うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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また遅くなっちゃったぁ……!
そしてサブタイが雑。


#45 未確認で未来形

 

 翌朝。

 

 腕に絡みついていたふたりちゃんと足元で丸まっていたジミヘンを起こさないように布団を抜け出し、俺はこっそりと部屋を後にした。

 

 なんとなく後藤の部屋の方をちらりと見て、まずは洗面所へと向かう。とりあえず顔を洗いたかった。

 

「――あ」

「んぇ……はっ、ほ、ほほはひふん、ほはひょ……」

「おー……あー、おはよ」

 

 しかし、洗面所には先客がいた。

 まぁなんだ、後藤である。まだ寝てるもんだと思ったが、寝癖でぼさぼさ頭のまま歯を磨いていたのだった。

 

 後藤は朝、食べたり食べなかったりで、どちらかというと食べないことが多い。少食というわけではないがそんなときはこうしてさっさと歯を磨いてしまっているのである。

 

「ひょ、ひょっひょまっへ……」

「……別に慌てなくていいって」

 

 俺は壁にもたれかかって、後藤が歯を磨き終えるのを待つことにした。

 後藤は鏡越しにちらちらとこちらを見てくるが、俺は視線を合わせつつも何も言わなかった。

 

「──お、お待たせ」

「おう。ちゃんと磨いたか?」

「み、磨いたってば」

「そうか」

 

 ……あー。

 

「なぁ、後藤」

「なっ何?」

「昨日のあれ……本気なのか?」

「……うん。本気だよ」

「でも」

「だ、大丈夫だってば。虹夏ちゃんたちも、私が説得するから」

「……わかった、わかったよ。悪い、疑うつもりは」

「――いっ、いいよ。わかってるから」

 

 後藤は、俺の言葉を遮ってまで言い切って、それからばつが悪くなったのか、そそくさと洗面所から出ていってしまった。

 

「……すげぇなぁ」

 

 対する俺はそれだけ呟いて、ため息を吐くしかなかった。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 十時過ぎにスターリーに到着すると、そこにはいつものメンバーがいた。結束バンドの三人に店長さん、それとPAさんの五人だ。

 

「――あっ、ぼっちちゃん、此崎くん!」

 

 真っ先に声を上げて立ち上がったのは虹夏先輩だった。いつものような笑顔ではなく、至って真面目な顔をして俺と後藤の名前を呼んだ。

 

 俺と後藤がフロアまで降りると、すぐに虹夏先輩が駆け寄ってくる。

 後に続いて喜多さんとリョウ先輩もこちらに近付いてきて、全員で神妙に顔を見合わせる格好となった。

 

「……此崎くん、その……大丈夫、だった? 昨日の……」

「……えぇまぁ、一晩寝たら割とすっきりしましたね。すいません、昨日はちょっと、柄にもなく凹みすぎました」

 

 ぎこちなく尋ねてくる虹夏先輩に俺もぎこちなく返すことしかできず、微妙な空気が流れてしまう……俺たちが気まずくなるのもおかしいんだけど、な。

 

「……えっと、此崎くん。今ね、先輩たちと昨日のこと話してたの……ですよね、虹夏先輩?」

「あっうん、ごめん喜多ちゃん、ありがと……そう、喜多ちゃんが言ってくれた通り、昨日やみさんが言ってたこと。結束バンドのこと否定されて、此崎くんのこともあんなふうに言われて。すごく悔しかったし、すごく腹も立って……けどごめん、あたしたち、あの場で此崎くんのためにすら言い返してあげられなくって」

 

 喜多さんが改めて切り出して虹夏先輩に話を振ると、虹夏先輩がとりとめなく話す。

 虹夏先輩も少し混乱してるんだな、なんて他人事みたいな感想が浮かんでしまったが、俺はともかく首を横に振り、虹夏先輩の言葉を否定する。

 

