うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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推敲? 何それおいしいの? 推敲? 何それおいしいの?



#34 君に勇気を

 

 謎のツインテ女子に顔を貸すことになってしまった。賃貸料は……とか言ってみたらめっちゃ低い声で「は?」って返されて怖かったので、無料で貸し出すことにした。

 

 で、連れて行かれたのは無人の楽屋。

 この謎のツインテ女子さんは、まぁおそらく新宿FOLTの関係者だと思われるので楽屋に入るくらいはなんてことないのだろうが、きくりちゃんにお呼ばれしたとは言え部外者の俺が入ってしまうのはちょっとよろしくない気がする……。

 

「ドア閉めて」

「……うっす」

 

 ……が、逃げ出したら怒られそうだしなおさら面倒くさいことになりそうなので、従うしかあるまい。彼女に脅されたとでも言えば銀ちゃんさんなら許してくれるさ……たぶん。

 

 ともかく、ツインテ女子は電気を付けると部屋の真ん中まで歩いていって立ち止まり、ゆらりとこちらに振り向く。

 

「──此崎衣久」

「う、うっす」

 

 そうしてフルネームを呼ばれて困惑を隠せないままに返事をすれば、ツインテ女子は眉間の皴を深めてこう続けたのであった。

 

「あなた──きくり姐さんと、いったいどういう関係?」

 

 はい。

 やっぱりきくりちゃん案件でしたとさ。

 

 ……まぁね、なんとなく予想は付いてたけどね。

 このツインテ女子が新宿FOLTの関係者なら当然きくりちゃんと知り合いだろうし、きくりちゃんの知り合いなら俺のことは知っていてもおかしくない……というか、知っていて当然か。志麻さん然り、な。

 

 そんで、その志麻さんはあきらかに俺の身……いや、はっきり言っちゃうと貞操を案じていた感じだったし、たぶんそれは間違ってないんだけど、性別的には()でもおかしくない。つまり、きくりちゃんが悪い男に騙されてる的な思考になる人がいたっておかしくないということである。

 

 目の前のツインテ女子は、たぶんそういうことなのだろう。

 姐さんなんて粋な呼び方をしているし、彼女はきくりちゃんの妹分みたいな感じなのか? となると、俺に嫉妬してるのかね……あー、なんかそう思うと一気にかわいく見えてきたな。いやこれ九割俺の妄想なんだけどさ。

 

「――ちょっと! うんとかすんとか言ったらどうなの!?」

「すん」

「…………」

「待った、冗談です冗談。だから拳を握り締めないで」

 

 暴力はだめだよ暴力は。まぁ殴られてもあんまり痛くなさそうだけど……。

 

「まぁ、きくりちゃんとどういう関係かっていうと」

「きくりちゃん!?」

「……あー」

 

 あー。

 

「あんた高1だとか言ってたわよね!? 一回りも年上の女性をちゃん付けで呼んでるとか常識がないの!?」

「……ないかも」

「ホントにないの!?」

 

 でもきくりちゃんはきくりちゃんだろもう。今更『廣井さん』とか呼ぶのは違和感あるし、いざ呼んだら泣かれそうな気がするし。

 

「……というか、そちらさんはどちらさんなんですか? 今のところツインテールだなぁってことしかわからないんですけど」

「どういう印象よ!? くっ、高校生バンドのマネージャーとかなんとか言っておいて、私たちのことは眼中にないってわけ!?」

「あ、なんか有名人? すいません、ウチのバンド駆け出しすぎてまだ自分たちのことに手いっぱいというか」

 

 ……いやでも、仮にもマネージャーならそういう情報も仕入れておくべきか。うーむ、金の管理とかで仕事してる気になってたかな……ちょっと反省。

 

「……で、結局あなたはどちら様?」

「大槻ヨヨコ! 新宿FOLTで活動してるメタルバンド、SIDEROS(シデロス)のギターボーカルよ! あんたのところと同じ女子高生バンドよ!」

「ほー……ヨヨコって、なんか可愛らしい響きの名前ですね。」

「そこ!? ――って、は、はぁっ!? あっ、あんたいきなり何言って……!?」

 

 ヨヨコ、ヨヨコ。うん、なんかいいな。

 ヨヨコ……ヨココ? ヨヨヨ? うん、まぁなんでもええな。

 

「ヨヨヨちゃんはギターボーカルなんすね。ライブの映像とかないんですか? せっかくだし歌とか聞いてみたいんすけど」

「ヨヨヨちゃんって何!? あ、あだ名!? いきなり!? ……あっ、らっライブの映像なら、あ、あるにはあるわよ!? お、オーチューブにアップしてて……!」

 

