「――主文、被告人を死刑に処する」
「異議あり!」
「もう判決出てるから逆転できないよ此崎くん」
「控訴だ控訴! 俺は何もやましいことはしてない!!」
「一週間もリョウと二人で暮らしてたんでしょ!? 年頃の男と女が一つ屋根の下で暮らしてやましいことが起こらないわけあるかぁ!!」
「異議あり!」
「却下!」
「ヤダーッ!」
死にとうない! 死にとうないのじゃ!!
「おい後藤ォ! 俺を助けろ! お前の幼馴染が死んでしまうぞ! おい後藤ォ! 後藤助けろ! 後藤ォ!」
「無駄だよ此崎くん! ぼっちちゃんは死んだんだ! ――此崎くんが殺したんだよッ!」
「勝手に死んだんだろォ!?」
俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!
──と、死を目前に絶賛悪あがき中の此崎逝く君15歳です。逝きたくないです。再来月の16歳の誕生日を是非とも迎えたいと思っています。
とりあえず前回までのあらすじだが、後藤が死んだ。でっかい音がして死んだ。
あまりにもうるさくて無意識に舌打ちしながら目を覚ますと、後藤は俺の部屋の入り口で3Dモデルの初期状態みたいにTの字になって固まっていたのだった。
ちなみにその横で喜多さんが少女漫画みたいな画風で白目になって気絶しており、さらにその横で虹夏先輩がシンプルに顎外れそうなくらいあんぐりと口を開けてこちらを凝視していた。
全体的に割とホラーであった。
部屋の電気が付いてたからいいけど、暗闇の中で目撃したら悲鳴をあげていたかもしれん。
……まぁしかし、なんだ。
とりあえず、やっべ、とは思った。
リョウ先輩が隣にぴたっと寄り添った状態で寝てたもんね。いやもうさすがに起きてるんだけど今なおくっついてて寝ぼけた横顔をしてるもんね。
そしておそらく、目の前に突き付けられた光景、ここ数日俺とリョウ先輩が音信不通だったという事実、さらには事前の憶測や仮定が虹夏先輩の頭の中でガッチリ肩を組み合って、俺やリョウ先輩にわざわざ問いかけるまでもなく真実を確信したのだろう。
故に、冒頭の死刑宣告。
しかし、もちろんそんなのは到底受け入れられない。
俺にだって主張があるのだ。
「まぁこの際後藤はいいさ。もう死んでるやつの話をしたって仕方がない……ねぇ虹夏先輩。だいたいね、どうして俺だけが死刑宣告されないといけないんですか」
「この期に及んでまだ抵抗を!」
「抵抗するだろ最後の最後まで」
命かかってんだからさ。
「はぁ、いいですか虹夏先輩。──1999年。なんの年かわかりますか?」
「急に何? わかんないけど……」
「男女共同参画社会基本法が施行された年です」
「男女共同参画社会基本法」
「要するにね、こういった状況において男ばかり責めるのは男女の平等に反すると思うんです」
「男女共同参画社会基本法関係あった?」
「ちょっとね」
男女平等という物凄く大きなカテゴリーでは関係ある。SDGsの方がよかったかな?
