オリジナル回後編だよ。やっぱり短いよ。
これどうにか前後編にならなかったのか……。
「――ちょぉいちょいちょいちょーいっ!」
あーっ!! リョウ先輩!! 困ります!! リョウ先輩!! 部屋に入ってしばらくきょろきょろ観察した後いきなりわたくしのベッドにダイブなされては困ります!! あーっ!! リョウ先輩!! 困ります!! わたくしのベッドに困ります!! あーっ!! リョウ先輩!! 困ります!! あーっ!!
「……うーん、もう少し固いマットレスの方が好み」
「文句付けんな!!」
俺は柔らかいのがいいの!!!
「此崎くん漫画いっぱい持ってるのね~! あ、これ最近アニメやってるやつよね! 米〇玄師がOP歌ってるやつ!」
「おい喜多さんいいのか!? 憧れのリョウ先輩が男のベッドで寝てんだぞ! チェ〇ソーマンに気ぃ取られてる場合じゃねぇだろ!!」
「何言ってるの此崎くん! こうやって傍若無人に振る舞ってこそリョウ先輩じゃない!」
ダメだやっぱり喜多さんも頭のネジがぶっ飛んでやがる! お前たち100点だ! チェ〇ソーマン助けて!
……と、願ったからかどうかわからないが、不意に俺の部屋の扉が開いて死んでいたはずの後藤と虹夏先輩が入ってきた。死体が動いている。
「……虹夏先輩と後藤がチェ〇ソーマンだった……?」
「え、何?」
「あいや、なんでもないっす」
「此崎、卒アル」
「はい……」
もういいや、余計な抵抗はやめよう……あとチェ〇ソーマンネタもやめよう。山田陛下を自分の思うままにしようなんて考えが間違っていたんだ。
というわけで、俺はクローゼットを開けて卒アルの捜索を開始する。春先に卒業証書やら制服、あとは小学校の頃のものとまとめて段ボールにしまい込んだはずなので、それを引っ張り出すだけだ。
「……なんだ、部屋がすっきりしてる分クローゼットの中はもっとごちゃごちゃしてるのかと思ったのに」
「此崎くん、ミニマリストなの?」
「いや、そこまでなんにもなくはないでしょ。まぁ趣味のものとかないからアレかもしれんが」
数個の段ボールと衣装ケースが空間の大部分を埋めていて、あとは今の季節に着てる服がいくつかハンガーで吊るしてあるだけのクローゼット。ミニマリストとかじゃなくって単純におもしろみがないやつだな。
「『小学校&中学校』……その一番奥のやつ?」
「あぁ、そうっすね――よいしょっと」
捨てる気にはならないけど別に見返すつもりもなかった、思い出(物理)の詰まった段ボールくんを部屋の中に置く。
テープで口を閉じたりもしてもいないのでさっそく御開帳。リョウ先輩は起き上がって首を伸ばし、喜多さんと虹夏先輩は手元を覗き込んで来た。
「おー! 卒アル!」
「それは中学校のかしら?」
「だな。えっと、リョウ先輩見ます?」
「ん」
リョウ先輩が手を出してきたので、俺は中学の卒アルを手渡した。
「此崎とぼっち、何組?」
「俺C組、後藤A組です。中一と中二のときはクラス一緒で……何組だったっけか?」
「……わ、忘れた……」
「……そりゃそうか」
後藤のクラスへの帰属意識の低さを考えれば当たり前だ。聞いた俺がバカだった。
「……いた。とりあえず中三此崎発見」
「どれですか!?」
「あたしも見たい見たい!」
ベッドに腰かけた状態のリョウ先輩の両隣、すなわち俺のベッドの上に虹夏先輩と喜多さんが座る……なんなんだろう、なんなんだろう、この……この状況……。
俺が得も言われぬ感情に襲われる一方、喜多さんが顔を上げて目をキラキラキタキタさせていた。
「此崎くん、中学校学ランだったのね! 女子はセーラー服だし、ってことは後藤さんも――やっぱりセーラー服よね! かわいいっ!」
「ひょ、表情、というか目から生気が感じられないけど……確かに似合ってるね、セーラー服。でも中三のときだとそんなに変わんないね」
「中一と中二の集合写真も探そう」
「――あっいた! これぼっちちゃんだよね!」
「髪短い! 後藤さん、ロング以外もやっぱり似合うじゃない!」
「……これ此崎? なんか急に幼い感じ」
「……えっホントだ……」
「そう、ですね……? というか……小さい?」
三人してこっち見んな。
「此崎ってそもそもあんまり身長高くないよね。いくつ?」
「165」
「弱でしょ」
「……はい」
別にコンプレックスってわけでもないんだけど170は欲しいなと思ってる今日この頃です。はい。
「いやちゃうんすよ……俺ってば早生まれなんでちょっと人より成長が遅いだけでして……」
「此崎くんって誕生日いつなのかしら?」
「3月19日……ですけど」
「え、おそ! ……あれ、ちなみにぼっちちゃんは?」
「えっあっ、に、2月21日、です」
「えっ!? 後藤さんの方が年上なの!?」
「いや、ひと月早く生まれたくらいで年上も何もないでしょ……おい後藤何ニヤついとんだ」
「うっすいません……」
俺が牽制すると後藤は縮こまる……が、顔をじっと見続けているとまだニヤニヤしてやがる。
こいつ……五歳児にもなめられてんのに調子乗りおって。
「でもこれ、中二までぼっちの方が背高くない? 中三の写真で若干勝ってるくらい?」
「ぐっ」
「あ、ホントだ」
「男子って背が伸びるのちょっと遅いですもんね~」
ぐぬぬ……やっぱり卒アルなんて見せるんじゃなかったか。なんかこう、一方的にいじられてるのが気に入らねぇぞ……!