 と、ヨヨヨちゃんは自分のスマホを取り出してあたふたと操作し始める。この場で見せてくれる感じらしい。

 

「――こ、これよ! 先週の日曜日にやったワンマンライブ!」

「ワンマン? マジか、すげぇな……」

「……ふ、ふふん! そうでしょう!? シデロスは今のメンバーでスタートして、まだ半年程度だけどね! もうワンマンできるくらいファンがいるのよ!」

「いや、それホントすごい……メタルか、この曲イントロめっちゃかっけぇし……うっわ、ヨヨヨちゃん歌うまっ。えっマジか、マジかぁ……」

 

 これが結束バンドと同年代……っていうか結成から半年ってマジで結束バンドと同じくらいじゃん。

 

 正直に言って、バンドとしての完成度が全然違う。

 

 何がこんなに違うのか。大雑把に言ってしまえば一体感だが……これは、一人一人の演奏のクオリティのせい? いや、結束バンドだって個々で見れば……いやダメだ、細かいことはどうしたってわからん。でも……。

 

「……すげぇ。ヨヨヨちゃん、めっちゃかっけぇ。いやこりゃ……知らなかったの、ホントに失礼だわ。ホントごめん」

「……いっ、いいのよっ! 今知って、ちゃんとその目に焼き付いたでしょ! 私の姿が!」

「そりゃあ、もう」

 

 ヨヨヨちゃん、すっごいドヤ顔。ってか二人でスマホ覗き込んでるから顔近いな。

 ……しかしこの至近距離ドヤ顔、まったくもって嫌味じゃない。いや別に顔が良いからとかじゃなく、ドヤ顔するべくしてドヤ顔している。ヨヨヨちゃんの、シデロスのライブはそれほどまでにすごかった。

 

「ヨヨヨちゃん、これって他にもライブの動画ある?」

「もちろんあるわよ! えっとね、えっと……」

「あぁいや、きくりちゃんのライブ始まりそうだから今はいいよ……あぁそうだ、ロイン交換しとこう。そんで、あとで暇な時でいいから動画送ってほしい」

「えっ、ろっロイン? とっ、友だち登録……ってコト!?」

「え、うん」

 

 何をそんな動揺してるのかわからんが、俺はさっさとスマホを出してロインを開く。

 

「QRでいいか。どっち出す?」

「あっえっと、あっごっごめんちょっと、ちょっとだけ友だち登録するの久々で? ど、どこ開けばいいんだっけ……!?」

「いや、普通にホーム画面右上の……あっ」

 

 あっ。

 

 ……ッスー……。

 

「……画面右上の、人のマークな」

「あっこっこれね! 思い出したわ! えっと、じゃっじゃあ私が表示するから……!」

「お、おう……」

 

 ちらっと見えちゃったよ――ヨヨヨちゃんお前……友だちの数がッ!

 

 ヨヨヨちゃんの名誉のために具体的な数は言うまいが、あれは……家族や新宿FOLTの関係者の数を差し引いたら……。

 ……あぁ、なんか途端に悲しくなってきた。この悲しみを誤魔化すために登録名を『ヨヨヨちゃん』に変えておこう……。

 

「と、友だち……!」

「……えーっと。あぁ、そういやなんかいきなりヨヨヨちゃんとか言っちゃったしいつの間にかタメ口利いちゃってるけど、ヨヨヨちゃん何年生?」

「え? ……あっ、私高2よ高2! あなたより先輩!」

「あぁ年上……ヨヨヨちゃん先輩?」

「ヨヨヨちゃん先輩!? 取って付けたにもほどがあるでしょ!!」

「まぁ長いっすよね。ヨヨヨちゃんで行きますか」

「先輩の方妥協するの!?」

 

 うむ。ヨヨヨちゃん、響きが気に入っちゃったから。

 しかしまぁ、敬語は使っていこう。ヨヨヨちゃんはヨヨヨちゃんだけど、尊敬すべき人であることは間違いないからな。

 

「……って、やってるうちにもうライブ始まる時間なんですが」

「えっ? ……あっホントだ。あっ、えっと、それじゃあ……」

「うん、ヨヨヨちゃんまた……今度? うん、また今度。予定が合ったらシデロスのライブ見に行きたいんで。あと、ライブの動画お願いしますね」

「……しょ、しょうがないわねっ! とっ友だちだもの! 私が直々にチケット用意してあげるわよっ! あとライブの動画も今夜中には送ってあげるからっ!」

 

