キリトvsモルテ、ライトvsオリジナルキャラの《デュエル》回でございます。
狂気の刃が迫る中、2人の少年達は切り抜けられるのか?
では、どうぞ!
情報屋《鼠のアルゴ》と会談すると、とんでもない情報を握られてしまうと言われるが、色々な意味でそれは的を得ていた。
キリトがうっかり、少女達と行動を共にしている事を口走ってしまったが、本人は情報のネタにする気はないと言ってる。また違った意味で疲れたように息を吐いたライトは、黒エルフの野営地に戻ろうとした。
「…ライト!」
「っ…どうした?」
唐突に、後ろから声を掛けられ、彼は振り返った。すると、キリトの表情はどこか、曇っているように感じられた。暫くの沈黙の後、彼は話しを切り出した。
「…俺は今から、森エルフの野営地に潜入しようと思う!」
「っ…何だと!?」
キリトが話した内容は驚くべきものだった。現在、ライト達はエルフクエストの第5章《消えた兵士》まで終わらせている。そして、次の第6章の《潜入》では、《黒エルフの狼使い》と共に見つけた森エルフの野営地に潜り込み、そこで《命令書》なる物を盗む内容だ。
それは、キリトから聞かされているので、疑問に思う事はなかった。問題は、彼が1人で潜入しようとしている事だ。
「…β時代、俺は自分も含めた4人パーティーと、野営地で雇った黒エルフ4人の合計8人で、森エルフの拠点を強襲して、第6章をクリアした。本当なら、今回もそうすべきなんだと思う…でも俺は、アスナとユウキ、キズメルに…森エルフの寝込みを襲うなんて真似はさせたくないんだ!……お前にも」
「………」
キリトの言い分に、ライトは思った。目の前に立つこの男は、とても優しいんだと。そして、彼以上に心優しい少女達に、そんな辛い事はさせたくない。しかし、彼だけが負担を背負うのも間違っている。
「…オレも行くさ。お前だけに任せるのは忍びないからな!」
これまで共に行動してきているのだ、自分だけ野営地に戻るなど言えない。それに、黒エルフ側に付いている自分達は、森エルフにとっては敵も同然。そんな場所に、キリト単身で何か起こった時、対応できないかもしれない。
「…ありがとな」
共に来てくれると聞いたキリトは、どこか安心したような顔で感謝したのだった。
少年達は、暗い森の夜道を共に歩いていた。キリトの話では、この第6章のクエストは剣を抜く必要がないかもしれない。《潜入》というだけあって、森エルフが持つ《命令書》なる物を盗み出すだけだ。
β時代では《隠蔽》スキルを取得しているプレイヤーが取ってくるのがセオリーだった。幸い、キリトもライトもそのスキルを取得している上に、熟練度もかなり高い。
デスゲームに変貌した状況を考えれば、危険な行為だろう。だが、キリトはどうしても、彼女達に強襲はさせたくなかった。そして、ライトも彼の考えを理解したからこそ、共にここまで来た。
「後で、あの3人に酷く説教を受けそうだな?」
「その時はその時だ!」
パーティーメンバーである以上、クリアした事は伝える必要がある。しかしその場合、彼女達からかなり長く、きつい説教を受けるかもしれない。それを覚悟した上で、2人は目的地を目指す為、夜の森を歩き続ける。
彼らの前線キャンプ地は、迷い霧の森を東西に流れる谷川沿いの丘上にあるが、半円形に立てられた柵に、出入り口は一箇所しかない。
「ライト、裏に回るぞ。そこからなら、上に登って潜入できる」
「了解!」
馬鹿正直に正面から入ろうとすれば、森エルフの衛兵に見つかって戦闘になる。故にキリトは、β時代の潜入ルートを使おうとしていた。2人はキャンプ地から少し離れた場所から谷に降り、目的のブツが回収できる天幕の真下に向かった。そこからなら、重装備の戦士以外なら、案外楽に登れるとの事だ。
2人は丘を南から西へ回り込み、緩やかな傾斜を探して谷底に降りた。すると、そこから水が流れる音が聞こえる。流れる細い川に目を凝らすと、魚影が時々目に映る。ここまで忠実に再現しているクオリティーに感心したライトだが、今はそんな場合ではないので、意識を切り替えようとした
ーーーその時
「…ライト」
「分かってる!」
突然、キリトがライトを呼び止めた。対してライトも、まるで彼の意図を理解しているような口振りで答えた。2人は立ち止まると、キョロキョロと辺りを見渡した。
ゲームマスター、茅場 晶彦の手で制作された《ナーヴギア》は、この世界から受けた信号を脳へ送り届けている。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚と言ったそれらに反応して、プレイヤーは初めて何かを認識する。そして、それは現実世界でも同じだ。辺りにはモンスターの影も、何か匂いがする物がある訳でもない。なのに何故、2人は急に立ち止まって辺りを見回したのか。
それは彼らが、《何者かに見られている》感覚に襲われたからだ。しかも、1人ではなく複数人からの視線を。加えて、背筋に冷たい何かが走ったような気がしたのだ。本来、それを感じる事はあり得ない筈だが、言い表せない何かが2人の足を止めさせた。
「…っ!」
