①ギターたのしい!
②ねんどこねこね!
③うまうまうみゃうにゃ!
④仕事カス
答えはあとがきで!
「おい後藤、あんまマフラー引っ張んな。ズレてさみぃだろ」
「うっごっごめん、でっでも、しっ新宿人多すぎて……あっカップル……おえっ」
「失礼すぎんだろお前……」
あっちが、ちっ違うんです、今のは人混みに酔って吐き気を催してしまっただけで別に腕を組んで幸せそうに笑い合う男女を見てえずいたわけでは……。
さて。
これは、全国の陰キャ諸君に是非とも伝えておきたいことなんだけど、クリスマスイブの新宿は地獄だ。
……いや、バカな私だってわかってる。
新宿は悪くない。クリスマスイブも、人目を憚らずイチャつくカップルも、何もかも悪くない。
悪いのは唯一人、陰キャを拗らせている私──後藤ひとりの他にないのである。
……でもやっぱりそれはそれとして私ごとで構わないから何もかも爆発してくれないかなとは思った。私が率先して爆発するから全部誘爆してくれないかなと思った。
「後藤、だからお前マフラー引っ張んなって」
「そもそもぼっちちゃんに掴ませるのやめさせればいいのに」
「……じゃあ虹夏先輩試してみてくださいよ。無理やりでもいいんで」
「ふふん、さては此崎くんドラマーのパワー舐めてるね? ぼっちちゃんの握力くらいなんとでも――いやびくともしないっ!? 嘘っ、ぼっちちゃんこんな力秘めてたの!?」
虹夏ちゃんが、此崎くんのマフラーを握り締める私の手をほどこうとしてくるが、私はそれに全身全霊で抵抗した。絶対に負けない。絶対に……!
「そう言えばひとりちゃん、たまに此崎くんのネクタイとかパーカーの紐とか握ってることあるわよね。握ってると安心するのかしら?」
「えっあっうっ、な、なんか、はっ反射的に……」
「へー、なんだか赤ちゃんみたいね! 赤ちゃんって手のひらに指とか触れさせると反射的に握るって聞いたことあるわ!」
「あぁ、えっと……あれだあれ、把握反射な」
へー、はあくはんしゃ……言われてみると私、ふたりが赤ちゃんだった頃によく自分の指を握らせてたような……って、あれ? 喜多さん今私のこと赤ちゃんって言わなかった?
「そうだひとりちゃん、よかったら私のマフラーも握っていいわよ!」
「えっあっはい。えっと……あ、じゃあ、遠慮なく……」
右手に此崎くんのマフラー、左手に喜多さんのマフラー……かつてない、かつてない安心感がここにある……!
「いや遠慮しとけよおばか。絵面考えろ」
「うん、周りからの視線はちょっと考えて欲しいかなー……」
……? 周りからの視線……あっ!(突然の死)
「──ぐええええっ、くるし、くるしい……!」
「ひ、ひとりちゃんぐっ、く、首絞まってるわ、首……っ!」
「うわーっ! ちょっとぼっちちゃん崩れ落ちないで!! しっかり立って!! 此崎くんと喜多ちゃんのマフラーキュッてなってるから! キュッて!」
「──ンハッ!?」
あ、危ない、うっかり川を渡るところだった……まぁいつも往復してる気がするけど。
「はぁ、はぁ、た、助かりました、伊地知先輩……」
「今パーティの数半減するとこでしたよマジで……」
「ぼっちちゃん、外であんまり気軽に死なれると困るよ? もっと頑張って生きようね」
「あっはい」
なんかすごい励まされ方しちゃった……うん、でも虹夏ちゃんにそんなこと言われたら頑張ろうって気持ちが芽生えてくるから不思議だ。生きよう、懸命に。
……いやでもクリスマス……クリスマスライブかぁ……不安要素が多すぎてやっぱり憂鬱だ……。
一応自分の足でまた歩き始めつつも、此崎くんと喜多さんのマフラーは手放さないまま私は大きなため息をついた。
「ぼっち、そんなに心配しなくても平気」
「えっあっリョウさん。なっなんでですか……?」
すると、私の斜め前を虹夏ちゃんと並ぶ形で歩いていたリョウ先輩が、振り向いた横顔で言う。
「今日がクリスマスイブだからこそ、きっとライブには恋人のいない暇な奴ばっかり来るはず。独り身の寂しい奴ら相手にライブするんだと思えば気楽でしょ」
「……た、確かにっ!」
逆転の発想だ。リョウさんは天才だ。
「こらこら、シクハックのお客さんのこと悪く言わないの」
「でも、廣井さんのファンだって考えると余計に怖いような……」
「それは……確かに」
「いやいや、シクハックのライブで一番ヤバいのって間違いなくきくりちゃんなんで。全員きくりちゃん未満だって考えれば余裕ですよ余裕」
「それはそう」
……此崎くん、私たちの知らない間に二回くらいシクハックのライブ観に行ってるらしいんだよね……しかもお姉さんだけじゃなくってバンドメンバー……志麻さんやイライザさんに誘われて……ネ、ネト……ネトラ……!
