最近、リアルの方が忙しくなって、あまり書けませんでした。
今回は、主街区での話がメインです。原作のプログレと違い、ユウキに対するアスナの想いを後半に書いてみました。
森の小道を進んで5分、何度かモンスターと遭遇したが、アスナとユウキの新しい剣によって倒され、4人の前に太い丸太を並べて築いた壁が現れた。巨大なゲートにある小道の奥から、賑やかな声が聞こえてくる。
主街区が近付くと、アスナとユウキはフードを被った。ライトもまた、変装用のマスクでもしようかと考えたが、別にバレた所で圏内では何の問題もないので止めた。すると、前を歩くアスナがキリトに話しかけた。
「ねぇ、この街のオススメの宿ってどこ?」
「…う〜ん……あっ!」
顎に手を当てて考える仕草をするキリトが、何か閃いたような声を出した。
「良い宿を思い出した。付いて来てくれ!」
3人はキリトの指示に従い、歩いていく。ゲートを進む4人の目に映ったのは、3本の巨木が寄り添って立つ場所だった。直径は30m、高さは70mは軽く超えそうだ。
「…まさか、この中が主街区なのか?」
「イグザクトリー。内側は何層もくり抜いて町を作ってるんだ!」
キリトは3人に向かって、簡潔に説明する。3層の主街区《ズムフト》は、3本の巨木の中に町がある設定らしいのだ。中々に独創的だとライトが感じる一方、アスナとユウキは目を輝かせて見詰めていた。
「ねぇ、早く入ってみようよ!」
ユウキは興奮冷めやらぬ様子で呼びかける。アスナは先頭を行くユウキを追いかけ、少年達も後に続く。3層の転移門広場の北側には、1層の街の《トールバーナー》にあった半円形のコロシアムのような場所が見えた。
南東の巨大バオバフの根元から、少し上った入り口までは、幅広の階段が設けられていた。歩き進む4人が視線を辺りに移すと、攻略会議の掲示板が目に入った。
「攻略会議は午後5時からってなってるわね。だいぶ時間あいちゃいそう」
「先に部屋を借りてから考えようぜ!」
会議が始まるまで、時間を潰す必要があると思ったアスナに、キリトがそう提案した。異議なしと言った様子で頷く3人は、キリトの後に続いて自然の樹洞を用いた入り口を潜った。
4人の視界に入ってきたのは、外周に立ち並ぶNPCショップの大ホールだった。行き交う様々なプレイヤーと、NPCの談笑が耳に届く。そして、中央には天井を貫く螺旋階段が設置されていた。
「この建物全体が、一木造りって訳ね。彫るの大変だったでしょう」
アスナは目の前に映る光景を見ながら、感心するように呟いた。
「だよね。一体どのくらい掛かったのかなぁ?」
アスナの言葉に、ユウキが頷く。ゲームの世界である以上、GMの茅場 晶彦と制作スタッフが作り上げた筈だが、それを伝えるのは不粋かと思ったキリトが、2人に話しかける。
「このでかバオバフ……設定上は《ユーツリー》らしいけど、上の方に居る町長に話しかけると、この木を彫るのにどれくらい大事業だったのか教えてくれるよ。ギルドクエストの最初のミッションが、それだけどな」
「…ギルドの?」
「あぁ。2つの関係を説明すると、大昔に3本の木を掘ってた3つのグループが喧嘩ばっかりしててな。それを見兼ねた戦士兼鍛冶屋兼木工職人のおっさんが纏め上げて街を完成させて、その功績でどっかの層の王様から、ギルドリーダーの印章を授かったという…」
細かい所まで設定されているなと、ライトは感じた。茅場 晶彦が考えたのか、それとも運営スタッフが考え出した内容なのかと考えていたが、キリトの話はまだ終わっていなかった。
「で、そのおっさんの子孫が代々このズムフトの町長を世襲してきたんだけど、今の町長になってから大事な印章が盗まれて、それを取り戻すのがギルドクエストの大筋」
「「ふぅん」」
なが〜い説明を聞き終えたアスナとユウキは、興味も無さそうな反応を示した。すると、その反応にキリトがおずおずと訊ねた。
「あの…2人は、ギルド的なものに興味ない的な?」
「ないわ。今のところ」
「ボクも同じかな」
キリトの問いに、2人は即答した。この2人なら、どのギルドにもすぐに所属できる筈だ。美しい容姿だけでなく、才能溢れる戦闘スキルも合わせ持っていると、キリトが感じている傍らで、アスナが口を開いた。
