うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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うぉざぼ投稿一周年記念とはまったく関係のない番外編です。短めです☆


#EX7 後藤ひとりは夢を見る その4

 

 あっ、これって夢だな、と私はまた思った。

 

 それは、すぐそこにいる()()()()がやっぱりまだ小さかったから。

 それは、すぐそこにやっぱりまだ小さい私がいたから。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

『ひとりちゃんさぁ!』

『うっうん』

『ともだちできた?』

『でっできてない……』

 

 なんてひどいこと聞くんだ。

 ……と、反射的に思ったけど、たぶんこの時のいっくんに悪気はなかっただろう。

 

 黄色い帽子を被っていて、背負っているランドセルにも黄色いカバーが付いていて。

 昔住んでいたマンションから小学校までの、懐かしい通学路を歩く小さないっくんと小さな私は、たぶん小学1年生だ。

 

 いっくんがこんな残酷な質問をしてきたのは、私といっくんは小学校最初のクラス分けでいきなり別々のクラスになってしまったからだろう。

 幼稚園ではついぞ友だちができなかった私はただでさえ小学校に上がるのが不安で仕方なかったのに、唯一の頼みの綱であるいっくんと一年間離れ離れだとわかってそれはもう絶望した。その日の夜にお母さんに泣きついたし、いっくんにも散々慰められた覚えがある……うわ恥ずかしい……。

 

 そんな絶望の春先から、しばらく経った頃だろう。

 私は大方の予想を裏切ることなく無事小学校デビューに失敗して、いっくんはそれをあらためて確認してくれたわけだ。余計なお世話だよ。

 

 ……とは言え、ご覧の通りいっくんがクラスは違っても一緒に登下校してくれていたのは不幸中の幸いだった。

 朝はだいたい二人きり、帰りはいっくんのお友だちで帰る方向が一緒の子がいることが多かったかな。まぁだいたい気まずい思いをした記憶しかない。不幸では?

 

『……ひとりちゃんさぁ!』

 

 いっくんの声がいちいち大きくてびっくりする。

 夢の中の小1の声量に驚く高校2年生って……いや、考えるのやめよう。明晰夢の中でまでネガティブになって凹むの虚無すぎる。

 

 気を取り直そう。自信を取り戻そう。

 私とて、小学1年生からもう10年は生きてきたんだ。

 

 こんなちびちびいっくんの声の大きさに驚かないし、幼さゆえの容赦ない言葉だって余裕で受け流せちゃうのだ。

 

『となりのせきの子とかしゃべんないの?』

『しゃべんない……』

『いつもなにしてんの?』

『……きょうしつのうしろの本よんでる……』

『うわぁ』

 

 う、うわぁじゃない! いいでしょ教室の後ろの本ひたすら読んでても! 小学校六年間毎年二ヶ月くらいで読破してても!

 

『ひとりちゃんさぁ、どくしょはえらいけどしゃべったりあそんだりしないとともだちできねーよ?』

『うっうん……』

「あっはい……」

『やっぱさぁ、じぶんからあそぼうっていったりはなしかけたりしないとさぁ、ひとりちゃんがともだちになりたいのかなーとかわかんないよ』

『うっうん……』

「はっはい……」

 

 仰る通りです……でもそれができたら苦労は……小学1年生の頃からいっくんにこんな諭されていたのに今日までの私は……私は……。

 

 ……そう、私は結局それから小学校六年間……どころか中学三年間が終わるまで一人たりとも友だちができなかったので、いっくんのアドバイスはまったく活かされることはなかったんだよね。ごめんよ小さないっくん……。

 

『もー、ひとりちゃんはしょーがねーなー。あしたおれらやすみじかんにサッカーするけど、ひとりちゃんもやる?』

『……さ、サッカー……ボール、こわい……』

『だいじょーぶだって! ボールはともだち! こわくないよ!』

 

 なんかいっくんが生粋のサッカー少年みたいなこと言ってるけど、別にそんなことはない。習い事でやってない子にしては上手だったっぽいけど。

 

 そしてつい先ほどネタバレがあった通り私には今後十年近く友だちができないのだから、当然その後ボールさんが友だちになってくれたことは一度もない。

 

 ボールこわい……というかそもそもあんまり私のところに回ってこな……あれ、目から汗が……?