「……おい後藤、お前またアホなこと考えてねぇか?」
「かかか考えてない……!」
じっとりとした目で見降ろしてくる此崎くんから、私は慌てて顔を逸らした。
♪ ♪ ♪
三か月ぶりに訪れた二回目の新宿FOLTは相変わらず恐ろしいところだった。
……いや、新宿FOLTが特別怖いとかそういうんじゃなく、そもそもライブハウスという場所が……いやいやそもそも自分の家と此崎くんの家以外だいたい怖いっていうか……なんなら下北ですら駅からスターリーまでの道のり以外いまだに怖い……。
要するに新宿FOLTに限らず人間界のどこもかしこも怖いので、私は相変わらず現世で生きることに向いていないのだと思う。
「此崎くん」
「何?」
「ちょっと死ぬね……」
「もうすぐ本番始まるからダメ」
「はい……」
死ぬことは許されなかった。そう言えばさっき虹夏ちゃんに諭されて一生懸命生きることにしたんだった。うぅ……生き地獄……。
「ちょっと、後藤ひとり!」
「あっはひぃっ!?」
「ねぇちょっと! 普通に話しかけただけでしょ!? そんな大声で驚かないでよ!」
「あっはい大変申し訳ございません!!!!」
「だから声が大きいのよ!!!」
「――――!」
「今度はなんて!? 小さすぎて聞こえないわよ!!!」
ヒィン……ヨヨヨヨちゃんさんこわい……! こっこの前ライブに来た時は最初全然目ぇ合わせようとしなくっておどおどしてて私と同類だと思ったしそもそもファン1号さんと2号さんが新しいファンの子だって言うから嬉しかったのに実はあのヨヨヨヨヨちゃんさんだってわかって案の定本当に此崎くんと距離近くってでもでも夜には此崎くん経由でちょっと厳しいけどとてもためになるアドバイスがいっぱい詰まった感想をくれて怖いけど良い人だって言うのはわかったんだよねでもでもでもやっぱり顔とか雰囲気が怖いし声大きいし此崎くんといっつもロインしてるらしいし感想も此崎くんにこっそり送ってたらしいしこれってもしかしてネトラレに入りますか!?
「に、ににに虹夏ちゃんはどう思いますかっ!?」
「急に何!? や、入らないと思うけど……って、あれ? 何が入らないんだろう? あたし、いったい何を……?」
「二人で急に怖い会話しないでくれない!? なんなの!?」
すぐ隣にいた虹夏ちゃんが何やら混乱し始めると、ヨヨイのヨイちゃんさんが怯えたように後ずさる。そんなまるで怪奇現象を目の当たりにしたみたいな反応しなくても……。
……って、そうそう。
私たちが今何をしているかと言うと、直前のリハーサルを終えて楽屋で待機しているところである。
私たち結束バンドとシデロスのみんなが一つの楽屋に集っていて、シクハックの皆さんだけは楽屋が別だ。とは言え、さっきまでお姉さんとイライザさんが私たち……というよりは主に此崎くんと話をしに来ていて、それを監視するように志麻さんも付いてきてたからほとんどずっと全員一緒にいたんだけど。
リハーサルはいわゆる逆リハで、本番に演奏する順番とは逆の順番におこなわれた。つまり本日のメインキャストであるシクハックが最初、次にシデロス、私たち結束バンドが最後だった。
完全アウェーの私たちがトップバッターというのはなかなかにハードだけど、かと言ってシデロスとシクハックの間に挟まるのもそれはそれでキツイものがある。どっちがマシかと聞かれれば、まぁギリギリトップバッターを張る方がいい……かな? 要は、そもそも不満なんて言える立場じゃないけれど、不満はないってことだ。
で、それじゃあ肝心のリハーサル自体の出来はというと……うん、まぁ……ね……?
