うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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滑り込みセーフ!!!(アウト)


#4 心配、心配、ぼっち心配

 

 通報があった。

 

 犯人は、横浜市にある後藤さんの家の風呂場に立て籠っているとのことだった。ジハイドロゲンモノオキサイド(通称DHMO)を零下にまで冷却した固体を大量に持ち込み、それを風呂桶いっぱいに溜めた液体のDHMOと混合せしめ、あろうことか自らその中に身を晒しているというのである。

 

 俺は現場に急行した。

 俺は俺で風呂から上がったばかりだったので、部屋着にパーカーを一枚羽織っただけの格好で夜の街を駆けた。犯人が風呂の底に沈まないように、溶けていかないように。

 

 ものの数分で俺は現場に到着した。

 この家に住む一家が俺を出迎えてくれるが、しかしその表情は一様に暗いものだった。

 

「……まさか、そんな」

 

 遅かったのか。

 俺がそう尋ねると、この家の主人が小さく俯いて唇を噛んだ。傍に控えていたご婦人は口元を手で押さえて目を伏せ、御年5歳になる御息女は俺のパーカーの裾を引っ張って「ねぇねぇいっくん遊ぼ〜」とせがんでくる。うん、あとでな。

 

「彼女は……今どこに?」

 

 さらに重ねて尋ねると、ご婦人がそっと二階に上がる階段を指差した。

 

「いっくん、あの子を……お願いね」

「……はい」

 

 一家に見送られる形で俺は階段を静かに登っていく。

 すると、いくつかある部屋の一つから、じゃんじゃかじゃんじゃかとギターをかき鳴らす音が聞こえてきた。同時に、何やら同じ言葉を延々と繰り返している。

 

 俺は必死に息を殺して、ついに部屋の前まできた。

 襖に手をかけ、一つ息を吐き、それから一思いに開け放った。

 

「──……えっ?」

 

 そこには、上下の下着だけを身につけ、目の前の扇風機だけをオーディエンスにギターを構える後藤の姿があった。突然襖が開いたことに驚愕してか、ぽかんと俺の顔を見上げていた。

 

「……えっ、ちょっ!? ちょちょちょちょぉっ!?」

 

 後藤はギターを盾にして俺の視線を遮ろうとじたばたし始めるが、俺はその醜態をひたすらに冷めきった目で見下ろしていた。

 

 そして俺は、そっと襖を閉めた。

 階段の方に顔を向けると、後藤一家が首を揃えてそこにいた。

 

 胸が押し潰されるような、あるいは張り裂けそうな気持ちだったが、それでも伝えなければなるまい。

 

「お父さん、お母さん、ふたりちゃん」

「は、はい」

「──手遅れでした。処置なしです」

 

 途端に泣き崩れる後藤家。すまんな、もう手の施しようがない。俺は絶対に後藤を許さない。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 翌朝、駅前で落ち合った後藤は全然目を合わせてくれな……いやそれはいつものことだったわ。ただ顔と耳が真っ赤で、いつもの三倍くらい挨拶がどもっていたし挙動もバグっていた。

 

「後藤」

「あっひゃい!」

「下着見られたくらいで挙動不審になるなんて百年早いぞ。もっと女を……いや、人間を磨いてから出直してこい」

「あっはい……」

 

 小癪である。こんな防虫剤の香りがするような生き物の下着姿に何を感じろと言うのか。

 

「で、熱は?」

「……36度5分……」

「平熱だな」

「はい……」

 

 いや、間違いなく低いであろうコイツの基礎代謝考えるとちょっと高めではあるのかもしれんが、風邪とは到底言えまいて。

 本当に愚かな企みだったな、と俺はため息を吐いた。

 

「腹くくれって。もしくは諦めろ。バイトデビューにはこれ以上ないと思うぞ?」

「うっ、わ、わかってるって……に、虹夏ちゃんからも今日頑張ろうねってロイン来てたから……」

「……ま、いくらうじうじしてたって構わんがな。放課後になったら引き摺ってでもスターリー連れてくから安心しろ」

「ひぃん……」

 