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

『ひとりちゃんさぁ!』

『うっうん』

『かん字ドリルどこまでやった?』

『え、えっと……かん字ドリルはもうおわったよ……』

『へー……やるじゃん!』

『あっありがとう……』

 

 あっありがとうございます……じゃなくて、なんだろうこれ。

 

 とりあえず、家の中だ。

 今の一軒家に引っ越す前の家の、リビングだ。

 で、小さな私と小さないっくんは、ちゃぶ台の上に……宿題を広げてる。会話の内容と、麦茶の入ったコップがたっぷり汗をかいているからたぶん夏。

 あと、漢字ドリルに『2年生』と書いてあるので、小学2年生の頃のことなんだと思う。

 

 小学校2年生の、夏休み……家で、二人で夏休みの宿題をしてる……ってことでいいのかな?

 

 私は、勉強は全然できないけど、宿題はまじめにやるタイプだった。普段の授業で出される宿題はもちろんのこと、夏休みの宿題なんかは毎日計画的にコツコツとやっていたし、今でもそれは変わらない。

 漢字ドリルみたいな、とりあえず時間をかければ終わる宿題は特に得意だった。なぜなら時間をかければ終わるから。

 けど、数学……いや、小学生だから算数か。あとは夏休みの宿題だと読書感想文とか自由研究とか、頭を使わないといけないタイプの宿題は苦手だったかな。なぜなら頭を使わないといけないから。私が得意なのは宿題じゃなくて単純作業だったね。

 

『ひとりちゃんさぁ!』

『うっうん』

『算すうのプリントできた?』

『……大きいかずのひっ算のとこ、むずかしい……』

『へー……おしえてあげよっか?』

『うん……』

『しょーがねぇなぁ!』

 

 ……だから、こんな感じで、よくいっくんに手伝ってもらってたっけ。

 今じゃテスト勉強ですら留年の危機レベルじゃなきゃ助けてくれないけど、この頃は私がお願いする前にいっくんの方から教えてくれていた。ような気がする。私が記憶を捏造してなければ。

 

『ひとりちゃんさぁ!』

『うっうん』

『しゅくだいまぁまぁおわってるしさぁ、明日みんなとあそぶ?』

『みんなって……?』

『クラスのやつら!』

『……男の子たちとあそぶの、こわい……』

『だいじょーぶだって! 女もいるから!』

『そ、そっか……』

 

 なんか”女”っていうあけすけな言い方ちょっと嫌だ……まぁでも、いっくんが本当に男の子も女の子も関係なく誰とでも遊んでるような子だったのは、幼稚園の頃からあんまり変わってないんだよね。

 

 男の子なんてこのくらいの頃、もしくは、それこそ幼稚園くらいの頃から、女の子と遊んでいたら他の子にからかわれて……みたいなことがあるんじゃないかと思う。

 というか、実際に私の目の前でそういうことがあったはずだ。ケンカの気配を感じた私はもちろんいっくんの後ろでひたすらおろおろしてたよ。へへっ!

 

 しかし結局のところ、いっくんはそういう話で誰かとケンカをするどころか、相手を論破していた。論破である。

 男の子と女の子が遊んでいることの何が悪いんですか? 何かそういうデータがあるんですか? それってあなたの感想ですよね? とか言って……はなかったけど、ただ「えっ!? あそぶのに男とか女とかかんけーなくね!? 楽しければそれでよくね!?」とか言ってた。論破かなこれ。

 

 ともあれそんな感じでいっくんの周りでは結構男女関係なく遊ぶ文化が根付いていたというか。

 逆に男とか女とかこだわってる子の方が恥ずかしい、ダサいみたいな空気があったのを遠巻きに感じていた。遠巻きにね。遠巻きに。 

 

 そして……もしかしたら、と、ふと思う。

 

 いっくんがそういうスタンスだったのは、私のため……だったのかもしれない。いや、流石に自惚れかな。ちょっとわからない。

 

 ただとにかく、あらためて思い返してみると、小学校低学年の頃はいっくんにたくさん遊びに誘ってもらっていた。

 ……いや、厳密に言えばいっくんが外でも私にかまってくれるようになった頃から、ではあるかな。幼稚園の年長さんくらいからだ。

 

