プライベートが忙しかったので、投稿できませんでした。
4人が主街区ウルバスに戻ってきたのは午後7時だった。辺りは夕暮れ時となり、沢山のプレイヤーが主街区を歩いている。
そんな中、キリトは肩を落として俯き、ライトも疲れたような顔をしていた。アスナとユウキの強化素材を調達する為に、2人は彼女達に付き合わされたのだ。いや、自分達から言い出した為、付き合う必要はあるかもしれない。
しかし、彼らが沈んだ顔をしている理油は他にあった。それは、ウインドワスプがポップする、フィールドへ向かっている最中の事だった。
アスナがウルバスのお店にデザートがあるから、どちらのチームが先に100匹狩れるか競おうと提案してきたのだ。この時、キリトとライトは大して気に留めずにそれを了承した。だが、アスナ達の狙いに気付いたのは、狩りが始まってからだった。恐らく2人は、あるレストランで食べられるケーキが狙いなのだろう。キリトとライトはそれは阻止しようと奮闘した。
結果は負けた。理由としてはアスナの細剣《ウインドフルーレ+4》が正確さ3、丈夫さ1にされており、ユウキの《アニール・ブレード+4》も正確さ2、速さ1、丈夫さ1となっていた。
対して、キリトの《アニール・ブレード+6》は丈夫さと鋭さに、それぞれ3ずつ。ライトの《アニール・ブレード+7》は丈夫さ3、鋭さ2、重さ2に振り分けられていた。どちらのクリティカルヒット率が高いかと訊かれれば、アスナとユウキの方に決まっている。
そこで2人は、アルゴからの情報を元に、あるクエストを行った報酬として《エクストラスキル》と呼ばれている《体術》を駆使したのだが、それでも2人には後1歩及ばなかった。そして、更に厄介な事に、今度はユウキの素材集めの時に、多く集めたチームが晩飯を奢るという事になったのだ。結果、2人は晩飯とデザートをアスナとユウキに奢る事になったのだ。
絶品のデザートであるショートケーキを食す為、4人は街を歩いていた。そんな中、道の両側に並ぶ屋台や、行き交う沢山のプレイヤー達とすれ違う事で、この街がとても賑わっている事がよく分かる。それが不思議に思ったのか、キリトが口を開いた。
「…今日、何かあったのか? 凄い賑わってるけど」
「確かにな…今日は何かの日だったか?」
ライトも不思議そうにしており、今日の日付に関連してそうな出来事を思い浮かべる。しかし、これと言って特に思い当たる節が無い。
「ここ数日は、ずっとこんな感じだけど? まさか君達、夜もどこかに隠れてるの?」
「え〜っと…」
「………」
アスナの指摘に思わず口を閉じてしまう少年達は、つい一昨日まで行っていたある事を思い出した。第2層で獲得できる《エクストラスキル》の《体術》の事だ。
転移門をアクティベートした2人は、アルゴから情報を買って、それを知った。早速、行ってやってみようと思った2人は、揃ってそのクエストを受けた。その事を思い出したキリトは、思わず苦い顔を浮かべてしまった。一方、ライトは特に表情を変える事はなかった。
「…まぁ、色々あってな……それより、今日は何か特別な日なのか?」
言いあぐねているキリトに代わって、ライトが短く答え、本題に戻る為に、改めて2人にそう訊ねた。
「まぁ、特別な日かな…っていうか、それは2人が作ったみたいなものなんだよ?」
「「…はぁ?」」
ユウキの答えに、意味が分からないと言った反応を示すキリトとライトだが、その反応を見たアスナがため息を吐きながら、街が活気づいている理由を話す。
「はあぁぁぁ…1ヶ月が経っても、誰も第1層すら攻略できなくて、不安だったのよ。それが、どこかのプレイヤー達によってボスが倒され、上に登れるって分かったら、みんな笑顔になると思わない?」
それを聞いたキリトは、複雑そうな表情を浮かべた。確かに喜ばしい事だが、ボスを倒したのが前線組から嫌われているビーターと知れれば、何を言われるか分からない。一方、ライトはそれを聞いても、まだ納得していない表情を浮かべている。