 後藤がやる、頑張ると言ったんだ。俺はその時点で後藤を逃がしてやる気はないのだが、今回はスターリーにも迷惑がかかることだし、本当の本当にどんな手を使ってでも連行するつもりだ。たとえ女子トイレに立て籠もっても引き摺り出してやるさ。

 

 

 

 ――と、まぁ俺は犯罪者になる覚悟も決めていたわけだが、さすがの後藤もそこまで往生際の悪いやつではなかった。とは言え、案の定腹を括るという前向きな感じではなく、後ろ向きに観念しただけな気がするけど。

 

 スターリーに訪れるのもこれで三回目だ。

 今日はアルバイトとしてやって来たわけだから俺だってそれなりに緊張はあるが、既に二回、しかも結構な時間滞在した場所なのでむしろここに来て緊張が解けてきた感じがある。

 しかし、後藤はもちろんそうはいかない。普通に顔色が悪いし、またもや人のネクタイを親の仇かのように捻り上げている。しわしわになっちゃうでしょうが……。

 

「おい後藤、そろそろいいか」

「……ま、待って、まだ覚悟が」

「伊地知先輩たちもまだらしいからそれまではいいけど、先輩たち来たら入れるんだろうな?」

「わかりましぇん……」

「わからないじゃねぇんだこのミジンコ……おい待てネクタイを両手で掴むな締め上げようとすっ、なっ、がっア˝ッ……!?」

 

 やばッ、いっ、息がっ、きっ気道が……ッ!

 

「――何やってんだガキども。痴話喧嘩ならよそでやれ」

「ヒィッ!?」

「ガッ!?」

 

 キュッ、とネクタイが一際強く締まって、本当に意識が遠くなる。

 膝から力が抜けて、身体が重力に従って地面に崩れ落ち――そうになったところを、誰かに支えられて軟着陸させられた。

 

「おい、おい大丈夫か!?」

「……はっ!」

 

 生き返った。目の前には、目つきが鋭くてちょっと老け……いや大人になった伊地知先輩がいた。

 

「……伊地知先輩……」

「あ? なんで私の名前知ってんだ? てか先輩ってなんだよ」

「……え……そんな……?」

「――あぁぁ―――――っ!? おっ、お姉ちゃん何やってんのっ!!? こ、此崎くんにいったい何をっ!?」

「うおっ、虹夏!? い、いや誤解だ! 私は何も――」

「ぼっち、どうしたの。自分の手見つめながら震えて」

「わっ、わたっ、わたしっなんてことを、こっ此崎くんをころ、ここっ、ころしてっ、こっ」

「鶏の真似?」

 

 ぼんやりとした意識の中で、俺は思った。

 

 これ、俺がツッコミ入れないと収拾付かないのかな、と。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

「……えーっと、じゃあ話を整理すると、ぼっちちゃんが此崎くんに対して殺人未遂を働いて、お姉ちゃんはそれを助けようとしてってこと?」

「そういうことだ……で、そこの加害者と被害者はおまえたちのバンドのギターとマネージャーで、今日から入るバイトなんだな?」

「はい、そうです。俺が此崎、こっちの犯人が後藤です……それで、貴女は伊地知先輩のお姉さんで、スターリーの店長であらせられると」

「情報量が多い」

 

 山田先輩の仰る通りだが、まぁそういうことである。

 

「……はぁ、後藤、もう土下座しなくていいぞ。さすがに見苦しくなってきた」

「言い方ひどっ!? い、いやまぁいつまでも土下座されててもあたしたちだって困るけどさ……」

 

 後藤ごときに殺されかけた自分が情けない。腕を掴んで離させようとするんじゃなく、こっちも首絞め返してやるべきだった。そうなればたぶん俺が勝っていただろう。後藤はすぐ死ぬけど残機が多いからもう少し丸く収まったはずだ。

 

 脇を抱える形で伊地知先輩と山田先輩に上体を起こされる後藤。まるで捕まった宇宙人のようでおもしろかったので写真を一枚とっておいた。

 