 いっくんは放課後、ほとんど毎日友だちと遊びに出かけていたけど、いつも「ひとりちゃんもいっしょに行く?」と誘ってくれていた。

 

 私は生まれついてのインドア人、普通に家にいるのが好きだったのもあるから、その時の気分で半分くらいは断っていた……が、逆に言えば、もう半分はいっくんの後ろに付いていって、クラスの子たちの遊びに混ぜてもらっていたのだ。

 

 ……まぁ、それでも友だちができなかったのが私なんだけど。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

()()()さぁ!』

『うっうん……』

『明日なわとびのとっくんする? おれと二人で』

『う、うん……』

『ふつうのなわとびつなげてさぁ、木とかにまいたらできそうじゃね?』

『できそうかも……』

 

 いっくんから名前を呼び捨てにされるようになったのは、小学校3年生の時だ。

 何がきっかけだったかは私には全然わからなかったけど、他の子に対しても”くん”とか”ちゃん”とかを付けなくなったから、きっとそういう時期だっただけだと思う。

 

 そして、この頃になると、いっくんはみんなと遊ぶときに私を誘うことが少なくなっていた。というか、私の方がほとんど断るようになっていたから、いっくんが察して誘わないようにしてくれていた、って感じかな。

 

 いっくんのお友だちがいつまで経っても馴染めない私を疎んで……というようなことはなかったけど、まぁ、いい加減私の方が凹んできてたというか。

 やっぱり私のコミュ障は筋金入りで、いっくんにどれだけお膳立てしてもらっても全然自分の交友関係を広げられず、むしろお膳立てしてもらってこれなのかと自分に絶望し始めていたと言いますか……。

 

 そんな私に対していっくんは、哀れんだのか呆れたのか、それとも諦めたのかはわからないけど、みんなと馴染めないならせめてとばかりにより一層構ってくれるようになっていた。

 

 うん、そうだ。

 いっくんは、相変わらず他のお友だちと遊んでたと思うけど、私ともよく遊んだりなんだりしてくれていたのだ。

 

 だから、今目の前で繰り広げられている光景も、その一環ということだ。

 

『ひとりさぁ!』

『うっうん』

『もっとさぁ、リズムとろーぜ! あと、そんなにがんばってとばなくていいって! ちょっとでいいよちょっとで!』

『わ、わかった』

 

 この時のことは、割とよく覚えている。

 

 公園で、二つ繋げた一人用の縄跳びをジャングルジムにくくりつけ、いっくんが回して私が飛ぶ。

 

 秋の運動会でやる大縄跳び、運動神経皆無の私はクラスでの練習で引っかかりまくっていた。

 

 影が薄すぎて戦犯であることはついぞバレなかったけど、しかしそれはそれとして犯人探しの間いつも生きた心地がせずこっそりと半泣きになっていた私。

 

 2年生から引き続き3年生でも同じクラスだったいっくんはばっちりそれに気が付いていたみたいで、時折「ごめんミスった〜」とか言って濡れ衣を被ってくれたり、こうしてこっそりと特訓に付き合ってくれたりしたのだ……やだ、私の幼馴染イケメンすぎ……?

 

『……ひとりさぁ!』

『うっうん』

『うんどうしんけーなさすぎじゃね? カスじゃん!』

『ごっごめん……』

 

 前言撤回。

 

 そう言えばこの頃のいっくんは、なんか口が悪かった。マンガとかアニメの影響……かな?

 

 よく私のお母さんに嗜められてたし、いっくんママに見咎められた時にはしこたま怒られていた。

 私にバカとか言ったんだったかな……しかも「事実じゃん」とか口答えして、泣くまで怒られてたような覚えもある。確かに事実だなぁ、とか私も思って全然気にしてなかったと思うけど。

 

『おらぁひとりォ! 30回とべるまで家帰んないぞォ!』

『さ、30回なんてむりぃ……』

『むりって言うからむりなんだよォ!』

 

 ……ともあれ、こんな体たらくではあるけれど、私がなんとなく昔のいっくんに抱いていたイメージ――お兄ちゃんみたいだった、という印象は、このあたりの頃から来てるのかもしれない。

 

 引っ込み思案な私を気遣ってくれて、引っぱっていってくれて、助けてくれる。

 

