なんかいっぱい詰め込んだ感。
「──うむ、では投票の結果を発表しよう。『此崎の火刑』に23票、『此崎の磔刑』に6票、『此崎の八つ裂き刑』に4票、『プラネタリウム』に9票ということで、我々のクラスの出し物は『此崎の火刑』に決まった。一同、拍手」
学級委員長が厳かにそう告げると、クラスメイトたちが一斉に拍手をする。
約一名、「みんな正気に戻って!? クラスメイトの火炙りを出し物にするなんて学校の許可が降りないでしょ!?」と必死に叫んでいたが、委員長はそれを黙殺してさらに続ける。
「では、今回主役を務める此崎には一言挨拶をしてもらおう。此崎、証言台の前へ」
「はい」
「此崎くん!? はいじゃないでしょう!?」
俺は席を立ち、すたすたと教壇まで歩いていって教卓もとい証言台の前に立つ。
クラスのみんなは、存外優しい表情をしていた。
夏休みが明けてすぐの時は、親の仇を見るような憎悪に満ちた、あるいはゴミ虫を見るような侮蔑的な視線を送ってきていたのに……死にゆく一人の男には、みんな、こんな優しさを見せてくれるんだな。
「──えー、まぁ短く済ませる。みんな、短い間だったけどありがとう。文化祭までまだ一ヶ月あるが、どうか最後の温情として穏やかに過ごさせてくれればと思う。以上です」
「以上です、じゃないわよ!? お願いだからもっと抵抗の意思を見せて此崎くん!!」
♪ ♪ ♪
──と、そんな流れで決まった秀華高校一年五組の文化祭での出し物だったのだが、数日後、残念ながら文化祭実行委員に却下されてしまった。
なんとか担任の先生は言いくるめて書類の提出までは漕ぎ着けたというのに、調理以外での火気使用が認められなかったのである。
「残念だったな……」
放課後の教室で、そう言って自身の机に肘を突き顔を俯ける──俺。
学級委員長に『却下』の印が押された書類を見せられ、俺は心底がっかりしていた。
「どこまで行けるか見ものだったんだが……まぁ先生が判子を押してくれて、実行委員に提出できた時点でめちゃくちゃ十分面白かったけどさ」
「うむ。なんならご丁寧にこんな却下事由が書かれた書類が返ってきたのだから、期待以上の成果だろう」
「……確かにそうだな」
言われてみればその通りだ。
ここで打ち止めになってしまったのは残念だが、この書類自体が俺たちの勝ち取った勲章とも言える。
「ふっ……覚悟を決めた甲斐があったな。俺の命をかけた盛大な茶番、最高の一幕だったぜ……」
「……此崎、お前ホント頭おかしいな」
「マジでイカれてるわ……自分から『そんなに俺が憎いか? だったら文化祭の出し物でクラスを挙げて俺を処すればいい』とか言い出しやがるんだもんな」
「あぁ、喜多さん含めた女子四人との江ノ島デートはマジギルティだし二学期初日に『あっ(笑)、ところで男子の皆さんにおかれましてはこの夏休みにどんな素敵な女性との思い出を作られたのですか?(笑)』とか言って煽ってきやがったのは今でも許せねぇが……此崎、お前は紛れもなく天才だよ。そして、狂ってる」
委員長と共に俺の席の周辺に集まっていた男子たちが口々に俺を褒める。褒めてるったら褒めてる。
「――男子さぁ、ホントバカだね。特に此崎」
「へへっ、なんだよ佐々木さんまで褒めてくれちゃって……」
「全然褒めてないんだけど」
俺の後ろの席でたむろしていた女子の一人、佐々木さんが呆れ切った顔をしながら会話に混ざってくる。
容赦なく俺を褒めてくれる佐々木さんとは、クラスの女子の中でも割と話をする方だ。
高校生活がスタートした時に席が隣同士だった……なんて言うと早々に友達になっていたのかと思われるだろうが、実は授業でペアを組まされる以外で喋ることはほとんどなかった。ビジネスライクな関係だったのだ。
佐々木さんと会話するようになったきっかけは、喜多さんである。
なんでも、喜多さんと佐々木さんは中学の頃から同級生の腐れ縁なんだとか。よくよく思い返せば喜多さんは佐々木さんの席までやって来て喋っていることが多かったし、その逆もまた然りだった。
そこに来て五月の半ば頃に喜多さんが結束バンドに加入し、いろいろと誤解を招きつつも俺と喜多さんが教室内でも話すようになったとあれば、喜多さんの腐れ縁ですぐ隣の席にいる佐々木さんと俺の間に会話が増えるのも当然だろう。
