先週の金曜にも更新してるから読み飛ばし注意。
「はい! 喜多は次こそカフェに行きたいです!」
「私音楽好きなら絶対外せない穴場知ってるけど」
「はい! 喜多はそこに行きたいです!」
それでいいのか喜多郁代シーズン2。
……いやまぁいいんだろうね。2期があるってことは人気ってことだからね。
そんなわけで虹夏先輩と喜多さんと俺、あとファッションクリーチャーは再びリョウ先輩に先導されて下北沢の街を歩いた。
そして到着したのが……。
「ここ。ハードオプ」
「ふざけてんですか!!!」
新シリーズこれじゃよくなかったよ喜多郁代。
2期でコケたか……。
……いやでも、俺も正直よくわからんかった。
音楽好きが嬉しい穴場って言ったら老舗のレコードショップとかかと思うじゃん。これチェーン店じゃん。……まぁビレバンもそうだったけどさ。
――と、しかし。
ともかく店の中に入り、ほんのしばらくのことで喜多さん共々思い知らされる。
異端は、我々の方であると。
「嘘、リョウ見て!? スピードコブラがこんな値段で……!!」
「あっあっあっ、たっ高くて全然手が出せなかったあのエフェクターがこんなに安く……!? こっここで買えば、買えば……うへっ、うへへっ、うへへへへへへへへ」
「――そうッ! このハードオプには現行品から生産終了した中古楽器や機材までッ、稀に本当は値の張るような物が激安で売られていることがあるのだッッッ!!!」
「こ……このエフェクター全部買ったら……前みたいに
「
「キックペダル――
「
「あの、ちょっと全然付いていけないので此崎くんと一緒にカフェ行ってていいですか?」
「
「なんだ今の」
♪ ♪ ♪
――というような流れで俺と喜多さんは音楽バカ三人とは別行動、喜多さんのご要望でとあるカフェに二人きりで入ることになったのである。
まぁね、びっくりするよね。ほんの一瞬気を抜いていただけでいつの間にか喜多さんと二人きりでカフェに行くことになってるんだから人生って怖い。一寸先はカフェだ。
「――あとさ、なんでカップル限定のスイーツ狙いなんだよ。みんなで行きたかったカフェじゃなかったのかよ」
ラブラブカップルとしての擬態を完遂した後、ニコニコと満面の笑みを浮かべている喜多さんに対して俺は呆れをたっぷりに含んで言う。
するとしかし、喜多さんはまるで悪びれた様子もなく答えるのだった。
「それは別のところよ? ここはリョウ先輩と来たいなーって思ってたんだけど、せっかく二人きりのタイミングだし此崎くんでもいいかなって!」
「さようで……」
この溢れ出る妥協感よ。そりゃまぁリョウ先輩と比べれば妥協も妥協だろうさ。
カップル限定って言っても今のご時世男女である必要はないだろうし、リョウ先輩ならパフェ奢るよって言えば二つ返事で彼氏にでも彼女にでもなってくれるに決まってるから、喜多さんじゃなくても賢い選択だ。出費を考慮しなければ。
「……それにしても、此崎くんと二人きりって結構久々かもしれないわね」
ふと、喜多さんがそんなことを言った。
……確かに、と思ったのだが、一瞬言葉に詰まってしまう。
「って、なんか前にも言ったことあるような……?」
「あぁうん、俺もなんとなくデジャヴ感じてたわ」
そう、デジャヴ。同じようなセリフを言ったか聞いたか、とにかく喜多さんと二人きりで話をするような機会があったように思うのだ。
「喜多さんと二人……ってことはあの三人と別行動……あ、江ノ島の時か?」
「あ、そうそうそれだわ! 展望台!」
「うわそうだわ、懐かしっ」
懐かしい、クソ懐かしいわ。でもまだ一年は経ってないんだよな……長いんだか短いんだかわからんが、とりあえず濃かったのは間違いない。
喜多さんが「確か夏休みの最終日だったわよねー……」と言いながらぺたぺたすいすいとスマホを弄り始める。
「あった写真! ほら!」
「うわぁ、めっちゃ二人だけで映っとる……」
「なんでちょっと嫌そうなの! 傷つくわ!」
見せられたカメラロールの中には俺と喜多さんのツーショットが大量。思わずげんなりしてしまった。だってこれで結構散々な目に逢ったし……。
微妙な顔をやめない俺を見て、喜多さんは「もうっ!」と頬を膨らませてぷんすか怒ってみせる。
あんまり機嫌損ねると怖いので俺は「悪い悪い」と軽く謝り、誤魔化しがてらに椅子の背もたれへと寄りかかって、ふぅっと息を吐いた。
「……しかしまぁ、思い返すと随分遠くまで来た気がするな。夏休みって文化祭より前じゃん……いやすげぇ当たり前なこと言っちゃったけど」
「ふふっ。……あ、笑っちゃったけど気持ちはわかるわよ? 文化祭どころか、やっと初ライブが終わった頃だものね」
喜多さんが机に頬杖を突き、窓の外に視線を送る。
遠くを見るような目。過去に思いを馳せている目だった。
