左手の指がヒリヒリ痛い、でもそれがちょっと気持ちいい
ギター練習したいから推敲の時間は取らーん!(どんっ!
ところで動く酒クズかわいかったね? 早く登場させた~い
私には幼稚園以前からの幼馴染がいる。男の子だ。羨ましいだろう。
幼馴染の名前は此崎衣久。
ざっくり一言で言ってしまえば、私みたいな陰キャコミュ障女とずっと一緒にいてくれる聖人で、同時に私を嬉々として辱める鬼である。あっ、全然一言じゃなくなっちゃった……。
此崎くんは、私とは正反対のコミュ強だ。陽キャって感じではないけれど、誰と話すのにも物怖じしなくって、たぶん人見知りって単語の存在を知らない。彼を見ていると人としてあるべき姿を間近で、強制的に再確認させられるので私はしょっちゅう消え去りたくなってる。
此崎くんは私に容赦がない。私が困っていてもあんまり助けてくれないし、時折背中は押してくれるけどだいたいその先は崖だ。そして、谷底に落ちた私を見て満足げにほほ笑むような悪魔なのである。
此崎くんはすごく飽きっぽい。私が教えようとしたギターに限らず、基本的に一か月以上何かにハマっているのを見たことがない。普段から漫画を読んだり映画を見たり、音楽を聴いたりといろいろしているので無趣味というわけではない。でも、私の知っている限り、彼が一つのものに没頭していたことは今まで一度もないんじゃないか。
此崎くんは、私ほどじゃないけれど結構やばい人だ。幼馴染じゃなかったら絶対にお近付きにはなってない……いやそもそも私今生でお近付きになった人片手で数えられるくらいだけど、とにかく人間として相性が良いわけではないと思う。
でも。
でも、それでも此崎くんは、私の大切な幼馴染なんだ。
だから、此崎くんが高校を退学になるなんて、私は絶対に嫌なのだ。
♪ ♪ ♪
「――本当に誤解なんです! 別に私たち、此崎くんになんにもひどいことなんてされてなくって! そうよね後藤さん!?」
「あっはい――うっ、でも、私此崎くんに無理やり……」
「……はぁっ!? おいちょっと待ってこのクソバカ!?」
「ちょっと後藤さん!? いっ、今はそれ言っちゃダメだから!? た、確かにすっごく強引だったけど……!」
「喜多ァ!? お前もかぁ!?」
「此崎! お前は黙っていなさい!!!」
「先生ェ……!」
此崎くんは今、人生の岐路に立っていた。
昨日、放課後に此崎くんが私と喜多さんを無理やり連れ回した件が、想定をはるかに超えるような大騒ぎになっていたのである。
まぁ生徒たちの間で噂になっている分にはまだよかったのかもしれないけど、これが先生たちの耳にまで届いてしまったのがまずかった。
結果、此崎くんは授業中にもかかわらず怖い顔をした生活指導の先生に呼び出されたらしく、同じクラスの喜多さんはそれを見て大慌て。
授業の合間の休み時間に私のところまでやって来て、一緒に誤解を解くために此崎くんのところに行こう! と誘い出し……いや此崎くんと同じくらいに強引に引っ張って行かれた――というのがここまでのあらすじだ。
勢いで連れてこられたけど、私は頑張って此崎くんを弁護するつもりだった。
此崎くんが退学になったら私は毎日一人で登下校しなくちゃいけなくなるわけで、たぶんそうなったら三日も経たずに私も学校をやめると思う。心が持ちそうもない。
……が、陰キャな私が柔道部顧問で強面な生活指導の先生を相手にしてまともに喋れるはずもなく、喜多さんからのパスを受けたものの同時に昨日ギター下手とか言われた記憶がついフラッシュバックしてしまった。
さらに喜多さんまで追い打ちをかけるようなことを呟いてしまったせいで、此崎くんは普通に泣きそうになっていた。
「ちょ、ちょっと待ってください先生! 今のは違くて、私も後藤さんも此崎くんに変なことされたわけじゃないんです! かくかくしかじかまるまるうまうまで――そうよね後藤さん!」
もう、口は閉じていよう。
私だって、首を縦に振るくらいはできる……!