「アルゴさんの攻略本で読んだんだけど、ギルドって、メンバーが稼いだお金の何%かを自動で徴収したりすんでしょう?」
「その集めたお金で、《ギルドホーム》って言うのを作る事も書いてあったかな?」
「ま、まぁね。というか、それがリーダーシギルのありがたい機能な訳で…」
「別にお金が惜しくて言ってるんじゃないのよ。そういう強権的っていうか、押し付けがましい感じが嫌いなだけ」
アスナの言葉に、キリトは納得した顔になった。恐らくアスナは…いや、アスナとユウキは、誰かから命令されるのが嫌いなのだろう。第2層のフィールドボス戦で『頭ごなしな言い方』をされたから戦闘を辞退したと、ユウキも言ってたから間違いない筈だ。
彼女達は意志が強く、周りの目を全く気にしない。何故なら、ビーターと呼ばれている自分達と行動を共にしているからだ。そんな事を思いながら、ふと視線を移した。その横では、何かを考え込むライトの姿があった。
「ライト、どうしたんだ?」
「別に。何でもないさ!」
ライトは短く答えたが、キリトは彼に違和感を覚えた。ライトが宿す緋色の瞳が、何かを訝しむ疑惑を含んだそれだった。問い質そうとしたが、先にアスナが声を掛ける。
「キリト君は、βテストの時はギルドに入ってたの?」
2ヶ月間、キリトはβ時代のゲームを体験していた。その時に、入っていたかもと思ったアスナだが、本人は首を横に振って答えた。
「いえ、入ってません。でも、俺は別に自動徴収が嫌だったとか、人の下につきたくなかったじゃなく、単純に効率が悪いから…SAOって、MMOにしちゃ珍しく、フルパーティーよりソロとかコンビの方が、経験値を稼げるんだよな…序盤だけかもしれないけどさ。βの時は、どこまで行けるかしか考えて無かったよ」
そう答えるキリトは、β時代の頃を懐かしんでいるように思えた。すると、今度はユウキがライトに声を掛けた。
「ねぇ、ライトはどうなの? βテストじゃないけど、他のMMORPGやってたんだよね? その時に、ギルドとかに入ってたの?」
「…………」
βテスターでないにも関わらず、この世界のゲームシステムを殆ど理解していると思ったユウキは、彼が他のMMOゲームをやっていたと思い、訊いてみた。しかし、ユウキが呼びかけてもライトは返事をせず、ずっと俯いていた。不審に思った彼女は、今度は声量を上げて呼びかけた。
「ライト!!」
「っ!? な、何だ?」
自分が呼ばれている事に漸く気付いたライトは、慌ててユウキ達に向き直る。
「だから、ライトは他のMMORPGで、ギルドとかに入ってたの?」
改めてライトにそう伝えたユウキに、彼は一瞬呆気に取られたような表情となったが、顔を伏せて小さく呟いた。
「…前のゲームで1度だけ、ギルドに入ってた事があるけど…色々あって抜けたんだ……それからは、ずっとソロだったかもな」
小さな囁き声だったが、3人には確かに聞こえ、見えた。寂しさと悲しみを含んだ声色と緋色の瞳を。何故、そんな悲しそうな表情をするのか。しかし、聞く気になれなかった。彼の瞳が、それを拒んでいるように思えた。そして、キリトはその瞳に見覚えがあった。
第1層の《ホルンカの村》で、リトルネペントが落とす胚珠を手に入れる《森の秘薬》クエストの時と、同じ目をしていた。キリトは何か声を掛けようとしたが、それよりも早くライトが言葉を発した。
「この話はもう終わりだ。それより、この上にある主街区に登るんだろ?」
ライトは無理やり話を切り上げると、人差し指で上方向を指した。例え、理由を聞いても、彼は答えようとしないと、キリトは感じた。ゲームの中では、プレイヤーのリアルの個人情報を聞き出すのはマナー違反でもある。そして、ユウキとアスナもライトが答えないと何となく思った。
「…そうだったね。行こっか?」
「うん、中がどんな風になってるのか気になるし!」
雰囲気が少し重たくなったが、話題を切り替えようと、笑顔を浮かべて提案するユウキに、アスナが微笑んで同意する。そして、異論なしと言った様子のライトとキリト。前方を少女達が歩き、それに少年達が付いていく。すると、アスナが質問してきた。
