皆さんお年玉ピッチング気合入れすぎっすよ……評価こわれちゃった……
特に投稿したその日と翌日は勢いヤバすぎて人間の不合理な行動にドン引きするネコみたいになってた。
まぁそれはともかく江ノ島回中編。なぜかまた三つに分裂してしまった。
電車は、定刻通りに終点の片瀬江ノ島駅へと到着した。
喜多さんと二人で後藤に肩を貸して……もとい二人がかりで担いで引きずって、前を行く虹夏先輩とリョウ先輩に続き改札を通り抜ける。
そうしてまるで竜宮城のような……というか本当に竜宮城をモチーフにしているらしい駅舎から出れば、照り付ける太陽と江ノ島の風にささやかな歓迎を受けた。
「う~ん、潮風! 海とか久々~!」
「……ねぇねぇ此崎くん、なんだか潮風に混ざって変な臭いしないかしら……?」
「それたぶん後藤。押入れとかクローゼットの臭い思い出してみ」
「えっあっ……い、いい潮風ね~! ほら写真撮りましょ写真!」
混ざってわかりにくかったんだろうな……後藤から変な臭いがするのはいつものことだしね。
……あとはまぁ、なんだね。さすがに明言するのは憚られるのだが、このクソ暑い日でも相変わらずピンクの長ジャージでクソ長い髪をまとめることもしてないから……こう、その、汗……いややはりこれ以上はやめておこう。俺にもほんの少しの慈悲はある。
「さて。それじゃ私、塩ソフト食べてくるから」
「こらこらリョウ! 誰が自由行動って言ったー? 今日はぼっちちゃんの夏休みの思い出作りするんだから!」
「えー」
「……というかリョウ先輩、そもそも金持ってます? 給料貰いました?」
そういや今日、夏休み最終日以前に月末で給料日じゃんね。今日はバイトなしで夕方までのスタジオ練習ってのが本来の予定だったわけだけど、たぶん渡される……はずだったんじゃないか。
俺は後藤の観察で大変忙しかったのでそんなやり取りをしている暇はなかったが、はたして。
「……此崎様」
「おうなんだ山田」
「お、お恵みを……」
「……言葉を濁すなッ!! はっきり言ったらんかいッ!」
「ハイッ!! わたくしめにお金を貸してくださいッ!!!」
俺はこれ見よがしにため息を吐き、ひとまず喜多さんに一言断って後藤持ちの仕事を任せてから財布を取り出して千円札二枚を差し出した。
「どうせ帰りの電車賃もないだろうから、それを含めてこの額だ。今日はこれでやり繰りしなさい」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「給料が入り次第、返済の準備をしておくこと。今回と先々週の二千円ずつの他に細々とした借用を合わせると概算で七千円はくだらないので、今月のノルマ代徴収と合わせて一万七千円は用意しておきなさい。最終的な返済額は今月分明細の作成をもって確定し、通知する。なお、返済が滞った場合、残高に対して十日に一割の利子が発生するのであしからず。以上」
「はい……必ず用意します……必ず……」
よろしい。
「……まったく、案の定金ないのに何で一人でアイス買いに行こうとしたんすかこの人」
「どーせあたしが付いて行くとでも思ってたんだよ。それで注文するだけしてからお店の前で奢って奢ってってねだる魂胆だったんだよ」
……なんか知ってる手口だな。
しかし回想するとなぜだか俺の立場も危うい気がするので、詳細については省くこととする。
さて。
何はともあれ、江ノ島観光スタートだ。
まずは片瀬江ノ島駅目の前の弁天橋を渡り、リョウ先輩お目当ての塩ソフトを購入した。リョウ先輩と俺だけ。
後藤は現在進行形で意識不明の重体であるため食べたいかどうかの意思確認ができず、二人はまだ歩き始めたばかりだからと遠慮したのである。
俺とリョウ先輩はしばらく列に並んで無事にアイスをゲットし、ひとまずその場で一口。
「んー、やっぱんまい」
「美味しいね。此崎は食べたことあった?」
「めちゃくちゃありますよ。江ノ島来たらほぼ必ず食ってます」
「へー。じゃあ此崎くんって江ノ島何回も来てる感じ?」
「そっすね。金沢八景からだと鎌倉までバス乗ってそっから江ノ電で来れるんで。中学の頃とかよく来てました。夏休みだとチャリで来たりとかも」
「自転車!? 此崎くん、そんな無茶するタイプだったのね……」
「それがそんな無茶でもないんだな。友達と喋りながらだらだら走っても二時間前後とかだし」
まぁさすがに行きと帰りでだいぶ所要時間違うんだけどな。
なぜってそもそも江ノ島に行くのは海で遊ぶのが目的で、朝七時とかに集合して出発、九時前には到着、そこから午後三時くらいまで海ではしゃぎ倒して、そこから疲れ切った身体に鞭を打って帰路につくからだ。
「中学生男子ってのはね、己の肉体とママチャリだけでどこまでも行けるんですよ。日帰りの範囲でね」
「……アホだ……」
「……でも中学の時、そういう男子たちいたわね……」
「此崎、頭おかしいよ」
ふっ……そんなに褒めるな……というか江ノ島くらい序の口だぜ?
