SAO another story   作:シニアリー

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今回は、アスナとユウキの武器登場回です。

では、どうぞ!


武器作成

 

ダンジョンを出た5人は、南の森へと向かった。黒エルフの野営地を目指す途中、浮遊城外周部から登る朝日が夜明けを知らせる。

 

濃霧を抜けて、黒エルフの野営地に辿り着いた5人は、周囲の警戒を解くと装備を外した。すると、騎士キズメルが、野営地の奥へ視線を向けた。

 

「ライト、キリト、ユウキ、アスナ。洞窟で見つけた徽章、そなたらが届けてくれないか?」

「あ、あぁ…それは構わないけど」

「よろしく頼む。命を落とした偵察兵は、指令の血族でな…報告の場に立ち会いたくないのだ。我儘を言ってすまない」

 

目の前の騎士もまた、1人の妹を失った。その痛みを味わったからこそ、肉親を失ったエルフの顔は見たくないのだろう。すると、少女達がキズメルに近付き、いたわるようにソッと伝えた。

 

「任してキズメル。ボク達がちゃんと司令の人に渡すよ!」

「だから、安心して…キズメルはこれからどうするの?」

「少し天幕で休ませて貰うよ。私の助けが必要な時は、何時でも声を掛けてくれ」

 

彼女はそう言うと、ゆっくりな足取りで天幕に戻った。そんな彼女の寂しそうな背中を、アスナとユウキは心配そうに見詰めていた。すると、キリトが2人に声を掛けた。

 

「大丈夫だよ。もう1度話しかければ、何時でもパーティーに入ってくれるからさ……多分」

「多分って……心配なら様子を見に行けば良い」

 

2人の少年が少女達に短く伝えると、彼女達はゆっくり頷いた。

 

「そうだね」

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

偵察兵の遺品を届けると、クエストログが進行し、女王毒蜘蛛の討伐を依頼されたが、キリトが持ち帰っていた《女王蜘蛛の毒牙》を見せると、問題なく素通り出来た。報酬として大容量のまじない付きポーチを頂くと、司令官の天幕を後にした。

 

「どうする? もう、何時でもキズメルをパーティーメンバーに誘えるけど」

 

後ろを歩くキリトがアスナとユウキ、ライトに訊ねる。 

 

「……暫く1人にしてあげたいかな」

「ボクも。何だか、すごく疲れてそうだったから」

 

それは、ライトも同感だった。NPCだと言うのに、そんな風に思うのはおかしいかもしれないが。すると、前を歩くアスナが口を開く。

 

「…後、先にやっておきたい事もあるし」

「えっ…何かあったけ?」

「うん…《武器作成》」

 

 

 

 

 

 

アスナの主武器《ウインドフルーレ+5》は、最大数値6まで強化可能だが、例え強化に成功しても、3層中盤までしか使えない。その為、彼女は主武器の細剣を更新する必要がある。その方法は、クエストで新しい剣を入手するか、使っていた武器を素材に変え、それを元に新しい剣を作るかだ。

 

「「「「………」」」」

 

後者を選んだアスナは3人を連れ、野営地にある鍛冶屋の前に立っていた。他にも道具屋や裁縫屋、革細工屋が見えたが、値段が高すぎると、ライトは早々に諦めた。そして、1番奥に立つ鍛冶屋に着いた。

 

「…フン……」

 

長髪を後ろで括った若い黒エルフの男は鉄床に向かって、金槌をひたすら振り下ろしていたが、ライト達を一瞥すると、軽く鼻を鳴らした。そして、何事もなかったように作業に戻る。

 

「…本当に大丈夫なの?」

 

アスナがキリトに視線を移し、小さく訊ねる。今から自分が大切にしてきた武器を元に、新しい剣を作って貰うのだ。心配になるのも仕方ない。

 

「大丈夫。武器作成に失敗はない筈…だから」

 

