これからぼざろアニメのない世界を生きていかなくちゃいけないという事実。
難民生活の始まりよ……でも……本当に素晴らしくって素敵なアニメだった……。
あっ今回短めです。
あと一応久々に連日投稿だからご注意をば。
目が覚める。
枕元のスマホを手探りで見つけ出し、ぼやけた視界でホーム画面の時計を確認すると、アラームを設定していた時間のちょうど二分前だった。
「……あー……」
よくあることだ。
後藤家で寝るときはそうでもない……というか、最近はふたりちゃんと一緒に寝ることが多くて後藤ママに起こされるからほぼ皆無だったわ。
……って、俺がスマホのアラームを置き去りにしたことなんて今はそれはどうでもいい。
もっと、重要な問題が発生している。
「……これ、風邪引いとるな」
鼻づまりと喉の痛み、それから少しの倦怠感。
まごうことなき風邪の引き始めの症状だった。
♪ ♪ ♪
結束バンドの初ライブの翌々日、今日も今日とてスターリーでバイトが入っていたのだが、俺は休みの連絡を入れることにした。
元々、今日のバイトは無理に出てこなくてもいい、とは言われていたのだ。
理由は、二日酔いを心配されたからである。
……高校生に対する心配か? これが……いや社会人でも「君二日酔いで大変だよね? 仕事来なくて大丈夫だよ」とか言われねぇわ。そんなの実質リストラ宣告じゃん。
……正直、俺もビビってる。まさか自分がここまでアルコールに弱いとは。
きくりちゃんの呼気だけで酔ってる時点でもっと自覚するべきだったのだが、それにしたってうっかりサワーを一口飲んだだけで死にかけるとは思わなかった。
吐き気、眩暈に襲われて、身体は火照って手足は言うことを聞かず、五感の全部がぼんやりとぐるぐる回って、一晩明けた昨日もずっと頭が痛かった。後藤んちに泊めてもらったからずっと布団に引きこもっていられたのは幸いだったな。
――でも、そういう感覚も含めて、記憶だけはしっかりしているのが不思議でならない。
「……はぁー……虹夏先輩なぁ……」
人間、綺麗さっぱり忘れてしまった方がいいこともあるもんだなとつくづく思う。
死ぬほどキモイのは承知の上で言うが、虹夏先輩の膝枕の感触が忘れられん。いやあの人何ご褒美とか言って後輩の男の子に膝枕とかしてんですかね……思春期男子の繊細なハートを蹂躙しに来てるじゃんマジで。
……まぁこれ以上アレに触れると枕に顔面埋めて叫び出したくなるので置いておくとして、それ以外にも虹夏先輩と話したことや、虹夏先輩と後からやって来た後藤が喋っていた内容もばっちり覚えている。
うん、そう。
俺、あの時寝てなかったんだわ。
喋るのが億劫になって黙ってただけで、起きてますっていうのもめんどくさかったから寝たふりしてたんだわ。
そしたらなんかすげぇ大事そうな話始めちゃうし、虹夏先輩の家庭の事情とか絶対俺に聞かせる気なかったようなことも聞いちゃうし……まぁその時点じゃ酔っ払ってふわふわしてたから思うところもなかったんだけど、ねぇ? あと、くしゃみが我慢できなかったのもマジですまんかったと思ってる。
とにもかくにも、そういう諸々が気になって……気恥ずかしくて、俺は昨日ロインの確認を一切しなかった。今日のバイトは無理しなくていい、という話も後藤から聞いたのだ。
しかし……。
「……先輩たちに伝えないってのは、ないわな」
風邪気味で、しかも二日酔いもちょっと残ってる感じがするのでバイトを休むこと自体にためらいはないのだが、さすがに店長にだけ連絡してはいおしまいとは行くまいて。
今日は誰がシフトに入ってたかもわからんが、肝心の虹夏先輩が基本的にいつもスターリーを手伝っているし、その時点で覚悟を決めるしかないのだ。
──というわけで、俺は朝の七時頃、店長さんと結束バンドのグループロインに『二日酔いと風邪気味のダブルパンチ食らったのでバイト休みます』と連絡を入れて。
「──嘘だろ、マジで来たよこの人たち……」
「あはは、冗談だと思った? あたしたちの行動力、甘くみないでよね〜」
「此崎くん、これお見舞いに持ってきたの! 体調はどうかしら?」
「此崎、頭ボサボサ。ウケる」
「あっ此崎くん、おっおはよう……」
そして昼前、なぜか結束バンド御一行様と我が家の玄関の前で相対していたのだった。
……こいつらやばすぎんだろ……。
「いや、いやいや。冗談にしといてくださいよマジで。風邪気味の人間の家に四人で押しかけます? しかもあんたたち片道2時間でしょ? 夕方からバイトでしょ? バカなの? 死ぬの? 人の常識とかないんか?」
「うんうん、まぁちゃんと説明してあげるからとりあえず中入れて?」
「……入れますけど……」
マンションだし、玄関前で喋ってたら迷惑になるから……やむを得ない。
「お邪魔しま~す!」
「お邪魔します~」
「オジャマ……」
「あっお邪魔します……」
なんか今地上最強の生物みたいな感じの人いなかった?
