うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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はぁ、はぁ、後藤ォ! 今(前回投稿から)何日目!? 後藤ォ!? 後藤ォ!


#46 下北沢STARRY制服事変のちヨヨヨ

 

 ふと気がつくと、11月が終わっていた。結構ビビった。

 しかも、12月も半ばまで来ていた。本当にビビる。

 

 本気で未確認ライオットに挑むと決めた結束バンドの日々は、これまでよりも遥かに濃密で忙しなくなっていた。

 何せ最近、スターリーに行かない日がない。いやマジで。俺、比喩でもなんでもなくここ一ヶ月ぶっ通しでスターリーに顔を出してるんだわ。

 

 未確認ライオットに挑むにあたり、やれ路上ライブだやれ新曲づくりだといろいろ話をしたわけだが、結局一番最初に取り掛かったのはシンプルに練習時間を増やすことだった。

 スターリーでの月1ライブのためにもバイトは基本減らさない方針、となるとその上で練習時間を増やせばどうしたってスケジュールは過密になってくる。今までだってお気楽なスケジュールで動いていたわけではないんだが、そこからさらに詰め込もうってのがとにかく大変だったのだ。

 

 というのも、結束バンドの練習スケジュールはスターリーの予定にかなり左右されてしまう。

 そもそもスターリーでのバイトというのがこちらの希望で決まった曜日、決まった日数入ればいいというものでなく、ライブの開催状況で人手がいるとかいらないとかがあるのでまぁまぁ変則的なのだ。それが四人分。俺自身も含めたら五人分。やばいの。

 で、それに加えて当然スタジオが空いている必要があるから……なんというかね、スケジュール調整すっごい大変だったんですよね。

 先月と今月はとりあえず四人にはオフの日も作ってあげられたし、準備万端で明後日のライブを迎えられそうなので、来月以降もこの調子でいければいいんだが……。

 

 ……とかなんとか、だいぶいろんなことで頭の中がいっぱいになっている俺だが、今日も今日とてスターリーにいる。

 今日は普通にバイトのシフトが入っている。今夜のライブの規模感は週末金曜日にしては控えめなので、シフトに入っているのは俺だけだ。

 結束バンドの四人はというとライブが始まってスタジオが空き次第スタ練の予定で、それまでは自由時間。虹夏先輩は家で家事をしており「何かあったら呼んでね〜」とのことで、後藤と喜多さんはいつものように学校でギター練習をしているのであった。リョウ先輩の行方は存じ上げません。

 

「――おい此崎」

「……はい」

 

 ともあれ、黙々と営業前の掃き掃除をこなしていた俺だったが、ふとした瞬間に店長さんから声をかけられ、手を止める。

 

「掃除終わったら()()捨ててきてくれ」

 

 そして、そんな指示を受けて、俺は店長さんの視線の先を見た。

 

「…………」

「うぇええぇぇ~? いっくんごみすて行くららわらしのおしゃけもすててきてぇ~……」

「……きくりちゃん、とりあえず床に寝るのはやめましょうか。店長さんにゴミを見る目で見られてますから」

 

 俺はほうきとちりとりを壁に立てかけて、店長さんの足元で無残に転がっているきくりちゃんを引っ張り起して座らせる。……うん、床に座るのも十分アレなんだけど、無理に立たせるとリバースカードがオープンされちゃうからね(二敗)。

 

「ところで廣井さん、先ほどから抱えているそれはなんでしょう? ずっと気になっていたのですが……」

 

 そんなことを言い出したのは、機材ブースで作業をしていたPAさんだった。ひょこっと顔を覗かせた後、店長さんの隣までやってきて小首を傾げながらきくりちゃんを見つめる。

 

 確かにPAさんの言う通り、きくりちゃんは小脇に何かを抱えていた。何か、ビニールに包まれた……服、かな?