 相変わらず一人も友だちができないけど、なんかもう、いっくんがいてくれるならそれでいいかな――とか、当時の私はそんなことを少し考えていた……ような気がする。

 

 

    ♪ ♪ ♪

 

 

『ひとりさぁ!』

『うっうん』

『来年はさぁ、クラスいっしょになれるといいよなー。知ってる? 5年生から6年生ってクラスがえないんだって』

『うん、知ってる……』

『ひとり、おれいないとやばいもんなー。5年生ってキャンプ行くしさぁ、いっしょじゃないとやばいよなー』

『うん、やばい……』

 

 マフラーに顔を埋めた私といっくんが、また通学路を歩いている。

 季節は冬で、小学校4年生の終わりも近い頃なのだろう。

 

 私たちが通っていた小学校は基本的に毎年クラス替えがあったが、5年生から6年生に上がるときだけはそのまま持ち上がりになる仕組みだった。

 5年生でキャンプ、学校行事では初めてのお泊まりをして、6年生になったら今度は修学旅行。

 何かとクラス単位で大きな行事をやるから、長い時間一緒に過ごした仲間たちと……とか

そんなところだろうか。

 

 まぁ学校の本当の意図は結局よくわからないけど、ただ一つわかっていたのは5年生になったってどうせ友だちができない私は、いっくんにきちんと保護してもらわないとまた2年間散々な目に遭うであろうということである。

 4年生ではクラスが別になってしまって、例に漏れずぼっちを極めていた私は、それを完璧に確信していた。

 

 一方で、いっくんもここまで来るとすっかり私のお世話をするのが当たり前、という感じになっていた。

 勉強も運動も人並みにできなくて、これといった取り柄もなく、友だちもいないままでひとりぼっちの私は、いっくんから見れば保護対象以外の何者でもなかっただろう。

 

 いっくんは、器用に自分の友だち付き合いもこなしながら、私にもたくさん構ってくれていた。

 それでもクラスが別々では限界があって、私はますますいっくんと同じクラスがいいなと思っていたし、今思い返せばいっくんの方も私のことが気になって、いろいろもどかしそうにしていたように思う。

 

『……ホントに、いっくんいないなら、キャンプとか行きたくないなぁ……』

 

 小さな私が、小さな声でぼそぼそと呟く。

 すると、小さないっくんが大きな声であっけらかんと言う。

 

『ひとりさぁ、おれがいないとホントダメだよなー』

 

 ……ひどいセリフに聞こえるかもしれないけど、他でもない小さな私が『うん』と食い気味に答えていたのでホントにダメだ。

 

 

 

 ……でも。

 

『でもさぁ、ひとりさぁ』

 

 目の前でおこなわれていたやり取りにふと既視感を覚えて、それからはっきりとこの後のことを思い出して。

 

『な、何……?』

 

 小さな私の少し前を歩いていた小さないっくんが、振り返って、私の記憶にあるままに笑ったのだ。

 

 

『別にいいよな、おれ、いなくならないし』

 

 

 ……私がダメでも、仕方ないんじゃないかな、なんて思ったり。

 

 ダメな私が本当にダメになっていたのは、どう考えたっていっくんのせいなのだから。

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

「――んはっ!」

「おい声でけぇって……」

 

 目が覚めるなり、横からいっくんの……いや、此崎くんの苦言が聞こえて、それから腕を突かれるような感触があった。

 

 口の端からよだれが垂れているのを感じつつ、私は慌ててきょろきょろと周囲を見回し、ようやくここが電車の中であることに気が付く……は、恥ずかしっ!

 

「……後藤さぁ」

「あっえっ、なっ、ななな何……?」

 

 此崎くんがジト目で私のことを睨んできた。

 私はいろんな動揺から派手にどもってしまって、顔こそ此崎くんの方に向けたものの目は泳ぎっぱなしだったと思う。

 

「……いや、まぁいいわ」

「えっあっ……はい」

 

 そして、泳がされるだけ泳がされて、結局はぐらかされてしまったのだった。

 




次回はまた本編に戻りますよー戻る戻るー

書き溜めしようかなぁとか考えてるので投稿タイミングはちょっと未定。エックスで告知したりしなかったりますわよ。

あと前書きでちらっと書いたけどうぉざぼ投稿し始めて一周年です。やったね。

そんなところです。
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