「――というかあんたその段ボールなんなのよ!? リハの時脱がされてたのにまた着てるし!! 本番もそれで行くつもりなの!?」
「あっうっあっ、こっこれは……」
「おっとヨヨヨちゃん、この“FR-MM510:パーフェクト・マスクド・カンジュクマンゴー”は俺と後藤パパ合作の最高傑作です。甘く見てもらっちゃ困りますよ?」
「此崎くん、甘く見てるとかそういう問題じゃないと思うわ。あとその最初の英語の部分何なのかしら? よくわからないわ」
「さっきのリハぐだぐだだった理由の三割くらいソレだからね? 此崎くんもこんな余計なもの作ってこないでよね」
「ぼっち、正直さっきから邪魔」
「総スカン食らってるじゃない!」
やっぱりダメかぁ……暗くて狭くて落ち着くんだけどなぁ……。
だいぶ顰蹙を買っているみたいなので諦めてアーマーを脱ぎ捨てると、すぐ近くにいた此崎くんがちょっと凹んでいた。
「……こっ此崎くん、私はかっこよかったと思うよ? “FR-MM510:パーフェクト・マスクド・カンジュクマンゴー”……」
「ああ後藤……お前ならそう言ってくれると信じてたよ……」
うん、お世辞じゃなくって本当にカッコいいと思う。角とか肩のとことか。とんがっててカッコいい……。
……まぁでも、いくら私だってこんな装備では大丈夫じゃないことはわかる。
一番いいのを頼んだけどそもそも装備を身に付けていたらダメなんだよね……人生初ライブ……マンゴー仮面……うっ脳みそが。
「まったく……あんたたち、そんな調子で本当に大丈夫なんでしょうね? 後藤ひとりはふざけてるしボーカルは声出てないし、リズム隊も走り気味だし……」
ヨーヨーちゃんさんが大きなため息を吐き、不甲斐ない私たちを睨みつけながら容赦なくそんなことを言ってくる。
ミジンコよりも気の小さい私は条件反射で跡形もなく消滅しそうなほどに縮こまってしまったけど、私以外のみんなは――。
「――あ、ありがとうございますヨヨヨちゃんさん! あの、少しでも自然に声を出せるコツとかってありませんか!? その、練習あるのみなのはわかってるんですけど……!」
「ヨヨヨちゃ……じゃなかった大槻さん、リズム、どっちがどのくらい走ってたとかありますか? 他にも気になることがあったらどんどん言ってほしいです!」
「シデロスの『ヨ』の人、目の隈凄くない?」
「んなっ、なんなのその反応!? わ、私は別にあんたたちに塩送るつもりなんて――!」
……と、委縮の「い」の文字もない。此崎くんから転送されてきた長文感想(意訳付き)を見た後では、ヨヨから生まれたヨヨ太郎ちゃんさん相手に気後れする理由なんて全然ないのだろう。私はどうしてもちょっと怖いけど……。
「――す、すごいっす、あの、あのヨヨコ先輩がほとんど初対面の人間とまともにコミュニケーション取ってるんすけど……!?」
「奇跡みたいな光景だね~! あっ、せっかくだから動画に撮っておこ~!」
そして、そんな光景に何やら衝撃を受けているシデロスのメンバーの皆さん。
なんだか随分とキャラが濃そうだけど、簡単な挨拶をしただけでそう言えばろくに自己紹介もしてない。でもこれは私のコミュ力の問題ではなくて、虹夏ちゃんや喜多さんもしてないから……私のコミュ力の問題じゃないから……!
私はひとまずちらちらと視線を送ってみるけど、黒いマスクの人(リハではドラム叩いてた)とゆるふわな人(リハではギター弾いてた)はEEEちゃんさんの方に意識が行っているみたいで、もう一人のゴスロリ着てる人(リハではベースやってた)としか目が合わなかった。
せめてゴスロリの人とだけでもコミュニケーションを図るべきか、いやでも見た目にどうこういうわけじゃないけど格好が奇抜でコミュ障がファーストコンタクトを図るにはハードル高すぎる――なんて、私がさっきまで段ボールのアーマーを身に纏っていた自分を完全に棚上げして尻込みしているうちに……こ、此崎くん?
