うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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久々の連日更新。
え? 日付的には隔日だろって? 俺が一回しか寝てねぇから連日なんだよ!

まぁとにかく読み飛ばし注意ってことよ。



#35 セットリストとあの子の決意

 

「よーし! 文化祭ライブのセトリ決めよ〜!!」

 

 ということになった。

 

 驚くなかれ、シクハックのライブが終わって一旦スターリーに帰り、それから近場のファミレスに入っての作戦会議である。

 

 高校生のバイタリティ、舐めんなよな! ……いや普通に疲れてんだけどさ。

 

「というか、その前になんか注文しません? 腹減ったんすけど」

「おっと、それもそうだ。じゃ、パパッと頼んじゃおう! 此崎くんとぼっちちゃんの終電あるからねー」

 

 そうそう。

 まぁ新宿からだと粘りに粘れば23時過ぎの電車で乗り換えまくって帰れるっぽいので、よっぽどだらだらしなければ焦る必要はないと思うけどな。

 

 ちなみにだが、結束バンドプラス俺の五人で入店したわけで、テーブルについては二人がけの席を三つ繋げてもらっている。

 片一方には俺、後藤、喜多さんの順番に並んで、その対面にリョウ先輩と虹夏先輩が座っている形である。

 

「伊地知先輩、何食べますか?」

「んー、あたしはとりあえず軽めにしとこっかなー。ちょっと時間遅いし」

「…………」

「後藤、お前どうする?」

「こ、此崎くんはもう決めたの……?」

「ああ。普通にがっつり食うわ。俺ら帰ってから腹減っても食うのはアレな時間なるしな」

「た、確かに……」

「…………」

 

 虹夏先輩と喜多さん、俺と後藤のそれぞれで注文用のタブレットを覗き込み、メニューを見てあれこれ相談をする……が、若干一名、まるで地蔵のように微動だにしていない人がいますね? さっきから腹の虫をぐーぐー鳴らしてますけど、乙女の恥じらいとかどこに置いてきちゃったんでしょうね?

 

「……此崎……」

「……リョウ先輩。今月、いくら貸したか覚えてます?」

「……い、一万円……」

「え? ちょっと、此崎くんいつの間にそんな貸してたの? 給料日に取り立ててるからって一万円はダメでしょ一万円は」

「いや、さすがにこれが限度額ですよ。実はこの人……」

「ちょ、ちょっと待って此崎。それは、その、今は……」

「何? ……もしかして、あたしに聞かれたら不都合ってこと?」

「い、いや……」

「……この人、今月の頭に残った給料とお小遣い目一杯で機材買ってたんすよ。そんで食費も生活費もなくなったっつって泣きついてきたんです」

「ほう……?」

「あっ、ああぁっ……こ、此崎……! な、なんで言っちゃうの……!」

 

 ……っつーか、今飯代渋ってるってことは渡した一万円もう使い果たしてるってことだよな。

 ホントこいつ……こいつさぁ……。

 

「山田」

「は、はい」

「ご飯抜きね。此崎くん、今月はもう一銭たりとも貸さなくっていいから」

「イエス、マム」

「あぁ、あぁぁ、ああぁぁぁあ……っ!」

 

 哀れなるかな、愚かな債務者は机に突っ伏し、ただ絶望の呻き声を上げるのみであった。

 

「……さ、さすがにリョウ先輩かわいそうじゃ……?」

「い、郁代~……!」

「喜多ちゃん、ダメだよ! こんなダメバンドマンに引っかからないの!」

 

 喜多さんが迂闊な発言をしてリョウ先輩が猫撫で声で喜多さんの名前を呼ぶが、虹夏先輩が睨みを利かせて牽制する。なんか見たことあるやり取りだな。

 

 ……というか。

 

「リョウ先輩、いつの間に喜多さんのこと名前で呼ぶようになったんすか?」

「え? 割と前から呼んでない?」

「マジっすか?」

 

 今気が付いた……。

 

「うっ、こ、此崎くん、別に気が付かなくてよかったのに……」

「んん? なんで?」

「だって……」

「郁代は郁代って呼ばれるの嫌らしい」

「……じゃあなんで呼んでるんすか、ってのは野暮な質問ですかね」

「野暮だね。特に此崎が聞いてくるのは野暮。だってそんなの――おもしろいからに決まってる」

「ですよね」

「ですよね、じゃないのよ此崎くん……」

 

 人が嫌がることは進んでやりましょうって学校で習うもんな。

 さすがだぜ、リョウ先輩……。

 

