ソードアート・オンライン フェイタルバレット 聖騎士の懐刀 作:立冬
「ようアルゴちゃん、こっちでも相変わらずらしいじゃねえか」
数日かけてどうにか装備を整えたところで向かったのは、街の立体交差の下だった。
「ん、おお、ヒゲのおっさんじゃねえか。そろそろ挨拶に来る頃だと思ってたぜ。相変わらずいいヒゲしてるナ」
「威厳があるだろ? そっちもいいネズミ髭だな」
この情報屋とも、ネズミ髭とカイゼル髭と髭をトレードマークにする者同士長い仲だ。信用はできないが信頼はこの上ない。
「ソイツはどうも。で、何が欲しいんダ?」
「例のType-Xのアファシスだが、巷で流れてる以外に何か情報はあるか?」
「3000クレジットから」
「いつにも増して割高だな」
「当たり前だ。あのアファシスの情報なんてみんな喉から手が出るほど欲しがってる。しかもアンタが相手となればふんだくるに決まってるサ。アンタと駄弁っててもろくに銭にならねえからナ」
俺はアルゴちゃんのことを一貫して重要なビジネスパートナーとして扱っているが、やはりアルゴちゃんはそうは思っていないらしい。
「しょうがねえだろ。泣く子も黙るKoBの大幹部ともあろう人間が情報漏洩を起こすわけにはいかなかったんだよ」
「同情するゼ。実質ギルドを仕切ってたのにすぐ下の部下に隠し事されてるアーちゃんにナ」
態度が辛辣なのは、アルゴちゃん自身から恨みを買っているのみならず、俺が一時期アスナちゃんからも恨まれていたからだろう。
基本良くも悪くもビジネスライクだがキリトくんとアスナちゃん、特にアスナちゃんには甘いのだ。
「で、買ってくのカ? 5000になるケドモ」
「買った」
値上がりしていたが、指摘するとまた上がりそうなので黙って買った。
「毎度。で、アファシスについてだけどナ、例のニュービーの他にもTypeーXを手に入れたプレイヤーは少数だがいる。なんでも個体ごとに性格づけがだいぶ違うらしい」
「ほう」
みんながみんなレイちゃんの如くアホっぽいというわけでもないのか。
「ただ、残念なお知らせだが当分Type-Xは手に入らなそうだゾ。一応手がない事はないかもしれないケドナ」
「そうなのか?」
「ああ。強奪するのサ。持ってるプレイヤーから」
「できるのか?」
「あくまで可能性の話だがナ。アファシスは分類としてはアイテム扱いなんダ。だから持ってるプレイヤーを倒せばドロップするかもしれない。実証はされてないがナ」
「なるほどね」
GGO運営のザスカーはPKを推奨して課金を煽っていくタイプの運営スタイルだ、ザスカーならやりかねない。あくどいなと思う事もあるが、ザスカー日本法人から多額の寄付を受けている身としては声を大にしにくい。
「で、アンタが本当に知りたいのはアファシスのことじゃないんダロ? 2500追加してくれればそっちも教えるゾ」
「一応聞いておくがその追加情報は具体的になんだ?」
「相変わらず疑心暗鬼が酷いナ、AFGって奴サ。STRVIT型のアンタからすりゃ喉から手が出るほど欲しいだろうに」
「……まあバレるか」
俺のビルドはSAOから一貫してAGIを切ってSTRとVITに振った構成。低い機動力を補える移動サポートアイテムに目の色を変えるであろうことは容易に想像できるだろう。
「よし買った」
「毎度、でAFGなんだがナ、知ってるかもしれないがまだ未実装扱いダ」
「らしいな」
「それも、Type-Xを入手すれば必ず手に入る訳でもないらしいゾ。プレゼント機能は付いてるが肝心のアイテムはランダムだそうダ。当然ある程度レアリティの高いものの中からではあるケドナ。とんだリアルラックだぜあのニュービー」
「マジか」
正式実装に先駆けてデータだけ入れておいたのを、アファシスがぶっこ抜いてきてしまったと言うのか。もはやバグに近いだろこれ。
「まあそんな訳で、現状AFGを手に入れたければ、Type-X同様……」
「殺してでも奪い取ると」
「そういうことダ」
さすがに一緒に食卓を囲んだ仲のニュービー相手に追い剥ぎ紛いの真似をするのは気が引ける。俺に紹介してくれたキリトくんのメンツも立たないし、俺への不信感が抜けきっていない節があるアスナちゃんあたりからの評価はいよいよ地に落ちるに相違ない。
「なるほどな、ありがとう。機会があればまたよろしく」
「いえいえ。今後ともご贔屓に」
なんだかんだで公私はそれなりに分けるタイプのアルゴちゃんに感謝して俺はその場を去った。
十一時方向から銃撃音、これはおそらくLMG。三時方向からも銃撃、こっちは小口径ARかSMG。
AFGの入手は断念したものの、何はともあれ鍛えなくてはとモンスターを狩りにフィールドに出てきたのだが、基本やるかやられるかのこのゲームでソロでフィールドに出るのはやはり勇気のいる行動だったらしい。
他のプレイヤー数人がかりで追いかけられて、どうにか岩陰に逃げ込んだが見事に取り囲まれた。
五人はいたはずだし、弾幕を張って頭を出させないようにした上で残りで接近してってところか。
タフネスには自信があるが、何人道連れにできるか。至近距離から散弾ズドンされたらマズいかもな。
こっちの装備はFN-FALとコルトガバメント、そしてキリトくんに被れて買った光剣、ムラマサF9。
彼がGGOでまで剣を使ってると聞いた時はおいおいと思ったが、今ならわかる。
たとえ刀身がなくともなんか腰に一本吊っとかないと落ち着かない。
なんだかんだ言って剣が欲しくなる。ナイフとか銃剣じゃなくて。
そう思って高い金払って買ってみたはいいものの、中々使いどころは思いつかない。
とりあえずここは回り込んできた奴をFALで待ち構えるか。俺のSTRならフルオートでもかろうじてリコイルコントロールは利く、小口径ライフルに慣れきった若造に7.62mmの痛さを教えてやる。
さあ右から来るか左から来るか。
曲がらないストックを腰に当て、丸っこい銃身を左手で抑える。
突如一気に銃撃音が増えた。
位置は真後ろ! 真後ろ?