――と、そんな必死の説得(喜多さん9:私1くらいの貢献)の末、生活指導の先生の誤解はなんとか解くことができた。
まぁそもそも生活指導の先生も、本気で此崎くんが私たちを手籠めにしているなんて思っていなかったようだ。喜多さんと私がちょっと早とちりしていたらしい。
……ただ、誤解されるような騒ぎを起こしたことと空き教室を勝手に使ったことは普通に怒られてしまって、私は子羊のように震えるしかなかった。
先生に怒られるのなんて、人生で初めての経験だった。
それから放課後、下駄箱で再び顔を合わせた此崎くんはものすごく疲れていそうな様子だった。
どうしたのかと思わず聞いてみれば、教室から一緒だったらしい喜多さんが苦笑いをしながら私に説明してくれた。
「此崎くん、あれから休み時間のたびにみんなから問い詰められててね? 私の方でも事情の説明はしたんだけど、それでもみんな此崎くんに物申したいって言ってて」
「……全然関係ねぇ他クラスのやつまで押し寄せてきやがった。2組の奴ならまだしも、絶対違う奴らもいたしよ……」
「たっ、大変、だったんだね……」
……というか、あれ? 此崎くんも喜多さんもそんな感じだったのに、なんで私は……あっダメだこれ以上考えると心が死ぬやつだ。
「……なぁ、ここまで喜多さんと来ておいてアレだけど、お前ら二人だけでスターリー行ってくんない?」
「此崎くん、もう諦めた方がいいと思うわよ? どうせこれからも一緒に行動することは多くなるでしょうし」
「……はぁ……」
此崎くんに顔を見られて、それからため息を吐かれた。ひどい。
「……あっあの、ところで喜多さんが背負ってるそれって……」
「あ、うん。その……多弦ベース」
昨日喜多さんがロインに上げていた写真の奴……リョウさんが容赦なく現実を突きつけてしばらく喜多さんの既読が付かなくなった曰くつきの代物だ。
少しして復活した喜多さんはローンを組んで買ったのにどうしようどうしようと言っていたんだけど、リョウさんがすぐに「だったら買い取りたい」と返していた。結局ローンの残りの額を負担することで多弦ベースはリョウさんに引き取ってもらい、ついでに喜多さんはリョウさんが持っているギターを貸してもらう……みたいな感じで話がまとまっていたと思う。
「後藤さん、今日からギターの先生、お願いね?」
「……あっ、あっはい。こ、こちらこそ……」
そう、今日この後スターリーに行くのはバイトのためではない。スターリーのスタジオを借りて、喜多さんと一緒にギターの練習をするためなのだ。
今日はライブの予定が入っておらず、バイトはもともとお休みだった。
でも、昨晩のロインで喜多さんとリョウさんのギター&ベース交換会が決定したこともあって、だったらみんな今日の放課後にスターリーで集まって練習をしよう、ということになってしまったのである。
正直今日は家でゆっくり休みたかったんだけど、今朝起きた時点で喜多さんから「明日はよろしくね」というような個人チャットがあったし、此崎くんもわざわざ家まで迎えに来て私にギターを持ってこさせる気満々だったから全然逃げ道がなかった。
……そして、逃げ道のない私は他愛のない雑談をする喜多さんと此崎くんのちょっと後ろをとぼとぼ歩いて学校から駅へと向かう。
たまにお情けで話を振ってもらってクソみたいな返答をするだけの時間。つらい……。
「――そう言えば此崎くん、今日練習だけなのにスターリー来るのかしら? 何かやることあるの?」
「ん? いや、特にないが……まぁ家帰っても暇だしな。あと、後藤のことよろしくって言われちゃってるし」
「え、誰に……?」
「後藤パパと後藤ママ。一人にしたら危ないからってな」
「……えっ」
お、お父さんとお母さん、いつの間に……!?
や、確かに私一人で家に帰るのはちょっと、いやかなり心細い。特にスターリーから駅までが怖い。夜の下北怖い。死ぬ。死んでしまう……。
しかし……ふ、複雑だ。同い年の幼馴染にお守りされてる私……
「喜多さんに言ったか忘れたけど、俺ら家遠いから。スターリー九時過ぎに出たら家着くの日付変わる直前とかなのよ」
「えっ、そうなの!? それは確かに女の子一人じゃ不安よね」
……あっ、そうだった私女子高生だった……そうだよね、世間的にも女子高生が一人で夜道を歩いてたら危ないよね……。
「すごいわね、二人とも。ほぼ毎日そんな感じってことなんでしょう?」
「この前のライブの時からだからまだ半月もやってないけどな。後藤とか一週間風邪ひいてたし」
「うっ……そ、その件は、反省してましゅ……」
此崎くんからゴミを見るような目で見られるのも、逆に虹夏ちゃんから純粋に心配されるのも、どちらも本当につらかった。バイトと同じくらい。
……だったらスターリーに迷惑かけないように私だってバイトを選ぶ。いやまぁバイトでもお客さんと目ぇ合わせられないし非力だし手際悪いし存在してるだけで迷惑みたいなとこあるけど……あれぇー……なーんか死にたくなってきたぁー……。
「それにしても、此崎くんと後藤さんって本当に家族ぐるみの関係なのね? 娘をよろしくだなんて……!」
「……一応言っとくが、別に変な意味じゃないからな?」
「えー? 本当かしらぁ……?」
喜多さん、目が輝いてる……虹夏ちゃんも最初はこんな感じの反応だったなぁ。
……けど、実際に此崎くんが私をどう思っているのかなんて、私に対する扱いを見ればわかっていくだろう。
此崎くん、これでも喜多さんの前ではちょっとだけ自重してる感じがするんだけど……コミュ強な此崎くんのことだから喜多さん相手にもすぐ遠慮がなくなって、たぶん結果的に私への扱いもいつものやつになってくると思う。……あれ? それってすっごく理不尽じゃない?