ライトが四方八方に視線を漂わせていると、ある1点で止まった。熟練度が100に達した《索敵》スキルのmodに、新たに加えた《看破力ボーナス》によって、その場所から薄っすらと光る輪郭が2つも映った。
「キリト!」
「あぁ、俺も見えてる!」
隣に立つキリトに呼びかけると、彼も気付いたようで、その場所を睨んでいた。だが、あの光がダミーの可能性もあるので、ライトは周囲にも気を張っていた。2人が同じ場所を見詰め続けていると、暗がりから2つの人影が、じわりと現れた。
カーソルを確認すると、プレイヤーを示す緑色だった。続いて見えたのは、ダークグレーの鱗片鎧だった。金属製でない鱗模様のそれは、光沢のような濡れた輝きを宿す。手足には、同じ素材のグローブとブーツ。武器は腰に吊るす片手直剣。そして、頭から肩にかけて覆う鎖頭巾を装備していた。
そして、もう1人の男の方は鎖ではないフードを目深に被っており、口元には刃物で切られた切り傷が見え、腰には緩やかなカーブを描く曲刀が見えた。
「…お前達は」
キリトの口から低い唸り声が出た。2人の前に現れたのは、DKBの新しいメンバーにして、先程アルゴの口から聞かされた《モルテ》と名乗る謎多きプレイヤーだった。もう1人は初めて見るプレイヤーだが、彼らがこの場に現れるなど、全く想定していなかった。
「(何故こんな場所に? いや、それよりも何故《隠蔽》スキルを発動させて隠れ続けていた?)」
モルテがこの場所に現れたと言う事は、キリトとライトがここに来ると見当が付いたからだ。どうして分かったのかは不明だが、それよりも怪訝すべきは、《何故、モルテ達は2人が現れてもハイドを解かなかったか》という事だ。これではまるで、いきなり奇襲を仕掛けようとしていたと思われても仕方ない。
「いやあ、バレちゃいましたー」
「…中々鋭いな」
この場に似つかわしくない、どこか子供っぽさが残る明るい声が聞こえた。その横のプレイヤーからは重く野太い、迫力ある声が届いた。モルテは鱗模様の鎧で拍手する素振りを見せたが、音は立てなかった。
「さすがだなー。この距離で、この暗さで看破されたの初めてですよ。しかも、2人同時になんて。それに、眼じゃなくてカンで気付きましよねー最初! まさか《第六感》とかですか?」
ふざけた口調で話すDKBの新人プレイヤーのモルテに、ライトは緋色の瞳を鋭くさせて観察する。装備は腰にある片手直剣、顔は鎖頭巾の所為ではっきりと見えない。体格はキリトと同程度に対して、曲刀を装備したプレイヤーは、身長も体格もモルテより一回り大きい。
「そっちのデカイあんたは知らないけど、鎖頭巾を被ったあんた、DKBのモルテだよな?」
キリトが先程と同じ、低く唸るような声で確認を取る。こちらが姿を見せても、《隠蔽》スキルを解除しなかった相手に、警戒を抱いても不思議はない。
「おー、主街区に寄り付かなかったのに情報が早いですねー。おっしゃる通り自分、モルテってもんです。名前の由来はとってもモルテから、じゃないんですよねー、あはははー」
2人の第一印象は、『何なんだこいつは?』だった。かなりふざけた奴なのは間違いないが、それよりもライトは正直、この男達とは深く関わりたくないと思った。彼の本能がそう警告しているのだ。目の前の男達から僅かに感じ取れる異質な雰囲気に。特に、曲刀を装備した口元に切り傷がある男に。
「こっちは名乗る必要もないか。どうやら、俺達がここを通ると読んだ上でハイドしてたみたいだな。」
「あっは、やだなあー、それじゃまるで自分ら、キリトさんとライトさんを待ち伏せてたみたいじゃないですかー」
シラを切るような言い分だと、ライトは思った。実際に、彼らはこの場所に隠れて、ライト達が来るのを待っていたのだから。
「みたいじゃなくて、そのものじゃないのか」
隣でキリトが続けるが、ライトは内心で腹が立っているのではと、彼の声を聞いて思った。すると、モルテは笑みを浮かべたまま、奇妙なダンスを踊りながらあっさりと肯定した。
「ま、実はそうなんですけどねー」
「…リンドの命令か?」
ここまで、ずっと黙っていたライトが口を開いて、問い掛けた。
「あははー、まあ、あの人なら素質はありそうですね。でも、今回は自分の独断ですよー。だって、《ビーター》じゃないリンドさんが、もしかしたら、キリトさんとライトさんがここから登ってくるかもしれない、なんて分からないじゃないですかー。」
この場所は、βテスターだけが知っている場所だ。黒エルフ側を選んだプレイヤーであったとしても、攻略本にこの場所は記されていなかった。ましてや、森エルフ側を選んだプレイヤーが知っている筈がない。《βテスト版を経験しているプレイヤー》ならば、話は別だが。
「…お前達の片方は…いや、もしくは両方がβテスターだって事か。ここでオレ達を待ち伏せていたのが、その証拠だろ?」
「《ビーター》で良いですよ。バカっぽいですけど、自分は好きですよー。あ、この人はあんまり気に入ってないそうなんですけどねー。知ってます?《ビーター》って、英語だと《泡立て器》って意味なんですねー。かき混ぜちゃって良いですかぁ色々と、あはははー」
