SAO another story   作:シニアリー

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今年ももう終わりですね。



強化失敗のペナルティ

 

アスナから武器強化の付き添いを頼まれた3人は、主街区ウルバスの東広場に戻ってきた。もう既に暗くなっている為か、観光客は1人も歩いていない。

 

広場の片隅で灰色のカーペットを広げ、その上に鉄床と武器を陳列した棚を並べている、SAO初の鍛冶屋を見つけると、4人はそこへ歩いて向かう。

 

「…こんばんは!」

「まだお店ってやってますか?」

 

少女達が鍛冶屋に近付くと、カーペットに座っている地味な茶色の革エプロンを装備した、小柄な青年に声を掛けた。カーペットの横には看板が立っており、鍛冶屋の名前が書かれていた。

 

 

《Nezha’s Smith Shop》

 

 

「は、はい。いらっしゃいませ!」

 

10代の若々しい声が、青年から聞こえてきた。看板に書いてある《Nezha》が、恐らく彼のプレイヤーネイムだろう。鍛冶屋ネズハは、頭をぺこりと下げて4人に要件を訊ねた。

 

「お買い物ですか? それとも、メンテですか?」

「武器の強化をお願いします。私のとこの子の2つ、ウインドフルーレ+4とアニール・ブレード+4を+5に」

 

アスナは隣に立つユウキと自分の武器を、鍛冶屋に見せて頼んだ。

 

「…強化素材はどう致しましょうか?」

「持ち込みでお願いします。ボクのアニール・ブレードは種類を速さに、アスナのウインドフルーレは正確さだよね?」

「うん。それでお願いします!」

 

そのやり取りをしている中で、鍛冶師の声色が段々暗くなっていると、ライトは感じた。昼間の強化失敗事を思い出し、心配になっているのかと内心で予想するが、正確なところは分からない。

 

「…は、はい……素材の数はどうしますか?」

「上限までお願いします!」

 

2人は強化素材の個数を伝える。昼間の素材集めで、成功する確率が90%にまで上昇する数を持っているので、鍛冶屋にとっても決して難しい話ではない筈だ。

 

しかし、ネズハは更に困ったような口調になった。それが更にライトを困惑させるが、そんな調子ながらもネズハは強化依頼を引き受けた。

 

「…では、武器と素材をお預かり致します」

「お願いします!」

 

最初に強化を試すのは、アスナの細剣ウインドフルーレだ。彼女は剣と素材をネズハに手渡すと、メニューウインドウを開き、強化料金を支払った。そして、数歩だけ下がるとキリトの隣に立った。その時、キリトの体が小さく跳ねた。ライトが目をやると、アスナが彼の左手の小指と薬指を握っていた。

 

「…あ、アスナさん、これは一体?」

「……あなたの幸運バフも、ちょっと貸して」

 

ショートケーキの幸運バフは、戦闘で主に効力を発揮する。こう言った武器強化に働かせるには、鍛冶屋ネズハに直接食べさせるしかない。だが、そんな金銭的な余裕はどこにもないと、ライトが頭の片隅で考えていると、隣に立つユウキが口を開いた。

 

「それなら、ボクのも使って良いよ、アスナ?」

「ダメよ。ユウキだって強化するんだもの! ライト君、ユウキの分お願いね?」

「…分かった」

 

ユウキは自身の幸運バフもアスナに分けようと言うが、アスナはそれを断り、傍に立つライトに強化の際に支援バフを分けるよう頼んだ。

 

それを聞いたライトは内心、意味があるのかと思ったが、アスナのお願いという名の命令に何も言えず、その言葉を飲み込んで了承した。

 

ネズハは素材を溶かした炉の上に、ウインドフルーレを置いた。炉から放たれる鮮やかな青色の炎が、刀身を包み込む。剣が青色に輝き始めたのを確認すると、彼はすかさず鉄床に移動させ、金槌を掴み高く振り上げて槌音を鳴らした。

 

 

カアァァァァン!!

 

 

周囲に、甲高い金属音が響き渡った。ネズハはその後、何度もウインドフルーレに金槌を振るう。

 

成功の確率は優に90%を超えている。鍛冶屋にとっても、特に難しい仕事でも何でもない。寧ろ簡単と言って良いくらいだ。何回も槌音を響かせながら叩き続け、最後の1回である10回目を叩き終え、全ての工程が終了した途端、剣から眩い光が放たれた。

 

 

パアァァァン!!

