ギター進捗:コードチェンジの壁
それはそれとして今回もちょっと短い。ちょっとだけ。
※11/15 23:25 時系列ガバ発見したので若干内容修正
「リョウ先輩遅いっすねぇ」
「委員会はもう終わってるだろうしね……となると、道草でも食ってるんじゃないかな?」
「あー……んん? リョウ先輩金ないんじゃ? ほら、この前喜多さんのベース買い取ったから」
「うん、だからだよ?」
「え?」
「え?」
虹夏先輩の頭がおかしくなった……と思いきや、頭がおかしかったのはリョウ先輩の方だった。
この会話のすぐ後、スターリーへとやってきたリョウ先輩は店じゃ見たこともないような謎の草を片手いっぱいに持ち、それをむしゃむしゃと頬張っていたのである。
「お待たせ」
「ほらね此崎くん。道草食べてたでしょ?」
「……腹、壊しますよ」
「織り込み済み」
織り込み済みかぁ……ならいいか(思考放棄)。
「じゃ、後藤たち呼んできますか」
「ん」
俺が椅子から立ち上がってスタジオに向かおうとすると、リョウ先輩も何故か一緒に付いてくる。立ってたついでだろうか。
それにしても、野草食ってる女引き連れて歩くのはさすがの俺も初体験だな。実績解除? トロフィー獲得? レア度は人類の上位何%だろうか。一桁台の自信あるぞ。
ともかくスタジオの前までやって来て、聞こえるかどうかわからないが一応ノックをしてから重い扉を押し開ける。
すると、何やら必死に首を横に振りながら喜多さんに迫る後藤と、ちょっとのけぞってる喜多さんの姿があった。
「何してんだ……」
「新しいライブパフォーマンス? いいねそれ」
「えっ、先輩これ好きですか!? じゃ、じゃあ私も練習を……!」
「――せんでいいそんな練習!」
喜多さんがさらっと暴走しかけたが、さらに後ろから付いてきていたらしい虹夏先輩が滑り込みで好セーブを見せてくれた。俺のツッコミの手間が省けた。
「ほらほら、リョウも来たことだしミーティングするよミーティング!」
「はーい」
「あっはい」
――ということで、またもやバイトのない日にスターリーに集まった結束バンド。本日は自主練ではなく、ミーティングが目的で集合していた。
「はい! それでは第一回結束バンドミーティングを始めます! 拍手!」
「いやこの前第一回やったじゃないっすか」
「ノンノン此崎くん! この前は仮初めの第一回! 喜多ちゃんが正式加入した完全体結束バンドでは初だから、第一回でいいの!」
「なるほど」
普通に納得してしまった。余計な口挟んですいません。
虹夏先輩はあらためて拍手を求めてきたので、俺と喜多さん、それから後藤も控えめにそれに応える。リョウ先輩は草食ってる。
「さて、じゃあ今日の議題はこちらですハイどんっ!」
虹夏先輩はスケッチブックを取り出して机に置き、ぺらっと表紙をめくった。
そこには『より一層バンドらしくなるには?』と書かれていた。
「まぁ練習第一なのはわかってるんだけどね? それだけじゃ息が詰まっちゃうかなと思って。せっかくメンバーも揃ったことだし、バンドらしいことどんどんして行こー! ってなわけ」
「な、なるほど……」
後藤がぼそっと呟いて喜多さんに視線を送る……おそらく後藤も気が付いたように、割と根を詰めて練習してる喜多さんの息抜きが虹夏先輩の目的なのだろうな。やはり、根本的に喜多さんは真面目なのだ。
「それではまずあたしから……じゃじゃーん! バンドグッズ作ってきたー!」
と、虹夏先輩がスケッチブックと入れ替えるように取り出したのは……結束バンド、であった。原義の。原義の? いや本物の。本物の? とにかくこの四人のことじゃなくてガチでコード束ねるやつ。
「それ、ただ結束バンド腕に巻いてるだけじゃ……」
「え、かわいくない? いろんな色あるよ!」
虹夏先輩は自身の左腕に巻いてみせた赤色の他、青やピンク、黄色といったカラフルな結束バンドを机の上に広げた。