「1番上は20階だっけ? フロアによって宿泊料が違ったりするの?」
その問いに、キリトは首を横に振った。
「いや、部屋の広さと窓の有無で変わるだけ。上に行けば行くほど見晴らしが良くなるけど、上り下りが面倒なだけだよ?」
「了解…ユウキ、どうする?」
キリトの回答を聞いたアスナは、隣に立つユウキにそう訊く。
「ボクは1番上の階の方が良いな。アスナは?」
「私も賛成!」
楽しそうに相談を進める2人の少女達だったが、急に後方のライト達に振り返って、アスナが言った。
「って事で最上階で決まりね。先に言っておきますけど、天辺まで競争とかしませんから!」
「だ、誰もそんな事言ってないだろ!?」
「そもそも何でそうなる!?」
すると、2人の少年達が反論した隙を突いたように、アスナとユウキは螺旋階段の手摺に手をかけると、飛び越えてショートカットし、かなりのスピードで階段を登り始めた。
「あっ、ズリィ!!」
そう叫んだキリトは、ライトと共に急いで2人を追いかけた。しかし、スピード型の少女達に対して、キリトとライトはバランス型だ。軽い足取りで先を上がっていく少女達と比べて、少年達は頑張っている様子だ。そんな感じで階段を登り進めたが、結局アスナとユウキが、先に登り終えてしまった。その1秒後、キリトとライトが辿り着いた。
「ボク達の勝ちだね」
「……勝負をしないって言ったのはそっちだぞ!」
「あら、私達は走ってないわよ? 勝者の権利として、部屋は私達が決めるからね…えーっと宿の人は…あ、居た!ユウキ、行くわよ!」
そう言うと、アスナはユウキを連れて宿のNPCの所へ行ってしまった。そんな後ろ姿を、やれやれと見送るキリトとライト。宿のオーナーであろうNPCに近付き、どの部屋にするか空き部屋一覧表を見ながら相談し合っている。すると、1分程で話し合いが終わった。
「じゃあ、ここにしよっか?」
「うん、賛成!」
どうやら決まったようで、宿泊数を設定して支払いを済ませた。そして、少女達はキリトとライトに振り返って、眩しい笑顔を向けてきた。
「南側の良さそうな部屋を取れたわ。ちょっと高いけど、4人で割り勘すれば問題ない筈よ!」
「早く見に行こうよ!!」
2人に促され、少年達は移動し始める。フロアは中央に階段ホールがあり、外側に客室が二重の円を描くように配置されていた。アスナとユウキは窓がある外側を選んだようで、ドアに【2038】の番号が付いたノブを握って部屋に入る。
「…なぁ、ライト。どうすれば良いと思う?」
「知らん!」
キリトの言葉を、ライトはズバッと切り捨てた。彼女達とここまでやって来たが、一緒の部屋に入って良いのか迷っていた。しかし、この部屋1つを4人で割り勘するのだから、少しくらい大丈夫だと考え、ソッと部屋に入り、ライトも彼に倣う。
そんな2人に構わず、アスナとユウキは窓から見える3層の《迷いの森》と、外周部が一望できる景色を眺めていた。フードを外すと、心地いい微風が2人の髪をなびかせる。
「ライト、キリト。凄いよ!! 3層の景色が全部見れ…そ……」
「…ユウキ、どうし……」
彼女達の声が、そこで止まった。いや、漸く気付いた。自分達が取った部屋に2人の男子達が入っている事を。途端、2人は顔を真っ赤にして、何かを探るように左右を見回した。そして、テーブルに置いてあるフルーツを見つけると、それぞれ1つずつ手にとって、ありったけの声で叫んだ。
「「何でここに居るの(よ)!!?」」
「ぐはぁ!!?」「うおぉ!!?」
アスナが投げた何かはキリトの額に命中し、ユウキが投げたものはライトへ向かったが、寸前にしゃがむ事で回避した。しかし、2人はどうしても、こう思わざるを得なかった。
「「(理不尽だ!!)」」
キリトの額に命中した果実は半分に割れ、ライトに投げられた果物も同じように割れた。2人の少年は、それぞれ割れた果物をキャッチして試食する。
「…美味いな」
「どんな味なんだ?」
ライトが呟いた果物の味が気になったキリトが訊ねる。
「…イチゴとスイカを混ぜたみたいな味だな。そっちは?」
「食感はサクサクしてて、味はリンゴとナシとライチを混ぜたみたいな感じだ」