「文化祭でライブして、そのあと此崎くんの企画ライブ……未確認ライオットに挑戦することにして、今はもうすぐ三次審査……一年前の自分にこんなことになるなんて言っても信じてもらえないかも」
「だな。ホントにいろいろと変わったわ。……喜多さんは特にギターの腕前の成長が半端じゃないし、絶対信じないかも」
「うん、ホントに……って、頷いちゃったら恥ずかしいわね。でもまぁ、丸一年やってきたし、ちょっとは上手になってるわよね」
「謙虚だなぁ……ギターと間違えて6弦ベース買っちゃうような子だったのにねぇ……」
「此崎くんその話はやめて。その話は私に効くわ」
喜多さんの目は据わっていた。ごめんて。
「……そうだ、変わったと言えばなんだけど」
「何?」
「私も此崎くんの呼び方変えた方がいいかしら?」
「どうした急に」
「リョウ先輩と伊地知先輩が此崎くんのこと下の名前で呼ぶようになったじゃない? 私も流れに乗った方がいいのかなって思ってたりしたんだけど、なかなか言い出すきっかけもなかったから」
うん、いやそもそもその流れに乗る必要がないと思う。だいたいあの二人だってきっかけがよくわからんし……。
「呼び捨てと“くん”付けは先輩たちと被っちゃうし、かと言って“いっくん”はひとりちゃん用だものね。……いーくん、とかどうかしら? 結構かわいいと思うんだけど」
「いやいやいや、そんなわざわざ新しいあだ名創造しなくていいから。あと基準がかわいさなのもおかしいから。あとあと“いっくん”はきくりちゃん用だから」
「――ネトラレッ!!!」
「お、お客さまァーッ!?」
「ウワーッ! ぼっちちゃんが急に爆発四散したーッ!!!」
「ぼっち、この場合はたぶん
「元々はひとりちゃんのでしょう!?」
「んなこたぁない」
「恥ずかしがることないわよ!」
「恥ずかしがってねぇわ!」
後藤パパと後藤ママが呼んだのが絶対先だから! 後藤はその真似しただけだるぉ!? はい論破ァ!
「もう、此崎くんったら……とにかく、一番良さそうなのは“いーくん”かしらね。異論はあるかしら?」
「あるわ。いっぱいあるわ。別に呼び方変えなくていいって。先輩たちが呼び方変えたのも……まぁ、別に深い意味はないだろうし」
「それはないわよ! 二人ともきっと此崎くんと距離を縮めたかったに決まってるわ! 私だって此崎くんともっと仲良くなりたい! マネージャーだけどバンド仲間、家族なんだもの! 此崎くんと家族になりたいわ!!!」
「あんまり大声で言うことじゃないなぁ! せめて“第二の”ってところは省略せずに言ってくださいませんこと!?」
「――お待たせいたしました、“最近の高校生のカップルって進んでるんですね♡ジャンボフルーツパフェ”です」
「店員さん店員さんメニューの名前大幅に変わってます全然これっぽっちも進んでませんから!!!」
「ごゆっくりどうぞー」
颯爽と現れ、颯爽と去っていった店員さんの誤解は解けない。たとえそれが誤った解であっても、既に導かれてしまったから……。
「ほら此崎くん! 写真撮るからちゃんと近寄って!」
「死ぬんだぁ……」
そして間髪入れずに死刑宣告を受け、嘆きつつも抵抗は一切無駄であると悟っている俺はテーブルの真ん中にドドンと置かれたデカいパフェに顔を寄せた。
喜多さんに合わせて両頬に手を当てる小顔ポーズをキメると、パシャパシャと情け容赦なくシャッターが切られるのであった。片手でカメラ構えてる喜多さんよりも小顔効果出ちゃうよぉ……。
「……うん、可愛く撮れたわ! イソスタにアップするからちょっと待ってね!」
「はい……」
あとでいいねしときます……と、己の運命を想って暗澹たる気持ちになっていた俺だったが、その後すぐに喜多さんの許可が降りてパフェを一口食べたらちょっと元気が出た。生クリームうまー。
「……で、なんの話してたんだっけ?」
「名前呼びの話な」
「私と此崎くんが真の家族になるための話ね!」
「違う、そうじゃない」
思わずえんじ色のスーツに着替えてグラサンかけて自分の身を搔き抱くようなポーズ取りそうになっちゃったよ。
「……いやマジで、喜多さんがどうしてもって言うなら、すげー嫌だけどなんとでも、最悪”いーくん”とでも好きに呼べばいい……が」
「が?」
「その場合俺も喜多さんのことを今後“郁代ちゃん”って呼ばないとフェアじゃないよな」
「嫌よ!!!」
「恥ずかしがるなよ郁代ちゃん」
「本当に嫌!!! 私が悪かったわ!!!」
肉を切らんとするならば、骨を断たれる覚悟を持たねばならぬ。戦いとは一筋縄ではいかぬものよ……
「……っつーかさ、虹夏先輩のことずっと伊地知先輩って呼んでるじゃん喜多さん。呼び方変えるならまずそっちが先だろ」
「……それもそうね! でも、改まって言い出すのは変に恥ずかしい気がするわ……」
「俺はどうなんだよ」
「此崎くんは此崎くんだから気にならないわね!」
「どういう意味やねん……」
やだ、私の扱い雑すぎ……?