「後藤決めたか? 俺のは選んでるから注文しちゃっていいぞ……で、郁代ちゃんはどうして郁代ちゃん呼びが嫌なわけよ」

「ちょっと此崎くんやめて!? 此崎くんに郁代ちゃんって言われるの本当に嫌!」

「は、はい……すみません……」

「喜多ちゃん、此崎くんが本気で傷付いた顔してるからもうちょっと手心を……」

「あ、ご、ごめんなさい……でも私、郁代なんていうしわしわネームホントに嫌なの! 来た~! 行くよ~! ってバカみたいだし!」

「おいおいそりゃあ神奈川県横浜市在住の此崎衣久くんにも刺さるからやめろよ。いいだろ自己紹介するだけで一笑いとれるし」

「嫌、嫌よ……私の名前は喜多喜多……喜多喜多なのよ……!」

 

 そっちの方が変だろ絶対。

 

「――って、ちょっとちょっと話脱線しすぎ! みんな料理注文したし、セトリ決めだよセトリ決め! あと練習のスケジュールとか、いろいろと話し合わないといけないことあるんだから!」

「ちょっと待って虹夏、話は終わってない。まだ誰が私に今日の晩御飯を奢ってくれるのかという重大な問題が」

「はいはい。喜多ちゃん、ぼっちちゃん、ライブでやりたい曲ある? あれからいくつかオリジナル曲増えたけど……」

「…………」

 

 虹夏先輩、堂々の無視である。

 重大な問題は抱えて眠れってさ、山田。

 

 ……その後、あーでもないこーでもないと文化祭ライブのセトリ決めは進行していく。

 

 途中、頼んだ料理が順番に届いていよいよリョウ先輩の腹の虫の断末魔がやばくなり、また喜多さんがほだされそうになっていたが、やはり虹夏先輩がそれを制止していた。

 

 それにしても虹夏先輩が言ってた彼氏にしてはいけない3B、あれはとても勉強になりましたね。

 ベーシスト、ベーシスト、ベーシスト……前の二つはよくわかるよ。俺の知ってるベーシストがそのまま当てはまるから。もちろん山田ちゃんときくりちゃんのことである。

 

 ……ま、とか何とか散々言いつつ、結局他でもない虹夏先輩がリョウ先輩に奢ってあげることになったんだけどな。

 虹夏先輩が気まぐれに与えたポテト一本で涙を流しながら喜ぶリョウ先輩に罪悪感を覚えたのが運の尽きだった。虹夏先輩、たぶんもう手遅れ。

 

 ともかく、多少のブレイクタイムは挟みつつもそこそこ真面目に話し合って――。

 

「――よし、じゃあ一曲目は『忘れてやらない』で決まりね。明るい感じでバッチリお客さんの心を掴んで、次に『星座になれたら』でちょっと落ち着かせる、そっから最後に『ギターと孤独と蒼い惑星』、この前のリベンジも兼ねてかっこよく締める! ……って感じでいいかな?」

「はい! いいと思います!」

「異議なし」

「あっ、わっ私もいいと思います……」

「一曲あたり4分くらいだから、さんしじゅうに……あと三分ならMCで時間潰せそうですね。冒頭挨拶……は、なしにして、曲と曲の間に挟む感じにしますか。ほら、今日のシクハックのライブもいきなり曲始まったじゃないですか」

「あ、それいいね! 『忘れてやらない』ならイントロも迫力あるし、全然アリだよ!」

「……それにしても、全部オリジナル曲って結構攻めてますよね。軽音部の友だちに聞いたらどこもコピーばっかりやるらしいんですけど、大丈夫ですかね……?」

 

 喜多さんの意見はもっともだと思った。

 

 結束バンドのオリジナル曲はどれも良いものだが、はたして文化祭という場所で、秀華高の生徒たちを相手にどこまで盛り上げることができるだろうか。

 喜多さんが割と有名人だし完全なアウェーというわけではないけれど、だからってホームとは到底言い難い。

 

 ただ……。

 

「ちょっと前に虹夏先輩と話し合ったんだけど、ここは玉砕覚悟でもオリジナル曲がいいと思うぞ」

「うん、もちろんコピーの方が盛り上がると思うんだけどねー。ほら、あたしたちは結束バンドとして出演するんだから、結束バンドの曲を聞いてもらわなくちゃ! ……あと、あたしたちオリジナル曲の練習ばっかりしてるから、今からコピーやるのも……ね?」

「そ、それもそうですね……」

 

 うむ、なんならそのオリジナル曲すらまだまだ練習が足りてないからな。『ギターと孤独と蒼い惑星』をトリに持ってきてるの、もちろん曲の雰囲気とかはあるけど一番練習できてるからってのもあるし。曲の完成時期的にどうしてもね。

 

