うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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なんか知らんけど10000文字超えたわ。センキュー。


#64 現実逃避は非日常の中に限る

 

 下北沢駅から乗り換え一回で30分。

 みんな大好き“よみ瓜ランド”の最寄駅、名前そのまま“京王よみ瓜ランド駅へと我々一行は到着した。

 

 我々とはすなわちライブハウス『下北沢STARRY』のスタッフ及びその関係者、総勢……いち、にぃ、さん……8名。大人3名、中高生5名である。

 

「はいはーい! 後ろの大人二人歩くの遅れてますよー!」

「……やっぱだりぃな……」

「……はぁ……憂鬱ですね……」

「お姉ちゃんもPAさんもやさぐれないでくださーい! あともう一人の大人は男子高校生相手にむやみに腕回してくっつかないでくださーい! 大人の人たち団体行動と風紀を乱さないでくださーい!」

「虹夏せんせー、きくりちゃんはともかく後藤さんが家族連れの多さに溶けかけてて自力で歩いてくれませーん」

「はい衣久くーん、それは想定済みなので喜多ちゃんと一緒にぼっちちゃん係として頑張って持ってきてくださいねー」

「……ウワ-イククンイククンネジケチュンイククンコノニジバンザイオメデトウバンドアンタイボッチノウハカイトゥデイイズグッデイトゥブレインクラッシュアイアムハッピ-フォ-エバ-キッチンペ-パ-アブラフキフキ」

「ひとりちゃん後半何言ってるかわからないわ! 全然わからないわ! もうよみ瓜ランド着いたから蘇ってー!」

「郁代、後半だけじゃなくて中盤も結構わかんなかった」

「えー、むしろリョウちゃんわかったの? ねーねーいっくん、前半からわけわかんなくなかったー?」

 

 わかんなかったね。わかんなかったってことにしておこう。ようやくほとぼりが冷めた頃だからね。

 

 

 

 ……さて、まぁご覧の通りいつものメンバーで遊園地――よみ瓜ランドへとやってきたわけであるが、これははたして何事か。

 

 それはズバリ、福利厚生だ。下北沢スターリースタッフ一同自由参加の慰安旅行である。

 あと、ついでにこの前の池袋での闇鍋ライブの打ち上げも兼ねている。打ち上げは何回やってもいいかんね。

 

 それと、もう一つ。

 わざわざ今日という日をピンポイントで選んだのにも、ちょっとした訳がある。

 

「……ねぇねぇ衣久くん、まだメール来てないよね?」

「来てないですね」

「……うおおおおお今日は日頃の不安吹き飛ばすくらい遊ぼぉ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「おぉ〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 実は今日、未確認ライオットの一次審査の結果通知がある日なんですね。

 でも、今日のいつ頃来るのかわかりません。そわそわするなんてもんじゃあないわけでして、だったらもういっそ何もかも忘れちゃうくらい遊んじゃおうそうしようということである。

 ちなみに店長さんに「現実逃避かよ」と一言でまとめていただきました。そうです現実逃避旅行です。

 

「でも、店長さんたちも今日一日たくさん楽しんでくださいね!」

「そうだよ! お姉ちゃん、別にあたしたちのことは気にせずに……」

「だるいわ」

「しんどい」

「吐きそう」

「……ぬあーっ! このやさぐれ三銃士どもめ!! 周り見なよ! 家族連れにカップル! 見てたら楽しくなるでしょ!?」

「……いいか虹夏。この年になるとな、こういうとこに来るのが辛くなってくんだ……選ぶ道を間違えたなんて思わないけど幸せそうにしてる同年代の子連れ見てると無性に胸が締め付けられるんだよ……」

「ふふふ……毎日家に帰っても一人、お帰りと言ってくれる人もいなければ料理をしても食べてくれる人もいない……添加物満載のコンビニ弁当をむさぼる毎日……壊れていく身体……壊れていく心……」

「ちくしょ~~……借金まみれなのも築52年の風呂なし事故物件のアパートに住んでるのも全部バンドのせいだ~~~!!!」

「きくりちゃん泣きながら遊園地で抱きついてこないで~家族連れとカップルからの視線がやばいよ~」

 

