これが番外編扱いなのちょっと謎かもしれないけど都合です。
それは、結束バンドが未確認ライオットの二次審査、ネット投票を無事にパスしてすぐのことであった。
「……ん?」
夜、バイトから自分の家に帰り着き、シャワーを浴びてからリビングに戻ると机に放り出してあったスマホにロインの通知が入っていた。
誰からのメッセージだろうか、と、スマホを手に取ってロック画面を見てみる。
「ヨヨヨーヨ・ヨーヨヨちゃんか……」
ヨヨヨーヨ・ヨーヨヨちゃんであった。通知に『ヨヨヨーヨ・ヨーヨヨちゃん』って表示されてるから間違いなくヨヨヨーヨ・ヨーヨヨちゃんである。
肝心の内容だが、要約すると『結束バンドとシデロスのネット審査通過記念としてシクハックのライブを一緒に観よう』といった感じである。
要約しないと『なぜ結束バンドの審査通過を自分が祝うのか』、『お祝いがなぜシクハックのライブを観に行くことなのか』、『なぜ結束バンドの他のメンバーを誘っていないのか』、『なぜシデロスの他のメンバーも誘っていないのか』、『べ、別にあんたと二人きりがいいとかそーゆーのじゃないからね!?』といった内容だけで数千文字になり、今回の話が終わってしまう。今回の話って何?
「……ま、ともあれ断る理由ないな。ちょうどバイトも休みだし」
それに、ネット投票審査が終わったということは、すぐに次のライブ審査がやってくる。
結束バンドのみんなはおそらく練習時間を増やしていくことになり、それに伴って俺はシフトの穴埋めやら練習のサポートで暇が無くなっていくだろうし、たとえ身体が空いていても自分だけ息抜きに行こうとは思えないだろう。
そして、ヨヨヨーヨ・ヨーヨヨちゃんと遊ぶ、という点に限って言っても、彼女率いるシデロスが同じくライブ審査を控えていることになるわけだから、暇が無くなるのは相手も同様。
……よくよく考えてみたら、断る理由がないどころかこの機会を逃す手がない。
ということで、俺はさっそくヨヨヨーヨ・ヨーヨヨちゃんにロインを返すのだった。
『いくいくー!』
『急に何? 気持ち悪い』
『泣きました』
ここで豆知識。
ヨヨヨーヨ・ヨーヨヨちゃんは、ロインだと時々言葉のキレ味がエグい。
♪ ♪ ♪
「――きくりちゃん志麻さんイライザさんちわー、お疲れ様です〜」
「姐さん! 今日もライブ最高でした!」
「あっ、いっくんと大槻ちゃんじゃ〜〜〜〜〜ん!!! 今日は来てくれてありがとぉ〜〜〜〜〜〜おぇ〜〜〜〜」
「廣井ー、吐いたら殺すぞー……此崎とヨヨコもお疲れ。相変わらず最前列だったな。よくやるよまったく……」
「きくりがげろげろげろっぴすると一番危ないですもんネー。今日はヘーキでしたケドー」
イライザさん、げろげろげろっぴはやめよう。サ◯リオを敵に回したくはない。
……さて、まぁご覧の通りライブ後である。銀ちゃんさんに許可をもらって、俺とヨヨヨちゃんはシクハックの楽屋に通してもらっていた。
シクハックのライブは今日も当然最高だった。
志麻さんやイライザさんは言わずもがな、いつも酔っ払ってへろへろのきくりちゃんもパフォーマンスの安定感がやはり段違い。
……いや、厳密に言うときくりちゃんのパフォーマンスは気分とアルコールの回り具合でだいぶ乱高下するのだが、その最低ラインが十分に高いのでライブとしてのクオリティを一定以上に保っているのだ。……少なくとも、最初のうちは……。
……ごめんダメだ嘘ついた。
別に全然安定はしてない。演奏は基本上手いんだけど最後の方はきくりちゃんが六割から七割に届きそうなくらいの確率で暴れてめちゃくちゃになる。これを安定してるとは言えない。安定という概念に失礼だわ。