「こんな色付きのあるんすね。白……あとはギリギリ黒いの見たことあるかなってくらいで」
「ネットで普通に売ってたよ? 100本で500円ちょっとだったかな」
「へぇ、100本で……は?」
ひゃっぽん? 多すぎません? 俺含めても一人頭20本? ……あいや、全部同時に装備する前提なのがおかしいか。
まぁそもそもアクセサリーじゃないし、単価が低いからまとめて売られてるんだろうな。
「……物販で一本500円で売ろう。サイン付きは650円」
「ぼ、暴利過ぎる……」
リョウ先輩の阿漕すぎる提案にさすがの後藤もツッコミを入れて、逆に喜多さんが「安い! 買います!」とか言ってマジで650円差し出してる。しかもリョウ先輩受け取ってる。商談成立しとる。
「他にバンドらしくなるアイデアある人ー?」
そして虹夏先輩はそんなやり取りをしっかりとスルーして、喜多さんもボケた直後に手を挙げるというトリッキーなプレーを見せてきた。いやボケてもなかったのもしれんが。
「もしイソスタとかやるなら私やります!」
「お、いいね! では喜多ちゃんをSNS大臣に任命しますっ」
「その時が来たら毎日更新しますね!」
SNS、イソスタねぇ……一応付き合いでインストールしてアカウントは作ったけど、週に一回見るかどうかだな……。
「あとは……ファンクラブの設立?」
「いや、それはいくらなんでも気が早すぎますって」
「此崎、考えるのはタダなんだから。年会費は一万円で、会員特典として年一回の握手会とたこ焼きパーティー……材料はファン持ちで」
「リョウ先輩腹減ってるだけでしょ……」
あと、喜多さん財布の中身見てため息を吐くな。お前もお前で金ないの知ってるし、そもそも年会費を払おうとするな。というか650円も返してもらえよ。
……どうしよう、開始数分ですでに息切れしてきたな。虹夏先輩がツッコミ放棄すると途端にすごいことになるぞこいつら。喜多さんが地味にボケ側なのがきちぃ……。
「──あ、そうだ。ボケとツッコミの配役きちんと決めておきません?」
「バンドらしくなるにはって言ったよね!? あたしたちお笑い芸人じゃないんだけど!?」
いや、割と片足突っ込んでるんじゃないか……バンド名もダジャレだし。
「後藤さんは? 何かアイデアある?」
「えっあっ」
俺がそんなことを考えている間に、ふと喜多さんから後藤へキラーパスが飛んだ。この場合、文字通り後藤が殺されるという意味でのキラーパスだ。キリングパス? まぁとにもかくにも後藤は死ぬ。
あうあう言ってる後藤の思考回路はショート寸前。何にも考えてなかったのは明らかで、今にも爆発しそうであった。
が、意外にも、その爆破シークエンスは虹夏先輩によってあっさりと中断された。
「あ、ぼっちちゃんはいいんだよ?」
「へ?」
クビかな?
……失礼、んなわけない。今日の後藤のカルマ値はまだそこまでじゃないわ。今日のは。
はてさてどういうことだろうかと思ってみれば、虹夏先輩が指を立てながら言った。
「ほら、ぼっちちゃんにはオリジナル曲の作詞っていう重要な任務があるからね! リョウが作曲してぼっちちゃんが作詞! 前のミーティングのとき決めたじゃーん!」
後藤の機能が停止し、いじっていた結束バンドが手からこぼれ落ちる。
こんなの、俺じゃなくてもわかるだろう。
あ、忘れてたなこいつ、と。
♪ ♪ ♪
それからおよそ一週間後の土曜日。
俺は後藤家のリビングにて、いつものようにふたりちゃんとジミヘンと一緒に遊んでいた。
「――ジミヘン! いっくんを倒せ~!」
「ワンワンっ!」
「はっはっは、そう簡単にこの俺を倒せ――がぁっ!?」
胡坐をかいて座っていた俺にジミヘンが飛びついてきたか思えば、喉元に嚙みついてきやがった。
勢いと体重で俺を押し倒し、完全にマウントを取ってガラ空きの弱点を的確に突いて殺しに来てる……!