何せ去年、中三の時なんて自転車遠征同盟軍(総勢五名)の集大成として箱根目指して走り出したこともあるからな。距離は片道で50km強。つまり往復で100kmオーバーだ。
まぁね、意気揚々と出発したけど結局往路の終盤で「今から箱根山登るのはきつくね?」ってなってゴールをちょっと手前の小田原城に切り替えたし、そこからほとんどトンボ返りで復路を走り始めたのに疲労でペースがめちゃくちゃ落ちて、暗くなってもなかなか帰り付けず全員半泣きになりながらなんとかおうちに帰れた、ってのが顛末なんだけど。敗因は出発時間が午前十時だったことですね。
……と、まぁ俺の武勇伝(?)はいいや。たぶんこの人たちに自慢してもドン引きされるだけだし。
虹夏先輩が「二人とも歩きながら食べれるよね」と尋ねてきたので俺もリョウ先輩も頷き、今度こそ俺たちは江ノ島へと歩き出す。
現在地から海岸沿いを走る国道134号線を渡るためには地下道を通る必要がある。道路の下に潜っていって、真っすぐ江ノ島に向かうなら正面の出口に進めばいいが……。
「どうしよっか、ちょっと砂浜の方も見てみる?」
「はい! 私行きたいです!」
「靴に砂入るから嫌だ」
「俺はどっちでもいいっすよ」
「んー、一対一か……じゃあ、あたしもちょっとだけ砂浜歩きたい気分だから、とりあえず行くだけ行こう! リョウは嫌なら砂浜の手前で待っててもいいからさ」
「えー」
「西浜の方ってここからだと割と歩くよな?」
「そうね! 東浜の方なら出てすぐよ!」
では、ということで左折。
アイスも食べながらじゃ危ないからと喜多さんが一人で後藤を運搬してくれているので、階段ではなくスロープを選んで地上に出る。
「おぉ~! ホントに目の前砂浜じゃん!」
「海の中に人いるね。まだ泳げるんだ」
「そっすねぇ。調べてみます? ……っと、おぉ、遊泳期間ちょうど今日までみたいっすよ。八月いっぱいやってんだなぁ」
「後藤さん、ほら海よ! 海! 後藤さん! 後藤さ~ん!」
片瀬海岸東浜海水浴場。日本の海水浴場の中でも歴史が古く、「日本の海水浴場55選」にも選ばれている眺望も魅力的な浜……と、公式サイトに書いてあった。初めて調べたわ。
「……ねぇ、此崎くん。アイス食べさせたら後藤さん復活しないかしら?」
「……俺の分を分け与えろってことね。いいよ」
まぁ喜多さんにずっと後藤持たせとくのも悪いしな。いい加減に蘇ってもらわないとシンプルに迷惑だ。
俺はスプーンで塩ソフトを一口分すくって半開きになった後藤の口に突っ込む……と、虹夏先輩と喜多さんがまるで犯行の瞬間を目撃したかのような険しい視線を向けてきた。
「此崎くんさぁ……」
「こ、此崎くん、それ間接……」
「あ? 関節? ……あぁ、間接キス? 別にどうでもいいだろ……そりゃよだれベタベタとかだったら気持ち悪いけどさ」
「……枯れてるわ」
「ダメだこの男、早くなんとかしないと……」
人を手遅れみたいにいいやがる。
なぁ、逆に考えてくれよ。十年以上の付き合いなのに今更こんな程度で何が芽生えるわけないですやん。
「――ウッ、ツメタ、イ……オイ、シイ……ア……アイ、ス……?」
「あっ、見て此崎くん! 後藤さんが人の言葉を発したわよ!」
「あぁ、良い兆候だな。もう一押しだ」
「えぇ、そうね! さぁ後藤さん! 海よ海! 江ノ島の海が目の前に広がってるわよー!」
喜多さんがほっぺたをぺちぺち叩き始めてしばらく、後藤が「――ンハッ!?」と絶妙にキモイ鳴き声を上げて意識を取り戻したようだった。
「こ、ここは……海? いつの間に……」
ナチュラルに記憶がないのはこの際よしとして、後藤、意外に穏やかな反応である。
こんなに爽やかな青い海を目にして爆発四散くらいはすると思ってたのに……なんて考えていると。
「――ヘェイ! そこのお嬢ちゃんたちィ?」
「暇ならウチの海の家で食べていきなYO!」
「今なら特別サービスでお安くしちゃうよ~ん?」
あ! やせいの パリピたちが とびだしてきた!
