うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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キャベツはどうなってんだよキャベツは!

オリジナル回中編、また普段より短めです。
ホントは前後編にするつもりだったけど長引いちまってるぜ……まぁ箸休めだと思ってさらっと読んでくださいな(なお執筆速度



#26 キテレツ! 攻撃は最大の防御ナリ!

 

 後藤ひとり、三分クッキング。

 

 てれれってってってって♪ てれれってってってって♪

 てれれってってってってってってっててーてーてー♪

 

 ――さて、まず初めに包丁を持たせた後藤を用意します。

 

「――あっ、ごめんダメだぼっちちゃん。今後二度と包丁持たないで」

「えっあっえっ?」

 

 そして、その握り方のあまりのぎこちなさを見て台所に立つ権利を永久に剥奪します。

 

 ――後藤ひとり三分クッキング 終――

 

 

 

「後藤、お前マジで大人しくしてろ。マジで」

「あっはい……」

 

 いや別にね、いきなり包丁を逆手に持つとかじゃないのよ。そこまで突拍子もないことをするわけじゃあない。

 ただとにかく、力いっぱい包丁の柄の部分をグーで握ってるのよ。それはもう人を刺し殺すときにしかしちゃいけない持ち方なのよ。

 

「ふぅ、虹夏先輩が当然のことを当然にしてくれる人で助かりましたよ。危うく後藤の指が全部なくなるところでした……」

「ちょっと、本当に想像できちゃうからやめてよ!」

「えっあっ、そっそんなにですか……?」

 

 そんなにです。

 後藤に包丁、ダメ絶対。

 

 ――というわけで、急遽番組を変更もとい元の予定に戻し、NIJI’Sキッチンのお時間がやって来た。

 

 今日のメインはオムライス。

 おかゆじゃなかったのかよ此崎風邪気味だっつってんだろと思った方もいらっしゃるかと思いますが俺もそう思いました。いやまぁ別に食欲はあるけどさ……。

 あと長ネギどうすんの? オムライスに入れんの? とも思ったけど付け合わせとして長ネギのコンソメスープも作るらしい。抜かりない、抜かりがないよ虹夏さん。

 

「伊地知先輩のオムライス、楽しみね~!」

「そうだなぁ」

 

 喜多さんと隣り合ってダイニングテーブルの席に着き、頬杖を突きながら虹夏先輩がキッチンでてきぱき手を動かしている様子をぼーっと見る俺。

 

 ちなみにリョウ先輩はソファに座って引き続き映画を見ており、番組を降板した後藤はリョウ先輩に侍らされる係に就任していた。喜多さんが珍しくリョウ先輩にくっ付いてないのは虹夏先輩の手伝いをしようとしたからだ。まぁ虹夏先輩に「くつろいでていいよ~」なんて言われちゃったから結局流れで俺の隣に座ってるんだけど。

 

「……なーんか変な感じするなぁ」

「どうしたの?」

「いや、自分の家にこんなに人がいるのがちょっと久々でなぁ」

 

 中学の頃は仲の良い男友達数人がしょっちゅう遊びに来ていたが、受験で忙しくなってきた中三の夏以降は片手で数えるくらいしか家に上げていないと思う。別にまったく遊んでなかったわけじゃないけども、だいたい外で遊んでいたのだ。

 あとは後藤一家。全員揃って来るようなことはほとんどないけど、特にふたりちゃんが俺んちに泊まるのにハマってた(?)時期があって……。

 

「……って、あぁそうか。あれだわ、俺んちのキッチンに人が立ってるのが違和感なんだわ」

「……そうなの?」

「うん、たぶんな」

 

 たとえばふたりちゃんのお泊りは、だいたい俺が後藤んちに晩飯食いに行って、それから風呂とかも全部済ませてから俺んちに来るような流れだった。付き添いはだいたい後藤パパで、たまに後藤も一緒に来たり。

 後藤ママも泊まっていくことはないものの昼間にふたりちゃんや後藤と一緒に俺んちに来ることはあって、ただ、単なるタイミングの問題だと思うのだがうちのキッチンに立つことはほとんどないのだ。

 

 ……まぁそもそも、先輩二人と喜多さんが俺んちにいることが一番の違和感なんだけどな。

 