β時代との変更点。今までの経験から推測すると、失敗の可能性も考えられるが、少なくとも《武器破壊》と同じように、βでは《武器作成》に失敗のペナルティは無かったと、キリトが告げた。アスナは前に出ると、エルフの鍛冶屋に話しかけた。

 

「すみません。武器の作成をお願いします」

「フン…」

 

エルフからの返事はそれだけだった。すると、アスナの目の前にメニュー・ウインドウが出現し、《武器作成》のボタンをゆっくりと押した。そして、腰に収める剣を鞘ごと引き抜いて、それを見詰めた。そんな彼女に、不意に声が掛けられる。

 

「大丈夫だよ、アスナ」

「…ユウキ」

 

声を主は紫髪の少女、ユウキだった。

 

「その剣は、ずっとアスナとボクを守ってくれたんだもん! 姿形は変わっても、きっとこれからも守ってくれるよ!」

「…えぇ、そうね!」

 

ユウキの言葉で、アスナは迷いを断ち切った表情となった。新しい武器を作る事が、彼女達にとってここまで決意が必要な事なのか。

 

確かに、使ってきた武器は大切にしたい。だが、もし自分が彼女達の立場だった時、何の迷いも無く出来るかと、ライトは自問していた。

 

「…この剣を使って下さい!」

 

返事は無愛想な「フン」かと思ったが、以外にもエルフの鍛冶屋は、アスナが差し出したウインドフルーレを両手で丁寧に受け取った。そして、刀身を引き抜くと、それを四角形の鍛冶炉に突き立てた。

 

ウインドフルーレは剣先から柄まで光り輝き、直方体のインゴットに変化した。そして、一旦それを取り出し、必要な素材が入った革袋を投げ入れ、炎の色が変わったタイミングで、先程のインゴットも投入した。途端、その作業を見詰めていたアスナが、キリトの方に顔を向けた。

 

「キリト君…」

 

名前を呼ばれた彼は『どうしたんだ?』という表情を浮かべるが、アスナは近くまで来るようなジェスチャーをする。戸惑いながらも隣に並ぶキリトだが、不意に彼の人差し指と中指が柔らかい物に包まれた。

 

「…バフ頂戴」

 

その光景に、ライトは漠然とした既視感を抱いたが、目の前のエルフの作業に視線を移した。インゴットが十分に熱せられると、黒手袋をはめた左手で掴み、それを鉄床に移した。右手に持つスミスハンマーの感触を確かめると、鉄床に向かって叩き始めた。

 

カアァン!!

 

澄んだ槌音が、野営地に何度も響き渡る。

 

叩く回数は武器の性能によって変化する。弱ければ少なく、強ければ多くなる。初期装備の店で売っている武器は5回だ。そして、アスナが持つ《ウインドフルーレ》や、キリト達の《アニール・ブレード》は20回前後。だが、響き続ける槌音は25回を超えていた。

 

この時点で、《ウインドフルーレ》よりも強い武器が出来上がるのは確定だ。しかし、一向に槌音が止まる気配はなく、30を超えて40前半でやっと止まった。途端、純白に輝くインゴットが変形し始める。細く、長く、鋭く、美しく変形するそれは、再び眩い光を上げた。

 

光が収まると、鉄床に1本の細い剣が横たわっていた。全員がその剣に見惚れていると、鍛冶屋がハンマーを置いて手に取った。

 

「……良い剣だ」

 

一言呟き後ろのラッグに手を伸ばすと、数ある鞘の中から明るい灰色の物を掴み、その剣を鞘に収めてアスナに手渡した。受け取ったアスナがペコリと頭を下げる。

 

「ありがとうございます!」

「…フン」

 

アスナは剣の柄を握ると、鞘から引き抜いた。長く鋭い純白の美しい刀身は陽の光を反射させ、一種の神々しさを醸し出していた。

 

「綺麗……アスナ、名前は何て言うの?」

「ちょっと待ってね…名前は、《シバルリック・レイピア》って言うみたい」

「ごめん、ちょっと見せてくれ!」

 