「……本当に大丈夫か? 初日からそんな大した仕事任せるつもりはないが」

「だ、大丈夫だよお姉ちゃん! あたしとリョウでちゃんと教えるから!」

「ならいいが……あと、店では店長と呼べっていつも言ってるだろ。公私混同するな」

「はーい、ごめんって~」

 

 えへへ、と頭を掻く伊地知先輩。まぁ顔立ちも普通に似てるし特別疑っていたわけでもないが、この気安い感じは本当に姉妹なんだなと思わせられた。

 

「さーて、じゃあ荷物置いたらさっそくお仕事始めよう! おー!」

「おー」

「お、おー……」

 

 ――そんなこんなで、俺と後藤の初バイトはぬるっと始まった。

 

 最初はまばらに広がっていたテーブルを片付けて、それからバイト全員で掃き掃除。学校の教室掃除となんら変わらないが、これで時給が発生してると思うと俄然やる気が出てくるな。

 

「――はーい掃除おっけー! いやぁ~四人だと早いね~」

「虹夏、次どうする?」

「んー、それじゃあ受付とドリンク、それぞれ分かれて教えよっか。二人はどっちか希望ある?」

「どっドリンクでお願いします!」

「おい……まぁいいけどな」

 

 後藤め、おそらく人との接触が少ないであろう方を選んだな……でも覚えることは受付の方が少ないような気もする。まぁいずれは両方やることになるだろうし、あんまり関係ないか。

 

「ぼっちちゃんがドリンクね! じゃあ私が教えるから付いてきて! リョウ、此崎くんに受付教えてあげてね!」

「ん、了解。此崎、厳しくいくよ」

 

 ……と、言われてちょっと気合を入れたものの、山田先輩の説明は徹頭徹尾普段と全然変わらないテンションだった。

 チケット持参のお客さんにはこう、当日チケット購入のお客さんの場合はこう、ドリンクの代金はアルコールとソフトドリンクで違って……とかなんとか。

 とりあえず一通り説明したんだから後は一人で、なんてことすらなく、今日一日は山田先輩が受付やってるのを見学してればいいらしい。厳しくいくとはなんだったのか。

 

 というか、ここまでの内容的に……。

 

「……もしかしてなんですけど、このバイトめっちゃ楽?」

「うん」

「そっすか……」

 

 即答か……。

 

「受付は開場の時に結構忙しいし、たまに変なお客さん来るけどね」

「へぇ、変な客とかおもしろそうですけどね」

「それはそう。あと、ライブ終わった後の片付けもちょっと大変だよ」

「あー、なるほど」

 

 つまりあれだな、まだ忙しいタイミングが来てないだけってことだな。楽って言ってもずっとぼんやりしてていいわけではなさそうだ。

 

「此崎はバイトの経験ないの?」

「いや、俺高一ですからね。やろうかなとは思ってましたけど、まだ探しすらしてませんでしたよ」

「そうなんだ。じゃあタイミングよかったね」

「そうっすね。山田先輩は他のバイトしたこととかあるんですか?」

「ないよ。中学の頃からここ手伝ってて、今もその延長でやってるだけだし」

「あー、そういう」

 

 じゃああんまりバイトって感覚でもないのかもな。伊地知先輩なんて店長の妹だし、もっとそうなのかも。

 

「虹夏とぼっち、平気かな」

「あー、大丈夫じゃないっすかね。ほら、伊地知先輩しっかりしてるし」

「虹夏は結構抜けてるとこあるけどね。此崎はぼっちのこと心配じゃないの?」

「心配……まぁ伊地知先輩に迷惑かけてないかとか、店に損害出すようなことしてないかは心配ですけど」

 

 後藤はどん臭い。ギター以外のすべての物事において要領が悪く、間が悪い。心配かどうかと聞かれたら、そりゃあ心配ではある。

 