 店長さんPAさんきくりちゃんのやさぐれっぷりがひどい。顔が死んでるしなんなら泣いてるもん。泣くなよ大人が遊園地で。

 

 きくりちゃんのことをやんわり引き剥がしてベンチに座らせながら、俺は大きくため息を吐く。

 

「まぁでもほら、せっかく現役の男子高校生と一緒に遊園地来てるんですよ? 16歳とおよそ一ヶ月の男ですよ? 子連れよりも逆にレアでラッキーじゃないですか?」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……なんか三銃士がいまだかつて見たことないくらい真剣な表情で顎に手を当てたり腕を組んだりして何かを思案し始めちゃったぁ……いやあの……ちょっとしたジョークのつもりだったんですけど何をそんなに真剣に考えてらっしゃるので……?

 

 そうしてしばらくの沈黙(虹喜多殺法コンビからの妙に冷たい視線付き)の後、やさぐれ三銃士はそれぞれ妙な笑みを浮かべながら顔を上げた。

 

「……ハッ、ったく此崎お前自分で言ってて恥ずかしくねぇのか? ったく……」

「ふふっ、此崎くんって本当にユーモラス……でも、大人のことからかうなんて悪い子ですね……?」

「いっくんってばホントに罪な男だね~……お姉さんもういっくんで楽しんじゃおっかなぁ~」

 

 小馬鹿にするような皮肉っぽい笑い方をする店長さん。

 目を細めて妖しく微笑むPAさん。

 逆にいつも細い目を少し開けてにんまりと笑うきくりちゃん。

 

 何かの危機を感じた。何かの。

 

「……よしじゃあ虹夏先輩喜多さんリョウ先輩後藤行こうかアトラクションどっから回ろうかうわー楽しみだなー」

「衣久くん責任から逃げちゃダメだよ」

「此崎くんここで背を向けるなんて最低だわ」

「衣久、おいしく頂かれて」

「ウワ-コノサキクンテンチョウサンピーエーサンヒロイオネエサンサンシュノオトナモリテイショクイッチョウマイドショウバイハンジョウメイアイヘルプユーアイムオーケープリーズギブミーハッピーセットチキンナゲットバーベキューソースイズマイフェイバリットウェットティッシュテ-ブルフキフキ」

「わかった俺が悪かったので助けてくださいお願いします!」

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 やさぐれ三銃士には御神酒(ア○ヒィ↓スゥパァ↑ドゥルァァァァイ↓)(遊園地特別価格)を丁重に奉納することで鎮まっていただけた。危うく供物になるところだった。

 

 で、大人さんたちはそのまま遊園地の片隅で酒盛りを始めるようなので、こっちはお子さんたちだけで遊園地を楽しむことにする。

 遊園地に来てアトラクションを楽しめない大人にはなりたくないね、と虹夏先輩と喜多さんとの三人で頷き合った。

 

 ……しかし、残念なことに、お子さんサイドにおいても約二名はもう既に手遅れかもしれん。

 

「せっかくの休み、家でだらだらしてたかった……ね、ぼっち」

「あっはい……あっいえ……はい」

「ぼっちちゃん、無理にリョウの言うことに合わせなくていいからね?」

「ひとりちゃんも楽しみだったわよね? 遊園地!」

「あっはい……う、う、うおおおおっしゃあ〜〜〜〜〜アトラクション全制覇行っちゃいますかぁ〜〜〜〜!? チュロスソード二刀流!! スターバースト・ストリーム!!」

「え、ひとりちゃん流石にハメ外しすぎ……食べ物で遊んじゃダメよ……」

「あっはいそれは本当にすいませ……あっあっ此崎くんなんでスマホ構えてるの……!」

「気にするな」

 

 お前のスターバースト・ストリーム動画に収めておいただけだから。あとでもう一本買い与えて三刀流もやらせよう。

 

 ……と、まぁこんな感じで最初からまるでノリ気じゃないリョウ先輩とハメ外しすぎてハシゴも外されていつもの陰キャテンションに戻ってしまった後藤。ベンチに座ったままで全然動きそうにない。過半数楽しむ気がない遊園地訪問とか初めてだよ。

 

 俺と同じく呆れたらしい虹夏先輩が、腰に手を当てながらため息を吐く。

 