「まぁとりあえずそれは置いといて」
「いや置いてるじゃん! やっぱり関係ないんじゃん!」
「まぁまぁ、とにかく考えてみてくださいよ。俺とリョウ先輩、どっちがどっちに襲いかかる可能性が高いか。男とか女とか、そういう先入観を捨ててください。どちらが弱者で、どちらが強者か、色眼鏡なしで見てください」
「…………」
「…………」
「……どちらかというと襲うのはリョウ、襲われるのは此崎くんっぽいよね」
「ザッツライ!」
「それでいいの?」
よくないよ(笑)
いやよくないけどいいよ。俺はどうせリョウ先輩に勝てないよ。いろんな意味で。
……そもそもまさしく今のこの状況もリョウ先輩の仕業と言って過言じゃないし。なんか知らんけど俺の隣に座って寝かしつけてきたんだもん。俺悪くないもん。
「さぁ、虹夏先輩どうですか? これでも俺だけを死刑にしますか?」
「ぐ、ぐぬぬ……いや、わかった。わかったよ。確かにあたしが間違ってた」
「おお、じゃあ……!」
「うん。──リョウも死刑!」
「え、やだ」
嫌だってさ。ホーホケキョとなりの山田ちゃんやっと喋ったと思ったらこれよ。
幼馴染として心苦しいけど……! とか言ってる虹夏先輩はいたって真剣だ。正気に戻ったと思ったけどしっかり脳が破壊されてる気がしてきた。
「リョウ先輩、どうします? いろいろと誤解のないように説明したほうがいいと思うんですが」
リョウ先輩の方を向いて俺は言う。
すると、リョウ先輩も俺の方に顔を向けて言った。
「……いいんじゃない。
「
「あはっ! 此崎くんとリョウさんったらお互いに名前で呼ぶくらい進展したんですね! とってもお似合いのカップルだと思います! これからも末長く仲良くしてくださいねっ!」
「ウワーッ! ぼっちちゃんが完全に壊れたーッ!」
これ、今までで一番めんどくさい状況かもしれない。
家に帰りたくなってきた。ここ家だけど。
♪ ♪ ♪
場所をリビングに移して、全員でテーブルを囲んだ。
いったん腰を下ろしてもらうことでクールダウンしてもらおうという完璧な作戦である。
「さぁ、洗いざらい吐いてもらうよ!」
「もらいますよ!」
「あはっ!」
眉間にしわを寄せて腕を組み、俺とリョウ先輩を睨みつける虹喜多コンビ……よりもいまだかつて見たことないような明るい笑顔を浮かべながら「あはっ! あはっ!」と笑っている後藤がすごい怖くて気になってしまうが、とにかく弁明のチャンスを与えられた。
俺はできるだけ後藤を意識から外すようにして、誠意を込めた言い訳を始めた。
「まず、俺とリョウ先輩が過ごしたこの一週間は極めて健全なものでした」
「ダウト!」
「ダウトよ!」
「そういうゲームじゃないです」
よしんばそういうゲームだとしてもダウトじゃない。
確かにちょっと同衾はしたけどそれ以外にはなんのTo LOVEるもなかった。俺はリョウ先輩の下着一つ見ていないのである。うーん、健全。
「……あ、でも」
「でも!? やっぱり何かあったのね!?」
「いや俺がシャワー浴びようとしたタイミングでリョウ先輩が脱衣所に入ってきたのが一回。上脱いでただけだけど」
「リョウ!!!」
「待って虹夏。衣久の乳首にそんな怒るほどの価値はない」
「そうかもしんないけど! あとしっかり見てるじゃん!!! てかそれ以前にそもそも乳首とか言うな!!!」
「虹夏先輩にもあんまり言ってほしくないな」
あと俺の乳首のことなんだと思ってんだこの人たち。金取るようなもんじゃないけどそこまで言われる筋合いもないぞ。
「いやでもマジでそんくらい、そんくらいしかなかったんですよ。さっきのもほら、一緒に音楽聞いてたらうっかり寝落ちしちゃっただけで特になんもないですから。ねぇ?」
「……それ、リョウ先輩のご両親の前でも言えるのかしら? 誓って何もしてませんって、本当に言えるのかしら!?」
「言えるよ。マジで何にもしてないもん」
「くっ、本気の目ね、此崎くん……じゃ、じゃあリョウ先輩は!? リョウ先輩も、此崎くんのご両親に何もしてませんって言えますか!? 言ってくださいお願いします!」
「言ったよ」
「……え?」
「だから言った。昨日、芽衣子さん帰ってきてたから」
「
「あはっ! あはっ! あはっ! あはっ!」
「やめて喜多ちゃんやめて!! センシティブなワードでぼっちちゃんを刺激しないで!! このままじゃ元に戻らなくなっちゃう!!!」
「うるせぇ……」
リョウ先輩以外全員うるせぇ。マジで。集合住宅だからもうちょっと声のボリューム加減してくれんか?
