うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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あはっ あはっ 前回投稿から10日以上も経っちゃった……

経っちゃったからにはもう……ネ……


#49 聖なる夜、れっつぱーりない

 

「──え~、みなさんお手元に飲み物は届きましたでしょうかー?」

「STARRYクリスマスパーティ、始めたいと思いまーす!」

 

 サンタの帽子をかぶった虹夏先輩と喜多さんが合図をすれば、「かんぱーい!」と元気の良い声が揃って響く。いくつも掲げられたグラスがぶつかる音を鈴の音にたとえるのは、ちょっと無理があるだろうか。

 

 12月24日、クリスマスイブ。

 聖夜の下北沢STARRYにて、かねてより計画されていたクリスマスパーティが開催された。

 

 本来なら夜の七時ごろから始める予定のパーティだが、急遽として結束バンドがシクハックのワンマンライブの前座を務めることになってしまったため、ライブ終了後の夜九時を回ってからのスタートと相成った。

 

 必然、パーティの時間も短くなってしまったわけだが、しかし悪いことばかりでもない。

 

 なぜなら――。

 

「――えー、今回はシクハックのクリスマスライブの打ち上げも兼ねることになりましたので、突然ですがシデロスのメンバーの皆さんにもお越しいただいてまーす!」

「「「お邪魔してまーす!」」」

「はいみなさん拍手ー!」

 

 そう、これまた本来の予定ではスターリーの従業員だけでパーティをするところを、ともにシクハックのライブの前座をこなしたシデロスの四人に来てもらえたのだ。パーティなんて人数が多かれば多いほど賑やかで楽しくなるもんだからね。

 

 ……とは言え、光あるところに影、もとい陰はある。

 そして、光が強くなれば強くなるほどに、陰はより一層濃くなるものだ。

 

「……ねぇねぇ此崎くん、あっちのテーブルなぜかすっごい負のオーラを発してるんだけど大丈夫かしら?」

 

 一応断っておくと、別に俺たちが日陰者たちを意図的に隅っこに押しやったわけではない。勝手に隅っこに集まっていったのだ。

 ……埃かな? っと、今のはリョウ先輩とヨヨヨちゃんには失礼だな。我らの埃は後藤だけである。

 

 ともかく、成り行きで同じテーブルを囲んでいる後藤とリョウ先輩とヨヨヨちゃんの三人が聖夜にはまるで似つかわしくない、しかし聖夜だからこその卑屈で陰気な雰囲気を醸し出していたのである。

 

 せっかくのクリスマスパーティなのに辛気臭い顔しやがって、いっちょ割って入って盛り上げてやるか! ――という選択肢もあったけれど、長年培ってきた俺の勘が、あれは放っておいた方が良いと言っていた。

 

 勘だが、少し考えてみれば理由は明白だ。

 

 ――その方が、おもしろそうだからである。

 

「此崎くんまた悪い顔してるわ……」

「大丈夫? しばいとく?」

 

 大丈夫だからしばかないでほしいよ虹夏パイセン。

 

 ……あ、そうそうちなみに。

 シクハックのクリスマスライブの打ち上げと銘打ってるにもかかわらず、メインとも言うべきシクハックのメンバーが誰一人としてこの場にいないのは、そういう仕様である。

 

 ……いや、とりあえず志麻さんとイライザさんには声かけたんだよ? でも志麻さんは「廣井の奴またライブめちゃくちゃにしやがってあいついつか絶対ぶっころ──」と怒り心頭でスタジオに引き篭もっちゃって、イライザさんは同人誌の締め切りがあるとかなんとかでめちゃくちゃ悩んだ挙句泣きながら帰っちゃったのである。

 

 そして、新宿FOLTが誇るカリスマベースボーカリスト、ノーベルお酒飲んでて偉いで賞受賞、歌って暴れる人間国宝こときくりちゃんはというと、信じがたいことにそもそも声がかけられなかった。「円滑な会の進行を妨げる公算が高いため」という理由で反対多数、きくりちゃんクリスマス招集特別法は否決されてしまったのだ。

 

 そんなバカな、と、俺はもちろん声を上げた。

 きくりちゃんのいない打ち上げなんて、いちごと生クリームが乗っていないショートケーキのようなもの。すなわちただのスポンジも同然だ。

 

 義憤に駆られた俺は、即座に“絶対に楽しいからきくりちゃんをクリスマスパーティに呼ぼうの会”を発足した。メンバーは、俺とリョウ先輩とヨヨヨちゃんの三名であった。

 

『きくりちゃんをクリスマスパーティに呼べば必ず場が盛り上がるし、みんなが楽しい気分になること間違いなし!』(男性・高校生)

