悪魔女マディちゃん!   作:Buster

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第3話

 

 

混ざり者は集団を作り、一箇所に長く留まることをしない。

 

魔族の血が混じった彼らは見かけ以上の身体能力を持つ為移動速度が速く拠点を転々とし、捜索しても中々見つからず補足しても簡単に逃げられてしまう。

 

今までに捕まったのは、怪我を負ってはぐれた者や拠点を襲撃された者たちなどが大半だ。

 

彼らは人よりも優れた五感を駆使して人間との遭遇を最大限に警戒するため認知されにくく、人々の間では既に絶滅に追い込まれているとまで噂されている。

 

しかし彼らは確かに存在している。人の噂の影を渡るようにして。

 

 

 

 

魔法使いのアイデンティティは空を飛ぶことだとマディは認識している。

 

まだ幼い頃、母に読んでもらった絵本には空を自由に飛びまわる魔法使いが登場した。

 

作り話ではあるが尊敬する母に読み聞かせてもらったあの絵本はとても印象深く、魔法使いは空を飛ぶものだと漠然と思ったものだった。

 

空を飛ぶこと、それは魔法の原点だ。魔法というやつはとにかく曖昧で原理なんか存在しているかもわからない。あるいは理解が追いついていないだけかもしれないが。

 

自分の中で曇りなくできると確信したならばできるようになっている。魔法とはそういうものだ。

 

マディは空を飛ぶことができる。が、それを人が見たら自身の目的である平穏な生活とは遠ざかってしまう為機会は皆無に等しい。

 

それに対して不満を持つことはなかった。魔法使いなんて空想のなかのもので、無理に現実に持ち込んで事を荒立てることもないだろう。

 

地に足をつけて現状をなんとかすべく日々を過ごすなんて、すごく人間っぽいじゃないか。などとくだらない事を考えた。

 

 

 

 

 

……誰か来る。

 

森深くに構えた混ざり者の拠点の入口。夜も更けてきた頃、見張りの男のその敏感な聴覚が小さな足音を捉えた。

 

鋭い視線を前方に向けて警戒しているところに現れたのは、小さな人間の少女だった。

 

警戒の範囲を広げるも、少女以外はいないようだ。念のため拠点の入口に備え付けてある鈴を鳴らす。

 

少女がゆっくりとこちらに近づいてくる間に鈴の音を聞きつけたリーダーが何事かと拠点の中から出てくる。見張りの男はその姿を認めて肩の力を抜いた。

 

「こんなところに何の用だ」

 

重々しく言葉を吐き出したリーダーは小さな少女を見下ろす。少女は見るからにみすぼらしい格好で、村娘が道に迷ったのかとリーダーはアタリをつけた。

 

「特に用はないんだが……アンタ随分風変わりな格好をしてるな。それとも今はそういうのが流行ってるのか?」

 

リーダーの耳を指差しながら少女は言った。混ざり者には珍しくもない、人外の耳だ。リーダーは黄金色の耳をピクピクと動かして反応した。

 

こいつ……混ざり者を知らないのか?リーダーと呼ばれる混ざり者集団のまとめ役の筋肉質で図体のでかい男、ギグは呆気にとられた。

 

混ざり者は殆どの人に認知されているが、片田舎の子供なら知らないこともあるかもしれないな、と思い直してこの娘をどうしようかと悩んでいたところに

 

「人間!今度は何をする気だ!」

 

拠点から風のようにすっとんできたのは混ざり者集団の中でも人間に深い恨みを持つ血気盛んな青年、ラタだ。

 

ラタは勢いに乗ったまま少女に両手で剣を振り下ろした。恐ろしく速く軌道を描く剣は常人では目で追うこともできない。

 

少女は何もせずに棒立ちしている。ラタの振り下ろした剣は少女の鼻先をかすめるようにして地面に重い音をたてた。

 

ラタは剣を振り下ろしたまま表情を隠すように項垂れた。憎い人間相手ならば躊躇いなく殺す。そういう怨嗟の感情を曝け出して斬りかかったはいいもののまだ子供だという忌避感から殺すことができなかった。

 

未だに少年の面影がのぞく青年ラタはごく最近人間に捕まったところをギグ率いる亜人達に助けられた為、彼らの役に立ちたいとは思うものの戦闘経験が浅い為空回りすることが多く自身もそれを自覚していた。

 

ギグは俯いたままのラタの肩を軽く2回程叩き、先程から動かない少女と中断された会話を再開した。

 

「俺たちは事情があって人間共から隠れて生活していてな、奴らにここを知られるわけにはいかない。だから君をこのまま帰すことはできないわけだが……」

 

少女を殺せば手っ取り早いのだが、さっきのやりとりを見てギグは違和感を抱いていた。自分が殺されるという時に何のリアクションもなく、表情は堅く、何より視線はラタの振るった剣を追っていた。

斬られる範囲外であると分かっていたから避けなかったのではないか。しかしそんなことを一介の少女ができるはずもない。ギグは少女の処遇をどうしたものかと顎に手をやった。すると、少女がおもむろに口を開いた。

 

「色々と驚いたが、なるほどそれは都合がいい」

 

「なに?都合がいいだと?」

 

ギグの困惑を他所に少女は軽く頷くことで肯定し、夜空に光る星を差すように立てた人差し指の先からロウソク程度の火を灯した。

 

灯した火は暗闇に包まれた拠点入口周辺を照らし、亜人の驚いた表情を暗がりから浮かび上がらせる。

 