まぁ今は席替えをして微妙に席が離れてしまったのでお隣さんだった時よりは会話の頻度は減ってるが、それでも喜多さんと一緒にやって来て話しかけれることはある、というような感じだ。
……あぁ、それこそ夏休み明けに一番最初に江ノ島の件について切り込んできたの、佐々木さんだったな。
喜多さんがイソスタにアップした、夏休み最終日の江ノ島観光で撮った写真の数々。
綺麗に加工された江ノ島の風景や結束バンド四人と俺、そして喜多さんと俺のツーショット……。
教室で通りがかったクラスメイトたちからはもちろんのこと、廊下ですれ違う一年生の男子たちに無言で肩パンされまくったのは言うまでもないだろう。
そして、通りすがる女子たちからは「うわっ」とか声に出されて距離を置かれるのだ。
弁明の機会も与えられず、青痣ができかけた両肩を抱いて泣いていた俺に喜多さんと共に話しかけてくれたのが……そう、佐々木さんだったのだ。
「……あぁ、佐々木さん……本当に、本当にありがとう……」
「えっ急に何。キモ」
「此崎急に半泣きになりながら女子に感謝の言葉を述べるのはマジでキモイぞ」
「キモすぎ」
「此崎くんってやっぱりキモイね」
おい佐々木さん以外もこぞってキモい連呼するな。声を上げて泣くのも辞さないぞ。
……しかし、喜多さんのフォローがありつつも佐々木さんが俺に発言権を与えてくれなかったら文化祭の出し物提案で一発かまして人権を取り戻す作戦も成し得なかったわけで、佐々木さんには本当に感謝してもしきれないのだ。今度ジュースを奢ろうと思う。
「てか此崎さ、文化祭の個人ステージの方はどうすんの?」
「えっ……そ、そっちで火炙り……?」
「ちげーよ。そうじゃなくて喜多のバンド。結束バンド、だっけ? あれで出たりとかしないわけ? マネージャーなんだからちゃんとマネジメントしなよ」
「あ、あぁ……そういう」
個人ステージなぁ。確か委員長がちらっと説明してたけど……。
「なぁ委員長、そもそも外部の人間とか出られんの? ウチのバンドのベースとドラム、他校の人間なんだけど。しかも一個上の先輩」
「む、どうだったか……実行委員に確認してみないとわからんな。あとで此崎の火刑の代案を提出しに行くついでに確認しておこう」
「さんくすー」
「おぉ……ついに喜多さんがバンドやってるところを見れるのか……!」
「おい此崎、てめぇ死んでも結束バンドを個人ステージに招待しろよ! 生虹夏さんを俺に拝ませてくれ!!」
「リョウ様も……リョウ様も来るってことだよなぁ!?」
「いや、最終的には本人たちの意思次第だけどな。まぁとりあえず喜多さんともちょっと話しとくわ」
結束バンドの招待を懇願してくる男子たちはこの前の初ライブに参加できなかった哀れな男たちだ。
俺のノルマだったチケット四枚分、クラスの男子数名でじゃんけんをして勝ち取ったものの台風のせいで見に来れなかった奴らと、そもそもじゃんけんに負けた奴ら。
たぶん最初は全員喜多さん目当てだったと思うが、この夏に喜多さんが散々イソスタで結束バンドの写真をアップしていたものだから鞍替えしてるのもいるらしい。まだ一回もライブ見てねぇのになんやねん。
まぁとにかく、たった今断った通り結局のところは当人たちの意思次第……とは言いつつも、虹夏先輩や喜多さんはもちろん、リョウ先輩もバンドに関わることならめんどくさがりはしないだろう。
つまり……厳密には、どっかのピンク芋ジャージがどうしたいか、それを踏まえた上で他三人がどうしたいか、という話になる。
はてさて、どうなることやら……。
「──此崎くん大変よ!! 後藤さんが生徒会室の前で気絶してて保健室に運ばれたって!!」
──こうなったみたいです。
♪ ♪ ♪
喜多さんと一緒に保健室に行ってみれば、頭に包帯を巻かれた状態でスヤスヤ眠る後藤の姿があった。
まるで一切の煩悩を払ったかのような、穏やかな寝顔であった。
「後藤さん、意外と気持ちよさそうに寝てるわね……」
「ほんの少しでも心配した俺がバカだった……」
養護教諭の話によると、後藤のおでこにはそれはそれは見事なたんこぶができていたらしい。