「まったくもう……じゃあ喜多ちゃんと衣久くんと三人だけで行っちゃうからね? いいんだね?」

「そうよひとりちゃん、本当にいいの? 此崎くんのこと遊園地なんかに解き放ったらまた女の子引っ掛けてきちゃうかもしれないのよ?」

「喜多さんおめー何言ってんだ」

「……そ、そそそそれはおおお幼馴染として! ひひひ人様にごごごご迷惑をおかけするわけには……!」

「よしよし、ぼっちちゃんも行く気になったね……それじゃあリョウだけ待機かー。あーあ、残念だけど行きたくない人無理やり引っ張っていっても悪いしねー。あたしたちだけでよみ瓜ランド目いっぱい楽しむしかないかー」

「……ふぅ、まったく仕方ない。私がいないと衣久が寂しがるだろうから付いて行ってやろう……」

「なんで俺だけ……ってうおいっ! 山田さらっと腕組んでこようとすな! どういう距離感じゃ!」

「それはもちろん一週間同棲して同じ布団で寝た男女の距離感」

「ここここ此崎くんっ! 知らない女の人引っ掛けちゃダメ……っ!」

「知ってる女の人だろ記憶喪失か?」

 

 ……と、まぁとりあえずそんな感じで結局全員で行くことになった。

 

 それにしても遊園地なんて久しぶりだ。中学以来だ。

 そしてよみ瓜ランドそのものにいたっては今回来たのが初めてのことになる。金沢八景からだと某夢の国より微妙に遠いしね。

 ちなみにどんなアトラクションが人気なのかちらっと調べてみたのだが、テレビやらなんやらで見た覚えのある名前のアトラクションがちょいちょいあって、これってよみ瓜ランドのだったんだなぁと点と点が繋がるなどした。

 

「あっ、みんな見て! あそこに瓜ボーいるよ瓜ボー! ゆるかわい~!」

「私、一緒に写真撮りたいです! イソスタにアップしなきゃ!」

「何あの変な生き物……」

 

 虹夏先輩と喜多さんが黄色い声を上げながら駆け寄っていき、逆にリョウ先輩が引いた顔で変な生き物呼ばわりしたのは、よみ瓜ランドのマスコットキャラクターであるらしい瓜ボーくんだ。くん……であってると思う。

 瓜ボーくんは、ざっくり言うと燕尾服を着た二足歩行のイノシシである。我ながら嫌な感じのする説明だけど、まぁ実際にはちゃんとデフォルメされてるから大丈夫。無愛想な表情と妙にぱっちりしたおめめがかわいくなくもない。

 

「リョウ先輩も一緒に写真撮ってきたらどうです? 喜多さん喜びますよ」

「あれと並びたくない」

「そんなに言いますか……後藤は? せっかくだし」

「あっうん……いや……極力喜多ちゃんのイソスタに映り込むの避けたい……」

 

 それはわかる。後藤とは事情が違うけどわかる。

 

 ……そして、まさしくそのイソスタに上げるための写真の撮影がしっかり長引いとる。虹夏先輩が疲れた顔しとる。

 

 ――しかし、イソスタ道は一枚にしてならず、とは喜多郁代師範のお言葉である。

 自分自身のポーズ、その他被写体と併せた全体の構図、光の向きや加減等々を加味してレンズを構え、切り取った一瞬を加工してひとつの芸術品へと昇華させる……イソスタとは芸術なのだ。

 そして芸術は爆発であり、爆発と言えば後藤。

 したがって後藤はイソスタなのである。Q.E.D.

 

「わかったか後藤、お前自身がイソスタになることだ」

「は?」

 

 は? って言われちゃった。後藤に。

 

 

 

 喜多さんのイソスタ道の追究は一応そこそこに切り上げていただけたので、お次は……というかようやく最初のアトラクションにたどり着くことができた。

 

 で、その最初のアトラクションというのが……。

 

「……お化け屋敷かぁ」

「此崎くん苦手だったかしら? こういうの平気そう……っていうかお化けとか信じてなさそうだわ」

「いや割と信じてる……っていうか否定できないよなって。あり得ないなんてあり得ない的な」

「悪魔の証明ってやつ? でも秀華高の文化祭の時は大丈夫そうじゃなかったっけ?」

「メイド服姿で校内練り歩いてたんですからこの世に怖いものとかなかったですねあの時は」

「そういう意味じゃなくない?」

 

