Q.学校での評判が地の底まで落ちている此崎が結束バンドの四人と文化祭を回るためにはどうしたらよいでしょう?
棺に納めた後藤の遺体を四人で持って、一年二組の教室までの道のりをゆく。
せっかくだから全員で肩に担いで踊りながら歩こうという俺の提案は却下されて、あくまでしめやかな、あくまで厳かな、あくまで粛々とした出棺である。
そして、一年二組に辿り着けば先ほど会ったメイド女子二人が入り口に立っており、棺を持つ俺たちを見るや否や「えええええええええええええええ!?」という盛大な驚嘆で出迎えてくれたのであった。
「さて、どうしよっかぼっちちゃん。蘇生を試みる?」
「や、その辺に立たせておけばいいんじゃないですかね。なんか……持ち手付きの看板とかあればそれ持たせて」
「カ○ネル・サンダ○スみたいな?」
「だいぶ違うと思いますけど……」
とりあえず棺から後藤を出して扉の隣に立たせてみる。
……うむ、支柱なしで自立しそうだな。上等上等。
「あ、ごめんなさい、ちょっといい? 何か後藤さんに持たせられそうな看板とかないかしら?」
「……えっ!? あっ、かっ看板なら一応あるけど……え、喜多ちゃんその……ご、後藤さん大丈夫、なの……?」
「大丈夫! ちょっと死んじゃってるだけだから!」
「ちょっと死んじゃってるの!?」
「大丈夫! いつものことだから!」
「いつものことなの!?」
……ふっ、なんだか喜多さんが懐かしいやり取りしてらぁ。
後藤の奇行や他界にいちいち驚いていた喜多さんが、困惑する後藤のクラスメイトたちを諭す側に回っている……立派に成長したもんだ。
と、俺がしみじみとしている間に虹夏先輩とリョウ先輩が後藤のポーズを調整してくれていた。
あとは喜多さんが受け取った看板を持たせれば……。
「……思ってたよりいい感じ、だね」
「客寄せになる……かしら?」
「客避けになりそう」
「迷惑になるようだったら撤去しましょうや」
撤去って、と虹夏先輩と喜多さんがジト目で睨んできたが、ここまで作業に加担しておいて俺を責める権利はないと思いますね。
「ま、とりあえず後藤はこれでいいな。さて、そんじゃあ……入るかメイド喫茶ァ!」
「此崎うるさい」
「声大きいよ此崎くん」
「迷惑だわ此崎くん」
「え、入るんだ……」
「後藤さんあれで良くないでしょ……」
その場にいた女性全員から総ツッコミを受けても気にしない。
俺は鋼の意志(女子全員から白い目で見られた時に強い意志を持ち持久力が回復する)を持って、一年二組のメイド喫茶へと足を踏み入れたのであった。
♪ ♪ ♪
──俺が、俺たちが!! ご主人様だ!!!
ということで、後藤(故)を除く結束バンド三人と俺の四人は引き攣った笑顔のメイドさんに案内されたテーブルに座る。
引き攣った笑顔のメイドさんに引き攣った笑顔のままメニューを渡されたので、俺は爽やかな笑みを浮かべて「ありがとう」と言うと逃げるように去っていってしまった。
「……照れ屋さんだな!」
「此崎くん、現実見な?」
「悲しいポジティブシンキング」
「此崎くんが壊れちゃったわ……」
現実ってなーに? あと壊れてないんだが?