「ふたり~? やめさせないといっくん死んじゃうわよ~?」
「え~? つまんなぁ~い」
「……ぅおおおおおお人間を舐めるなぁーッ!!」
「わぁーっ! いっくんすごーい!」
「ワオーンっ!」
ジミヘンを無理やり引きはがして起き上がり、抱き上げて天に掲げるとふたりちゃんがなんか喜んだ。ジミヘンも特に暴れることなくされるままである。さっきまでの殺意は何だったんだよ……。
「あー、いてて……よしジミヘン、これで貴様は俺の手下だ。さぁ、あのにっくきふたりちゃんを倒すのだ!」
「ワンっ!」
「うわぁー! ジミヘンの裏切り者ー!」
ジミヘンを地面に置くと、そのままふたりちゃんに向かって突進していく。ふたりちゃんはリビングを走って逃げ回り、ジミヘンは微妙に追いつかない程度のスピードでそれを追いかけ回していた。あいつ、ホント賢い。
はぁ、と息を吐きながら、俺はソファに腰を掛ける。
すると、ローテーブルにノートを広げた状態で床に座っていた後藤が顔を上げ、口を開いた。
「此崎くん、首から血出てるよ……」
「マジ? ……うわマジだ。あいつ演技がガチすぎるんだよ……」
さすがに流れ出るほどじゃないが、指先にちょっと血が付いた。
人間なんてちょっと小柄な柴犬にも殺されかねないんだわ。決して俺が犬以下の雑魚というわけではないはず。
なんか言い訳してるみたいで悲しくなってきたので、俺は後藤に別の話題を振ることにした。
「……で、歌詞の進捗はどうなんだ?」
「うっ、いやあの……」
「見せてみ?」
「い、いや……」
後藤はノートに身体ごと覆いかぶさる。が、腕の隙間からちょっと見えるのが文字の羅列じゃない。……サインか?
「……別にそこまで急いじゃいないかもしれないが、現実逃避はどうかと思うぞ」
「うっ、うぅ……」
まぁこの前リョウ先輩も「インスピレーションが湧いたら」とか言ってたし、こういうのってあんまり追い詰めてもしょうがないんだろうが……。
「てか、それってリョウ先輩と相談してやらなくていいのか? いやそもそも作詞と作曲って別々にできるもんなのか」
「えと、あとで擦り合わせることになる、と思う。どっちかが先にできたら、そっちに合わせて変えたり……?」
「……悪かった。お前が誰かと共同で作詞作曲したことあるわけがなかったな」
スマホを取り出して適当にググってみる。
するとまぁ、別に決まった順番があるわけではないらしい。個人の好みとか曲によってとか、あとはドラマとかの主題歌だったりするとイメージありきキーワードありきだったりらしい。どこまでホントかわからんが、全部嘘って感じでもなさそうだ。
「──ねぇねぇおねーちゃん何してるのー?」
「わっちょぉ!?」
「あっバカ! あーあーカーペットが……」
走り回ってたふたりちゃんが突然ノートをのぞき込もうとしてきて、それに慌てて後藤が身をよじった結果、麦茶の入ったコップが肘が当たって零れてしまった。
コップがテーブルの上を転がり、中身は当然ぶちまけられて下のカーペットにまで滴ってしまったのである。
「ノート……は濡れてないか。すいませんお母さん、使っていいタオルあります?」
「はいはい、今持ってくるわね~」
俺が尋ねると後藤ママからのんびりした返事が返ってくる。まぁ麦茶だから別に慌てることもないか……いやたぶんあの人ジュースとかでも慌てないと思うけど。
「後藤、部屋でやった方がいいんじゃねぇか」
「……うん」
「えぇ~! ふたりそれ見たい~!」
「ふたりちゃんダメだぞ、お姉ちゃん忙しいんだから。俺と一緒に遊ぼうな」
俺は後藤に縋りつくふたりちゃんを後ろから抱え上げて確保し、顎をクイっとやって後藤に上へ行くよう促す。
……で、それから零れた麦茶の片付けをした後。
しばらくふたりちゃんとゲームで遊んでいたのだが、上の部屋から何やらドタバタと暴れるような音と振動が聞こえてきた。
ふたりちゃんと俺の間に挟まって大人しくしていたジミヘンがしきりに気にしていたので、ふたりちゃんも次第にそわそわし始める。
「……こっそり様子見に行こうか?」
「うん。おねーちゃん、また変なことしてるのかなぁ〜」
ふたりちゃんは「やれやれ」と言わんばかりにため息をついて首を横に振る。
五歳児に呆れられる十五歳児よ……それにしてもふたりちゃん、やけに堂に入った仕草だな。テレビの真似か?