 だいたいそういう意味でしょ。だって今は怖い……かどうかはわからんけど、あんまり気は進まないし。

 

「衣久、怖かったら手握ってあげよっか」

「舐めんな……ってリョウ先輩今日なんなんすか? ずっとそういう感じ?」

「リョウ先輩私も怖いから手繋いでください!」

「ほらほら早く行くよー。ぼっちちゃんも暗くて湿った感じに安心してないでー」

「あっはいすいませんいつの間にか家に帰ってきたのかと思って落ち着きかけてましたすいません」

 

 心なし寄り集まって入ったお化け屋敷の中は、真夜中の墓地のような内装になっていた。

 屋内なのに墓地なのかよと冷静に突っ込んでやりたいところだが、こいつが意外にしっかりおどろおどろしいから負け惜しみにしかなるまい。

 

 ともあれ、五人でゆっくりと順路を進む。

 

「きゃ〜〜〜〜怖いですね〜〜〜〜〜〜!!」

「……本当に怖がってる?」

 

 喜多さんがここぞとばかりにリョウ先輩の腕に絡みついているが、あれはたぶん全然怖がってない。そしてもちろんリョウ先輩は近所を散歩してるくらいのテンションである。

 

「ね、ねぇ衣久くん、あそこの井戸とかなんか出てきそうじゃない……?」

「虹夏先輩、意識すると余計に怖いんでやめてください……」

 

 あと今距離が近いから名前呼びされるとドギマギしちゃうのでそれもやめてほしい。あと袖つままれるのもドギマギしちゃうからやめてほしい。いっそのこと俺の後ろでパーカーのフード鷲掴みにしてきてる後藤を見習ってほしい。

 

「……いや、後藤」

「えっあっうん、なっなに……?」

「人のフード掴んでんのは百歩譲って許すけど歩くペースは合わせろ? さっきから首が締まって苦し」

「――お皿……一枚足りない……私のお皿はどこ……?」

「きゃあああああああああやっぱりでたあああああああ!!!」

「きゃ――――――――! リョウせんぱ~~~~~~い!!!」

「うおわああああああああああああああ!?」

「あっうっ? おっお皿なんて持ってないですごごごごめんなさい……!」

「ぎゃあああああああああああああああああ本物出たあああああああああ!!」

「やかましいしややこしい」

 

 はい。

 

 簡単に解説すると俺が後藤に話しかけてる途中で井戸から幽霊……の格好したキャストの人が出てきて虹夏先輩と喜多さんが悲鳴を上げてさらに俺はそれに驚いて叫んで、後藤だけは対人恐怖症の初期症状として顔面崩壊したままかろうじて受け答えしてそれを見たキャストの人が誰よりも大きな悲鳴を上げました。

 要するに後藤が本物の怪異だってことだけ覚えて帰ってもらえれば大丈夫だ。

 

 

 

 そのまま本物を一体引き連れつつもお化け屋敷を脱出し、結束バンド一行は次のアトラクションへと向かう。

 

「よーし、じゃあお次は……うん、よみ瓜ランドといったらジェットコースターだ! 皆のもの、異論はないかね〜?」

「ありませーん!」

「別にいいよ」

「ないっす」

「あっうっあっ」

 

 ジェットコースター楽しみだなぁ……絶叫マシン好きなんだよな。遊園地に存在するもの、お化け屋敷以外は基本好きだし。要は遊園地好きなんですね。楽しいじゃん?