 ……いやね、床に転がってるきくりちゃんの有様がちょっと青少年の教育に悪すぎるから青少年としてあんまり見ないようにしててね? だから全然そんなもん持ってるのに気が付かなかったんですよね。

 

「……あ? 廣井、お前それ……!」

「んん? なんすか、店長さんご存知で?」

「むふふ〜、いっくんこれねぇ〜先輩の部屋のクローゼットにあったんだぁ〜! じゃじゃーん!」

 

 と、きくりちゃんが両手で掲げたのは女子用の学生服だった。

 

 ……えっと。

 

「……店長さんが高校生の時の、ですかね?」

「……あ、あぁ、まぁ……」

「えぇ〜!? 先輩ってば前に『高校の頃は制服なくって私服だった』って言ってたじゃないですかぁ〜!!」

「…………」

「……あっ、あー、えっと……ちゅ、中学の……とか……?」

「そっ、そうだ、それは中学の頃の……」

「あら? でも廣井さんもう一着持ってますね。ピンクのカーディガンも付いてて……虹夏さんの中学生の時の制服ともデザイン違いませんか?」

「…………」

「……すいません、もうすでに数が合わないので弁護できないっす……」

 

 これ完全にアレですよね、喜多さんに着せてたメイド服と同じアレですよね。メイド服も結局謎のままだけど店長さんマジでどういう趣味なんだ……着てる……のか……?

 

「……おい此崎、断言しておくが私にコスプレ趣味はない。ただ……」

「ただ?」

「……か、観賞するために持ってるだけだ」

「……そ、そうですか……」

「……それむしろヤバ――」

 

 ――きくりちゃんは死んだ。

 核心を突く迂闊な発言をしたことによって誤魔化すことに必死だった店長さんに「そもそも他人の部屋のクローゼットから勝手に私物を持ち出してきやがったこいつをまずは消そう」と思い立たせてしまい、目にも止まらぬ鋭い手刀がきくりちゃんの頸椎を襲ったのであった。

 

「此崎、お前は何も見なかった。いいな?」

「アッハイ」

 

 オレ、ナニモミテナイ。ナニモ……。

 

「……って、お? きくりちゃん、スマホで何を……?」

 

 うつ伏せに倒れたきくりちゃんが片手でスマホを弄っていた。結構余裕そうだなと思いつつ画面をのぞき込んでみると、そこにはダイイングメッセージが残されていた。

 

『はんにんはせんぱい』

 

 それは知ってる。

 ……否、きくりちゃんのダイイングメッセージには続きがあった。

 

『せんぱいたちのせいふくすがたみたーい』

「トドメ刺されますよ?」

「あぁ、刺す」

 

 片足を上げてきくりちゃんの頭に狙いを定めていた店長さんを俺は「待った待ったまぁまぁまぁまぁ」と宥め、PAさんに助けを求めるよう視線を向ける。

 

 PAさんは、にこりと微笑んだ。

 

「せっかくですしブレザー着てみたいですけどね〜? 中学も高校もセーラーだったので〜」

「着てみたいんかい」

「マジかよお前……」

 

 まさかそっち側だとは思わなかったんですけど……。

 

「……で? どうするんすか店長さん」

「いや着ないが」

「えぇ〜〜〜!!! 先輩着てくださいよぉ〜〜〜!!!! いっくんも店長さんの制服姿見たいよねぇ〜〜〜〜!?」

「俺に振らないでくださいよきくりちゃん……いやまぁどちらかと言えば見てみたいなぁとは思いますが」

「…………」

「……いやあのすいません別にセクハラとかそういう意図は本当になくってただ聞かれたから正直に答えただけと言いますか逆に全然見たくないとか言うのも失礼かなと愚考した結果の発言なのであまりそのガチでドン引きしたようなリアクションはやめてくださいすいません」

 

 店長さんがすげぇ顔して俺のことを見てきたので、俺は咄嗟に言い訳を並べる。でももうきくりちゃんのキラーパスが飛んできた時点で詰んでた気がする。

 

 ……でもね、お世辞とかじゃなく全然いけると思うんだよな、制服。もちろんこの際の問題って本人の羞恥心だろうから無理強いする気はないんだが……店長さん、黙りこくってたまま制服見つめてるのはその、そういうことなのでは?

