原作と全然展開が変わっちゃったし文字数が当社比6割くらいになっちゃった……
ところでぼざろの影響でギター買ってしまった俺のこと、みんなは笑うかい?
「ねぇ此崎くん、ちょっといいかしら」
初バイトの翌日の昼休み、前の席の友人と飯を食おうとしていたところに、珍しい人から声がかかった。
「喜多さん? 何か用?」
喜多さん。クラスメイトの喜多郁代さんであった。
高校生活が始まって一か月経つが、これまで面と向かって彼女と話したことはなかった。出席番号は近いものの教室ではちょうど喜多さんが最後方の席、一方で俺は友人一人(木野崎という名字だ。ややこしい)を置いて前から二番目の席となっていて、逆に遠いのである。
喜多さんは明るくて元気がよくて、今日高熱で休んでるどっかの誰かさんとは対極の陽キャ女子である。あっちこっちから喜多ちゃん喜多ちゃんと呼ばれており、少なくともこのクラスで喜多さんの名字を覚えていないやつはいないだろう。
ただ、俺がそこからさらに下の名前まで覚えていたのは、勝手にシンパシーを感じていたからだ。
喜多郁代。きたいくよ。来た、行くよ。
此崎衣久。このさきいく。この先、行く。
という具合。だからなんなんだろうね。俺も知らなーい。
「あのね? 此崎くん昨日、帰る時にギター背負ってる子と一緒にいたでしょ?」
「ああ、あいつ幼馴染。2組の後藤」
「えっ、幼馴染!? すごい、高校まで一緒なのね!」
「まぁね……で、後藤がどうかしたの?」
「あ、うん、えっとね、後藤さんって軽音部とかだったりするのかなーって」
何じゃその質問……軽音部に興味でもあるのか?
「うんにゃ、部活はやってないよ。じゃなきゃ帰宅部の俺と同じタイミングで帰れんし」
「言われてみればそうね……じゃああのギターは?」
「ファッション」
「ファッション!?」
「ってのは冗談」
まぁ一番初めに持ってきた時はマジでファッションと言って差し支えなかったけど、今は結束バンドという大義名分を得たからな。
「あいつ、最近他校の人たちとバンドやり始めたんだよ。放課後にライブハウス行って……って、まだ先週メンバーになったばっかりだから練習も何もしてないんだけども」
「そうなんだ! すごいわね、他校の人たちとなんて」
「成り行きだったけど、先輩たちがいい人でな」
いやホント、今朝方に後藤が自業自得過ぎる愚行で風邪引いたことを伝えたときも全然怒った様子がなく、むしろ後藤のことを大層心配してくれていた。本当の本当に良い人たちである。
……と、それはひとまず置いといて。
「……喜多さん、もしかしてバンドに興味ある感じ?」
「えっあっ」
あれ、なんか喜多さんが急に後藤みたいに……って、いきなりバンドやりたいのか、なんて指摘されたら恥ずかしいか。
いやしかし、これチャンスなのでは、と俺は思った。
「なぁ喜多さん。実はさ、そのバンド、ボーカル探してるとこなんだわ。俺は仮マネージャーやってるんだけども……あ、結束バンドっていう名前のバンドで、下北のライブハウスで活動しててな」
「……え˝っ!?」
うわ声でか。何、ご存知?
「えーっと、喜多さんって何か楽器できる? まぁたぶんボーカルだけでも平気だと思うんだが……あぁいやそもそも喜多さん的に歌とかどうなのかな。上手いに越したことないけど、そもそもまともに活動も始まってないくらいだし、一緒に成長していってもらえればたぶんだいじょ」
「ご、ごめんなさい此崎くん! このお話はなかったことにしてください! そっそれではっ!」
「えっ」
あれ……あれ?
