うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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こいつ投稿遅くね?
全部仕事ってやつが悪いんだぁ……

しかもいつもより短め。死。



#43 あー・ゆー・ぎたーひーろー?

 

 いよいよ開場の時間がやって来た。

 

 受付の仕事も手慣れたものだが、今日のように開場前から長蛇の列ができていることがわかっているとちょっと気合を入れたくなるものだ。

 ましてやその長蛇の列は俺自身がかき集めたも同然だし、おそらく多くは知った顔。いつものように見ず知らずの客を捌くよりも逆に緊張する……。

 

 ……なーんて思っていたのだが、いざ開場を知らせるために外へと繋がるドアを開けるとめちゃくちゃ見知った顔があった。

 

「あ、1号さん2号さんお久しぶりです……一番乗り、さすがですね」

「此崎くん久しぶりー」

「久しぶり~。ねぇ、今日人数すごいね! やっぱり此崎くんたちの高校の子いっぱい来てるんだよね!」

「えぇ、ずっと宣伝してたんで。お二人の後ろに見覚えのある顔がちらほら……」

 

 俺が身体を傾けて覗いてみれば、見覚えのある顔、もといクラスメイトの野郎共が揃って爽やかな笑顔を浮かべて中指を立ててきた。

 それから1号さんと2号さんが俺に釣られて振り向いた途端、奴らサムズアップに切り替えやがる。かまととぶりおってからに……。

 

「……っと、すんません。とりあえず中にどうぞ――あっ、開場しまーす! 順番にご案内するのでお待ちくださーい!」

 

 1号さん2号さんを中に入れつつ待機列にも声をかけ、俺は1号さんと2号さんを引き連れるように受付の席へと戻った。

 

「ほいじゃチケット拝見しまーす」

「はい、これ二人分お願いします……ねぇ此崎くん、ところでそのパーカーって……?」

「ん? あぁこれ。今日お披露目ですよ。バンドパーカーってやつです」

「おーかっこいい! もしかしてジカちゃんたちも着てるの?」

「まぁそこは見てのお楽しみってことで……っと、すいませんがお話は後ほどで」

「あ、ごめんなさい。そうだよね。あとこれドリンク代!」

「はい確かに。それじゃあ楽しんでくださいね」

 

 バイバーイ、と手を振る後藤のファン1号さん2号さんを見送り、次の人、次の人、次の人……受付でチケットをもぎってドリンク代を受け取ってドリンク引き換えの券を渡してという作業をひたすらにこなしていく。

 

 そうして一通り行列を捌ききったあたりで一旦PAさんが受付を代わりに来てくれたので、今度は結束バンドを含めた演者たちに声をかけに行くことにした。

 

 “ミラクルラブロマンス”、“チュルチュレ”、“生活指導部”……以上三つが文化祭で発表できなかったバンドたちで、前者二つが学生バンド、最後の一つが教員バンドだ。ここに結束バンドが加わって、今夜のライブは四つのバンドによるステージとなっている。

 

 文化祭の時よりも持ち時間が長めなのでそれに合わせて本来よりもセトリを増やしてもらっているが、リハで見させてもらった限り悪くないクオリティだった。

 いや何様だよって感じなんだけど、正直な感想を言うと「割としっかり盛り上がりそうだな」ってくらいである。最近ちょっと目と耳が肥えてきててな……

 

 ともかく、そんな各バンドの皆々様に挨拶をしていって、俺は最後に結束バンド諸君のところへ顔を出した。

 

「――お疲れさまでーす」

「あ、此崎くんお疲れ~!」

「お疲れさま!」

「お疲れ」

「あっおっあっ、おっあっあっ!」

「言語コミュニケーションで頼む」

 

 人間って鳴き声でコミュニケーションしないんだよね。いやそうじゃないんだわ。

 

 それぞれ少しずつデザインの違う、しかしお揃いのバンドパーカーを羽織った三人と一匹(?)に出迎えられる。

 1号さん相手にはなんとなくはぐらかしたが、まぁ俺が着ていてみんなが着ていないわけがないんだよな。

 

 ……うむ、それにしても、こうして見るとバンドTシャツのときとはまた違った雰囲気で統一感があるな。黒無地にロゴっていうデザインは変わらないんだが、全体的にオーバーサイズなのもあってカジュアルな印象が強い。

 