 

「……ん」

 

 それからふと、店長さんが指を4本立て、俺に視線をやってきた。

 

 ほんの一瞬、その意味するところを理解できなかった俺だったが――いやいや、だからそこまでして見たいわけじゃないんですって。それじゃまるで……って、でもまぁ別にいいんだけど、それにしたって“4”はない。

 

 俺は、指を2本立てる。

 それを見た店長さんは顔を顰め、なおも指を4本立てたまま。

 

 ……店長さんの制服姿の価値を安く見積もるわけではないが、こちらとて安売りをすることはできない。

 俺が断固として指2本を突きつけると、店長さんは不満そうな顔をしながら渋々といった様子で頷いたのだった。

 

「まぁまぁ店長さん、そう不満そうなお顔をなさらず……“A”を1と“B”を1にして差し上げますよ。これなら文句ないでしょう。で、ご希望は?」

「……14で」

「了解。では後日」

「あぁ……――はぁ、ったくしょうがねぇな、ちょっとだけなら着てやるよ」

「なんだったんですか今の?」

「こわ〜……」

 

 怖くない怖くない。ただちょっと取引しただけだからね。

 

 

 

 ――と、そんなこんなで店長さんとPAさんが制服姿になりましたとさ。

 ちなみにあと一時間くらいで営業始まっちゃうしもう裏のスタジオに今日ライブするバンドさん入ってるけど大丈夫かな? まぁ大丈夫か!(無責任)

 

「おぉ〜!! スクールカースト上位に君臨してるけど実はアニメ好きでオタクに優しいヤンキー系ギャルみたいですよせんぱ〜い!!」

「なんだその気持ち悪りぃ設定」

「わかる」

「わかるな此崎気持ち悪りぃ」

 

 ひでぇ。いやでも本当にそんな感じなんだもん……。

 

 店長さんはピンクのカーディガンが付いている方の制服を身に纏っていた。

 ブラウスの胸元を大胆に開けつつ黒い大きなリボンをだらっと垂らし、ミニスカートにルーズソックス……クソッ、店長さんって普段ずっと長ズボンだから生足が眩しい……!

 

「此崎くん? 店長さんの脚チラチラ見てるのバレバレですよ~?」

「……おい」

「すいません許してください殺さないでください!」

 

 しょうがないじゃん! 吸い込まれるじゃん視線が! これはもう不可抗力じゃん!

 

「ふふっ……ところで此崎くん? 私のことは見てくれないんですかぁ~?」

「……ッスー……」

「PAちゃんはあれだねぇ~、清楚系と見せかけて本当はピアスゴリゴリの治安悪い系女子! これは青少年の教育に悪いよねいっくん!」

「悪いです」

「それほどでも~」

「誉め言葉か? それ」

 

 誉め言葉ですね。セクハラでもあります。

 

 ……ふぅ、さて。

 

「そろそろ腹切りますね」

「何言ってんだお前。……いやホントにキッチンに向かうなバカ!」

「いてっ」

 

 店長さんに頭を引っぱたかれた。

 

「いやでもセクハラポイント溜まり過ぎてぼちぼち死刑かなって」

「いっく〜ん、この場合セクハラしてるのは私たちだから平気だよ平気〜」

 

 そうか……そうか?

 ……まぁどう考えたって俺が損してるわけがないんだよな。なんかこう、良いもの見れたっていうか……ダメだこれ何言ってもセクハラだわやっぱり死のうかな?

 

「ほらほらいっくん難しいこと考えずに先輩たちの写真撮ろ〜! 今しかないよ、チャンスだよ〜!」

「……そうですね! 撮りましょう!」

「おい此崎お前開き直んな!」

「“A”を2としましょう」

「くっ……好きなだけ撮れ!」

「店長さん本当になんの弱みを握られてるんですか?」

 

 弱みは握ってない。強みを握ってるんだよPAさん。

 

 ……そしてついに撮影会まで始まってしまった。いやもうホントにだいぶ営業時間迫ってるんだけど、俺ときくりちゃんがカメラマン役で店長さんとPAさんの写真をたくさん撮った。いろんなポーズで、いろんなアングルから。