どこまでもふざけた口調だが、ライトは隣に立つキリトの表情が、少し険しくなっている事に気付いた。恐らく、内心ではイライラしているのだろう。すると、モルテの隣に立つ男が口を開いた。
「相変わらずふざけた口調だな、お前は」
「えええー、これは生まれつきですよ。兄貴ー」
どこか、相手を圧するようなその低音に、モルテは平然とした様子でペラペラと続ける。
「俺達を待ってたなら、早く用件を言ってくれないか? 控えてるクエストをクリアしないといけないんだ」
「生憎だが、今日はお前達には帰って貰うぞ」
「…何だと?」
大柄な男の言葉に、ライトとキリトは我が耳を疑った。彼らが言う用件とは、今から行う《潜入》クエストを中止しろ、という物だった。しかし、2人とも素直に首を縦に振る訳がない。
「ここまで来て、大人しく帰れる訳ないだろ? そもそも、オレ達がクエストをクリアして、そっちに何のデメリットがあるんだ?」
この《エルフ戦争》クエストは、進行状況がパーティー間で共有されない。ライト達のパーティーが《潜入》クエストをクリアしても、その状況は他パーティーにリンクされない。
「…それが、あるんですねー。残念ながら深くは説明できないんですが。っていうか、説明できるならハイドなんてしてませんよー」
「……なんだって?」
モルテの言葉に反応したキリトが、踏み込んだ問いを返す。
「それはつまり、こういう意味か? お前達がここでハイドしてたのは、俺達を呼び止めて交渉する為じゃなく、実力行使で妨害するつもりだったと…」
「やだなぁ…そんな事したら自分ら、犯罪者フラグ立っちゃうじゃないですかぁー。色々と面倒ですよー」
フリフリと腰を振りながら、キリトの言葉を否定するモルテだが、彼の次の言葉に、キリトだけでなくライトも懐疑の念を抱いた。
「でもでもほら、ここで1曲披露するぐらいならフラグは立たないですよねー?自分、歌うの結構好きなんですよー。どっかの街にカラオケあったら通いまくりですねー!」
「…どういう……」
「……何を言って…」
そこで、彼らは察しが付き、目付きを鋭くさせた。もしキリトとライトが彼らに気付かず、そのまま森エルフの野営地に潜入していたら、モルテと男はどうしていただろうか?
モルテの口振りから推測するに、恐らく彼らは、キリトとライトが野営地に入ろうとしたタイミングで、叫ぼうとしたのだ。そうすれば、眠りに付いていた森エルフ達が一斉に起き、2人に向けて襲い掛かって来る。
「……《MPK》を仕掛けるつもりだった、のか?」
デスゲーム初日に味わった、あの日の出来事がライトの脳裏に蘇る。しかし、余計な記憶は不要だと、すぐにその光景を掻き消し去ったが、モルテは悪びれる様子もなく続ける。
「そんな物騒な話じゃないですよ。自分らただ、ほんの1日だけクエストを止めて欲しいだけなんですよぉー」
彼はそう言うが、MPKを仕掛けてきたかもしれない男の言葉に、素直に従う事は簡単に出来ない。
「…その1日で、一体何が変わるっていうんだ?」
「それを話したところで、お前達は決して納得しないだろう……そして、このまま話し合ってもお前達は引くつもりはないと見受けられる」
ライトが彼らの真意を探ろうとするが、曲刀を装備した男がその質問に答えなかった。そして、男の言う通り、このまま話し合っても双方が退散する様子はなく、並行線を辿るだろう。
「それじゃあ、β時代と同じ方法で決めましょうかー。超クールで超エキサイティングなアレを。ギルメン同士の問題が起こった時なんかにやったアレをねー!」
モルテが一体何を言っているのか、納得した反応を示すキリト。そしてライトも、察しが付いたようで緋色の瞳を細めた。デスゲームが始まって何日か経ったある日、βテストでの様々な出来事を聞いた中で思い当たる節があった。
「…本気か?」
「自分、何時でも本気スイッチ全開ですからぁー」
モルテは決闘《デュエル》をしようと言っているのだ。
《デュエル》
従来のMMORPGにも実装されている、プレイヤー同士が戦うシステムの事だ。β時代のSAOでは、揉め事が起こった際に行われていたと、キリトから聞かされていた。だが、今のSAOでデュエルをするのは躊躇われる。
「…デュエルをすれば、どっちかが本当に死ぬんだぞ!」
この《ソードアート・オンライン》は、ただのゲームではない。《仮想世界の死》が現実世界の死に直結する。そんな状況の中で、デュエルをしようと考える者はまず居ない筈だ。
「…お望みとあらば……って、うそうそ、ウソですよー。いくらなんでも、完全決着モードなんてヤバすぎるじゃないですかー。でもでも、半減決着モードなら全然安全ですよぉ。あはははー」
それを聞いたライトは、キリトから得た内容の細部を思い出す。何時だったか、ライトがこの正式版とβ版の違いを細かく聞いた時、デュエルに関しても得ていた。HPが先に半分ほど減ったプレイヤーが負けとなる《半減決着モード》は、確かに死ぬ事はない。
だが、命の数値が削られる事に変わりはない。ましてや、ここはHPの安全が保証されていない圏外だ。もし大ダメージを喰らえば、HPの残量がレッドゾーンに達する事もある。不測の事態が起きた時、最悪0になる可能性も考えられる。
