では、どうぞ!
『エルフのまじないで、3層主街区まで行ける手段がある』とキズメルから言われたが、4人はそれを断り、霧が出続ける峡谷を抜けて、深い森へ踏み込んだ。少し歩くと、黒エルフの旗が見えなくなる霧の濃さに、不安を覚えたのか、アスナが口を開いた。
「……ここ、ちゃんと戻って来られるんでしょうね?」
「もし迷子とかになったら…」
その隣で、ユウキが最悪の可能性を口にする。
「大丈夫…だと思うよ。マップにはマーキングされてる筈だし」
「「…思う筈?」」
確信の無いキリトの言葉に、懐疑的な表情をする2人の少女。念の為、自分達がどこにいるのか確かめる為、ライトが右手をスライドさせて、マッピングデータを確かめる。
「しっかりマーキングされてる、迷う事もないだろう」
グレーアウトされている場所に入ればそれまでだが、今のところ元来た道を進んでいるので、道に迷う可能性は低い筈だ。ライトの言葉に、一先ずアスナとユウキは納得してくれたらしい。
暫く進み続けていると、後ろを歩くユウキがか細い声を出した。
「ねぇ、このままクエストを続ければ、キズメルとは…」
そこで、彼女の声が途切れた。振り返れば、少し暗い顔で俯くユウキの姿が映った。
何時の間にか、彼女の存在がユウキにとって、大きなものになっていた。そして、それはアスナも同じだった。この世界と同じように作られた存在だとしても、彼女の優しい笑顔、言葉、それらは自分達と何も変わらない。そして、どこか1つのピースが欠けたような感覚を、キリトとライトも感じていた。
「…こんな事、思っちゃダメだね……何時かは、お別れしなきゃいけないし」
寂しさを押し殺してそう言う彼女に、アスナが顔を向けた。
「ユウキ、第2層で私が武器を一時的に失った時に言ってくれた言葉、覚えてる?」
「へっ…う、うん。覚えてるよ」
唐突な質問に、少し動揺しながらユウキは頷いた。第2層で強化詐欺の被害に遭い、一時的に剣を失い喪失感に襲われていたアスナに伝えた言葉だ。
「あの時、ユウキは私に『あの剣の事をずっと覚えていれば良い!』…そう言ってくれた。なら、私達がキズメルさんとお別れする時が来ても、私達が彼女の事をずっと覚えてれば良いじゃない?」
「っ…そうだね。ありがとう、アスナ!」
アスナの言葉に元気を取り戻したユウキは、明るく微笑んだ。アスナは優しく微笑み、ゆっくりと頷いた。そのやり取りに、ライトが隣を歩くキリトに訊ねた。
「…キリト、この先クエストを進めていく上で、βとの違いは出てくると思うか?」
「俺の見解だけど、十中八九出てくると思う。この2人が森エルフを倒した時点で、もう俺が知ってるルートとは分岐しちゃってるから!」
それを聞いたアスナとユウキが、途端に反論の声を上げた。
「ちょっと、私達だけが倒したみたいに言わないでよ!?」
「ライトとキリトだって攻撃してたじゃん!!」
彼女達の反論は半分正しいが、もう半分は違う。
「いや、ダメージ量の8割はそっちが与えたよ」
「オレ達はただ、奴の斬撃をパリィしてただけだからな」
2人の言い分も正論だ。あの戦闘中、少年達は森エルフのタゲ取りに徹し、その攻撃を防ぐか回避していた。そんな会話をしていると、前方から何かのサウンドが発生した。
キリトが立ち止まって、片腕を上げて指示を出す。茂みの奥からカサカサと音が鳴り、何かが近付いている。濃い霧の所為で、一体何なのか判別できないでいると、漸くそのシルエットを視認できた。低く長い影が、ゆっくりと4人に忍び寄る。
「狼だ。特殊な攻撃はないけど、HPが半減すると遠吠えで仲間を呼ぼうとする。ゲージが黄色くなったら、ソードスキルで一気に倒すぞ!」
「「「了解!」」」
4人はそれぞれの愛剣を構える。それが引き金となり、霧から近付く影が姿を現した。2mの体躯に、背中まで伸びる黄色いたてがみが特徴の狼だった。
モンスター名は《ロアリング・ウルフ》と表示されていた。濃い霧から出てきた2匹は、キリトとライトに向かって跳び上がり、ほぼ真上から迫ってきた。
「ライト、防御しようとするな! そのまま押し倒される!」