 

「……あ、でも五人だと全員並んで座れないね。一人あぶれちゃうじゃん」

「あ、そりゃ俺が一人で乗るんで平気ですよ。後藤の後ろに座ります」

「え、どうしてピンポイントで……?」

「そりゃもちろん後藤の死に様を見届けるためなんだぜ喜多さん。後ろからってのは少し残念だが飛んでいく魂は見えるだろうから」

「ひとりちゃんの魂飛んでっちゃうの……?」

 

 ああ。天に帰るのさ。

 後藤の魂は追いつけないんだ。ジェットコースターが駆け抜ける速度に。

 

「後藤、今までありがとうな。来世でまた会おう」

「あっはい……」

「今世での別れを受け入れてる……」

 

 虹夏先輩が鎮痛な面持ちで呟く。

 

 そして……。

 

「……お客様? お客様! お客様、意識が……!」

「あ、大丈夫ですちょっと死んでるだけなので」

「ちょっと死んでるんですか!?」

「いつものことなのでお気になさらず〜」

「いつものことなんですか!?」

 

 ノルマも久々に達成した。大満足である。

 

 ちなみにリョウ先輩も実は絶叫マシンとか苦手だったらしく、しっかりばっちり腰を抜かしていたので移動するために肩を貸す羽目になった。

 それ自体は別にいいんだけど、寂しそうだから付いて行ってあげるとか怖かったら手を繋いであげるとか散々言っといてこれはダサくないか? ダサい。

 

 

 

 お次はみんなでアシカショーを見た。

 

 後藤よりちょっと賢そうなアシカ(かん太くんというお名前らしい)がキャストのお姉さんの合図に合わせてボールを頭に乗せて遊んだり小さな前足で拍手したりと見事な芸を披露してくれた。

 拍手くらいなら後藤もできるが、後藤はボールとすら友だちじゃないのでやっぱりかん太くんの方が賢い……いやでも後藤はギター弾けるからな。互角ってところか……。

 

「後藤、お前も負けてないからな……!」

「えっ、ほっ本当……!?」

「もしかしてアシカと比較して言ってる?」

「喜んでるひとりちゃんもひとりちゃんだわ……」 

「私もあのくらい余裕」

 

 リョウ先輩なんでアシカと張り合ってんだ? 人としてのプライド捨てないでくださいよねまったく……。

 

 

 

 さらにその後はというと、まぁ目に付くアトラクションを片っ端から楽しんでいった感じである。

 コーヒーカップとかゴーカートとか、なんか変な……魚の形の乗り物に乗ってぐるぐる回るやつ……あれなんて名前だ……いやまぁ、とりあえずそんなのとか。

 

 もちろんどのアトラクションも楽しめたのだが、個人的に唯一残念だったのがバンジージャンプだ。

 何が残念だったかって、後藤にやらせることができなかったことだ。俺の夢を叶えるチャンスだったのに、それを成し遂げることができなかったのだ。

 

 虹夏先輩と喜多さんは今日スカートだったしリョウ先輩もジェットコースターで見栄が完売したようでシンプル拒否。

 しかし後藤は奇しくも上下ジャージ姿でもう完全にバンジージャンプへ挑む人の正装みたいな感じだったからめちゃくちゃバンジージャンプやりたいんだなと確信し絶対にバンジーさせてあげようとしたのだが、後藤はなぜか火事場の馬鹿力で俺に抵抗し、30分以上の格闘の末に俺は根負けしたのだった。無念。

 

 そんで結局俺だけ飛んだ。

 

 地上では結束バンド全員(後藤までも)がスマホを構えて俺の醜態を撮影しようとしていたので、俺は勇ましく三回だけ待ったをかけた後にちょっと裏返った悲鳴を上げながら見事なバンジー姿をお披露目したのだった。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

「おーい店長さーん」

「……んあ……? なんだ此崎か……」

 

 遊園地の片隅にグロッキーな成人女性三人が落ちていた。

 子どもたちが寄ってたかってイタズラをしていて、特に店長さんの髪型がすごいことになっている。

 

「これやったの誰だー?」

「はーい! わたしー!」

「お、君かぁ。うーむ、こりゃ将来は美容師さんだな。上手だぞー昇天ペガサスMIX盛りお花抜き高さ控えめ」

「ほんと! やったぁ!」

「……おいなんだこれ!? 誰だこれやったの!?」

 

 あぁ、店長さんが怒鳴るから子どもたちが逃げちゃった……。

 

「……なんでお前はそんな恨みがましい目で見てくんだよっ!」

「気のせいですよ、気のせい。それよりなんですか三人揃ってこんなとこで……飲み過ぎ?」

 

 こくこく、とPAさんが微かに首を縦に振った。やっぱりね。

 