「いや、そんなの。俺も図星突かれて黙り込んじゃいましたし、結局あの人に結束バンドのこと否定されっぱなし……俺があの人のこと呼んだんです。俺のことは、まぁ言われてもしょうがないってのもありますけど、何より自業自得ですから。それより俺はみんなのことを――」

「それは違う」

 

 そして、さらに俺の言葉を遮ってきたのは、意外にもリョウ先輩だった。虹夏先輩も喜多さんも少しびっくりした様子でリョウ先輩に目を向けていた。

 

「此崎。此崎がどれだけ私たちの役に立ってくれてるかは私たちが評価することで、此崎自身にだって決められることじゃない。それに、結束バンドのことは言い返したって意味ないよ。言葉で認めさせようなんて、違うでしょ」

「リョウ先輩……」

 

 ……そう、そうだな。確かにその通りだ。

 あの場でぽやみさんに反論して言い負かして、なんてのはそもそも間違ってたんだ。

 

 結束バンドがいかに本気なのか。

 それを示すには、行動を起こして、結果を残す以外にない。

 

 なら――と、隣に目を向ければ、後藤は既に()()を取り出していた。

 

「ぼっちちゃん、それ……!」

「み、“未確認ライオット”……10代のアーティスト限定のロックフェス、です。これに出ましょう。これに出て、私たちの――結束バンドの力を、証明しましょう」

 

 一枚のフライヤー。

 “未確認ライオット”というロックフェスのエントリーを募るためのチラシだった。

 

 昨日、帰りの電車の中で一心不乱にスマホを弄っていた後藤がネットで見つけたらしく、その夜のうちに「これに参加したい」と俺に言ってきたのだ。

 

「……びっくりした。ぼっちちゃん……本気なんだね?」

「ほっ本気です。最初から、ずっと。でも、それをもっと……見せなきゃって」

「ひとりちゃん、けどそれ、ライブ審査とかネット投票とかあるみたいなのよ? 最終審査はフェス形式で、何千人って大勢の前で演奏することになるみたいだし……」

「だっ大丈夫です。け、結束バンドでなら!」

「おー……」

 

 全員、目を見張って驚いていた。

 ……いや、そりゃ驚くだろうさ。俺だって五回くらいは後藤に聞き返した。

 でも、五回で済ませたのは、俺をまっすぐに捉える後藤の目がどうしようもなく本気だったからだ。後藤がどうして本気なのかが、否応なくわかったからだ。

 

 虹夏先輩たちにもそれは間違いなく伝わって――だから、というと順序がおかしいのだろうけど、三人はお互いの顔を見合わせて頷き合い、後藤が持っていたのとまったく同じフライヤーを俺たちに見せてきた。

 

「あたしたちも見つけてたんだ。それで、ぼっちちゃんと此崎くんに話すつもりだったの。あの人を見返したいって気持ちがないって言ったら嘘になっちゃうけど、それ以上にあたしは、結束バンドで夢を叶えたいから。この“未確認ライオット”に参加して、絶対に優勝して――本当に、本気の本気でメジャーデビューしてやろうって! ねっ!」

「はいっ!」

「うん」

 

 虹夏先輩の言葉に喜多さんとリョウ先輩が頷き、それから三人で後藤を見て、そして、四人で俺に視線を向けて。

 

 後藤が、口を開く。

 

「此崎くん」

 

 俺の名前を、呼ぶ。

 

 四人がやりたいというのなら止める理由はない――なんて、俺はこの期に及んでそんな返事をしようとしたが、すんでのところで思いとどまった。

 

 だから、それじゃダメなんだ。

 

 ぽやみさんの言葉が図星だったから、昨日、俺は何も言い返せなくなって、打ちのめされたような気持ちになってしまった。

 さっきリョウ先輩が俺を励ましてくれたことはすごく嬉しかったけど、ただ俺は、それに乗っかって開き直ろうとは思わない。

 