アスナがタップした窓を確認する為、キリトが断りを入れてから覗き見た。名前の横に表示されている強化試行回数は当然0だが、その横の残り試行回数を見た瞬間、キリトが驚愕した。

 

「強化試行上限数は……15…15!?」

 

キリトは目を見開き、叫んだ。ライト達が持つ剣の強化回数は8回。つまり、この細剣は単純に考えて、彼らの剣の倍は強いという事だ。最大強化のアニール・ブレードは第4層まで使用可能だが、アスナの剣は4層どころか強化すれば7〜8層も余裕で使える。

 

「…どうしたのよ?」

 

キリトが驚いて固まっていると、アスナがそう訊ねる。我に返った彼は、首を横に振りながら答えた。

 

「い、いや…何でもない。ええっと、とりあえず更新おめでとう! けど、その武器は3層じゃあり得ないくらい超強い!」

「…超?」

「うん、超」

「「…ぷっ」」

 

聞き返したキリトの反応が面白かったのか、アスナとユウキが同時に笑みを漏らした。

 

「…きっとこの子となら、また戦っていけるわ!」

「それは良かった。でも、何でそんな武器が出来たんだ?」

 

不思議がるキリトに、ライトがある推測を伝える。

 

「あの鍛冶屋の腕が特別良いからは考えられないか?」

「いや、このクエスト自体は、受ければ誰でもここに来られるんだ。なのに、この層の倍以上も強い武器が作られたら、バランス崩壊も良いところだよ!」

 

キリトの言う通りなら、アスナの新しい剣は何回か強化しただけで、この層のモンスターを簡単に倒す事が可能という訳だ。そんな武器を大勢のプレイヤーが手に入れれば、ゲームバランスが崩壊してしまう。

 

「……なら、検証してみましょ?」

「へ?」

「検証って?」

 

アスナの言葉に茫然となるキリトと、どういう事かと訊ねるユウキ。ライトも説明を求める表情となった。そんな彼らに、アスナが続きを話す。

 

「もう1度剣の作成を依頼して、現象が再現するか確かめてみればいいじゃない?」

「…成る程……けど」

 

彼女の答えに納得したキリトだが、どうにも歯切れが悪い。何故なら、アスナが説明した方法を試すには、この3人の誰かが、自分の剣で試す必要がある。現状、3人が持つ《アニール・ブレード》は最大強化すれば、ギリギリ4層まで使える。だが、層を攻略し終えれば、新たな武器に変更する必要がある。

 

更新するタイミングは何時か訪れるので、今ここで変えるのは少々惜しいと、キリトは思っていた。ライトも同じように躊躇っていた。どうせなら、最後まで使いたいと考えていた。

 

「…じゃあ、ボクので試してみよっかな」

「い、良いの、ユウキ?」

「うん。何時かは、変えなくちゃいけないしさ」

 

ユウキの言う事も正しい。最大強化に成功しても、残り1層までしか使えないのだ。ならば、ここで新たな武器に更新した方が良いと考え、彼女は決断した。ユウキは腰に収めるアニール・ブレードを外し、それを目の前に持ってきた。

 

「…今までありがとう……だから、生まれ変わって、これからもボク達を守って!」

 

小さな声量で呟くと、ユウキは1歩前に出て、鍛冶屋に面と向かった。

 

「…鍛冶屋さん、この剣を使って武器作成をお願いします!」

「フン…」

 

相変わらず素っ気ない対応だが、アスナと同じように、丁寧に両手で剣を受け取る。鞘から刀身を引き抜き、剣先を鍛冶炉へと突き刺すと、アニール・ブレードは光を放ち、姿を直方体に変えていく。

 

革手袋をはめた手で取り出すと、ユウキから受け取った強化素材を投げ入れ、炎が変化したタイミングでインゴットを投入した。ライトがぼんやりと眺めていると、その指に突然の抱擁感を感じた。