「――ゆけっ! ゴトウ!」
「此崎くんどうして初手でぼっちちゃんを矢面に!?」
「アッアッアッ(鳴き声)」
「あぁ! 後藤さんが抵抗の余地なくパリピさんたちの目の前に!!」
パリピたちは こちらの ようすを うかがっている!
「よし、いまだゴトウ! じばく!」
「アッウッアッ!(鳴き声)」
「うわーっ!? ぼっちちゃんが爆発四散したぁーっ!?」
「ご、後藤さぁーんっ!!」
ごとうは じばくした!
パリピたちには こうかが ないみたいだ……
ごとうは たおれた!
「……くっ、まずい、もう手持ちが……! ヤマダ、行けるか!?」
「私?」
「今日のお小遣い千円プラスだ!」
「任せろぃ!!!」
「リョウ先輩がいまだかつてない声量と共に歩み出たわ!」
「リョウやめなって! プライドはないの!?」
「おいおいお兄ちゃん、それより早くそっちの子をポ〇モンセンターに連れて行ってやったほうがいいんじゃないか?」
「そうだよ、そのゴトウちゃん? いきなりじばくさせられてかわいそうだぞ……」
「お兄ちゃん、自分のポ〇モンはもっと大切にしなくちゃダメだぜ」
「ぱ、パリピたちに同情されてるし説教されてる……ええい此崎くん! ぼっちちゃん回収して逃げるよ!」
「ダメだ! 勝負の最中に相手に背中を見せられない!」
「言ってる場合か!」
虹夏先輩に頭を引っぱたかれたので、俺は大人しく従うことにする。
割とノってくれた海パリピさんたちには軽く会釈をし、中の空気が抜けてぺらぺらになった後藤を背負ってその場から退散したのであった。
♪ ♪ ♪
「はい、これ後藤さんの分ね!」
「あ、ありがとうございます……これは……」
「たこせんだよ~たこせん! たこを1トンの力でプレスするんだって!」
海岸を離れ、江ノ島弁天橋を渡って俺たちは江ノ島本島へとやってきていた。
橋をまっすぐ正面に進んだ仲見世通りを歩いていたところ、リョウ先輩が立ち止まったのがたこせんべいのお店だった。
虹夏先輩が後藤に説明していたが、でかくてごついホットサンドメーカーみたいなやつで本物のタコを挟んでプレスし、そこに生地を流して再び熱を入れることでぺらっぺらの四角いせんべいが出来上がるのだ。
「……そういやプレスするときのあの音、後藤の断末魔みたいだったなぁ」
「確かにあんな鳴き声聞いたことあるかも」
「やめなさいそこ二人……ほらほらぼっちちゃん食べてみなよ!」
「あっはい……あっ美味しい」
「これ、すっごく大きくて映えますね~!」
「よし、喜多ちゃん写真撮ろう! ほら、集まって集まって!」
「俺撮りましょうか?」
「自撮り棒あるから大丈夫よ! 此崎くんも早く早く」
「う、うーむ……」
……まぁ喜多さんが構えるレンズの中に入るのがまったく初めてってことはないんだが、これまではせいぜいスタジオ練習中とか、練習終わりにみんなで飯食いに行ったときとかそのくらいなのよ。
だからまぁ、学校でクラスの男子たちに問い詰められても「れ、練習に付き合うのだってマネージャーの仕事なんだから! 勘違いしないでよね!」と震え声で反論できたんだが……。
……と、躊躇っていると虹夏先輩に「はよせい」と腕を引っ張られ、無理やりカメラの枠内に収められてしまう。
「じゃあ撮りま~す! はい、たこせん!」
パシャ、とシャッター音。
……まぁあれだ、喜多さんがイソスタに上げ次第クレームの電話が入るような気がするがそれは無視しよう。
そして明日以降の学校でのことは……明日の俺に任せよう。うむ、この手に限るな。
「……うわ後藤なんで泣いてんだよ」
「え!? ちょっと此崎くん!?」
「此崎くん、またぼっちちゃん泣かしたの!?」
「いやいやいやいや」
後藤の奇行をなんでも俺のせいにしないでくれないかい?