……しかし最近俺も喜多さんのことを大概雑に扱ってる節があるので何も言えない。肉を切ってるから骨を断たれてもしょうがないよね。
……まぁ、ともあれ、だ。
「別に変えなくてもいいだろ、呼び方なんてさ。虹夏先輩は気にしてないだろうし、無理に切り出すこともないんじゃないか」
「…………」
「……喜多さん?」
なんとなく視線逸らしながら言った言葉に返事がなかったので、俺は気になってしまって結局喜多さんに目を向ける。
すると喜多さんは、妙に不思議そうな表情で俺のことを見つめているのだった。
「此崎くんは……先輩たちに名前で呼ばれるの、嫌だったのかしら?」
「は? いやそんなことは……そりゃまぁ、違和感あったり、気恥ずかしかったりはしたけど。……なんで?」
「んー、なんだか嫌そうに見えたから……名前じゃなかったら、何が嫌なのかしら」
「……い、嫌がってる前提なのか? だから俺は、別に何も……」
と、言いかけたところで、喜多さんはより強い視線をまっすぐ俺に向けてきた。
「嫌なことがあるなら、嫌だってはっきり言ってほしいわ。……私自身、どうしても空気読んじゃって周りに流されがちだから、偉そうには言えないけど。でも、先輩たちだって、きっとそうだと思うの」
「……そりゃあ、まぁ……」
喜多さんの言うことは、わかる。わかっているつもりだ。
嘘も、決して吐いていない。
虹夏先輩とリョウ先輩に名前で呼ばれるのは、むず痒いけど、本当の本当に嫌なわけではないのだ。むず痒いけど。
でも、それでも喜多さんの目には、俺が何かを嫌がっているように見えるらしい。
気のせいだ、の一点張りで済ませてしまうこともできる……が、自分自身のことも上手く誤魔化せないんじゃ、喜多さんだって誤魔化されてはくれないだろう。
喉に刺さった小骨、乾燥した指先のささくれ。
あえてたとえるならそれくらいの、小さな引っ掛かりが俺の中には確かにあった。
「……俺は……」
「うん」
「……逆に、今さら先輩たちに名前呼びやめられたら、俺はその方が嫌だと思う。なんか気に障るようなことしちゃったのかって不安になるし、どんな理由でも距離を取られるみたいなのは……寂しいし。だから、名前で呼ばれることが嫌なわけじゃない。俺が嫌なのは……」
「……
知らずのうちに俯いていた俺は、喜多さんの言葉に思わずハッと顔を上げる。
それから一瞬、沈黙したまま見つめ合って……俺は、鼻で笑った。
「うん、やっぱ勘違いだわ。嫌なことなんて何もない。俺が『みんなが変わっちゃうなんて嫌だよぉ』とかそんな健気なこと言うと思うか?」
「……言わなくもなさそうだと思うけど?」
「…………」
そうだった俺って意外と健気なんだった……。
「……いや待った、なし、今のなし。マジで嫌とかじゃないからマジで」
「じゃあ、怖いのかしら?」
「…………」
おーん(泣)
ぼくの弱くて柔らかいところにグサグサ刺さってるよぉ……。
「……あ、ごめんなさい此崎くん、別にいじめるつもりはなかったの」
「いじめだもん……いじめられた側がそう思ったらいじめだもん……」
俺は机に突っ伏していじける。情けないなどと言ってくれるな、もう取り返しが付かないくらい情けないのでこのくらいは誤差だ。
「……本当にさ、嫌、っていうのは違うんだよ。それじゃまるで俺が後藤や喜多さんの気持ち否定してるみたいじゃんか……そうじゃないんだよ……」
「私と、ひとりちゃん?」
「うん……」
「……あっ、もしかして此崎くん、この前お泊りしたとき寝たふりしてた?」
「……あっ」
あっあっあっ。
「――殺すなら殺せっ!」
「殺さないわよ!? ……えっと、あの時の話……全部聞いてたのかしら?」
「……すんません」
「わぁ……わ、私、変なこと言ってなかったわよね……?」
喜多さんの言う
変なことなんて言ってなかった……と、思う。
あれは確かMVが完成してしばらく、二月の末頃のことだったはずだから、三ヶ月は前のことだ。これまた早い……というのは置いといて、とにかく俺だって話の内容全部覚えてるわけじゃないのだ。
