れないのが残念。バカテクバンドなのに」
「こんなん大衆に受けたら世も末だわ」
「……私ってロックのこと、まだ全然理解してなかったみたいです……」
「これはたぶん理解しなくても大丈夫かも……?」
喜多さんがきくりちゃん路線に走ったらおもしろいと思うけどな。同じボーカルとして見習ってみたらどうだい?
「……まぁなんだ、バンド続けてればどんどんファンは増えてくもんさ。だから、次のライブもちゃんと頑張れよ」
「お姉ちゃん……!」
店長さんが気を取り直すようにそう言うと、虹夏先輩が目を輝かせた。美しきかな姉妹愛……ということでいいのか?
「あと、ノルマ代もちゃんと払えよ」
「お姉ちゃん……」
店長さんが思い出したようにそう言うと、虹夏先輩の目が死んだ。垣間見えた姉妹愛は幻だったようだ。ま、こういうじゃれ合いも姉妹だからこそだろうけどさ。
店長さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた後、軽く咳払いをしてから再び口を開く。
「……まぁそれにしても? 今日のMVPと言えば、やっぱりぼっちちゃんだったよな? ぼっちちゃん、今日は本当によく頑張……がん……真っ白に燃え尽きてないか?」
「店長さん、後藤を起こさないでやって下さい。死ぬほど疲れてるんです」
後藤は確かに真っ白に燃え尽きていた。テーブルを挟んだ俺の真向かいで壁にもたれかかり、満身創痍で俯いている。HPもMP(メンタルポイント)も完全に底を突いているようだ。
おお、後藤よ! 死んでしまうとは何事だっていつものことだよいつものこと。生きている時もだいたい情けないし不甲斐ないので死んでてもあんまり変わんねぇわ。
……いやまぁ、だいたいってだけで、そうじゃない時もあるけどな。
今日とかは、まさに。
「ちょっとちょっと、ぼっちちゃん息と脈は……ある、あるね。よしよし、ほらぼっちちゃん起きて! 何か頼もうよ!」
「――ハッ!? ここはどこ、私は誰……」
「ここは居酒屋であなたは後藤さんよ! ほら後藤さん、これとかおいしそうじゃない?」
「えっあっ、どっどれですか……」
「これよこれ、アボカドとクリームチーズのピンチョス!」
「ピンチョスッ!?」
なんか後藤が変な鳴き声発したな。ポケモンかな?
……いやしかし俺もピンチョスってなんなのか全然わからん。なんかこう……ピンでチョスってしたやつ? 違うか。
「後藤、お前は大人しく唐揚げでも頼んでおけ。お前にカタカナ横文字の料理は一万光年早い」
「……くっ、こっ此崎くん! な、ナメてもらったら……困る……!」
「なん……だと……!?」
ご、後藤が反論しただと!? この俺に!? バカなこいつ、ライブの成功体験で一皮むけたってのか……!?
「え、えっと! 私はマチュピチュ遺跡のミシシッピ川グランドキャニオンサンディエゴ盛り合わせで……!」
「バカ丸出しじゃねぇか」
皮剥けて中身のおバカが丸見えになってるじゃ――。
「マチュピ……どこだ? そんなのメニューにあったか……?」
「大皿のメニューですかね」
「まちゅぴちゅってなんかおいしそ~だねぇ~」
「……えっ」
――えっ? な、なんでこの大人たち、真剣にメニュー探してんだ……? 嘘だろ、マチュピチュ遺跡にミシシッピ川、グランドキャニオンにサンディエゴだぞ……? 世界遺産、川、世界遺産、地名だぞ……?
俺がおかしいのか? と思いながら流れでリョウ先輩と喜多さんを見ると「どうかしたの?」みたいに首を傾げられる。
あっこれ俺がおかしいんだなとほぼ確信しかけて最後に虹夏先輩を見たら、悲し気な表情で首を横に振っていた……あぁ危ない、俺もあちら側に行くところだった。まともなのは俺と虹夏先輩だけだったか。
「……よし後藤、お前はフライドポテトだ。カタカナの横文字だぞ。これでいいな?」
「あっはい。私はフライドポテトです」
フライドポテトには後藤を頼ませ……間違えた、後藤にはフライドポテトを頼ませて満足してもらうことにした。
これ以上マチュピチュについて掘り下げても悲しみが増すだけだ。
世界に悲劇はある。
でも、できるだけ少ない方が良いから……。
♪ ♪ ♪
「――すげぇ……マジでピンでチョスってしたやつじゃん……」
「何言ってんの此崎くん?」
喜多さんが頼んだピンチョスとかいう謎メニュー、蓋を開けてみれば串でアボカドとクリームチーズを刺してまとめたようなおしゃれ料理だった。
「此崎くんも食べる? ピンチョス」
「ピンチョス……ピンチョス食べるか……」
「いっくんそれ語感で気に入ってるだけだよね~」
そうかな……そうかも……。
まぁとりあえず喜多さんにピンチョスをひとつ貰って食べてみる……いやうん、結局アボカドとクリームチーズでしかない。うまいけどさ。
「じゃあ喜多さん、ピンチョスの礼に俺が頼んだこの鳥と長ネギのジャパニーズピンチョスを進呈しよう……」
「ただのねぎまじゃねぇか」
「ふふっ、此崎くんっておもしろいですね~……あ、すいません店員さん、ホワイトサワーひとつ~」
「くっ、やるね此崎……!」
「なんでリョウは張り合ってるわけ?」
……うむうむ、このカオスな会話、段々と飲み会らしくなってきたんじゃあないの?