よくわからないことを言ってくるよくわからない人たちのことは無視し、俺はうきうきしながらさっそくメニューを開く。
「……って、いやオムライスしかねぇな」
「ホントね……えっと、『ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス』……?」
「此崎、私たちにも見せて」
「どれどれ~? 『ユニコーンのゆめかわきら☆きらオムライス』、『もぅむりまぢむり……やみ†かわオムライス』、『ぼよぼよアゲアゲ↑↑わっしょいオムライス』……ホントにオムライスしかない、っていうかもしかしてこれ全部一緒じゃ……?」
……予算の都合……ですかね……。
「……ま、まぁつまり、悩む余地はないってことっすね。よし、それじゃあ俺は『ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス』にするぜ!」
「ちょっとかわいく言うのやめてほしいわ此崎くん、鳥肌立っちゃった」
さっきから喜多さんの発言が厳しくって泣きそうだけど、俺は心を奮い立たせて注文をするべく教室内にいるメイドさんを探す。
……が。
「……なんか目が合うメイドさんたちにことごとく顔を背けられるんですけど……?」
「えーっと……ぼ、ぼっちちゃん蘇生して注文取ってもらおっか? もう此崎くんがこのクラスの女子から信頼を取り戻すことは不可能っぽいし……」
「…………」
俺はテーブルに顔を伏せた。
「泣いちゃった……」
「哀れ」
「……あっ、ちょっと此崎くん! 泣いてる場合じゃないわよ!? 後藤さんが……!」
「……なんだよ……後藤がおもしろいって……?」
「いや違う。世紀末的風貌の輩に絡まれてる」
「なんて?」
思わず顔を上げたらリョウ先輩が「ほれほれ」と言わんばかりに後藤が立っている扉の方を指差していた。
マジでどういうことだよ、と思いながら教室の入り口を見て見れば……そこには確かに、筋骨隆々な肉体に袖を引き千切った学ランをそのまま羽織り、サングラス、一本歯の下駄を履いたモヒカンと弁髪の世紀末的風貌の男二人がいたのだった。
「すげぇ……おでこに『死』と『鬼』って書いてある……」
「なんでそんなところに感心してるの!? というかあの二人組どうやって校内に入れたの!?」
「此崎くん! 本当に感心してる場合じゃないわよ!」
いや感心するだろ……なんでおでこに書いてるの……?
あと喜多さん、「大変大変後藤さんが大変」と身体を揺すってくるけどあんな世紀末的風貌の輩たちに俺が勝てるわけがないでしょ。
「――お嬢ちゃあん? こんなところで看板持ちしてるくらいなら俺らと遊ばなぁい?」
それでも一応固唾を呑んで見守っていると、世紀末的風貌の輩が後藤のことをナンパしていた。
いやナンパするんかい、と心の中でこっそり突っ込んだが、しかし……。
「――なっ、こっ、コイツ俺たちのガン飛ばしにビクともしねぇ!? ……というか……?」
「……こっ、コイツ、息してねぇ!? し、死体だ!! 死体を飾ってやがる! 死体を飾ってやがるんだこの店!!」
「ヒ、ヒィィィ~! なっ、なんて恐ろしい店なんだァ~!?」
「ス、スイヤセンでしたァ~!!」
「……きゃ、客避けに役立ったね……」
「あれはむしろ風評被害になりませんか……?」
「やっぱり撤去?」
「撤去だな」
ついでに蘇生して注文取ってもらお。
ザオラルを二度唱えることで後藤の蘇生に成功した。
後藤はゴミ捨て場での記憶を完全に忘却していたが、そんなことより『ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス』である。
「あっこちら『ふわ☆ぴゅあとろける魔法のオムライス』で……あっ違……こっこれは『もぅむりまぢむり……やみ†かわオムライス』……?」
「何か違いあるの?」
「なっないです……」
「ないんだ……」
「めっメイド服で予算なくなったから全部冷凍食品で……」
やっぱり予算の都合だったのか。まぁ後藤のメイド服然り、生地とかがあんまり安っぽい感じがしないんだよな……。
「……ねぇねぇ店員さ~ん? このおいしくなる呪文ってやつ、ひとつくださ~い!」
「えっあっうっ」
