攻略会議が終わったその後です。では、どうぞ
ディアベルの言葉で、第1層攻略会議が終了したと同時に、ライトはこれからの行動をどうするか、キリトに相談しようと声を掛けた。
「キリト、この後どうする?」
キリトは少し考え込んだ顔をすると、ライトに向き直った。
「とりあえず、スイッチの連携やPOTの確認は明日にしよう。2人もそれで良いよな?」
キリトがフードを被った2人組、アスナとユウキに確認を取ると、彼女達から予想外な回答が…いや、問いかけが帰ってきた。
「すいっち…って…」「ぽっと…って…」
「「何?」」
息をぴったり合わせて、アスナとユウキは訝しそうに訊いた。その言葉を受けた2人は唖然とし、恐る恐る質問してみた。
「知らないのか? ずっと、パーティーを組んでたのに!?」
キリトの問いかけに、アスナとユウキは首を上下に振った。何とこの2人は、殆ど何も知らない状態で、たった2人で《はじまりの街》から抜け出し、この《トールバーナー》に辿り着いたのだ。道中でモンスターに襲われて、殺されていたかもしれないのに、驚くべき悪運の強い2人だろう。
「(良くここまで辿り着けたな)」
ライトは表情には出さないものの、内心で驚いていた。何も知らない状態とは言わないが、殆ど知らない上で、この街に辿り着こうとする事がどれだけ危険な事か。
ライトはキリトの情報があった為、この場所に来る事が出来た。もし、ビギナーだけでここに来れるかと訊かれれば、出来なくはないが、情報も持たずに来る事は不可能だ。アスナとユウキが頷いた事に、キリトは頭を落として項垂れた。
「…マジか」
そんな彼の反応を見たユウキが、とても申し訳なさそうな口調で、彼に声を掛けた。
「あっ…えっと…なんかごめんね」
キリトが項垂れたのは、自分達の所為だと思ったのだろう。彼女は小さく、ちょこんと頭を下げて謝った。
「いや、そっちが謝る必要なんてないよ!」
キリトはケープを羽織る片手剣使いが、頭を下げて謝った事に少し動揺し、慌ててそう伝える。
「今から教えれば大丈夫だろう?」
「そうだな……後で全部説明するよ!」
ボス戦は、明日の午前10時から開始となる。それまで時間は残っているので、その間に教えれば問題ないと、ライトがキリトに伝える。対するキリトも特に反対せず、彼の言葉に頷いた。
「ありがとう! あっ、まだ自己紹介してなかったね。ボクはユウキ、よろしく!」
片手剣使いは2人に礼を言うと、自分のプレイヤーネイムを名乗った。
「…アスナよ」
続いて、もう1人のケープを被った細剣使いがアスナと名乗った。しかし、どちらもフードを被っているので表情は分からない。
「よろしく。俺はキリトだ。で、こいつはここまで俺とコンビを組んできた…」
「…ライト」
キリトとライトも同じように自己紹介をした。連携を行う上で、お互いの名前を知っていた方が動きやすい。1度のミスが命取りになる状況で、連携に支障が出るのは避けたい。
「…それで、説明ってどこでするの?」
すると、アスナが少年達にそう訊ねた。彼らはこの後、2人にパーティーについての連携や、スイッチとPOTローテのタイミングを教える必要がある。
「あ、あぁ。どうする? 俺達は別にどこでも良いんだけど」
話をする場所は、はっきり言ってどこでも良い。他のプレイヤーに聞かれて、特に困る内容ではない。むしろ、戦闘に置いて重要な話な為、自分達以外のパーティーもどこかで確認していると、ライトは内心で思いながら口を開く。
「近くの酒場にするか?」
「いや、人目に付くのは嫌い!」
ライトが、その辺りに建つ酒場を指差して提案するが、アスナによって拒否された。別に、人に聞かれても良いだろと、彼は内心で思った。
「NPCハウスとかあるけど、普通に無しだよな?」
「当たり前よ!」
キリトの提案も、アスナは迷う事なく一刀両断した。提案したキリト自身も、それは分かっていたようで、どこで話をするか考える。すると、またもアスナから更に不機嫌な声が聞こえた。
「大体、この世界の宿の個室なんて、部屋とも呼べないようなものばかりじゃない!?」
その声色はどこか、心底イライラしているように感じられた。しかし、アスナの言葉に、キリトとライトは疑問を抱く。
「そうか、そんなに悪くないだろう?」