 俺は、曖昧に頷くのではなく、きちんと後押しをするべきなのだ。

 結束バンドのマネージャーを名乗るなら。結束バンドの努力を実らせたいのなら。結束バンドの未来を考えるなら。

 

「――えぇ、やりましょう」

「! 此崎くん!」

「やってやりましょう……やってやりましょう! 来年の夏、フェスでてっぺん取ってメジャーデビュー! 結束バンドの本気ってやつを、見せてやりましょう!」

「えぇ、えぇ! そうこなくちゃよ此崎くん! ひとりちゃん! 私、ギターの練習これまで以上に頑張るから!!」

「あっはい!」

「そういう暑苦しいのはいいんだけど……」

 

 腹の底から声を出したら、なんだか元気が湧いてきた。虹夏先輩も喜多さんも、それから後藤も元気よく応えてくれたからますますだ。

 

 ようやく、いつもの雰囲気が戻ってきた感じがする。リョウ先輩のリアクションも、まぁ逆にいつも通りなので良しとしよう。虹夏先輩は耳引っ張ってたけど。

 

 

 

「――うっし、そんじゃあさっそく作戦会議しましょう作戦会議」

「うん、しよう! よし全員ちゃくせーき!」

「はーい!」

「あっはい!」

 

 俺が促すと虹夏先輩が号令し、いつものように全員で丸テーブルを囲む形に。

 ちなみにその途中、何やら優し気な笑顔を浮かべている店長さんと目が合ったのだが、すぐに視線を逸らされてしまった。……ツンデレお姉ちゃんめ。

 

「おーい此崎くん?」

「んあ、すいません。で、作戦会議……の前に、“未確認ライオット”のことについて確認しときませんか? 日程とか、審査の方法とか」

「うん、そうだね。じゃ、まずは――」

 

 ――と、虹夏先輩がスラスラと未確認ライオットについての説明を始める。

 

 未確認ライオットは先ほど後藤が言ったように10代のアーティスト、まぁ主には学生のバンドがエントリーできるロックフェスで、ざっくばらんに言うと“大会”だ。

 手始めにデモ審査があって、これが実質一次予選だ。これに通るとネットでの投票が行われるらしく、まぁ要するに二次予選だな。で、この二次予選を通過することでライブ審査、いよいよ生でのパフォーマンスを披露することになるわけだ。

 

「──このライブ審査、各地域のハコで対バンライブとしてやるみたいで、そこで選ばれた上位二つのバンドが夏に最終審査の舞台に立てるんだって。その最終審査がフェス形式みたい」

「全国各地で予選やって、決勝戦が真夏のフェスか。まぁあれっすね、バンド甲子園的な」

「大体あってる」

 

 リョウ先輩のお墨付きをいただいた。そういうことだ。

 

「どの形式の審査も気になるけど……とりあえずは4月締切のデモ審査、ですよね」

「うん。まずはこれをしっかり通過しなくちゃ。締切まであと5ヶ月ちょっと、月1のライブで満足してるだけじゃダメだと思う。あたしたち、もっと場数を踏まなくっちゃ」

「ですね。とは言え、スターリーでのライブを増やすのは結束バンドの財務事情的に厳しい……」

「うーん、そうだよねぇ……」

 

 ……まぁ俺の生活費の口座に入ってる貯金を使えば……って、それはさすがに違うか。何かしらの緊急事態ならともかく、そんなことするのマネージャーじゃなくてパトロンなんだよな。そういうことじゃねぇんだわ。

 

「あっあの……」

「ん? ひとりちゃんなぁに?」

 

 後藤が控えめに声を上げ、喜多さんがそれに反応する。

 注目を集めた後藤は俺たちの顔色を窺いながら、ぼそぼそと小さい声で言った。

 

「ろっ路上ライブとか、どうでしょう……?」

「路上ライブ?」

「はっはい。お金もかからないし、スターリーでやるよりいろんな人に見てもらえるし……」

 

 なるほど……後藤、普通にナイスアイデアだな。きくりちゃんと一緒にやった時のことでも思い出したのかね。

 