「……俺、なんかやっちゃいました?」
前の席の友人に尋ねてみると、舌打ちとともに中指を立てられた。
……というのが、先週の出来事である。
どうしてこんな回想をしていたかと言えば、週明け月曜日の昼休み、今度は後藤の方からロインで喜多さんについて尋ねられたからだ。
氷水風呂からの半裸扇風機と初バイトのコンボによる盛大な自爆で高熱を出し、今日からようやく学校に復帰した後藤。
病み上がりだし学校しばらく休んだせいでみんなに忘れられてるとかうだうだ考えて慎ましく生きているのかと思いきや、何やら珍しく積極的で驚いてしまった。なお、そもそも誰も後藤のことをまともに覚えていないと思われるので休んだからどうとかは典型的な自意識過剰である。
と、まぁ後藤自身のことはどうでもいいとして、なぜ後藤が喜多さんに興味を持ったのか。重要なのはそこだろう。
曰く、つい先ほど後藤は廊下で喜多さんの話をしている人たちとすれ違ったらしく、その時に喜多さんがバンドでギターボーカルをやっていた、と言っているのを小耳に挟んだのだとか。それに、その人たちは喜多さんとカラオケに行って、喜多さんの歌が上手だったと証言もしていた、と。
小耳に挟んだにしては結構な情報量だな、と俺は訝しんだが、ロインでそれを指摘するのは面倒だったのでしなかった。
で、風邪でバイト休んだ贖罪も兼ねて喜多さんをギターボーカルとして誘えば……と考えた後藤は、その後こっそり喜多さんを尾行して、喜多さんが俺と同じクラスであることまで突き止めたというわけだ。
「……きめぇな」
後藤相手に言っても詮無いのはわかっているが、こそこそ後をつけて、さらに外堀から埋めようとする感じがなんとも卑怯である。
しかし、卑怯ながらも後藤は後藤なりに行動を起こしたわけで、その点はまぁ評価してやるとしよう。動機が贖罪ってのは安心感すら覚える後ろ向きさだけどそれは後藤なので仕方がない。
……ただ残念ながら、喜多さんを結束バンドに迎え入れるのは望み薄である。
俺が先週すでにフラれているからだ。
こればっかりは普通に後藤にも申し訳ない。いったい何がいけなかったのか……後藤が軽音部かどうか聞いてきたわけだし、喜多さん自身ギターもできるって言うんなら結束バンドに誘ったことが致命的な失敗だったとは思えないんだけどな。
ともあれ、後藤になんと説明したものかと悩みながらスマホを眺めながら机に頬杖を突き、俺はため息を吐く。
……と、同時に件の喜多さんとその友達が談笑しながら教室の後ろのドアから入ってきたものだから、俺は無意識にそちらへ振り向いてしまった。
「――っ!」
「…………」
そして、偶然にもばっちり喜多さんと目が合って、速攻で逸らされた。
目を逸らされるという行為自体はどっかの卑怯者のおかげで慣れている……つもりだったが、相手が変わるだけでこうも心に来るものなんだな……。
「はぁ……」
へこむ。
まぁとりあえず、諸々諦めて後藤にはざっくり説明しよう……。
♪ ♪ ♪
「――こっここここさのきくんっ、こっこここっここれ! あげるっ! から!」
「こさのきくんって誰だよ。あとそのレモンティー何」
「そっその、き、喜多さんにふっ、フラれたって言ってたから……な、慰めようと……!」
「半笑いでそれは完全に喧嘩売ってるよな?」
こいつマジでいっぺん引っぱたくか?
「振られたって、バンドの話だぞ……お前あれ、そういうことだったのか」
「えっあっ……」
『先週喜多さんに振られた』、『聞かなかったことにすると言われた』とテンション下がったまま投げやりにロインを送った後、後藤からは『え』と『あ』の一文字ずつ計二回の返事だけが返ってきて通信が途絶したのだが……こいつ、アホみたいな勘違いしてやがった。
「あの話の流れで俺が喜多さんに告白したとか考えるか普通」
「だ、だってぇ」
「だってじゃねんだおバカ」
俺は思わず顔を手で覆って、今日何度目かのため息を吐いた。
「……まぁとにかく、そういうことだから今日も喜多さんと話はしてないぞ」
「うっ、そ、そうなんだ……」
「ただ、とりあえずお前から話してみるのはいいんじゃねぇか。まだ喜多さん教室に残ってたし、そもそも喜多さんが俺に話しかけてきたのも、なんかお前に興味があったからみたいだし」
「ヴェアッ!?」
後藤は猫背になってジャージの袖の中にそれぞれ両手を突っ込んでもぞもぞし始めた……こいつもしかして鳥肌立ってる? 陽キャアレルギーか? もうアナフィラキシーショックで死ねばいいのに……。
「なんにせよ、俺は避けられてるから勧誘無理。後藤、やるならお前がやりな」
「えっあっ……あぁっ……あぁぁっ……!?」
提案だけして俺に丸投げするか、せめて同席してもらおうとでも考えていたのだろうが、残念ながらもはや俺にはどちらもできないのだ。くぅ~、残念だなぁ!
