SAO another story   作:シニアリー

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今回を含めて、黒白のコンチェルトは残り2話です。

とても長かったように感じます。キリトとモルテ、ライトとローテムの戦いに決着が付き、その後にもう1つの壁が立ちはだかります。

では、どうぞ。


2つの決着

 

 

巨大な岩に背中を預ける少年達の視線の先には、フードを目深に被り、片手で斧を回すモルテと、右手に曲刀と左手にナイフを持ったローテムが立っていた。もし、キリトが考える通り、あの2人が自分達を殺そうとするなら、その理由とは何なのか。

 

「どうして奴らが、オレ達を殺そうとする?」

 

この状況でPKを働けば、この電子の牢獄から一生抜け出せないという事を意味する。そんな事を望むプレイヤーが存在するのか。

 

「…分からない」

 

ライトが抱く疑念は、キリトも同様だった。彼らの目的は何なのか、謎が多すぎる。しかし、今はそれよりも、この状況をどうするかが問題だ。本当にモルテ達が2人を殺すつもりなら、このままデュエルを続行するのは危険だ。今すぐに降参して、この場を去る方が賢明だ。

 

だが、キリトだけでなくライトも、そんな考えは浮かんで来なかった。この先、奴らを野放しにすれば、取り返しのつかない事態になると、2人の直感が告げている。《人を殺そうとしているかもしれない》プレイヤーが、目前に居るなら尚更だ。

 

それに、仮に降参しても、奴らが潔く見逃す保証はない。モルテはギルドに所属している為、カーソルのオレンジ化は避けたい筈だが、ローテムはどのギルドにも属してない。それは、例えオレンジになっても、さして問題はないという事だ。

 

「……ふぅぅぅ…」

 

ライトは胸に溜まった空気をゆっくり吐き出すと、鋭利な視線でローテムを見据えて剣を構えた。キリトもまた、岩から背中を剥がし、モルテと向き合う。

 

「…悪いな。少し時間が掛かった……始めようか?」

「いいですねぇー、そうこなくっちゃ! ショウ・タァーイム、といきますかぁ!!」

 

フードから覗かせる口をニヤリと綻ばせるモルテに、キリトは剣を向ける。モルテは左手に持つ盾を構え、右手の斧は体で隠した。

 

一方、ライトも危険な状況の筈なのに、何故か冷静だった。いや、体の奥底に眠る何かが高揚しているように感じた。強敵と相対した時に起こる、感覚が鋭利な刃物のように鋭く研ぎ澄まされていく感じを。

 

「……行くぞ」

「…来い」

 

直後、まるで瞬間移動の如く、音も無く接近したライトが、左からの薙ぎ払いを仕掛ける。だが、ローテムはその斬撃を最小限のバックステップで回避すると、ライトの首に目掛けてナイフを投げた。だが、突き刺さる直前、彼は首を曲げて紙一重で躱し、そのまま間合いを詰め、連続剣技を仕掛ける。

 

だが、ローテムもその連撃に対応する。お互いの剣技が拮抗する中でも、ライトは冷静に考えていた。投擲武器を使うタイミングは、長時間の斬り合いで疲弊した隙に、ナイフで体勢を崩し勝負を決める。あるいは、わざと体勢を崩して誘い込み、油断した所でナイフを投げるなど無限にある。

 

「(…仕掛けるか)」

 

決定的な一撃が入らず、いつ投擲攻撃が来るか分からない状況に、ライトは歯噛みしていた。そして、強引に切り抜けようと、大きく上段に振りかぶった。瞬間、ローテムの口がニヤリと持ち上がり、左腕が腰の後ろにサッと伸びた。今のライトは隙だらけの格好の的だ。

 

腰に伸びた左腕が最小限の動きで、『ビュン!』と動いた。剣を大きく構えるライトは、顔に迫るナイフを屈んで避けた。しかし、ここで予想外の攻撃が彼を襲った。

 

「なっ!?」

 

ナイフを屈んで避けた為に、地面にあった石ころに足をぶつけ、前のめりに体勢を崩してしまった。その決定的な隙を見逃す程、ローテムは甘くない。一気に踏み込み、ライトの頭を割ろうと剣を振りかぶる。獲物を狩る狩人の如き嫌な笑みを浮かべ、ライトの頭に剣を振り下ろした

 

 

 

 

ーーー刹那

 

 

 

「どおっ!?」

 