「分かった!」
ライト自身も薄々感じていた。2mの体躯が迫ってきて、果たして受け止め切れるかと。そして、キリトの言葉で確信に変わった。防御が駄目ならソードスキルで迎え撃つか、大きく跳び退くか、あるいはギリギリで避けて、カウンターを放つか。
「(ここだ!)」
上から狼が迫り、その牙が体に突き刺さる寸前、ライトは体を横に逸らして避けると、胴体を斬り裂いた。擦れ違いざまに攻撃を与えるのは、タイミング的に難しい。だが、逆に言えばタイミングさえ合わせれば良い訳だ。更に、空中では狼も無防備なので、避けられる可能性は低い。
「しっ!」
カウンターを受けた狼はHPを減らすも、再び襲いかかる。だが、飛び掛かった瞬間に、通常攻撃を2連撃と《体術》スキル単発水平蹴り《水月》が炸裂し、近くの木へ蹴り飛ばされた。それにより、HPが6割も減少する。
「スイッチ!」
背後からの言葉と同時に、ユウキが素早い動きで飛び出し、右手に持つ愛剣《リュナイト・ソード》を構えた。そして、一気に間合いを詰めて刀身を輝かせた。片手直剣2連撃ソードスキル《ホリゾンタル・アーク》が、狼の体を深々と斬り裂いた。
ソードスキルがクリティカルヒットした事で、狼はまたも吹き飛ばされ、樹木に叩きつけられた。残り6割だったHPが一気に減少し、残り2%で止まった。
「あ…」
「おい…」
「あ…」
「あら…」
近くから届いた声に目を向けると、キリトとアスナも、仕留めきれなかったらしく、5%残った。4人はすぐに動き出し、トドメを刺そうとするが、それより早く狼が頭だけを起こして吠えた。
「「アオオオォォォォンン!!」」
「「「「「ウオオォォォォン!!!」」」」」
四方八方から遠吠えが聞こえてくる中、ユウキとアスナがそれぞれ、ライトとキリトの方に顔を向けた。
「全部削り切れると思ったんだもん!」
「あんなに減るなんて思わなかったんだもん!」
起きてしまった事は仕方ないので、一先ず目の前の狼を倒すべきだと、ライトは剣を構え直した。
結論から言うと、4人はそれほど苦労しなかった。遠吠えで仲間を呼んだ2匹の狼を速攻で倒し、集まってくる狼達を迎え撃つ為、彼らは背中合わせとなった。お互いにカバーし、全ての狼を倒すと、剣を鞘に戻した。
最大強化に成功した《アニール・ブレード+8》は、十分な性能を発揮してくれたが、彼女達の武器が期待以上に活躍してくれたと、少年達は思った。
アスナの細剣《シバルリック・レイピア》と、ユウキの片手直剣《リュナイト・ソード》は、一撃のダメージ量がアニール・ブレードを凌駕している。そして、2人の剣が最大強化に成功した暁には、一体どんな風になるのかと思わざるを得ない。
「…ふぅぅ……確かに、バランス崩壊も良いところだな」
新たな愛剣を鞘に収める彼女達に、ライトは小さく呟いた。
「…頼もしい限りだよ」
第1層のボス戦で暫定的なパーティーを組み、その後も共に行動しているが、彼女達の存在が凄く頼りになっていると、キリトは感じた。
「2人とも、早く行こうよ!」
「モタモタしてたら、またあの狼が来るかもしれないじゃない?」
2人の言う通り、ここは樹木で囲まれた圏外だ。当然、モンスターは時間が経てば再湧出するので、すぐに移動した方が利口だ。
狼との戦闘を終えて数分後。突然、彼らの耳に『キィンッ!』と甲高い金属音が届いた。このフィールドには、武器を携えたモンスターは出現しない。考えられるのは、黒と白のエルフの戦闘か、どこかのパーティーがエルフクエストを受けたのか。それとも別の何かか。4人が顔を見合わせると、小声でキリトが言った。
「一応、様子を見に行こう」
「分かった」
「…えぇ」
「うん」
ライトは即座に頷いたが、アスナとユウキは少し遅れて同意した。
金属音がどんどん大きくなる。4人が戦いに巻き込まれないよう、ゆっくりと歩を進めると、ソードスキルの光が見えた。2手に分かれて、古木の奥で行われている剣戟を確認する為、木の幹に隠れて覗き見る。