――と、悔やんでも悔やんでも先に立ってくれないのが後悔という奴の悪いところで、俺はその後も体育祭やら修学旅行といった行事での写真で散々に弄られまくった。
さらには、迂闊にも一緒の段ボールに入れていた小学校の卒アルまで引っ張り出されてしまい、虹夏先輩と喜多さんのみならずリョウ先輩にまで「かわいいかわいい」と言われまくった末、俺は急性羞恥中毒で死を迎えたのであった。三人に勝てるわけないだろ……。
……唯一、後藤も道連れにできたことだけは不幸中の幸いだったか。
まだ生気を失っていない、陰キャコミュ障として完成される前の引っ込み思案で大人しいだけの女の子だった後藤もまた褒め殺しにされて、羞恥のあまり死んだ。
そして、中学の卒業文集を見られて「あちゃー……」みたいな反応をされるという死体蹴りも食らっていたのだった。
「……今度ぜってーあんたたちの卒アルも見てやる……」
「別にいいけど」
「あたしも見られて困ることないかなー」
「リョウ先輩と伊地知先輩の卒アル、私も見たいです! あ、私も全然おっけーよ? 今度スターリーに持っていくわね!」
「おっ、それいいねぇ! じゃあみんなで持ってこよっか! お姉ちゃんとかにも見せたいし、此崎くんとぼっちちゃんのも持ってきてね?」
虹夏先輩が屈託のない笑顔でそんなことを宣ったので、俺と後藤はカーペットの上に転がりながらも顔を見合わせ、頷き合う。
「「――絶対に嫌だッ!!」」
その日、その瞬間。
俺たちは、人生で初めて声を揃えて叫んだのだった。
♪ ♪ ♪
「――さてと、それじゃあそろそろお暇しよっか」
「はい。本当は夜ご飯も一緒に食べたかったですけどねー」
窓から差し込む光がオレンジ色になってしばらく経った頃、彼女たちは帰り支度を始めた。
あの後はというと、俺のクローゼットから発掘されたちょっと古いハードのパーティゲームで意外に盛り上がったのがハイライト。同時に四人までしか遊べないゲームだったので順繰りに交代しながら遊んでいたら、それだけであっという間に三時間くらいが過ぎてしまったのである。
そして喜多さんがぼやいた通り、夜ご飯は食べずに解散という運びになった。
理由はいくつかある。
なんやかんやお昼を食べたのが少し遅かったので、まだまだお腹が空きそうにないというのが一点。
明日はがっつり朝からスターリーで練習をする予定のため、俺と後藤は早起きしないといけないし、他三人もここから二時間かけて帰らないといけないことを考えると解散が遅くなれば遅くなるほど大変、というのが一点。
山田が金持ってねぇ、というのが一点。
「……そういやリョウ先輩、帰りの電車賃どうするんすか?」
「えっ、リョウ?」
「…………」
……あれ、もしかして虹夏先輩知らなかったやつ? リョウ先輩がそっぽ向いて口笛吹くとかいう漫画やアニメみたいなことしとる……。
「リョウ……まだお金あるって言ったよね?」
「いやあの……あの……」
「まさか、行きの交通費しかないのに『ある』って言ったの?」
「…………」
黙り込んだリョウ先輩。これもう実質敗北宣言だろ。
虹夏先輩はしばらく黙り込んだ後、ふと俺を見た。
「……よし、此崎くん」
「はい?」
「リョウのことはここに捨て置きます」
「いやいやいやいや」
困る困る。ムリムリムリ。
うちではこんな大きいペット飼えません! 集合住宅なんですよ!