ライトが心外そうに呟く隣で、キリトも同じような反応を示す。彼は今、キリトとある1軒の宿を共有しているが、それなりに快適に過ごせている。特段、何かに困った事はない様子で話すと、今度はユウキが口を開いた。
「だってさ、6畳もない1間に、ベッドとテーベルがあるだけなんだよ! その上、ベッドは硬くてぐっすり眠るなんて無理だし、それで1晩50コルも取るなんて、酷いと思わない!?」
ライトに迫る勢いで、ユウキは宿の悪口を熱弁し、最後には彼に同意まで求めた。2人は泊まっている宿が、本当に不満で仕方ないようだ。
「…あぁ、そういう事か」
すると、キリトが納得したように呟いた。そして、それはライトも同じだった。少女達は自分達が泊まっている宿とは、違う場所を使っていると。
「何がそういう事なの!?」
まだイライラしているのか、アスナは厳しい口調でキリトに問いただす。彼はその問いに、2人に向かって確認を取った。
「2人とも、《INN》の看板が出てる店しか、チェックしなかったんだろ?」
それを聞いて、女性陣2人がイライラした様子から、不思議そうな反応に変わった。
「だって、INNって宿の意味だよね?」
ユウキの質問に対して最初に答えたのは、キリトだった。
「確かにそうだけど、この世界の低層フロアじゃ、コルを払ったら借りられる宿はINNだけじゃないんだ」
「オレ達が今泊まっている宿は民家の2階で、1泊80コルでINNより30コルは高いが、2部屋ある上にミルク飲み放題付き。ベッドも柔らかく、後はあまり使わないが風呂がっ…」
キリトの説明を引き継ぐ形で、ライトが話していると、彼の言葉が途切れた。何事かとキリトが見れば、ライトのコートの襟元を、アスナとユウキが掴んで持ち上げていた。
あまりに一瞬の出来事に、ライトは全く反応する事が出来なかった。すると、ユウキの方から小さな声が聞こえてきた。
「…今……何て言ったの?」
このまま襟元を掴まれ、持ち上げられたままは、流石に勘弁して欲しいと思ったのか、ライトは素直に答え始めた。
「…2部屋ある」
「違う! その後!」
今度はアスナが声を上げた。ユウキ同様、アスナもライトを離す気配が感じられない為、彼は自分が口にした言葉を再び伝える。
「ミルク飲み放題」
「その後!」
彼女達が何の言葉に反応したのか、導き出される答えはただ1つ。
「ベッドが柔らかくて、風呂がある」
「「お風呂あるの!!?」」
叫び声に似た2人の声が、ライトの耳に響き渡った。
アスナとユウキは、少年達が宿泊しているNPC民家の2階に案内され、彼らが泊まっている部屋を見渡していた。
あの後、2人は少年達が泊まる宿のお風呂を貸して欲しいと頼み込み、ここまでやって来たのだ。部屋を見渡す彼女達の顔は、驚愕という言葉が当てはまる。
「……こ、こんなに広いなんて」
「これで私達が泊まってた部屋の額とたった30コル差!? や、安すぎるでしょ!!」
4人が居る部屋は、少なくとも20畳は広く、東の壁のドアが寝室なら、その部屋も同じくらいだと想像がつく。そして、西側のドアには英語で《Bathroom》と書かれたプレートがぶら下がっていた。
2人がこの部屋に見入っている間、キリトは武装を解除すると、近くにあった柔らかそうなソファに座り込んだ。そして、ライトも被っているフードに指を引っ掛け、容姿を露わにした。
「ふぅぅ、暑苦しいな」
一息つくと、長い黒よりの茶髪が乱れているので、右手で簡単に整える。
「っ!」
偶然、ユウキの視界にフードを取ったライトの素顔が映った。目に掛かる程に長く伸びた茶髪に、最も特徴的な赤よりも明るい緋色の瞳、女の子のように思える幼く可愛らしい顔立ち。ユウキは思わず、ライトの顔を見詰めていた。
「オレの顔に何か付いてるのか?」
すると、ユウキの視線に気付いたのか、フードを脱いで椅子に座るライトが、窓の方を向きながら静かに訊ねた。
「へ!? あ、いや! ごめん。何でもないよ」
ライトは一瞬、ユウキに視線を走らせたが、すぐに逸らして窓の外に目を向けた。ユウキは彼が何を見ているのか気になり、彼の視線の先を辿ろうとした。
「見ての通り、風呂はそこにあるから好きに使ってくれ!」
だが、それより先にソファに座っているキリトが、風呂場がある部屋を指差し、アスナとユウキの2人に向けてそう伝えた。