一瞬、ローテムの視界からライトの姿が消え、次に強烈な衝撃が襲った。なんと、体勢を崩したライトが、両手を地面に付けて後ろを向き、下から蹴りを放ったのだ。

 

投擲用のナイフを使ってくると想像できても、そのタイミングが何時なのか分からなかった。ならば、決定的な隙を自ら見せれば良い。しかも、反撃も防御も出来ない程の隙を晒せば、相手は必ず止めを刺しに来る筈だ。チャンスがあるなら、そこを狙うしかない。そこで、如何に相手に反撃の手を悟らせないかが重要となる。

 

まさかの反撃に、不意を突かれたローテムは後退したが、すぐに剣を構え直す。だが、その時には既に、ライトは距離を詰めていた。

 

「おおぉ!!」

「ふんっ!!」

 

下段から振るわれるソードスキル《バーチカル》と、上段から振るわれるソードスキル《リーパー》が勢いそのままに衝突する。

 

 

ガアアァァァン!!!

 

 

押されたのはローテムだった。だが、ソードスキルには必ず硬直時間が発生し、パリィすれば両者共に動けなくなる。その間に、体勢を立て直す事は可能だ。ただし、《連続して発動できない》限りはだが。

 

「っ!?」

 

その時、ローテムはフードの奥で目を見開いた。何故なら、硬直で動けない筈のライトの左腕が光っているのだ。ソードスキルにソードスキルを繋ぐ事は出来ない。ただし、武器のカテゴリーが違うなら話は別だ。

 

「おおぉっ!!」

「んんっ!?」

 

《体術》スキル単発基本技《閃打》が、奴の腹部にクリーンヒットし、その体を1〜2m後ろへ殴り飛ばした。しかし、それだけでは終わらない。ライトは《閃打》が直撃した瞬間、右手の剣を肩に担いでいた。黄緑色に光る刀身が、真っ直ぐにローテムへ迫る。

 

「はあぁ!!」

 

片手直剣上段突進ソードスキル《ソニック・リープ》がローテムの体を深く斬り裂き、3〜4m後方にある木に叩きつけた。その攻撃を受けた彼のHPが、一気に6割5分まで削られた。追撃を仕掛けるのも考えたが、闇雲に攻め込めばカウンターを受ける可能性がある。すると、奴はゆっくりと立ち上がり、ライトを見据える。

 

「…それが噂の《体術》スキルという奴か……使い勝手が良さそうだ」

 

ローテムは平然とした様子で話す。仮想世界では痛みを感じない為、動けない状態にはならないが、形勢は逆転した。だが、ライトは決して油断しない。それどころか、益々自身の感覚を研ぎ澄まそうとしていた。

 

「…はぁぁぁぁ」

 

呼吸を落ち着かせ、目の前に立つ敵を鋭い目付きで見据えると、姿勢を低く構えて距離を詰めようとした。ローテムもまた、剣の切っ先をライトに突き付け、迎え撃とうした時だった。

 

「…っ!」

「っ…」

 

突然、ローテムが曲刀を下ろし、見当違いな方向に顔を向けた。そして、キリトの相手をしているモルテも彼と同じ方向を向いていた。すると、ローテムは顔を戻して口を開いた。

 

「…ここまでだ!」

「何だと?」

 

そう言った彼は、モルテに声を掛けた。

 

「引き上げだ、行くぞ!」

「わっかりましたぁー。ではでは、自分らはここらでー。楽しかったですよ! ライトさん、あなたとも何時かやってみたいので、その時はよろしくお願いしますねぇー」

 

HPを6割まで減らされたにも関わらず、軽い口調で告げると、モルテはローテムと合流し、立ち去ろうとした。そんな彼らの背中に、ライトが声を掛けた。

 

「…終わらせないのか?」

「必要ない。後は好きにしろ!」

 

ローテムはそう言って、歩き出そうとした。すると、彼らの背中に今度はキリトが声を掛けた。

 

「このままドローなら、俺達はキャンプのクエストをクリアしても良いんだな?」

「どうぞどうぞぉー。でも、ちょっと難しいと思いますけどねー。あはははー」

 

そう言った途端、デュエルの残り時間が0となり、奴らの後ろ姿をリザルト・ウインドウが覆い隠した。引き分けを告げる大きな窓が消えると、彼らの姿はどこにも無かった。念の為、周囲に潜んでいる可能性があるので、気を張っていたが、どうやら本当に立ち去ったようだ。

 

「大丈夫だったか?」

「あぁ、そっちも無事だな?」

 