此崎くんと喜多さんの後姿を見ながら、二人ともあんまり仲良くならないでくれないかな、なんてことを私は思った。
別に、変な意味ではない。
♪ ♪ ♪
「――ねぇ後藤さん?」
「……あっはい!? なっなんでしょうか!?」
「ふふっ、普通に話しかけただけよ? 後藤さんって面白いわね」
おもしろがられた……。
ふと時計を見てみると、喜多さんと二人きりでのギター練習を始めて早くも一時間が経過していた。
喜多さんが今どのくらいギターを弾けるのかとか、どんなところでつまずいてるのかとかいろいろと確認するところから始めて、それから私は自分がギターを弾き始めた頃を思い出し、このくらいの段階ならまずは……といくつもある基礎練習からピックアップして一緒に挑戦している最中だった。
私にしてみればあっという間だったけれど、ギター初心者の喜多さんにはちょっと長かったかもしれない。喜多さんが話しかけてきたのも、休憩したかったからかも……。
「すっすみません、喜多さん疲れましたよね……すみません気が利かなくて……」
「あっううん! それは全然大丈夫! ちょっと指痛くなってきたけど……そうじゃなくてね、後藤さんといろいろお話したいなって。ダメ?」
「あっあっ、だっ、ダメじゃない、です……」
喜多さんとお話……この前は喜多さんも落ち込み気味だったからまだなんとかなったけど、普通に元気になった喜多さんと……うっ、胃が痛くなってきた……やっぱりダメかも……。
「ふふっ、よかった! ねぇ後藤さん、後藤さんの方は此崎くんのことどう思ってるのかしら?」
「え˝っ˝!?」
い、いきなりそんな話題ッ!? あっでも共通の知り合いの話は定番だって昔読んだ『猿でもわかるコミュニケーション』って本に書いてあったしでもでもいきなり
あー、うー、と言葉に詰まれば詰まるほど、喜多さんが「やっぱり……!」みたいな感じで目を輝かせてじりじり近付いてくる。いいのか? そんなに追い詰めて……私はいつでも自爆できるんだぞ……?
……くっ、これ……ちゃんと答えなくちゃ……ダメか……!?
「……あっあの、私は……私と此崎くんは、お、幼馴染、です。そっそれ以上でもそれ以下でもない、といいますか……あっいやそれ以下ではあるかも」
「え?」
何言ってるの? みたいな顔を喜多さんがしたけど、これは誤魔化したくて言っているわけではない。れっきとした事実なのだ。
此崎くんは、私のことを珍獣か何かだと思っている節がある。生態がおもしろい新種の生物だと思って、私を観察することを楽しんでるんだ。
でも、初めて会った頃からこうではなかった。もっとこう……引っ込み思案な私の手を引いてくれる、お兄ちゃんみたいだったはずだ。
それが変わったのは、確か、此崎くんが私のことを「後藤」って呼ぶようになった頃だったと思う。小学校の五年生か六年生。そのくらいだ。
此崎くんはその頃から、私の前に立って私を引っ張っていくのではなく、私を後ろから見守りながら時々私を後押しするようなスタンスを取るようになった。段々と私が困っている時も助けてくれなくなって、自分でやれとか、自分でできないならしょうがないとか、少しずつ態度が素っ気なくなっていったのだ。
当時の私は困惑したし、愛想をつかされたのだと思って泣いた。私にとって此崎くんは唯一の友達だったけど、此崎くんにとってはそうではない。そういうことなのだと思ってお母さんに泣きついた覚えがある。
けれど、此崎くんは私から離れて行ってしまったわけではなかった。学校への行き帰りもそれまでと変わらず一緒にしてくれたし、私が本当の本当に困っているときにはフォローしてくれたし……高校だって、私が一緒に県外に通ってほしいってそれとなく言っていたら、なんだかんだ言いつつ付いてきてくれた。
だからこそ、方向性は変わったけれど……此崎くんの態度には今でも困惑していると言えば困惑している。
「……なんだか、思ってたよりも複雑、なのね?」
「どっ、どうでしょう……?」
少なくとも、喜多さんが期待しているような(?)男女の関係ではない。というか、私がまったく女として見られてない。この前の一件然り……。