「ぼっち、お客様は神様。いつもスターリーで教えてること」
「リョウ先輩がそんな態度で接客してるとこ見たことないんですがそれは」
「リョウ先輩が神様だから仕方ないわよ此崎くん」
急に狂ったこと言い出すのやめてくんねぇかな喜多さん。さっきまでツッコミ側だったじゃん。
ともかく虹夏先輩とリョウ先輩がめちゃくちゃ悪い笑みを浮かべながら詰めると、後藤は観念したようにべちょっとしたハートマークを胸元で作る。
「あっふわふわぴゅあぴゅあみらくるきゅん、オムライス美味しくなれ……へっ」
「うわっあぶね」
「此崎くんぼっちちゃんの呪文避けたな!?」
「はむっ、むぐむぐ……パサついてる」
「れっ冷凍食品なので……」
後藤のどろどろべちょべちょな呪文が飛んできたので俺はギリギリで回避したが、先輩たちのオムライスにはしっかり飛び散ったのが見えた。
案の定リョウ先輩は口に運ぶなりあんなことを言っているし虹夏先輩もあきらかに微妙そうな顔をしているので、咄嗟に避けて正解だったみたいだ。
「――ちょっと後藤さん! そんなんじゃダメよ! もっと愛情込めて唱えないと!」
「どうした急に」
隣に座っている喜多さんが立ち上がり、右手を掲げてポーズを取り始めた。こわい。
「見てて後藤さん、こんな感じ! ――ふわふわ~♡ ぴゅあぴゅあ~♡ みらくるきゅんっ♡ オムライスさんっ☆ おいしくなぁ~れっ♡」
きたーんっ! と、女児向けアニメの変身シーンを彷彿とさせるキレッキレの動きと共に喜多さんが呪文を唱えると――。
「っ!? ケチャップの程よい酸味とソースの甘さが溶け合って暖かな家庭を感じる味に変わった……!?」
「もぐもぐっ! スプーンを運ぶ手が止まらない……っ!」
虹夏先輩とリョウ先輩がプラシーボ効果にやられていた。
絶対気のせいだろ、と思いながら俺もオムライスを食べる。
「……んむ、まぁ普通の冷食オムライスだな。後藤のアレよりは喜多さんのソレの方がマシだろうけど……」
……オムライス、オムライスなぁ。
ついこのあいだ虹夏先輩に作ってもらったばっかりだし、どうしてもそれと比較しちゃうんだよなぁ。
「……虹夏先輩、また今度オムライス作ってほしいです」
「えっ、なっ何? 急に何?」
「いやぁ、あれ美味しかったなぁと」
「ちょ、ちょっといきなり真面目な顔やめてよ!? 恥ずかしいんですけど……!」
「……なんか急にイチャつき始めた」
「伊地知先輩、顔赤いですよ~?」
「イチャついてない! 喜多ちゃんもニヤニヤすなっ!」
「……おう後藤どうした? 目が死んでるけど」
ohゴトウさん俺と虹夏先輩交互にwatch メガコワイ メガコワイネ。
……と、結局いつもの五人でごちゃごちゃわちゃわちゃしていたわけだが、ふと、先ほどから何かと顔を合わせている一年二組の女子二人がテーブルに恐る恐るといった感じで近付いてきて「喜多ちゃん、ちょっといい?」と話しかけてきた。
「なにかしら?」
「喜多ちゃん、さっきやってた美味しくなる呪文すっごい可愛いと思って。よかったらうちのクラス手伝ってくれないか~って」
「え、もちろん! 実はメイド服久しぶりに着たかったの!」
「ひ、久しぶり……? ……あっ、そちらの、喜多ちゃんのバンドの先輩さんたちですよね? お二人もよかったらメイド服着てみませんか?」
「え、いいの! 着てみたい着てみたーい!」
「ギャラはいくら?」
「私がいくらでも払いますっ!!」
「喜多ちゃん隙あらば貢ごうとするのやめなさい」
なんか、そういう流れになった。
あぁいや喜多さんがリョウ先輩に金払ってコスプレしてもらう、とかじゃなく。
――それからしばらく俺と後藤は取り残され、やがてメイド服を着た虹夏先輩と喜多さん、そしてなぜか一人だけ燕尾服で執事スタイルなリョウ先輩が戻ってきた。
「――じゃじゃーん! どう? 此崎くん、後藤さん?」
「最高……」
「あっとっとっても似合ってます……」
「あたしもどうかなー? 我ながら結構似合ってると思うんだけど?」
「神に感謝……」
「あっとっとっても似合ってます……」
「私はどう?」
「今月の借入限度額倍増……」
「あっとっとっても似合ってます……」
どうしよう……あああ最高だ……お互いよく知った仲の先輩と同級生がメイド姿&執事姿……最高……!