 

「ライト、バフお願い」

 

数分前にもこの光景を見たが、口には出さずに黙って頷いた。

 

エルフ鍛冶屋は目もくれず、作業を進めるのみだった。インゴットの色が変わると、それを取り出しハンマーで叩き始めた。その回数は10回、20回を優に超えて、30回に到達した。そして、アスナの剣より少し多い45回で停止した。

 

叩き終えると、眩い光がインゴットから放たれ、その姿を変形させていく。《シバルリック・レイピア》よりも刀身の幅は太いが、《アニール・ブレード》よりは細い。刀身は濁りない、煌めくような輝きを放っていた。

 

「…良い剣だ」

 

鍛冶屋は同じセリフを口にすると、ラッグに手を伸ばし、彼女の髪と同じ黒紫色の鞘を手に取り、パチン!と収めて、ユウキに差し出した。

 

「フン…」

 

お馴染みの「フン」を添えて。ゆっくりと両手で受け取ったユウキは、柄に手を伸ばし鞘から刀身を引き抜く。全く濁りのない刀身は、アスナの剣と同じように見惚れるほど美しい。

 

「…キリト、あれは片手直剣に分類される武器なのか?」

 

ライトがそう思うのも無理はない。ユウキが持つ新たな剣の刀身は、片手直剣にしては細いが、細剣にしては太いのだ。

 

「あぁ。極細の片手直剣って言って、一応、分類には入るんだ!」

「…成る程な」

 

キリトの説明に納得したライトは、ユウキに近付いて声を掛ける。

 

「更新おめでとう。その剣のスペックを見せて貰って良いか?」

 

ユウキが頷くと、ライトとキリトは出現したウインドウを覗き見た。剣の名前は《リュナイト・ソード》と記されており、その横の試行回数を確認する。残された試行回数は、16回となっていた。

 

「また回数が増えただと!? やっぱりβの時と、設定が変更されてるのか?」

「だとしても、こんなスペックの剣が出来上がったら、この層のモンスター自体も強化されてないとおかしいぞ!」

 

ユウキの新たな剣《リュナイト・ソード》の試行回数に、ライトがそう推測するが、既に彼女の剣はこの層では有り余る能力だ。これでは、3層のモンスター達は容易に倒される。勿論、それが悪いという訳ではないが、危惧すべき事があるのだ。

 

「ねぇ、何でそんな疑問に思うの? 強い剣が出来たら、攻略スピードが上がるんだから良いじゃん?」

「そうね。私達の武器がそんな規格外のスペックになって、何か問題があるの?」

 

その質問だけで、彼女達がネットゲーム初心者だと言う事が良く分かると、2人は感じた。そんな初心者には説明が必要だ。

 

「確かに良い事だけど、もしその剣が何かのバグで偶発的に作られたなら、ちょっと危ないんだ!」

「…だから何が危ないの?」

 

アスナが訝しむように訊ねる。

 

「MMORPGって言うのは、製作した人達が常に何らかのバグが発生しないかどうかチェックしてるんだよ。キリトがさっき言ったように、2人の剣がバグによって作られたなら、GMである茅場が見逃す筈がない!」

「あぁ。もしあいつが2人の剣に気付いて、それがバグによって発生したなら、最悪消えて別の剣になってしまうかもしれないんだ!」

「「っ!?」」

 

そう。これこそが、彼らが危惧していた事なのだ。ネットゲームで不正を行い、それが運営側にバレた場合、それは製作したスタッフ達によって、データは凍結されるか、武器であれば消えて別の物になってしまう可能性がある。しかし、まだそうと決まった訳ではない。

 

「…まぁでも、2人の剣がバグによって作られたと、決まった訳じゃないしな!」

「確かに。もしかしたら、本当に設定が変更されただけかもしれないし……そこら辺は何とも言えないな」

 