目を逸らして何とも言えない私に対し、喜多さんは苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさいね、後藤さん。ほら、この前話したときに幼稚園に入る前からの幼馴染なんだって言ってたでしょう? その時から、二人の関係ってどうなんだろうって想像膨らんじゃって……ドラマとか漫画でしか見たことなかったから、つい聞きたくなっちゃったの」
「あっいえ……その、漫画とかみたいだなって自覚は、ちょっとあるので……」
なぜってそれは、私という人間の数少ない自慢でもあるからだ。
――陽キャ? コミュ強? パリピ? 大いに結構。では聞くが、諸君には異性の幼馴染がいるのかね、と。
……いやまぁ、異性の幼馴染がいるのに色恋の「い」の字もないんじゃむしろみじめなのでは? とか言われると私に搭載された自爆スイッチを連打しなければいけなくなるけど。
「へぇー……いいなぁー幼馴染。だってリョウ先輩と伊地知先輩も幼馴染でしょう? 結束バンドの中で私だけ仲間外れだわ」
はぁ、と喜多さんがため息を吐く。うわどうしよう、ホントに喜多さん相手に幼馴染マウント取れるわけないし、慰めるのもなんか持たざる者への同情みたいで嫌味だし……!
「……あっあの、えっと、おっ幼馴染なんて結局家族……普通の家族とはちょっと違う家族みたいなもの? なので……だっ、だからその、バンドが第二の家族なら……きっ喜多さんにとっては、結束バンドが幼馴染、みたいな……?」
――わっ、わけがわからない……っ!! 自分でも自分が何言ってるのか全然理解できない……っ!!
腹でも切って誤魔化そうかな、と自暴自棄になりかけたが、ちらりと窺った喜多さんの瞳がキラキラと――キターン! と光り輝いていた。
「後藤さん……!」
「……ピギャッ」
「後藤さん!?」
光属性は私の弱点。
そこに至近距離からの不意打ちによるダメージボーナスも合わさり、私のライフは全損した。
「ご、後藤さん!? 後藤さん、後藤さぁーん!!!」
「……何やってんだお前ら?」
「あっ、此崎くん! 後藤さんが、後藤さんが息してないの!!」
「いつものことだよ」
「いつものことなの!?」
「いつものことだよ」
そうですいつものことでーす……。
♪ ♪ ♪
そして、今日も私たちは電車に揺られて家路につく。偶然空いた一番端の席に私が座って、その目の前に此崎くんがつり革を握って立っていた。
「……おまえら、結局ずっとスタジオ籠ってたよな。喜多さん大丈夫だったのか?」
「うっうん。喜多さん、やっぱり結構練習してたみたいだから……」
「ベースからギターになっても平気だったのか」
「ちゃんとギターの音がするって感動してた……」
「そうか……」
此崎くんの顔が少し引き攣っていた。まぁ、多弦ベースとギターを買い間違えるっていったいどういうこと? とは私もものすごく思うから気持ちはわかるけど……。
「にしても、四時間近く籠りっきりってのは虹夏先輩もリョウ先輩もちょっと驚いてたな。あの人たちは割とちょこちょこ休憩取ってたし……お前はまだしも、喜多さんの根性がすげぇわ」
「わ、私たちも中では時々手止めてたよ。でも、此崎くんよりは全然根性ある、かも」
「そりゃ俺に比べりゃ大抵の人類は根性あるよ」
はっ、と笑い飛ばした此崎くんに、私もちょっとだけ笑う。
本当にそうだ。此崎くんより物事を継続できない人は、なかなかいないと思う。
「……ふぁ」
ふと、あくびが漏れてしまった。
すると、此崎くんが私を見下ろしながら「昨日ちゃんと寝たのか」なんて言ってきた。
「寝たよ……でも、昨日も今日も、大変だったから……疲れた」
「寝とけば? 起こすよ」
「うん……」
家の最寄まであと……三十分くらいかな。乗り換えはもうないし、お言葉に甘えちゃおう。
私は最後にちらりと此崎くんの顔を見て、それからゆっくりと目を閉じた。
もうちょっとで評価10000なので「いっけな~い! この作品最高なのに評価忘れてた~!」っていうおっちょこちょいさんは是非評価してくれよな! 感想も待ってるんだぜ!(爽やか系承認欲求モンスター)
明日の投稿はたぶん……たぶん無理? もしかしてもしかするといけるかも? ギターの練習報告したくて投稿してるのちょっとある。