「すいません一緒に写真いいですか……」
「此崎くん泣きながらそれは本当にキモい……」
「そこまでのリアクションは求めてないわ此崎くん」
「一枚一万円。これ以上はまからない」
「じゃあ……三枚……ッ!」
「やめんかっ!」
財布を取り出す手を虹夏先輩に引っぱたかれた。クソっ、あとで口座に振り込むから番号教えてくれリョウ先輩……ッ!
「ほら此崎くん、いい加減にしないとぼっちちゃんのクラスの子たちに通報されちゃうよ? もうスマホ片手に持ってる子もいるよ?」
「くっ……やむを得んっ!」
「それってどっち? 自重してくれるの? それとも通報がやむを得ないの?」
そりゃあ……ねぇ?
俺は決死の覚悟でやはり財布から万札を取り出し、リョウ先輩に握らせようと一歩歩み出ようとする――が、スッと両サイドから近付いてきた虹夏先輩と喜多さんが、ぽん、と俺の肩に手を置いた。
「……なんですか、二人とも……今の俺は国家権力だって恐れませんよ……?」
「まぁまぁ、此崎くん」
「そうよ此崎くん。――私たちに、良い提案があるの。早まらないで欲しいわ」
「……何?」
――それは、予感であった。
嫌な、予感だ。
「此崎くんって――実は、結構かわいい顔してるよね?」
「……正気か?」
「察しがいいわね? 此崎くん……じゃあ、ね?」
「……はっ、いやいや、何をバカな……」
「此崎、メイド好きでしょ。だったら」
「待ったリョウ先輩、あんたもそっち側なのか」
「……? あっあの、み、皆さんなんの話を……?」
後藤だけが、話を理解していないようだった。
そう、この場にいる全員――後藤のクラスメイトのメイド女子二人はもちろん、おそらく小耳に挟んでいただけの一年二組の女子たち、そして店にいる客までもが、すべてを理解した上で俺をじっと見つめていた。
「此崎くん、わかるでしょ? これはチャンスなんだよ」
「ちゃ、チャンス……な、なんの、ですか……」
「
「……いや……いくらなんでも……」
静かな声音で諭すように囁いてくる虹夏先輩と喜多さん。
しかし、俺はそんな悪魔のささやきに動揺こそすれ、ギリギリのところで踏みとどまっていた。
が。
「――逃げるんだ?
リョウ先輩が、そう言い放った。
おもしろそうなことから……逃げている?
この、俺が?
「――やってやろうじゃねぇかよこの野郎!!!」
♪ ♪ ♪
三十分後。
「――これが……アタシ……?」
俺は――否、アタシは生まれ変わっていた。
「……ど、どうしようリョウ、これは思ったより……」
「う、うん……」
「きゃーっ! 此崎くんかわいい! すっごいかわいいわ! 本当に想像以上! 想像以上の出来栄えよーっ!」
「…………」
身に纏うは虹夏先輩や喜多さんが着ているようなスカート丈の短いフリル多めのメイド服――ではなく、なぜか一着だけあったクラシカルで落ち着いた雰囲気のそれ。
長い袖と長いスカート丈が武骨な身体の線を覆い隠し、また肩幅すらもちょうちん袖、あるいはパフスリーブというらしいありがちな装飾で上手に誤魔化されている。
そしてこれまたなぜかあった黒ロングのウィッグを被ったことで元の髪色を維持しつつ、より女性らしい印象を与え、必須装備である純白のカチューシャが一層映えるようだった。
メイクもまた、必要不可欠であった。
この時点で喜多さんを筆頭に一年二組の女子たちがだいぶ異常なテンションになっていったわけだが、各自が手持ちのコスメを持ち寄ってああでもないこうでもないと言いながら完全にお人形扱い。
最終的には喜多さん主導の下で、決してわざとらしくないナチュラルなメイクが施された。
仕上げとしてさらに三点。
どうにも手先指先が女性らしくないということで真っ白な手袋を装着し。
メイド服の長い襟をもってしても意外に目立つ喉仏を、またもやなぜかあった黒のチョーカーを付けることで隠し。
そうして最後には真面目さを演出するとかなんとかで、またまたなぜかあった伊達の丸メガネをかけさせられ。