それに、そもそも……。
「……言い訳をさせてほしい」
「聞きましょう」
「後藤がうるさかったから目が覚めちゃったんです、あと喜多さんも結構うるさかった」
「……しょうがないわね!」
勝訴、勝訴です! 無罪放免! 今度記念に「勝訴」って書いたでっかい紙を作ろうそうしよう。
……いや実際、人が気を遣ってさっさと寝たってのに、喋っているくらいならまだしも後藤とか普通に叫び声上げてたからな。そりゃ起きるだろ。
まぁその後こっそり聞き耳を立てていたのは、もちろん俺にも非があると思ってる……わざわざ言わなかったのも、そういう疚しさを自覚していたからだ。
でも、とにかく。
「喜多さんと後藤が、自分を変えたくてバンドやってるってのに……俺がそれを否定するようなこと、言えないだろ。というか、言うつもりもない。これは俺の問題だから、喜多さんたちに言ったってしょうがない」
そうだ、確かに俺は
今の今までは漠然としていたけど、喜多さんに容赦なく指摘されて、不本意ながらしっくりきたような気がしている。
先輩たちが、俺を名前で呼ぶようになったこと。
それはきっと、俺がよっぽど自惚れているのでなければ、ポジティブな意味を含んでいるのだと思う。
けれど、結束バンドや俺自身のこれからを考えたときに、俺はそれを歓迎できない。
歓迎できないが、だからと言ってみんなに何かを求めたいわけではない。むしろ、彼女たちが一切の心を配ることを望まない。
俺は、誰の枷にもなりたくないのだ。
「……此崎くん」
「喜多さん……頼むから、なんにも気にしないでくれよ。俺のことは、気にしないで――」
「――いいえ、気にするわよ。気にするに決まってるじゃない!」
喜多さんはしかし、俺の言葉を遮って力強くそう言った。
……そりゃそうなるか、と、続きを聞くまでもなく勝手に納得してしまった。
喜多さんなら、そりゃあそう言うだろうと。
「此崎くんは、自分の家族が悩み事を抱えてるのに『気にしないで』って言われて『はいわかりました気にしません』なんて言う?」
「……言わないです」
「じゃあ、私やひとりちゃん、先輩たちがそんなこと言うような薄情者だと思う?」
「……思わないです」
「そういうことよ! 此崎くんの……おばか!」
「……そういうことですよね」
……だからこそ、でもあるんですけど……まぁ、言っても平行線だ。おばかという誹りは甘んじて受け入れるしかない。
はぁ、とため息を吐いて、俺は再びテーブルの上に倒れ込む。
左腕を枕にして突っ伏して、すっかり忘れ去られた大きなパフェだけは避けるように右腕をテーブルの上に投げ出す。
わかりきったようなことをわざわざ言わせてしまって、喜多さんに対して変に申し訳ない気分だ。
こんな感情は隠し通すつもりでいたのに、おぼろげな自覚をしてから一ヶ月も経たずにこうして暴かれてしまうなんて……いやでもこれって暴いた側にも責任ありませんか? ありませんかそうですか。
……それから、不意に。
無造作に放り出していた俺の右手に、暖かい何かが覆いかぶさった。
顔を上げて見てみれば、喜多さんが俺の手の甲に自分の掌をそっと重ねていたのだった。
「……な、何?」
「……私が今ここにいるのは、此崎くんのおかげよ。此崎くんのせい、とも言えるわね」
「お、おう……」
カフェに連行したのは喜多さんだけど……なんてとぼけてみようかと思ったが、喜多さんの真剣な表情を見て、やめた。
意味は、わかる。
「もし、此崎くんがいなくっても、ひとりちゃんが私を見つけてくれて、諦めないでくれたかも。先輩たちだって許してくれたし、私は結局結束バンドに戻ってきていたかもしれないわね」
「……まぁ、そうかもな」
「でも、今ここにいる私は、此崎くんがここまで連れてきたのよ? 最後まで責任取ってほしいわ」
「おま……い、言い方ぁ……」
「わざとよ、もちろん」
思わず引こうとした俺の手が、強い力で引き止められる。
握られているのが手の甲側からでよかった。喜多さんの掌が熱くって、俺は手の内にじわりと汗をかいてしまっていたから。
でもね、と、喜多さんは言う。