『廣井さん最高鬼ヤバマジリスペクト』(女性・ベーシスト)

『キクリチャンカワイイヤッター!』(男性・高校生)

『きくりちゃんがクリスマスパーティに参加してくれたことでお肌がつるつるになって、慢性的な肩こりや関節痛、神経痛、冷え性などが改善しました!』(男性・高校生)

『姐さんは最高のバンドマンよ!』(女性・ヨヨヨちゃん)

『きくりちゃんはまだガンに効かないが、いずれ効くようになる』(男性・高校生)

『天はきくりちゃんの上に人を造らずきくりちゃんの下に人を造らず』(男性・教育家、啓蒙思想家)

『きくりちゃんのクリスマスパーティ参加のおかげで宝くじ高額当せん! 素敵な恋人もできて毎日が幸せです!』(男性・高校生)

 

 ……といったような非常に熱い声が関係各所から多数寄せられたのだが、しかし虹夏先輩と長谷川さんというロックンローラーとしてあるまじきまともっぷりを見せるドラマーコンビ相手を説得するには至らず。

 人でなし! 悪魔! 常識人! と負け犬らしくワンワン吠えてみたが、しっかりと畜生を見る目で見下され、まごうことなき完全敗北を喫したのであった。

 

 そんなわけで、今日のクリスマスパーティにはきくりちゃんの姿もない。本当に悲しい。人類の損失だと思う。

 

「クゥーン……」

「此崎くんが捨てられた子犬のように鳴いてますよ伊地知先輩」

「そ」

 

 一文字、一音で切って捨てられた。泣いた。

 

「あ、あとうちのお姉ちゃんの誕生日会も兼ねてまーす! なんと本日12月24日が誕生日なのです!」

 

 と、こんなひっどい話の流れでついでのように虹夏先輩が言うと、案の定店長さんが迷惑そうな顔で「いろいろ兼ねすぎだろ……」なんて悪態をつく。

 が、すぐにみんなから「おめでとうございまーす!」と拍手をされて満更でもなさそうな雰囲気が滲み出ていた。具体的には口の端がピクピクと上がりそうになっていたよ。かわいいね。

 

「えーっと、店長さんは今年で30歳なんですね!」

「おい喜多それ以上誕生日のことについて掘り下げなくていいぞ」

 

 しかし残念、喜多さんの悪意なき確認で店長さんの表情は無となってしまったよ。かわいそうだね。

 それにしても30歳か……俺今度誕生日来るけど今15歳……ダブルスコア……。

 

「此崎?」

「はい店長さんわたくし此崎衣久は一切合切何一つとして余計なことを考えておりませんがどうかなさいましたか?」

「お前顔に全部書いてあんだよ」

「……魔法?」

「アホか」

 

 魔法少女いじち☆セイカじゃないんですか? ……ところで店長さんって魔法少女のコスプレ衣装とか普通に持ってそうですよね。だから何ってわけじゃないですけどね。

 

 

 

 はてさて。

 

 そんなわけで……いや全然どんなわけなのかわからない気がするが、とにかく『スターリークリスマスパーティー兼シクハックワンマンライブ打ち上げ兼我らがスターリー店長伊地知星歌さんじゅっさいのお誕生日会』が本格的にスタートした。

 

 ……と言っても、特に何かしらのプログラムがあるわけではなく、出前で頼んだピザやらポテトやらを食べながら楽しく喋っているだけである。

 それも、各々バラバラに喋りやすい人となんとなく喋ってる感じで、虹喜多&長谷川さん本城さんの女子高生組、店長さんPAさんのいつもの大人組、あとはなぜか隅っこに寄り集まってしまったゴトヨヨリョのコミュニケーションゴミカス組と、それをニコニコしながら眺める俺と内田さんという極めて順当な構図ができあがってしまっていたのだった。

 

 ――それにしても、よく見ると俺以外みんな女子である。

 

 結束バンド4人(※厳正なる審査の結果、後藤ひとり氏もカウント。議論の余地あり)、シデロスの4人(議論の余地なし)、あと店長さんとPAさん(※厳正なる審査の結果、いくつになっても女子は女子。議論の余地なし)の2人。計10人の女性に対して、男は俺一人だけである。

 男女比1:10。ただ幸いなことに貞操観念は逆転していない……なんの話だ?

