お仕事無駄に忙しくって書く時間がないんだぜ!
というか某感染症で休む前ってどうやって時間作って執筆してたのか思い出せないんだぜ!
ぴろりん、とロインの通知音が鳴った。
ポケットに入れっぱなしの俺のスマホと、自撮り棒の先端に取り付けられっぱなしの喜多さんのスマホから同時に。
「結束バンドのグループね」
「しかも後藤からじゃん……画像だな?」
珍しいこともあるもんだと思ってロインを開くと、そこには顔を寄せ合って満面の笑みを浮かべた後藤と先輩たちの姿が。向かって左端の虹夏先輩が腕を伸ばして撮っているのか、画角が死ぬほど狭い。
「……煽られてる?」
「そんなことないでしょう!?」
そんなことなくない気がする。
いぇ~い此崎くん見てるぅ~!? 私たちエスカーで楽々到着しちゃいましたぁ~! ……ってことじゃねぇのこれ。
「それにしてもリョウ先輩、こんな無邪気な笑顔も浮かべられるのね……素敵!」
「おっそうだな……って、もう一枚来た……うわなんだこれ」
二枚目の写真、構図は同じまま三人とも感情が抜け落ちた真顔だ……まるで見たくもないものを無理やり見せられ、聞きたくもないことを無理やり聞かされたかのような……というかなんでこんな写真共有してきてんだよ。どういう意図だよマジで。
「……よーし此崎くん! 私たちも対抗するわよ!」
「頑張ってね」
「此崎くんも映るのよ!!」
「さすがにツーショットはおかしいだろツーショットは!!」
「二人でいるのに一人で自撮りしてる方が変じゃない!」
「そうかぁ!?」
「そうよ!」
「そうかぁ!」
負けた。
ということで、近くにあった手形のモニュメントの傍に立ち、喜多さんが自撮り棒で構えたスマホのレンズに目線を向けて喜多さん指定のポーズを取った。顔の横に開いた両手を添える謎ポーズである。
「じゃあ撮るわよ! はい、手形~!」
「手形~」
意味わかんねぇ……全然俺たちの手形じゃねぇしなこれ……。
「……っつーかあいつら、もう何も見ないで直行しただろ」
江ノ島エスカーは一本の長いエスカレーターではない。区間が三つに分かれているというのは途中で乗り降りができるとかそういうわけではなく、階段で登らないといけない場所にピンポイントでエスカレーターが設置されていて、それが三か所あるという話なのだ。
つまり、エスカレーターがまっすぐ伸びているので実質的な移動距離が短いとは言っても、神社や景色を見ながら行けばもう少し時間がかかってしかるべきで、そうでないということは……そういうことなのだろう。
「むぅ、それじゃあ少し急いだほうがいいかしら……」
「……いやぁ、いいんじゃねぇの? 普通に行けば。俺らもあとちょっとだし……」
エスカーで言えばあと一区間分だ。
今更急いで合流しなくてもいいだろうさ。
……ということで、俺と喜多さんはのんびりゆっくり江ノ島神社を観光しながら集合場所である展望台まで向かった。
まぁのんびりゆっくりと言っても時間にすれば十分か十五分くらいで、階段の途中にある小物が並んだお店を見たり、亀ヶ岡広場から見える海の景色を眺めたりとそんなもん。
はしゃぐ喜多さんの写真撮影に巻き込まれたり巻き込まれなかったりしながら、まぁ俺も満更でもない気持ちでいた。
……なのでまぁ、インドア三銃士がなかなか来ない俺たちに痺れを切らして、もとい江ノ島の炎天に心が折れて先に展望台の中に避難していたのを責めはすまい。
責めはすまいが……。
「冷房寒い……」
「二人ともごめん、あたしたち先降りて待ってるから!」
「えぇ……」
「リョウ先輩! 伊地知先輩! あ、屋上、屋上の展望エリアもありますよ!」
「もう十分見たからいい」
「あたしも……別にいいかなぁ?」
「ご、後藤さん! 後藤さんは……」
「すすすすみません喜多さん……屋上とか……日影なさそうなので……」
展望台の中で落ち合うなり、冷房で冷えたとかもう景色十分見たとか言っていなくなるのはちょっとこう、ねぇ?
