これ、完全な番外編みたいですよ?
貰ってたリクエストから出力されたものォ……ですかね……
──カラン、という音が聞こえて、不意に私は我に返った。
今まで……私は何をしていたのだろう。
夢を見ていた……眠っていたのだろうか?
片手には、アルコール度数9%の缶チューハイ。500ml。半分くらい入ってる。
押入れの中で膝を抱えて、使い古されたノートPCに照らされている。
私を現実に引き戻した音の正体は、無造作に並べられた空き缶が倒れた時のものだった。あぁ、いい加減片付けないと……でも億劫だ。面倒臭い。
「……あー……」
無意味な呻き声。
PC画面の右下を見て時刻を確認すると、午前10時過ぎだった。
そして、日曜日だった。
朝……だけれど、昼夜逆転どころか昼も夜もない生活をしている私には関係ない。もちろん曜日も、日付だって。でも、関係がないのに時間を確認してしまうのは……なんでだっけ?
……なんとなく、押入れを開けて部屋に這い出る。
部屋も、酷い有様だった。
……あぁそうだ、確か、先週から出張だとか言っていたから……そう、そうだった。
カーテンから溢れてくる光のせいで、部屋がほんやりと明るいのが嫌だ。
嫌なので、私は座ったまま手に持っている缶チューハイを煽る。
アルコールは、いつでも私を幸せにしてくれる。
私は、夜になるまで目を瞑ることにした。私の時間になるまで目を瞑ることにした。
眠くはないから寝ない。でも、目を瞑ることにしたのだ。
──そうすれば、ほら。
ふと気が付けば、部屋は真っ暗になっている。
世界は横向きに倒れている。
夜はとても安心する。今は、何時くらいだろう?
日付が変わって、日が昇るまでのわずかな時間が一番好き。
私だけの時間という感じがする。
誰も私を気にしないでいてくれるこの時間が、好きだ。
社会は、やっぱり私に優しくなかった。
気が付いていたはずなのに、バカな私はまだ期待していたのかもしれない。
まぁ、期待をしていようがしていまいが、ギターを押入れの奥に仕舞いこんで人並みの人生を送ろうなんて決めた時点で、たぶん結果は同じだったと思うけど。
有体に言えば、高校を卒業した私は就職を選んだのだ。というか、大学に行けるほど勉強ができなかったし、それしか選択肢がなかったのだ。
コミュ障の私がどうやって会社に採用されたのか……あんまりよく覚えてないな。たぶん、面接とかいっぱい練習したんだと思う。
ただ、そうやって運良く社会人になれてしまったのが、私の運の尽きだったのだろう。
相変わらずのコミュ障陰キャだった私に、営業の仕事なんて到底無理だった。ところてんの訪問販売なんて、できるわけがなかったのだ。
社会は私に優しくなかった。
ところてん一つも売ることのできない人間は、社会に不要だったのだ。
だから私も、社会を見限った──なんて、強がりにもなってないか。だって、あきらかに嘘だから。
私が社会を見限ったんじゃない。
私が、社会に見限られたのだ。
それで、ようやく身に染みてわかった。気が付かないふりは、もうできなくなってしまった。
そこからは、下り坂を転げ落ちるようだった。
家から、自分の部屋から出ることをしなくなって、現実を受け止めるのが嫌で、私はすべてから逃げるためにお酒に溺れた。
すると、十年があっという間だった。
取り返しがつかない。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
そう思わない日はないけれど、でも、不安は全部お酒で洗い流すしかなくって、お酒に溺れているうちはそれでいいやと開き直って、私すら私を見限っていて──。
「──おい、生きてるか?」
──けれど、彼だけが、今も私を見限ってくれない。
「あぇ……お仕事……しゅっちょーは……?」
「もう帰ってきたんだよ。一週間だっつったろ」
「夜……もう、遅いのに」
「まだ九時なんだが」
彼は、ずかずかと私の部屋に入ってきて、容赦なく電気を点ける。
蛍光灯の光に目を焼かれた私は、うつ伏せになって呻くしかなかった。
「お前これ……一日何本飲んでんだよ……。っつーか部屋の中が酒臭すぎるし、俺ヤバいぞこれ」
「あ、う……ご、ごめんなさ……」
「いや、別にいいけど。お前の自由だろ」
私が薄目を開けてみれば、彼はどこからか透明なゴミ袋を取り出して部屋に転がる空き缶をせっせと回収していて、みるみるうちに部屋が片付いていく。
「おい邪魔」
「あっはい」
畳の上で転がる私も片付けられる。自分で部屋の隅に移動する分、転がりっぱなしの空き缶よりはマシだと思いたい……って、その転がりっぱなしの空き缶は他でもない私が生み出してるゴミなんだけど。