 ふんっ! と顔を背けつつもめちゃくちゃ口角が上がっているヨヨヨちゃん。

 俺が苦笑いしながら「ありがとうございます」と礼を言えば、彼女は俺の顔をちらりと見るなり頬を赤くした。

 

 ……うん、これはもう、あれだね。

 

 ――俺を呼び出した理由、完全に忘れてますね。今更だけど。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 さて。

 そのままの流れでヨヨヨちゃんと一緒にシクハックのライブを見ることになった。

 

 ……いやね、違うのよ。また今度って言ったし、ホントは結束バンドのみんなと合流するつもりだったのよ。でもね、ヨヨヨちゃんが一緒にライブを見たそうな目でこちらを見てくるから袖にはできなくって……。

 虹夏先輩と喜多さんからどこに行ったの的なロインが入っていたので『人混みに飲まれて終わったので別の場所で見てます』とだけ返信をし、ヨヨヨちゃんと共にフロアの端の方で壁に寄りかかっていたのだった。

 

「お客さんの数、やっぱりすごいっすね。いつもこんなですか?」

「えぇそうよ。姐さんたちのバンドはコアなファンが多いから、ワンマンの時は大きく増えたり減ったりはしない……というか、このハコだとキャパの500人ほぼいっぱい入ってるわ」

「なるほど……」

 

 そういや誰かが……確か、リョウ先輩が言ってた? いや言ってないかもしれない。

 わからんけど、とにかくコアなファンが多いってのは初耳じゃない気がするし、きくりちゃんのパーソナリティからして容易に納得できてしまう。

 

「……ってか、シクハックってジャンル的には何やってるんだ? ロック……?」

「あんた、そんなことも知らないで来たわけ? 呆れた……」

 

 呆れられてしまった。

 いやしかし何の反論もできねぇ……。

 

 ――と、俺がぐぬぬと歯噛みした次の瞬間、唐突に照明が落ちてフロアが暗闇に包まれる。

 

 そして、ステージの幕がゆっくりと上がり始めたかと思えば、色とりどりの光と音が一斉に溢れ出してきて、同時に大きな歓声が上がる。

 

「――う、おぉ……! めっちゃ盛り上がるじゃん……!」

「言ったでしょ、コアなファンが多いって」

 

 そ、そうか……いや、単純にキャパの違いもあるよな。俺が生で見たことのあるライブって要するにスターリーでのライブなんだが、スターリーのキャパは250人くらいだから今この場には単純に倍は人がいるんだし。

 それに加えて、シクハックの厳選されきった熱心なファンばかりが集まっているのだと考えれば盛り上がり方が倍では効かないだろう。

 

 ……まぁファンの盛り上がりには気圧されたが、それにしても……。

 

「何この……何? つ、掴みどころがないというか、目が回るような曲調は……」

 

 端的に言って、気持ち悪い。

 ……いや、貶してるわけじゃなくってね? なんか、リズムがすげぇ変だし、いまだかつて聞いたことがないというか……幻覚? 幻聴? 熱に浮かされたときに見る悪い夢をそのまま音楽にしたみたいな……とにかくこれは、これはなんなんだ?

 

 自分の中で答えを出せないままに、きくりちゃんが──否、SICK HACK(シク ハック)のベースボーカル、廣井きくりが歌い出す。

 

 ぬるりと、不気味に。

 

「──サイケデリックロック。まぁファンによって捉え方はいろいろだけど、一番よく言われてるのがそれよ。ドラッグで見る幻覚や幻聴をロックで再現した音楽……ってところね」

「ドラッグ、か」

 

 ヨヨヨちゃんの解説が、ストンと胸に落ちた。

 

 ドラッグ。

 これは、聞くドラッグってことか。

 

 あぁなるほど、なるほどよくわかった。

 この気持ち悪さと――癖になりそうな感じが、まさしく()()()なのだろう。

 

 廣井きくり。

 

 すごい人なのだとは思っていた。

 インディーズバンドとして成功していることは散々聞いていたし、実際にベースを弾いている姿も見て、素直に上手いと思った。

 

 すごい人であることを疑ってはいなかったが、ただ、今日まで知っていたわけでもなかったのだと気が付かされた。

 

「――すごいでしょ? 姐さんは」

「……すごいよ。カリスマだ。こんなライブが見れたのは……」

 

 ──こんなライブが見れたのは、そうだ、文化祭ライブという大舞台を控えた結束バンドにとって、後藤にとって。

 

 ……あの人は、そのために今日のライブに誘ってくれたのか。

 