……あと唯一俺んちに来たことあるやつが一番ぎこちないのはなんなんだよ。いやなんなんだよって後藤だよ。じゃあしょうがないね。
極端に狭くもないが特別広くもない我が家の玄関に、おしゃれな私服姿の女子高生三人とピンクジャージの芋女がひしめき合っている。異様な光景だ……。
「……えーっと、とりあえず……リビング行きます?」
「いや、此崎の部屋見たい」
「却下。リビングに行きます」
疑問形にした俺が悪かった。まぁ別に見られて困るものがあるわけじゃないけど最初に招く場所じゃねぇ。ベッドとかぐちゃぐちゃのままだし。
ともかく俺が四人をリビングに案内すると、何かを言う前にリョウ先輩はソファに直行してどさっと座り、喜多さんはお見舞いに持ってきたと言っていた長ネギの飛び出ているビニール袋をダイニングテーブルに置いた。
そして、虹夏先輩は玄関の前でいつも通り元気いっぱいだったところから一転してそわそわきょろきょろと部屋を見回していて、何やら落ち着かない様子でいた。
「……虹夏先輩、どうかしました?」
「えっ!? あっいや、な、なんでもないよ~?」
「…………」
絶対なんでもなくないですやん……まぁ藪蛇になりそうだからこれ以上突っ込むのはやめておくけど。
「ま、適当に座ってくださいな……あぁ、なんか飲み物用意しますわ」
「あっ此崎くん、わっ、私やるよ」
「そうか? じゃあ頼むわ」
「……後藤さん、手慣れてるわね。そう言えば聞いてなかったけど、後藤さんってやっぱり此崎くんのおうちにはよく来るのかしら?」
「いや、そうでもないな。俺の方が後藤んちに行くのがほとんどだよ」
「ねぇ此崎、テレビのリモコンどこ?」
山田おめぇくつろぎすぎだろ。初めて上がった人の家で五分も経たないうちにソファでふんぞり返ってんじゃねぇ。王か。
俺はテーブルの上にあったリモコンを山田陛下に投げ渡し、ため息を吐きながら椅子に座る。正面には喜多さん、はす向かいには虹夏先輩が座って、コップとペットボトルのお茶を持ってきくれた後藤はひとまず離れて座ってる山田陛下の分だけ注いで献上した後、俺の隣に座ったのだった。
「……で、説明は?」
「まぁまぁ此崎くん、それより先にこれなんだけど」
「あぁ、お見舞いの。ありがとさん。でも長ネギってなん……いやちょっと待った、長ネギと……缶詰? 桃?」
「えぇ! 風邪のお見舞いって言ったらこれが定番でしょう?」
「……うん、まぁ……これは、首に巻いて寝た方がいいのか?」
ありがたい、ありがたいよ。でもなんか微妙にズレてるというか古典的というか……。
「いやいや、おばあちゃんの知恵袋じゃないんだから……そうだ此崎くん、ご飯とか卵とかあるかな? そのネギも使ってさ、おかゆでも作ったげるよ!」
「あー……米はある、卵も……あったかな。先週末に買い物行ったっきりで」
「あっあの、あった、と思うよ。卵、一個か二個……」
「……ここ数日使った覚えがないし、それ前の買い出しのときのやつだな。ってことは期限切れてるわ」
まぁ卵って加熱すれば賞味期限切れてもしばらく平気らしいけど……うーむ、弱ってる状態で食うもんでもないわな。
「じゃあやっぱりお買い物行きますか? 私、伊地知先輩の手料理食べてみたいです!」
「そうだね、そうしよっか。あ、此崎くんキッチン使ってもいいかな?」
……やっぱりだのなんだのよくわからんが、既に話がついてるのだろう。たぶん、俺以外の四人で。
まぁ……好きにしていただいて結構ですけれどね、ええ。
「よーし! それじゃあじゃんけんしよう! 此崎くん抜きの四人で、負けた二人が買い出しね! ほらリョウ! テレビ見てないでやるよ!」
「えー」
「えーじゃない! 出さなきゃ負けだからね!」
ほらいくよ! じゃんけん――と、虹夏先輩の合図で四つの手が掲げられた。
♪ ♪ ♪
「――ふっ、正義は勝つ」
「いや別に正義じゃないと思うんですが……」
「何言ってるの此崎くん! リョウ先輩が正義と言ったら正義なのよ!」
「喜多さん、お前は何を言ってるんだ」
結局、買い出しじゃんけんはワンラウンドで勝敗が決した。
