いやホントの全盛期(最初の数話)は毎日更新してたけどね。怖いね。
「みんなお疲れさまでした。今日のライブも良かったですよ」
「お疲れさまでした~!」
「お疲れ」
「あっお疲れ様でしたまた明日……」
今日も今日とて路上ライブである。
下北沢駅前のこの場所も、毎週この曜日にはすっかり俺たちのライブ場所として定着した感じがある。だからと言って油断はできないが、今のところ誰かに注意されたりトラブルになったりということもなく、それなりに安心してライブができている。
また、4月も半ばを過ぎ、少しずつだが確実に春の陽気を感じるようになっていた。
日が落ちてきてからも手がかじかむほどに冷えることがなくなり、また単純に回数をこなしてきたということもあって、四人のパフォーマンスはますます良くなっているように感じる今日この頃なのであった。
「……まぁ実力アップっていうよりは練習でのパフォーマンスがライブでもしっかり出せるようになってきたって感じだけど……でもこれも成長だよね、うん」
みんなでいそいそと機材を片付けていると、虹夏先輩が不意にそんな言葉を零す。
俺はなんだかネガティブな雰囲気を感じて、すかさず口を挟んだ。
「でもも何もれっきとした成長に決まってるじゃないですか。とりあえず丸一ヶ月以上になるわけですけど、投げ銭も毎回安定した額になってますからね。上々ですよ」
「基準は投げ銭なのね……」
「ま、その方がぶっちゃけテンション上がるでしょ。ね、クズ太郎!」
「へけっ!」
「やめなよリョウ……」
ほらね、クズ太郎も「へけっ!」ゆーとる。いやクズ太郎はさすがの俺もどうかと思ったんだけどリョウ太郎も山田太郎もちょっと違うかなって……。
いやでももちろんお金だけじゃなく、どれだけの人たちがライブを聞いてくれたか、その人たちがどれだけ満足してくれたか、そしてリピーターになってくれているかというのも大事で、それはそれできちんとデータを取っている。
一瞬でも立ち止まってくれた人、一曲聞いていってくれた人、ライブの最初から最後までいてくれた人の数なんかもカウントしており、さらにはだいたいの年齢や性別なども何かの参考になればとメモしているのだ。
ただ、ハコでのライブと比べてびっくりするほどの人数というわけでもないので、正直投げ銭の額の方が数字として見たときに達成感がある……と、個人的には思うのである。クズ太郎もニコニコだしね。
「それにほら、練習通りに演奏できるってのは大事ですよ。さっきキャリーケースに詰めたピンク色の変死体の一番の課題なわけですし」
「ちょっと待ってナチュラルにひとりちゃんのこと箱詰めにしないで!? あとひとりちゃんも抵抗して!? 伊地知先輩が運ぶのに大変でしょ!!!」
「あはは、喜多ちゃん大丈夫大丈夫! 毎回運んでるから筋肉付いてきてるし!」
「キャーッ! 伊地知先輩の腕が雑コラみたいに!」
「キレてるよーっ! でかいよーっ! 上腕二頭筋がチョモランマ!」
「此崎くんやめなさいっ! 伊地知先輩がボディビルの道に進んじゃってもいいの!?」
よくはないけど進んだら進んだで非常におもしろいとは思いますね。別にボディビルダー一本じゃなくって結束バンドのドラマーも続けられるだろうし。
「うーん……でもあたし、みんなに比べて地味で目立たないし……ありかも……?」
「……すいません虹夏先輩、やっぱり勘弁してください。俺、虹色に輝く虹夏先輩のこと愛せないです……」
「虹色に輝くって何!? あとさらっとすごいこと言ってくるね!?」
「私は愛せる」
「幼馴染マウント取ろうとするリョウ先輩も素敵だわ……!」
話が混線してきたな。
「いやね、そもそも虹夏先輩がキャラ立ってないとか全然ないですから。無理に筋肉キャラなんて目指さなくても普通にキャラ濃いですよ。あともう既に十分パワータイプです」
「うん、此崎くんは後でいろいろとわからせるとして、でもキャラ濃いって言われても信じれないな〜……」
「私も伊地知先輩ちゃんと個性あると思いますよ! しっかり者でみんなのお母さんって感じです!」
「……それだけ? 他には?」
「えっあっ……えっと……絵が上手い、とか?」
「はぁ……」
「あーうそうそうそですごめんなさい! いえ絵が上手いって言うのは嘘じゃないですけど!」
「やーいやーい喜多さん虹夏先輩にため息つかれてやんのー」
「衣久はほぼ死刑宣告されてたけどね」
はい!