「きくりちゃんも、ヨヨヨちゃんも……すげぇな。すげぇ」

 

 俺は、そう感じた。

 

 今、この会場で、このライブを見ている後藤は、何を感じているだろうか。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 二時間近くに及んだシクハックのワンマンライブは無事……無事? いや、とにかく終了した。

 

 シクハックのライブを毎回見ているらしいヨヨヨちゃんに言わせると、今回のライブはかなり平穏無事だったそうだ。

 途中のMCで言ってることが徹頭徹尾だいぶアレだったり最後の曲の途中できくりちゃんが観客の方にダイブしてたりはしたものの、機材も壁も床も壊してないし、酒は飲んでたけど客に向かって吹きかけてもいなければステージ上で吐いてもないし、本当の本当にかなりまともなライブだった──とのことである。恐ろしい。怪談かな?

 

 ともかく、ライブが終わって客がぞろぞろと帰り始めたところで、ヨヨヨちゃんとは別れることになった。

 俺は俺でなんとなく、なんとなくだけどヨヨヨちゃんと二人でライブ見てたことを結束バンドの面々に知られたくなかったし、何やらヨヨヨちゃんの方も結束バンドにあんまり会いたくなさそうだったので、長く一緒にいた割には慌ただしく別れの挨拶をするになったのだった。まぁロインは交換したし、また夜にでもやり取りすればいいんだけど。

 

 さらにその後、だいぶ客が捌けた頃に俺はようやく結束バンドと合流。

 本当にずっと一人で見てたのかと主に虹夏先輩と喜多さんから死ぬほど怪しまれたが俺は徹底的にシラを切り通して、シクハックの楽屋に招かれるところまで見事に凌ぎ切ったのであった。完全犯罪……じゃない、完全勝利であった。

 

「あっ、みんなお疲れ~! ねぇねぇいっくん、ステージから見えたんだけどなんでいっくんだけフロアの端っこで大槻ちゃんと」

「その口を開くなァーッ!!!」

「むぐゥーッ!?」

 

 そして、楽屋に現れるなりきくりちゃんが余計なことを言いやがりそうになったので、俺はとっさに彼女が肩にかけていたタオルを奪って顔面に押し付けて黙らせた。

 

「……ふぅ、危ないところだった……」

「むぐむぐむがー!」

「……此崎くん? いったい何が危ないところだったのかな?」

「廣井さんが何か言いかけていたわよね? 確か、オーツキチャン? って……」

「……はっはっは、そりゃ気のせいだぜ喜多さんよ。きくりちゃんは……お……お、俺がフロアの端っこで……お……おー……お、オーツ麦茶を飲んでたって言いたかっただけなんだぜ」

「オーツ麦茶!? 何それ!?」

「どういうこと!? 無理がありすぎるわ!?」

 

 そりゃお前、オーツ麦茶はオーツ麦100%使用の麦茶よ……決して大槻ちゃんなんて単語は言ってないんだぜ……。

 

「おーいイックーン! キクリ死んじゃうからそろそろ離してあげてネー!」

「そのまま永遠に静かになってくれてもいいけどな」

「っと、イライザさん、志麻さん、お疲れ様です」

「あっ、お疲れさまですー! ライブ、すっごくよかったです!」

「ですです! サイケデリックロック? ですよね! 今まで聞いたことないジャンルだったんですけど、私――」

 

 きくりちゃんに続いてイライザさんと志麻さんがやってきたことで、虹夏先輩と喜多さんから向けられてた矛先がどっかに行ってくれた。

 

 ほっと胸を撫で下ろした俺はきくりちゃんを解放すると、「何すんの~ひどい~」と腕をぺちぺち叩かれる。

 今の彼女の姿からはステージの上にいた時にいたカリスマを微塵も感じないが……まぁこういうギャップも魅力なんだろうと勝手に納得してしまうあたり、俺はだいぶこの人に惚れ込んでるのだろう。まったく、きくりちゃんは最高だぜ!