 

「此崎くん写真撮るの上手ですねぇ〜」

「お褒めに預かり恐悦至極。ちなみに加工すると……うん、ざっとこんな感じですかね。店長さん、どうです?」

「…………」

「先輩ってば〜口角上がるの抑え切れてませんよぉ〜?」

 

 ……しかし、うむ、とりあえず店長さんもご満悦である。

 

 ここ最近、喜多さんと協力して結束バンドのSNSを積極的に動かしているのだが、そこで喜多さんから教わった写真撮影術とアプリによる写真加工術がこんな場面で役に立つとは思わなかった。

 

 珍しい格好……というか有体に言ってコスプレしてるからってのもあるが、そもそも店長さんもPAさんもかなりの美人なので写真映りが抜群だ。そりゃあ撮ってて楽しいに決まってる。

 

「こうして加工された写真を見ると私たちもまだまだ現役女子高生と張り合える気がしてきますね、ふふふ……」

「いけるいける! ねぇいっくん!」

「う、うんうんいけますいけます!」

「此崎?」

「此崎くん?」

「いけますいけます!」

 

 一瞬言葉に詰まってなんてないです! えっさすがにそれはとかも全然思いませんでした! いけますいけます本当に! ほらあの……ご、後藤よりは!

 

 ──と、なんだか急激に追い詰められて、俺が背中にたっぷり冷や汗をかいたまさにその時であった。

 

「──げっ! おねーちゃん何やってんの!?」

「おはようございます〜……えーっと、とりあえず此崎くんはお仕置きしたほうがいいかしら?」

「あっあっ、あっうっあっ?」

 

 来ちゃいました、現役女子高生。

 虹夏先輩と喜多さん、あとなんか変な鳴き声の生き物が現れたのである。

 

「……いや〜、やっぱり10代のフレッシュさには敵わないね〜……」

「えっいや何……なんですか……?」

 

 あっさりと敗北宣言をしながら虹夏先輩の肩に腕を回してドン引きされていたきくりちゃんはまだいいが、なんやかんやウキウキで学生服を着てノリノリで撮影会なんてしていた店長さんとPAさんのダメージは大きいようだった。

 店長さんはいつものカウンター席にゆっくり戻るとテーブルに肘を突き、片手で目元を覆って俯き始めてしまう。片やPAさんはというとその場で膝から崩れ落ち、さめざめと泣き出してしまったのであった。

 

「……時の流れって残酷だな」

「此崎くん、逆エビ固めと4の字固め、どっちがいいかしら?」

「喜多さん、言っとくけどこの悲惨な状況はまったくもって俺のせいじゃないからな? 俺悪くないからな?」

 

 もしかしてこの世の悪事すべてが俺のせいだと思ってる? あとプロレス技に味占めるのやめような。固め技はまずいよいろいろと。

 

 ……というか。

 

「喜多さんたち、来るの早くない? ギター練習もう終わりにしたのか?」

「あっ、それなんだけどね」

 

 と、喜多さんが目を向けたのは、きくりちゃんであった。

 

「廣井さんからひとりちゃんにロインがあったのよ。話があるからスターリーに来てほしいって」

「ほう?」

 

 後藤もこくこくと頷いておる。

 本当のことらしいが……なんだろう、今日のきくりちゃんも基本いつも通り突然現れてベロベロに酔っぱらって床に転がってただけなんだけどな。あとはもう店長さんのクローゼットから制服を勝手に持ち出してたくらいで。

 

「おーいきくりちゃんやーい」

「は~いどしたのいっく~ん?」

「なんか後藤に用があったんですか? 呼び出されたから来たって言ってるんですが」

「んぇ~……? ……あ! そうそうそうだったそうだったぁ~! 実は結束バンドのみんなに話があってさぁ~!」

「結束バンドに?」

 

 虹夏先輩が絡みついてくるきくりちゃんを押し退けようとしながら尋ね返す。いつも俺が絡みつかれてるから傍から見るのちょっと新鮮……じゃなくて。

 