「此崎くん? どうかした?」

「あぁいや、改めてバンドパーカーいいなぁと。なんかもっといろいろ作りたいっすね。たとえば……バンドジャージとか?」

「おっ、ジャージいいね! 黒ジャージ……いやそれぞれのイメージカラーのジャージにする?」

「それ後藤がいつもとまるで変わらない気がする……っつーか今なんとなく想像したんですけどカラフルなジャージ集団ってもう完全にお笑い芸人なんですよね」

 

 何アンド何なんだろうな? とりあえず後藤と喜多さんはアコギに持ち替えてもらうとして、いやジャージの色的にはリョウ先輩がギターで喜多さんが……じゃねんだわなんだこの電波。

 

「ジャージはどうでもいいんですよジャージは」

「此崎くんが言い出したんじゃん」

 

 それはそう。

 そうなんだけどどうでもいいのよ。

 

「準備、大丈夫そうっすか? トップバッターですからね」

「わかってるって、ばっちりだよ! そっちこそフロアの方は大丈夫そう?」

「ええ、とりあえずサクサク入場はしてもらえたんで……ちなみにスタートまでに200人前後は入りそうですね。もしかすると開演ちょっと押すかもしれません」

「す、すごいわね……って、それよりもひとりちゃんのバイブレーションの方がすごいことになってるわ。本番までにオフにできればいいんだけど……」

「おもしろいからこのままでもいいと思う」

「アババババババババババババババ」

 

 とりあえず小刻みに震える後藤の姿をごく短い動画に収めて、それから俺が「おい頑張れよ」と雑に声をかけてやると「ひゃいっ!」という返事と共に後藤のバイブレーションがぴたりと止まった。よし。

 

「――ふっ、さすがね此崎くん……私も負けてられないわ……!」

「何がだよとは言わんけどなんなんだよとは言わせてもらいたい」

 

 ……まぁいいさ。

 せいぜい俺を超えて見せろよ、喜多さん……!

 

 はい。

 

「じゃ、俺フロアの方戻ります。まだぽやみさん来てないんですよね」

「そうなの? てか、ホントに来るのかな……」

「来てもらわないと困る。ぼっちの女子高生バンドマン兼プロレスラー系オーチューバーデビューの夢が潰えてしまう……!」

「潰えろそんな夢……じゃないんですよ。いやあの、もう行っていいっすか?」

「いやうん、行きな? リョウに構ってたら一生逃げられないよ」

「一生逃がさないよ」

「逃げます」

 

 それじゃと言ってスタジオの扉を開け、最後にサムズアップを残して俺は退散した。危ないところだったぜ……。

 

 はてさて。

 

「……ぽやみさん、もういるか?」

 

 開演予定まであと10分。

 最初に一言俺が挨拶することになっているので、ちょっとフロアを覗いて見つけられなかったら諦めよう。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 ――そんで結局、ライブが始まるまでの間にぽやみさんと会うことはマジでできなかった。

 

 フロアに出たはいいものの、クラスメイトたちに捕まりファン1号さん2号さんに捕まり、しまいには店長さんにまで捕まってそれぞれと喋っていたら10分なんてあっという間に経ってしまった。

 ただ、最後に話しかけてきた店長さんが「すげぇ気持ち悪い女来てたぞ。ぽいずん女」と言っていたのでその時点でぽやみさんがちゃんと来てくれたことはわかった。店長さんの言い草が酷すぎるのはご愛嬌。

 

 そして、俺がぽやみさんの存在をこの目で確認できたのは、ライブ直前の挨拶でステージ上からフロアを見渡しながら話している最中だった。ぽやみさんは向かって左側、ドリンクカウンターのすぐ側の最後列でスマホを片手に持ったままこちらを見ていた。

 

 なんとなく目が合ったような気がしたのでそれとなくウインクはしておいたが、気が付いてくれたかはわからない。

 ともあれ俺はそのまま裏に引っ込んでしまったので、ぽやみさんとはまた後で話をするしかなかった。

 

 肝心のライブはというと、想像以上に良い感じだった。

 ホームでのライブということでトップバッターに収まった結束バンドがきっちり場を盛り上げ、後に続いたバンドたちも十二分なパフォーマンスを披露してくれたと思う。

 

 もっとも、集まった客がほとんど秀華高の生徒なので、言ってしまえば内輪ノリ。

 けれど、内輪だろうがなんだろうが、盛り上がって楽しめたなら全員が勝ちに決まってる。

 