転んだのか……いや、廊下に頭を打ち付けて煩悩を払った結果だろうか。しかしなにゆえ煩悩に支配されたのかが流石にわからん……。
「――ねぇ此崎くん」
「ん?」
「これ、後藤さんのよね」
「……ははぁ、なるほど」
喜多さんが差し出してきたのはしわくちゃのプリント。後藤が寝ている隣のベッドのサイドデスクに置いてあったそれの存在には気が付いていたが、そこに書かれているものを見て納得がいった。
「文化祭の個人ステージの出演希望……後藤さん行動早いわね~。これを持って生徒会室の前に倒れてた、ってことよね?」
「あぁ。後藤、文化祭とかでライブしたいって中学の頃から言ってんだよな。そもそもバンド組むどころか自分以外に楽器やってる人間と知り合いになってすらいなかったから妄言でしかなかったんだが」
「妄言扱いはひどくないかしら!?」
「喜多さん、大事なことだから二回言うが、後藤のそれは妄言でしかないんだ」
「二回言わなくていいわよ! わかったから!」
よし。
「で、だ。おそらく後藤のクラスでも文化祭の出し物決めとそれに伴って個人ステージの話があったんだろう。後藤の中で文化祭ステージへの憧れと、大勢の、しかも学校の人間の前でライブをやることへの躊躇がせめぎ合ったはずだが……決め手はどうせクラスの人間が『クラスの誰かがライブとかしたら私惚れちゃうかも~』、『だね~』みたいな発言を聞いたことだろうな。後藤の内側に棲む承認欲求の怪物が、後藤に用紙を記入させ、生徒会室まで導いた……しかしそこでさしもの後藤も正気に戻る。そして、『この紙はいったい何? バンド出演希望結束バンド……こんなもの誰が書いたの!? えっ後藤ひとりが!?』と実際狂気な自分の正気を疑い、本気でバンドを目指しているはずの硬派を気取りたい後藤は文化祭でちやほやされたいという煩悩を文字通り打ち払うために廊下に頭を叩きつけて最終的に意識を失った――といったところだろうな」
「……解像度が気持ち悪いわ、此崎くん……でも、後藤さんならあり得るわね」
「だろ?」
わかってきたじゃあないか、喜多さんよォ……
虹夏先輩に続いて、喜多さんもだいぶ
ステージ出演希望の用紙に視線を落とす喜多さんに悟られぬよう俺が密かにほくそ笑んでいると、不意に「知らない天井だ」という小さな声が聞こえた。
「あっ、後藤さん! 目が覚めたのね、具合はどう?」
「あっ喜多さん……と、此崎くん。えと、具合は全然大丈夫です……」
「バイトも行けんのか?」
「うっうん……――あっそっその紙……!」
後藤ががばっと勢いよく身体を起こして、喜多さんが手に持っているプリント見ながらあたふたし始めた。
「これ、後藤さんが書いたのよね? 後藤さんも個人ステージに出たいの?」
「あっあっ、いっいやそれは……あっえっと、
「ええ、もちろん! クラスで説明聞いた時から結束バンドで出たいって思ってたの! ……あ、此崎くんには言ってなかったわね?」
「聞いてないけど、まぁそうだろうとは思ってたよ。虹夏先輩もリョウ先輩もせっかくの機会だしやりたがるんじゃないかなぁと」
「……っ! ……っ!」
ガタガタブルブルとバイブレーションを始めるマナーモード後藤。外堀が埋まりつつあることを察知したお知らせが届いているみたいだが、つまりはどちらかと言えばステージに立ちたくない方に気持ちが傾いてるのだろう。
こりゃ後藤がよっぽどの拒否をしなければなし崩し的に出演することになるやつだろうな――なんて思っていたのだが。
「後藤さん……それとも、まだ悩んでるのかしら?」
喜多さんが珍しくブレーキを踏んだことで、突如として後藤の退路が開けたのである。
後藤は、この好機を逃さなかった。
「――そっ、そそそそうなんですっ! まっまだちょっと、こう、あの、その、アレというかコレというかでして……!」
「そう……でも、文化祭でライブするの、きっと楽しいと思うわよ? 思い出作りにもなるし……」
「あっあっ、そっそれはそうかもしれない、ですけど……! ……とっ、とにかく少し時間を、考える時間を私にください……っ!」
「切実ね……」
そりゃそうだろう。実質命乞いだもん。
「じゃあ……此崎くん、あとは任せても大丈夫かしら?」
「ん、おお。喜多さん今日はバイトないんだったな」