バグかどうかを探る方法は無いので、何とも言えない。そもそも、この剣が本当にバグで作られたかも怪しい。すると、それを聞いたアスナとユウキが同時に声を上げた。

 

「「不安にさせるような事言わないでよ!!」」

「「ゔうぅっ!!?」」

 

2人揃って彼女達に怒られ、脇腹にエルボーを喰らった。確証もない事で、彼女達に武器が変わってしまうと不安にさせたが、何も手を出さなくても良いじゃないかと思った。

 

「…ふぅぅ……それで…2人はどうするの?」

 

落ち着きを取り戻したアスナがそう訊くが、2人の答えは決まっていた。

 

「俺はもうちょっとこいつで頑張って見るよ!」

「同じく。少なくとも更新するのは、最大強化に成功してからだ!」

 

同じアニール・ブレードだが、キリトのは強化数値が+6、ライトのは+7である。残り少ない数値なので、ここで武器作成を行うには惜しいと思っていた。

 

その後、4人はそれぞれの武器の強化を行う為、再びNPC鍛冶屋に頼み込んだ。限界まで成功確率を上げる為、ありったけの強化素材を渡した結果、全員の武器は無事強化に成功した。

 

少年達の剣は最大の+8に、アスナとユウキの剣は+5になった。重厚感の輝きを宿すそれぞれの剣に、思わず笑みが零れる。

 

「それにしても、あの鍛冶屋さんの事は結局分からなかったね?」

「そうね。どうにかして調べられれば良いんだけど…」

 

バグが発生したのか。それとも単に、あの鍛冶屋の設定が変更されたのか。後者なら問題ないが、前者であれば何か起こるかもしれない。解決の方法を探っているライトが、ある事を思い付いた。

 

「キリト、キズメルに訊くのはどうだ? 彼女なら、あの鍛冶屋の事を知ってるかもしれない」

「それだ!」

 

『パチン!』と、キリトが指を鳴らした。ライトの案に賛成した3人は、キズメルの天幕に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鍛冶屋を後にした4人は、キズメルの天幕を目指していた。兵舎エリアに入ると、南の端に建つ1つの天幕に近付き、黒い毛皮で出来た垂れ布を持ち上げる。

 

「こんにちは。キリトだけど、入って良いかな?」

「どうぞ。丁度、朝食の用意が出来たところだ」

 

すぐに返事が聞こえた為、4人は「お邪魔します」と言って中に入る。すると、途端にミルクのような香りが漂ってきた。同時に、黒エルフの騎士キズメルの姿に、キリトとライトは目を剥いた。

 

胸元が大きく開いた薄絹を羽織っているだけで、彼女のチョコレート色の素肌や胸の谷間が目に入る。その所為か、大人の女性の色気を匂わせる。キズメルの姿に、思わず見惚れてしまうライトだが、すぐ横から異様なプレッシャーを感じ、咳払いと共に話しかける。

 

「…急に邪魔してすまない、少し頼みがあってな」

「新たな任務ならば、喜んで同行するぞ!」

 

心強い事を言ってくれるので、実に頼もしい限りだ。

 

「ありがたいけど、出発はまだなんだ。その前に1つ教えて欲しい事がある!」

「ほう。ならば、食べながら話そう。用意するから待っていてくれ」

 

キズメルは立ち上がって、中央のストーブの上に置かれた鍋の蓋を開けて、おたまでかき混ぜ始めた。4人は中へ入り、敷き詰められた毛皮の上に腰を下ろす。おたまで鍋の中身をかき混ぜる彼女の姿に、ボーっと眺めてしまうキリトと、鍋の中身が一体何なのか気になるライト。すると、隣から囁き声が聞こえてきた。

 

「あんまり見てると、《ハラスメント防止コード》が発動するわよ!」

「…はっ?」

「へっ…それって、接触だけじゃなかったっけ?」

 

 

《ハラスメント防止コード》

 

 

男性プレイヤーが女性プレイヤーに対して、過剰に接触したりすると発動するシステムの事で、表示画面は女性プレイヤーしか確認できない。

 