……などといつものような他愛のない雑談を交わしているうちに片付けも終わり、打ち上げがてらご飯を食べようと近所のファミレスへ向かうことになった。
虹夏先輩による此崎衣久
「あーあ、それにしてもやっぱりドラムが地味だよなードラムが。あたしもギターとか派手なパートにすればよかったなー」
「まだ言ってら。ドラムだってデカい音して派手じゃないですか」
「む、まぁそれはそうなんだけど」
俺のフォローに追随して「結局演奏する人にもよるんで……」とキャリーケースの中からまた呪いの声が聞こえてきたが、随分と説得力のあるセリフである。リードギターがこれなんだから結局大事なのは本人の気質だ。
……っつーかホントあれだな、なんかやけにネガティブだな虹夏先輩。
俺の知らない間に何かがあった……というほどの感じはしないし、それならもっと後藤やリョウ先輩、それに喜多さんだって反応してるはずだ。
もっとこう、チリツモ的なサムシングを感じるわけだが、それがさっきまでの発言そのまま自分のキャラ立ちを気にしているだけだと捉えていいのだろうか。
「……も〜伊地知先輩っ! 伊地知先輩は結束バンドのリーダーじゃないですか! ここまでやってこれたのは先輩のおかげですよっ!」
「えっ、そっそう……?」
「はい! そうよねひとりちゃん!」
「あっはい」
「リョウ先輩も!」
「うん。それはそう」
「此崎くんもそう思うわよね!」
「もちろん」
「み、みんな……」
結束バンドは言わずもがな虹夏先輩が始めたことで、なおかつこれまでこのキャラの濃いメンツをしっかりとまとめ上げている虹夏先輩は超偉い。
バラバラの個性が集まって一つの音楽を作り上げる、それがバンドだ――というのはリョウ先輩の残した名言であるが、そんなバラバラの個性たちを束ねて一つの方向に向かわせているのが誰かと言えば、それは虹夏先輩を置いて他にいない。断言できる。
あと逆説的に他3人が暴走列車だなんて言ってないです。思ってるけど。
虹夏先輩は偉い。偉いのだ。
こんなに偉いのに、先輩と後輩という立場のせいもあって、俺たちは虹夏先輩のことを全然褒めてあげてこなかったんだ――。
「……よし、じゃあみんなで週明けまでに虹夏先輩が普段どれくらいがんばってて偉いか、そしてどれだけ感謝しているかをお手紙にしてこよう!」
「何その提案!? やだよやめてよそれ罰ゲームの類じゃん!」
「伊地知先輩、遠慮しないでください! 私たくさん書いてきますから!」
「いやシンプルにめんどいからやだ」
「く、口下手な私でも、文章でなら……いやいっそ作詞を……うへへ……」
「もういいって! わかったって! 急に拗ねたあたしが悪かったからさぁ!」
はぁ、と大きくため息をついた虹夏先輩。
手紙書いてくるとかはもちろん冗談のつもりで、俺がニヤニヤしながら視線を送ると虹夏先輩は一瞬睨んできた後、すぐに破顔したのだった。
♪ ♪ ♪
さて、その翌日。
俺は、バイト前の時間に虹夏先輩とミーティングをするため、早めにスターリーへとやってきていた。
ここでいうミーティングとは結束バンド全員参加のバンドミーティングではなく、リーダー伊地知とマネージャー此崎による"結束バンド経営会議"のことである。ちなみに今のところバンドミーティングより開催頻度が多い。
「――で、今日の議題は、まぁ
「もちろん!