「でも、取り返しの付く失敗なら、いくらでもすればいいと思うんですよ。いや、バイト先に迷惑かけるのはちょっとアレかもしれないですけど……」

「ふーん……此崎、全然過保護じゃないんだね。ぼっちってあんな感じなのに」

「あえて、ですよ。や、大抵の場合は自由に泳がせといた方がおもしろいからそうしてるだけですけど、意識的に突き放してることも多いです。アイツの面倒見ようとしたらキリがないですし、それはアイツのためにならないですから」

「ぼっちのことよく考えてるんだ」

「この年まで一緒にいるような幼馴染って、そんな感じじゃないっすか?」

「ん……確かにそうかもね」

 

 山田先輩は受付のデスクに頬杖を突いて、微かに微笑んだ。

 わかってくれるか、さすがは山田先輩。

 

「此崎。そろそろ5時だから」

「チケット販売開始、ですね。ちゃんと見ときます」

「うん、そうして」

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

「リョウ」

「店長。どうしたの」

「今日のバンド、どこも実力あるから勉強のために見てきな。受付代わってやるから」

「ほほう、それでは遠慮なく」

「此崎だっけ? 君も行っていいぞ」

「あー、ここからでも十分聞こえそうですし、大丈夫ですよ?」

「見なくていいのか?」

「見てもあんまわかんないんで」

「……ならいいか。じゃ、リョウだけ行ってきな」

 

 ――というようなやり取りがあって、俺は店長さんと二人で受付に座っていた。

 

 で、店長さんが先ほどからチラチラと俺に視線を送ってくる。何か用があるなら話しかけてくれればいいのにと思いつつ、とりあえず俺は中から聞こえてくるライブの音に耳を傾けていた。

 

 やがて一組目のバンドが終わったと思しき頃、ようやく店長さんが口を開いた。

 

「あー、此崎」

「はい」

「君は……あのマンゴー仮面とどういう関係なんだ?」

 

 子どもの交際を知った親か? あとマンゴー仮面って誰だよマジで。

 

「あの、マンゴー仮面って……」

「昨日虹夏たちのバンドでギターやってた子だよ。完熟マンゴーの段ボール被ってただろ」

「ああ、後藤……いやさっき後藤って紹介したじゃないですか」

「なんでもいいだろ。で、どういう関係なんだ? 彼氏彼女?」

「幼馴染ですよ。伊地知先輩と同じこと言ってきますね」

「ぐっ……はぁ、悪かった、降参だ」

 

 なんか勝った……。

 ……と思ったら、どうやら店長は他に聞きたいことがあったらしく、そのジャブのつもりでこんな話題を振ったのだとか。俺と後藤の仲をからかいたかったのだろうか。

 

「お前、虹夏たちのバンドのマネージャーやるんだってな」

「ええ、仮の、ですけど。もし結束バンドがホントにメジャーデビューしたら、事務所に所属してそこからマネージャーが付くでしょうから」

「……なんだ、ちゃんとわかってんのか。ならいい」

「あー……心配してくれたんですか?」

「ちがっ……はぁ、いや、まぁそうだよ。一応、虹夏は本気でメジャーデビュー目指してるって言ってるからな……まぁ実力全然足りてないから今の段階じゃ夢物語でしかないが、それでもバンドメンバーとしてなら、きちんと夢の先がある」

「でも、マネージャーはそうじゃない、ってことですね」

「そうだ」

 

 そんなことはわかってる……つもり、ではあるが。

 本当にこの先何年も彼女たちの手伝いをしたとして、ようやく成功した時に俺だけ仲間外れってのは……確かに、ちょっと堪えるかもしれないな。

 

「……つまりあれっすね。いざ別れる時が来たら潔く身を引く覚悟をしておかないとって話ですね」

「いやそもそもやめといた方がいいって話なんだが?」

 

 あれ? そうなのか?

