うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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なんだか随分と書くのに時間がかかった気がするー!
推敲なんてなかった。


#58 脳破壊にはアニマルセラピー、悩めるキミには孤独なヒーロー

 

 

 ――声が、聞こえる。

 

「――いっくん、いっくん起きて……」

 

 俺を、いっくんと呼ぶ声。

 優しく身体を揺すられている。

 

 誰だろうと一瞬考えて、たぶんふたりちゃんだろうとすぐに結論付けた。

 

「ふたりちゃん……今日はおやすみだからもうちょっと寝かせて……」

 

 俺は布団を深く被り直して寝返りを打つ。

 

 今日は久々にバイトも結束バンドの練習もない土曜日……の、はず。

 ああそうだ、昨日は喜多さんも一緒にうちに泊まることになって……もしかしたら後藤は喜多さんに叩き起こされてるかもしれないが、俺はもう少し寝たい……。

 

「いっくん、でももう10時過ぎよ。お布団干さなくちゃいけないから」

「……んー……ん?」

 

 って、いやこれ違う。これふたりちゃんとちゃうわ。

 

「んぁ、あー、すんませんお母さ……あ?」

「いっくんおはよう。あ、見てこれどうかしら? 似合ってると思わない?」

 

 寝ぼけ眼を擦って開けると、信じられない光景が広がっていた。

 

 後藤ママ。

 後藤とふたりちゃんの母親で、俺にとっても、血は繋がっていないが母親同然の存在。

 

 御年37歳。

 アラフォーにしては非常に若々しく、20代前半……は、ちょっと厳しいが、30代前半なら余裕、20代後半と言われても納得できなくはない見た目だ。

 

 そう、30代前半。

 譲って、20代後半。

 

 つまり……さすがに女子高生の制服は、き、き、キツ──。

 

「……なん……その、せ、制服……」

「そう! これひとりちゃんのなのよ〜! 似合うでしょ〜?」

「あ……あ……」

 

 似合うか似合わないかで言ったら、まぁ、似合ってる。

 似合ってるが、でも、あなたは二児の母で、娘の高校の制服を……なぜ……ああ……?

 

「……あ、あの、ど、どうしてそのような……」

「ひとりちゃんったら喜多ちゃんに気後れしてるみたいで話が弾んでなさそうだったのよ〜。だからもう一人女子高生がいたら少し話しやすくなるかもって! 後藤美智代、16歳で〜す! なんちゃって!」

「あが……おが……」

「やだ〜いっくん白目〜!」

 

 あが……あがが……あががが……あが……っ!

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

「……あら? 今此崎くんの悲鳴みたいなの聞こえなかったかしら?」

「き、聞こえましたね……」

 

 お母さん……本当にあの格好のまま此崎くんのこと起こしに行ったのかな……育ての親の制服コスプレを寝起きに喰らった此崎くんの脳は無事だろうか……いや悲鳴が聞こえたってことはダメだったんだろうな……。

 

 ……ま、まぁでも、此崎くんだってたまには壊れる側に回るべきだよね。

 そう、これは正当な復讐。別に私がけしかけたわけじゃないし、あえて見過ごしたっていうだけだけど。

 

「……ふへっ」

「どうしたのひとりちゃん?」

「あっいえなんでも……」

 

 私の中の†闇†が溢れ出してしまっていたようだ……ふぅ、危ない危ない。このまま暗黒面に堕ちていたら次の瞬間に喜多さんが常に放出している聖なる光に浄化されてこの世から消え去るところだった。

 

 うん、とりあえず此崎くんの脳みそのことは置いとこう。

 

 だって、私は私で、目の前の過酷な試練に立ち向かわなければならないのだから。

 

「……え、えっと、それであの……わっ私は何を……」

「ええ! ひとりちゃんにはね、作った歌詞の意味とか、込めた想いみたいなものを教えて欲しいの! 全部!」

 

 これだ。

 尋問だ。

 

 昨日、私の愛すべき退屈な日常が喜多さんを安らかな眠りに導いたことで図らずも延期になっていたそれが、差し迫っているのである。

 

「か、歌詞の、意味……ぜっ全部、ですか」

「そう! 昨日はひとりちゃんにいつも通り過ごしてもらってそこから学ぼうと思ったんだけどいつの間にか寝ちゃったから……やっぱりちゃんとお話聞かせて欲しいの! ほら、やっぱり聞いてるだけの授業って眠くなっちゃうじゃない?」

