何でや!?…の人です。
「よーし、そろそろ組み終わったかな? それじゃ「ちょお待ってんか、ナイトはん!?」…っ!?」
会議場の中心に立つディアベルが、それぞれがパーティーを組み終わったのを確認して、会議を開始しようとした時、背後から低く大きな声がライトの耳に届いた。
その声に彼だけでなく、全員が振り返って後ろを確認する。そこに立っていたのは、髪の毛がサボテンのように尖った髪型をしている男だった。そして、その男は階段を軽々と降りていき、ディアベルが立つ闘技場の中心に降り立った。
「その前に、これだけは言ったとかな、仲間ごっこは出来ひんわ!」
いきなり乱入してきた男の言葉に、会議場は混乱する。だが、ディアベルは特に動揺する事なく、冷静な口調でその男に声を掛けた。
「これだけ、って言うのは何かな? まぁなんにせよ、意見は大歓迎さ。だけどその前に、発言するなら名乗ってもらえないかな?」
「フン!!」
その男、サボテン頭は盛大に鼻を鳴らすと、集まっているプレイヤー達に視線を向けて、大声で喋り始めた。
「ワイはキバオウってもんや。こん中に、今まで死んでいった2,000人に、詫び入れなあかん奴らがおる筈や!」
関西弁で話すサボテン頭、キバオウはこの場に集まるプレイヤー達を指差し、声を張り上げて叫んだ。その途端、ライトは隣に座っていたキリトが俯き、表情が少なからず曇ってしまった事に気付いた。
「キバオウさん、君の言う《奴ら》とは、元βテスター達の事、かな?」
キバオウの横に立つディアベルも、彼が何を言おうとしているかを察したようだ。ゆっくりな口調で、再び彼に問いかけた。
「決まっとるやろ!」
すると、キバオウはさも当然のように声を上げて、ディアベルの問いかけを肯定した。
「β上がり共は、こんクソゲームが始まったその日に、9,000人以上いるビギナーを見捨てて、はじまりの街からさっさと出て行ってしもうた! 奴らはうまい狩場やボロいクエストを独占して、自分らだけポンポン強なって、その後もずっと知らんぷりや!」
キバオウはそこで言葉を区切ると、目付きを鋭くさせて、段差に座るプレイヤー達へ言い放った。
「こん中にもおる筈やで、β上がりの奴らが! そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出して貰わな、パーティーメンバーとして、命は預けられんし、預かれん!」
つまり、キバオウが言いたい事は、デスゲームへと遂げたこの世界で、βテスターがビギナーを見捨てたから、1ヶ月で2,000人ものプレイヤーが命を落とした。その謝罪としてコルやアイテムを出せと言いたいのだ。
彼の言い分も分からなくはない。あの日、テスターがビギナーを見捨てて、はじまりの街を出たのは事実なのだろう。でなければ、もっと多くのプレイヤーが生き延びて、今この場に集まっていた筈だ。彼らがビギナーにβ版の情報を与えて、このゲームを攻略していく上で生存率を上げる。確かにそうしていれば、犠牲者はこれ程までにならなかった筈だ。
しかし、キバオウは大きな《勘違い》をしている。だからこそ、ライトは立ち上がった。
「発言良いかな、ナイトさん?」
その声で、周りのプレイヤー達の視線が一気に、ライトに向けられた。その姿は他プレイヤーから見れば、フードを目深に被っている小柄な怪しい人物にしか見えない。
しかし、そんな視線を浴びせられても、ライトは特に気にする事は無かった。ディアベルは立ち上がったライトに目を向けると、彼の発言を許可して要件を求めた。
「あぁ、構わないよ。何かな?」
ライトの隣では、キリトが驚いた顔をしながら固まっていた。ライトはフードの奥からキリトに目配せすると、視線をキリトからキバオウに移して、他のプレイヤーにも聞こえる声量で訊ねた。
「キバオウ…って言ったか? あんたがさっき言ったその言葉、どうしてそんな事が分かるんだ?」
「あん? 何の事や!?」