「(だが、ここで拒否したとしても、奴らはオレ達が野営地に入ったタイミングで、さっき言ったように叫ぶだろうな)」
そして、ライトが思っているように自分達がNoと言って、森エルフが拠点にしている野営地に入っても、彼らは大声を上げて、MPKを仕掛けると予測できる。どちらにしても、クエストをクリアするには彼らの条件を飲むしかない。
「…どうする?」(小声)
ライトは極力、小さな声でキリトに訊ねた。彼らの言葉に従って、黒エルフの野営地に帰還する事も出来る。この第6章のクエストの《潜入》は、別に急いでクリアする必要はない。
「…このまま野営地に帰るって選択肢もあるけど…そうなれば、奴らがここに潜んでた理由は分からないままだ。今日、俺達がこの場所に来るって事を奴らは知らなかった筈だ。つまり、奴らは何時来るか分からない俺達をずっと待ってた、って事になる」(小声)
モルテ達がこの場所で潜伏していて、都合よくライト達が現れたとは考えにくい。情報屋のアルゴに頼めば待ち伏せ出来るが、それなら彼女から《2人の情報を買った奴が居る》と教えられる筈だ。先程アルゴの口から教えられなかったという事は、キリトが言ったように、彼らはこの場所で、長時間ハイドしていたと分かる。なら、その目的とは一体何なのか。
「…なら、聞き出さないとな?」(小声)
ライトの言葉に、キリトはしっかりと頷いた。
「…分かった、デュエルを受けよう。ただし、あんた達にはもう1枚チップを増やして貰う」
「あれれー、ツッコンできますねー」
キリトが新たに条件を提示すると、モルテは首を傾げた。
「当然だろ? こっちが負けたらクエストを中断するのに、そっちが負けてもただ帰るだけじゃ釣り合わないぜ!」
デュエルによる勝敗で、どちらかがこの場を去ると同意したが、モルテ達は負けても、この場を去るだけで済む。少年達の目的は、あの2人の真意を明らかにする事だ。故に、キリトは提示した条件の内容を言い放った。
「きっちり納得のいく説明をして貰うぞ。何でこんなマネをしたのか?」
それを聞いたモルテは、首と上半身をふらふらとさせたが、すぐにカクンと首を上下に振った。
「わーっかりましたぁー。理解して頂けるか分かりませんけどぉー」
「…良いだろう」
モルテに続いて、大柄な男もキリトの条件に同意した。
そんな中、ライトは違和感を覚えていた。奴らはわざわざ長時間この場所に隠れ続け、2人を待っていた。そして、クエストを中断して欲しいと言ってきた。しかし、それが容認できない為、デュエルで勝敗を決め、敗者がこの場を去ると合意になった。
それ自体に、ライトは特に異論はない。彼が引っ掛かったのは、何故《半減決着モード》のデュエルを申請してきたかだ。ここはプレイヤーの命の数値を表す、HPの安全が保障されていない《圏外》だ。うっかり、大ダメージを与えるソードスキルを発動させてしまう可能性も無いとは言えない。それを考慮すれば、指定してきた《半減決着モード》ではなく、攻撃が1発クリーンヒットすれば終わる《初撃決着モード》の方が遥かに安全だ。
更に言えば、モルテ達は出来るだけ、ライト達を通させたくない筈だ。この場所で長い時間、身を隠していたのがその証拠だ。《半減決着モード》は《初撃決着モード》よりも、戦いが長引く可能性が高いと考えられる。戦う者同士が手練れなら、勝負は拮抗するが故に長引く。そして、ライトはもし自分が彼らの立場なら、《半減決着モード》は申請しないと判断する。
何故なら、なるべく情報を与えずに終わらせたいからだ。現状、モルテ達は2人の戦闘スタイルをよく知っている筈だ。対して、ライト達は殆ど何も知らない。その時点で、情報面で不利になってしまっている。その利点を活用して一気に攻め込めば、勝てる可能性は大幅に上がる。なのに何故、勝負が拮抗してしまう可能性の高い《半減決着モード》を選んだのか。
そんな事を頭の中で考えていると、キリトの声が聞こえた。
「…場所を変えるぞ。少し上流に行った所に、河原が広くなってる場所があった筈だ」
「らじゃらじゃー。」
この場所で剣戟を繰り広げれば、戦闘音が響き渡り、森エルフが起きてしまう。それを避ける為に、キリトは提案した。特に反論はない様子でOKしたモルテと、頷いた男は移動を始めた少年達の後を追う。30分も歩くと、円形に広がる河原がある場所に出た。中央に移動したキリトが、モルテと男に向き直って口を開いた。
「それで…どっちが俺の相手をするんだ?」
どちらが対戦相手となるのかを訊ねたキリトだが、帰ってきた返答に驚かざるを得なかった。
「それじゃあ、自分がキリトさんの相手をしますよー。ライトさん、あなたにはこの人と戦って貰いますよぉー」
「「っ!?」」
モルテはそう言って、真横に立つ口元に切り傷がある男を指差した。だが、問題はそれではない。何故、ライトまでもが戦う必要があるのかという事だ。
「必要ないだろ? そっちのどっちか1人が俺と戦って、負けた方が引く。それで良いじゃないか?」
「いやあー、あの攻略組最強の1人のライトさんの実力を見てみたいんですよねぇー、どうしても。自分ら、1層と2層のボス戦でのあなたの活躍を見てないんで、どのくらい凄いのか。自分もこの人も気になってるんですよぉー。あはははー」