そんなしょーもないことを考えているうちに、彼は部屋をきれいさっぱり片付け終えてしまった。
ゴミ一つないきれいな部屋。
見慣れているような、見慣れていないような。
「……ね、ねぇ」
「なんだ?」
「その……お、お仕事の帰りに直接、来たの?」
「おう。生存確認は早い方がいいだろ」
「そ、そっか……ご、ごめん」
「謝るなよ。俺が好きでやってんだ」
「え?」
「……なんでもない」
部屋の真ん中で佇む彼は、私に背中を向けたまま。
その表情を窺うことはできなかった。
「なぁ後藤」
「えっ、なっ何?」
今度は、彼の方から声をかけてきた。
私はどもりながら返事をする。
「ギター。弾いてたのか?」
「え?」
「そこに置いてあるから」
「……あ」
彼が指さした部屋の角には、私のギターがぽつんと置いてあった。ギタースタンドに立てかけられいて、なんだか恨みがましく私を見つめているような感じがした。
でも……。
「……だ、出した覚え、ない……弾いてもない……」
そう。
押し入れから引っ張り出した覚えはない。
というか、そもそも押し入れにしまってあっただろうか?
私はいつも押し入れに籠っていたけれど、あのギターと一緒にいた覚えがない。
脳みそがお酒に侵されてダメになってるだけだろうか。
もともとお父さんのギターだし、お父さんに返したんじゃなかったっけ?
だって……私、何年もギターを弾いてない。
……本当に?
昨日も、弾かなかったっけ?
スターリーに行って、喜多さんとギターの練習して、虹夏ちゃんやリョウさんとも合わせの練習をして……?
「……結束バンド」
「どうした?」
「……ううん、なんでもない」
よくわからない。
とにかく、たぶん、ギターは弾いてない。
就職するときにしまい込んで、私がダメになってからも、一度も引っ張り出したことはなかったはずだ。
「もう、弾かないのか?」
ぼんやりとする私に、彼が尋ねてくる。
私はぼんやり考えて、曖昧に頷いた。
「……そうか。残念だな」
「……どうして?」
「だって俺、お前のギター好きだったから」
「……そう、だったの」
「あぁ。というか、ギターを弾いてるお前が好きだった」
彼は、ギターの方に視線を送りながら寂しげに呟く。
「ギターを弾いてるお前は、めちゃくちゃかっこよかったからな。かっこいいお前が好きだったんだ」
「……じゃあ……失望、した?」
「なんで?」
「だって……私今、ギター、弾いてないし。ずっと……ずっと、かっこわるいでしょ?」
社会から爪弾きにされて、心が折れて。
日がな一日お酒を飲み続けて、空き缶を部屋に転がすだけの引きこもり。
唯一の取り柄だったギターにも触らず、寝て起きてを繰り返すだけの木偶の坊。
……あぁ、失望したかどうかなんて、聞くまでもなかった。
答えはわかりきっているのに、なんで、今更――。
「――別に」
「……へ?」
「だから、別に。失望なんてしてないけど」
「……ど、どうして……?」
「そりゃあ」
彼が、ようやく振り返る。
私は彼に見下ろされる。
「かっこいいお前が好きとは言ったけど、かっこわるいお前が嫌いとは言ってないだろ」
「……それって、つまり?」
「……全部言わせる気かよ。まぁつまりだな、かっこいいところもかっこわるいところも、全部ひっくるめて俺は、お前が──」
──と、そこで、突然スマホの着信音。
言葉を遮られた彼は、しかし表情一つ変えずに自身のポケットに手を伸ばし、スマホを取り出した。
ぽかんと口を開けてそれを見上げる私をよそに、彼はかかってきた電話に出た。
「──もしもし? おぉ! きくりちゃん!」
「えっ」
「ごめんごめん、今、後藤のところに寄っててさぁ! うん、うんそう、いつもの片付けだよ……何? 変なことしてないかって? はっはっはっ、まったくきくりちゃんは心配性だなぁ! 後藤は今も昔もただの幼馴染だっての! 俺の心はきくりちゃんだけのものだよ……」
「あっあっ、ああっ、あああっ、あっ、あああっ、あっあっあっ、あぁぁっ、ああああああああっ、あっあっあっ……」
「ん? 変な音? あぁいや、いつもの後藤の発作だよ。うん、うん、そうだな、そろそろ帰るよ。うん、一週間も家空けちゃってごめんな? もう帰るからさ……ん? 一週間ぶりだから? わかってるよ、わかってるって……」
「わァ……ぁ……」
「うん、うんそれじゃ。うん、もうまっすぐ帰るよ。きくりちゃん――」
「あ、あぁぁ、あああっ、あっあっあっ、あぁっ……!」
「――愛してるよ」
♪ ♪ ♪
「――おぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!??!?!??!?!?!?!?!??!?」
のうみそがっ!!!!!!!!!!