「まぁとにかく大丈夫! 文化祭なんてよっぽどじゃない限り盛り上がるものだしね!」

「そ、そうですよね!」

「そう、よっぽどじゃなければね……まぁ仮に滑っても四人で痛みを分かち合えばいい。もしくは此崎と郁代に漫才でもやってもらおう」

「どうして私と此崎くんなんですか!?」

「此崎いく・いくよ師匠ということでここはひとつ」

「なんかちょっと聞き覚えあるけど絶対に違う漫才コンビみたいな感じでまとめるのやめてくれません?」

 

 わかんないけど絶対古いのよ。古すぎて元ネタがわかんないのよもう。

 

「……あ、そうだぼっち」

「……あっはい!?」

 

 不意にリョウ先輩が空気の化身たる後藤に話しかけると、空気の化身はめっちゃでかい声で返事をした。マジでクソうるせぇ。

 

 あと余談だが空気の化身についての現状報告をしておくと、複数人での会話に参加する能力低すぎてとっくの昔に飯食い終わっている。俺の倍は早かった。

 

「これ、二曲目。『星座になれたら』にギターソロ入れよう」

「……えっ!?」

「ぼっちと郁代の文化祭でしょ。郁代はボーカルだから絶対に目立つし、あとはぼっちにも見せ場があった方がいいと思って」

「あっうっ、ぎ、ぎぎぎギターソロ……ッ!」

「おー! いいじゃんそれ! リョウ、ナイスアイデア!」

 

 あっあっあっ、と後藤の小さな鳴き声が隣から聞こえてくる。リョウ先輩の気遣いと虹夏先輩のお墨付きで退路を断たれたと感じたのだろう。

 

 ちなみに実際絶たれている。

 なぜって、俺が必ず断ってみせるからだ。

 

 ……と、決意を固めたはいいのだが。

 

「…………」

 

 この時に限っては、変な鳴き声を上げている後藤のことよりも。

 

 明らかに浮かない顔で視線を落としている喜多さんの横顔が、やけに気になってしまった。

 

 

    ♪ ♪ ♪

 

 

 ()はふと、立ち止まった。

 

「――あのっ、後藤さん! 此崎くん!」

「はっはい!?」

「ん? どした?」

 

 そして、今の今まで一緒に並んで歩いていた後藤さんと此崎くんが、数歩分前から私の方に振り向く。

 

 ファミレスでの会議を終えて、駅までの帰り道。

 家まで持って帰ってしまおうかとも思った気持ちを私は抱えきれなくなって、たまらず声を上げてしまったのだった。

 

「…………」

「……き、喜多さん? どっ、どうしたんですか……?」

 

 ……でも、そこまでで、私は黙り込んでしまう。

 そこまでっていうか、本当に突然名前を呼んだだけになってしまった。

 

 後藤さんは露骨に困惑しておろおろし始めて、此崎くんは無言で私をじっと見てきている。

 後藤さんはよくわかっていなくて、逆に此崎くんはすべてお見通し……対照的過ぎる二人の反応が、私の心を余計にかき乱した。

 

 ――私の中にあるのは、罪悪感だった。

 文化祭ライブの出演を、私が独断で決めたことへの罪悪感だ。

 

 伊地知先輩やリョウ先輩が出演に前向きだったこと、此崎くんも反対していたわけではないこと、そして後藤さんが最後の最後で出演しないことを選んだけれど本当はライブをしたい気持ちがあったこと――そんなのは全部、理由じゃない。

 

 私は、私が文化祭でライブをやりたかったから。

 私が、後藤さんに文化祭でライブをしてほしかったから。

 

 私は結局、完全に自分本位な理由で、もしかすると後藤さんが死んじゃうかもしれないとわかっていながら勝手にライブ出演の申込用紙を提出したのだ。

 

 後藤さんの――〝ギターヒーロー〟の動画を、私は全部見た。江の島に行ったあの日、此崎くんから教えてもらった後藤さんの本当の姿。

 

 画面の中のギターヒーローは、本当に、本当にすごかった。

 

 素人の頃の私でもきっと素直に「すごい」と思っただろうけど、ギターを始めた今だからこそ、より鮮烈に、より明確にギターヒーローの実力を感じ取ることができた――否、できてしまったのだ。

 

 此崎くんは、後藤さんがゆっくり、少しずつ実力を発揮できればそれでいい、だから後藤さんにプレッシャーをかけないようにと、後藤さんがギターヒーローであることをずっと知らないふりしている。

 ……まぁ、此崎くんに関してはそれが理由の全部でもなさそうだけど、かと言ってまるっきり嘘だというわけでもないはず。たぶん。そうじゃないと……すごく、困るわ。

 