最初に見えたのは、青地に銀の差し色が入った胴衣を着た、5人のプレイヤーだった。間違いなくリンド率いる《ドラゴンナイツ》のメンバーで、中央で曲刀《ペール・エッジ》を掲げる長髪の男がリンドだ。そして、その奥から絶え間なく響き続ける、剣の音が聞こえてくる。
視認しようとしたライトだが、茅場 晶彦のチュートリアルの所為で、現実世界と同じ低身長になった為、背伸びをしても見えない。
「…フフッ」
「っ?」
どうにか状況を確認しようとすると、後ろから妙な声が聞こえたので振り返った。そこでは、ユウキが両手で口を押さえていた。恐らく、背伸びをしても何も見えなかった事がおかしくて笑っているのだ。
彼はユウキを少し睨むと、再び前方に顔を向けた。頭の中で模索していると、古木の近くに大きな岩が落ちていた。
「…よし」
ライトはそれに乗って、戦闘を確認しようと決めた。岩に乗ってみると、漸く戦闘が見えた。すると、ユウキも習って岩に乗り、剣戟に目をやる。
そこでは、長髪を後ろで束ねた《フォレストエルブン・ハロウドナイト》が、何者かと激しく斬り結んでおり、リンド達は森エルフの後ろで待機している。
「あの人達も、《翡翠の秘鍵》クエストやってるんだね?」
「あぁ。しかも、森エルフ側だ。迷宮区を踏破していると思ったが、このクエストも受けていたんだな」
彼らの目的は、このデスゲームをクリアして現実世界に帰還する事だ。勿論、それは自分達も同じだが、迷宮区だけでなく、このクエストにも手を付けているとは意外だった。
そんな事を思う傍で、ユウキが複雑そうな顔をしていた。近くの1〜2m離れた古木に隠れるキリトとアスナも、同じような表情をしている。《ドラゴンナイツ》が受けているのが《翡翠の秘鍵》ならば、森エルフと戦っているのは間違いなく、ライト達と行動を共にしていた騎士キズメルだ。
このまま戦闘が進めば、双方が共倒れする展開が待っている筈だが、4人はそのシナリオを全く別の物にしてしまった。だが、もしこの展開がシステムの異常ではなく、追加されたシナリオだったとしたら。
「…どうする?」
ユウキが静かに訊ねる。しかし、『その黒エルフはもう少し頑張れば倒せる!』と伝えた所で、彼らは信じるだろうか。正直、リンドとはキバオウ同様に、関係が良好とは言えない。それに、彼らに手を貸すという事は、今も戦うキズメルを殺すのに手を貸すのと同義だ。ライトは少し離れた古木に身を潜めるキリトに視線を移した。
「…っ」
ライトの視界に、黒い瞳を向けるキリトが映った。すると、キリトは小さく首を横に振った。それが何を意味するのかを理解したライトは、ゆっくり頷き、後ろに立つユウキに声を掛けた。
「…行こう」
干渉する必要はないと判断したキリトの考えに、ライトも同じ意見だった為、特に反対しなかった。そして、ユウキも小さく頷くと、キリトとアスナに合流しようとした
ーーーその時
「えっ?」
「…どういう事だ?」
2人は我が目を疑った。半円形に並ぶ5人の奥で、森エルフと戦闘を繰り広げる黒エルフは、黒と紫の鎧を装備し、長いサーベルに小型のカイトシールド。浅黒い肌と紫の髪をしていたが、顔立ちは美しくも猛々しい男だった。
「ね、ねぇ…クエストを受ければ、同じNPCがまた出て来るんじゃないの?」
「その筈だが、これもβとの変更点なのか? いや、プログラムに変更を施したとしても、いちいち違うNPCを作り出す必要があるのか?」
クエストに登場するNPCを、常に変更する必要があるのかと思っていると、黒エルフは素早い踏み込みで、森エルフとの間合いを詰め、その体に下からの斬撃を叩き込んだ。森エルフは吹き飛ばされ、樹木に叩きつけられたが、黒エルフは追撃を仕掛けず、後衛で待機するリンド達に剣を向けた。
「全員、防御!」
リンドの指示により、5人は盾を構えたり、剣で防御の姿勢を取った。黒エルフは目を見張る速さで、彼らとの間合いを一気に詰めると、ソードスキルを発動させた。左から右に放たれた一閃はリンド達の武器と衝突し、火花と轟音が迸った。
完全防御姿勢を取っていた5人は誰も倒れなかったが、黒エルフの攻撃は一撃で終わらなかった。彼は体を回転させて、再びサーベルをリンド達に振るった。
ガアァン!!ガアァン!!