「――此崎、親いないの?」

「ちょっ、リョウ先輩!?」

 

 リョウ先輩の方を見ると、相変わらずソファの背もたれに腕を乗っけながらこちらに振り向き、横目で俺のことを見つめてきていた。

 

 発言の内容が内容だっただけに喜多さんが椅子から立ち上がって驚いてみせたが、俺は「いや喜多さん、平気平気」と軽く言う。また、料理をしていた虹夏先輩にはリョウ先輩の声が聞こえなかったらしく目を丸くしていたので、こちらにも「なんでもないですよ」と一言かけて、それから再びリョウ先輩に顔を向けた。

 

「まぁね、いるっちゃいるし、いないっちゃいないって感じです。両方健在なんですけど、仕事で全国あちこち飛び回ってて全然帰ってこないんすよ。最後に会ったのは……高校入る前か? 後藤も会ったよな」

「あっうん。こ、高校の制服着てるとこ見せてって、此崎くんと一緒に……」

 

 そうそう、そうだわ……後藤の制服姿、あの時と入学式でしか見てねぇんだよなぁ。

 

「ふーん、そうなんだ。だからいつもぼっちの家にいるの?」

「いや、別にいつもじゃないですけど。どこ情報っすかそれ」

「この家、生活感が薄い気がしたから」

 

 名探偵なの? 名探偵山田なの?

 

 ……まぁしかし、実際結束バンドとかかわり始めてからは後藤の家で過ごしてる時間の方が長いかもしれん。平日は学校やバイト、結束バンドの練習だったりで当然家を空けているし、土日は予定が空いてればふたりちゃんと遊んだり後藤のギター練習に付き合ったりで後藤の家に行ってるし……い、いやいやさすがに夏休みはもうちょっとこの家に……いる、か? この夏、後藤んちに何回泊まった……? 

 

「……い、いつもじゃないっすよ」

「なんで二回言ったのかしら?」

 

 そりゃあ大事なことだからですよ、喜多さん。

 

「――いやとにかくそんだけです。今時珍しくもないでしょ、共働きくらい」

「…………」

「……まぁ、そうかもね」

 

 喜多さんが押し黙って、リョウ先輩からは気のない返事が返ってくる……あー、気まずい気まずい気まずいわ……そんな深刻な反応せんでくれんか……。

 

「――よし後藤! 一発芸!」

「えっあっえっ!? あっあっ、えっと、えっとえっと……!?」

「此崎くんどうしていきなり後藤さんにそんな無茶ぶりを!?」

 

 だって空気悪かったからぁ……後藤にスベってもらえば相殺できるかなってぇ……。

 

「あっあっ、え、えっとじゃあ、『燃え盛る本能寺で弾き語りながら舞う織田信長のモノマネ・エアギター編』を――」

「――ねーねー此崎くん、使っていいお皿あるかなー?」

「適当に使ってもらって大丈夫ですよ。えっと、オムライスならそっちの食器棚の下の段に白い皿が……」

「伊地知先輩、私もお手伝いします!」

「お、喜多ちゃんありがと~。じゃあスープちょっと味見してもらって、大丈夫そうだったらよそってもらおっかな。あたしは順番にオムライスの卵巻いてっちゃうから」

 

 虹夏先輩のオムライスがいよいよ出来上がるようで、俺と喜多さんは動き始める。

 ちらりとソファの方を見れば、立ち上がって変なポーズで固まってる後藤とテレビの画面の方に視線を戻しているリョウ先輩の姿があった。

 

 ……まぁ、山田陛下はいいとして。

 

「後藤、テーブル拭いといてくれ」

「……はい」

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 虹夏先輩のオムライスは、あまりにも普通に美味しかった。

 

 鶏もも肉と玉ねぎを入れただけのシンプルなチキンライスが、お店で提供されるようなトロトロの卵──ではなく、あくまで単なる薄焼きの卵に、しかしクルンと綺麗に包まれていたのである。

 

 それは、まさしく家庭の料理であった。

 ゆえに普通。

 ゆえに美味しい。

 後藤の家での食事と、同じような安心感がそこにはあった。

 

 このオムライスはきっと、毎日の食卓のレパートリーのひとつに過ぎない。

 今は毎日食べられると思うくらいに美味しいと感じているが、本当に毎日食べていたら飽きてしまうだろう。

 