 

 もともとシクハックのファンだと言っていたリョウ先輩はもちろんのこと、虹夏先輩と喜多さんもやはり今回のライブにはかなり感動したようで、イライザさんと志麻さんを相手にして興奮気味に感想を言っている。

 

 ……ただ、一人。

 後藤だけが、なんだか浮かない顔でソファに座っていた。

 

 きくりちゃんが不思議そうに俺の顔を見てくるが、ご存じの通り俺はヨヨヨちゃんとライブを見ていたのでどうしてあんな感じになっているのかはわからない。肩をすくめるしかなかった。

 

「――ぼーっちちゃん? 私のライブ、どーだった?」

「えっあっ、よ、よかったです……はい」

 

 きくりちゃんが近付いていって後藤に直球で尋ねるが、返ってきたのはやっぱりどうにも気のない返事。きくりちゃんは困ったように首を傾げて「……ホントに? 実はびみょーだった?」なんて聞き返している。

 

 しかし、後藤もそこは「いっいえ」とどもりながらもはっきりと否定して、途切れ途切れに話し続けた。

 

「あっあの、ステージに立ってるお姉さん、すごくキラキラしてて、かっこよくて……でも、だからやっぱり、自分があんなふうに……たっ、たくさんの人の前で、文化祭でライブするんだって思ったら、自信がなくって……怖い……と」

「…………」

 

 きくりちゃんは後藤のたどたどしい言葉を最後まで黙って聞いて、それから一言、「そっか」とこぼす。

 

「……実はね、私って高校までは教室の隅っこでじっとしてるネクラな学生だったんだよ」

 

 ――そして、さらっとそんな爆弾発言をぶちかましてきたのだった。

 

「……え゛っ゛!?」

「はぁぁぁっ!?」

 

 後藤も、すぐ近くに立って話を聞いていた俺も思わず大声を出して驚いてしまう。

 

 いやだって、ネクラ? きくりちゃんが? い、陰キャ? きくりちゃんが? いやそれはちょっと……えぇ……?

 

「此崎くんぼっちちゃん、いきなりどしたのー?」

「あっいや、お、お気になさらず……」

「こ、こっちの話なんで……」

 

 虹夏先輩が気にして話しかけてきたが、後藤も俺もなんとなく誤魔化してしまった。いや別に秘密の話ではないんだろうけど……えぇ……マジかぁ……。

 

「……い、いっくんもぼっちちゃんもそんなに驚く? 特にぼっちちゃん、同じ陰キャとして引かれ合った感じしない……?」

「ぜ、全然……」

「そ、そっか……」

「……それ落ち込むとこなんすか?」

「や、私が勝手にシンパシー感じてただけかぁって思ったらちょっと……」

 

 そ、そう……。

 

「……いやいや、それで? きくりちゃんが元陰キャだっていうのは、まぁにわかには信じがたいけどひとまず信じるとして……なぜ突然そんなカミングアウトを?」

「あっうん。まぁね、私はあるとき『このままじゃ私の将来クソつまんなくね?』って絶望的な気分になっちゃってさ、それで今までと真逆の生き方を求めてロック始めたのよ。楽器店にベース買いに行くのもライブハウス行くのも怖かったし、ライブやるのだってもちろん怖かった。お酒飲み始めたのも、ライブの緊張誤魔化すためだったからね」

「そっ、そうだったん、ですね……」

 

 後藤が相槌を入れると、きくりちゃんはうんうんとしみじみ頷く。

 

「まぁ要するにね、ぼっちちゃんがキラキラしてるって言ってくれた私だって、最初はそんなもんなんだよ~ってこと! 初めて何かをするのは誰だって怖いよ。でも――ぼっちちゃんはもう、路上でも箱でもライブができたじゃん!」

「――っ!」

 

 きくりちゃんが後藤の手を握って、まっすぐに目を合わせながら言った。

 後藤は息を飲んで、それを受け止めた。

 

 きくりちゃんは、やっぱり後藤を勇気づけるために今日のライブに招待してくれたのだ。

 

「後藤」

「……うん」

 

 後藤に声をかければ、ほんの少しの間はあったが、確かな返事が返ってくる。

 

 一切の不安がなくなることも、一切緊張がなくなることもないだろう。

 でも、今の後藤には、間違いなくきくりちゃんから貰った勇気があった。

 

「――あの、お姉さん」

「んー?」

「文化祭ライブ……よかったら、来てください」

「……うん! 絶対行くよ!」

 

 えへへへへ、と陰キャと元陰キャが笑顔を交わす。

 

 なんとなく、安心する光景だな、と俺は思ったのだった。

 

 

 

 

 

「――あ、ぼっちちゃんもライブ本番でダメそうだったらお酒飲むといいよお酒!」

「みっ未成年です……」

「っつーか学び舎だよ」

 

 持ち込み厳禁だわ。

 

 ……おい持ち込むなよ? 絶対に持ち込むなよきくりちゃん!

 





謝辞ァ!

お気に入り評価感想ここすき誤字報告等々ありがとうァ! 定型文みたいだけど毎回感謝を込めてタイピングしてるァ!

次回もたぶん原作沿いだぞい!
早めに投稿したいぞい!
ぞい!
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