お互いに、そんな感想を交換して食べ進める。そんな2人を、アスナとユウキは息を荒げて見ていたが、この事態を招いた原因の半分以上は、自分達にあると気付いたようで、とても申し訳なさそうにしていた。
「ごめんなさい。どう考えても、あなた達の所為じゃないわよね」
「それなのに、2人の所為みたいな言い方して…すみません」
どうやら、かなり反省しているようで居た堪れない様子だった。しかし、全てが彼女達の所為ではない事も、彼らは理解していた。
「…2人だけの所為じゃないさ」
「まぁ、黙って付いて来た俺達も悪かったし…」
アスナとユウキに促されたとは言え、その前に一声掛けるべきだったと、2人は思っていた。しかし、少女達はいきなり怒ってしまった上に、物まで投げた事を、とても悪いと感じているようだ。
「キズメルの天幕に泊まった時の感覚で、つい入っちゃったから…俺達にも非はあるな」
「確かに。入るべきかどうか…声を掛ける必要があったな。すまない!」
自分達を促したのはアスナとユウキだが、付いて行ってしまったのも自分達なので、結局お互い様だと少年達は伝えた。
「ううん。2人をここまで引っ張ってきたのは私達だし…」
「…ごめんね、2人とも。それ投げて」
テーブルに置いてあった果物を投げてしまった事を謝罪するアスナとユウキ。一先ずこれで、この件は決着がついたと言える。すると、アスナが何かに気付いたように口を開いた。
「パーティーを組んでるメンバーなら、自由に出入り出来るのよね?」
「うん…そうだけど」
「なら、宿泊料はどうなるのかしら? 自動で均等割り払いになったりするの?」
アスナの推測を聞いたキリトは否定も肯定もせず、説明し出した。
「借りる時の設定次第だな。ウインドウに宿泊人数の入力欄があっただろ?そこが1人なら、全額自分が支払う。2人以上なら割り勘になる」
設定するだけでそうなるなら、ありがたいシステムだと思っていると、アスナとユウキが複雑そうな表情を見せた。2人の様子から察するに、4人で設定してしまったのだろう。幼いと言っても、年頃の男子達と同じ部屋なのは少し抵抗がある。
「大丈夫だよ、パーティー解散すれば俺達は別の宿を借りられるからさ。まぁ、支払い済みのコルを返金して貰わないといけないけど」
この宿を借りた時、人数の設定を4人で登録してしまったので、キリトとライトの財布からも4分の1の宿代が引かれている。宿決めをやり直すなら、キリトが言ったように、アスナとユウキからその額を返して貰う必要がある。すると、2人は揃って微妙な表情を浮かべたが、何やら小声で相談し合い、ライト達に向き直った。
「ここ、泊まるんじゃなくて、夕方の会議まで休むだけだよね?」
最初に口を開いたのはユウキだった。彼女の言う通り、この宿は泊まる為ではなく、攻略会議までの時間潰しの目的で取っただけだ。
「ま、まぁ…そうだな。夜にはダークエルフの野営地に戻りたいし」
「だったら、まあ……そーゆーことにしましょう?」
「…そういう事?」
アスナの言葉に、疑問符を浮かべるライト。
「だって、こんな高い部屋に泊まるなら兎も角、少しの間だけ休むなら、コルの無駄遣いは良くないわ。4人で割り勘した方がお得だし」
最上階の部屋だけあって、かなりの価格のようだ。ならば、4人ともに負担が少ない方がお得だと、少女達は考えた。今後の事を考えるなら、コルは貯めておいて損はない筈だ。アスナがそう宣言すると、部屋の両側に設けられたベッドの東側を指差した。
「私とユウキはこっちを使わせて貰うわね。後、念の為に言っておきますけど、ここんとこに境界線があるから宜しく!」
爪先で部屋の中央部分を縦になぞる。そう伝えると、アスナとユウキは自分達の領土に入って、防具やら武器やらの装備を解除していき、ベッドに腰掛けた。すると、上目遣いで少年達を見上げるユウキが、口を開いた。
「ボク達、ちょっと仮眠させて貰うね。ライトとキリトも休んだ方が良いと思うよ!」
「は、はぁ…」
「………」