3回目の斬撃を受けた彼らは、その威力に耐え切れずに吹き飛ばされた。全員のHPがイエローゾーンに達すると、黒エルフは5人のうち、1番近くのリンドに歩み寄り、サーベルの切っ先を向ける。同時に、ライトは真横に立つユウキが飛び出しそうだと感じて、彼女の前に腕を出して制する。
「警告に従い立ち去っていれば、このような事にはならなかったものを。愚かな人間達よ……その愚かさを報いるが良い!」
黒エルフのセリフは、恐らくβ時代の《翡翠の秘鍵》クエストの本来の展開での言葉だと、ライトは考えた。その間にも、彼はリンドに向けてサーベルを掲げた。
リンドは左手に装備する盾でガードを試みるが、あの状態からでは、受け止められるとは思えない。黒エルフがソードスキルを発動しようとしたが、出来なかった。
「貴様の相手は私だ、リュースラの騎士!」
吹き飛ばされた森エルフが鋭く叫ぶと、即座に間合いを詰めて、再び斬り掛かった。しかし、黒エルフがその斬撃を受け止めた刹那、発生した衝撃波が周囲に広がり、鍔迫り合いに入る。だが、HP量が少ない森エルフが押し込まれていく。
「カレス・オーの聖大樹よ! 我に最後の秘蹟を授けたまえ!」
そう叫んだ彼の胸が、鮮やかな黄緑色に輝いた。その光は騎士の全身を包み込むと、『しゅばっ!』と音を立てて拡散した。その光は黒エルフのHPを根こそぎ奪い取り、森エルフをも巻き込んだ。
地面に倒れた森エルフに近付くリンド達に気付くと、彼は最後の力を振り絞り、何かを5人に伝えてポリゴンとなった。最後の光景だけは、古木に隠れる4人全員が目を瞑っていた。
戦闘が終了した途端、ライトとユウキはキリトとアスナが隠れる古木に近付いて、小声で話しかけた。
「お前が知ってるβと同じ展開、だな?」(小声)
「あぁ。本来なら、俺達もああなってたかもしれない。この2人が居なかったらな」(小声)
ライトの言葉に頷いたキリトは、後ろのアスナとユウキを見る。すると、彼女達は何故か複雑そうな表情となった。少年達は視線を前方に戻し、彼らの成り行きを見守る。
《ドラゴンナイツ》のメンバーは森エルフから最後のメッセージを受け取ると、彼が消滅した場所に現れた革袋を回収した。すると、1人の両手剣使いが地面に座り込んで声を出した。
「うあー、ビビったっつーのマジで!!」
ライトは、彼に見覚えがあった。第2層ボス戦が終了した時、強化詐欺によって武器を奪っていたネズハに詰め寄った《ドラゴンナイツ》サブリーダーの《ハフナー》というプレイヤーだ。
そして、そこには同じく強化詐欺の被害に遭った、ブロードソード使いのシヴァタも立っている。5人中3人の名前は知っているが、後の2人は見覚えがなかった。
「大丈夫だって、ハフさん。今のは所謂、負けイベントなんだから!」
ハフナーの肩に手を置いて声を掛けるのは、右手に鎖付きの打撃武器を装備している名前の知らないプレイヤーだった。
「んなこと言って、お前だって結構ビビってただろーが、ナガ!」
「そりゃちょっとはビビるって! あのエルフ、カーソルが赤通り越して黒いんだもん。あんなの初めて見たわ!」
「だよなー」
ライトは名前の知らなかった2人のうち、1人は聞く事が出来たので、もう1人を確認しようとした。しかし、そのプレイヤーを見た途端、ライトは言い様の無い違和感を覚えた。そのプレイヤーは、片手直剣《アニール・ブレード》を装備し、鎖が編んである頭巾を被っていた。