ライトの実力を確かめる為と言うが、そんな事をしなくとも、今後行われるボス戦で共闘する機会もある筈だ。その時に拝見すれば良いのに、命の危険が蔓延る圏外でデュエルを要求するのは何故か。目の前の男達は謎が多すぎるが、ここで要求を却下すれば、モルテ達は通してくれない。奴らの企みを暴くには、了承するしかない。
「…分かった。受けよう」
それを聞いたモルテと大柄な男は、僅かに口元をニヤリと緩ませた。一方、キリトは心配そうな顔でライトに向き直った。
「ライト…」
「ここで引けば、奴らの企みは分からないままだ……心配するな。オレは負けない!」(小声)
キリトは、β時代にデュエルを経験している。だが、ライトは初心者のビギナーだ。故に、この世界での経験は皆無。彼の戦闘能力の高さはキリトも理解しているが、この世界の対人戦は1度も経験していない。だが、デスゲームと化したこの世界で、最も長くコンビを組んでいる相棒の言葉を信じようと、キリトは思った。根拠は無いが、彼の力強い声と鋭い緋色の瞳を見れば。
「…分かった」
それ以上の言葉は不要だと、キリトは短く答えた。話が纏まったところで、対戦相手であるモルテに声を掛けようとした時
「…キリト」(小声)
「っ…」
極小さな声だが、ライトが呼びかけている事に気付いた。
「どうした?」(小声)
「……気を付けろ。もしかしたらモルテは、《隠し球》を持ってるかもしれない」(小声)
「か、隠し球?」(小声)
ライトが放った言葉を耳に、キリトは眼だけを動かしてモルテに視線を送る。彼はただこちらを向いて、腕組みをしながらニヤニヤしているだけだった。すると、キリトがある事を思い出し、ライトに訊き返す。
「それは、お前がアルゴに訊いてた情報と、関係があるのか?」(小声)
「…確信は持てない。だが、十分に注意しろよ」(小声)
「……分かった。そっちも気を付けろ!」(小声)
キリトの言葉にしっかりと頷いたライトは、彼から少し距離を取り、曲刀を装備する大柄な男と対峙する。
「…ふ、良い目をしている」
「…………」
大柄な男は、緋色に染まったライトの瞳を見て言った。そんな中、ライトは冷静に相手を観察していた。左腰に吊るされた長い曲刀と、黒のフードを目深に被り、焦げ茶色の上着と灰色のパンツ。足首より少し上まである革製のブーツを履いている。装備はそこまで質が高いとは思わないが、その性能は見ただけで判断できない。すると、目の前に1枚のウインドウが出現した。
【Rortem から1対1のデュエルを申し込まれました。受諾しますか? Yes / No】
「(…ローテム、か?)」
それが、対峙する男のプレイヤーネイムで間違いない。だが、今は名前よりもこのデュエルに集中する必要がある。情報面では、まず間違いなくライトが不利だ。対峙するプレイヤーの戦闘スタイルが未知である以上は、まず相手の出方を探るしかない。そこから、ローテムの戦闘スタイルを把握し、勝利の糸口を掴む。
しかし、恐らく対峙するローテムもまた、ライトがその戦法を取ると考えている筈だ。敵の戦闘スタイルを知っているのと、そうでないとでは大きく違う。ならば、ライトは一体どうするべきか。
Yes/Noボタンの上に、デュエルのモードを選択するチェックボックスがある。ライトは3つの中から、真ん中の1つの《半減決着モード》をタップし、最後にYesのボタンを押した。すると、ウインドウの表示が変化し、60秒のカウントダウンが開始された。
これがライトにとって、この世界で初めてのプレイヤー同士が戦う《対人戦》PvPとなる。相手は設定されたアルゴリズムで動くモンスターではなく、柔軟な思考を持ったプレイヤーだ。ライトはゆっくりと右腕を持ち上げ、背中に背負うアニール・ブレード+8を引き抜いた。そして、右足を少し前に出して半身を取り、剣を中段に構える。
対するローテムは、左腰に吊るされた曲刀に左手を添えただけの自然体の構えだった。それを見た途端、ライトの目付きが鋭くなった。彼が幼い頃、亡き祖父がこう言っていたのを思い出した。
『相対する敵が全く情報のない初見の者だった場合、基本的には相手の出方を伺い、反撃の糸口を掴む……だが、もし相手がお前の戦い方を熟知しているなら、《相手の出方を伺う》という基本には囚われるな!』
祖父が言った言葉は、この状況と限りなくリンクしていた。ライトの戦闘スタイルがローテムに知られているに対し、ライトはローテムの事を全く知らない。そして、35秒経った後でも、抜刀する様子も見せないという事は、出来る限り情報を与えずに、初撃で終わらせたいと予測できる。それが意味するのは即ち、《奇襲》を仕掛けようと考えている可能性が高い。それも、大幅にダメージを与えられるソードスキルで。
勿論その事は、デュエルが始まってみなければ分からない。だが、もしローテムが奇襲を考えているなら、早速ライトは受けに回る訳にはいかない。戦闘が始める前から既に、殆どの面で不利に立たされている。カウントは残り25秒となったが、ローテムはまだ武器を抜かない。ソードスキルでの奇襲を想定するなら、曲刀カテゴリーの中でも突進技に分類される《フェル・クレセント》か、それとも違うソードスキルか。