「……どうしよう虹夏先輩、俺、マジで俺に惚れそうです」
「う、うん……いやホントにすっごい可愛いよ……もうちょっと女の子っぽく喋れない?」
「ん、ん˝ん˝……あー、あーあー、こんな感じ?」
「やば……」
やばいか……いややばいよな……
――そう、完成してしまったのだ。
黒髪ロング丸メガネクラシカルメイド此崎ちゃんが。
我ながら、磨いてここまで光るとは。
「此崎くん――いえ、此崎さん!! 私と一緒に写真撮りましょう!! アプリで盛ったらもう手が付けられなくなるわ!!!」
「う、うん……」
でも喜多さんの興奮の仕方は正直ちょっと怖い。あんまり喜多さん相手にこういうこと言いたくないんだけど、鼻息が荒いんだよ……。
喜多さんにめちゃめちゃ纏わりつかれていろんな角度から写真を撮られていると、今度はリョウ先輩が何やら近寄ってくる。
「此崎、おいで」
「え……は、はい……?」
「や、やだ、リョウ先輩……!?」
リョウ先輩がいつも通り何考えてるのかわからない顔のまま手招きをするので、俺は不思議に思いつつも、何の警戒もせずにのこのこと彼女の目の前まで歩み出て――。
「――うん、本当に可愛いね、此崎」
「えっ……」
――顎クイ、である。
女子たちの黄色い悲鳴が上がる。
一番大きい悲鳴を上げてるのはもちろん喜多さんである。
「や、ちょ、リョウせんぱ――」
「顔、赤いよ? 恥ずかしいんだ」
「い、いや――」
「――ちょーっとストップストップ!! リョウ、からかい過ぎ! 此崎くんもホントにときめいてる顔しないのっ!」
……い、いやいや、ときめいてない、ときめいてないよ……ただちょっと動悸が激しくなって胸が苦しくなって顔が熱くなっただけで……。
俺が胸元を抑えながら少し俯いている間にも周囲ではカシャカシャパシャパシャとシャッターを切る音が止まず、顔を上げればさらにそれは増す。
おいなんか流石に人気者過ぎねぇか? とちょっと冷静になりかけたところだったのだが……喜多さんが、畳みかけてきた。
「――ほら後藤さん! 今度は後藤さんの番よ! さっき此崎さんに褒めてもらったんだから、後藤さんも褒めてあげないと!」
「あっうっ……え? あの、此崎くんに褒められたって何の話で……?」
「ほらほらいいから! 此崎さんもこっち向いて、ほら!」
喜多さんに誘導され、文字通り衆人環視の中で後藤と向き合う。
さっきから他のみんなは過剰なくらいに反応を示しているが、そう言えば後藤だけは何も言ってこない。
「……えっと、後藤」
「……う、うん」
「……どう、かな?」
なんで、心臓がうるさいのだろう。
そんなことを思いながら、俺は後藤に尋ねた。
後藤は、しばらく目を泳がせた後――ねちょっ、と、いやらしい笑みを浮かべながら、口を開いた。
「――あっふひっ、あっかっかわっ、こっこここ此崎くんっ、かっ、かわ、かわいいとおっ、思うよ……ふひっ」
「キモ過ぎんだろ……」
キモ過ぎた。
たぶん無駄に注目を集めたがゆえの緊張のせいだろうけど、キモ過ぎた。
俺の頭は冷えた。
――さて。
それから俺たちは一年二組のメイド喫茶を少し手伝って、午後からはそのままの格好で文化祭を見て回った。
もちろん、俺もだ。
……おっと、勘違いしないでいただきたいが、
これは、俺が俺の身を守るために必要な決断だったのだ。
あと、せっかく可愛く仕立ててもらったのにすぐに着替えてしまうのがもったいないと思ったのだ。
大事なことなので二回言うが、決して目覚めてしまったわけでもないし、頭がおかしくなったわけでもないのだ。
自分の身を守るというのはすなわち、クラスメイトの男子を主とした顔見知りたちと通りすがるたびに肩パンされて肩がなくなってしまうことを回避するということである。
夏休み明けに喜多さんのイソスタに写り込んでいただけ……いやだけじゃなく俺の方から喧嘩売ったのもあるが、とにかくそれだけで散々な扱いを受けたのに、文化祭で四人と一緒に行動していたらそりゃあもう大変なことになっちゃうだろう。俺の肩が。