「――あががっ、あがっ、ががが、がっ、ががっ……!」
私は布団から飛び起きて、全身汗びっしょりのまま、必死になって呟いていた。
人間の言葉になっていなかったと思うけど、これは夢だと必死に言い聞かせていた。
――そうでなければッ!!
私のちっぽけな脳みそが、壊れてしまうッ!!!
「……あ、あのぉ……?」
「――ハッ!?」
ふと、誰かに声をかけられて、私は勢いよく顔を上げる。
するとそこには――怯え切った表情の此崎くんが、いた。
「こ、こここっ、この、さきくん……ッ!」
「ひぃっ! ――あっすっすみません後藤さんっ! あの、か、勝手に寝室に入ってしまいまして……お、お休みの日とは言え、もうじきお昼なので……」
「……こっ、此崎くんッ!!」
「ひぃぃっ! すっすみません後藤さんっ! と、とんだご無礼を……!」
「き、きくりさんとは……お姉さんとは、何もないよねッ!?」
「ひぃぃぃ! な、何もって何――あっいえ何もないです! 何もないので許して……」
「…………」
……うん、うん。
やっぱり、あれは夢。あれは夢だったんだ……。
「……此崎くん」
「はっはい! なっなんでございましょう!?」
私が静かに声をかけると、此崎くんがビクビクしながらその場に正座した。
「……きくりお姉さんは……まずいと思う」
「えっ……な、何が?」
「とにかく……まずいよ」
そして、神妙に忠告する私に、此崎くんはしきりに首を傾げるばかりであった。
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後藤ひとりは夢をみる その1 ~fin~
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おまけ
第一回此崎衣久vs結束バンド(開催:夏休み終了時)
ROUND1
此崎衣久vs伊地知虹夏
此崎のターン
「……ん? 虹夏先輩をどう思ってるか? なんだそれ……え、正直に言わないと死ぬ? こわ……えーっと、まぁとにかくしっかり者だよな。結束バンドのリーダーで一番の常識人。この人いないとホントまとまらんと思う。結局のところ面倒見が良いんだわ、あの人……あ、あと料理が巧い。一回家に来てもらってオムライス作ってもらったんだけど、また食べたいわ。マジで。……まぁなんつーか、家庭的な女性って素敵だよな。いやね、男性にしろ女性にしろ、家庭的であることって良いことだと思うんだよ。その点虹夏先輩ってすげぇよな、最後までチョコたっぷりだもん……なんて冗談はともかく、うん、俺はその辺……こう、魅力的? だと思ってるかな。……うわ魅力的とか言っちまった。嘘……じゃないから余計にはずいな……」
伊地知のターン
「え? 此崎くん? どう思ってるかって言われても……え、正直に言わないと死ぬ? 何それ怖いんだけどっ!? ……え、えっと、とにかく正直に言えばいいんだよね? えーっと……結束バンドのマネージャーで、一つ下の後輩、だよね。……え~、あらためて言葉にしようとすると難しいなぁ~……うーん、まぁとりあえず、ぼっちちゃんにいっつも意地悪してるなぁっていうのは一番かな。完全に好きな子にちょっかいかける小学生男子だよね、あれ。……でもそれ言っちゃうと最近、隙あらばあたしとかリョウとかにも意地悪しようとしてくるんだよね。好きとか嫌いとかは置いといて打ち解けてきてくれたのかなーって思うけど……此崎くんはあんまり調子に乗らせちゃダメなタイプだとも思うし、やられっぱなしじゃダメだよね。うん。あとは……意外と寂しがり? まぁ、此崎くんのおうちの事情聞いちゃったからその先入観がある気がするけど、やっぱりちょっとシンパシー感じちゃうっていうか。お酒にすっごい弱いところといい、なんか心配でほっとけないなって思うことが最近多い……かな?」
ROUND2
此崎衣久vs山田リョウ
此崎のターン