 けれど、それでも、だからこそ。

 

 こんなにも安心する虹夏先輩の手料理、俺は、毎日でも作ってもらいた──。

 

「──ハッ! いかん危ない危ない……」

 

 うっかり心の中で虹夏先輩に告白しちゃうところだった……。

 

「此崎くん、お腹いっぱいになった?」

「はい、ごちそうさまでした。満腹です……うん、ホントに美味しかった」

「ぼっちちゃんと喜多ちゃんは?」

「はい! とっても美味しかったですっ!」

「あっ私も……お、お腹いっぱい、満足、です」

「虹夏、私には聞かないの」

「リョウはしょっちゅう食べてるでしょ」

「それはそう」

 

 ……リョウ先輩羨ま……じゃないじゃない。

 胃袋掴まれすぎだろ俺……。

 

「じゃとりあえず片付け……いや、台所に出しといてもらえれば大丈夫です。後で適当なタイミングでやるんで」

「いやいや、そこまで私やるよ? ほら、フライパンとかも洗わないとだし」

「いやいやいや、五人分も作らせといてそうはいかないっすよ」

「いやいやいやいや、此崎くん病人なんだしゆっくり休んでてよ!」

「いまさらぁ!?」

 

 もう忘れてたわ!!

 というか体調治ったわ!! 朝飲んどいた葛○湯が効いたわ!!

 

「……二人でやれば?」

「あの、お皿洗いも私手伝いますよ?」

「あっあっ、わっ私も……」

「さすがに四人がかりでやるほどじゃねぇから……とにかく俺やります。ハイ決定。みなさんどーぞお寛ぎくださーい」

「あ、ちょっと~!」

 

 俺は重ねられたオムライスの皿とスープカップを持てるだけ持って立ち上がり、さっさと台所に向かうことでこの不毛な戦いに終止符を打った。

 いやマジで不毛なのよ……。

 

 

 

「――で、なんすかね、虹夏先輩」

「え? い、いや~……なんでも?」

「なんでもってこたぁないでしょうよ……」

 

 残りの食器を持ってきてくれた虹夏先輩が、皿洗いをする俺の横に立っている。

 四人がかりで皿洗いするほどじゃないなんて言ったが、そもそも二人並べるようなサイズのシンクですらなかったので完全に一人での作業。つまり虹夏先輩は皿洗いしてる俺を見てるだけである。これでなんでもないのは逆に怖い。

 

「リョウ先輩たちと映画見ててもらっていいですよ?」

「……うーん、リョウのチョイスする映画はちょっと……ね?」

「あ、あぁ……」

 

 さっき虹夏先輩と後藤が買い出しに行った後にリョウ先輩が見始めた映画もな、ネ〇フリという映画のプールの底の底に沈んだ沈殿物みたいな謎の映画だったからな……。

 どうも次に見始めた一本もなかなかの代物のようで、リョウ先輩の「ぼっちも見るよね」の一言に当然逆らえなかった後藤の後ろ姿からは妙な哀愁すら漂っていた。喜多さんはリョウ先輩の隣に座ってるだけで楽しそうだけど。

 

 ……ただ虹夏先輩、それにしたって俺の隣にずっと佇んでるのはやめてほしいんですよね。なんか仕事の監視されてるみたいで……。

 

「……あのー、別に、本当に迷惑だとか思ってないっすからね。お見舞いに来てもらったのは、マジで嬉しいんで」

 

 なんとなく、そういうことなのかなと思って俺の方から話を振ってみる。

 すると、虹夏先輩がちょっと驚いたような顔をしてから、たははと苦々しく笑った。

 

「ごめん、あたしってばちょっと空回りしてるよね。リョウたちまで呼んだら騒がしくなるっていうのはわかってたんだけど、ただ……」

「……ただ?」

「風邪の時って、いつもより余計に心細くなると思ったから。経験則的にね。ぼっちちゃんに任せればって思ったりもしたんだけど、みんなで行ったほうが賑やかで、寂しい気持ちも少しは紛れるかなって」

「…………」

 

 ……やーっぱりそういうことなのな。こりゃあ……参った。

 