「…まだたったの2層だぞ、大袈裟じゃないのか?」
「「「………」」」
それを聞いた3人はある意味、呆然としてしまった。デスゲームの世界に囚われ、1ヶ月間何の進展もなかった状況が、はじまりの街で待っているプレイヤー達を、どれだけ不安にさせていたか、ライトは全く分かっていなかった。
「…ま、まぁ…人それぞれって事さ!」
「…成る程」
4人はそのまま歩き、NPCレストランへと向かった。
メインストリートを右、左に何度も折れ曲がり、漸くお目当の絶品デザートを頼む事が出来るレストランに辿り着けた。この店の情報はキリトから聞いていたので、1度は入っても良いかと思っていたが、ディナーに加えてケーキまでご馳走させる為に訪れるとは、夢にも思わなかった。
「(足りるか?)」
そんな事を思いながら、ライトはウインドウを開き、自身が所有しているコルの金額を確認する。隣のキリトを見ると、同じような事をしていた。4人分のディナー料理に加え、デザートのケーキまで頼んだ暁には、一文無しになっている可能性もなくはない。
「(まぁ、そうなったとしても、フィールドに出てモンスターを倒せば良いだけか)」
内心で呟き、前方を歩くユウキとアスナに視線を移す。2人は楽しそうに女子トークを繰り広げながら、お店の中へ入っていく。キリトとライトもそれに続いて入ると、4人分の席が用意されているテーブルに腰掛けた。
「…そう言えば、アスナとユウキはどうやってこの店を見つけたんだ?」
「アルゴさんから情報を買ったのよ。あんまり人が来ないNPCレストランはないか?ってね」
「そしたら、ここの情報を教えてくれたんだ!」
キリトの質問に2人はそう答えると、メニューを操作し始め、身に着けていたフード付きケープを除装した。艶やかな栗色と黒紫色の髪を一振りして、背凭れに体を軽く預ける。その仕草でさえ、優雅に思えてならないと、キリトは内心で思っていた。そんな彼の隣で、ライトが警戒心を含む口調で声を掛けた。
「情報を買うのは良いが、あいつとの付き合い方には気をつけろ。知らぬ間に、とんでもない個人情報を握られてしまうかも知れないしな」
「…じゃあ、ライトの個人情報を知りたいって言ったら、教えてくれるのかな?」
「いきなり何言い出すんだ、やめてくれ!!」
ユウキの予想外の返答に、ライトは思わず慌てる。勿論それを頼めば、手に入る可能性が万に1つでもあるかも知れないが、情報を買われた者からしてみれば、最悪でしかないだろう。
「…あははっ!」
そんなライトの様子に、ユウキは思わず笑ってしまった。初めて会った時から、見た目の割に妙に大人ぽかったが、さっきの慌てる様子は年相応の反応だと思える。
「…何笑ってるんだよ?」
「あっ、ゴメンゴメン!」
声色から、少し不機嫌になっているのを察したユウキは慌てて謝る。すると、ライトの横に座るキリトが、笑いながら口を開いた。
「ははっ、もしこいつの情報を全部買うなら、3,000コルは下らないと思うぞ!」
「だったら、キリト君の情報で試してみようかしら。君のもライト君と、そう変わらないんじゃない?」
「すいませんやめて下さい!!」
ライトを揶揄うつもりが、逆にアスナにそう言われてしまい、早々に負けを認めて頭を下げるキリトに、アスナも笑みを零してしまう。
そんなことをやっている間に、NPCが料理を運んできたので、4人は夕食を食べ始めた。サラダにシチュー、パンをあっという間に平らげると、タイミング良くお待ちかねのデザートが運ばれてきた。
「うわぁぁぁ!! すっごい大きくて美味しそうだね、アスナ!?」
「うん。アルゴさんの攻略本に載ってた《トランブンル・ショートケーキ》は試してみるべきって書いてあったけど、本当にその通りね!!」