しーっ、と俺が口に指を当てるジェスチャーをすれば、ふたりちゃんも頷いてから俺の真似をして「しーっ」と言いながら指を立てた。
隠密行動という基本的な作戦を共有した俺たちはリビングを出て、そろりそろりと二階にある後藤の部屋へと向かった。ちなみにジミヘンも付いてきているが、しっかり抜き足差し足である。マジでこいつ中身人間かってレベルで空気読めるな。
そうして部屋の前まで来ると、襖の向こうから後藤の声が聞こえてくる。
若干抵抗を覚えながらも襖を少しだけ開け、ふたりちゃんとジミヘンと共に部屋の中を覗き見た。
するとそこには、サーフィン、ナイトプール、バイブス、テキーラ……後藤には一生縁のなさそうな単語をつらつら並べながら、いったいいつどこで手に入れたのかもわからんような星とハートのフレームのサングラスをかけ、謎のハイテンションで謎の動きを繰り返す後藤の姿があった。
本当に、本当に小さな声でふたりちゃんが「おねーちゃん壊れちゃった……」と呟いた。思わず涙が込み上げてきた。
少し顔を俯けた俺の肩に手が置かれる。振り返るとそこには後藤パパがいて、ふたりちゃんの後ろには後藤ママがいた。
そして再び
「――今日渋谷行く人この指と~まれっ! ここは有名なイソスタ映えスポット☆ あと10分後に花火が打ちあがるからみんなで写真撮りましょ!」
――実を言うと、後藤はもうダメです。突然こんなこと言ってごめん。でも本当です。
……と、俺が後藤にやさしい目を向けている間に後藤一家は部屋に押し入っていた。
後藤ママが知り合いの霊能力者に一度会うことを勧め、後藤パパは数珠をもって必死に手を合わせ、ふたりちゃんはジミヘンにサングラスをかけて喜んでいた。かわいいね。
後藤は「ごごご誤解!」と言っていたが、たぶん誤解じゃないと思う。
さてその後、俺と後藤一家は後藤に部屋から閉め出されてしまった。
後藤は完全に押入れに籠り、ロインで連絡を入れても既読すらつかなくなってしまったので後藤抜き俺マシの後藤一家で少し早めのお昼ご飯を食べた。ちょっと気温が高い日だったのでそうめんだった。
食べ終わった後は食器を洗うのを手伝い、あとは後藤パパと適当に喋ったりまたまたふたりちゃんと遊んだりしながらまったりと過ごしていた――が、そんな平穏は唐突に終わる。
「ん……ロインだ」
「誰からー?」
「……バンドのお姉さんたちだ。お姉ちゃんの仲間たちだな」
ロインの通知音が鳴り、確認してみると結束バンドのグループにメッセージが来ているようだった。
スマホのロックを解除して、ロインを開くと……。
「……ほう」
「どうしたの~? なになに~?」
「ごめんふたりちゃん、ちょっと待っててな。お姉ちゃんとお話ししてくるから」
「えーっ! ふたりも行きたい!」
「こーらふたり、わがまま言っちゃダメだぞ。お父さんが遊んであげるから」
「お父さんイヤ!」
俺はふたりちゃんを宥めてから立ち上がり、娘に拒絶されて死んだ後藤パパの遺体を跨いで、再び後藤の部屋へとやってきた。
特に声もかけず襖をあけて、覗き見禁止と張り紙のしてある押入れを容赦なく開け放った。
「――ひっ!?」
防虫剤の香りがふわりと漂うそこには、ピンクのジャージを着た防虫剤の妖精がいた。
俺は目線の高さにしゃがみこみ、その妖精に対して言う。
「おう後藤、逃げんなよ。わかってるな?」
「ひ、ひぃ~!」
結束バンドメンバーからの呼び出しである。
俺が仰せつかった任務は、明日、この妖精を下北沢へ導くことだ。
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
おれは前回「もうすぐ評価値10000いくから評価よろしく」と言ったが、いつのまにか評価値12000を超えていた…
な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたかわからな(以下略
要するに評価とかいろいろありがとうってことだぜ……感想とかここすきとかも引き続きよろしくなんだぜ……