「おっす長谷川さん」
「あ、どもっす
カッ。
「や、あれはさ、実は……」
「ふむふむ……ははぁ、なるほどっす……でも、それにしても
キッ。
「ちょっと
「ごめんて本城さん、いやほら、せっかくヨヨヨちゃんがおもしろ……じゃなくて楽しそうなのに邪魔したくないしさ? まぁ要するにあれは……」
クケッ。
「あの~
「例の? ああ、あれ後藤。幼馴染の……って、内田さんに言ったことあったか……?」
……コッ。
「……ん? あれ、ぼっちちゃん死んでない?」
「えっ? いつの間に……?」
「ヨの人、AED持ってきて」
「えっ……えっ!? えっあっ……えっ!?」
「わぁ~、すごい、本当に死んでる~!!」
「……え、ホントに死んでるってなんすか?」
「長谷川さん、後藤はよく死ぬんだ」
「何言ってんすか?」
「本番もうすぐ始まっちゃいますけど大丈夫ですか~?」
♪ ♪ ♪
大丈夫じゃないので、俺はやむを得ず後藤に対して緊急蘇生術を使用した。
具体的には後藤の死体の耳元でギターヒーローの動画の概要欄を俺のイケボ(当社比)ASMRを敢行したのである。
ちなみにチョイスしたのは去年の12月25日にアップされた動画の概要欄で、クリスマスイブに設定盛り盛り架空彼氏とのデートをしたという妄想を原稿用紙4枚分くらい書き連ねた大作だ。
クリスマスの後藤は基本的に情緒が不安定で、毎年後藤一家では盛大にクリスマスパーティをやるのは良いのだが、例年ギターヒーローへのリクエストとしてクリスマスラブソングが大量に来るせいで悶え苦しんでいるのである。
後藤は自我の崩壊を避けるべく妄想を爆発させてこの苦難に立ち向かうが、結局自ら誘爆していつも爆死しているのだ。
ともあれしかし、そんな全米が涙する超大作だったというのに、今回は最初の三行を囁いたあたりで後藤は「うおおおおおおおおお!!!!!」と勇ましい声で叫びながら蘇ってしまったため全編朗読とはいかなかった。誠に遺憾である。
また、そうして俺が必死の蘇生を行っている一方で、今更ながらに結束バンドとシデロスで挨拶を交わしていた。死んだ後藤を除く結束バンドの三人と、俺が後藤を蘇生する様を凝視しているヨヨヨちゃんを除いた三人で。
数時間前から同じ楽屋にいたのだが、リハーサルと、あとはきくりちゃんたちが襲来していたせいで簡単な挨拶を交わしたっきりだったのだ。
うむ、きくりちゃんとイライザさんがいたことでどれほどのカオスが巻き起こっていたのかは、それだけでご理解いただけるだろう。
「結束バンドの曲、オーチューブに上がってるの全部聞いたっすけど、自分結構好きっす」
「え、ホント! ありがと~! あたしたちもシデロスのライブはいろいろ聞いてるよ! どの曲もすごくかっこいいよね!」
「お、ありがとうございます。同世代のバンドと会う機会ってなかなかないっすからね。仲良くやりましょう」
「うん、こちらこそ~!」
虹夏先輩と長谷川さん、すなわちドラマー同士の会話が平和すぎた。
平和すぎてちょっと物足りないような気がしてしまうのは間違いなく俺が毒されているせいだろう。何に、とは言わないが。
「それにしても……結束バンドの皆さん、すごいっすね。ヨヨコ先輩とあんな円滑にコミュニケーション取ってる人間初めて見たっす……」
「ひ、ひどい言われようだ……いやまぁ、ほら、うちのあの男がね……?」
「ええ、ちょっと聞きました。すいません、うちの先輩が迷惑かけてるみたいで」
「いやいや、それを言ったらうちのマネージャーがちょっかいかけて申し訳なく……」
……平和かな? 平和……平和ってことにしておこう。下手に首を突っ込むとおそらく平和じゃなくなる気がするんでね。
「う、うぅ……」
「お、後藤起きたか。お疲れ」
「……あ、悪魔……!」
結束バンドとシデロスの平和な交流を大人しく見ていると、後藤がようやく起き上がってきた。緊急蘇生術で蘇生はしたものの、そのまま羞恥でのたうち回っていたのだ。
後藤が恨みがましい目で見てくるが、俺は素知らぬ顔でスルーしておく。なぜならこの緊急蘇生術は諸刃の剣、むやみに扱えば俺自身も切り裂く危険な術だから。
リアル幼馴染が書いた幼馴染彼氏モノ夢小説など、読む側の心も壊れかねない恐ろしい兵器である。
「……はぁ、あと30分……ま、また緊張してきたなぁ……」