でもまぁ、とりあえず今日については割とまともな部類だったかな。
イライザさんの言う通りきくりちゃんがゲロッピしてないし、そもそもお酒もいつもの紙パックのアレを定期的に補充してたくらいでフロアに吹きかけたりもしてなかった。ちょっと一回「いっくぅぅぅ〜〜〜ん!!!」と叫びながらフロアにダイブしてきただけだ。極めて平和だった。
「……あ、そうそう。結束バンドも審査通ったんだってな。おめでとう此崎」
「あ、はい。ありがとうございます。えっと、実は今日は、ヨヨヨちゃんと一緒にそのお祝いってことでライブ観させてもらいまして」
「私たちのライブ観るのがお祝いなんデスカ〜? なんだか照れますケド、満足してもらえましたカ?」
「もちろんです! ね、此崎! 特にあの新曲! 私はリハで聞かせてもらってましたけど……」
「あ、そうそうそれ聞きたかったんだよ〜あれいいでしょぉ〜〜三日三晩寝ずに作ったかんね〜〜」
ああ、新曲ね。もちろんめちゃくちゃ良かった。
あれはたぶんスルメだ。聞けば聞くほどハマりそうな予感がする。あとでCD売ってもらおっと。
「……で? 今日も
「……おい此崎、余計なことを」
「
「廣井黙ってろ!」
やっぱりなぁ、そうこなくっちゃなぁ!
ではここでなぞなぞ。
きくりちゃんがノリノリ、でも志麻さんが嫌がる
正解は~……。
「――ではではぁ! 本日のシクハックのライブ成功とぉ~~~……なんだっけ? あ、結束バンドとシデロス? の? なんか良かったことを祝してぇ~~~……かんぱぁ~~~~~~~~~~い!!!!!!」
「うおおおおおおおおお乾杯うおおおおおおおおおおお!!!」
「此崎! あんた居酒屋の空気だけで酔うんだからあんまり興奮しないの!!」
打ち上げでした!
それとヨヨヨちゃん、どうせ遅かれ早かれだから諦めてくれ!
「――くぁ~、旨いッ! 幸せスパイラルッ! ……いやぁ~それにしてもいっくんも打ち上げ大好き人間になってきたねぇ? お姉さん嬉しいぞ~、うんうん」
生ビールを一息でジョッキ半分を飲み干し、口元に立派な白ひげを蓄えたきくりちゃんが俺の肩に腕を回しながらそんなことを言ってくる。
確かにここ一年で打ち上げ、というよりは居酒屋という空間に慣れてきた感じがある。今じゃ居酒屋に入るだけでウキウキしちゃうね。さすがに入って数秒で酔ったりはしないよホントだよ。
結束バンドのライブが終わった後も恒例で打ち上げをやっていて、自分たちだけの時はファミレスとかに行くのだが、店長さんにおねだりして奢ってもらう時はたいてい居酒屋に連れていかれる。
そして、シクハックのライブの打ち上げは基本居酒屋で、俺の知る限り二回だけきくりちゃんが機材を破壊しすぎて素寒貧になった時にソイゼリヤに行ったくらいである。シクハックの三人は以前にも一度ソイゼで打ち上げをしたことがあるそうで、イライザさんが特に気に入ったからお金がない時は定番なんだとか。まぁ安いしおいしいしね、ソイゼ。
……はい、いやまぁソイゼの話で誤魔化そうと思ったけど、結束バンドのはともかくとして僕ってばシクハックのライブに行くといっつもその打ち上げに参加してるんですね。ヨヨヨちゃんも高確率でいる。
しかし今日は、先ほどきくりちゃんも言ってた……言おうとしてたように、結束バンドとシデロスのネット投票審査通過のお祝いも兼ねてもらっているので、俺とヨヨヨちゃんが参加しているのは正当な権利の行使である。俺とヨヨヨちゃんしかいないけど。
「ちょっときくり、あんた此崎くんにあんまりベタベタ引っ付くんじゃないわよ~」
「そうだぞ廣井」