カウントダウンは残り15秒を切った。奇襲か、それとも違う戦法か。どちらにせよ、ローテムに主導権を握らせる訳にはいかない。ライトは自然体で直立する相手を冷静に観察し続ける。10秒に到達すると、ぴっ、ぴっ、という効果音が耳に届く。残り4秒、ここで遂に、ローテムが鞘から曲刀《イミーティス・フェルマ》を引き抜き、その得物から光が放たれる。
「(っ…この距離でソードスキルか!)」
ライトもまた、中段に構えていた剣を左腰に添え、体を転倒寸前まで前方に傾ける。瞬間、両者が恐ろしい程の速さで一気に距離を詰め、中間辺りにあった小川に【DUEL】の表示が出たタイミングで剣同士が衝突した。
ガキイィィィン!!!
両者の視界が一瞬だけ光に包まれ、凄まじい火花が散った。曲刀突進ソードスキル《フェル・クレセント》と片手直剣突進ソードスキル《レイジスパイク》が衝突し、生じた激しい斥力が2人を吹き飛ばした。1〜2mも吹き飛ばされたが、ライトは踏ん張ると、再びローテムに向かった。対する彼も素早い動きで踏み込み、ライトに斬りかかる。上からの攻撃は下から相殺、突き技は線を外し、そこからの薙ぎ払いは剣で弾く。
「(強い!)」
ローテムの剣戟を捌きつつ、攻撃を与えるライトが内心で呟いた。斬撃その物が速く、重く、鋭い。的確に急所を突こうとする剣技で、只者ではないとすぐに分かる。更に、突き技と見せかけて、上からの振り下ろしのフェイントも繰り出す。しかし、ライトもただ受けに徹している訳ではなく、相手の斬撃を逸らし、無駄な動きを減らして素早く攻撃に転換する。今はただ、目の前の相手と周りの状況だけに集中する。
「はぁ!」
「ふん!」
幾度となく2つの金属がぶつかり合い、大量の火花が散る。ライトはフェイントも交えた無駄のない、素早く精度の高い斬撃を放つが、同等の精度を持った斬撃でパリィされてしまう。力では僅かにローテムが上、素早さでは僅かにライトが上。剣技の能力は殆ど互角だった。
「(ちっ…このままじゃ、相打ちになる可能性もあるな!)」
現時点で双方のHPは殆ど減っていない。だが、鋭い斬撃を躱しても僅かに体を掠める為、ジワジワと削られる。ライトが考えている通り、このまま剣戟を続けてもジリ貧になるだけだ。
激しい戦闘を続ければ、徐々に集中力も切れるが、ソードスキルを仕掛けるのは躊躇われる。何故なら、技を全て躱されれば、硬直時間が発生して、その隙を突かれる。ローテムの戦い慣れた身のこなしを見れば、隙が大きいソードスキルは無闇に発動するべきではない。
「はあぁ!!」
ライトはローテムの胴体に目掛けて、剣を上段に振るう。それはバックステップで躱されるが、そこから更に踏み込み、左斬り上げからの袈裟斬りを放つ。だが、ローテムはその剣戟を弾くと、反撃と言わんばかりに、斬撃の嵐を振るう。しかし、ライトはその斬撃を見切って躱す。
双方が互角の戦いを見せる中でも、ライトが剣戟の嵐を全て掻い潜り、奴の斬撃を弾いて、懐に潜り込もうとした刹那、唐突に違和感を覚えた。自分が追い込んでいる筈なのに、何故か奴が薄ら笑いを浮かべている。と同時に、身体中を悪寒が駆け巡った。踏み込もうとした途端、ローテムが左手で何かを投げつけた。
「くっ!?」
ライトは体を回転させ、間一髪で回避に成功した。そして、ローテムからすぐに距離を取る。
「今のを避けるとは、中々良い動きだ。そして、見事な剣技。流石は攻略組の筆頭格だ」
「……投擲用のナイフ、か」
そう話す奴の左手には、その武器が握られていた。もし、今の奇襲を受けていたら、一瞬の隙にソードスキルで大きくHPを減らされていた筈だ。しかも、そのナイフが残り何本あるのかも分からない。まだ何か隠している可能性があると考え、ライトは剣尖を構え直す。
「はあぁ!」
「しょうっ!」
少し離れた場所で、キリトとモルテが凄まじい剣戟を繰り広げていた。モルテの武器はキリトの剣と同じ《アニール・ブレード》で、業物のような輝きを放っていた。恐らく、最大強化+8に成功しているその剣が、突き技となって襲いかかる。しかし、キリトはそれらの攻撃を、パリィやステップで確実に回避していく。
攻撃の手数はモルテの方が上だが、キリトは慌てている様子はない。初撃こそ、突然の奇襲で不意を突かれたが、自慢の反応速度で防御に成功し、完全に集中力を取り戻すまで受けに徹しているのだ。
「しょああっ!!」
モルテが甲高い声で叫び、強引な突きを放った。キリトはそれを右斜め前に踏み込んで回避したと同時に、左からの斬撃をモルテに仕掛ける。鱗模様の鎧が斬られ、モルテのHPが削られた。
「しゅっ!!」
戦闘前までニヤけていた表情が消えた。キリトは間合いを詰めようと、素早くモルテに踏み込む。いきなりの奇襲をしてきた為、これ以上トリッキーな攻撃をする前に勝負を終わらせようと思ったのだ。
モルテはスラント気味の斬撃を繰り出すが、キリトはそれらを丁寧に捌くか、躱している。モルテを後退させながら攻撃していると、小さな水音が響いた。川縁までモルテを追い詰めたと判断すると、更なる追撃を仕掛けようとする。
ばしゃっ!
