お気に入りじわ伸びしてて9000件いきそうだったけど更新で絶対減るゾ
「衣久、付き合ってあげる」
「あーはいはいそれって前と同じやつですね男女としての交際的なアレじゃなくて買い物的なアレですよね俺も前に喜多さん相手に一回やったんでわかってますよはっはっは」
「いや交際の方」
「は?」
「ジョーク」
……ちょっと十二秒くらい心肺停止したけど無事に帰ってこれた。なんかよく知らない川の中で後藤とシンクロナイズドスイミングをする夢を見たような気がしたけどたぶん気のせいだろう。
「えー……あの、付き合ってあげる、って……今回は何に……?」
「ベースの練習」
「あー」
普通だった。
「衣久がベース弾きたくてうずうずしているのはわかってる」
「はぁ、まぁ、否定はしませんが」
うん、つい先日後藤に教えてもらえることになったとは言え、確かにバイトが忙しくてなかなかまとまった時間を作れてない今日この頃である。
一日一回、5分でも10分でも触るようにはしているが、もっとがっつりベースを弾きたいのは間違いない。
「時間がないなら作ればいいじゃない、ということで今日は徹夜でベース弾きまくる。どう?」
「徹夜っすか」
「明日は私も衣久もバイト休みだし。絶好のチャンス」
「うーむ、確かに……いやでもそれ、また俺んちに泊まろうってつもりじゃ」
「いや私んち」
「あーなるほど、リョウ先輩んちかぁ」
それなら大丈夫じゃなさそうだな!
♪ ♪ ♪
「ウェルカムトゥーマイホーム」
「大丈夫じゃないって言った! 大丈夫じゃないって言ったもん!!」
大丈夫じゃないって言ったのに今山田さんちの前にいます此崎衣久くん16歳ですお久しぶりですよろしくお願いします。
いや、こんなはずでは……こんなはずではなかったのに……!
「衣久がどうしても嫌だって言うからチャンスあげたのにね」
「割とマジで女性相手に腕相撲負けたの死ぬほどショックです」
そういうことである。
俺は、リョウ先輩からの「じゃあ腕相撲しよう。衣久が勝ったら衣久の家で、私が勝ったら私の家ね」という提案を男らしく受けて立ち、まぁまぁの激戦の末に敗北を喫したのだ。
俺の男子高校生としてのプライドはズタのボロ。
まさかそこから勝負の結果を反故にするような真似までは到底できず、大人しくリョウ先輩の家まで来てしまったってわけ。山田強すぎワロタです。
「……っつーかマジでリョウ先輩の家デカいですね。マジ金持ちですやん」
「親の脛、うまし」
と、ぶいぶいVサインをするリョウ先輩。
まだ高校生なんだし脛かじってるとは言わないんじゃないかな、と思ったがわざわざ口には出さなかった。決して違和感はないからね。
しかしとにかくリョウ先輩の家すごい。結構ガチな豪邸である。
リョウ先輩のご両親はお医者さんで、しかも町医者ってレベルじゃない規模の病院を経営しているらしいから、そりゃあもうしっかり稼いでいらっしゃるわけだ。
というか……。
「今更、もしかしてもしかするんですけど、今日ってご家族の方いらっしゃいますかね」
「いるね」
「リョウ先輩ってご両親に俺の話とかしてるんすかね」
「してるね」
「どんな話してるんすかね」
「一週間家出してたときに泊まらせてもらってたとは言ったね」
「終わりですやんね」
医者の家の大切な一人娘を誑かす男……あれ、リョウ先輩って一人っ子だよな? お兄さんとかいないよな? いたとしてもなぜかいなくなってそう。なんでかな……まぁとにかく、どちらかと言えば誑かされてるのは俺の方だとは思うものの、俺が抹殺される可能性は限りなく高いだろう。
「――後藤ォ……今会いに行くからなァ……!」
「なんで急にぼっち?」
やっぱり彼岸で集合することになりそうなので。
……さて、一応覚悟も決めたところで、山田さんちにお邪魔しよう。
こんな豪邸に上がるのは初めてだから、この世から消されそうな点を考慮しなければちょっとワクワクしないでもない。
金持ちの家の犬とか金持ちの家の猫とか、あとは金持ちの家のでっけぇ木彫りの熊とかいるかな。楽しみだな。
「お邪魔しま――」
「ぐぎゃあああああああああああああああああほんとに男おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうおうおうおうおうおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ようこそいらっしゃ〜い!」
玄関を開けると、そこには天国と地獄が広がっていた。
金持ちの家の主(推定)、もとい山田お父上(推定)がまさしく地獄の責苦でも受けているかのように血涙を流しながら叫んでいて、その隣で金持ちの家の奥様、もとい山田お母上(推定)が女神のように穏やかに微笑んでいたのだ。
山田お母上(推定)がさすがはリョウ先輩の生みの親だって感じだけど、山田お父上(推定)の叫びが迫真すぎてギリ相殺できていない。つまりどちらかといえば地獄寄りの光景だった。
「えーっと、初めまして、結束バンドのマネージャーをさせていただいている此崎衣久です。今日は突然お邪魔しちゃってすいません……なんか、本当に」
しかし種類は違うものの地獄のような光景をそこそこ見慣れている俺は礼儀正しくご挨拶。あと謝罪。
リョウ先輩のご両親とは初対面……というのは、ちょっと微妙か? 一応ニアミスしてるんだよな。未確認ライオットのライブ審査の時、リョウ先輩が遅刻して車で送ってもらってたあのタイミングね。
覚えられてるかな〜とも思ったが……案の定お母さまの方から「前に一度顔は合わせたわよね〜」とのお返事。お父さまはもう人間語が話せそうにないのでわからなかった。
「リョウちゃんからたくさんお話聞いてるわ~。生意気だなんて言ってたけどとってもかわいいじゃないの~。……あ、ごめんないさいね~かわいいなんていやよねぇ~」
「いえいえ、意外とかわいげのある感じでやらせてもらってるんで」
「ふふっ、しかもユーモアもあるのね~。素敵な後輩じゃない、リョウちゃん!」
と、お母さま相手にリターン一発でそこそこ好感触な感じを醸し出した流石の俺だったが、話を振られたリョウ先輩はなんだかむすっとした顔でいた。
「……二人とも、私たちのことはほっといていいから。ほら衣久、私の部屋行くよ」
「え? あっはい、あっ、えーっと……」
「……うふふ、はいはいごめんねリョウちゃん。衣久くんも大丈夫よ、二人の邪魔はしないから……ね?」
……おいなんか変な感じじゃないか?(危機察知)
僕たちはただベースの練習をたくさんするだけですよ!?(真実)
「いやぁリョウ先輩今日俺めちゃくちゃベース弾きますよもうベース弾く以外やることないっすよねぇ!?」
「……ま、今日のところは、ね」
「えっ」
「ジョーク」
「……後藤とシンクロナイズドスイミングすることになるからやめてください……」
「何言ってるの?」
おれにもよくわからない。
まぁともあれ、そんな感じでこのあとめちゃくちゃベース練習したって話。
ちなみに後日喜多さんにこの話がバレて「リョウ先輩とはお互いにご両親に挨拶したんだわ! また一歩進んだんだわ! イヤアアアアアアアア!!!」と発狂していたし、後藤はきっちりと息を引き取っていた。
次は2年後くらいかな