ライトが聞こうとしている要件が分からず、キバオウは何の事かと太く大きな声で聞き返す。ライトはフードの奥で小さく溜息を吐くと、今度は言葉を付け足して、再び声を掛けた。
「βテスターが狩場やクエストを独占して、その後も知らんぷり…だったか? あんたに何故それが分かるんだ?」
会議場の中心に立つキバオウが、ビギナーなのは一目瞭然だ。そうでなければ、こんな事を言う必要がない。彼はまるで、この場で全ビギナーを代表して言っている口振りだと、ライトには聞こえたのだ。《はじまりの街》から姿を消したβテスターが、その後にどんな行動をしたのかは誰にも分からない筈なのに、何故キバオウにそれが分かるのか。ライトの質問に、キバオウは腹を立てるように答えた。
「そんなん分かるやろうが! あいつらはβ版の情報を持っとったんや! もしその情報をワイラに渡しとったら、沢山のビギナーが死なずに済んだんや!」
その言葉でライトは確信した、彼は何も分かっていないのだと。死亡した2,000人の中に、βテスターが一体何人いたのかを。ライトは胸ポケットから、1枚の紙切れを取り出すと、この場に居る全プレイヤーに見せながら話し始めた。
「これは、ある情報屋に調べてもらった物だ。この1ヶ月で何故2,000人のプレイヤーが死んだのか少し気になったからな……ナイトさん、読んでくれないか?」
ライトはその紙切れを、ディアベルに向かって投げつけた。それはまるで、手裏剣のように回転しながら、ディアベルの元へ向かった。彼はそれを受け取ると、不思議そうに眺めた後、ライトに向き直って問いかけた。
「これは何だい?」
その問いに、ライトは一言だけ答えた。
「そこに、死亡者達の真実が載ってるよ!」
ライトのその言葉に、周囲のプレイヤー達は意味が分からないと言った反応を示した。キリトとライトの横に座る女性プレイヤー2人組も、それは同じだった。
その紙切れに載っている情報は、最初に知ったキリトとライトでさえ、少し驚いてしまった程の内容なのだ。ディアベルが折り畳まれたその紙切れを解き、中の内容を読み上げた瞬間、彼の表情がガラリと変わった。そして、唇が震えながらも、他のプレイヤーに聞こえるように読み上げた。
「2,004人中のβテスターの死亡数……343人」
「「「「「っ!?!?」」」」」
「なっ!?」
それは、あり得ない数字だった。βテスターはこの世界の知識を持たないビギナーよりも有利だ。右も左も分からないビギナーに対して、彼らはどこをどのように進んで行けば良いのか分かっている。だからこそ、信じられなかった。この世界の情報を持っているβテスターがそんなに死んでいるなど。
「そんな訳あるかい! テスターの死亡数が300人越えやと!? ジブン、何デタラメな情報を流してんねん!!」
キバオウはその情報が信じられず、ライトを睨みつけながら指差す。他のプレイヤー達も、この情報を信じて良いか、分からない空気になっており、懐疑的な視線を送る。だが、ライトは特に慌てる仕草など見せず、ディアベルに再び声を掛けた。
「ナイトさん、紙切れの右下にサインがある。誰がその情報を集めたのか言ってくれないか?」
ライトの言葉を受けたディアベルは、紙切れの右下に視線を走らせた。そして、そこに書かれている文字を見た途端、その情報が確かであると確信した。
「これは、あの情報屋《アルゴ》のサインだ!」
ディアベルの言葉に、会議場が騒然となった。
アインクラッドでは名の知れた、凄腕の情報屋で、通称《鼠のアルゴ》と呼ばれている。その技量は、5分雑談するだけで、知らない内に100コルも情報が抜かれている程のものだ。そして、発信する情報もしっかりと裏を取った信用できる物しか載せていない。
会議場が暫く騒ついていたが、気にする事なく、ライトは再び口を開いた。