一度深呼吸をして混乱を抑え込む。さては別のグループと鉢合わせたな。
恐る恐る脇から背後の様子を窺うと、二十メートル離れた位置でライフルを構えていたプレイヤーが頭を撃ち抜かれて倒れた。そして襲ってきた連中の数が明らかに減ってる。
目視できる範囲にその射手は見えない、スナイパーか。てかいま弾道予測線見えたか?
敵の敵も敵なのがこのゲーム。腕利きスナイパーの相手を襲ってきた連中に任せて逃げるとしよう。
「でやぁっ!」
「うぐっ」
と思ったのも束の間、いつの間にやら岩を挟んで反対側に回り込んでいたプレイヤーに渾身のタックルを喰らわされ、
「よっこらせっと!」
FALを剥ぎ取られ、
「はい手を挙げて」
光剣を抜こうとしたが、それより早く拳銃を抜かれホールドアップされた。くっ殺せ。
「ああ、やっぱりそうだ。ディリオス先生でしょ。『とある
俺が両手を挙げたのを確認するや、相手はそう尋ねてきた。
銃声もいつの間にか聞こえなくなっている。最初に俺を襲ってきた連中はどうも全滅したらしい。
「あなた、もしかして総理大臣の名前をアバターネームに使ってるのをマジに取るタイプ?」
両頬に幾何学模様のタトゥーの入った黒髪ポニーテールで褐色肌の女性アバター、掲示板の要警戒プレイヤースレで見覚えがある。
マーカーも出た、間違いないピトフーイだ。
「またまた、本人でしょ、なんたってあの鼠のアルゴがそう言ってるんだから」
アルゴちゃんめ……
「……本人だったらどうするんだよ」
「あっ、やっぱりそう? 実は私大ファンなんだよ。あの回顧録は穴が空くほど読んでて、あ、はいFAL」
「そいつは嬉しいな。どうも」
一瞬にして笑顔を浮かべて銃を下ろし、剥ぎ取ったFALを返してくる。
「ここで会ったのも何かの縁だし握手してくんない?」
「ああ、はい」
差し出された右手を、FALを担いだ手で握ると、ガッチリと握り返された。
「いやー、光栄だよ。こんなところであのディリオス先生にお目にかかれるなんて」
改めて相手の顔を見ると、目が笑っていない。
「私はねぇ、あの回顧録読むたびに思ってたんだよ」
コイツはヤバい。左手を腰元に伸ばし、逆手で柄を握り、親指でカラビナを外す。
「
ピトフーイが振り下ろした光剣と俺が振り上げた光剣が右手の上で交差する。
この期に及んで右手は握られたまま、否、正確にはいつの間にか俺の右手首はピトフーイの右手に万力のような力で固定されていた。
「テメェ考えた事があるかぁ?
「何が言いたいんだアンタ!」
ピトフーイが左手を振り上げる。
斬られる前にと首の付け根めがけて逆手のまま突き出すが、速さが違った。
「遅ぉぉい!!」
ピトフーイはさっと首をよじって青い光から身を逸らすと、返す刀で俺の首を切り飛ばした。
スローモーションのような感覚で景色が半回転し、ジャリッとした感触が後頭部に触れると共に、目の前にYou Deadの文字が浮かんだ。
と言うわけでアルゴとピトフーイ回でした。
ピトさんはサバイバーと絡みがないので(ないよね?)、出くわしたらどうなるんだろうなって思って書いてみました。
イカジャム組にもちょくちょくですが出番があります。特にレンちゃんには地味に重要な役割を担って貰う予定。
追記 敗北者じゃなくて失敗者でした。間違えました。ルーザーの音だけ覚えてたもんで