 

 

儚く小さな金属音を響かせた、アスナの細剣《ウインドフルーレ+4》は、刀身から柄までの至る所から粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

目の前で起きた現象に、誰もが反応する事が出来ず、目を見開く事しか出来なかった。あり得ない光景を前に、全員の頭に驚愕の2文字が浮かぶ。強化失敗のペナルティは、武器強化の数値が1つ下がるだけで済む。例えそれが、どれだけ成功の確率が低くても変わりはしない。

 

「すいません!! 本当にすいません!! 手数料は全額お返し致しますので……本当に申し訳ありません!!!」

 

金槌を投げ捨て、勢い良く地面に額を打ち付け、土下座しながら謝罪をしてくるが、剣を失った当人のアスナと、傍に立つユウキは何の反応もない。そんな中、納得いかない様子で少年達が説明を求める。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 説明してくれ、こんな事はあり得ない!!」

「強化失敗のペナルティは、数値がマイナス1になるだけだろう!? ウインドフルーレ+4なら、1つ下がって+3になるだけで済む筈だ。それが、消滅しただと!?」

 

武器強化が失敗する可能性は、たったの5%程だった。それを引き当ててしまったのならまだ分かるが、武器が破壊されたのがどうにも納得いかない。2人はネズハに詰め寄り、この現象の説明を必死になって求める。

 

「……正式サービスで、新しいペナルティが追加された…のかもれしません。前に1度だけ、同じ事があって。多分、物凄く確率は低いんでしょうけど……本当にすいませんでした!!!」

「「…………」」

 

何度も地に頭を付けて謝罪するネズハを見て、攻め立てる事など出来なかった。ネズハの声からも、心の底から申し訳ないという思いが籠っていたから尚更だ。

 

だが、いくら謝罪してもアスナは何の反応も示さない。側に立つユウキが居なければ、今にも倒れてしまいそうな気がしたライトは、キリトと視線を交差させて同時に頷き、頭を下げ続けるネズハに向き直った。

 

「…もう良いよ」

「頭を、上げてくれ」

 

2人にそう言われ、ネズハはゆっくりと地面から頭を離したが、顔を上げる事はなかった。

 

「…本当に、何とお詫びして良いのやら…同じ武器をお渡ししたいと言いたいのですが、ウインドフルーレは在庫が切れてしまっていて。ランクは下がってしまうんですが、《アイアンレイピア》をお持ちになられますか?」

 

ネズハからの提案に、少年達の視線が再び交差し、それが後ろに立つ少女達にも向けられる。だが、アスナは首を縦に頷く事はなかった。それを確認した2人は、再びネズハに向き直った。

 

「…いや、大丈夫。それはこっちでなんとかする」

「そうですか。では、せめて手数料の返金を…」

「いや、それも必要ない!」

 

ネズハの言葉を、今度はライトが遮って続けた。

 

「あんたは一生懸命やってくれた。その気持ちだけで十分さ」

「っ……本当にすいません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人は、ウルバスの主街区を歩いていた。剣を失ったアスナは俯き、ユウキはそんな彼女の手をしっかり握っていた。その両隣をキリトとライトが歩いている。

 

街には誰1人歩いておらず、4人の間に沈黙が漂っていた。本来なら、何か言葉を掛けるべきなのだろうが、人付き合いが苦手なライトには、何の言葉も浮かんで来なかった。

 

暫く歩いていた4人は、視界の端に映ったベンチに腰掛けた。だが、誰も言葉を口する事はなかった。場の雰囲気がかなり重い中、唐突にキリトがゆっくりと口を開いた。

 

「……その、ウインドフルーレ残念だったけどさ、2層のマロメの次の街には、あれよりほんの少し強い細剣が店売りしてあるんだ。勿論、それなりに値は張るけどさ」

「オレ達が手伝えば、買えない代物じゃない筈だ……資金集めくらいしか、出来ないと思うけど」

 

これから攻略を進めていく為には、新しい武器が必要になってくる。すると、俯く彼女から悲しく、小さな声が聞こえてきた。

 

「……でも…でもあの剣は…私の事をずっと守ってくれた。あの子が居てくれたから、私はユウキと一緒にここまで来れた…ユウキを守る事も出来たの!」

 

彼女の瞳から大粒の涙が溢れて頬を伝い、それらがポタポタと零れ落ちる。それだけで、彼女があの消滅した剣を、どれだけ大切にしていたかが分かる。

 

「…アスナ、ボクだって同じだよ……この剣があったから、アスナと一緒にいるボクが居るんだって!」

 

ユウキは、腰に吊るすアニール・ブレードの柄に手を添えながら呟く。彼女もまた、アスナと同様に自身の剣を大事に思っていた。自分の命を守ってくれる相棒であるからこそ、大事にしなければと。

 