「今度はリョウ先輩か……そりゃまずは何より変人だよな。よく言えばミステリアスだけど、根本的にはあの人ただのアホだと思うんだよ。でも……顔が良いから、それでも許されるんだよなぁ。正直、喜多さんがリョウ先輩にキャーキャー言ってる気持ちは悔しいけど結構わかる。アホだってわかってるつもりでも理性を総動員しないとありとあらゆる振る舞いを好意的に解釈しそうになるんだわ。あと、適当にふらふら生きてるように見せかけて音楽とかバンド活動とか、だいぶ熱い思いを秘めてるのが……ギャップだよな。うん。……ここだけの話、俺はリョウ先輩に『私の女になれよ』ってマジで言われたら断り切れる自信がない。女の子になっちゃってもいいやってなる気がする。いやホント、ここだけの話ね」
山田のターン
「此崎? 結束バンドのマネージャーでしょ。あとぼっちの幼馴染。……そういうことじゃない? ……此崎は生意気。私を敬う気持ちが足りてない……毎月私のなけなしのバイト代からライブ代と称してお金奪っていくし、借金の取り立ても厳しいし。いつもはぼっちのこといじめて喜んでるけど、最近私のこともいじろうとしてくるし。でも面白いやつだと思う。ノリもいいし。……あと、此崎はリズム感すごい。歌も結構上手いし、マネージャーにしておくにはもったいないと思ってる。本人がやる気になったら色々と仕込むのも吝かではない。そんな感じ」
ROUND3
此崎衣久vs喜多郁代
此崎のターン
「はいはい今度は喜多さんね。陽キャ。ド陽キャ。太陽の化身か何かじゃないかな。あとまともに見せかけて結構ヤバい人だと思ってる。ギター弾けるとか嘘吐いてライブ当日にバックレるとかリョウ先輩への盲信具合とか、あとはギターの練習に対する熱意? ド根性? バイタリティとか……いや後半は普通に褒めるべきところなんだけど、とにかく全体的にヤバい。俺はまぁ陽キャか陰キャかで言えば前者だと思うけど、陽キャの中にも格ってもんがあるなとしみじみ感じるわ。あと……喜多さん、時々距離感バグるのがなぁ。物理的に。高校入ってすぐの時点から喜多さんってクラスでめちゃくちゃ目立ってて、俺の中でも『クラスで一番かわいい子』的な認識が強かったから、こんなに強い接点があるのはなんとなく浮き足立っちゃう感じがすると言いますか。男なんて……チョロいもんよな……」
喜多のターン
「えっ、此崎くんをどう思ってるか? そうね、一言で言うなら……恩人、かしら? 後藤さんと一緒に、私を結束バンドに引き入れてくれた……もちろん迎え入れてくれた伊地知先輩にもリョウ先輩にもすごく感謝してるし、引っ込み思案なのに一生懸命私を応援してくれた後藤さんにもとても感謝してるわ。それで言うと此崎くんは、ものすごく強引だったけど、私の殻を外から破ってくれた……結束バンドのみんなの優しさに気が付かせてくれた人……かしらね。……でも私、それはそれとして此崎くんに不満もあるわよ! 此崎くん、後藤さんに対して素直じゃなさすぎる! 好きな子に意地悪しちゃうのは男の子のあるあるなのかもしれないけど! もっと後藤さんに優しくしてあげて! そしてもっとお互いに踏み込んだ関係に……!」
ROUND4
此崎衣久vs後藤ひとり
此崎のターン
「あ? 後藤? 幼馴染。以上」
後藤のターン
「えっあっ、こっ此崎くんをどどどう思ってるか……あっうっ、おっ幼馴染、です……」
というわけで『ぼっちちゃんニートIF(夢オチ)』と『此崎と結束バンドメンバーの相互評価』というリクエスト2件を基にした番外編でした。
クオリティは……どうだろうな? 書き殴った感がすごい気がする……仕事忙しかってん。
ともかく引き続きお気に入り評価感想ここすき誤字報告、あとはトゥイッターやマスマロでの反応等々ありがとう! 今後もよろしくなんだぜ!
次回からはまた本編戻るつもりなんだぜ。来週も仕事バチクソ忙しそうなので遅くなるかもだけど、進捗報告はトゥイッターでするんだぜ。
トゥイッター
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マスマロ
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