「……諦めよう喜多さん。俺たちとあの人たちじゃ、生きるペースが合わないらしい……」
「くっ、インドア人たちめぇ……!」
「合わせるなら下限の方に合わせなくっちゃならんかったな……とは言いつつ、さすがにもう展望台降りるのはもったいねぇよな」
エスカーでの一悶着でも触れたが、この展望台──江ノ島シーキャンドルに入るにも料金がかかるのだ。
エスカーを使わなかった俺と喜多さんは、それぞれ500円ずつ支払ってここにいる。いくらなんでもインドア三銃士の後を今すぐに追うのは金がもったいなさすぎるだろうて。
「……二人でしばらく見ましょっか」
「だな」
まぁ、そりゃそうなる。
しっかしおかしいな、なんかもう喜多さんとデートしてるみたいじゃん……なんて今更か。ここに来るまでにばっちり写真映り込んじゃってるし……。
「……ちなみに喜多さん、今日撮った写真もイソスタに上げます?」
「当たり前じゃない! 此崎くんと撮った写真も可愛く加工してアップするから、いいねよろしくね!」
ほらね。もう助からないゾ。
ふっ、と俺は小さく笑って、展望台から望む江ノ島の景色を目に焼き付ける……冥土の土産としては上等だろうぜ。
「──それにしても」
「ん?」
俺が肉眼で景色を楽しんでいる傍ら、先ほどからスマホでパシャパシャ写真を撮りまくっていた喜多さんが、ふと、俺に話しかけてきた。
「此崎くんと二人きりになるの、なんだか久しぶりね。夏休みに入るまではよく二人でボーカル練習してたじゃない?」
「そうだな。八月入ってからは……そういややってないか」
喜多さんとのボーカル練習。
たぶんトータルで十回もないと思うが、それでも喜多さんが結束バンドに正式加入してから夏休みに入る前くらいまで週一くらいの頻度でやっていたと思う。
まぁなんだ、ボーカル練習なんて言っても大したことはしていない。主には喜多さんが歌うのを俺が聞いて、たまに俺も歌って、もっとここはこうした方がいいとかああした方がいいとか話し合って……うむ、やっぱり練習なんて言えるほどの大層なことはしていない。二人でカラオケしてた、って言った方がしっくりくる。
ただ、それでも十分に目的は達していたのだ。というのも、ボーカル練習なんてものをやり始めたのは喜多さんの指を休めさせるのが狙いだったからである。あの頃の喜多さん、こうでもしないと永遠にギター弾いてたし。
「……ライブも成功して、ちょっと落ち着いたよな。喜多さん」
「え?」
「ほら、すげぇ頑張ってたじゃん? スタジオでも学校でも、家でもギター弾きまくってたみたいだし。そりゃ後藤や先輩たちも頑張ってたけど、正直、喜多さんが一番必死に見えた」
まぁ必死に見えれば偉いだとか言いたいわけではないが、客観的な事実として喜多さんの努力は頭ひとつ抜けていたように感じる。
「それは、私一人だけ初心者だったから……」
「当たり前?」
「えぇ。ライブを成功させるために、できることはなんでもしたかった。でも、朝起きたら突然後藤さんくらいギターが弾けるようなる魔法なんてあるわけないし、だから一分一秒でも多く練習した。それだけのことよ?」
「……いやぁ……尊敬するわ」
「えっ? な、何よそれ」
狼狽えた喜多さんをよそに俺はため息を吐き、ついでに手摺に手を突いて遠くの水平線を見る。
「俺、飽き性だから。そういう……ひたむきな努力? とかってできねぇんだわ。だから、ひとつのことを飽きずに続けてる人間って、ホントにすげぇと思うんだよな」
「……そう言えば此崎くん、後藤さんのことすごく褒めてたわよね。ギターの練習を頑張ってきたから、本当はすごく上手いんだって」
「ま、そういうこと。後藤も、虹夏先輩もリョウ先輩も。そんで、喜多さんも。喜多さんの言う通り、ギターだろうとベースだろうとドラムだろうと、一朝一夕で上手くなる魔法なんてないわけだし、あんなにできるようになったのは努力をしてきたからで、俺は、努力ができる人間を本当に尊敬してんだ。まぁつまり、喜多さんがすげぇわってこと」
「え、えっと……あ、ありがとう?」
「うん……うん?」
うん? これ何の話してたんだっけ?