 

 うぅ……私の日常が、私の徒然なる日暮しがつまらないばかりに……もっと愉快で有意義な生活を送っていれば、喜多さんが勝手にいろいろ感じ取ってくれてこんな尋問を受けることもない世界線があったかもしれなかったんだ……。

 

 ……別の世界線の私がどうか上手くやっていますように、と小さな祈りを捧げつつ、私は観念して喜多さんの問いに頭を捻る。

 

 私が作った歌詞の意味。

 そんなのアレだ、日々のしょーもない不満をそれっぽく抽象的にカッコつけてつらつらと並べてるだけだ。結果的に。

 

 ……い、いや私だってもっと世界を塗り替えたりラブ&ピースが溢れて世界から戦争がなくなったりしちゃうような歌詞を書きたいという大それた野望がちょっとだけないこともないのだけど、だいたい二徹を超えたくらいの脳みそでは、もはや手近な引き出しからしか物を取り出してはこれないのだ。

 

「……き、聞く人それぞれに解釈してもらえれば、それで……へへっ……」

 

 ぼっちは とうそうをこころみた!

 

「え〜! 私はひとりちゃんの気持ちが聞きたいのよ〜!」

 

 しかし まわりこまれてしまった!

 

 くっ、やはりだいばくはつしてすべてを有耶無耶にするしか……いっいやどうせ最期に一花咲かせるのなら、私の歌詞の真実をありのまま伝えて喜多さんによくわかんない顔されて砕け散るのもまた一興か……!?

 

「……え、えっと!」

「うん、なになにひとりちゃん!」

「だっだいたいは学校であった嫌なこととかコミュ症には生きづらい人間社会への不満や鬱憤を人様にお見せできるレベルに加工してます!!」

「そんな元気よく大きな声で言うことじゃないわね! 聞いてごめんなさい!」

 

 ほらーっ! 喜多さんに謝らせちゃったじゃないかこの陰キャ! コミュ症! ぼっち! 

 

 私が「うおおおおおおお!」と叫びながら正座のまま畳に頭を打ち付けて猛省している一方、喜多さんは私のことをまるで気にする様子もなく「うーん」と唸って首を傾げた。

 

「ひとりちゃんのことを知る……昔のこと、卒アル……は、前に此崎くんちに行った時に見たものね。となると……身近な人にインタビューするとか?」

「えっ」

 

 何ですかその恐ろしいアイデアは。

 

「……うん、そうね、それがいいわ! よーし、それじゃあさっそくひとりちゃんのお母さんに話を聞きに行くわよ! ひとりちゃん行きましょ!」

「えっ」

 

 しかも三者面談? 本人同伴で家族から昔話を根掘り葉掘りとか別に私が陰キャだからとか関係なしに死ぬやつでは?

 

 あの、喜多さん。

 

 喜多さん?

 

 

 

〜Case1:母、後藤美智代の証言〜

 

「小さい頃のひとりちゃん? うーん、やっぱり人見知りで引っ込み思案な子だったわね……物心付いた頃にはよく『お母さんのお腹に帰りたい』って言ってたし」

「キャラ徹底してますね……」

「おぎゃ……おぎゃ……!」

 

 

〜Case2:妹、後藤ふたりの証言〜

 

「おねーちゃん幼稚園のみんなからユーレイって呼ばれてるよ~。このまえね、まちちゃんとはるちゃんが遊びにきてね、おねーちゃんにこっそりタッチするやつしたんだ~」

「あんまりだわ!!」

「あっあっあっ」

 

 

〜Case3:犬、ジミヘンの証言〜

 

「わんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわんわんわんわんわんわんわんわんわわん!!!!!」

「ものすごく一生懸命喋ってくれてるけどなんにもわからないわ!!!!!!」

「ジミヘンうるせぇ……」

「こっ此崎くんなんでジミヘンのこと顔の上に乗っけてソファで寝てるの……?」

「……アニマルセラピー……」

「……そ、そっか……」

 

 

〜Case4:父、後藤直樹の証言〜

 

「僕とひとりはね、ふたりの中の後藤家家族カーストで最下位争いを繰り広げている良きライバルだよ! ちなみに現在トップはお母さんで次点が同列でふたりといっくん、さらにその次がジミヘン、最後にひとりと僕が熾烈なブービー争いをしてる感じだね!」

「ふたりちゃんの中ではパパもお姉ちゃんもペット未満なの……? しかもさらっと入ってる此崎くん……」

「あっへへ……まっまぁ妥当な評価かと……」

 