チョキを出したリョウ先輩と喜多さんがパーを出した虹夏先輩と後藤を下したのだ。
で、敗北者二人が真夏の炎天下に繰り出していくのを三人で見送った後。
リョウ先輩はリビングに戻るなり再びソファに座って、「なんか映画見たい」と言い出した。
そして、喜多さんは「二人が買い出しに行ってるのに悪いですね」と言いつつも、リョウ先輩が足を組んで背もたれに腕をかけながら悠々と腰かけるそのすぐ横にすっぽりと納まっているのだからまったくもって始末に負えない。
俺がため息を吐いて「我が家のテレビはネ〇フリ対応なのでお好きにどうぞ」と促せば、リョウ先輩はさっそくリモコンを弄り始めた……さては見抜いてたな? ネ〇フリの画面に行くまでがはえーのよ。
「ほら此崎、突っ立ってないで座りなよ」
リョウ先輩は喜多さんの反対側のスペースをぽんぽんと叩いて見上げてくるので、あーだこーだ言うのも面倒臭くなった俺は大人しくそれに従う。
かくして、ふんぞり返るリョウ先輩に俺と喜多さんが侍らされているような状況が完成してしまった。今日という日 is 何。
「……いや、そう。さっきからめちゃくちゃ誤魔化されてるんですけど、なんでみんな今日俺んち来たんですか。映画見るとか昼飯作るとか、バイトは?」
「今日はお休みにしてもらったのよ、此崎くん。店長さんが『たぶん今日暇だからお前ら休みでいいよ』って。他のスタッフさんたちが全員揃ってるみたいなの」
「あー……っていや、それで半分だわ。まぁお見舞いに来てもらったのは嬉しくなくもないんだけど、四人で押しかけるのはどうなのさ。風邪気味程度とは言え移すかもしれんしさぁ」
……というかマスクとかしてねぇわ。いやマジで来ると思ってなかったから用意がないんですよ用意が。咳とかくしゃみは出てないけど……ねぇ?
「私、風邪引かないから平気。此崎の家に来てみたかったから来たんだけど、ダメだった?」
「私は……私も、この前此崎くんのおうち行けなかったから、せっかくの機会だと思って……ごめんなさい、確かに大人数になったら迷惑かなとも思ったんだけど、此崎くんなら許してくれるかなって」
「おい」
喜多さん、てへぺろじゃねぇんだわ。リアルに舌出して自分で頭こつん、なんてやるやつがいるか。そしてなんでそれが痛々しくなくって普通に可愛いんだ。現代が生んだ奇跡か?
……それにしたってまぁ、そりゃあ追い出しはしないけど、リョウ先輩はともかく喜多さんも大概やべぇやつだなホント。
「……じゃあこれ、言い出しっぺはリョウ先輩ってことっすか?」
「ううん、言い出しっぺは虹夏」
「うぉい! あの人かよ!」
虹夏パイセェン! あなた率先して止めなくちゃいけない人でしょうが! あなたが常識を手放すとこうなるんですよ!
いったいどうして……と俺が頭を抱えると、リョウ先輩が手を止めて顔を向けてくる。
「虹夏がね、此崎が寂しがってるだろうからって」
「……は?」
「えぇ、そうでしたね。だからね此崎くん、むしろみんなで行ってあげたほうが喜ぶかも、なんて伊地知先輩言ってたのよ?」
「…………」
……なんという……なんという。
それもう絶対
「……羞恥プレイだ」
俺は顔を手で覆って、リョウ先輩とは反対の方向に倒れ込んだ。
「え、此崎くんどうしたの……?」
「さぁ。私たちの優しさに感動したんじゃない?」
「そっか、そうですよね先輩! 先輩なんて今月もうお金ないのにここまで来ちゃいましたもんね!」
「うん、帰りの電車賃ない」
「きゃー! 一文無しになってまで此崎くんのお見舞いに駆けつけるリョウ先輩もステキー! 帰りの電車賃貢がせてください! お願いします!」
……アホ二人の漫才にツッコミを入れる気力もない。
虹夏先輩……は、今回むしろ諸悪の根源だし……残るは後藤、後藤なのか? 今日の俺を救ってくれるのは後藤なのか……?
ぼっちたすけて。
ボスケテ。
前回は久々のおねだりに応えてくれてみんなありがとう! 評価者数800人超えて総合評価18000、嬉しい!
次回はオリジナル回後編って感じなのでよろしくどうぞ。
うぉっち・ざ・ぼっち! はまだまだ続くのじゃ。