 要するに、今日の文化祭ライブリベンジ in STARRYは、間違いなくあの日のリベンジという役目を果たすことができたのだった。

 

 そして、出演者も観客も学生だらけということで、ライブは割と早めに終わった。

 21時を回った頃には結束バンド以外のバンド諸氏も無事に見送ることができて、全員が全員ではないが見送るときに泣いて感謝されてしまうほどだった……嬉しい気持ちはもちろんあるものの「これってマッチポンプでは?」という気もしたりしなかったり。

 

 で、最後にスターリーに残ったのは俺と結束バンドの四人と、店長さんやPAさんを含む従業員数人、あともうほぼ身内のファン1号さん2号さん、そして──。

 

「ぽやみさん、お疲れ様です。すいません今までろくに挨拶もできなくって」

「や、それはいいんだけど……」

 

 俺がバタバタと動き回ってる間、ずっと隅っこの方で大人しくしていたぽやみさん。

 らしくない……なんて言えるほどぽやみさんのことを知らない、知っているわけがないけれど、少なくとも第一印象からは想像できないほどに物静かだった。

 

 俺は若干困惑しつつも、気にしないようにして話を続けた。

 

「えーっと……あぁそうそう、今更ですけどまずはうちのバンド、結束バンドの紹介させてください。まぁMCで自己紹介してましたけど……あー、虹夏先輩! ちょっと――」

「待って」

「――そうそうちょっと待って……っていや違う違う。え?」

 

 何を待てと? いやもう虹夏先輩どころか結束バンド一同こっちにきちゃってるんですけど……。

 

「此崎くん? そちらの方が……」

「あっはい、そうなんですけど……えーっと、ぽやみさん、待ってと仰られましたけどどういう……?」

「……一応確認取ろうかと思ったけど、別にいいか……」

「はい?」

 

 おいなんか話通じないっつーか無視されてないか、と若干慌てる俺だったが――それでももう、遅かった。

 

 

 

「あのっ、そちらのギターの方──あなた、ギターヒーローさんですよね!」

 

 

 

 ……心臓が、止まるかと思った。

いや、ちょっと止まったかもしれない。

 

 不自然なまでにしんと静まり返ってしまったスターリーだったが、すかさず沈黙を破ったのは流石コミュ力に定評のある喜多さんだった。

 

「……だ、誰って言いましたか? えっと、ひとりちゃんが……」

()()()()()()()()()……あんたたち、やっぱりギターヒーローさんのこと知らないんでしょ!? 信じらんない!」

 

 しかし、喜多さんのフォローも不発に終わり、ぽやみさんは石像のように硬直した後藤の側にシュババッと移動したかと思うと、後藤の肩を掴んで声高に続ける。

 

「いい!? あんたたち! こちらのギターヒーローさんは超凄腕の現役高校生ギタリストでッ!」

「えっあっ」

「男女問わず学校中の人気者! ロインの友達は1000人越え!」

「あっちょっ」

「成績優秀でテストは毎回学年でトップ10! 運動神経抜群で運動部の助っ人に引っ張りだこ!」

「あっあっ」

「そして何よりも――」

「あっあっあっ」

 

 

「高身長高学歴高収入運動神経抜群な同い年のイケメン幼馴染を彼氏に持つ超スーパーリア充女子なのよっ!!」

 

 

 ――後藤の心肺は、完全に停止した。ピーって音が聞こえたもん。ピーって。

 

 なんて惨たらしく、なんて残酷な公開処刑だろうか。

 

 虹夏先輩や喜多さん、リョウ先輩ですら絶句していた。もちろん、俺も。

 いまいち状況を理解できていないであろう店長さんやPAさん、1号2号さんたちですら物凄く悲劇的な何かが起こったことを理解し、沈痛な表情を浮かべていた。

 

 ……というか改めて聞かされると後藤の虚言が本当にひでぇ。

 何が一番ひどいかってこれを視聴者が信じ込んでいる――と、後藤が本気で信じ込んでいるのがひどい。

 

 こんな漫画やアニメでも出てきそうにない超絶チートスペック人間の実在を信じる奴がいったどこに……あれでもぽやみさん滔々と語ってたってことは信じて……い、いやそういうことじゃないよな。ないよな?