「なんか遠目に見た時点でそんなことじゃないかと思ったんで、一応水買ってきましたよ。ほい」

「あ、ありがとうございます……」

「……サンキューな」

「…………」

「……きくりちゃん死んでます?」

「一番飲んでましたからね……」

「死んだだろうな」

「…………」

 

 ……本当に死んでそうだ。無理やりでも水飲ませた方がいいか? まぁとりあえずいいか……割といつものことだしな……。

 

 俺は南無三と仏さんに拝んでからお隣に腰を下ろした。

 

「……で、お前どうしたんだ? 虹夏たちは?」

「みんな観覧車乗ってます。ほらあれ」

 

 店長さんとPAさんが水を飲みながら顔を上げ、俺の指差す先を見る。

 夕暮れの空を背景に大きな観覧車がゆっくりと回っていた。

 

「此崎くんは一緒に乗らなかったんですか? 高所恐怖症とか?」

「いえ、別に高いのは人並みに平気ですけど、あれ四人乗りだったんですよ」

「分かれて乗りゃよかっただろ」

「それも考えましたけどね」

 

 なんかこう、結束バンド四人で乗るのが一番丸いかなって。俺は一人でバンジーやって高所楽しんだし、あとは店長さんたちの様子が気になったのもある。

 

「……それと、ぼちぼち未確認ライオットの選考結果のメールが来る……はずなんで。来ないとおかしいんでね。もうそっちが気になっちゃっていい加減アトラクションとか楽しんでられないんですよ……」

「あー……」

 

 もうね、だいぶ気が気じゃない。もう忘れとくの無理。

 

「……落ちてる、とかあんのかなぁ。あんだけ良い音源で……でも審査基準とかわからんし……っつーか夕方過ぎまで連絡来ないとか遅すぎないか? こんなもん昼には普通来るんじゃ……」

「あんまネガティブになんなよ。まだわかんねぇだろ」

「そうですよー。ほら、音楽関係の仕事って夜型なことも多いですし」

 

 せやろか……まぁライブハウスはそりゃ夜が本番みたいなこと多いだろうけど

 

 はぁ、とため息を吐いて、俺は両手で持ったスマホに視線を落とす。

 

 ――その、次の瞬間だった。

 

「――お、今の」

「通過だあああああああああああああああああああああ!!!!」

「見んのはえーなおい」

「いっくんうるさ~い……」

「通過って……一次審査通ったってことですか?」

「イエス! PAさんイエス!!!」

 

 着信音と同時に画面の上から降ってきたバナーをタップ、開かれたメールの文面を目を見開いて斜め読みして『厳正なる審査の結果、デモ審査を通過となりました』って部分を発見して五回は読み直したから間違いない。

 

 通過だ……。

 

「……通過だああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「もう聞いたっての! なんで二回叫ぶんだよ!!」

「此崎くん、わかりましたから落ち着きましょう? 通報されちゃいますよ」

「そうですよ店長さん落ち着いた方がいいですまだ一次審査通過しただけで言うなればスタートラインに立ったってくらいのもんですからねそんなに興奮してもネット投票とライブ審査とフェス審査ありますからねまだ本当に序の口なんでそんなに興奮しないで落ち着いてください店長さん」

「お前が落ち着けよ。マジで」

「うおおおおおおおおおきくりちゃん一次審査通ったよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお起きてえええええええええええええええええ!!!!!!」

「うぉぇ~……いっくんやめてぇ~~……吐いちゃう~~……」

 

 はーっはっはっはぁ! 吐いちゃえ吐いちゃえ! 吐いてすっきりして俺と一緒にこの喜びを分かち合おう! さん、はい!