「βテスターの参加者は800人以上、既にその42%程が死んでいる。対してビギナーの死亡数の割合は20%前後、βテスターの約2分の1だ。この世界の情報を持つ彼らが、何故ここまで死んだのか……それは彼らが、この世界は《β版と同じ》だと思い込んだからだ! その結果、彼らは正式版との違いを見誤り、Game Overとなってしまったんだ」
何故ライトが、ここまで情報を集めているのか。それは、この世界で死ねば本当に死んでしまうからだ。だからこそ、何をするにも慎重になり、まずは情報を手に入れる必要がある。この世界でそれを怠れば、待っているのは死だと、彼は理解していた。
ライトは最後に、この場に集まる全員に向けて、口調を厳しくさせて忠告する。
「《βテスト版を経験しているから大丈夫》そんな根拠はどこにもない! この世界では情報が命だ、それを見誤れば…死ぬ」
「「「「「っ!!」」」」」
瞬間、他のプレイヤー達の表情が一気に強張った。《死ぬ》と言う言葉を聞いて、恐れない者など殆ど居ない。しかし、自分の命を誰かの為に使う事が出来る人は、強者と呼べるだろう。闘技場の中心に立つ、自称《騎士》と名乗るディアベルのような人の事を。
ライトは全員に忠告し終えると、石造りの段差に腰掛けた。
「ライト、お前…」
不意に小さく、キリトが口を開いた。自分達βテスターを庇ってくれた事だと、容易に想像がつく。
「…βテスターだけを非難するのは、間違っているからな」
ライトはキリトに顔を向けて、誰にも聞かれない声量で呟いた。確かに、キリトは《はじまりの街》にクラインを置いて来てしまった。しかし、それはライトも同じだ。例えビギナーといえど、彼を見捨てた事に変わりはないのだから。
『もっと違う方法があったんじゃないか?』
そんな考えが、ライトの頭によぎるのだ。デスゲームに変わったこの世界で、クラインは先に進む選択をしたキリトとライトに、嫌な顔もしなかった。助けを求める事も出来たのに、彼は笑って送り出してくれた。自分が知っている人の中で、母と同じくらい優しい人だと、ライトは感じたのだ。
「俺からも良いか?」
すると、この場に豊かな張りの良いバリトンが響いた。反射的に、その声が響いた場所に視線を向ける。身長は190cm以上あり、肌の色はチョコレート色。見た目的に、背中に装備する両手用戦斧が、とても軽そうだ。その巨漢は段差から立ち上がると、キバオウの方に歩いていく。
「俺の名はエギルだ。キバオウさん、確かにあんたの言う通り、βテスター達がビギナーを置いて、最初の街から出て行ったのは間違いないないだろう。だが、情報はあった筈だ!」
巨漢の筋骨隆々プレイヤー、エギルはそう言うと、懐から1冊の小さな手帳を取り出した。
「このガイドブック、あんたも貰っただろう? 道具屋で《無料配布》していたからな!」
「「…はっ?」」
エギルが取り出した、その小さなガイドグック。その本は、βテスト版の情報が事細かく書かれている《攻略本》だ。それは、既にどの道具屋にも売っている価値ある代物だ。
ライト達も、モンスターの攻撃パターン情報を提供した為、あの本には、彼らが実際に戦ったモンスターの情報が載っている。しかし、彼らは無料で貰った訳ではなかった。
「おい、キリト。あの本って確か…」
「あぁ。確か1冊、500コルで買わされた!」
2人もあの攻略本は持っている。ライトは勿論だが、キリトもβ時代にモンスターと戦っているとはいえ、正確な情報は持っておいた方が、何倍も安全だと思ったからだ。しかし、2人はアルゴにお金を払って買ったのだ。
「それなら、ボク達も持ってるよ!」
「無料だったから。」
金を払わされた2人組の横に座る、アスナとユウキの女性プレイヤー達もそう伝える。どうやら、2人はアルゴに一杯食わされたようだ。
「…やられたな」
「くっそ、アルゴの奴」
気付いた頃には、時既に遅し。キリトは悔しそうな表情を浮かべていた。これなら、直接アルゴに買わず、道具屋に行って、そこで無料配布しているあの本を買った方が良かった。
「もろたで、それが何や!?」