「此崎……捨てないで……」
「リョウ先輩! 私電車賃払いますよ!」
「ダメだよ喜多ちゃん! リョウを甘やかさないで! こういう手合いは付け上がらせちゃいけないの!」
こういう手合いて。あなたの幼馴染じゃないですか。
「いや、というか泊まらせるとかあり得ないし、それって結局俺が金貸すことになるだけでは?」
「此崎くんならまだいいよ。ちゃんと取り立てるでしょ?」
「そりゃあまぁ」
いつかのアー写撮影後、俺とリョウ先輩で無銭飲食未遂をした時のアレ。
一旦は呼びつけた後藤に立て替えてもらい、翌日俺が後藤に立て替えてもらった分を全額返したことで、リョウ先輩に対する債権は俺に移っていた。
なので、確か俺と後藤、喜多さんの初任給の時だったか。実はライブ代徴収ついでにしっかり返済してもらっているのだ。だいぶゴネられたけど。
まぁ……俺んちは論外として、たとえば後藤んちに泊まろうと結局は下北沢に帰らないといけないわけだし、金貸すのは早いか遅いかでしかねぇなこれ。
俺は下駄箱の上の小物入れに置いてある自分の財布を手に取り、中から千円札二枚を取り出してピラっと見せつけた。
「リョウ先輩、ちょっと多めに渡しますが、今月末のバイト代が出た時に耳を揃えて返してもらいますからね」
「ははぁーっ!」
リョウ先輩はその場で跪いて両手を差し出してきたので、俺はそこに二人の野口英世をそっと乗せた。
諸行無常、盛者必衰。
我が家で王のように振る舞っていた山田陛下が、今は見る影もないほどに落ちぶれていた。むべなるかな。
「そんじゃ、そこの債務者は連れ帰っていただいて」
「ん、りょーかい。ごめんね此崎くん」
よかった。
……うん、リョウ先輩だけじゃなくって、な。
今日という一日が、よかった。
「……虹夏先輩。あらためて今日はありがとうございました。やっぱり、賑やかで楽しかったですよ」
「……そっか、ならよかった!」
虹夏先輩の笑顔に、俺も笑顔で応える。
「それじゃあみなさん、お気をつけて。後藤、見送りよろしくな」
「あっうん、じゃ、じゃあね……」
「お邪魔しました~!」
「それじゃあね此崎くん、また明日!」
「此崎。じゃ」
それぞれ手を振る四人に俺も手を振り返し、そしてばたんと玄関の扉が閉まった。
「……ふぅ」
――俺はため息を吐き、少し間をおいてからそっと鍵を閉め、踵を返してリビングに戻った。
リビングはしんと静まり返って、いつもより余計に広々としているような気がする。ただでさえ無駄に広いのに。
「……あーあーこれだから……」
いい加減、慣れてもいいと思うんだが。
いや、今回はまた少し違うか。結束バンドの四人……後藤は別としても虹夏先輩たち三人がうちに来るのは初めてだったわけで、ああいう賑やかさもまた初めて、そして……そこから訪れるこの静けさも、初めてだ。
俺はソファに腰を下ろし、両手を枕にして仰向けに寝転がって、目を瞑って――。
「――んあ?」
――しばらく後、不意に、ポケットの中でスマホが震えた。
ホーム画面を見てみると、ロインの通知が一件。
「……後藤かよ」
忘れ物でもあったか、と思ってロックを解除して中身を見る。
するとそこには、『お母さんがご飯食べにおいでだって』というメッセージがあった。
俺はすぐさま『今日はいいよ。風邪菌持ってるかもだし』と返信をしたが、既読が付いてから少し待つと、さらに『でも夜ご飯ないでしょだって』と返ってくる。
「……あー……」
これ……後藤ママ譲るつもりないやつだわ。
長年の経験でわかる。抵抗しても無駄だ。これ、先輩たち見送った帰りがけに後藤がまた俺んちに寄っていくやつだわ。
せっかく人がちょっとした感傷に浸っていたというのに……ありがたいことだ、まったく。
俺は、『じゃあ遠慮なく』と一言を返事した。
後藤からは『虹夏ちゃんたち送ったら家寄るね』という返答があったので、それに対して『マンションの外で待ってる』と返す。
「……はぁ、着替えるか」
晩飯、なんだろな。
感謝ァ! 感謝感謝ァ!(意訳:お気に入りや評価、感想、ここすき、誤字報告等々ありがとうございます。マシュマロもおいしくいただいております)
オリジナル回もたくさん反応してもらえて嬉しいぞい! もっとして?♡
さて。
気持ち的には明日も更新したいけど年内はこれで区切りが良いような気もしている……そもそも書き上がるかわからんけど。仮に書けたとしてもちょっとだけ書き溜めて新年に連続公開しようかしら? とにかく次回は原作のお話に戻ると思いますです。
実際どうするかは夕方ごろにでもトゥイッターで呟こうと思うので気になる人は覗いてみてね。マスマロもいっぱいもらって答えてるので覗いてみるとおもしろいかもしれないよ?
というわけでイカ宣伝。
トゥイッター
→https://twitter.com/SAVAnoSugerNi
マスマロ
→https://marshmallow-qa.com/savanosugerni