いつものようにフロアのテーブルで向かい合う俺と虹夏先輩。
まぁ、
結束バンドは、メアドを持っている。割と初期の頃に具体的な目的もなくとりあえず作ったフリーのメールアドレスだ。
現在、というか未確認ライオットへの参加を決めてからは『ライブ出演依頼などお仕事の連絡はこちら!』なんて文言を添えて、そのメアドをトゥイッターやオーチューブなどのプロフ、また動画の概要欄等々に載せている。何かの間違いで美味しい話が転がり込んでくるかもしれないし……という淡い期待が込められていたりいなかったり。
で、俺と虹夏先輩でこのメアドを管理することになっていて、それぞれスマホにアプリを入れているのだが……昨日の夜遅く、日付が変わるギリギリに1通のメールが俺たちのスマホを震わせたのだ。
「……もっかい言っときますけど、俺はだいぶ怪しいと思いますよ、うん」
「ま、まぁ一晩置いたら此崎くんの言うこともわかる……けど、やっぱりこれってチャンスだと思う! こんなことってなかなかないよ!」
「いや、まぁ俺も虹夏先輩の言うことはわかります。わかりますよ」
池袋にあるらしい、名前も知らないライブハウス。
そこのブッキングマネージャーだという人物から、結束バンドにブッキングライブへの出演オファーが届いたのだ。
……が、メールの文面をよく読んでみると、これが微妙に怪しい。
まず漂ってくるのがテンプレートっぽさ。丁寧ではあるんだけどなんか固有名詞入れ替えたら永遠に使いまわせそうだな―って感じの文章なのである。
まぁそれだけならほとんど言いがかりでしかないわけだが、その中に「この度ハードでロックな結束バンドの音楽性に感じるものがあり――」なんて一文があって、これで俺の疑念は強まることとなった。
結束バンドがやってる音楽はロックだが、どう考えてもハードではない。こいつホントに音源聞いとんのか、と。
あと、メール送ってくる時間よ。
そりゃライブハウスなんて夜遅くまで営業してるだろうさ。スターリー然り。
そんでそこのスタッフだって夜までバリバリ働いてるだろうさ。店長さんやPAさん然り。
別に俺も虹夏先輩も実際起きてたわけだけど、学生バンド相手にコンタクト取るならもう少し配慮があってもよくないかなぁとか思ってしまった。
そんなこんなで俺の中での最終的な印象は普通に悪かったのであまり真剣に取り合うつもりはなかった……のだが、しかし一方昨晩の虹夏先輩は路上ライブ後のなんやかんやで自己肯定感マシマシのテンションアゲアゲだったからか、メールを見るや否やすぐに俺に電話してきて「絶対やろうすぐ返事しよう準備しよう!!!」とゴリ押ししてきたのである。
「此崎くん、やっぱり反対なの? 確かにちょっと怪しいけどさぁ……」
「いや、絶対ダメってわけじゃなくて、いったん落ち着いて考えましょうって話ですよ。俺もまぁ、ちょっとバイアスかかってるなとは思ったんで」
……うん、一晩寝かせて冷静になったところで改めてメールを見返すと、結局のところ「なんか舐められてね?」みたいな怒りが何より先に来ていて、それで全部がうさん臭く思えたり、メールをよこす時間一つが気に入らなかったりしているだけには思えなくもないのだ。
「虹夏先輩の気持ちもわかりますよ。路上ライブも最初は新鮮で達成感ありましたけど、最近はもうこなれてきたというか」
「うん、そうそう。MVの再生数は相変わらず伸びてるけどさすがに勢いは落ちてきたし、何か新しいことしないと新しい層には届かないでしょ? 新しいハコでブッキングライブって言ったらさ、全然知らない人たちにあたしたちのこと知ってもらうチャンスだよ!」
……本当に、虹夏先輩の言うことには一理ある。
知らないハコでのライブは路上ライブ以上の経験になるだろうし、未確認ライオットの二次審査であるネット投票を見据えれば新しいファンの獲得には貪欲になる必要があるだろう。
MVを作ってオーチューブにアップ、毎月スターリーでライブしてるし、路上ライブも軌道に乗ってきて、それらの告知を含めたSNSでの宣伝も精力的におこなっている。喜多さんの美容関係の投稿とまともに張り合えるようになってきているのだ。
ただ、ここからさらに新しいことをしようとなると、今のところアイデアがないのは事実であり、そこに降ってきたライブの出演オファーというのはいかにも都合がいい。
都合はいい、が……それにしてもなぁ……。
「……うーん……」
「――あーもうっ!」
「うおっ」
虹夏先輩が、いきなりテーブルを叩きながら椅子から立ち上がった。
「此崎くんまでそうやって煮え切らない態度取るの!? そんなに反対!?」
「は? いやだからまだそこまでは……」
「言い訳は結構! もうリーダー権限で参加決定ね! いつまでも返信しないと枠埋まっちゃうかもしれないし、三人にも伝えちゃうから!」
「えぇー……」
なんで急にぷんすか怒り始めたのよこの子……てか『此崎くんまで』って何? 俺以外に誰か反対して……あ、店長さんか。また誤解を招くような言い方したんだろうないや絶対そうだわこれ俺ほとんどとばっちりだろ。
しかしまぁ、なんだ。