「うん、そー! 別にいっくんとか妹ちゃんにロインするだけでもよかったんだけどね~。結局一人いないし!」

「リョウ先輩はまぁ、最近俺たちでもちょっと捕まらないことが多いんで……で、結局話ってなんですか?」

「んーとね~、今度の24日、クリスマスイブの日なんだけどさ――」

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 その日の夜。

 俺は、ある人と通話を繋いだ。

 

「もしもしこんばんはー。聞こえます?」

『聞こえてるわよ。こんばんは』

「通話するのちょっと久々ですね」

『あんたが忙しいからって誘ってこないからじゃない』

「まぁそっすね。でも、ヨヨヨちゃんの方から誘ってくれてもよかったのに」

『私だってそのくらい気は遣うわよ!』

 

 はい、まぁヨヨヨちゃんですね。ロインはやっぱり毎日してるけど通話は最近全然してなかったから、うん、だいたいひと月ぶりくらいかね? 遊びに行く時間もなかったし、声聞くのも久しぶり……じゃないな。シデロスのライブの動画見まくってるからめっちゃ聞いてるわ。

 

『で? 今日は……』

「んぁ、あぁはい、そうですね。さっきロインしたあの話……ヨヨヨちゃんも今日聞いたって言ってましたよね」

『ええそうよ、あくびからね……姐さん、なんで直接私に言ってくれないのかしら……!』

「い、いやまぁ、それはタイミングじゃないですかね? 気にしてもしょうがないですよ」

 

 ヨヨヨちゃん、ホントにきくりちゃんのこと好きだなぁ……まぁだからこそ、今日きくりちゃんから聞いた話に関してヨヨヨちゃんにいろいろと確認しておきたかったわけなのだが。

 

「今月の24日、クリスマスイブに新宿FOLTでやるシクハックのライブ……そこでシデロスと結束バンドのゲスト出演。いわゆる前座ですよね」

『……そうね、そういうことよ。本当は別のバンドが出演する予定だったけど、急に出られなくなったからって』

 

 ふむ、こっちで聞いた話と相違はなさそうだな。

 

 クリスマスイブに行われる予定のシクハックのワンマンライブ、シデロスはもともとゲスト出演する予定だったようなのだが、もう一つのゲストバンドが急遽出られなくなってしまったため、その代役として結束バンドに白羽の矢が立ったのだ。

 ……いや、白羽の矢が立ったというとちょっと大げさで、実際にはきくりちゃんの思い付きらしいんだけど。一応結束バンドが今までにも増して積極的に活動する的な話はしていたので、それを踏まえて声をかけてくれたのだとは思う。たぶん。きっと。

 

 ただ、それにしても……。

 

「……まぁ、その。結束バンドとしてはね、非常にありがたい話なんですよ。明後日スターリーでライブするし、そうでなくても今から二週間後にいきなりライブってまたスケジュールやばいんですけど……シクハックのワンマンならきっと満員、しかも新宿FOLTなんてスターリーの倍の規模じゃないですか。そんな大勢の前でのライブなんて、やりたくってもできないですし」

『……でしょうね』

「……はい。だから、あの……ぜひお願いします、と、きくりちゃんには伝えまして」

『まぁ、でしょうね』

 

 ……やっぱり、そういうリアクションか。

 ヨヨヨちゃんの言いたそうなことは手に取るようにわかったが、俺はそれ以上何も言わずに彼女の言葉を待つことにした。

 

『……覚悟してるみたいだから、はっきり言うけど』

「はい」

『あんたたち、シクハックの前座やるにはまだまだ実力不足よ。私たちと肩並べてゲストやるにもね』

「……はい。ですよね」

 

 何様なんだと誰かが言うなら、俺がヨヨヨちゃん様なのだと言ってやろう。

 

 ヨヨヨちゃんは、正しい。

 今の結束バンドには、まだ、そんな完全アウェーで観客を唸らせるようなパフォーマンスは到底出来ないだろう。

 

 マネージャーだけど、マネージャーだから。

 そこは、冷静に一歩引いて、客観的に評価しなくちゃならないだろう。

 