「……あ、そうそう。そんでまぁ、喜多さんが誰より必死になって頑張ってたの、本当にすごいと思ってたんだけど、同時にちょっと心配だったって話」
「……心配? どうして?」
「焦ってるように見えたから。というか、焦ってたよな実際。理由も気持ちも想像が付いたし、止めるのも野暮だと思って見てたけど」
「あ、あはは……やっぱりバレてたわよね。たぶん、先輩たちや後藤さんにも」
「そりゃな。でも、ライブ成功して、ちょっとは肩の荷も降りただろ?」
「そうね……まぁ結局後藤さんに助けてもらっちゃったけれどね」
……おっと、今の喜多さんの言葉で思い出したぞ。
「……あー、いいんだよ、後藤に頼るのは。あいつは〝ヒーロー〟だからな」
「……ヒーロー?」
「そ。……ほら、これ」
俺はスマホで動画アプリを開いて、画面を喜多さんに見せる。
「ぐい……〝ギターヒーロー〟? これって……」
「サムネでわかるかな。このピンクジャージ」
「……後藤さん、よね。弾いてみた……ギターの動画ってこと?」
「あぁ。登録者数がこれな」
「……えっ、すごっ!? 後藤さん、こんなにすごかったの!?」
「こんなにすごかったんです。普段結束バンドで弾いてる時とは別人……って、まぁライブの時とかのアレで片鱗くらいは見せてるけど、とにかく見りゃわかるよ。動画のリンク送っとく」
「どうして秘密に……ううん、違うわね。どうして、今になって教えてくれたの?」
「うん、まぁかくかくしかじかうまうままるまるでな……」
──と、俺は後藤がギターヒーローであることを隠していた意図や、しかし虹夏先輩たちにバレてしまったこと、そしてむしろ全員に教えておいた方が面白そうだと開き直って喜多さんにも教えるつもりだったのだ、というようなことを話した。
これに対して喜多さんは俺にじっとりともの言いたげな目を向けつつも、俺が後藤にプレッシャーをかけないために長らく黙っていた点については理解を示してくれたし、それこそ夏休みに入ってから二人だけになることが全然なかったものだから喜多さん一人にだけ伝えるのが遅くなってしまったことも特に気にしていないと言ってくれたのだった。
「……でも、拗ねてみせた方が此崎くんへのお仕置きにはなるのかしら?」
「やめてくれ喜多さん、その術は俺に効く」
いやマジで。
俺が真顔で待ったをかけると、喜多さんは呆れたように笑って、それからわざとらしいため息を吐いた。
「後藤さんがゆっくり実力を発揮できるようになった方がいい、っていうのはもっともだけど……此崎くんの悪巧みに加担しているみたいで複雑だわ……」
「悪巧みチガウヨ。悪巧みチガウチガウ」
「……まぁいいけどね。此崎くんが後藤さんに意地悪するのは、そういうことだもんね?」
「は? どういうことかわかんねぇけどたぶん違うんだが?」
全然意味わかんないけどおそらく絶対に違うんだが?
「──あら、伊地知先輩からロイン……此崎くん、みんなでアイス食べようだって」
「いやアイスとかじゃなくてそういうことじゃないんだが?」
「はいはい。ほら、下降りましょ」
「ちょっと? 喜多さん? はいはいじゃないんだが?」
テキトーにあしらわないでほしいんだが?
♪ ♪ ♪
はてさて。
ともかく俺と喜多さんは展望台を降りてインドア三銃士と合流し、虹夏先輩たちが目星を付けていたお店でソフトクリームを購入。
そうして近くの広場で適当な場所を見繕って五人で座って食べていたのだが、途中で……というか一口か二口食べたくらい時点で後藤がソフトクリームを一羽のとんびに奪われ、しかもさらに集まってきたとんびたちにボコボコにされるという一幕があった。
最初は爆笑していた俺だったが虹夏先輩に「キャッキャ言ってる場合か!」とどつかれたのと、さすがに猛禽類に攻撃されるのはシャレにならんなと思ったのもあって、とんびたちを脅かして追っ払ってやったのだった。
「後藤、生きてるか?」
「…………」
「……死んだか」
「死んだかじゃないでしょう!? 後藤さん大丈夫!?」
「ぼっちちゃん、あきらかにエサにされかけてたね……」
「うん。完全に舐められてた」
まぁ鳥とは言っても猛禽類は普通に強いからな。後藤じゃ1対1でも負け越すと思うし、複数に襲い掛かられたらそりゃ負けるさ。
……と、そんなことがあって後藤はもうボロボロ。
なんやかんや結構時間も経って日も傾いてきたので、最後にお参りだけして帰ろうということになった。
江ノ島神社には複数の神様が祀られているのだが、お参りを提案した喜多さんがチョイスしたのは奉安殿という社殿だった。
ここには妙音弁財天という女性の神様が祀られていて、音楽や芸能の神様であるらしい。江ノ島神社の赤い鳥居のところにある看板、思い出してみれば琵琶の形していたのもそういうことなのだろう。