「(どこかで見たような)……っ!」
ライトはどこかで見た事があると、確信していた。これまで体験してきた出来事で必ず、あのプレイヤーを見ていると。そして、昨日のクエスト任務で《毒蜘蛛討伐》を引き受けた記憶に辿り着いた時、漸く思い出せた。だが、それには1つだけ欠点があった。
「(あの鎖付きの頭巾のプレイヤー…キバオウ達と一緒に居た)」
天然系ダンジョンで、キズメルと行動を共にしていた時だ。《アインクラッド解放隊》から身を隠そうと、キズメルのマントで難を逃れた時、ライトの目に止まった、最後尾に並ぶプレイヤーが被っていた頭巾が、数m先に立つ彼が被っている物とそっくりなのだ。
そして、その1つの欠点とは、ダンジョンで見かけた頭巾のプレイヤーは《片手斧》を装備していた。対して、《ドラゴンナイツ》と共に居る彼は《片手直剣》を携えている。普通に見れば、装備がよく似た別人だと思う。そんなプレイヤーが居ても、不思議ではないが、言葉に言い表せない何かが、ライトの中で燻っていた。
「(アルゴに頼んでおくか)」
そんな一抹の違和感を覚えたライトは、情報屋のアルゴにあの頭巾のプレイヤーの調査を依頼しようと思った。すると、リンドがメンバーの4人を1箇所に集合させ、何かを説明し始めた。
「……の話だと、この後は森の北にある……に行って、クエストを進行させ……次の目的地が、ギルド結成クエストと共通だから、先にそっちを進め……夕方には主街区で第1回の全体会議があるから、それまでにギルドを…」
どうやら《翡翠の秘鍵》クエストのこの後の展開を確認しているようだ。それを終えると、5人は拳を突き上げて北へと向かった。そんな彼らを隠れて見ていると、アスナが小さく囁いた。
「さっきの、どういう事?」
彼女が聞きたいのは恐らく、森エルフと戦っていた黒エルフの事だろう。キリトによれば、クエストを何回受けても、同じNPCが出現する筈だった。しかし、先程の黒エルフはキズメルではなく、全く知らない男の黒エルフだった。
「分からない。俺も、2人目のキズメルが出てくると思ってたけど……全く別人だったな」
キリトの言葉に3人は同時に頷いた。この場の全員、もう1人のキズメルが出てくる事を疑わなかった。
「…βの時も、同じキズメルが出てきたんだな?」
「あぁ。俺が参加したのは3回だけだけど、その全部がキズメルだった。けど、森エルフはβや俺達の時と同じだったな」
先程のエルフ同士の戦闘で、森エルフの外見は同じだった。容姿や性別を変えるにしても、片方だけを変える必要があるのか。すると、ユウキが3人に囁いた。
「もう1回誰かがクエストを受ける所を見たら、どうなるのかな?」
リンド達の場合は黒エルフが男だった。ならば、次のパーティーがこのクエストを受けた時、一体どうなるのか。検証してみたい所だが、それは出来ないようだ。
「確かめたいけど、これ以上ここに長居するのは危険ね。霧も出てきたし」
アスナの言葉に辺りを見回せば、西側の古木が白く染まりつつあった。このまま霧に飲み込まれれば、モンスターに遭遇した時に厄介だ。しかし、彼らが目指しているのは反対側の東側な為、まだ大丈夫だろう。
「そうだな。全体会議は夕方からって言ってたから、急ぐ必要もないだろう」
キリトの言葉に3人は頷くと、再び深い森の中を歩き始めた。