……いや、それにしても話が進まないにもほどがある。
また騒がれそうだからくちには出さないが、もちろんやましいことをしてる自覚はあったさ。リョウ先輩へのやましい気持ちは断じてなかったけども、変な勘違いされるのはわかっていた。
だからこそ俺はリョウ先輩にほんの気持ち程度とは言え抗弁したし、リョウ先輩との同棲なんて事実は当然伏せて最低限学校と後藤家にお暇をいただくご連絡を差し上げた次第である。
まぁそもそもバレるのが時間の問題なのに期限も決めないで同居してたらいずれはこうなったと思う……いやそれにしたってここまでにはならないでくれよと切に思うけど、現実は非情だ。非情で非常にめんどくさい。
困った俺はリョウ先輩に視線を送るが、先輩はめんどくさいながらも愉快なことになっている三人を見て楽しそうにしていた。楽しんだもん勝ちか? もう本当にめんどくさいから俺も楽しんじゃおっかな……。
……と、思ってはみたものの。
楽しむにしても話を進めるにしても、リョウ先輩がここにいる理由を説明するべきなのか隠し通すべきなのか、それだけははっきりさせておきたい。
リョウ先輩が望む限り、俺はリョウ先輩の強がりに、カッコつけに付き合うのだ。いくらめんどくさい状況になったって、それを勝手に放棄するつもりはない。
どうするんですか、と問うようにしつこく視線を送り続ければ、リョウ先輩もさすがに気が付いてくれた。
そうして少し不思議そうに首を傾げた後、俺の意図を完璧に察してくれたとは思わないが不意に小さく頷いて、やはりかろうじて話が通じそうな虹夏先輩に声をかけたのだった。
「虹夏」
「何!?」
「今まで連絡しなくてごめん。私が衣久に頼んでここに泊めてもらってた。曲作り……ちょっと、上手くいってなくて。集中できる環境が欲しかったから」
「えっあっ? そ、そうなんだ?」
「うん」
「……いや言うんかい」
リョウ先輩、全部言ったわ。洗いざらい吐いたわ。
あんまり素直で素朴に言うものだから虹夏先輩は呆気にとられ、錯乱していた喜多さんと後藤も瞳に正気の光を取り戻してぽかんとリョウ先輩を見る。冷静にツッコミは入れることはだけはできたけど、もちろん俺も思わずズッコケそうになった。
「あの、リョウ先輩いいんですか?」
「うん。気が変わった。別に、虹夏たちにカッコつける必要は……遠慮する必要はないかなって」
「遠慮、ですか」
「そう、遠慮。私が作曲担当だから、私の仕事は私がやりきらないといけないと思ってた。衣久の言ってた通り、みんなにカッコつけたかったっていうのも……言われてみると、あったと思う」
リョウ先輩は少し俯いた後、ふっと顔を上げて虹夏先輩たちを見た。
「みんな、このフェスにかけてたから。虹夏に言われなくたって最高の一曲を作りたかった。でもつまんない曲しか書けなくって……これで上手くいかなかったら虹夏もぼっちも郁代もバンドやめちゃうかも、とか思ったり」
「リョウ……」
虹夏先輩が眉尻を下げて、気遣わしげに、あるいは申し訳なさそうにリョウ先輩の名前を呟く。
リョウ先輩の苦悩の吐露は、その場にいる全員に重くのしかかってくるようだった。何より幼馴染である虹夏先輩は、より一層重く感じたかもしれない。
「――でも」
と、しかしリョウ先輩は、いつもより少し明るい声音で続けた。
「遠慮するの、やめたって言ったでしょ。そういうことだよ」
「えっと、そ、そういうことって、つまり……?」
「……ふ、吹っ切れた、みたいな……?」
喜多さんが小首を傾げる横で後藤がざっくり一言そんなことを言うと、リョウ先輩もまたざっくりと「うん、そんな感じ」なんて返す。
それからリョウ先輩は今一度、虹夏先輩に顔を向ける。
「虹夏、どう?」
「え、いやどうって……」
唐突で曖昧な問いかけに、虹夏先輩は一瞬返事に詰まってしまった。
でも、二人は幼馴染だ。
虹夏先輩はそれからすぐに安堵と呆れが入り混じったような微笑をこぼす。