ライトの問いに、キリトは頷き返すと、腰のポーチから回復用のポーションを取り出して口に含む。兎に角、命の危険は去ったと言えるが、懸念すべき事がまだある。

 

「けど、どういう意味だ?『クエストのクリアが難しい』って…」

「分からない。そもそも、奴らはどうしてオレ達のクエストを妨害しようとした?」

 

デュエルで勝てば、その目的も知れた筈だが、生憎とドローに終わってしまった。いや、殺すつもりで掛かって来た相手に、引き分けで終了できただけでも良しと言える筈だ。

 

「ライト、ありがとな。お前の助言がなかったら、俺はどうなってたか…」

「よせ……それよりキリト、気付いたか?」

「あぁ。モルテが、DKBとALSの2つに潜入してるって事だろ?」

 

戦いの最中で、キリトも思い出したようだ。エルフクエストの第2章《毒蜘蛛討伐》で、キバオウ率いるALSの中に、モルテと同じ装備をしたプレイヤーが居た事を。

 

「あれは間違いなくモルテだ!」

「あぁ、オレもそう思う。だが、何の為に2つのギルドに所属しているのか。そして、オレ達を殺そうとした目的は何だったのか……結局、掴めなかったな」

 

顔を伏せて、ライトはそう言った。そんな彼の肩に、キリトは手を置いて言葉を掛ける。

 

「今は、無事に乗り切れただけで良しとしようぜ? それに、早くクエストをクリアしよう。モルテが言ってた言葉も気になる!」

「…そうだな」

 

キリトの言う通りだと頷き、ライトは剣を背中の鞘に戻して、彼と歩き始めた。すると、キリトが感心したように声を掛けた。

 

「にしても、本当に凄いな、ライト。デュエルは初めてだったんだろ? なのに、あそこまで戦えるなんて……しかも、あの後ろを向いて放つ蹴りは何だよ!?」

「まぁ、向こうでちょっと覚えた技の1つさ。それのお陰だよ!」

 

そんな話をしながら、2人は歩き続ける。下流方向の右岸に高い壁が切り立ち、その上からキャンプ地のかがり火が見えるらしい。その崖から森エルフの隊長の天幕に忍び込み、《命令書》を盗んで崖を降りる。

 

「行こう!」

 

頷いたライトは、先頭を行くキリトと歩き出した。右側の崖が高くなり、2人の背丈を越えた

 

 

 

ーーーその時

 

 

 

「何だ貴様ら!?」

「「っ!?」」

 

2人は身体を強張らせ、すぐに右側の崖に身を隠し、周囲に敵の姿を探す。だが、モンスターを示す赤いカーソルは見当たらない。

 

「…どこだ?」

「……違う、俺達じゃない!」

 

2人は崖の縁からそっと顔を出し、半円形を描く丘の裾に視線を凝らす。すると、2人が身を隠す反対の南側の小道の入り口付近で、複数の集団が何やら対峙していた。

 

「キリト、《潜入》クエストにこんな展開があったのか?」

「いや、なかった筈…」

 

そこで、キリトの言葉が途切れた。そして、彼の目が驚愕の2文字を表すかの如く、大きく見開かれた。

 

「…どうした?」

「ライト、よく見ろ!」

 

キリトに強く促され、ライトはあの集団に眼を凝らした。視線をフォーカスした彼の瞳に映ったカーソルは、プレイヤーの色を示す緑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は、対峙する集団へ向かっていた。本来なら、自分達には関係ないが、あのまま放っておけば、言い合いはヒートアップすると予測できるので、様子だけでも見に行こうと決まったのだ。

 

少年達は言い合いを続ける場所へ辿り着く為、森に入って全力疾走で走り抜け、近くまで辿り着いた。一応ハイティングスキルを発動させて、森の縁にあった大木の太い幹の裏側に張り付いて覗き込む。

 

睨み合う東側の集団は6人に対して、西側は10人を超えていた。剣を抜く様子は見られないが、柄に手を添えるプレイヤーも少なからずおり、険悪な雰囲気だった。すると、数が少ない東側の集団から1人のプレイヤーが現れた。藍色の長髪を後ろで束ね、左腰にシミターを吊るす《ドラゴンナイツ・ブリゲード》のリーダー、リンドだった。

 

「これ以上言い合っていても埒があかない。このポイントに先に到着したのは我々だ。ルール通り、こちらがクエストを進めさせてもらう!」

 