「私も。責任取るわ」
「……あっはい。え?」
「此崎くんをここまで連れてきちゃった責任。私も、取るつもり」
だから、と、喜多さんはさらに続けた。
「怖がらないで。置いていかないわ。いろんなことが変わっていくだろうけれど、此崎くんだけを置いていったりしない。責任を取ってもらうために。責任を取るために」
「…………」
「……こうやって言葉にしても、まだ不安?」
「……いや……」
そこまで言われて首を横に振るほど、俺は……。
……喜多さんの問いかけに答えようと言葉を選んでいるうちに、彼女がパッと俺の手を離した。
返事が遅すぎて呆れられたかと思ったが、見遣った喜多さんの表情はにこやかで……いや、表情がどうこう以前に……。
「……喜多さん、そのスプーンは……?」
「はい、あーん!」
「いやでも、あの……」
「ほら、いいから!」
目の前に突き付けられた、一口分のパフェ。
……そして、結局。
「……いただきます」
俺はそれを大人しく受け入れて、遅れた返事の代わりにしてもらったのだった。
「ஜியோன் ஷோஷாவின் மணியின் ஒலி எல்லாவற்றின் நிலையற்ற தன்மையையும் எதிரொலிக்கிறது. சாரா மரத்தின் பூக்களின் நிறம் செழிப்பு மற்றும் தோல்வியின் கொள்கையை வெளிப்படுத்துகிறது. எவராலும் அதை வாங்க முடியாமல் நீண்ட நாட்களாகவில்லை, அது ஒரு வசந்த இரவில் ஒரு கனவு போல் இருக்கிறது. கொடூரமான மனிதர்கள் கூட இறுதியில் விழுவதில்லை; அவர்கள் காற்றுக்கு முன் தூசி போன்றவர்கள்.」
「ぼっち、母国語でてるよ」
「怖い怖い怖いから! お願いだから日本語で喋って!! 本当に怖いから!!!」
ちなみに、ふと窓の外を見たらちょうど結束バンドの三人がいて、俺が喜多さんにパフェを食べさせてもらってるシーンをばっちり目撃されていた。
♪ ♪ ♪
すっかり忘れかけていたが、今日はみんなで下北を巡って失いかけていた青春を取り戻すのが目的なのであった。
「喜多ちゃん、今日は満足しましたか?」
「はい! これでまた明日から生きていけます!」
「衣久も郁代と二人きりのデート楽しんだから明日から頑張れるね」
「明日たぶんクラスメイトたちに殺されると思うので頑張るのはあの世でのことになると思われますが頑張ります」
下北沢の駅前に到着して、そのまま解散するような流れに。
喜多さんが今日の下北散策で無事に青春を取り戻し、イソスタもたくさん更新できて満足できたみたいなのでさもありなん。まぁ俺はそのイソスタに映り込んでしまったがために代償として明日命を失うことになるわけだが、来世で頑張ろうと思う。
「あっこっ此崎くん、くっクレープ、クレープ、あーん……」
あとあんま関係ないけど後藤がすげー邪魔。
カフェ出た後にみんなでちょっとした有名店のクレープを買ったのだが、未だに食べかけのクレープを俺に与えようとしてくる。はよ食えや自分で。もう電車乗るんだから。そうじゃなければ隣で口開けて待ってるリョウ先輩にあげなさいな。
無駄なパワーを発揮して人の顔面にクレープを押し付けようとしてくる後藤を手で押しのけて、なんとかリョウ先輩の方に誘導しようと格闘しながら……俺は、ちらりと喜多さんへ視線を送った。
「……喜多ちゃんどうかした?」
「……いえ、なんでもないです!」
虹夏先輩は、偶然よそ見でもしていたのか、目の前にいたのに気が付かなかったらしい。
後藤とリョウ先輩は、クレープの行方に必死でもちろん気が付いていないようだった。
喜多さんが俺だけに向けた、流し目と微笑。
脳裏に焼き付いてしまったその表情が、俺の心臓を煩くしていた。
次回! いよいよライブ審査!
……の前に番外編を挟みます! 見てくらはい!