 

〜Case5:幼馴染、此崎衣久の証言〜

 

「……いや今更俺に聞く? 昔から大して変わんねぇよ後藤は。勉強できなくて運動音痴、人見知りで友だちいなくて、俺が遊びに誘って混ざっても他の奴らとまったく打ち解けることなく永遠にぼっち。以上」

「シンプルかつ無駄のない網羅的な見解だわ……」

「……へへへ、へ……」

 

 

 

 ――と、まぁそんな感じで。

 

 蓋を開けてみれば別に恥ずかしいということはなかったけど、死ぬに死にきれない微妙なダメージを負うはめになった。いっそ一思いに殺してくれれば楽だったのに……。

 

 そして、一通りの話を聞き終えた喜多さんはすっかり大人しくなってしまった。

 

 ……いや、正確には此崎くんの証言の後、お父さんが私がギターを始めた頃の話をしてからだろうか。

 お父さんは此崎くんによる事実陳列罪の被害に遭った私をフォローするように私がいかにギターの練習を頑張ってきたか、オーチューブでどれだけ評判がいいかを拳を握り絞めながら熱く語り出したのだ。

 

 正直これが一番恥ずかしかったんだけど、でも、お父さんが喜多さんを相手にどんなことを話すのかちょっとだけ気になってしまって、私はそわそわしながらもしばらく止めずに聞いていた。

 が、突如お父さんが禁忌に触れよう(概要欄の話をしよう)としたので、私は咄嗟に「やれ」とジミヘンに指示を飛ばし、お父さんを抹殺することになったのだった。

 

 ジミヘンが珍しく私の言うことを聞いてくれたので、よかったと思いました。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎるというけれど、だとすると朝から晩までずっと喜多さんと一緒だった今日は、存外私にとっても楽しい1日だったのかもしれない。

 

「…………」

「……んぅ〜……」

「……ふが……」

「…………」

 

 ……いや、それにしても。

 

 私と喜多さんが同じ部屋に布団を敷いて、隣り合って寝ている……のはいいとして、喜多さんの横にふたりとジミヘンも寝てる……のもまだいいとして、さらにその横に此崎くんまで一緒に寝てるのってさすがにおかしくない? 

 

「……ひ、ひとりちゃん、まだ起きてるかしら……?」

「あ、あっはい」

「そうよね……こんな状況でふがふが言いながら平然と寝てる此崎くんの方が絶対におかしいわよね……!」

 

 それはもう仰る通りです。

 ……一応、此崎くんが喜多さんとお泊まりするのは初めてではない……けど、この前のリョウさんのときは結局みんなで徹夜したから(ふたりとジミヘンが間に挟まっているとはいえ)布団を隣り合わせて寝るなんてことはもちろんなかったし、初めてじゃなくても同い年の女の子と同じ部屋で寝ることに対する緊張とかないのかと問い正したい。小一時間は問い正したい。

 

 そもそもどうしてこんなことになっちゃったかって、まぁやっぱりふたりが「喜多ちゃんといっくんといっしょにねる!」なんてわがままを言ったからである。

 

 さすがにお父さんもお母さんもやんわり止めたし、喜多さんも、此崎くんもそれとなく諭すように反対したのだが……喜多さんはかわいいものに弱く、そして此崎くんはふたりの押しに弱かった。弱すぎたのだ……。

 

「ま、まぁでも此崎くんがおかしいのなんて今更よね……リョウ先輩と一週間二人きりで過ごして何もなかったっていうくらいだし……」

「オアッ!!」

「あっごめんなさいひとりちゃん! 私また古傷を……!」

「いっいえ……一瞬気を失いかけましたけど大丈夫です……」

「一瞬気は失いかけたのね……」

「はい!(小声)」

「今更そんな小声で返事しても遅いと思うわ……」

 

 はい!(小声)

 

 ……でも此崎くんは私たちに背中向けたままだし、たぶん起きてないからセーフだ。ジミヘンの耳がちょっと動いてたけど……。

 

「……はぁ……」

 

 喜多さんがため息を吐いた後、ごろんと寝返りを打って私の方に顔を向けてくる。

 ちらりと喜多さんの顔を見て、それから意を決して私も横向きになって、喜多さんと向かい合う格好になった。

 