「え~? やだぁ銀ちゃんも志麻も嫉妬~?」
「……アタシのために争わないでっ!!!」
「もしかしてイックンもう酔ってきてマスカ?」
「此崎あんたの方から離れなさいよっ!」
その他打ち上げに参加しているのは、まぁ当然シクハックの3人、きくりちゃん志麻さんイライザさんと、あとは新宿フォルトの店長である銀ちゃんさんだ。
銀ちゃんさんは俺とヨヨヨちゃんを心配してよく付いてきてくれている。志麻さんはお酒が入ってもしっかりしているが、大体いつもきくりちゃん係で手一杯なのだ。イライザさんもまぁ、割としっかりはしてるんだけどブレーキを踏んでくれるわけでもないのでね。
ちなみに席順だが、全部で6人なので3人ずつに別れて向かい合う形でお座敷の机を囲んでおり、俺がきくりちゃんとヨヨヨちゃんに挟まれ、向かい側ではイライザさんが志麻さんと銀ちゃんさんに挟まれている。
そして一番重要なのが、志麻さんがきくりちゃんの真向いであるという点。
「いっくんはなぁ~、酔っ払ったら私にもいっぱい甘えてくれるんだけどなぁ~~……あ、閃いた!」
「閃くな!!」
「ぐえーっ!?」
と、このように。
志麻さんがきくりちゃんを仕留めるために、射程圏内にいる必要があったんですね。志麻さんの手刀がきくりちゃんの頸部に閃いていた。きくりちゃんは死んでしまった。
「此崎、お前もこの前の時酔い過ぎて散々吐いてたんだから懲りて自分で拒否しろ。打ち上げ参加するなとまでは言わないから」
「でも志麻さん、たとえあとで気持ち悪くなったとしても、俺は今を楽しみたいんです。大丈夫です、後悔は後でするんで」
「面倒見ることになるこっちの身にもなれって言ってるんだが?」
「……はっはっは!」
「笑って誤魔化すな」
はっはっは!
「ところでなんですが」
「おい!」
「まぁまぁ志麻、落ち着きなさいよ。で、此崎くん何かしら?」
「あっはい、すいません銀ちゃんさん。改めてなんですけど、ネット投票でいろいろと協力してくださってありがとうございました。ビラ貼り出させてもらったりとか、シクハックのライブで告知してもらったり……」
「イックンってば水臭いデスヨ~! かわいい後輩たちのためですからそのくらいお安い御用デス! ヨヨコも結束バンド通過して喜んでたもんネ~」
「ちょ、イライザさん! べ、別に私は喜んでなんかっ!」
「いやヨヨヨちゃんがこっそり喜んでくれてるのはわかってるんで。ジャパニーズ・トラディショナル・ツンデレですよこれが」
「Oh~, Japanese Traditional Tsundere~」
お〜、イライザさんネイティブ
――やれることは、なんでも。
俺はその言葉を胸に、無礼を承知で新宿フォルト、そしてシクハックに結束バンドの宣伝に協力してもらえるようお願いをしていたのだ。
俺個人はもちろんのこと、結束バンド自体も十分に親交はあって、それだけで言えば別に無礼でも失礼でもないかもしれない。
しかし、新宿フォルトは同じく未確認ライオットに挑戦しているシデロスのシマである。
一日一票しかしてもらえない投票できないシステムなのだから、要はシデロスの票をこっちに分けてくれと言うようなもの。つまり極端な話、新宿フォルトやシクハックの優しさに付け込んで、シデロスと結束バンドのどちらかを選ばせるようなことになってしまう。
だから、そもそも遠慮しておくのが筋で、実際、元々はそうするつもりだった……が、さらにその筋を曲げてでも、やれることはなんだってやろうと決めて、動いたのだ。
……まぁ結局のところ、別にもめ事の種になるようなことはなく、ただスターリーの方でもシデロスの宣伝をする、というだけで話は付いた。