 

「うぷ……」

「……あっ、虹夏先輩から通話だはいもしもし!!」

『うわ衣久くん出るのはや! ってことは見た!?』

「見ましたぁ! やりましたね!!」

『うん、うん!! やったね!!』

『此崎くん店長さんたちも一緒かしら!? もう伝えてくれたっ!?』

「もちろんだぜ喜多さん!」

 

 スピーカー越しに聞こえてくる騒ぎ声は主に虹夏先輩と喜多さんのものだったが、よく聞けばリョウ先輩の「騒ぎすぎ。一次審査くらい通過して当然……」と澄ましてるようで喜色を抑えきれてない声と、いつもより明るくて嬉しそうな後藤の「あっあっあっ」という鳴き声も紛れていた。

 

『おねえちゃ~ん!! 聞こえてる〜!? あたしたちやったよ~~~!!!』

「あぁ、聞こえてるって」

『今夜焼肉ね!! 全員分奢ってもらうから!!』

「なんでだよまだ一次審査受かっただけだろ!」

「よっしゃああああああ今夜は店長さんの奢りで焼肉だあああああああああ!!!」

「此崎てめぇいい加減にしろっ!」

「ぐえっ」

 

 向こうにも聞こえるように大声で叫んだらさすがに店長さんに首を絞められ、黙らされた。でも俺は焼肉を諦めていませんよ。たとえこの命が尽きても今夜は店長さんのお金で焼肉食べる……!

 

『衣久くん、観覧車降りたらすぐ行くからそれまでなんとか生き延びてね! 一緒にお姉ちゃんを倒して焼肉連れてってもらおう!』

「はい、待ってます! ちなみに今どの辺ですか?」

『今ちょうどてっぺんよ此崎くん!』

「じゃあ無理だごめんそれまで息が……持たな……」

『衣久、衣久の分まで食べるから安心して』

『あっうっあっ』

 

 結束バンドよ、俺の屍を越えてゆけ――。

 

 

 

 ……と、結局のところ、やさぐれ三銃士が飲み過ぎで焼肉なんて無理無理かたつむりらしいので、焼肉はまた日を改めてということになった。絶対にうやむやにはさせない。スターリーに出勤するたびに確認を取っていこうと思う。

 

 ともあれ、逃避するだけ逃避していた現実さんは結束バンドに微笑んでくれた。正直逃げてすまんかったって感じだ。

 

 ここからまた、ネット投票での審査が始まる。

 結成からようやく一年が経とうとしている結束バンドにとっては、ここが一つ目の正念場になるだろう。

 

 それでも今日ひとつ、成し遂げた。

 決意を新たにしてからの半年間、着実に積み上げてきたことが結果として帰ってきたのだ。

 

 俺たちは閉園時間が迫っていたよみ瓜ランドを後にし、それぞれ家路に就く。

 

 俺と後藤は売店で買った瓜ボーのカチューシャやらなんやら、いかにも遊園地で遊んできましたって格好で二人揃って電車に揺られた。

 普通なら、恥ずかしいからやめるし、やめさせるが……。

 

「……? こ、此崎くん、どうかした?」

「……いや、なんでも。今日は別にいいよな」

「? うん、たぶん……?」

 

 まぁ、今日のところは、こんな浮かれ気分のままでいいだろう。





原作3巻がっ……やっと終わったぁっ……!
オリジナルも番外編も挟んでるからアレだけどだいたい22~23話くらいで来てる計算ですね。今更だけど軽く章分けとかしてもいいのかもしれない。本当に今更。

原作3巻まで終了ってことでキリもいいですからぼちぼち明言しておこうかと思いますが、拙作『うぉっち・ざ・ぼっち!』はいわゆる未確認ライオット編までで一区切り付けます。これはだいぶ前から決めてました。
もちろんその先で登場するキャラとの絡みは書きたいんですが、原作様が連載中ですからね。とにかく一度完結させる予定です。

さて、とりあえず久々に謝辞を。
まずはお気に入りや高評価、感想、ここすき、誤字報告等々いつもながらありがとうございます。最後までぜひともお願いいたします。

そしてマシュマロ、ディスコードでの三次創作活動。部員の皆様におかれましては本当にしぶといです。特にSSは600件以上ありますがいまだに少しずつご提出いただいております。ヤバいです。最近はカラオケがブームです。バンド漫画の原作らしいと言えばらしいですね。ちなみに設立から半年経ってます。

ということで作者のX(トゥイッター)のURLも久々に置いときます。
→ https://twitter.com/SAVAnoSugerNi
固定エックセズにディスコードの招待URLも置いてあるので興味のある人は入ってみてね。コワクナイヨ。美術部の人たちのFAもいっぱいアルヨ。

最後に次回の更新についてですが、番外編です。早く書けるかもしれないし書けないかもしれない。
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