「あっあの喜多さん、け、結局今日一日で何か掴めましたか……」

「……んーん、せっかくいろいろお話聞かせてもらったけど、あんまり……まぁふたりちゃんと一緒に遊んでばっかりだったのもあるけれどね?」

「すすすすいませんうちの妹が」

「ううん、いいのよ楽しかったし……でも肝心のひとりちゃんのことは、うん、昔からひとりちゃんって変わらないんだなって」

「あっはい物心付いた頃から変わり映えのない生き様ですいません……」

 

 私は生きた化石です……シーラカンス後藤です……。

 

「ひとりちゃんと私って、やっぱりすごく……正反対な人生を歩んできてるわよね」

「うっ、ひ、否定はまったくできませんけど……」

 

 喜多さんの口からそう言われると刺さるものが……と思ったけれど、しかし喜多さんは目を伏せて、暗い声音で呟いた。

 

「だから、ひとりちゃんと正反対な、私みたいな平凡な人間には……ひとりちゃんが書いた歌詞を歌いこなすなんて、最初から無理だったのかも」

 

 ──えっ、という一言さえ、私の口からは出なかった。

 それくらい、喜多さんのその弱音は私にとって意外なものだった。

 

「……私って、自分で言うのもなんだけど、そこそこ勉強も運動もできるのよ。友だちだって多いし……」

 

 喜多さんは言いながらまた仰向けになって、ぼんやりと天井を眺める。

 

「でも、何かが特別秀でてるわけじゃないし、ホント《普通》っていうか。楽しいんだけど、なんとなく自分の人生が味気ないように思ってて……リョウ先輩の路上ライブ見たときもね、先輩のルックスに惹かれたのもあるけど、同時に羨ましいなって思ったのよ」

「う、羨ましい、ですか?」

「うん。バンドっていう、普通じゃない道を歩んでる姿が羨ましかったの。だから私もバンドに入って……一回逃げちゃったけど、ひとりちゃんたちに連れ戻してもらって、それで私なりに頑張ってるつもりだったけど」

 

 それでも私には、何もないのかな──と。

 喜多さんの空虚な言葉が、私の部屋にしんと響いた。

 

「──あ、あのっ」

 

 だから私は、それをかき消すように声を上げた。

 夜には少し大きすぎる声をまた出してしまったけれど、後悔はしなかった。

 

「せ、正反対の人生って、その、本当にその通りだと思います。わっ私、特に此崎くんが言ってたみたいに、勉強苦手で、運動もダメで、此崎くんにお膳立てしてもらっても一人も友だちできなくって……そんな私が書いた歌詞を、私と真逆の人生を歩んできた喜多さんに共感してもらうのは、たっ確かに難しいかも、ですけど……」

「……けど?」

「あっはい。けっけど、私たち、意外と共通点もあると思うんです」

「え?」

 

 喜多さんが、もう一度私の方を向いた。

 

 大きな瞳に見つめられた私は、しかし躊躇わずに言葉を紡いだ。

 

 

 

「喜多さんも私も、バンドを通して自分を変えたいって思って音楽やってるところ」

 

 

 

 ……喜多さんが、さらに大げさに目を見開くから、私はちょっとだけ笑ってしまった。

 そして、なんとなく身体を起こすと、喜多さんも釣られたように起き上がる。

 

「……なので、あの。私は、そこが共有できてれば、喜多さんに私の歌詞を歌ってもらう理由としては十分だと思うんです。それに、私が卑屈な人生を送ってきたからこそ書ける歌詞があるみたいに、喜多さんも普通で楽しい人生を送ってきたからこそ届けられるものがある……ような気がしてたんですけどあれなんか今私すごい調子乗ってませんかあいやあのあくまで私はそう思うっていうだけでそもそも歌ってもらうとか偉そうなこと言ってすいませ──」

「待って待ってひとりちゃん今きちんと良いこと言ってたから自分で台無しにしないで! まずはそこをちゃんと断言する方向で変わるべきだわ!」

「あっはい!」

「……んぅ〜おねぇちゃんうるさい〜……」

 

 あっはいすいませんふたりさん! もう黙ります!

 

 ……もう寝よう。

 私ってやつは喜多さん相手にものすごく偉そうかつ小っ恥ずかしいカッコつけたセリフをつらつらと……なんか冷静になってみたらうおあああああああああああ!!!(発作)

 

「あっじゃっじゃあ喜多さんおやすみなさい……!」

 

 枕に顔埋めて叫ぶやつは明日やろっと!