「路上ライブいいね! ぼっちちゃんナイスだよ! ロケーション探しとかはしないとだけどこれなら週1……ううん、週2くらいでやってもいいかも!」

「これから半年、忙しくなりますね!」

「バンド活動中心の生活になる……いや、するよ!」

「……おーい、頼むからシフトはちゃんと入ってねー……」

「いや店長さん、そこは『いくらでもライブしていいぞ』って言うところですよ」

 

 口挟んできたと思ったらそれかよツンデレお姉ちゃんがよ……と、俺と虹夏先輩でジト目を向けるが、店長さんはしれっとした顔で「うちのシフト増やしてうちでライブすればいいじゃん」なんて言ってくる。ライブの回数増やしてもバイトで練習時間が減ったら本末転倒なんですけど。

 

「……ん、いやでもこれ賞金……うお、グランプリ取ると100万も出るのか」

「あっ、そうそうそうなんだよ! 昨日リョウともすごいねって話してて」

「――おいお前ら、思う存分ここでライブしろよ! 分け前50万で手を打とう!」

「……100万もあればいろいろやりたいことできそうですね。アルバム制作とか、本格的なMV撮影とか? アー写撮り直したりしてもいいですね」

「うんうん、夢が広がるよね!」

「えっ山分けじゃないの」

 

 山分けじゃないです。いやボーナス的な感じでちょっとは分配してもいいだろうけど結束バンドの活動資金にプールするのが一番賢い……って、完全に取らぬ狸のなんとやらだなこれ。あと金に目の眩んだ大人がなんか言ってたけど無視。

 

「……それにしても、デモ審査ってどんくらいの応募数になるんでしょうね。知ってどうこうできることじゃないでしょうけど、倍率みたいなのは知っておきたいような」

「む。確かにそうね……検索したら出てくるかしら?」

 

 と、疑問を呈した俺を差し置いて喜多さんがスマホでささっと検索し始めたので、みんなでその手元を覗く。

 

 すると……。

 

「……えっ、一番多い時で10000通の応募……!?」

「例年でも3000は下らないって書いてある」

「1次審査の通過数は……うっ、倍率凄いねこれ……」

「あわ、あわわ、あわわわわ……!」

「……い、いやいや、何千何万とライバルがいたって結束バンドが目指すのはグランプリなんですから! ビビってる場合じゃないっすよ! えっと……あーほら、同世代で人気のバンドとか、そういうのも見てみませんか? 敵を知り、己を知ればなんとやらですよ」

 

 なんかせっかく上がっていた士気が下がりかけた気がしたので、俺は慌てて自分のスマホを取り出した。

 そうしてブラウザアプリを開き、適当なワードを入れて検索をかける。まとめサイトばっかり出てくるけど……まぁ軽く知るだけなら十分だろう。

 

「えーっと、『ケモノリア』……都内中心で活動中のエレクトロロックバンド、ダンスミュージックとロックを融合させた斬新なサウンド、とな。あとは大阪のバンド、『なんばガールズ』。曲中にパロディ盛り込んでたりして若者中心に人気を集めてる……らしいですね」

「ふむふむ、コミックバンドって感じかな? 曲とかの紹介もある?」

「あります。順番に聞いていっちゃいます? それとも他のバンドもざっと見てから……って、わお、ヨヨヨちゃんじゃん」

「うん?」

「何?」

「よよよ……ちゃん……?」

「……ヨヨ?」

「あっ。……あっいやなんでもないです。ほらとりあえず『ケモノリア』と『なんばガールズ』の曲を聞き」

「ううんあたしそれよりその下の『SIDEROS(シデロス)』ってバンドが気になるなぁ?」

「シデロス。最近名前よく聞く。シクハックと同じで新宿FOLT中心に活動してるメタルバンドだったはず……そう、この真ん中の子がギターボーカルでリーダー。大槻ヨヨコって子」