「ぼっち、どうしたの」
「……きょ、今日は……ありがとうございました……っ!」
「待ってぼっちちゃんこれクライマックスじゃないから! たこせん美味しいけどこれが今日の最高潮じゃないから!」
「後藤さん!! 夏休みの思い出作りはまだまだこれからよ! 気をしっかり持って!!」
たこせんを持ってさめざめと涙を流す後藤。これが青春コンプレックス症候群の末期症状というわけだ。
しかし、一枚500円のたこせんで泣くほど感動できるのはある意味で羨まし……いやそうでもないな。
お店の向かいでのんびりたこせんを食べ終えて、さらに奥へと進んでいく。
すると……というかまぁさっきから見えてはいたのだが、江ノ島神社の三つある社へと続く階段が俺たちの前に立ちはだかった。
「……かっ、階段……?」
「頂上まで頑張って登りましょう! 自力で上がってみる景色ほど素敵なものはないと思いませんか……!?」
「いやそんなのはいい……」
「まぁまぁそう言わずに! リョウ先輩!」
「嫌だ!」
「後藤さんも頑張りましょう」
「あっ……うっ……」
「伊地知先輩は行けますよね!?」
「私もそんなに乗り気では……」
「此崎くん! 私はあなたを信じているわ!」
「信じられても困るけど、まぁいいんじゃないか」
喜多さん、すごい元気いっぱいですねぇ……と、そういう感想が浮かぶのと同時に、いつものバイトや練習だとだいぶ抑え気味なんだなぁという気付きも得た。
しかし、このくらいのバイタリティに溢れてなくちゃ夏休み中に練習やバイトの隙間を縫って遊び回るなんて到底不可能だろうし、さもありなんといった感じだ。
一方で後藤とリョウ先輩、あと虹夏先輩も最初から乗り気じゃなさすぎるだろとも言いたい。そんな果てが見えないほどに階段が続いてるわけじゃないんだから……と、そう俺は思っていたのだが――。
「……いや、嘘だろあんたら……」
「だ、だって……ここまでも地味に坂だったもん……ぱ、パリピから逃げるのに走ったし……」
「もう無理……登れない……景色とか知らんどうでもいい……」
「……アッ……アアァッ……」
朱色の大鳥居をくぐるためのたった二十段からそこらを昇り切った時点で、この三人は既に肩で息をしていた。先輩たちは鳥居の根元で腰を下ろしてぐだぐだ言い訳と文句を並べ、後藤は最後の数段ナメクジのように這い上がってくるのがやっとの始末だ。
「……おーい喜多さーん。この人たちダメだわー」
「えーっ! まだ登り始めたばかりじゃないですかー!」
本当にそう。
まぁ後藤が頂上まで自力で登れるイメージは最初から浮かんでなかったけど、リョウ先輩と虹夏先輩がここまで早く音を上げるとは思わんかった……。
「……アッ……エ、エスカー……――はっ! み、みなさん! エスカー、エエエエスカレーターで行けるみたいですよ……! 上まで……!」
「おぉ~! ぼっちちゃんでかした!」
「ぼっちナイス。エスカー使おう、使おうエスカー……!」
江ノ島エスカー。カーといっても車じゃない。エスカレーターのカーだ(?)。
あぁ、これこの人たち使うやつだな、と俺は察するが、喜多さんだけは未練がましく「もーっ! 階段で登りましょうよーっ!」とごねていた。
しかし……。
「リョウ先輩、エスカー金かかりますよ」
「ぐっ……い、いくら……?」
「さすがに覚えてないっすけど、まぁ一応見てみますか」
ちょっとイキイキし始めた三人と不満げな喜多さんと共にエスカー乗り場に行く。
そこで券売機を見ると、三つの区間に分かれているエスカー全部に乗れる券が360円、展望台である『江ノ島シーキャンドル』の入場券とのセットが800円となっていた。
「展望台は……」
「絶対見るわよ!」
「……らしいので、800円ですね」
「……私、山田リョウ、10歳!」
「小人料金を狙うな。あと払えんことはないだろ」
まぁここまでで塩ソフト300円、たこせん500円の計800円……ここでさらに800円となると元々の手持ちによってはもはや下北沢に帰り着けるかどうかも怪しいかもしれないな。
「ほらリョウ先輩! やっぱり歩きましょうよ!」
「……か、かくなる上は!」
「あ、ちょっとリョ……って、此崎くん何さ?」
「まぁまぁ、少し様子を窺ってみましょう」
「いやなんで?」
ろくな予感がしなかった。
ただ、同時におもしろくなりそうな予感もしたので、虹夏先輩が引き留めようとしたのを俺はさらに止めたのであった。
「あの、すみません!」
「はい、いらっしゃいませ。どうされましたか?」
「今、ちょっとお金がなくて!」
「……は、はぁ?」
「私、ベースいいやつ持ってるんです……! 一本、一本差し上げますから……!」
すげぇ……江ノ島エスカーに乗る権利をベースと引き換えに得ようとしてる……!
