文章能力が本当に乏しい。
翌日の午前10時、キリトとライト、アスナとユウキの4人は、昨日の会議が開かれた場所《トールバーナー》に来ていた。
遂に今日、第1層フロアボスの攻略が行われるのだ。デスゲームが始まって既に4週間が経つこの状況に、キリトは内心で、ここまで時間が掛かった事が想定外だった。β版が1日に1層が攻略されるハイペースだった事を踏まえると、そう思うのも無理はない。βの知識は時として、プレイヤーに牙を剥くという事が改めて分かった。
そんな事を思いながら周りに目を向けると、既に昨日の会議で集まった46人全員が集結していた。
「2人足りないが、問題はないだろう?」
隣に立つ小柄なプレイヤー、ライトが小さな声でそう訊いてきた。これから戦闘に向かう手前、視界が制限されるフード付きは正直、彼にとって戦いずらいのだ。人数に関しては、ほんの少し足りない気もするが、それでも十分だろうと確かめる。
「あぁ、それくらいならカバーは出来るさ。まぁ、油断しなければだけど」
キリトはライトの確認にそう答える。これはゲームでも遊びではない、命を賭けた本物の戦闘なのだ。気を抜けば、あっという間に殺られてしまうだろう。すると、昨日の会議でリーダーの素質を見せた騎士ディアベルが、声を上げて話し始めた。
「みんな、いきなりだけど…ありがとう! 今ここに、全パーティー46人が1人も欠ける事なく集まった!!」
ディアベルがそう言った途端、辺りが盛大な咆哮に、滝のような拍手喝采に包まれた。それを見ただけで、彼への信頼度は十分に高いと判断できる。
「実は俺、1人でも欠けたら、今日は作戦を中止しようと思ってた。でも、そんなのは要らない心配だった。誰も欠けずに集まってくれて…俺、スッゲー嬉しいよ!」
彼のリーダーシップは中々のものだと、今更になってだが改めて感じさせられる。他のプレイヤー達は彼と同じように右手を突き出したり、笑う者だったり、肩を組み合ったりする者、口笛を吹く者だったりと様々だ。
そんな中、キリトは少し違う事を感じていた。それを共有しようと、隣に立つライトに耳打ちした。
「ちょっと持ち上げすぎじゃないか?」(小声)
緊張が過ぎれば毒になるように、楽観も過ぎれば油断を生んでしまう。ボス攻略の最中、何か不測の事態が発生した時、ディアベルはそれに対して上手く処理できるのかと、彼は心配になったのだ。
「確かにな…」(小声)
そして、ライトも彼の言葉に賛成していた。そんな彼の脳裏に、ある言葉が思い返された。
『何事にも油断はするな。常に緊張を引き締めておくのだ』
楽観し過ぎれば、足元を掬われる。そこまで心配をする程でもないが、ほんの少しの不安が、ライトの心の片隅に漂っていた。そして、最悪な事態も想定して、ライトは改めて気を引き締めた。
その一方で、キリトは辺りを見渡していると、彼の視界に自分の剣の買い取りを持ちかけてきた人物のキバオウが映った。その時、キリトはある事に気付いた。いや、キリトだけではない。
「キリト、キバオウの装備が変わっていないぞ!」
「あぁ……どういう事だ?」
彼は40,000コルという大金を注ぎ込んで、キリトのアニール・ブレードを買い取ろうとしていた。これは間違いない。恐らく、強力な武器を手に入れて、リーダーシップを高めたいのだろうと思う。だとすれば、彼はそのコルを使って、装備を変えていなければおかしい。しかし、彼の装備は昨日と全く同じなのだ。
一体何がどうなっているのか。その事がキリトとライトを更に混乱させるが、彼らの思考はそこで堰き止められた。何故なら、このパーティーのリーダーであるディアベルの声が、彼らの耳に重く響いたからだ。
「みんな、俺から言う事はたった1つだ…勝とうぜ!!」
ディアベルのその言葉と同時に、再び会議場が先ほど以上の咆哮に包まれたのだった。
第1層を攻略する為に、一行は迷宮区に向かって移動していた。樹下の道を進む46人は、緊張とは程遠い雰囲気を出していた。笑い合っている者や、話し合っている者など多々いる。
そんな中、最後列を歩くのはキリトとライト、アスナとユウキの4人だ。戦闘に入った時のペアとしては、キリトとアスナ、ライトとユウキになっている。
「確認しておくぞ。あぶれ組の俺達の役目は、取り巻きである《ルインコボルト・センチネル》をボスに近付かせない事だ。昨日も言ったけど、頭と胴体の部分は鎧に覆われている。だから…」
「弱点の場所は喉元でしょ? 分かってるわ!」