「うん、友達と約束があって。ごめんなさいね」
「全然、お気になさらず」
「後藤さんもまた明日ね!」
「あっはい、また明日……」
……と、喜多さんはなんだか逃げるように保健室を去っていった。
うーむ……。
「……き、喜多さん……文化祭ライブ、結構出たい感じ……なのかな」
「どうだろうな……後藤に無理強いするつもりはなさそうだが」
なんかちょっと怪しい雰囲気だったが、別に煮え切らない後藤に対して怒ったとかいうわけじゃないと思う。
「……で、どうすんだ?」
「うっ……か、考える、けど……こっ此崎くんは、やっぱり出た方が良いと思う?」
「いや、お前の好きにすればいいだろ」
「……言うと思った」
「じゃあ聞くなよ」
そりゃそう答えるに決まってんでしょうが。
♪ ♪ ♪
「――で、ぼっちちゃんはここに来るなりゴミ箱に収まった、と」
「はい」
はい。
あの後、保健室でうじうじ悩み続けようとした後藤だったが、普通にバイトに遅れそうだったので俺がスターリーに連行した。
高校の方の最寄り駅まで行く間はまだよかったのだが、考え込み過ぎて……いや、シミュレーションもとい妄想が高じて後藤の呼吸はどんどん浅くなっていき、電車に乗るころには俺のネクタイが鷲掴みにされていた。
うん、久々のアレだった。意外と最近の後藤は心を強く持っていた、あるいは瀬戸際に至る前に即死することが多かったのだと気が付かされたね。
そして、俺のネクタイを存分ににぎにぎもみもみしながら下北沢を歩いてスターリーまでやって来た後藤は中に入るなり店長に挨拶をしつつ、己の還るべき場所へ還っていったのである。ネクタイは外して捧げた。
「文化祭ステージねぇ……迷ってるくらいなら出たほうが良いと思うけど。一生に一度の青春の舞台、だろ?」
「ちなみにお聞きしますけど、店長さんはそんな青春の舞台での思い出があったり?」
「いや? 私は高校ろくに行ってないからいま適当に言ってる」
「あ、私は高校中退でーす」
「……だってさ! 後藤!」
「…………」
こっちに話を振らないで、とでも言いたげな目で後藤が俺を見てきた。
でもよぉ……俺だって特にPAさんの顔は見れねえよ……高校中退ってなんだよ……。
俺と後藤が勝手に気まずい思いをしていると、背後でドアの開く音。
振り返ってみれば虹夏先輩とリョウ先輩の姿があった。
「おっはよー! って、なになにどしたの? 此崎くん、珍しくお姉ちゃんと何か話し込んでた? ぼっちちゃんがゴミ箱に入ってるのはいつものことだけど」
「……やはり仕上がりは一段上か」
「は?」
「いやなんでもないっす」
なんでもないない。
「で、どうしたの」
「後藤さんが文化祭のステージに出るかどうか悩んでるんですよ~」
「え、いいじゃん出ようよ文化祭!」
リョウ先輩が尋ねるとPAさんが答えて、虹夏先輩が一も二もなく言う。
ちらりとリョウ先輩の顔を見てみるが反射的に面倒そうな顔をしたりはしていなかったので、明らかに乗り気な虹夏先輩に否やはないらしい。
後藤も「やっぱりか」と「どうしよう」がないまぜになったような顔をしつつ、さらにおずおずと虹夏先輩に質問をぶつける。
「あっあの、に、虹夏ちゃんたちは、文化祭でライブとかは……」
「あるよー中学で!」
「私もある。マイナーな曲やって会場お通夜にしてやった」
「なんでドヤ顔してんすかそれ……ちなみにそれは二人で?」
「ううん、二人でバンドやるのは結束バンドが初めてだし、結束バンドはまだ『け』の字もなかったから。あたしはちゃんと流行りの曲とかやったよ!」
……割とその辺不思議だよな。幼馴染でそれぞれ楽器やってて、でも中学時代は二人でバンド組んでたわけでもないって。
まぁ二人とも音楽の趣味とか違うし……それぞれ狙ってる路線みたいなのがあったのかね? もしくは流れとかタイミングだけの問題かもしれん。
「あたしは出たいな〜文化祭ライブ! うちの高校って進学校だから文化祭とか全然盛り上がらない……っていうかそもそもステージ発表とかがなくってさ~」
「ほー、そこまでお堅いんすね」
進学校だってのは聞いてたけど文化祭とかまでそんな感じなのか……となると、学外でバンド活動やってる先輩たちって結構クラスとかで浮いてたりする?