「……やっぱリョウ先輩も侮れねぇな……」
「此崎くん、最近見境なしだね……あーもうリョウ! 受付の人困らせないの! すいませんうちのアホが……」
「に、虹夏……! なぜ邪魔を……!」
「しょうがない……ここは奢ったげるよ」
「に、虹夏様……!」
おぉ、珍しく虹夏先輩がリョウ先輩のこと甘やかしてる……リョウ先輩だけ歩かせるのは気が咎めたか。つまり、虹夏先輩は断固として階段を使う気はないということもである。
後藤はわざわざ尋ねるまでもないだろうし、これでもう過半数がエスカー派だ。
そうと決まれば俺もさっさとチケット買って――と、券売機へと伸ばした腕が、横から鷲掴みにされた。
「……喜多さん?」
「此崎くん。この際、私たちだけでも自分の脚で登りましょう!」
「……えぇ……」
いやそれは……。
「此崎くんは江ノ島に、江ノ島神社に祀られている神様に失礼だと思わない!? 自分の脚で登ってこそだと思わないの!?」
「別に思わないし喜多さんは江ノ島エスカーに失礼では」
「つべこべ言ってないで行くわよ此崎くん!」
「マジ? いやちょ、ちょっと待てって……!」
喜多さんにやたらと強い握力で手首を鷲掴みにされつつ腕を引っ張られるが、俺はその場に踏ん張って必死に抵抗し、救いを求めて後藤たち三人に目を向ける。
……が。
「あっ此崎くん頑張ってください……」
「いや~ごめんね喜多ちゃん! 今日のところは此崎くんに付き合ってもらうので我慢してもらって……」
「此崎、ファイト!」
「こ、こいつら……!」
喜多さんがやっぱり全員でとか言い出さないうちにさっさと行け、って顔してやがる。リョウ先輩なんていまだかつて見たことないような可愛らしい笑顔で……お、俺を生贄に捧げることで喜多さんを満足させて、自分たちは確実にエスカーで行こうとしてやがる……!
「ねぇ、此崎くん……?」
「うっ、ぐっ……喜多さん……そんな目で見るな……!」
目が、目がキタキタと輝いている……っつーか顔近いな、顔、顔……ッ!
「……わ、わかった、わかったよ……!」
「やったぁ!」
ということで、俺はエスカーに乗って頂上を目指す三人を尻目に、喜多さんに手首を掴まれて逃亡を封じられつつ階段でのルートへと引き摺られていくのであった。
……おいあいつら手ぇ合わせて拝んでねぇか?
クソッ、頂上で会ったら覚えとけよ……!
改めまして前回のアホみたいな数の評価、ありがとうございました。850人くらいだった評価者数が今1120人くらい、おかげで総合評価25000弱に至り、累計ランキング圏外からものすごい勢いでぶち抜いて今現在187位にいるようです。なにこれ。
まぁともかくお気に入りや感想、誤字報告、ここすき等々もありがとう! あと外部ではトゥイッターでの反応やマスマロもありがとう! 喜んでむしゃむしゃ食べてるよ!
次回更新は早くて明後日……かな。療養期間が終わって仕事初めがやってくるのでたぶん更新頻度低下していくと思うよ。ごめーん! ゆるしてー!