 

「そうだよ。そもそもアマチュアバンドで何をマネジメントさせる気なのかわからんが、無理に虹夏たちに合わせる必要はないよ。虹夏、押しが強いから断りづらかっただろ。幼馴染のことも気になるかもしれないが、別にマネージャーなんて使いっ走りをやる必要は――」

「――いや、店長さん」

 

 俺は、店長さんの言葉を強い口調で遮った。店長さんはびくっと肩を跳ねさせて「な、なんだ?」と尋ね返してきた。

 

「店長さんの言うことは、わかります。アマチュアバンドのマネージャーなんてやったところで俺の今後の人生の役には立たない。履歴書には書けないし、結束バンドが成功しても……他の結末を迎えたとしても、俺の自慢にはならない。でもね」

 

 ――喋っていて、考えがどんどん纏まっていった。自分の気持ちを理解していった。

 

「俺、楽しみなんです。後藤が初めてバンド組んだ。これって……革命なんですよ。あいや、革新的、というか。だから、それをできるだけ近くで見ていたい。後藤を見つけてくれて、受け入れてくれてる先輩たちのことも応援したいし、何かを返したいっていうか」

「…………」

 

 店長は黙って俺の言葉を聞いてくれていた。あんまり真面目な顔でこっちを見てるから、なんだか急にこっぱずかしくなってきたが……まぁ、今更引き下がるつもりはない。

 

「要するに俺、今、乗り気なんですよ。結束バンドのマネージャー。やりたいから、やりたいんです。後悔は、後でするんで」

 

 ……あーあぁー、なーんかくっさいセリフになっちまったなぁ……これもう結束バンドのオリジナル曲の歌詞に採用してくれねぇかなぁ逆に。

 

 ライブハウスの中から歓声と拍手が聞こえてくる。二つ目……あるいは三つ目のバンドが演奏を終えるほど時間が経っていたらしい。

 

「……此崎」

「はいっす」

 

 名前を呼ばれて返事をすると、店長さんはニヤリと笑った。

 

「お前、楽器できないんだってな?」

「は? あ、はぁ、そうですが……」

「もったいないな。お前のそれ、すげーロックなのに」

「ロック、ですか」

「やりたいからやる。後悔は後でする。多くのバンドマンはそうやって生きて、そうやって死んでいくからな」

「悲しい生き物ですね」

「お前も素質があるって言ってんだよ」

 

 店長さんは呆れたっぷりの大きなため息を吐いて、「もう好きにしな」と投げやりに言ってきたのだった。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 こうして、俺と後藤のバイト初日は過ぎて行った。どうやら後藤は後藤で頑張っていたらしく、お客さんの目を見てドリンクを渡せたんだと自慢してきた。うん、普通にレベルが低い。

 

「此崎くん、店長さんと二人で大丈夫だったの……?」

「ん? なんで?」

「だ、だって、店長さん怖そうだったし……」

「いや、めちゃくちゃいい人だったよ。マネージャーやめとけって言われた」

「えっ!? ど、どういう……えっ、や、やめちゃう……の?」

「やめねぇよ。まだなんにもしてないし」

 

 そ、そっか……と、後藤が少し嬉しそうに呟き――くしゅんっ、と小さなくしゃみをした。

 

「…………」

「…………」

「おい、デコ出せ」

「い、いやいや、わ、私虹夏ちゃんたちに『また明日』って言ったし! せ、せっかく飲食店バイトデビューも果たして陽キャになっ――ひえっ」

 

 前髪をかき分けて後藤のおでこに触ると、手の甲側でもわかるくらいに火照っていた。

 

「お前、頭とかぼーっとしねぇのか」

「い、いっぱい仕事覚えたから、そのせいかと……」

「身体だるくねぇのか」

「い、いっぱい動いたから、それで疲れたのかと……」

「喉痛くねぇのか」

「い、いっぱい喋ったから、それで少し痛むのかと……」

 

 俺は目を伏せ、首を横に振った。

 

「後藤。それは風邪だ」

「……いっ、いまさらぁ~……」

 

 どう考えても自業自得、因果応報である。

 こんな自爆行為までいちいち心配してやっていたら、本当にキリがない。

 

 やっぱり後藤は少し放置しているくらいがちょうどいいな、と自分の信念の正しさを再確認した俺だった。

 





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