それが、いきなりパートナーを失ったアスナの気持ちを考えるだけで、胸が苦しくなると感じた。そして、キリトとライトもその気持ちは分かる。しかし、だからこそ伝えなくてはならない。何時の日か、別れる時が来る事を。

 

「……その、冷たい言い方になるけど、この先2人が上を目指すなら、武装は次々更新していかなくちゃならない。階層が増していく毎に、モンスターも強力になっていくから」

「SAOに限らず、RPGはそういうゲームなんだ。強くなるには、それ相応に見合った武器を探さないといけない。攻略を進めるなら尚更」

 

SAO開発者の茅場 晶彦よって、このような状況に陥ってしまった以上、必要なのは自身の強化だ。モンスターを倒せばレベルが上がり強くなるが、何時までも同じ武器を使える訳ではない。その武器が持ち主の力量に着いていけなくなるからだ。

 

だからこそ、このゲームをクリアすると決めたのなら、武器を変えていく必要がある。自分の武器を大切に思う彼女達にとって、それは厳しい選択だろうが。

 

「そんなのいや。だって、可哀想じゃない! 一緒に頑張って戦ってきたのに、捨てるなんて!」

「ボクもいやだよ、そんなの!」

 

やはり、彼女達は納得できないようだ。それだけ、自分達の武器を大切にしているという事だが、それではゲーム攻略は出来ない。そんな中、キリトはある事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その思い出は、彼が小学生の時、近所の子供達に自身の自転車をお下がりで渡す事になったのだが、彼はそれを嫌がり、当時、よく行っていた自転車屋の店主に匿ってくれるように頼んだ。すると、店主はキリトの自転車の1つのボルトを外してこう答えた。

 

『坊主、このボルトはな、自転車の部品の中で1番大切なものだんだ。こいつを2号機に取り付ければ、1号機の魂は受け継がれた!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グーサインをしながらドヤ顔をする店主に、呆気に取られた記憶を思い出したキリトは、アスナとユウキにある事を告げようと口を開いた。

 

「…剣とお別れする時が来ても、魂を一緒に連れていく方法はあるよ!」

「「っ!」」

 

キリトの言葉に、寄り添っていた2人が僅かに反応し、ゆっくりと顔を上げて説明を求める。すると、キリトは右手の人差し指と中指を立てて口を開いた。

 

「2つあるんだ。1つ目は、古い剣をアイテムストレージに保存し続ける事。2つ目は、その剣をインゴットに戻して、それを材料に新しい剣を造る事だ。でも、それにはデメリットもあるんだ」

「…デメリット?」

「それって?」

 

続きが気になった2人は、次の言葉を待った。

 

「1つ目のデメリットは、アイテムストレージの許容量が限られてくる。ダンジョンに入った時、アイテムを持ちきれなかったりもするな。2つ目は、モンスターから強力な剣がドロップした時、それもインゴットに戻して合わせて剣を造るから、コルが余計に掛かる点だ」

 

キリトが話した方法は、ライトも知っていた。以前、キリトに自身の剣を手放さずに済む方法はないかと、聞いた事があったのだ。すると、黙って説明を聞いていたユウキが口を開いた。

 

「…キリトやライトは、どっちを選ぶの?」

「俺達は後者かな。でも、ちょっと拡大して、防具やアクセサリーなんかにもしてるよ!」

「…そう」

 

小さく頷くアスナの顔は、まだ完全に悲しみが消えた訳ではないが、先程よりも少しは良くなったようで落ち着いていた。ユウキも彼女が少し元気になってくれた事に、安堵しているようだ。

 

「……せめて、壊れた剣の破片をインゴットに出来れば良かったんだけどね」

「「「………」」」

 

この世界では武器が破損すれば、それはモンスターがポリゴンと化すように全て消滅してしまう。悲しく囁かれた言葉が3人の耳に届くと、何度目か分からない静寂が包み込んだ。

 

「…ありがと」

「え…」

 

不意に、その言葉が聞こえた気がしたキリトが顔を上げると、そこにはベンチから立ち上がっているアスナが目に入った。

 

「そろそろ、宿に戻りましょう……明日、新しい剣を探すの手伝ってくれる?」

「当たり前だよ。一緒に探すよ、アスナ!」

「…勿論」

「…あぁ」

 

アスナからそう訊かれた3人は、当然のように答えた。その返答に安心したのか、アスナは笑みを浮かべ、4人と共に目の前に建つ宿へと歩を進める。

 

部屋を取ったのを確認すると、少女達は2階に上がっていった。そんな2人の後ろ姿を、ライトは剣が消滅した光景を思い出しながら、黙って眺めていた。

 

 

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