リョウ先輩は容易に想像付くけど虹夏先輩は……男子にモテモテって言ってたし上手いことやってるのかね。さっきから何を気にしてるんだ俺は。
「りょ、リョウさんは……?」
「私もオリジナル曲をここのハコ以外でやりたい。宣伝にもなる」
「そうそう! 喜多ちゃんと此崎くんがクラスで宣伝はしてるみたいだけど、実際にライブを見てもらう機会があるのはいいと思うよ!」
「……でも高校の文化祭って青春ロックで盛り上げないと退学なんじゃ」
「そんな校則ないでしょ!?」
「ありますよ?」
「えっ!? ……って生徒手帳に書き足すな!!」
ちっ、準備不足……流石にその場で手書きは無理があったか……。
俺が肩を落としながら生徒手帳とボールペンを仕舞いこんでいると、リョウ先輩から「とは言えぼっちの気持ちもわかる」と珍しく気を利かせたような発言が飛び出した。
「文化祭のステージなんて下手したら、というか絶対にハコよりも多い人数の前で演奏することになる。私たち、まだ一回しかライブしてないし、そのライブもお客さん少なかったし」
「まぁそれはそうだね。うん、だからそんなに焦って決めなくてもいいよぼっちちゃん。ぼっちちゃんたちの高校の文化祭なんだから来年も再来年もチャンスはあるんだし」
「そう、無理しない範囲でできることからするべき……正直お通夜状態になったライブたまに夢に見る……」
「えぇ……」
「強がりだったのかよ」
なんだよ普通に感心してたのにトラウマありきかよ。
……まぁとにかく、アドバイス自体は真っ当なものだったので、あとはこれを聞いて後藤がどうするか――いや、はっきりと言えば、
「後藤? 結局どうすんだ?」
「あっはい……あ、みなさん、あっありがとうございます。あの、もうちょっと……考えてみたいと思い、ます」
「うんうん、それがいいよ!」
「うんうん」
虹夏先輩とリョウ先輩が頷いてみせて、後藤も一つ頷き返した。
……さて、それからいつも通りバイトに勤しんだ後、後藤と二人で帰路に着いた。
道中、後藤はやっぱり悩みに悩んでいたようだったが、スターリーに向かう時よりは前向きに悩んでいるような感じであった。
ただ、結局その日は最後まで結論が出ず、後藤は家でじっくり考えると言うので俺もついぞ口出しはせず。
それから夜、寝る直前。喜多さんから『後藤さん文化祭のライブどうするか決まった?』という個人のロインが俺のところに来た。
送る相手間違えたのかと思って確認したが、後藤本人の前に俺に聞きたかったんだとか。
俺は『まだ検討中。前向きに考えてるっぽい。ちなみに先輩たちは出たいけど後藤に任せるらしい』とだけ返事をし、なんとなくロインでの会話が長くなりそうな予感がしたのでさっさと布団を被って寝たのだった。
♪ ♪ ♪
――そして、翌日だ。
「いや結局やめんのかい」
「う、うん……やっぱりムリ……ムリすぎる……昨日はちょっといけそうな気がしたけど大失敗したら卒業までの学校生活耐えられないしこの前のライブみたいに実力出せる気がしない……」
「雑魚め……」
「ふぐぅ……!」
後藤は雑魚だった。
決してフグほどに価値ある魚ではなかった。
しかしまぁ、これ以上後藤を責める気もない。実際ハコいっぱいの観客すら相手にしていないのにいきなり学校の体育館でライブってのはきついだろう。
もちろん時には勇気を振り絞るのも大切だと思うが、順序や段階ってものもある。先月ようやく初ライブをやったばかりで、しかも今日の時点から文化祭まで一か月もないわけだから見送るというのも選択肢の一つだろう。
そんなわけなので、学校に着くなり後藤が文化祭ステージの申し込み用紙を捨てるのを俺は黙って見届けた。
……しかし、去り際に未練がましくチラチラとゴミ箱を見ているあたり文化祭当日には後悔していそうな気もするが……まぁ、すべては後藤の選択だ。
――と、俺はそう結論付けていたのだが。
その日の朝、HRが終わったタイミングで俺は喜多さんの席まで行き、事の顛末を話すつもりだった……が。
「喜多さんおはよう。悪いんだけど、やっぱり後藤が個人ステージ出ないって。最後の最後で怖気づいたみたいでさ」
「え、そうだったの? でももう出しちゃったわよ?」
「……うん? 何を?」
「申し込み用紙! 文化祭ライブの!」
「……は?」
それってさぁ! 後藤が死ぬ……ってコト!?
次回! 後藤死す! デュエルスタンバイ!(再放送)(n回目)