まだまだ駆け出しとは言え……いや、駆け出しだからこそ、と言うべきだろうか。とにかくバンド活動をしている俺たちにとってはうってつけの神様で、むしろ手を合わせずに帰ったら罰が当たりかねない。
閉じられた門の向こうに置いてある賽銭箱へと小銭を投げ入れて、五人それぞれ手を合わせる。
俺は素直に結束バンドのご健勝と益々のご活躍をお祈りしておいたわけだが、他の四人もまぁだいたい同じだろう。
……と思いたいんだけども、約一名、やけに長く必死な表情で手を合わせていた奴がちょっと怪しい。帰りがけに虹夏先輩に話を振られた時なんてあからさまに目ぇ逸らしてたからな……。
――何はともあれ、こうして突発江ノ島観光は終わりを向かえた。
片瀬江ノ島駅まで戻り、江ノ島線の電車に乗って帰途につく。
俺と後藤は江ノ電に乗って鎌倉を経由して帰る方法もあったが、藤沢と横浜を経由して帰るルートの方が通学に使ってる定期で安くすみそうなので、下北に向かう三人と途中まで一緒に帰る形になった。
「疲れた……ねむ……」
「喜多ちゃ~ん……下北着いたら起こして~……」
「しょうがないですねぇ!」
行きとは違う並び順で座る四人。端の席にリョウ先輩、その隣に虹夏先輩、そして喜多さん、後藤という順番だ。ちなみに俺はなんとなく席には座らず、喜多さんの前で吊革に掴まって立っていた。
「あーあ、本当は鎌倉も観光したかったし、みんなで晩御飯もしたかったのになぁ~……あ、後藤さんも眠かったら寝てていいわよ? 私起こすし……って、此崎くんが立ってるから大丈夫よね」
「俺は後藤を置いて一人で帰るのも吝かじゃないが」
「此崎くん、普通に何言ってるの?」
「あっあの、行きの電車で意識がなかったので、目は冴えてます……き、喜多さん」
「なぁに?」
「きょ、今日はみんなと遊べて楽しかったです……明日から、頑張れそうです。……たぶん」
後藤がそう言うと、喜多さんは「よかったわ! じゃあ、新学期頑張りましょうね!」と目を輝かせた後、うん、と力強く頷いた。
「よ~し! それじゃあ今度の冬休みは全部結束バンドのみんなだけで遊びましょう! 後藤さんどこ行きたい!? 毎日思い出作りましょうね!!」
「……いっ……いやそれは……」
後藤よ、こっちを見るでない。いいじゃねぇか、毎日思い出作れば。
まぁ今日垣間見えた喜多さんのバイタリティに後藤が付いて行くのは果てしなく困難だとは思うが……強引に引っ張っていってもらうくらいが後藤にはちょうどいいだろう。喜多さんなら後藤が死体になっても引き摺っていってくれるだろうという気もするし。
「……うむ、喜多さん。俺からも是非頼むよ。冬休みは毎日後藤を連れ出してあげておくれ」
「えっちょっ」
「ええ、もちろんよ!」
「えっあっちょっ」
大丈夫だ後藤。安心しろ後藤。
俺はお前が死にゆく姿を決して見逃したりはしないさ。
今日で夏休みは終わってしまうが……今から冬休みが待ち遠しいなぁ!
そうだよなぁ後藤ォ!
♪ ♪ ♪
ちょっとした後日談である。
江ノ島観光の次の日の朝、後藤がやっぱり学校に行きたくないとか言ってごねるんじゃないかと思い、俺はわざわざ早めに起きて後藤家に迎えに行ったのだが――。
「いや……何してんの?」
「うっ、あっいっ、あっ」
ひとりちゃんまだ起きてこないのよ、と後藤ママから密告を受けて様子を見に行けば、布団の中から丸まりながら顔だけを出し、引き攣った表情でうめく後藤の姿があった。
これは……。
「お前……筋肉痛か?」
「……ち、違う……」
「筋肉痛だろ?」
「……違います……」
「筋肉痛だよな?」
「違う……っ! ちっ違うから……ち、近付いて、こないで……!」
「はっはっは」
「はっはっはじゃない……!」
「はっはっは」
俺は後藤の部屋に入っていき、亀よりものろまなスピードで這いずって逃げようとする後藤の傍に両膝を突く。
そして――。
「いっ嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だっ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌――いぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」
布団の上から、後藤を優しく抱きしめた。
――あぁ、なんと良い鳴き声だろう。
俺にとっても少なからず憂鬱だった新学期の始まりが、後藤の悲鳴で彩られたことで最高のスタートを切った瞬間であった。
謝辞ィ!
お気に入り感想評価ここすき誤字報告等々ありがとう!
前々回から前回に至るまでで引くほど評価増えたのにまだ増えてらぁ! もう1200人行くぞおぉい! 累計ランキングも150位いってんぞおぉい!
次回はオリジナルというか番外編……のつもり。あんまり筆が進まないようだったら普通に本編行くかもしれないわね。