 俺は皿を洗う手を止めてシンクの淵に手を突いてから、改めて虹夏先輩に顔を向けた。

 

「……一人で一日中家にいても暇だったんで、賑やかなのも歓迎です。でもその……あの時寂しいって言ったのは、あくまで過去形でしてね? 俺ってばそんなに寂しがり屋な男の子じゃないですよー、的な……ねぇ?」

 

 意を決してぶっちゃけてみると、虹夏先輩は一瞬フリーズした。

 そして直後、めちゃくちゃデカい声で「えぇっ!? 覚えてるのォ!?」と叫んだのだった。うるせぇ。

 

「あ、あんなにぐでんぐでんになるほど酔っ払ってたのに!? ぜ、全部覚えてるの!?」

「覚えてますねぇ。虹夏先輩、結構モテるんですもんね。いやぁ、そんな虹夏先輩に膝枕までしてもらっちゃって……」

「ぐわああああああああああ!!!」

 

 虹夏先輩が頭を抱え、床の上でごろごろと転がりながら悶え始めた……フッ……まるで後藤だな。

 

 ……うん、この方向性なら俺、勝てそう。

 攻撃は最大の防御。けだし至言である。

 

「虹夏、何してるの?」

「伊地知先輩、どうして後藤さんみたいな真似を……?」

「えっ喜多さん……?」

 

 虹夏先輩の断末魔を聞いてか、映画を見ていたはずの三人がキッチンの方までやってくる。

 リョウ先輩は平然と尋ねながらも床でコロコロしてる虹夏先輩にしっかりスマホのレンズを向けていて、喜多さんは俺と同じ感想を疑問に加工して零しており、後藤はそんな喜多さんを信じられないような目で見ていた。

 

「なんでもないっすよ。ただちょっと、虹夏先輩は迂闊にも作り出した黒歴史の炎に身も心も焼かれているだけです」

「何それ」

 

 詳しくは言いませんよリョウ先輩。なぜならそれは諸刃の剣で、これ以上振りかぶれば俺の身も心も焼き尽くしてしまいますからね。

 

「まぁいいや。それより此崎」

「『まぁいいや』って、キッチンの床でのたうち回る幼馴染に対して『それより』ってひどいですよリョウ先輩」

「此崎くん、それはさすがに冗談で言ってるのよね?」

「ああ!」

 

 幼馴染の奇行なんてとりあえず写真や動画に収めておいてあとは放っておくに限る。

 そうだよな後藤……後藤? なんでそんなに微妙な顔をしているんだい?

 

「で、なんすかリョウ先輩?」

「暇だから此崎の部屋見たい。見せて?」

「いや暇だからって、また映画見始めたばっかじゃないですか」

「あれ微妙だった」

 

 えぇ……さっきすげぇ微妙な映画がっつり鑑賞してた人が微妙って言うほどの映画って何……と思って恐る恐る喜多さんと後藤に目を向けると、二人は目を伏せて首を横に振った。どうやら上には上、じゃなくて下には下があるらしい。

 

「だからってなんで俺の部屋なんすか。大したもんないですよ」

「卒アルとか卒業文集見たい。ぼっちも同じ中学だったんでしょ? 一石二鳥」

「――ヴッ!?」

「あぁ! 後藤さんが突然崩れおちてコロコロし始めちゃったわ!? そ、卒アル? それとも卒業文集の方が致命傷だったの!?」

「基本的には後者だろうな。後藤は三年間徹底して陰キャコミュ障を貫いたのに卒業文集でついうっかり不思議な勇気が湧いて滑り散らかしたんだ。いや、たぶん俺以外誰も読んでないから滑ることすらできてないかもしれん。ちなみにアルバムは集合写真と個人写真にしか写ってないし表情が死んでる」

「――……」

「ちょっと此崎くん! 後藤さん息するのやめちゃったわ!」

「おもしろいねぇ」

「おもしろいねぇ!?」

 

 ま、とにかくそういうことならいいだろう。

 俺はアルバムも文集も別に見られて困るようなことはないし。

 





謝辞ィ!

お気に入り評価感想ここすき誤字報告等々ありがとう!
あとマシュマロとかトゥイッターでのいいねとかもありがとう!

次回はオリジナル回後編じゃい! 頑張って早めに投稿したいんじゃい!
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