 

「ねぇひとりちゃん、もっと話さない?」

「はひっ」

 

 しかし まわりこまれてしまった!(2回目)

 

「ほら、せっかくひとりちゃんちに来たのにお泊りらしいこと全然できてないじゃない? ふたりちゃんとはたくさん遊べたけど、私もっとひとりちゃんとお話ししたいわ! 恋バナとか!」

「こばっ」

「やっぱり私はそこで平気で寝てる人のこと聞きたいかな~って」

「あっじっジミヘンのことですか……!?」

「人って言ったわよね?」

 

 喜多さんが、夜目にはまぶしすぎるほど瞳をキタキタ輝かせ、私の敷布団との国境線を超えてずりずりと迫ってくる。りょ、領土侵犯……!

 

 

 

 ……そして結局、その夜は喜多()()()とたくさん、いろんな話をした。

 

 音楽のこと、学校のこと。

 私のこと、喜多ちゃんのこと。

 昔のこと、今のこと。

 あとはまぁ、すぐそこで平気で寝てる誰かさんのことも、致し方なく……話の詳しい内容は、ぜんぶ私と喜多ちゃんだけの秘密だ。

 

 それにしたって、友だちが自分の家にお泊りして、布団の中でお喋りしながら夜更かししてだなんて、まるで夢みたいだと思った。

 

 正直、喜多ちゃんが週末うちに泊まると言い出したときはまぁまぁ本気で嫌だったんだけど、でも本気で拒んだりしなくてよかった。本気で拒否できたかどうかはともかくとして。

 

 私が喉から手が出るほど欲しかった、()()()()

 

 バンドを始めて、私自身が変われているのかはわからないけど。

 でも、私の人生は、少しずつ変わっていっている……ような、気がした。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 それから、後日。

 

 喜多ちゃんは、スターリーへとやって来るなり虹夏ちゃんたちにMVの歌を撮り直したいという話をした。

 すると当然虹夏ちゃんとリョウ先輩は不思議そうにしていたが、しかし喜多ちゃんが事情を説明するとすぐにわかってくれた。

 

 そして喜多ちゃんはその熱意のままMV音源のエンジニアリングをしてくれたPAさんにもお願いをしに行った……けど、さすがにすぐさま頷いてはもらえなかった。

 絶対に大変な作業だし、本当はお金を払わないといけないことを善意で、タダでやってもらったわけだからそれをやり直してほしいなんて言われたら難色を示すのも仕方がない、でも喜多ちゃんの気持ちを考えたらそこをなんとか……と、私は思ってしまう。

 

 どうしようと思って私が喜多ちゃんの背後でうろうろおろおろしていると、ここで一応事情を知っている……というか一番最初に相談を受けていた此崎くんが、一緒になってPAさんに「俺にできることならなんでもお礼はするので」なんて言ったのだ。

 

 ん? 今なんでもするって言ったよね?

 

 ……違う間違えた。

 いやでも、だからというわけじゃないと信じてるけど、最終的には此崎くんの説得でPAさんは折れてくれたのだった。

 

「……ねぇ此崎くん、もしかして夜中の私たちの話、聞いてた?」

「夜中のって、後藤んち泊まったときのこと? なんか話してたのか?」

「あ、ううん、わからないならいいの……ね、ねぇ()()()()?」

「あっはい。あっあの喜多ちゃ――」

「あっそれじゃあ私スタジオの掃除してくるわね! じゃ!」

「あっあっあっ」

「……後藤、お前マジで喜多さんに何したんだ? この前『同じヒト科としてよろしくね!』とか言って逃げるように帰ってたしよ……」

「わっわかんない……」

 

 本当にわからない……朝ごはんも食べる気っぽかったし、別に変なことはなかったのに……強いて言うなら喜多ちゃんは私の部屋の押し入れに布団をしまおうとしてくれていただけだったはず。

 喜多ちゃん、なんて今更呼んでみちゃうくらいまた一歩仲良くなれたと思っていたのに、私たちを繋ぐものがいつのまにか生物学上の分類だけになっていた。

 

 ぐすっと鼻を啜った私の肩を、此崎くんは同情するようにぽんと叩いてくれた。

 

 





久々に謝辞!
お気に入り評価感想ここすき誤字報告等々等々ありがとうとうとう!
もっとくれー! 生きる力だー!

はい、次回はたぶん番外編……いやもしかしたら普通に話を進めるかもしれない。その時になってみないとわかりません!(無計画
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