大きな水音がキリトの耳に届いた。気が付けば、モルテは川に大きく踏み込み、右足を使って水を蹴り上げた。水しぶきで目くらましと予想したキリトはステップで後方に跳び、次なる迎撃に備える。すると、水しぶきを境にして、紫色の光がキリトの目に映る。
「っ…(ソードスキル…じゃない!)」
彼が捉えた光は、メニューウインドウが発するものだった。それが意味するのは、使っている武器を違う武器に変えたという事だ。恐らくモルテは今、武器を装備していない状態だ。右手でウインドウ操作は出来ず、武器を左手に持ち替えた訳でもない。つまり、川に落としたのだ。好機だと考えたキリトは、一気に距離を詰めようとした
ーーーその時
『気を付けろ。もしかしたらモルテは、《隠し球》を持ってるかもしれない』
「っ!?」
キリトの脳裏に、ライトの言葉が思い出され、踏み込もうとする足を抑えて、舞い上がった水滴が落ちる前に距離を取った。それと同時に、『シュワッ!』という音が聞こえた。見ると、先程まで何も無かった筈のモルテの左手に、丸い盾《ラウンド・シールド》が握られていた。
「(あれが、ライトが言ってた《隠し球》?……いや、違うな。あの一瞬で武器をすり替えたって事は、モルテは《クイックチェンジ》を使った。そして、アニール・ブレードを捨てた右手には新たな武器がある筈だ。多分それが…《隠し球》!)」
モルテのウインドウ操作能力がどれだけ高くとも、あの一瞬で武器を変更するなど不可能だ。そう考えるなら、キリトが思っている通り、モルテは《クイックチェンジ》を使用したと推測できる。そして、川に沈んだアニール・ブレードを見れば、右手には新たな武器がある筈だ。しかし、左手に装備されている《ラウンド・シールド》の所為で視認できない。
「ひゅうっ!!」
モルテはシールドを構えながらキリトに迫る。対するキリトは、ライトが言っていたモルテが持つ《隠し球》を探る為に、少し距離を取る。
「しゃおおっ!!」
新たな武器を持つ右手が、黒い蛇のように閃く。今までと同じ縦斬りを予想したキリトは、右側に体を動かそうとして気付いた。モルテの攻撃の軌道が縦ではなく横であると。
迫り来る何かを必死に防ごうと剣を動かし、間一髪間に合ったが、それは剣ではなく肉厚の刃が突き出た、片手用斧《ハーシュ・ハチェット》だった。
「ぐああぁ!!」
まさかの武器に驚く暇もなく、今度は想像以上の威力が襲いかかり、両手で剣を握り防御したが、体ごと横へ吹き飛ばされた。その間で、キリトは今までモルテがずっと同じ軌道の攻撃を仕掛けてきた理由を悟った。全ては、この攻撃を当てる為の布石だった。
2mも吹き飛ばされたキリトは、急いでモルテに目を向ける。彼は既に走り出し、刀身には光が帯びていた。ソードスキルを発動させたと認識したキリトも、無理な体勢からソードスキルを放とうとする。
片手直剣2連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》が衝突するが、威力が足りずに弾き返された。そして、迫る光を帯びた斧の刀身がキリトの胸を抉った。片手用斧2連撃ソードスキル《ダブル・クリーブ》を放った。
「ぐううぅ!!」
まともに斬撃を受けたキリトは、真後ろに吹き飛ばされ、大きな岩に激突した。胸を斬り裂かれたのと、岩に衝突したダメージを受けた所為で、キリトのHPは3割も削り取られるも、どうにか体勢を整えた。
「くぅっ!?」
「っ!?」
途端、右側からライトの苦しげな声が聞こえ、直後に彼が岩まで後退されられてきた。
「ライト!」
「…はぁ…はぁ…」
ライトは所々に傷を負っていたが、HPは残り7割5分を維持していた。それを確認したキリトは、今度は相手のローテムに目線を送った。左手にナイフを持った彼は、同等より少し多めの8割5分を保っていた。
「びっくりびっくりー。まさか自分の攻撃をあそこまで防ぐなんて、さすがですねぇー。この斧、強化が重さ+6なんですよぉー。プレートアーマーだってスコーンっていくんですけどねー」
「…やはり、実力はかなりのものだな。ソードスキルの対処、攻撃の最中の読み、判断と身のこなしの速さ。そこらのプレイヤーとは格が違う!」
両者、薄気味悪い笑みを浮かべながら言ってくる。その事に不吉さを感じながらも、キリトは隣に立つライトに声を掛ける。