もっとも、宣伝の効果を考えればだいぶ結束バンドに有利な交換条件だったので、かなり譲歩してもらったのは間違いない。あらためて、面と向かってお礼を言いたいとずっと思っていたのだ。
「そんなにかしこまらなくていいのよ? ヨヨコたちも中間の3位から2位に上がって通過したんだからウィンウィンじゃない」
「いやでも、俺たちの分の票があれば1位だったかもしれないわけですし……」
「そんなの言ったらキリないだろ。そっちでの宣伝がなかったら2位にもなれなかったかもしれないし。そうだよなヨヨコ?」
「ま、まぁ……1位じゃなかったのは悔しいですけど、でもネット投票で2位だろうがライブ審査で何になろうが構いません……最後にこの私が1位であれば良い!」
「ラ〇ウちゃん……」
「……ラオ〇ちゃん!? それもしかして私のこと言ってる!?」
ちょっと反応遅れてておもしろいね。カタカナ三文字+ちゃん付けなんだからヨヨヨちゃんに決まってるでしょうが!
「……まぁ、でもとにかく。結束バンドが新宿の皆さんのおかげで通過できたのは、間違いないことなので。本当に、ありがとうございました」
俺はその場で正座に直って、頭を下げた。
……しかし、そこから誰も一言も発してくれないものだから不安になって顔を上げると、なんとまぁ見事にみんなニコニコと優しい笑顔で見ておられること。
……いやはずかしっ!
「――ということで今日の打ち上げ代はわたくし此崎衣久が持たせていただきます!!! さぁ皆さん好きに食べて飲んでください!!!!」
「いやいやいやいや大の大人が揃いも揃って高校生一人に飲み代奢ってもらうとかないからな!? お前やっぱりもう酔ってるだろ!!!」
「ぃやったぁぁあああ~~~~~~今日はいっくんの奢りだぁぁあ~~~~~~!!!」
「おー、きくり復活ー」
「本当に、大人以前に人としてのプライドがないわね……」
「姐さん……そんなところがロックだわ……!」
♪ ♪ ♪
「――のさき、おいこのさきぃ! 聞いてるのかおまえぇ!」
「……はぇ。あー、しまさん? なん……あー……ここどこ……?」
ふと気がつくと、見知らぬ部屋にいた。
畳敷の、ワンルーム? 壁とか襖とかが超ボロい。お化け出そう。
もう少し周りをよく見てみると、部屋には俺以外に三人。
まぁ、一人は志麻さんだ。すげー顔が赤くって、俺に向かってめちゃくちゃ話しかけてきてる。というかなんか怒ってる……説教? うん、何もわからん。
もう一人はイライザさんだ。志麻さんと、俺じゃないあともう一人と、それから壁とか見てずーっとケタケタ笑ってる。あとなんかたぶん英語喋ってる。こっちも何もわからん。
最後の一人はきくりちゃんである。部屋の隅っこに転がってる。床にはおにころの、おそらく空パックが散乱している。やっぱり何もわからん。
以上、シクハックの三名と一緒に俺はこの部屋に閉じ込められていた。
何この地獄。どうして私はここにいるのかしら?
「えーっとぉ……志麻さん?」
「なんだぁ! おまえ反省したのかぁ!? おまえなぁ、いつも廣井とベタベタしてなぁ……!」
「ここってどこですか?」
「廣井の家だっ! おまえ覚えてないのかぁっ!?」
覚えてないです。
……いやいや、俺は酔っても記憶ある系男子だったはずだろ。というかちょっと酔い覚めてきてるし。
打ち上げに行ってたのは覚えてる。それから乾杯して、新宿フォルトの皆々様に感謝を捧げたらちょっと真面目な雰囲気になっちゃって……それから、そう、きくりちゃんがどんどん呑んで、徐々に盛り上がっていって……あー……?