キリトの言葉を遮り、先に答えたのは細剣使いのアスナだった。どうやら、昨日の説明はしっかり覚えているようだ。キリトはアスナの答えに頷くと、続きを説明する。
「そうだ。俺とライトが奴らのソードスキルをキャンセルさせるから、2人がその間に攻撃してくれ!」
基本的に防御の役目はキリトとライトで、攻撃はアスナとユウキが担う形だ。敵の攻撃を弾くのは、攻撃を与えるよりも難しい。それを踏まえて、戦い慣れている男子2人がセンチネルの攻撃を弾く役目を引き受けたのだ。アスナとユウキは頷くと、少年達と共に先頭集団を追いかける。
ライトが周囲に目配せしながら歩いていると、ある事に気付いた。1番後ろを歩くユウキの足が、少し震えていたのだ。ライトは前を歩くキリトとアスナに視線を走らせると、2人は何かを話し合っている様子だった。彼は2人に気付かれないように、ゆっくりとユウキに近付いて小声で話し掛けた。
「大丈夫か?」
「っ…う、うん」
ユウキも小声で、コクリと首を縦に振って返事をする。だが、ライトにはその声が彼女の足と同じように、僅かに震えているように感じられた。そう思ったからか、ライトは自然と問いかけていた。
「…怖いのか?」
「っ!?」
瞬間、彼女の肩が小さく跳ねた。その後は、足音だけが聞こえる静かな空気が流れていた。無言の返答は肯定という意味だ。フードの中でどんな表情をしているのか分からず、ライトは歩きながら彼女の返答を待っていた。ユウキが暫く黙っていると、小さな声でポツリと話し始めた。
「…ごめんね。こんなんじゃ、攻略の邪魔になっちゃうよね」
彼女自身も分かっているようだった。これから行われる、命を賭けた戦いに恐怖を感じている事を。
当然だ。この世界はもはや、もう1つの現実世界なのだ。命を賭けなければ、元の世界に帰る事は出来ないのだから。そこで、ライトは気になった事を質問した。
「なら、何でこのボス戦に参加したんだ?」
怖いのなら、《はじまりの街》で解放の時を待つという選択肢を選べば良い筈だ。しかし、彼女は《剣を取って戦う》という選択肢を取った。相当な覚悟と決意が無ければ出来ない事だと、ライトは今も思っている。
一体何が彼女をそうさせたのかと、ライトはそれが気になっていた。すると、ユウキがゆっくりと話し始めた。
「アスナを1人で戦わせたくないからだよ……アスナ、このゲームが始まってから、夢でうなされる事が多くなったんだ。そんなある日、ボクに『このゲームをクリアする為に戦う』って言ったんだ。止めようと思ったけど、無理だった。だから、ボクも戦うって決めたんだ。アスナはボクにとって、姉ちゃんみたいな人だから! それに、折角このゲームをプレイしてるからさ、楽しもうと思ったんだ……思ったんだけどね…」
そこまで聞いた時、彼女の声のトーンが更に低くなったと、ライトには感じられた。思わず隣に目を向けると、フードを被ったユウキが俯いていた。そして、小さな声で呟いた。
「やっぱり怖いんだ。ゲームオーバーになれば、本当に死んじゃうって考えたら」
ユウキの声色が、先程よりも更に低くなっている為、ライトはこれ以上聞くのは止めた。どうして彼女が震えているのか、その理由がやっと分かった。死に直面している状況下で、平常心を保つ事がどんなに困難か。ライト自身も、それは良く理解している。
雰囲気が気まずくなってしまい、沈黙が2人の間を支配していた。しかし、唐突にライトがその沈黙を破って、言葉を発した。
「暫定的とはいえ、パーティーメンバーはオレの目の前では絶対に死なせない……敵の攻撃は全てオレが防ぐ!」
「っ!////」
ライトにそう言われたユウキは、フードで見えない顔を少し赤くした。それは簡単に言ってしまえば、《君を守る》という歯が浮くような台詞だった。ライトも自分が無意識に言ってしまった言葉に、少し動揺していた。
「(っ…オレは一体何を)…すまない、変な事を言った。忘れてくれ!」
普段なら、絶対にそんな恥ずかしい台詞を言ったりしない。ライトは思わず、ユウキから顔を逸らしてソッポを向いた。そんな彼の反応に、ユウキはどこか、おかしさが込み上げてきた。
「…アハハ!」
さっきまでは、気を引き締めた口調で話していたのに、急に恥ずかしがっている様子に変わったのが、おかしくて笑ってしまった。
「…何を笑ってるんだ?」
彼女がどうして急に笑ったのか、理由が分からないライトは、訝しむ顔でユウキに訊ねた。
「ううん、何でもないよ……ありがとう」
小さく呟いた彼女の体は、もう震えていなかった。
はい、今回は以上です。
次回はいよいよ、第1層ボス戦が幕を開けます!