「へぇ、()()()さん……新宿FOLTの……()宿()ね……?」

「ヨヨ……」

 

 両脇にいる虹夏先輩と喜多さんが、俺の肩にポンと手を置いてきた。

 

「此崎くん?」

「私たちに隠してること……あるわよね?」

「……えっと……」

 

 ……逃げ場がないことを悟った俺は、潔くヨヨヨちゃんとの関係を洗いざらい吐いた。

 

 そして、乙女の味方・虹喜多タッグによるツープラトン、前後からの強烈なクロスボンバーによって、悪しき女誑しことマスクド此崎は下北沢スターリーに散ったのであった。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

「悪は去ったね!」

「正義は必ず勝ちますからね!」

 

 虹夏ちゃんと喜多さんが此崎くんを沈めた後、私たちは、いつの間にか此崎くんが交流を深めていたらしいシデロスというバンドのライブの動画を見ることにした。

 

「――上手、ですね。けっ結束バンドとは音楽の方向性違いますけど」

「これで結成一年足らず……しかも、ワンマンライブの映像ですもんね。一年でワンマンまでやってるなんですごいわ……」

「うん。ただ活動自体は三年前からしてて、このギターボーカルがメンバー首にしまくってるらしい。現メンバーでの活動が一年目って話」

「ぼ、暴君……なんだね……」

 

 絶対かかわりたくない……でも、そんな横暴な人が本当に此崎くんと仲良くできてるのかな。新宿でショッピング……二人きりでカラオケ……うっ頭が。

 

「ぼっちちゃん大丈夫?」

「あっはいすいません大丈夫です……かろうじて」

「かろうじてなんだね……まぁとにかく、活動期間が特に近いこのシデロスっていうバンドがあたしたちの目標になる、かな? でも、知名度も、悔しいけどライブのクオリティも、こっちが圧倒的に負けてる……」

 

 ……うん、それは確かに認めなくちゃいけない事実だ。目標としては申し分ないけど、逆におこがましいというか……いやいや違う、未確認ライオットでグランプリ目指すなら、このシデロスだって超えなくちゃいけないんだから、弱気じゃダメだ! ダメ……ダメなんだけど、うん、やっぱり……ね?

 

「とりあえず……デモ審査は、今までの曲じゃなくって新しい曲で挑もう。これまでやって来た曲がダメってわけじゃないけど、もっと、これぞ結束バンドっていう曲で挑むべきだと思うんだ。だからお願い、ぼっちちゃん、リョウ。今までで最高の一曲を作り上げてほしいんだ」

「あっうっ――じゃなくて、はい、がっ頑張ります!」

 

 ちょっとプレッシャー……だけど、虹夏ちゃんの言うことはわかる。これからライブする機会を増やして、順調にライブ審査やその先の最終審査に臨むことになるなら、もっと曲のレパートリーがあった方がいいはずだ。

 そして、どうせ作るのであれば最高の一曲を、というのも自然な考えだと思う……けど。

 

「ん、まぁがんばるわ……」

 

 私に続いて返事をしたリョウさんに、些細な違和感を覚える。なんだか気のない様子というか。

 

「……リョウさん? どうかしましたか……?」

「あぁごめん、なんでもない。……ぼっち、作詞作曲家には印税が入るんだぜ。タワマン住めるようになるくらいの凄いの作ってやろうぜぇ」

「あっはい……」

 

 ……気のせい、かな? 虹夏ちゃんも特段気にした感じもなく「生々しい話しないの!」なんて言ってるだけだし。

 

 それにしてもタワマンかぁ……江ノ島の時みたいな高いところからの景色って悪くないと思うけど毎日見たいかって言うと……なんか落ち着かなさそうだな。っていうか私タワマンに住んでもどうせ部屋に篭ってばっかりだろうし無駄に高いところに住む必要ない気がする……いやでも夜の街を見下ろしながらブラ……ブランデー?とか片手に成功者としての悦に浸りたい……憧れる……でもでもやっぱり此崎くんに来てもらうのにタワマンの最上階とか大変で文句言われそうだしでもでもでもそしたらいっそいいい一緒にすすす住んでしまえば解決す──。