 伊地知先輩は、後藤さんがギターヒーローであることに気が付いた、ということを後藤さん本人に伝えている。此崎くんがそう言っていたのもあるけれど、一度伊地知先輩ともギターヒーローについて話をして、その時に直接聞いたのだ。

 後藤さんに直接確認してしまった理由はあんまりはっきりしていないみたいで「なんかその場の流れでつい……」なんて言っていたけれど、伊地知先輩のことだからきっと何か考えがあってのことだとは思う。それも、後藤さんのことを慮るような考えだろう。

 

 リョウ先輩は、此崎くんと同じように後藤さんには何も言っていないらしい。

 伊地知先輩と同様にリョウ先輩とも話をしたところ、リョウ先輩は「後藤さんから何も言ってこないのだから別に言いたいわけでもない、だったら自分からも何も言うまい」と単純明快なスタンス。

 きっと、リョウ先輩は熟考に熟考を重ねて後藤さんの今までと今後を見据えて……というわけではなかったとしても、こう、直感的に、こう……ご、後藤さんのためを想ってのことに違いない。す、少なくとも此崎くんと同じように後藤さんを焦らせたくないという思いがあるはず。おそらく。そうじゃないと……すごく、困るわ。

 

 とにかく何が言いたいかというと、三人には三人なりの、ギターヒーローに対する考えがあって、スタンスがあるということだ。

 

 ――じゃあ、私は?

 

 私は、どうしたらいいのだろうと考えた。

 私は、どうしたいのだろうと考えた。

 

 そうして私は――後藤さんを、みんなに知ってもらいたいと思ったのだ。

 

 後藤さんは、こんなにすごいんだぞ、って。

 

 後藤さんは、ヒーローなんだぞ、って。

 

 ……でもそれが、こんなやり方でよかったのか、って。

 

 ずっと、ずっと悩んでいた。

 ずっとずっと開き直ろうとして……それが結局、無理だったのだ――。

 

「――ごめん、なさい」

「え?」

「ご、ごめんなさいっ!!」

「えっえっえっ!?」

 

 私は、気が付けば後藤さんに深く頭を下げていた。

 あとはもう、堰を切ったように止まらない。

 

「私、後藤さんの気持ちを無視して、勝手にライブの申し込みしちゃって! 今日までずっと自分と後藤さんに言い訳して……説明もしないで、勝手に開き直ろうしてたのっ。でも、やっぱりごめんなさいっ! 後藤さんが人前に出るの苦手で、それをゆっくり克服しようとしてるってわかってて、なのに私は自分の我がままを押し付けて……」

「……喜多さん……」

 

 顔を上げるのが、怖かった。

 

 後藤さんが怒るところを想像できない。

 でも、今顔を上げたら、いったいどんな目で見られてしまうのだろうと考えるだけで、怖くて仕方なかった。

 

「きっ喜多さん」

 

 後藤さんが、私の名前を呼ぶ。

 

「――あっ、ありがとうございます」

「……えっ?」

 

 そして、続けられた言葉があまりにも予想外で、私は思わず顔を上げてしまった。

 

 長い前髪の奥にある瞳が、まっすぐに私を見据えていた。

 

「さ、最初は驚いたし、その、どうしようって思ってたんですけど……今は、ちょっと楽しみっていうか。お姉さんのライブ見て、リョウ先輩にギターソロもらって……不安はやっぱりあるけど、がんばらなきゃって気持ちと、嬉しい気持ちもあって」

 

 後藤さんは一瞬目を逸らし、誤魔化すように少し笑ってから、もう一度私の目を見つめてきた。

 

「だっだから、感謝、してます。きっ、喜多さんがライブの申し込みをしてくれてなかったら、今の、こんな気持ちはなかったと思うので。たぶん、後悔してた、かも。だから……ありがとう、って」

 

 息が詰まった。

 同時に、胸の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

 

 それは、どうしようもないほど熱くって――。

 

「――後藤さんっ!」

「はっはい!?」

 

 私はその熱に浮かされるまま後藤さんに駆け寄って、その手を取って強く握る。

 

「私、もっともっと練習がんばるからっ! 絶対、絶対成功させましょうね!! 文化祭ライブ!!!」

「……あ、あっはい」

「――あっ、此崎くんもだからね! ボーカル練習、いっぱい付き合ってもらうんだから!」

「……あー、おう。もちろん」

 

 文化祭本番まで、残された時間は少ない。

 

 私は、今日この時、決意を新たにした。

 結束バンドのギターボーカルとしてがんばる、だけじゃない。

 

 後藤さんと、ギターヒーローと同じステージに立っていても恥ずかしくないように、胸を張れるようにがんばりたい――がんばるんだ。

 





次回、文化祭。
見てくらはい!
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