キバオウは、エギルが言おうとしている意図が分からず、イライラしながら聞き返した。その問いに、エギルは冷静な態度と口調で言い放った。
「配布していたのは、元βテスター達だ」
「「「「「っ!?」」」」」
またも会議場がざわつき始めた。βテスター達も何もしなかった訳ではない。この世界で死んで欲しくないという優しい心を持ったβテスターも居ると言う事だ。
エギルはくるりと振り返ると、この場に集まる全員に聞こえる声で話し出した。
「良いか? 情報は誰にでも手に入れられたんだ。なのに沢山のプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて、俺達はどうボスに挑めば良いのか、それがこの場で議論されると、俺は思っていたんだがな!」
2,000人のプレイヤーが死んだのはβテスター達の責任。そんな空気がキバオウによって会議場に流れたが、ライトとエギルによって、その考えは薄まってきた。キバオウは反論が出来ないのか、悔しそうに歯を噛み締めていた。そんなキバオウに、ディアベルが話しかける。
「キバオウさん、君の言う事も理解は出来るよ。俺だって、右も左も分からないフィールドで、何度も死にそうになった。でも、今はβテスターの人達を非難するよりも、これからの事を考えようじゃないか?」
ディアベルの言葉に頷いているプレイヤーは何人も見られる。
彼の言う通り、今この場でそんな事をしても前には進む事は出来ない。βテスターがビギナーを見捨ててしまったのは事実だが、彼らだって1人の人間だ。最初から何もかも出来る訳がない。彼らの心の中にも、ビギナーを助けたいという意思があるのだ。
それは先程、エギルがこの場の全員に見せた攻略本が証拠だ。この情報を頼りに生き残って、この場に辿り着けた者も居る筈だ。
「…ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、キッチリ白黒つけさせてもらうで!」
キバオウはそう言うと、闘技上近くの段差に腰掛けた。もう何も言う事はないのか、エギルも同様にその場に腰を下ろす。
「(ライトと…あのエギルっていうプレイヤーのお陰で、吊るし上げは避けられたな。でも、βテスターがこんなに肩身が狭いとは)」
キリトは心の中で安堵していた。自分の横に座るライトの情報と、エギルが取り出したガイドブックのお陰で、βテスター達が責められる事は少なくなったと言って良いだろう。漸く会議場が、落ち着きを取り戻したのを確認すると、ディアベルは会議を再開させた。
「よし、じゃあ再開していいかな? ボスの情報だが、実は先程、例のガイドブックの最新版が配布された」
ディアベルの言葉に、プレイヤー全員が注目する。彼は攻略本を開き、その内容を読み上げる。
「それによると、ボスの名は《イルファング・ザ・コボルドロード》。それと、《ルインコボルド・センチネル》という取り巻きが居る。ボスの武器は斧と円盾。そして、4段あるHPバーの最後の1段が赤くなると、曲刀カテゴリの《タルワール》という武器に持ち替え、攻撃パターンも変わると言う事だ!」
事細かに書かれた情報を、彼は読み上げた。それを聞いた周囲のプレイヤー達は、情報の細かさに驚いた反応を示す。これから戦うモンスターが、どんな武器を持っているのかが分かれば、作戦は立てやすい。ディアベルは読み上げた攻略本を閉じると、再び口を開いた。
「最後に、アイテムの分配についてだが、金は全員で自動均等割。経験値は、モンスターを倒したパーティーの物。アイテムはゲットした人の物とする。異存はないかな、みんな?」
全員を見据えて、ディアベルはそう訊いた。段差に座るプレイヤー達からは、特に反論はなかった。
「よし、明日は、朝10時に出発する。では解散!」
ディアベルのその言葉で、第1層攻略会議が終了した。その声を聞くと、プレイヤー達はその場から去ったり、パーティー同士で話し合いをする者に分かれた。
こんな感じでした。
それでは、また次回。