低い声で彼がそう言った途端、今度は西側から1人が出てきた。

 

「先ゆうてもほんの数十秒やろが!」

「「っ!?」」

 

身を潜める少年達は驚き、声が出そうになった。サボテンのようにトゲトゲした頭、背中に装備する片手剣。そして、威勢の良い関西弁。間違いなく、《アインクラッド解放隊》リーダーのキバオウだ。つまり、対峙しているのは、2大ギルドのプレイヤー達だ。

 

「そもそも、ルールって何やねん? ジブンが勝手に決めたんなら、そんなもんに従う義理はないで! ワイらもここの襲撃クエ、何が何でもクリアせなあかんねん!」

「(まさか、ALSもエルフクエストを進めていたのか!?)」

 

横目でキリトに確認すると、彼も初耳だったようで首を横に振った。そもそも、昨日のフィールドボス戦で、キリトがALSのメンバーに『クエストをやっているのか』と訊ね、そのプレイヤー達は首を横に振って、否定している。

 

「多分、モルテ達の差し金だと思う。あいつらは俺と同じβテスターだ。先導すれば、すぐにこの第6章までクリア出来る!」(小声)

「確かにな」(小声)

 

もしALSが昨日からエルフクエストを進めたと推測するなら、間違いなく潜入していたモルテの仕業だ。2人は詳しい状況確認の為、リンドとキバオウの言い争いに耳を傾ける。

 

「クエストや狩場は先着順、それが当然のルールだろう? キバオウさん、あんたもギルドを率いる立場になったんなら、道理ってものを弁える必要があるだろう?」

 

すると、それを聞いたキバオウが大きな歯をぎりっと軋ませて言った。

 

「道理やて? リンドはん、ジブンがそれを言うんかい?」

 

勢い良く両腕を組むと、いっぱいに身体を反らして、リンドの顔を睨め付ける。

 

「ならワイも言うたるわ。あんた、3層に来てからずーっと隠しとったやろ? このエルフクエの報酬が、フロアボスに必須やっちゅう事をな!!」

「「………」」

 

ライトは隣に潜むキリトに顔を向けたが、彼は首を横に振るだけだった。β時代の情報を彼から得ていたライトは、キバオウが言った話など聞いた事もなかった。別にクエストを受けずとも、迷宮区タワーの扉は開き、ボスには挑める。

 

「ほんの5日前や、あんたも覚えとるやろ? 2層のボス戦で、ボス牛が3匹に増えとる事を知らんかったばかりに、レイドが全滅しかけた! 同じトラップがこの層でも仕掛けられとる。エルフクエをクリアせんと、何やヤバいワナに遭うっちゅうのをな。あんた、それを知っとったクセに、この間の会議ん時に、ひとっ言も説明せいへんかったやんけ!」

 

一方で、キリトは何度目か分からない驚愕に息を詰めた。この3層で、キャンペーン・クエスト全てをクリアしても、ボス戦の情報は得られなかったと記憶している。βとの変更も考えられるが、現時点でそれが断言できるのは、第10章までクリアしているプレイヤーしか居ない。この情報は恐らく、偽の情報だと勘付いた。

 

「違う、そんな話は知らない!」

 

リンドの叫び声が響いた。彼は、キリトとライトが潜んでいる距離からも分かる程、眉間に深い縦皺を刻んでいた。

 

「DKBがキャンペーン・クエストを進めていたのは、単に経験値と報酬アイテム狙いだ! 言う必要がなかったから、言わなかった。それだけだ!」

「ハッ、その報酬っちゅうんがボス戦に必須なんやろが!」

 

キバオウの勢いは尚も収まらず、どんどん増していく。

 

「ジブンは結局、前線組親分でいたいだけなんや! そんな輩にルールどうこう言われとうないわ、ワイらが先に行かせてもらうで。おとなしゅうそこで待っとれや!」

 

立ち塞がるリンドを押し退けて、無理やり進もうとするキバオウだが、当然リンドは通す筈がない。キバオウの左肩を掴んで止めさせる。

 

「待て、勝手な真似をするな! あんたは知らないかもしれないがな、あの手のキースポットは、誰かがクリアしたら消滅して、また森のどこかにランダムに湧くんだ。ここで待ってても、俺達はクリア出来ないんだよ!」

 

それを聞いたキバオウは、左手でリンドの胸ぐらを掴む。

 