「あっ…う、うん!」
「ありがとう」
アスナはキリトの言葉に頷き、ユウキはお礼の言葉を述べる。2人はここで、どちらが先に入るかを話し始めた。
「ユウキ、先に入る?」
アスナが彼女にそう聞くと、ユウキは首を横に振って答えた。
「ううん、ボクは後で良いよ。アスナが先に入って!」
「良いの?」
アスナはユウキがお風呂を先に譲ってくれた事に、少し驚いた。彼女の言葉を聞いたユウキは、小さく頷いて口を開いた。
「うん。それで、お風呂どうだったか感想聞かせてよ……後、一応見張りしておくからさ」(小声)
「…じゃあ、お言葉に甘えるね!」(小声)
アスナはそう言うと、風呂場の扉を開けて、中に入って行った。
アスナが姿を消して、ここにはキリトとライト、そして、ユウキの3人だけになった。キリトは近くにあるソファに腰掛け、メインメニューを開いている。一方のライトは、椅子に座って何時の間にか取り出した、アルゴが製作した《攻略本》に目を通していた。
そんな2人の様子を、ユウキは風呂場の扉から見ていた。すると、右手に持つ攻略本を読んでいたライトが、その本を閉じて彼女に声を掛けた。
「何時までもそこに立ってないで、座ったらどうだ? それに…キリト、スイッチの連携やPOTローテの事を教えるんだろう?」
「っ…あ、あぁ…そうだったな」
ソファで寛ぎながら、スキルスロットを確認しているキリトに、ライトは自分達の目的を伝える。彼の反応を見るに、どうやら忘れていたのかもしれない。その事に、ライトはため息を吐いてしまった。
「あっ…うん。お邪魔します」
ユウキはライトが座る近くの椅子に歩み寄り、腰を下ろす。すると、彼女の前に1つのカップと、NPC店で売っている黒パンと、片手で持てる小さなツボが置かれた。カップの中には、白い液体が入っていた。
「えっ?」
「2人は一応客だしな。何も出さないのは失礼だろう? それに、別に怪しい物は入っていないさ。この第1層で手に入る毒のアイテムは、殆どないからな。そのパンには、この小さなツボを使ってみろ。そのままで食べるより断然マシだ」
用意したのはライトだった。何時の間にか、カップにミルクを注ぎ、皿に乗った黒パンとツボをテーブルに置いたのだ。
「…あ、ありがとう。いただきます!」
ユウキはライトにお礼を言うと、カップを手に取って中身を口に注ぐ。
「っ…美味しい、ホットミルクだ!」
カップに入ったミルクを飲んだ途端、ユウキは声を上げて感想を述べた。
この仮想世界では、見た目と味がマッチしている食べ物や飲み物は数える程しかない。SAOの世界で、他にも食べたり飲んだりしたが、こんなにも見た目と味が合う物はないので、ライトはたまに、これを飲んでいる。
そして、もう1つ。ユウキは皿の上に乗った黒パンを手に取り、右手の人差し指で、ツボの蓋をタップした。すると、浮き上がったポップアップ・メニューから使用を選び、指先が仄かな紫色に輝く。ユウキが人差し指で、黒パンにソッと触れると、断面が白く染まった。
「…クリーム?」
ユウキが訊ねると、ライトは軽く頷いて食べてみろと促した。彼女は両手に持ったままのクリームパンを前に、唾を飲み込んで、勢い良くかぶりついた。
「っ…美味しいぃ!!」
途端、ユウキはさっきよりも一際大きな声を上げた。口に含んだ瞬間、ボソボソとしたパンが、ドッシリとした田舎風ケーキに変わったのだ。しかも、クリームの爽やかな風味が、後から来る酸味とマッチしている。
食べ始めてから数秒も経たない内に、ユウキは食べ終わってしまった。そして、飲み終えたカップをテーブルに置くと、ライトに顔を向けて言った。
「ふぅぅ……ご馳走様、すっごく美味しかったよ!!」
「なら良かった。1つ前の村で受けられるクエスト《逆襲の雌牛》で手に入る。詳しくは、攻略本に目を通してくれ」
飲み干したカップとツボは、役目を終えたかのようにポリゴンとなって四散した。すると、ソファに座っていたキリトが立ち上がり、近付いてきた。
「それじゃ、君には先に、スイッチとPOTローテについて説明しておくよ」
「うん、お願い!」
そう言うと、キリトはユウキにこの世界の戦闘に必要な、スイッチとPOTローテについて話し始めた。
今回はこんな感じで以上となります。
それではまた、次回で