「……あたしたちに遠慮がいらないなんて、当たり前だよ! あたしはリョウの何? 幼馴染なんだよ? それに、喜多ちゃん曰く『バンドは第二の家族』! そうだよね喜多ちゃん?」
「はい! 私はリョウ先輩の娘です!」
「ごめんそうじゃない……えっと、とにかく家族に遠慮なんて必要ないに決まってるでしょ! まったく、リョウってばいっつもひねくれてるからそんなこともわからなくなっちゃうんだよ!」
「うん。ごめん」
そして、ぷんぷんと怒る虹夏先輩に、今度はリョウ先輩が微かな笑みを浮かべたのだった。
――収まるべきところに収まって大団円、みたいな雰囲気になったが、ふと冷静になってみると全然解決していない問題が一つ。
「さっそく遠慮なく言うけど曲全然できてない。ごめん」
これである。
リョウ先輩が言うには、『遠慮するのをやめよう』と思い至った後、袋小路からは抜け出せたような感じらしい。昨日、俺の母親が襲来した後に集中力が増しているように見えたのはそういうことだったわけだ。
……要はそれってやっぱりリョウ先輩が母さんと話して心境の変化を得たってことだと思うんだけど、本当に何を話したんだか。気になるが、母さんはもちろんのことリョウ先輩も教えてくれなさそうだしなぁ……。
まぁともあれ、それでも俺の見立て通り突然納得のいくものを作り上げられたわけではなく、この調子だとまだ時間がかかりそう、とのことであった。
「――この一週間然り、今まであえて言いませんでしたけど」
と、俺はあえて先陣を切って発言することにした。
別に、リョウ先輩に感化されて遠慮するのをやめたわけではないのだが、これはマネージャーとしていずれは伝えないといけないと思っていた。
「今後のスケジュールを考えると、ぼちぼち曲は完成させてほしいってのが正直なところです。未確認ライオットの一次審査、デモ審査用のテープ……は、作るの自体はギリギリでもいいでしょうけど、練習の時間はしっかり取りたいですし。あと、その先の二次審査、ネット投票も見据えてそろそろMVもちゃんとしたものを作って宣伝していきたいですし」
「此崎くん、いろいろと考えてくれてたのね」
「まぁな。……で、それ踏まえるとですね、今が1月半ばをちょっと過ぎたくらいなんで……2月の頭、遅くても前半のうちには歌詞も含めて完成させてほしいんです。となると、あんまり気は進まないですがどこかに締切は作っておいた方がいいかな、とは考えてました……けど」
リョウ先輩が吹っ切れてくれた今だから思い切って言ってしまった……が、それでもやっぱり先輩の表情を窺ってしまう。
「……衣久、わかってるから大丈夫。私も、どこかにデッドラインがないとまたずるずる悩んじゃうかもだから」
と、リョウ先輩はそう言ってくれたが、だからって未だ難航している作業に期限を設定されるのはますます苦しいところだろう。
……もう少し様子を見て伝えるべきだったか、と俺がほんの数分前の自分の選択に後悔を感じ始めたその時、不意に後藤が口を開いた。
「……あっあの」
「どしたのぼっちちゃん」
「あっはい。あっえっと……その、み、みんなでセッション、とか……にっ虹夏ちゃんに、前に言ってもらったこと、思い出して……
何を言い出すかと思えば、わかるような、わからないような。
全員で思わず見つめてしまうと後藤は案の定あたふたし始めるが、しかしそこで委縮せずに言葉を続けた。
「あっえっと、たっ確かライブ、初めてのライブの時に、演奏するの楽しもうって意味で言ってもらったと思うんですけど、でも、作曲も同じじゃないかなって思って……わ、私も作詞悩むから楽しむどころじゃないのはわか……あっいえいつも余裕なんですけど、だからその、つまり……いっそ楽しむのも大切なんじゃないかな、って。あっすいません長々と」
「……いやいや、ぼっちちゃんの言う通りだよ! よし、じゃあセッションしよう! さぁぼっちちゃんギター構えて!」
「あっはい!」
「いや早ぇよ」
虹夏先輩が賛成して促した次の瞬間、後藤はその手にギターを構えていた。いやギターケース背負ってきてたのはそうだけどいつ取り出した?
