ガンウーマン 作:10の悪魔
私は決まって夢を見ていました。昔の夢です。
夢の中、いや、私の記憶の中のお父さんは、いつも私に、お母さんを見るような目を向けてきました。そして、とても寂しそうにするのです。聞けば、お母さんは私が幼い頃に、悪魔に殺されたと言います。私はお母さんにとてもよく似ている、というのも口癖でした。母のブロンド調の髪、青い瞳を、私は受け継いでいたのです。
お父さんは私に気持ちをぶつけてきます。なんでお前が生きているんだと罵声を浴びせてきます。叩いてきます。そして、ごめんなさいと私を抱きしめるのです。私は、お父さんが嫌いなのか、怖いのか、はたまた好きなのか、よくわからないのです。毎日ご飯を作ってくれるし、学校にも行ける。そして、夜にはふかふかのベッドの上で、何も考えずに寝ることができるのですから。
友達はできませんでしたが、私は17歳まで普通に暮らせていたと思います。しかし、17歳の時、私は学校を辞めざるを得なくなったのです。
ある日、お父さんは朝からお酒の匂いを漂わせていました。いつも通りに学校に行こうと玄関の扉口に立つと、お父さんは私を呼び止めて、部屋に連れ込んだのです。
痛くて、
気持ちよくて、
気持ち悪くて、
いろんな感情がぐるぐると胸を回ったりしている私の上で、裸になったお父さんは必死になって腰を振っていました。
そして、私にごめんなさいと言うのです。
これが父親の愛情なのでしょうか?私にはもうよくわかりません。ただ、世間的には大問題だということは、お父さんも私もわかっていました。しかし、私は家から離れることができませんでした。私には、自分一人で生活できる自信がなかったのです。
外に出るのを禁じられました。携帯電話も取り上げられました。多分、お父さんはおかしくなっていたと思います。毎日仕事から帰ってきたら、酒を飲んで私にまたがるのです。
流石に、私も怖くなってきました。よく晴れた日でした。逃げ出したいと思って、私は無我夢中で家を出たのです。後ろから悲しそうな鳴き声と、追いかけてくる足音がしました。私はとにかく走って、走って、走って、
次の瞬間、私は確かに見たのです。
巨大な拳銃を頭につけた、悍ましく甘美な死の匂いを携えた巨人が、私を通り過ぎていくのを。
意識を失っていたようで、目が覚めると、私は瓦礫の中にいました。幸い私の力でも動かせるものでしたし、うまい具合に空洞になっていたため、擦り傷程度の怪我を負っただけで済みました。
酷い惨状でした。目の前が谷になっているのです。そして、所々に転がる銃弾をかたどった肉片。私は、それがあの巨人のものだという不思議な確信がありました。
今では、それが“銃の悪魔”であることは知っています。あの瞬間から、私は銃の悪魔の虜になっていたのです。ズボンのポケットに入るだけ、銃弾の形をした肉片を拾い集めて、私は家に帰りました。
家に帰る最中、私の頭の中にあるのは銃の悪魔のことだけでした。口角が緩んでしまうのを禁じ得ませんでした。嫌な気持ちは全て、銃の悪魔への愛に置き換わったのです。
奇跡的に無事であった家の中に入った私は、家の中が酷い匂いをしていたことに気がついて、また、私自身も酷い匂いであったことに気がついて、とても恥ずかしくなりました。そんな姿を、銃の悪魔に晒してしまったことがとても恥ずかしかったのです。
その途端に、私はお腹が空いていることにも気がついたのです。徐にポケットを弄って、何故だかぐちゃぐちゃにくっついた銃弾の形をした肉片を顔の前に持ってくると、余計にお腹が空いてくる気がしました。
私は、まるでステーキを前にしているような気分になりました。悪魔の肉片を取り込むという行為が何を意味するか、学校で私は習っていましたが、そうなってもいいと私は思えたのです。
私は、持っていた肉片全てを食べました。
目が覚めると、白磁の天井が私を見下ろしています。開けっぱなしの窓から小鳥の囀りが部屋に入ってきていて、かたわらの目覚まし時計は七時を指し示しています。
「んん〜」
起きあがろうとしましたが、大きくなった私のお腹が邪魔をします。太ったのではなく、命を育んでいるからこそ、私のお腹は大きくなり続けています。お金が厳しいので病院には通っていませんが、大体七ヶ月くらい経ったと思います。
なんでできてしまったのかは検討がつきますが、この子はお父さんとの結晶であって、そうではないという事実が、私から不快感を消し去っていました。
それはさておき、慎重に起き上がった私は、重たい体に反して軽い足取りでリビングに向かいます。そして、冷蔵庫を開けば、むわっと香ばしい火薬の匂いが漂ってくるのです。
銃の悪魔の肉片。冷蔵庫の中には、それが所狭しと詰められているのです。肉片の所持は政府が禁止しています。しかし、私はこれを悪いことだとは思っていません。何故なら、親の役目は、子供の言うことを聞き、叶えてあげることだと思うからです。
「あむっ」
手を伸ばして、無造作に冷えた肉片を口に運ぶと、耐え難い喜びと吐き気が私を突き動かします。びくびくと体が震えて、迫り出す感覚で涙が出てきます。それを我慢して飲み込むと、お腹が熱くなった気がするのです。
「はぁ、あぐっ、ぐぶっ、はぐっ」
そうして、よだれと胃液で顔がドロドロになって、脱力感に襲われながらお腹をさすっていると、まるで母親になった気分になります。お母さんから何をもらったかは覚えていませんが、多分こんな気持ちだったのではないでしょうか。
あぁ待ち遠しい。あぁ、嬉しい。
私が、あの方の母になれるなんて。