『……あっ、い、言っとくけど! 別に、今からでも辞退しろとかそういうこと言いたいんじゃないからね!? あんたが自分のバンドのこと一生懸命考えてるのはわかってるし、マネージャーとして判断するならたとえ実力不足でも絶対このチャンスを無駄にしない方がいいに決まってるから! それに――』

「あーあーわかってますわかってますって! 大丈夫ですよ! そんなネガティブな捉え方してませんって!」

 

 本当にわかってるったらわかってる。ヨヨヨちゃんはツンデレなのだ。どっかのライブハウスの店長に匹敵するツンデレなのだ。

 

 そもそもヨヨヨちゃんは結束バンドにあまり良い印象を持っていない。

 というのも、きくりちゃんが後藤と知り合ってからこっち、新宿FOLTでいつも後藤の話をしているらしいのだ。

 きくりちゃん大好きっ子なヨヨヨちゃんはそれがどうにもおもしろくないようで、ずっと前から結束バンドのことも目の敵にしている節があり、知り合って最初の頃は俺もそんな雰囲気に遠慮して結束バンドの話は滅多にしなかった。

 

 ただ、ひと月前にぽやみさんとの一件があってから、俺はヨヨヨちゃんにもバンド活動についてのあれこれを具体的に聞くようになった。

 シデロスは、結束バンドの目標だ。そのシデロスを率いているヨヨヨちゃんに結束バンドが成長するためのアドバイスを求めるのは我ながらどうなんだとは思ったのだが、なりふり構っていてもしょうがないと俺はすっかり開き直っていた。

 

 そして、大事なことなので二度でも三度でも言うが、ヨヨヨちゃんはツンデレだ。つまり、根本的にお人好しなのだ。

 

 俺が真摯に教えを乞えば、なんやかんや言いつつも答えてくれる。本当にめちゃくちゃなんやかんや言うけど、答えてくれる。それが、いけ好かない結束バンドに塩を送る真似だと理解しながらだ。

 

 結論を言うと、ヨヨヨちゃんはツンデレなのだ。本当に三度言っちゃった。いやでも要するにツンツンした発言にはだいたいデレデレな裏側があるよってことだ。ここ試験に出ます。

 

「ヨヨヨちゃんわかった?」

『は? 何が?』

「すいませんなんでもないです……まぁとにかく、悪いようには受け取ってないです。ヨヨヨちゃんの言う通り実力は伴ってない、でも、玉砕覚悟でやらせてもらいますよ、結束バンドは」

『……なるほど、それを言いたかったわけね。良い度胸じゃない?』

「……えーっと、いや、別に宣戦布告するつもりはなかったんですが……」

 

 あかん、全然そんなつもりなかったのに……いやでもどういうつもりだったかって言われるとそれはそれで困る……。

 

「……あ、でもですよ? 玉砕覚悟って言っても、この一か月、みんな相当頑張ってますから。今上がってるライブの動画よりは格段に上手くなってますから!」

『ふーん……ねぇ、ところであんたたち、明後日ライブって言った?』

「え? あぁはい、言いましたけど……」

『へぇ、そう。あ、別に興味ないけどね。ただ、明後日ライブなんだなって思っただけで』

「……あー、そうですね、明後日ライブやります。場所は下北沢スターリー、17時半開場の18時開演でチケット代ドリンク代合わせて二千円……まぁ、顔見知りならチケット代はおまけしてもいいかなって」

『へぇ、そうなのね』

「はい。じゃ、明後日待ってますね」

『普通に言うの!? 今完全に見て見ぬ振りする流れだったじゃない!?』

「はっはっはっ」

『はっはっはっ、じゃないわよ!』

 

 はっはっはっ。

 ヨヨヨちゃん、明後日のライブ来るってさぁ!!!(大声)

 





今日の後藤

・喜多さんにギターを教えてる最中に突然死
・スターリーに来て変な鳴き声を上げた
・話を振られてこくこくと頷いた
・夜、突然謎の電波を受信して押し入れの中で爆発した

以上
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