「ほらほら喜多ちゃんも!」
「え、えっと、はい……?」
「リョウも……って、リビングじゃ危ないか。ほらもう此崎くんの部屋行こう! どうせリョウのベースもそこでしょ! ぼっちちゃん、ゴー!」
「あっはい!」
「ちょっと虹夏、押さないで……」
後藤がギターをじゃかじゃか掻き鳴らしながら先頭を歩き、その後ろに若干困惑気味の喜多さんとリョウ先輩、一番後ろから虹夏先輩が二人を押してあっという間に俺の部屋へ。
俺も当然困惑しつつ、しかし付いて行かないわけにもいかないと思って後を追う。
すると、部屋の中ではさっそく喜多さんもリョウ先輩もそれぞれギターとベースを構え、虹夏先輩もドラムスティックを握ってクッションやらティッシュ箱やらを並べて準備万端だった。だから早いのよ。
「……あっ、此崎くん今更だけど演奏して大丈夫かな?」
「マジで今更っすね。たぶん……ギターもベースも生音なら大丈夫ですよ。怒られたらそんときは一緒に頭下げてください」
「おっけー!」
サムズアップで調子よく答える虹夏先輩に対して、俺は部屋の入り口に寄りかかりながら答えた。
言い出しっぺの後藤が即興のフレーズを弾き始めれば、すかさず虹夏先輩がドラムを合わせ、喜多さんも二人に続いてバッキングを重ねると、最後にリョウ先輩のベースラインが加わる。
四人で気ままに奏でる音楽。
バラバラの個性が集まってできた、一つの音楽。
これが、リョウ先輩の作曲の手助けになるのかはわからない。まだ、わからない。
ただひとつ、四人はこのセッションを楽しんでいた。
それだけは間違いないことだ。
そして俺には、そんな彼女たちの姿が途方もなく眩しいものに感じられた。
♪ ♪ ♪
そんでまぁ、後日談。
……というかまず、その日のことなんだが。
ひとしきりセッションをお楽しみになられた結束バンド御一行様であるが、ふと気がついた時には22時を回っていた。そもそも虹夏先輩たちが襲撃してきたのが18時頃でそこから散々わちゃわちゃしていたのだから、そりゃあ時間もいつの間にか過ぎ去ってるよねって。
で、とりあえず端的に言うと全員俺んちに泊まった。マジやばくね? ウケる。
……いやね、夜22時から虹夏先輩と喜多さんを東京まで帰らせたら日付変わっちゃうのよ。そんでリョウ先輩は荷物広げまくりだからそう簡単に片付かないのよ。一緒に帰ろうとしたらたぶん終電の関係で家に帰り着けないのよ。
とは言え後藤んちに泊まるっていう選択肢もあったし俺は真っ先に提案したのよ。でもリョウ先輩が「衣久のベッド寝心地いいからここでいい」とか言っちゃったもんだからもちろん後藤が爆死して、するってぇと乙女の味方虹喜多殺法コンビも黙ってないわけなのよ。
そんで結局監視役として虹喜多コンビも俺んちに泊まることになっちゃったのよ。ついでに後藤も。後藤はともかく女子高生そんな気軽に外泊しちゃうのかよと思ったしそのまま言ったけど正義感に駆られた乙女の味方にそんな常識は通用しなかったのよ。そういうことなのよ。
とりあえず経緯はそんな具合で、じゃあ実際その後どうだったかというと……まぁいろいろあったと言えばあったし、大したことがなかったと言えばなかった。いずれ語るときが来るかもしれないし来ないかもしれない。
そしてここからが本当の後日談なのだが、店長さんが泣いちゃった。