 

「あの、ぽやみさん」

「なによ?」

「まさかぽやみさんがそのギターヒーローのトンデモ設定信じてるとは思わないんですけど百歩譲っても後藤は」

「信じるって何!? れっきとした事実でしょ!」

「……千歩譲って事実だとして、もう一回自分の発言と隣の死体とを照らし合わせてみてほしいんですけど」

 

 ぽやみさんのポイズンな闇を掘り下げるのはやめよう。あの妄言の数々を信じてるのは頭ぽやぽやしすぎだろさすがに……と、しかし、そんな流石のぽやみさんも俺の問いかけに黙り込んでむむむと眉間に皺を寄せている。

 

 とにかく俺は、どうにかこうにか『ぽやみさんの勘違いだった』というところに着地させたい。

 

 後藤がギターヒーローであるという事実は、明かされるにはまだ早いのだ。

 

 いや、俺を始めとして一番肝心な虹夏先輩リョウ先輩喜多さんの三人ももう知ってるんだけど、それは事故というかなんというか……俺は元々然るべき時が来るまで黙っているつもりだったのだから。

 

 虹夏先輩を見る。

 虹夏先輩が頷く。

 

 喜多さんを見る。

 喜多さんが頷く。

 

 リョウ先輩を見る。

 リョウ先輩が頷……かない。うんまぁいいよ。それでこそリョウ先輩だもんね。

 

 

 後藤の危機を救うべく、結束バンドの結束力を見せつける時が来たようだ――!

 

 

「――ウチの此崎の言う通りですっ! そんな非現実的な超絶リア充な女子と、この髪伸ばしっぱなしで常時猫背で見るからにド陰キャな女子が同一人物に見えますかっ!?」

「――ヴッ!?」

「そうですよ! ひとりちゃんはお昼休みいっつも暗くてジメジメしたところでお弁当食べてるんですよ!? この前のテストもすっごいアレだったし体育だっていつも……アレなんですよ!?」

「グッ!? グギッ!?」

「ぼっちはぼっちだからぼっち。あと仮にぼっちがそのギターヒーローとかいうのだとしたら彼氏の設定があまりにも痛い」

「ゴッ……アァァ……」

「……よし、ナイス結束!」

「お前らぼっちちゃんの死体蹴りして何がしたいんだよ」

 

 店長さんがビクビクと跳ねる後藤の遺体を見かねてそんなことを言ってきたが、しかしこれは必要な犠牲だったのだ。

 

 ここまで無惨な後藤を見れば、きっとぽやみさんも考え直してくれるはず……!

 

「――やっぱりギターヒーローさんですよね!!」

「そうはならんやろ」

 

 なんで目の輝きが増してるの? ホントに頭ぽやぽやかこいつ。

 

「いやいやあんたたちわかってないわね……本物のカリスマってのはね、型にはまらないものなの! 伸びっぱなしの髪だって抜け感出してるに決まってるし普段の動画でジャージばっかりなのもあえてでしょあえて! 友達は……こっ、孤高の天才ギタリストに友人なんて必要ないのよっ!」

 

 いやそしたらあの概要欄の虚言はどう受け取ったらいいんだよ……。

 

「そ・れ・に! あたしは彼女の演奏を見て聞いて、それで確信したのよ! 歌うようなビブラートのかけ方とか、ところどころに滲み出てる癖……あたしは腐っても音楽ライターで、何よりギターヒーローさんの大ファンなんだから! 見間違えるはずも聞き違えるはずもない! あなたがギターヒーローで間違いない、そうなんでしょ!?」

「…………」

「……し、死んでる……?」

「死んでますね」

「死んでるの!?」

「よく死にます」

「よく死ぬの!?」

 

 あぁ、またちょっと久々な気がするなこの反応。

 ぽやみさん以外みんな平然と頷いてるもの。どうしても慣れちゃうんだよな後藤の死。

 

「おい後藤」

「──あっひゃい!?」

「蘇りました。ぽやみさんリテイクお願いします。後藤聞いてなかったんで」

「はぁ!? せっかく人が……くっ、だ、だからあなた、後藤ひとりさん! あなたがあの孤高の天才カリスマギタリスト、“ギターヒーロー”さんなんですよね!?」

 

 だいぶ省略されたな……ってそもそもリテイク求める必要なかったわ。

 

 しかしまぁ、あんだけ自分の虚言ブーメランにズタズタにされた後藤がぽやみさんの問いを肯定するわけが――。

 

「──あっはい私がギターヒーローですうへへへへへ」

「ほらぁーっ!!!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……よし、今日はもう解散! 疲れた!

 





次回はもっと~早く投稿したい~


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