「……ヨヨヨちゃんが先帰るから……銀ちゃんさんが送ってった……」
そうだ。
ヨヨヨちゃんが門限がどうとかで先に帰らないといけなくなって、それを途中まで送るついでに銀ちゃんさんも帰ることになったんだ。
で、俺はまだ終電まで余裕がある……ということにして、そのまましばらくシクハックの呑みに付き合ってた。が、そこからさらに酔いが回ってきてしまい、あーこれ一人で帰れないねぇって状態になってしまったのだ。犯人はきくりちゃん。距離近すぎ罪です。
「……にしても志麻さん、銀ちゃんさんに俺のこと頼まれてませんでした? それがこんなにできあがっちゃって」
「あ? そんなのおまえが早く帰らないからいけないんだろぉ? わたしはなぁ、おまえそろそろ帰れよって何回も言ったんだ、また廣井んちで雑魚寝することになるんだからってなぁ……」
「あっはいすいません」
そういや言われてた気がする……というかあれだね、さっき見知らぬ部屋だと思ったけど俺ってばきくりちゃんちに来るの初めてじゃないよね。今日みたいに打ち上げで再起不能になって放り込まれたことが三回くらいあるね。
ちなみに俺がそんな状態の時はきくりちゃんもほぼ確実に泥酔しているので、お互いに何かの危機はない。それどころじゃないのだ。
……と、しかし、志麻さんとイライザさんまでいるというのは初めてのパターンだな。たぶん毎回俺ときくりちゃんをここまで配達はしてくれてると思うのだが、目が覚めて二人がいたことはない。
散乱しているおにころのパックを空にしたのはきくりちゃんだろうが、ちゃぶ台の上のビールやチューハイを空き缶にしたのはおそらく志麻さんとイライザさんだろう。
俺と一緒にいる以上居酒屋に居座ることはできず、しかし吞み足りないからときくりちゃんちで酒盛りすることになった……のかなぁ? イライザさんは今忙しくないらしいからわかるけど、志麻さんが付き合ってるのは珍しい……と思う。
「此崎おまえぇ……おまえなぁ、廣井となぁ……大人と子どもだけどなぁ、もっと気を付けないといけないんだぞぉ……それにうちのヨヨコのことも弄んでなぁ……」
「弄んでない弄んでない。人聞き悪すぎます」
「ヨヨコと二人きりでよくカラオケ行くんだろぉ!? 男と女がなぁ……二人きりでカラオケになぁ……ゆるさぁーん!」
「志麻さん酔い過ぎです」
キャラが崩壊してるんですけど。これ大丈夫ですか? 全国の志麻さんファンに怒られませんか? 志麻さんイケメン過ぎて厄介ファンとかめっちゃいそうだし怖いよ俺は。
あとホントにずっとイライザさんが笑ってて怖い。さっきまで壁見て笑ってたのもめちゃくちゃ怖かったけど、俺が起きて志麻さんと本格的に喋り始めてからはこっち見て延々と笑ってるのも怖い。壊れたオモチャかな?
……っつーか今何時なんだ? 外は暗いし、たぶん日付は変わってるだろうけど……この人たち眠くないの? 俺は眠いですよ?