ということで、俺は女装しておく必要があったんですね。
実際、途中でクラスメイトとすれ違っても八割方気が付かれず、気が付かれた場合にも「えっおま此崎おまっ? えっえっおま、えっ? このっえっこのさっえっあっえっ? おまっおまえ此崎おまっ、えっ?」と大抵相手の脳がバグるだけで済んだので、非常に平和だった。
メイド四人と執事一人であちこち動き回るのはなかなかに目立って、写真撮影なんかも頻繁に求められた。
俺や喜多さん、リョウ先輩は端から満更でもなく、虹夏先輩は最初こそ恥ずかしがっていたが途中からはやけくそになって開き直ったが、後藤だけは終始縮こまっていた。
とは言え、そんな後藤もみんなで出し物を見て回ること自体は結構楽しんでいたようだ。
お化け屋敷やら射的やら凝った出し物を体験したり、あるいは美術部の絵の展示などを見物したり。クレープ、りんご飴なんかを片手に、文化祭を思う存分遊び尽くした感じだった。
「――あっ」
「ん、どした後藤……って、あー、明日の」
「明日のステージのプログラムね! 十三時半、結束バンド!」
「いや~、こうしてプログラムに名前が載ってるの見るといよいよって感じするね~!」
「私はだいぶ前から気持ち作ってたけど」
「そこは普通に『うん』って言ってくれればいいんだよ、リョウ」
「でもリョウ先輩さすがですっ!」
虹夏先輩が喜多さんとリョウ先輩に呆れ顔をしつつ、掲示板に貼られた個人ステージのプログラム、結束バンドの名前が入ったそれをスマホでパシャリと撮っていた。記念かね。
「文化祭も随分楽しんだし……そろそろスターリー行って明日に備えて最後のリハしよっか?」
「そうですね、そうしましょう!」
「うん」
「あっさっ賛成です……」
「……じゃ、そうと決まれば帰りの支度しますか」
帰りの支度、帰りの支度だ。
「……ところでこれ、メイクとかどうしたらいいんだ?」
「えっ? えーっと……」
「そのままスターリー行けば? 店長とか喜びそう」
「あっ確かに!」
「……っし、行くかぁ!」
「えっいっ行くの……!?」
行きました。
店長さんはなんかこう、不思議な反応してました。
よくわからないけど一応黒髪ロング丸メガネクラシカルメイド此崎ちゃんに関する情報を箇条書きにしておきますね。よくわからないけどね。
・黒髪ロング。
・黒目で少し目付きは鋭い。メイクでぱっちり。
・丸メガネ。大きくても小さくてもいいと思う。
・黒いチョーカー。
・クラシカルなメイド服。山田ァ!が原作で着てた、もしくはアニメで着ていて「お姉さま風」とされていたアレ。
・フリル付きの白いカチューシャを当然付けている。
・白い手袋を付けている。
・身長165センチ弱。男の子にしてはちょっと小柄だね。
・喜多さんがかなり興奮するくらい可愛い。
・虹夏ちゃんが唸るくらい可愛い。
・リョウ先輩が関心を持つくらい可愛い。
・後藤が褒めようとしてキモくなるくらい可愛い。
2/4追記
匿名希望の方から黒髪ロング丸メガネクラシカルメイド此崎ちゃんのFAをいただきました。
【挿絵表示】
ふつくしい……!
ありがてぇ……ありがてぇ……!
2/5追記
またもらっちゃった……FA……! しかも差分込みで4枚……!
【挿絵表示】
【挿絵表示】
【挿絵表示】
【挿絵表示】
これが魔性の此崎ちゃんだっ……!
こちらは夜々屋(ややや)(@pAS9wsHJtLW68bK)さんに書いていただきました!
感謝感激ッ!
2/6追記
マタマタモラチャタ…ファンアート…
しかも御二方からだッ!
【挿絵表示】
↑こちらはKZ(@KZmm2277)さんに書いていただきました! あまりにもかわいい、あまりにも……。
【挿絵表示】
↑こちらは匿名希望の方からいただきました! コノーン!
御二方とも、まっことありがとうございまする……!