その後もぼちぼち料理を頼んでつまんだりお酒やらソフトドリンクやら追加しては飲んだりしながら、取り留めもない話が続く。
女子高生四人と男子高校生一人、そして成人女性三人というまとまりのない八人ながらも結構話は弾んで……る、けど、ふと「男俺一人じゃん」って気が付いてからは、今更ちょっぴり肩身が狭く感じたり。
しかし、目の前の後藤がいきなり「おぎゃああああああああああああやっぱりニートああああああああああああ」とかアホみたいな声量で叫び始めたので、これがいる限りは男一匹混じってるくらい大した問題じゃないなと思い直した。
「――お~い、いっくぅん! 飲んでるかぁい!? なぁんでいきなり静かになったのさぁ~!」
「ぐえっ、きくりちゃん……」
顔面土砂崩れを起こした後藤の補修工事を喜多さんとリョウ先輩がおこなう傍ら、いつの間にかきくりちゃんが忍び寄ってきて背後から抱き着いてきた。
「ちょ、い、いやいやちょっとちょっと廣井さん! 近い近い! 近いですって! 廣井さんは此崎くんに接近禁止ですっ!」
「え~妹ちゃんなんで~?」
「此崎くんお酒弱いんですから! この前だって廣井さんと一緒にいるだけ酔っ払ってたって言うんですよ!? せっかく席離したんですから大人しくしててください!」
あぁ、この席順って虹夏先輩の策略だったのか……店に入った時やけに仕切ってるなとは思ったけど。
「あれぇ~? いっくんそんなにお酒弱かったのぉ~?」
「この前の時、知らないうちに俺酔ってたみたいなんすよ。ほら、ずっとくっついてたじゃないっすか。きくりちゃんの吐く息でやられたみたいっす」
なんなら今きくりちゃんから漂ってきているアルコール臭でも……ちょっと、ヤバい気がする。ライブの興奮が残っているのもあると思うけど、若干五感がふわふわしてきてるような……。
「此崎もぼっちに負けず劣らずのおもしろ体質してる」
「後藤さん、顎長くなってる場合じゃないわ! 廣井さんに此崎くん取られちゃうわよ!」
「ごめんやっぱりぼっちの方がおもしろいかも」
「別に張り合ってないんで大丈夫です」
後藤の顔面復旧工事は無事成功し、この上なくハンサムな仕上がりになっていた。ピックみたいな形してるわ。後藤の特技の一つに歯ギターがあるが、これなら顎ギターもいけるんじゃないかな。
とりあえずハンサムすぎる後藤の写真は一枚撮っておくとして、まぁさすがに後ろから抱き着かれているのはドギマギしてしまうので俺はきくりちゃんのホールドをくぐるようにして抜け出した。
「此崎、お前こっち来とけ」
「うーっす」
「あぁ~いっくぅ~ん~!」
俺は自分のグラスを持ってそそくさと移動する。縋り付いてくるきくりちゃんのことは涙を呑んで振り払った。許せきくりちゃん、また今度だ……。
……いやうん、きくりちゃんと絡んでるとマジで酔っ払って迷惑かけそうなんでね、正気を保ってるうちに離れておくのが吉だろう。というか俺ときくりちゃんが絡んでると虹夏先輩と喜多さんの目がやばいんだよ……さすがに怖いんだよ……。
「……此崎、お前それ……」
「ん? なんすか?」
お馴染みの乳酸菌飲料が入ったグラスに口を付けつつさっきまできくりちゃんが座っていた座布団に腰を下ろすと、店長さんが怪訝そうに眉をひそめて俺を見つめてくる。
なんか照れる、ほっぺたが熱くなってきちゃったわ――とかなんとか、思った直後。
「――あら? これ、サワーじゃないです……ね?」
「……あのこれ、炭酸……」
「……マジか」
「……えっ、ちょっ!?」
「嘘よね此崎くん……!?」
「あー……いっくん、どんまい!」
「此崎、南無」
「あわわわわ、あわわわわわわわわわ……!」
――わりぃ、おれ死んだ。
※未成年の飲酒は法律で禁止されています。あとアルコールに弱い人も無理な飲酒は絶対に避けよう! 死ぬぞ! 此崎みたいにな!