この2人は本当に息がピッタリだなと、ライトは思った。外見はそこまで似ている訳じゃないのに、とても仲が良い姉妹のように見える。そんな事を考えながら、ライトは装備を解除して、ベッドに腰掛けた。隣では、キリトがゴロンと横になっていた。ライトは右手の人差し指をスライドさせて、ウインドウを出現させた。そして、作業を進めようとした時だった。
「ねぇ、さっきの話なんだけど」
ベッドで横になっているアスナの声が聞こえた。ライトは作業を中断して彼女達に目を向け、キリトも閉じていた瞼を開けた。
「さっき…と言いますと?」
彼女の言葉が何を指しているのか把握しかねているキリトは、逆に聞き返した。
「パーティーより、ソロとかコンビの方が経験値効率が良いって話」
アスナが口にした内容が意外だったのか、キリトは少し驚いた顔をしていた。
「…それが、どうかしたのか?」
キリトがベッドから上体を起こして訊ねると、アスナは少しの間、口を噤んでいたが、意を決したように真っ直ぐな瞳でキリトとライトを見据えた。
「…2人とも…もし私が足手まといだったら、そう言ってね。私は、私が私で居る為に、はじまりの街から出たの! 2層のウルバスからずっと一緒に戦ってきたけど、もし私が居る事で、あなた達の負担を増やしちゃってるなら、それは私が望む事じゃない……でも…」
そこで、アスナは再び言葉を詰まらせたが、すぐに真剣な口調で口を開いた。
「…1つだけ。もしそうなってたら、私をパーティーから抜けさせても良い…だけど、ユウキだけは「それ以上言ったら許さないよ、アスナ!」っ!?」
彼女のその言葉を、第三者が遮った。アスナはすぐ隣から聞こえた声に顔を向けると、そこには怒りの色を含んだ、黒紫色の瞳を宿したユウキが、真っ直ぐアスナを見詰めていた。
「あの日、はじまりの街を出る時に言ったよね?『ボクも一緒に付いて行く!』って。それは今でも、これからも変わらないよ! 2人がアスナをパーティーから解散させても、付いて行くって決めてるんだから! だから、そんな事言わないで……姉ちゃん」
「っ!?……そうよね…ごめんね。ユウキ」
アスナはユウキの事が心配なのだ。デスゲームとなったこの世界に囚われ、HPが0になれば本当に死ぬ。そんな状況で危機に陥った時、自分はユウキを守れるかと、思ってしまっていた。
しかし、アスナがユウキを守ろうとしていると同時に、ユウキもアスナを守ろうとしている。彼女の強い瞳が、それを物語っている。それに気付かせれたアスナは、先程の言葉を撤回して、ユウキに謝った。すると、そんな2人に少年達が声を掛ける。
「口を挟むような感じで悪いけど、少なくとも俺は、2人が足手まといなんて思った事はないよ。2人の新しい剣の一撃の威力は俺達を上回るし、戦闘センスや立ち回りも、俺から指摘できる所はない。むしろ、助かってるって言うか…」
「まぁ、オレも同じような意見だ。2人には才能がある。それは、他の誰にも無い、手に入れるのだって難しい…天性の才能ってものがな」
彼らの言葉は全て事実だった。4人で行動していて問題になった時は殆どない。ソードスキルの速さと正確さ、戦闘の身のこなし、理解力。それらは、他のプレイヤーと比べても飛び抜けている。すると、それを聞いたアスナとユウキの表情が、少し和らいだ気がしたと、ライトは感じた。
「なら、もう少しの間、宜しくね」
「それじゃ、ちょっとお昼まで休ませて貰うから」
2人はそう言うと、揃ってベッドに横になった。そんな時、ライトは先程の会話を思い返していた。ユウキに遮られたが、恐らくアスナは『自分が抜ける事になっても、ユウキだけは守って』と言おうとしたのだ。だが、彼女はそれをアスナに言わせなかった。それだけで、彼女達は強い何かで繋がっていると感じられる。多分、現実世界から2人は、とても仲が良かったんじゃないかと考えたが、その思考を即座に断ち切る。
「…ゲームの中じゃあ、マナー違反だな」(小声)
「何か言ったか、ライト?」
「…いいや、別に」
小さな囁き声だった筈だが、隣のキリトには聞こえてしまったようだ。問い掛けてきたキリトを適当にあしらうと、ライトは中断していた作業を進め始めた。
今回はこんな感じです。
宿での会話を終え、ライトが続けていた《作業》は何なのか?
それは、もう少し先で分かります。
次回は3層の攻略会議です。