俺は賢いのでよく知っているが、こういう時にあーだこーだ言い返すと余計めんどくさいことになる。
……ただ、このメール送ってきたライブハウス、ネットで調べたら割と評判悪いんだよな。
別に治安は悪くないみたいでそこは安心だけど、ライブがなんか変、みたいな口コミがちょいちょい目に付くというか。なんか変ってなんだよ。
とは言え、そもそもそんなに有名なハコでもないみたいだから絶対やめた方がいいってほどの情報も集まらなかったので……うん、まぁ出るなら出るでいいだろう。多少、諸々の覚悟はしておいた方が賢明だと思うけど。
「――お、此崎もういたのか」
「あら、お二人ともおはようございます。またミーティングですか?」
「店長さんPAさん、おはようございます」
その後しばらく、なんとも不機嫌そうに唇を尖らせたままスマホをいじる虹夏先輩をそのまま大人しく見守っていると、不意にスターリーの入り口の扉が開いて店長さんとPAさんが現れた。
俺が普通に挨拶をする一方、虹夏先輩は顔を上げると店長さんと目を合わせた途端にますます口を尖らせ、PAさんにだけ挨拶をしていた。
PAさんがその辺の微妙な感じをすぐに感じ取って不思議そうに伊地知姉妹を交互に見れば、店長さんはバツが悪そうに頭を掻いて口を開く。
「……あー、虹夏、昨日の件だが、此崎とは――」
「もう話したっ! お姉ちゃん意地悪なことしか言わないからもういいって!」
はい確定。
伊地知姉妹の喧嘩怖いのでもう知らん顔である。触らぬ神になんとやらだ。
……なんて思っていたら、直後に虹夏先輩が俺の方に顔を向けてきた。
「此崎くんも、反対なら反対で無理に手伝ってくれなくてもいいからね! あとバイト頑張って! じゃああたし家戻るから!」
と、虹夏先輩はやっぱり怒りながらも微妙に気遣いを感じる捨て台詞を残し、スターリーから出ていってしまったのだった。
「……此崎、お前虹夏のこと怒らせたな?」
「いやいや店長さん、確実にそっちの姉妹喧嘩のとばっちりですから。どうせまたツンデレのツンの方やったんじゃないですか?」
「はぁ? 私はただ事実を言っただけだっての」
「なんて言ったんですか?」
「……どうせ他のハコじゃ客足伸びないだろうしウチでやってるだけでいいだろって」
「この人どう思いますPAさん」
「相変わらず口下手ですよね〜」
俺とPAさんでしみじみ頷き合った後にジトっとした視線を送ると、さすがの店長さんも形勢不利と見たらしく、それはもう気まずそうに顔を逸らすだけだった。
♪ ♪ ♪
そして、あっという間に件のライブの日がやってきた。まぁ元々あんまり時間がなかったのも大いにあるのだが……ったくそういうとこやぞ……って、もう今更やめとく。やめときますとも。
いろいろ思うところはあっても虹夏先輩がリーダー権限で参加すると決めたわけで、なおかつあの後に他の三人もそれを了承したのだから、俺は今日まで一切文句を言わずにスケジュールの見直しや練習の手伝い等々を粛々と手伝ってきた。
しかし一方、虹夏先輩の俺に対するツンツン期は続いたため、喜多さんには「二人とも大丈夫? なんなら間取り持つわよ……?」と心配してもらったり、リョウ先輩には「夫婦喧嘩は程々にね。ぷぷぷ……」とからかわれたり、挙句後藤には「バンドの崩壊の危機だああああああああうわああああああああ」と突然爆発されたり……こればっかりはちょっと大変だったと言わざるを得ない。
「……けどまぁ、一応準備万端で今日を迎えられたわけだし、な」
「ぼっちが緊張でアスペクト比狂ってるように見えるんだけど平気?」
「大丈夫ですよリョウ先輩! たぶん萎縮してるだけです!」
そうです。それは萎縮(物理)してるだけです。
「ほらー! 無駄話してないで早く行くよー!」
「あ、はーい!」
「へーい」
虹夏先輩がかけてきた声に喜多さんが真っ先に反応して、その後に俺も返事をした。
すると、虹夏先輩が俺のことを一度見て、それからぷいっと顔をそむけた。喜多さんが苦笑いしながら俺の方に振り向き、リョウ先輩がニヤニヤしながら肩を突いてくる。後藤はアスペクト比がおかしいままだった。
ま、三人の……いや後藤はノーカンだから喜多さんとリョウ先輩に限るが、とにかく二人の反応を見てわかる通りそんなに深刻な感じでなく、虹夏先輩が拗ねて意固地になってるだけだ。
このまま何の問題もなくライブが成功すれば、「ほら見たことか」と俺と店長さんに言って、それで溜飲が下がるだろう。
……うん、本当にそれでいい。むしろ、それがいい。
店長さんと一緒に頭を下げる準備はできているのだ。
「……おい後藤」
「あっはい!」
俺は、遅れて付いてきた後藤に歩調を合わせて横に並び、上から頭をぎゅっと押してアスペクト比を修正しながら話しかける。
「プレッシャーかけるわけじゃないけどさ、頼むぞ、ライブ」
「……うっうん、た、頼まれた……」
……よし、じゃあ平気だな。
ここ数話感想少なくて寂しいぞォ
とか言ってまた少なかったら本当に悲しいぞォ
ォ!
私はいつだって次回を早く更新したいと願っていますが実際にそうなるかは不明です。かしこ。