「おまえぇ……此崎ィ……でも、おまえも苦労して……頑張ってるよなぁ……」
「おっどうした?」
流れ変わったな。
「学生のバンドのマネージャーなんて、正直大したことないと思ってたんだけどなぁ……廣井とかヨヨコとかから聞くとさぁ、いろいろやってるんだよなぁ……今回もネット審査の宣伝のために私たちに頭下げに来てさぁ……偉いなぁ……」
「は、はぁ……」
「……私たちもマネージャーとか欲しい……廣井の面倒見たり廣井がやらかした時一緒に頭下げたり廣井が練習に時間通り来るように連れてきたり廣井がファンと揉めたりしないように間に入ったり廣井が迷惑かけた後に菓子折り持って謝りに行く時一緒に付いてきてくれるマネージャーが欲しい……」
「それ欲しいのマネージャーじゃなくてきくりちゃん係では?」
「そうとも言うなぁ……」
そうとしか言わないと思うの。志麻さんの日頃の苦労が透けて見えるようだ……。
傍らのちゃぶ台に片肘を突き、ため息を吐いて顔を覆う志麻さん。
哀れとしか言いようがないその疲れ切った姿を見て、俺は、気休めにしかならないだろうが、優しい言葉をかけたくなってしまった。
「あの、志麻さん。志麻さんも、すごく頑張ってるんですね。大変だと思います。俺はきくりちゃんのこと、おもしろいから好きですけど……破天荒なところがあるから、バンドメンバーとして一緒にやっていくのは本当に苦労すると思います。本当に。だから、なんというか……結束バンドと掛け持ちでマネージャーってのは無理ですし、きくりちゃんに迷惑かけないようにって言い聞かせるのも難しいですけど、何か手伝えることがあれば手伝いますし、愚痴とかならいくらでも聞きますからね」
「…………」
「……志麻さん?」
「……おまえ、ホント良い奴だな。……廣井と一緒になってふざけてなければなぁ……」
「それはあの、すいません」
どちらかというと俺も志麻さんに苦労をかけてる側でした。こんな姿見ちゃったらさすがに罪悪感が芽生えてくるな……こんな姿見る前に自制しろって? はい。
「……おーい、志麻さーん?」
「……ん-?」
「起きてますかー?」
「……んー」
志麻さんの意識が急速に薄れつつあるようだった。というかいつの間にかイライザさんも死んでる。笑い疲れたんだろうな……どんだけ笑ってたんだあの人……。
先ほど確認し損ねた現在時刻をポケットからスマホを取り出して確認したところ、午前二時過ぎであった。そりゃ眠かろうて。
「はーい、志麻さんも今日は寝ましょうねー」
「んー……」
舟を漕ぐどころか前のめりに沈みかけてる志麻さんの肩を押して、俺が寝かされていた布団に横たわるように促す。
イライザさんも畳の上でかわいそうだが、その場で力尽きてしまった以上しょうがない。俺に成人女性一人を起こさないように動かすなどという芸当は不可能だ。あときくりちゃんは……まぁいいや。家主だし我慢してもらおう。
「……ふぅ」
さて。
「寝るか」
俺も眠いから寝る。
年上の美人の女性たちが周りで無防備に寝てるとか関係ねぇから。眠いから。
まぁ眠くなくても何にもしないけど。良識ある人間として当然ですよね。
というわけで、ぐっない。
♪ ♪ ♪
……そして翌朝。
俺より先に目を覚ました志麻さんやイライザさんが、平然と寝こけている俺の姿に気が付いて黄色い悲鳴を……などということは一切なかった。
「頭いてぇ……」
「吐きそうデス……」
「……あー……うー……」
二日酔いのゾンビが三体。人語を失った末期の奴もいる。
「……えーっと……なんか買ってきましょうか? 俺、コンビニ行ってきますよ」
「……水、しじみの味噌汁……」
「ウコンのパワープリーズ……」
「おにころ……」
迎え酒はやめなされ末期ゾンビさん。
とりあえず全員分水とみそ汁とウコンのパワー買ってくるか……。
「……あぁ~……」
「ウーン、ウーン……」
「あっ……あっあっ……おえっ」
きくりちゃんから鍵を借り受け、靴をつっかけて部屋を出る直前。
六畳一間に転がる三つの屍を見て、俺は思わず苦笑してしまう。
「四苦八苦してんなぁ」
……いや、四つや八つじゃ済んでなさそうだけど、まぁ、少なくともこれは自業自得だろう。
次回こそは……次回こそはアレじゃ……!