いや嘘。さすがに泣いてはいない。
でも、俺とリョウ先輩でバイトバックレたのを謝りに行ったら物凄く神妙な顔で「……まぁなんだ、元気みたいでよかったよ……頼りない大人かもしれないけど何か困ったことがあったらなんでも相談乗るからな……」としおらしいことを言ってきたので、俺が「そんなことないです、店長さんは頼りがいのある大人ですよ。ご心配おかけしてすいませんでした。これからもよろしくお願いします」と丁寧に返事をしたらなんかちょっと涙目になっていた。
「……リョウ先輩が言ってたの、マジでしたね」
「でしょ?」
――というのは、店長さんとの会話の後、リョウ先輩と二人きりで掃除をしていた時のこそこそ話である。
そもそも俺たちは何の連絡もせずにバイトをバックレていたわけだが、これはリョウ先輩の「最初から店長に急な休みの連絡したら殺されるから店長が私たちの安否が心配になってきたり何か自分が悪いことしたんじゃないかと悩み始めたりしたくらいを見計らって連絡するのが良い」というマジで最悪な提案によるものである。
意外と常識的でおなじみの俺はもちろん躊躇したのだが、しかし店長さんからの制裁を避け得る手段を思い付かず、己の命を守るためにそのクズムーブに乗っからざるを得なかったのである。
もっとも、俺はそんなに都合よくいくとは思っておらず、今日は死を覚悟して謝罪したのだが……店長さんは結構ガチで自分の人望について思い悩むことになっていたらしい。罪悪感がすごい。
「俺、もうやんないですからね。店長さん意外と打たれ弱くってあれじゃかわいそうすぎます」
「うん。でもあそこまで凹んでるのは私たちだけのせいじゃない」
「それはまぁ、はい」
虹夏先輩たちが俺んちに襲撃してきた日……あの日、あの三人もきっちりバイトが入っていたところをぶっちぎっていたみたいで、それでなおさら凹んでいたらしい。PAさん談である。
「……ま、とりあえず丸く収まってよかったです。いろいろと。作曲も順調……なんですよね?」
「うん。あの時のセッションのおかげ。あとはひとつの曲としてまとめ上げるだけって感じ」
「そりゃよかった」
俺は言いながら手に持ったモップの先っちょに顎を乗せ、頬を緩める。そうして何気なく息を吐いたら「ふへー」と変な声が出てしまった。
「ふふ」
「……今笑いました?」
「笑ってない」
「いや絶対笑ったでしょ」
なんだかやけに恥ずかしくなった俺はじっとりと睨むが、リョウ先輩はいつもの真顔でどこ吹く風。
――かと思えば、不意にこちらをまっすぐ見つめ返し、柔らかく微笑みかけてきた。
「衣久」
そして、リョウ先輩が俺の名前を呼ぶ。
「な、なんです?」
「いろいろありがとう。助かった」
「……あー、っていうか名前呼び、まだ続けるんですね」
「ダメ?」
「……いいですけど」
まだしばらくは、心臓に悪そうだ。
山田編、完。
温めすぎて爆発しちゃった感じがするね。電子レンジにかけちゃったのかな?
はてさて此山爆発記念ということで謝辞。
前回前々回と久々に評価おねだりしたらたくさん評価してもらえてうれしかったってうちの猫が言ってました。ありがとうございます。
その他感想ここすきお気に入り誤字報告等々もありがとうございます。やっぱりうちの猫も喜んでました。
次回はたぶん原作沿いだよ。ようやくあの人たちとがっつり絡む……はず。