「それじゃ俺、先にスターリー行くからな。店長とか先輩たちには事情説明しといてやるから、ごゆっくり」
「……えっ、ほっホントにおいてくの……?」
捨て置くともさ。
捨てられた子犬のような目をしてもダメ。
「――そんなわけで後藤のことは置いてきました。まぁきっとあの世で元気にやっていることでしょう」
「待ってぼっちちゃん死んだの!?」
「死んだでしょう。陽キャと二人きりですよ? 死にますよ。死んでなかったらその辺の木の下に埋めてもらって構いませんよ。後藤を」
「絶対にぼっちちゃんの生存を許さない気だ……」
今日も
俺と虹夏先輩、そして
今夜のライブに参加するバンドは結構人気があるらしく、客入りは多いと思われる。が、ライブの開始自体は少し遅い時間からの予定なので、チケットの販売開始もそれに伴って遅くなっているのだ。したがってまだ時給が発生しておらず、これは決してサボりというわけではない。
「ねぇ此崎。そのギターボーカル候補、実際どうなの?」
「実力は一切わかんないっすね。ギター持ってるの見たことなかったですし。カラオケ上手いらしいってのは後藤から又聞きしましたけど……それ以前に、結束バンドに入ってくれるかどうかがかなり怪しいです」
「何か変なこと言ったんじゃないの」
「言ってないですよ、下北のライブハウスでやってる『結束バンド』って名前のバンドだって説明し……いや、それが悪かったのか? ダジャレが寒かった?」
「ほらぁ! やっぱり変なバンド名ダメなんだって!」
「私は好き」
「俺も好きなんですけどねぇ」
「二人が好きなのが何よりの証拠だよっ!」
えへっ、とリョウ先輩が謎に照れた。
「なんか……結束バンドと因縁のあるバンドとかありません? そこのメンバーだった、とか」
「結束バンドはそんな曰く付きバンドじゃないよっ! だいたい、まともに結成したのだってここ一か月なんだからね? 因縁のいの字も生まれないって」
そりゃそうだろうな……この人たちがそんなトラブルの種を抱えているとは思えない。よしんば彼女たちに非のない何かがあったとして、その相手方が喜多さんだと考えるのも不自然だ。
謎がますます深まるばかりだな……なんて考えていると、口元に手を当てて考え込んでいるようだったリョウ先輩がふと口を開いた。
「……というかさ、そのギターボーカル、此崎のクラスメイトってことは秀華高ってことだよね」
「そりゃそうですけど」
めちゃくちゃ当たり前のこと聞いてくるじゃん、と思いきや、それで虹夏先輩がハッとした表情になった。
「……えっ、もしかして?」
「うん、もしかするかも。ねぇ此崎、その子の名前わかる?」
「喜多郁代。喜多方の喜多に……いやさすがに下の名前の漢字は覚えてないっすけど」
「あ~」
「あ~」
あ~?
……って、何を二人で納得してるんだ。
「それあれだ、たぶん、いや間違いなく逃げたギターの子だよ」
「逃げたギター……あぁ、あのライブの日の?」
「そう」
あちゃあ、そういうことか……。
「世間、狭いですね……」
「まぁあたしがあの公園に寄ったのって、秀華高の近くなら喜多ちゃん見つかるかなーって思って歩き回ってたからだしね。出会うべくして出会ったような気もするけど」
「あの子、死んだのかと思って毎日お線香あげてた」
「マジっすか?」
いや、たぶんマジでやってんだろうな……ここ数日、後藤がいない間のバイトの日々で確信に変わったが、リョウ先輩はナチュラルに頭がおかしい。顔面の良さを免罪符にしている狂人……というのは言い過ぎかもしれないが、そのポテンシャルがだいぶ見え隠れしていた。
「てか、先輩たち怒ってないんですか?」
「ん? んー……怒ってないよねぇ?」
「うん」
「心広すぎませんかね……」
「だって、結局ライブできたし? なんなら喜多ちゃんが逃げてくれたおかげで此崎くんとぼっちちゃんと知り合えたわけだし?」
物は言いようだなぁ……なんかそれ、喜多さん本人に聞かせてやりたい気がする。
冷静になって考えてみれば、あの喜多さんが断りもなくライブをバックレるのはかなり奇妙に感じる。
いや、もちろん俺は喜多さんの人となりを細かく知っているわけじゃない。まともに会話したのは先週のアレが最初で最後だったわけだし……はぁ……。
……ともあれしかし、普段学校で目にする喜多さんの様子を踏まえれば、バイト初日を迎えるのが嫌すぎて無理やり風邪引こうとしてたどっかの愚か者とは完全に違う人種であると自信をもって断言できる。間違っていたら木の下に埋めてもらって構わない。どっかの愚か者を。
「何か……事情があったんですかね」
「あったんだろうねぇ……ま、そこはさすがに気になるよね。喜多ちゃんってすっごく良い子だったし、よっぽどの事情があったんじゃないかとは思ってるんだけど」
「ぼっちが連れて来てくれるといいね」
「リョウ先輩、寝言は寝て言ってください」
「そこまで言う?」
だってよ……後藤なんだぜ?
「――っと、噂をすれば後藤っすね」
「あたし通知きてない。此崎くんに直接ロインしたんだ。こっち来るって?」
「みたいです……あぁ?」
「何、どしたの」
「いや……喜多さん来るらしいです」
「えっホント!」
「はい。ただ、途中で菓子折りを買ってくるから少し遅くなる、と」
「……菓子折り?」
虹夏先輩、わかってくれるだろうか。
この、すっごい嫌な予感。
みんなー! 感想と高評価ほんとありがとー!
おかげで日間1位になったよー! 承認欲求モンスターも海に帰っていったよー!
だからというわけじゃないけど明日は更新できるかかなり怪しいよー……ごめんよー……