もしYesのボタンを押せば、男性プレイヤーは1層の《はじまりの街》の黒鉄宮に強制転移される。更に、余りにも過剰に触り過ぎると、電気が走ったような不快な感覚に襲われ、ボタンを押さなくても強制的に転移されてしまう。

 

そのシステムの事は知ってるが、何故いきなりその用語が出て来たのか理解できないライトと、コード発動条件を確認するキリト。しかし、そんな2人に構わずユウキも囁き掛ける。

 

「あ〜あ、発動しちゃったねぇ。アスナ」

「えぇ、ほら5秒前」

「ライト、ここから出た方が良い」

「みたいだな」

 

カウントダウンが始まり、嫌な予感を覚えたキリトは、ライトを連れて天幕を出ようとする。ライトもカウントダウンが終わる前に出た方が良いと、立ち上がろうとしたが、アスナとユウキがそれを許さなかった。2人の腕を掴んで、強引に座らせたのだ。

 

「「3、2、1、コード発動」」

 

 

ゴス!!

 

 

「「ぐほぉぉっ!!」」

 

アスナとユウキの拳が、2人の脇腹をそれぞれ抉った。本日2回目であるが、ライトとキリトはどうしても思わざるを得なかった。

 

「「(何でこんな目に遭うんだよ!?)」」

 

2人同時に内心で叫ぶと、鍋の中身をかき混ぜていたキズメルが、振り返って微笑んだ。

 

「相変わらず、仲の良い事だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キズメルが作ってくれた料理は、乳粥と言うらしい。米と麦の中間のような穀物を牛乳で煮込み、塩で味付けして、ナッツやドライフルーツをまぶした物と話してくれた。温かい料理で食卓を囲む5人は、軽い談笑をしながら食べ進める。すると、キズメルが本題を切り出した。

 

「そういえばキリト、ライト、アスナ、ユウキ。私に聴きたい事があるのではないか?」

「あっ、そうだった…えーっと」

 

果たしてNPCが、プレイヤーの質問に答えてくれるかと考えたが、キリトは思い切って訊ねてみた。

 

「この野営地にある、鍛冶屋の事について何か知らないか?」

 

キリトの言葉を聞いたキズメルは、途端に微妙な表情を浮かべた。

 

「あれは気紛れなのだ。ごくたまに大変な業物を作ってしまう時がある。だが、頭ごなしな命令や不心得な注文では、なまくらしか出来ぬのだ」

 

キズメルの回答を聞いた4人は、顔を見合わせる。どうやら、彼女達の武器がバグによって作られた訳では無いようだ。事実、キリトとライトの剣も、最大強化に成功している。しかし、《頭ごなしな命令や不心得な注文》というのは恐らく、低品質な素材で剣を何百本も作る事だろう。それはキズメルが言った通り、不心得以外の何物でもない。

 

「ご馳走様、キズメル。とても美味しかったし、話の参考にもなった」

「あぁ。お陰で助かった」

「私達も、とっても美味しかったわ!」

「美味しいご飯をありがとう! また作ってくれる?」

 

最後にお礼を口にしたユウキが、上目遣いに恐る恐る訊ねた。それを聞いた彼女は、優しい微笑みを浮かべて頷いた。

 

「勿論、頼めば幾らでも作るさ!」

 

彼女の答えに、ユウキはアスナと顔を見合わせて笑顔を作った。そんな2人をキズメルは穏やかな目で見ていたが、サッと気を引き締めた表情になった。

 

「では、これからどうする? もう少し野営地で準備をしてもいいし、すぐに任務に出発してもいいぞ!」

 

その問いに、キリトは首を小さく横に振った。

 

「いや…俺達は1度、人族の街に戻らなくちゃいけないんだ」

 

 

 




今回は以上になります。

因みに、ユウキさんの剣の名前は、リュースラの騎士を組み合わせて作りました。
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