やがて後藤も深掘りすると自爆することに気が付いたのか、誰にともなく誤魔化すように独り言ちる。
すると、虹夏先輩や喜多さんと姦しく話していた長谷川さんが不意に話しかけてきた。
「あー、後藤ひとりさん? っすよね? あんまり心配することないっすよ」
「えっあっ、はっはいすいません……」
「や、別に謝る必要もないんすけど。今日、シクハックのライブっすからね。自分らがどんなライブしようと最終的には全部めちゃくちゃになるんで」
「あぁ……」
思わず声を漏らしてしまった俺の脳裏によぎっていたのは、以前に招待してもらったシクハックのライブでの光景だった。
結束バンド全員で初めて観に行ったときのライブ……あれは奇跡的にかなりまともな部類だったと聞いて「ホンマか?」と疑ったものだが、その後ワンマンライブを一回、シデロスも含む新宿FOLTの人気バンドを集めた対バンライブを一回観て「ホンマやん」となったので、つまりはそういうことである。
「此崎くん、そんなに遠い目するほどなの……?」
「ええ、ええ、虹夏先輩。もしもシクハックのライブが常識の範囲内で終演を迎えた場合は此崎衣久、後藤ひとりが腹を切ってお詫び致します」
「……!?」
「後藤さんすんごい驚いてますけど大丈夫っすか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「それ問題あるやつっすよね」
あれ、そうなのか? なんかトゥイッターとかで見たことあるだけだから元ネタよくわからんし……ま、なんでもいいけどな。
「あとあれっすね、自分より緊張してる人いると思えばちょっとは気が楽じゃないっすか?」
「あっうっ、わっ私より緊張……?」
「そんな人間この世に存在するか?」
「いるっすよすぐそこに」
と、長谷川さんが指差したのはヨヨヨちゃんであった。
「……んん? ヨヨヨちゃん、そんなに緊張してるか?」
「してるっすよ。ライブ前は毎回三日くらい寝ないで来るくらいなんで」
「ヨヨヨちゃんアホ?」
「アホって何よ!!!」
アホでしょ。寝ようよ。
「ヨ……大槻さん、あんなに人気で実力もあるのに、それでも寝れないほど緊張するんだ」
「……当たり前でしょ。プロになったってライブが怖くなくなることなんて、きっとないわ。上を目指してバンド活動続けるなら緊張とは一生の付き合い。だから不安を少しでもなくすために、緊張したって実力が出せるように寝る間も惜しんで練習するのよ」
「……や、それでも寝た方がいいと思いますよ? マジで」
「うるさいわね此崎!ここ三ヶ月くらいはあんたと通話するようになってぐっすり寝れてるわよ!」
「ちょお!? ヨヨヨちゃんなんでここで言うんすかそれぇっ!!!」
ヨヨヨちゃんのおバカ!!! 新宿デートもカラオケデートも新宿FOLTのみんなにバレてるから潔く吐いたけどそれだけは秘密にしてたのに!!!
「「此崎くん集合」」
「……はい」
そして、乙女の味方こと虹喜多殺法コンビに集合をかけられた。
もはや俺に逃げ場はなく、逆らう術もない。
「私知ってるよ。そういうの、“寝落ちもちもち”って言うんだよね。何か弁明はある?」
「……ありません」
「此崎くん、またひとりちゃんが死んじゃったわ。何か言い残すことはあるかしら?」
「……この後のライブ、頑張ってな!」
俺は、白い歯を見せつけるような爽やかな笑顔を浮かべ、親指を立てて言った。
そして、虹夏先輩と喜多さんから優しく微笑みかけられた後、ただちに正義が執行されたのであった。
「……あの、山田さん? いっくんさんと後藤さんってそういう感じなんすか?」
「いや、本人たち曰くそういう感じではないらしい。本人たち曰く」
「へぇー……それってそういうことなんじゃ? ねぇヨヨコ先輩?」
「なんで私に振るのよ!!! ……えっちょっと待ってホントにそうなの? 山田リョウそれホント? ホントにそういうことなの?」
「ヨヨコ先輩、まだチャンスはあるはずですよ~! あきらめないで~!」
「わぁ~……ピンク色の幽霊さん……やっぱりいっくんさんのところに……!」
――新宿FOLTは今日も平和……だと思う。(二か月ぶり二回目)
ライブ直前に何やってるんだこいつら。
あ、前書きの問題の答えは全部です。