 

「後藤お前何をニチャニチャ笑ってんだ」

「コパァ!? コノサキクンイッショニタワマンスモウ!!!」

「なんて?」

「……なんでもないです」

 

 此崎くん生き返ってた……。

 

 ――と、此崎くんの復活も相まって、話はどんどん進んでいく。

 曲作りは私とリョウさんがメインでやるのはよしとして、虹夏ちゃんはライブの映像(店長さんがなぜか私ばかりを映している動画を取っていた。死)やこれから作ることになるMVの編集、あとはミニアルバムなんかを作るときのジャケットを作るとのこと、喜多ちゃんはかねてより任命されていたSNS大臣としてもっと積極的に結束バンドの宣伝をしていくことになった。

 

 そして……。

 

「俺は、とりあえず全体のスケジュール管理ですかね。今まで練習の日程とか割と行き当たりばったりに決めてたけど、もう少し俺の方で目を光らせます。あとは虹夏先輩と喜多さんの仕事の補佐、特に宣伝に関してはいろいろ作戦考えたいと思ってますが……他に何か、今の時点で俺ができそうなこととかありますかね?」

「んー、そうだな~……お金の管理とか練習のサポートは今まで通りやってほしい、かな。あとは路上ライブのロケーション探しとか? 下北ならあたしやリョウが地元だしなんとなく良い場所わかるけど、どうせならいろんなところに出向いてもいいかと思って」

「なるほど、了解です。他にも俺にできそうなことあったらどんどん言ってください。どんな相談にも乗りますし、できることならなんでもしますから」

「ん? 今なんでもするって言ったわね此崎。じゃあ手始めに今月の借入限度額の一時引き上げを」

「それはできないことに入ります」

「ちょっと待ったリョウってばまた限度額いっぱい借りてるの!? てかまだ今月一週間も経ってないじゃん!!」

 

 ……げ、限度額っていくらなんだろう……気になるけどあんまり洒落にならない額貸し借りしてそうで聞くの怖いな……。

 

 ……それにしても、うん。

 此崎くん、だいぶいつもの調子が戻ってきた、かな。

 

 課題は山積みだ。目標をはっきりさせて、ライバルになる同世代のバンドたちを見て、いろいろと話し合って……私たちの行く先にはたくさんの壁が立ちはだかっているのだとわかった。

 

 けれど、私は「大丈夫だよ」って此崎くんに言ったんだから。

 此崎くんはそれを信じてくれて、そうしていつも通りの元気を見せてくれたんだから。

 

 あとはもう、私は私なんだから、言葉じゃなくてギターで伝えよう。

 

 私は、虹夏ちゃんに正座させられたリョウさんを喜多さんと一緒になってスマホで撮影している此崎くんを見て、そう思ったのだった。

 

 

 

 ……いや、うん。でも、やっぱりちょっとくらい凹んでる方がちょうどよかったかも。いくらおもしろいからってリョウさんまで写真に収め始めるのはどうなの……というか喜多さんまでニコニコしながらリョウさんのこと撮ってるのもちょっと変だし……とっとにかく此崎くんは私が醜態を晒している写真だっていっぱい撮ってるんだからそれで我慢してくれないかなでもそもそも私の写真撮るのもちょっとやめてほしいようなでもでも本当にやめられちゃったら寂しいようなあれもしかしてこれって私だいぶ此崎くんに調教されて――。

 

「後藤お前何ぶつぶつ言ってんだ」

「コピィ!? コノサキクンワタシヲカイナラセルトオモワナイデ!!!」

「なんて?」

「……なんでもないです」

 





次回も早く出したーい!
もしかしたら番外編を挟むかも……挟まないかも……
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