 

 とにかく、こんなドキッとしそうな女子だらけのクリスマスパーティで男一人なんていかにも肩身が狭そうだと思われそうだが、俺としては意外とそうでもない。

 

 無理に絡みに行くでもなく、話しかけられた時には待ってましたとばかりに乗れるだけ乗っておく。

 手持ち無沙汰の時には静かにピザとポテトを食らい、あとはコミュニケーションゴミカス卓を静かに眺めていれば、これほど快適で有意義な時間もそうそうないだろう――。

 

「──ふっ」

「いっくんさんグラス片手にニヤニヤしながら女子見てるのすごいきしょいっすね」

「長谷川さんいきなり横からすごい言葉の暴力振るってくるじゃんね」

 

 長谷川さん今の今まで虹夏先輩とドラマー苦労話に花咲かせてたのにどうして急ハンドル切って俺のこと轢きにきたの?

 

 ……いや、いやしかし待ってほしい。

 

「長谷川さん、今一度あのコミュニケーションゴミカス卓をきちんと見てくれ」

「はぁ」

「まずさ、ヨヨヨちゃんが変な気遣ってここに来るまでにサンテンドートゥイッチ買ってきててそれ取り出してるのが面白いだろ?」

「まぁ流石ヨヨコ先輩だなとは思いますね」

「でもさ、リョウ先輩疲れててもうだいぶ家帰りたいから黙ってスマホ弄り始めちゃったから仕方なく一人でゲームしてるのが面白いだろ?」

「ひどい絵っすね」

「そんでさ、微妙な空気が流れっぱなしのせいでそろそろ後藤が死にそうで面白いだろ?」

「人の命を何だと思ってるんすか?」

「な?」

「は?」

 

 おやおや、これでも伝わらなかったかな。今、キミの目の前に広がっている光景の“価値”ってやつが……。

 

「いっくんさんって怖いっすよね。普通にしてる時は普通なのに……なんで時々こんなんなっちゃうんですか?」

「さぁ……出会った時点でもう手の施しようがなかったし……」

「此崎くんは救いようがないですよね!」

「虹夏と喜多のやつ、最近一段と此崎に容赦なくなってきたよな」

「仲良くなってる証拠ですね~」

 

 そうかな? そうかも。

 

 PAさんのお墨付きに対する安堵でちょっと涙が出てきたが、そんな俺に呆れた視線を送ってきていた店長さんがふと思いついたように言う。

 

「なぁ、そういやお前ら今日のライブどうだったんだ? さっきからずっとスルーしてたけど」

「あ、それ聞くんですね」

「そりゃ聞くだろ」

 

 そりゃ聞くか。

 

 虹夏先輩に目を向けてみれば、返されたのは微妙な苦笑い。

 ここまでなんとなく誤魔化してきたものの、俺が「まぁ店長さんやPAさんに聞かれて恥ずかしいもんでもないでしょ」と言うと、虹夏先輩も「うーん、それもそっか」と観念したように口を開いた。

 

「えっと、まぁ演奏はそこそこ……だったと思うけど、ライブはいまいち盛り上がんなくて最後の最後までアウェー感たっぷりだったかなー……」

「あー。ま、初めてのハコなんてそんなもんだな」

「――そ、そうよ! 演奏の出来とライブの盛り上がりは別だからね!? 今日だってその、あんたたちの演奏はそんなに悪くなかったし! むしろこの前よりもまた一段と良くなってたし直前の私のアドバイスもきちんと活かしてたしだいたい初めてのハコなんて盛り上がらないのが当たり前どころかもっと盛り下がるくらいなんだからそれ考えたら全然よかったていうかなんならあんたたち緊張してて気が付かなかっただけで意外とノってくれてるお客さんもいたかもうんぬんかんぬんうんぬんかんぬんうんぬんかんぬん……」

「……ヨヨヨちゃんすげー励ましてくれるじゃん。何事?」

「あー、いっくんさんが虹夏さんと喜多さんに天誅喰らった後にヨヨヨ……じゃなくってヨヨコ先輩がちょっとした太鼓判押して送り出したんすよ。それで……」

「気まずいってことな」

「そゆことっす」

 

 ライブ始まる直前の直前になってようやく地獄の淵から蘇ったからあの後どんな会話してたとか知らんけど、ヨヨヨちゃんがなんやかんやで結束バンドを励ましてくれる姿は目に浮かぶようである。ツンデレの本領発揮といったところか。

 

「……あ、ところでなんすけどいっくんさん」

「ん、何?」

 

 ヨヨヨちゃんの高速詠唱にみんなが気を取られている中で、長谷川さんが内緒話でもしたいみたいにこそこそと話しかけてくる。

 何用じゃい、と長谷川さんの方に耳を寄せると、マスク越しの少しくぐもった声で尋ねてきた。

 

「結局、いっくんさんとぼっちさんって、そういうことなんすか?」

「…………」

「そんな露骨にメンドくさそうな顔しないでくださいよ」

 