それは、円柱から三角形を切り出した形になっており、一辺の長さが18cmもあり、高さが8cmの超巨大ケーキとなっていた。これ程までに大きいのかと、ライトは内心でビックリしていた。
「Tremble…名前の通り、正に身震いするほど大きいな」
流暢な発音でトレンブルの意味を呟く隣で、キリトが喚き始める。
「こ、こんなの全然ショートじゃないだろ!?」
「あら、ショートケーキのショートって、短いって意味じゃないのよ!」
「えぇっ!? そ、そうなのか?」
アスナの言葉に驚いたキリトだが、そんな彼にユウキが、続きを説明する。
「なんかね、ショートニングを使って、サクサクした歯触りをしたケーキって意味らしいよ。アメリカではビスケットを土台にしてたらしいけど、日本は柔らかいスポンジを使うから、意味は良く分からなくなっちゃったみたい!」
ユウキの説明を聞いたライトは、そう言えばそんな事を母親から聞いた事があるなと思い出していた。
すると、アスナが運ばれてきたケーキに少し大きいフォークを突き刺し、ザックリ切って綺麗な黄金色のスポンジが顔を出した。中は4層構造になっていて、クリームにスポンジ、苺入りクリームにスポンジと、大変美味しそうな代物だった。
しかし、悲しいかな。テーブルの上には、アスナとユウキの2人分の皿しか用意されていなかった。キリトとライトのコルを足しても、晩飯に加えてケーキまで加えると、1つ分が限界だった。奢るという約束をしてしまった以上、それを破る訳にはいかない。
「…俺達の事は気にせずどうぞ!」
「元々、そういう約束だしな」
2人がそう言うと、アスナとユウキは少しバツが悪そうな表情を浮かべた。そして、傍に置いてあったバスケットから、フォークを2本取り出すと、2人に差し出してきた。
「夕食までご馳走になった上に、私達が全部食べるのは、ちょっと申し訳ないわ!」
「だから、みんなで食べようよ!」
「…じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」
「右に同じく」
2人はアスナとユウキから、3分の1程度分けてもらい、トランブルショートケーキを堪能したのだった。
支払いを終えた4人は、レストランから出てきた。キリトとライトは、やはりと言った様子で項垂れており、あのケーキは当分、食べるのは止めておこうと決めた。
「ほんっと美味しかったね!?」
「また食べに来ようね、ユウキ?」
「うん、アスナ!」
「「っ!?」」
彼女達の言う通り、確かに中々に美味な味わいだ。絶妙な甘さとクリームの濃厚さが完全にベストマッチしており、また食べたくなる贅沢な1品だった。だが、今の少年達にそんな余裕は一切ない。次は勘弁願いたいと、2人は密かに思っていた。
「…それにしても、まさかこんな効果まで付くとは思わなかったな」
キリトはそう言って、自身の左端のHPゲージのすぐ横に出現した支援効果バフアイコンに視線を移す。
キリトによると、これはβ版には無かったシステムのようで、四葉のクローバーを図案化した《幸運判定ボーナス》が、4人のHPゲージにそれぞれ灯っていた。これは、今のSAOでは非常に重要なパラメータで、毒や麻痺、武器落下、転倒などの発生率。そして、レアアイテムのドロップ率にも好影響を与えてくれる。
「キリト、このバフの効果は大体どのくらいだ?」
「ざっと、15分ってところだな」
今からフィールドに出てモンスターを狩ろうにも、数十匹狩り終えた所で効果が切れてしまうだろう。それに使うのはナンセンスである。そして、それは少女達も理解しているようだ。何か良い使い方がないかと、思案していた
ーーーその時
「ねぇ、みんな!」
「「「っ!?」」」
唐突にアスナが口を開いたと思えば、彼女は腰に吊るしている細剣《ウインドフルーレ》を手に取ると、こう言ってきた。
「ちょっと、この子の強化に付き合ってくれない?」