「ライト、大丈夫か?」
「あぁ。だが、奴はかなり手強い。精度の高い攻撃やソードスキルを繰り出しても、同等の剣技で返される……泥沼だ」
ゲームの世界では、アバターが体力切れを起こす事はない。しかし、脳でプレイしている以上、無限に集中力は持続しない。敵が相当な手慣れなら、剣を合わせる度に徐々に削られ、動きも鈍くなる。そんな中、ライトは注意を払いながらも、モルテに視線を移した。
「(あれは…斧)」
器用にクルクルと回す片手斧がライトの目に映り、心の奥底で確信した。キリトと戦っているDKBメンバーのモルテは、《毒蜘蛛ダンジョンで見かけた、キバオウ達ALSと行動を共にしていたプレイヤー》だと。
しかし、ここで更なる疑問が生まれる。ライトの考えが事実だとして、何故モルテはDKBとALS、2つのギルドに所属しているのか。そんな彼に、キリトが声を掛ける。
「ライト、不味いかもしれない」(小声)
「…どういう意味だ?」(小声)
横目でキリトの表情を伺うと、額からは汗を流し、歯を軋ませていた。その顔を見ただけで、只事ではないと察せられる。
「こいつらは対人戦を熟知してる。多分、β時代だけじゃなく、このデスゲームが開始された正式版でもデュエルを行ってたんだ。戦場での位置取り、ソードスキルによる奇襲、戦術での立ち回りは経験から来てる」(小声)
それは、ライトも同感だった。ローテムと何度も斬り結んだ彼は既に、奴が正確な剣技で人間の急所の頭、首、心臓、或いは戦闘力が下がる手足などを的確に狙う、実戦を主体にした戦法を取っていると理解していた。
「謂わば、こいつらはデュエルを主眼とした能力構成、デュエルのスペシャリストだ。そう考えるなら、こいつらが半減決着モードを指定してきた理由も納得がいく!」(小声)
「っ…何だと?」(小声)
ライトはここで、キリトが自分と同じように、彼らが《半減決着モード》でデュエルを要求をしてきた事に、疑問を抱いていたと知った。しかし、デュエルを主体とした能力構成と《半減決着モード》が、一体何の関係があるのか。
「お前が言ったように、あいつは《隠し球》の斧を使ってきた。もしあの武器のソードスキルを全て喰らってたら、多分…俺のHPはギリギリ半分弱まで減ってた。けど、それが奴の計画通りだったとしたら…」(小声)
「計画通り、だと?」(小声)
モルテの持つ片手用斧のソードスキルが、キリトのHPを半分まで減らす程の威力を持っていて、それが何の計画に繋がるのか、ライトは目線で詳しい説明を求める。
「俺の記憶が確かなら、半減決着モードが終了するのは、HPが半分を切った時点でじゃない。通常攻撃かソードスキルによるダメージが、相手のHPを5割以上減らした時点で終わる。つまりだ…仮に、1000あるHPが510減った状態から、1撃で600ダメージある攻撃を受ければ…」(小声)
「っ!!?」
その説明に衝撃を受け、ライトは緋色の瞳を限界まで見開いた。要するにキリトは、彼らはさっき説明したその方法を利用して、この場で自分達を《殺そうとしている》と言っているのだ。そんな事がある筈がないと思いたかった。だが、ライトはそれを否定できなかった。
彼らに遭遇した時に感じた、背筋に走った冷たい感覚、彼らが纏う異質な雰囲気、ソードスキルによる奇襲、そして何より、ゲームの世界だとしても変わらない、人間の致命傷となる場所を的確に狙う剣技、ナイフを活用して隙を作って攻め入る戦い方。
「その上、このやり方なら、カーソルが犯罪者カラーを示す《オレンジ》にはならない……合法的PKだ」(小声)
PK…正式には、《プレイヤーキル》と呼ばれる。
その名の通り、ゲームの中でプレイヤーがプレイヤーを殺す犯罪行為だ。目的としては、アイテムを奪ったりするのが主だが、今のSAOでそれは絶対に駄目だ。何故なら、この世界で命を落とせば、現実世界でも本当に死んでしまう。
冷や汗を流す2人の姿に、クルクルと斧を回すモルテと、だらりと右手に曲刀を持つローテムが、フードの奥で不気味な笑みを浮かべた。
展開を考えると、凄く長くなってしまいました。
いよいよ、黒白のコンチェルトも終わりが近づいてきました。2つ戦いの決着は如何に?
では、また次回!