 いやだって実際めんどくさいし……すげぇ久々な気がするぞこれ……。

 

「ほら、男女の幼馴染なんて言ったらやっぱ気になるじゃないっすか? それにぼっちさんのオーチューブ、概要欄のアレとか……」

「やめろ長谷川さん、その術は俺にも効く」

「自分で擦ってたじゃないっすか」

「あれは容量用法を守って適切に使用しただけだから。他人から刺されると漏れなく俺も死ぬんだよ」

 

 ていうかあいつ俺にバレてたのわかった時点で遡って概要欄削除しろよ。俺は緊急時のためにコピペして保存してあるけどなんであのまま放置してんだよ。

 

 ……あ、あとちなみに、長谷川さんがギターヒーローのこと知ったのは先月のことなので、別に驚くには値しない。

 ぽやみさんとのことについて経緯の説明をする中でヨヨヨちゃんにも教えたのだが、その後ヨヨヨちゃんがうっかり長谷川さんたちに話してしまったらしい。

 

 別に後藤が黒歴史を掘り起こされて悶えて死ぬのは構わないのだが、結束バンドが自分たちの力を証明するために未確認ライオットへ挑戦しようとしていることを考えれば、やはり後藤がギターヒーローであることが世間に……いや世間なんていうとちょっとおこがましい気がするけど、特にネット上でバレてしまうのは不都合だ。

 が、しかしまぁ、シデロスのメンバー四人、ひいてはきくりちゃんを筆頭にお世話になっている新宿FOLTの人たちに伝わるくらいなら(後藤が爆死することを勘案しても)問題ないと俺は考えている。

 ヨヨヨちゃんに対する念押しも兼ねて、改めてヨヨヨちゃん経由でシデロスの三人には諸々の理由と共にあまり言いふらさないでほしいとは伝えてあるし、みんな悪意を持って口外するような人たちじゃないだろうから安心……と、思うことにしたのだった。

 

「それでそれで? 結局どうなの~?」

「おい本城さんもか……察してスルーしてくれよ……」

「察してるから聞いてるんだよ?」

「…………」

 

 どうって……なぁ?

 

「……まぁ、幼馴染だな」

「そういうのいいっすから」

「そうだよそういうのいいって~」

「こういうのいいって言われると黙秘をするしかなくなるんですが?」

 

 すげぇグイグイ来るじゃん。そんなに何が引っ掛かって……って、いやそりゃ後藤のデジタルタトゥーのせいだわな。

 

 ちらっと、後藤を見る。

 

 面倒臭くて触れていなかったが実はパーティーハットにタスキ装備と大変愉快な格好をしている後藤は、長谷川さんと本城さんに詰め寄られてる俺を見て白目を剥いて死んでいた。ザコザコの実の雑魚人間がよ……。

 

 ……あの雑魚人間が書き連ねた怪文書の数々。

 中学生という()()()()()()()に書き上げられたものとは言え、それらの意味するところがわからないほど俺は朴念仁ではない……が、そのこと自体も含めて、何かを言った瞬間に俺の負けになってしまう。

 

 なので。

 

「長谷川さん、本城さん」

「なんすか?」

「なにかな?」

「俺を、追い詰めすぎたな」

 

 切り札を、切らせてもらう。

 

「――うおおおおおおおおおおおおおおおお……!」

「なっ、いっくんさんが急に雄たけびを上げながら立ち上がった……!?」

「なになにどうしたの此崎くん……!?」

 

 後悔しても、もう遅い――。

 

「集いし酒が、新たなる幸福をここにもたらす! 光差す道となれ! シ〇クロ召喚! いっぱいおしゃけ飲め! キクリチャン・ドラゴン!!!」

「――うえぇえええぇええぇええええ~~~~!!!! やっぱりみんらここにいたんらぁ~~~~~~わらしずっとさがしてたんらよぉぉお~~~~~~!!!!」

「此崎テメェ廣井呼びやがったな!!!!」

「はーっはっはっはっはっはぁー!!! 俺からスマホを取り上げないなんて甘かったですねぇ店長ォ! さぁ行けキクリチャン・ドラゴン! 滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)!!」

「え~なに~? ……あっ、それよりいっくん雪降ってて外寒かったんだよぉ~~~!? おねえさんをあっためてぇ~~~!!!」

「――ぐぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!????」

「ウワーッ!? ぼっちちゃんが唐突な此崎くんと廣井さんのハグで死んだぁーっ!!!」

「もうやめて此崎くん! とっくにひとりちゃんのライフはゼロよ!!!」

 

 あぁ!

 




STARRYクリスマスパーティはまだまだ続くぜ! そうだろう後藤! 後藤? ……後藤ォ!
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