「雨風気にせずに寝ることができるならそれなりに協力する」

 

人間は魔法を使うことができない。魔法を使うのは一部の混ざり者と魔族だけで、人間が支配するこの大陸では魔法を目にすることはほとんどない。

 

ギグがリーダーを務めている亜人集団にも魔法を使えるものは極端に少ない。それが故少女が人間でなかったことも含め、その場にいた亜人達は驚きを露わにした。

 

 

 

 

 

 

 

拠点に戻ったギグはすぐに仲間を集めてマディのことを紹介した。同じ追われる立場であることの仲間意識からか割とすぐに受け入れ、少々高慢で鼻につくマディの態度も子供だからとあまり気にされることはなかった。

 

ついさっき襲いかかってきたラタなどは仲間になった途端に剣呑な雰囲気はどこへやら「こんな小さいなりして苦労してるんだな……」と頭を軽く撫でて兄貴風を吹かす始末であった。当然すぐにその手は鬱陶しそうに払われてしまったが。

 

歓迎会は和やかなムードのまま解散、就寝の流れとなり散々亜人に絡まれたマディはうんざりした表情を隠しもせずギグに話しかけ、夜の間は見回りする旨を伝えた。

 

「疲れただろう。今日はもう休め。そもそもそれは男衆のする仕事だ」

 

そうは言われたものの最早夜間警備はマディの中で習慣のようなものとなっており、それなりの事情もあった。どうにも子供扱いをされすぎている為この程度はできることを示そうという思惑もあった。

 

結局慣れているからという理由でマディに押し切られたギグは何かあったら呼ぶようにとだけ言い残してテントの中に引っ込んでいった。

 

さて、この亜人集団の数は20人ほどであり、柵に囲まれた野営地はそこまで広くはない。以前の村ほどには歩き回らずに済むだろう。しかし村周辺はある程度開けているため深夜といえども魔物を見つけるのはそこまで難しいことじゃない。

 

しかしここは深い森の中であり魔物の警戒もより注意深く行う必要がある。亜人は五感が優れているから今までやってこれたようだ。私も長年の見回りの経験と自身の身体能力にはある程度自信はあるが気を引き締めるに越したことはない。

 

流石に私の他にも2人亜人が警備につくことになっているようで、亜人による魔物対策の妙を観察しつつ巡回する腹積もりで臨んだ。

 

 

 

結果から言えば日が昇るまで巡回作業に滞りはなく亜人2人は1体、マディも1体の魔物を屠った。どれも狼のような姿形の魔物でこの辺では一番出没頻度が高い。すばしっこく捉えることが困難な魔物だが亜人は慣れたもので、一足飛びで距離を詰め顔面に蹴りを叩き込み怯ませた隙に剣で斬り付けていた。

 

マディもこの魔物とは戦い慣れていたため腰に括りつけてあるダガーナイフを武器に小柄な身体を活かした俊敏な動きで漆黒の体毛に包まれた横っ腹にナイフをえぐりこませてかっ捌き、さして苦労することなく狩った。

 

「慣れてるってのは本当だったみたいだな」

 

血臭を放つ魔物の後処理について悩んでいたところに亜人達が肩を並べてこちらへやって来た。どちらもギグと似たような出で立ちで特徴的な耳と尻尾が歩く度揺れている様は未だに見慣れないマディには些か奇妙に感じられた。

 

「伊達に長生きしてるわけじゃない」

 

「外見からは長く生きているように見えないがなぁ。俺らみたいな獣人は人間よりちっと成長が遅い程度だが」

 

魔族という存在は種族は多岐にわたるが中でも多いのが獣の姿―――犬、猫、狐、etc……をしている者たちだ。

 

当然亜人の中でも獣人と呼ばれる、人の容姿に尻尾や獣耳が生えているような奴らの割合が多い。私のように人と変わらない姿をしている者は亜人の中でも少数だ。と私の側に横たえられていた魔物の足を引っ掴みながら獣人の男は話を続ける。もう一人の獣人も彼らの方で狩った魔物を片手に話を聞いているようだ。

 

「まぁ何はともあれお前は仲間だ。疑ってたわけじゃないが人間の少女に魔物は倒せんからな。これからよろしく頼むぜ、マディの嬢ちゃん。ほれ、お前もなんか言えよ」

 

「……よろしく」

 

顔を合わせて初めて口を開いた男は不愛想にそれだけ告げるとまた黙ってしまった。

 

「あー、別にこいつはお前に反発する気持ちとかはなくってな、というか単に無口な野郎なのよ。誤解されやすいが仲間想いの良いヤツだ。それにこいつは外見子供なお前が警邏することに反対してたんだ。こいつ大の子供好きだしなぁ」

 

おしゃべりな獣人と無口な獣人。それなりに信頼関係もあるとみえ、付き合いの長そうなコンビであった。

 

「それで、そいつはどうするんだ?」

 

二人の獣人が手に持つ魔物を指差して問う。

 

「こいつはな、持ち帰って毛皮を剥ぎ取って素材にしてもらう。これは女の仕事だな。俺たち男は基本的にメシの確保と周囲の警戒が仕事だ」

 

腹は減ったがこいつの肉は不味くて食えたもんじゃねえんだよなぁ。と笑いながら住処に向けて足を進める獣人の男の後を追って私は徐々に明るくなっていく森をどこか安堵したような心地で歩いた。

 

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