「語るに落ちるとはこの事やな! そらつまり、あんたらクリアしたらワイらが出来なくなるっちゅう事やないか!」

「だから、先に来た方が優先権があると言ってるだろうが!」

「せやから、そんなルール知らんっちゅうゆうてるんや! 何なら、もっと分かりやすいルールで決めてもええで!」

「…どういう意味だ、それは?」

 

大木の陰に身を潜める2人は、この状況に焦りを感じていた。

 

「不味いぞ、完全に頭に血が上ってる。このままじゃ…」(小声)

 

他のメンバーを見れば、剣を鞘から抜こうとするプレイヤーも何人か見える。ライトが懸念する通り、このまま放っておけば、互いのギルドが殺し合う、最悪な状況になってしまう。

 

「ライト、俺達でこの6章のクエストをクリアしよう。そうすれば、この場所は消えて何の価値もなくなる!」(小声)

 

この場を収める方法があるとしたら、自分達がクエストをクリアする事だけだ。

 

 

ライトは頷いて静かに立ち上がると、このキャンプにある司令官の天幕を目指して全力疾走する。谷川まで戻り、ダッシュで河原を渡ると、キャンプの真下に辿り着いた。

 

「ライト、ここで待っててくれ。潜入するのは、1人の方が見つかりにくいんだ。俺はコツも知ってるから」

「分かった。気を付けろ!」

 

キリトは頷き、7mはある崖をよじ登って、森エルフのキャンプ地に忍び込んだ。一方、ライトはモンスターが近付いて来ないか警戒していた。その間、ずっと考え続けていた。

 

何故、ローテム達はこんな事を仕組んだのかと。こんな事をして、何のメリットがあるのか。すると、頭上から物音がしたので、そこに視線を向けると、無事に指令書を盗み出したキリトが、右手に持って帰ってきた。

 

「…ただいま」

「お疲れ…と言いたいが、まだやる事が残ってる」

「あぁ、行こう!」

 

彼らの言い争いを鎮めるには、キャンプ地が消えるだけでは足りない。誰がキャンプ地のクエストをクリアしたのかを、明らかにする必要がある。

 

少年達が崖を登ると、キャンプ地は緑の光に包まれて消え去った。2人は小道を無視して丘を横切り、2大ギルドが立つ場所を目指す。攻略組は唖然としながら2人を見詰めており、そんな彼らに、ライトが口を開く。

 

「悪いが、このクエストはオレ達がクリアした。別の場所を探してくれ!」

 

そう言うと、リンドとキバオウの表情が厳しいものに変わった。

 

「…最近見かけんと思ったら、ビーター小僧らもキャンペーンやっとったんかい。大方、このチョンマゲと同じで、小僧らもクエスト報酬がボス攻略に必須やっちゅう事を知ってて黙っとったんやろ?」

 

そう言うと、彼はリンドとキリト、ライトを交互に睨み、まるで箍が外れたように大声で怒鳴り散らした。

 

「おのれらは、結局のとこ、こんクソゲームに囚われとる8,000人を解放しようっちゅう目的は2の次、3の次なんや! 他人を出し抜いて、強い武器やらアイテムやら溜め込んで、トッププレイヤーずらして偉ぶりたいだけや! 最初にはじまりの街から出て行った何百人のビーターどもと何も変わらん。そんな輩に、ディアベルはんの後継者づらする資格あらへんで!」

 

彼の言葉が引き金となり、ALSのメンバーから沢山のヤジが飛ぶ。DKBメンバーは厳しい顔を作るも、ぐっと我慢していた。それはリーダーのリンドも同じで、呼吸を整えると落ち着いた口調で話し出す。

 

「キバオウさん、改めて言わせてもらうが、キャンペーン・クエストの報酬アイテムがボス攻略に必須だという情報は、俺を含めたDKBメンバー全員が知らなかった。一体どこでその情報を手に入れたんだ?」

 

そう聞くが、キバオウはもはや、聞く耳を持たないらしい。

 

「白々しいわ、その手には乗らんで! そうやって、また情報を独占するつもりやろが!」

「だから違うと言っている!」

 

またもや言い争いを繰り広げる2人を尻目に、ライトは面倒な事を起こしてくれたなと苛立ち覚えた。

 

元々、気が合う者同士ではないが、彼らの策によって更に仲が悪くなってしまった。恐らく、このまま言い合いを続ければ、本当に殺し合いが始まってしまう。それを防ぐ為には、どちらかがクエストを放棄するという案が思い浮かぶが、両者は決して首を縦に振らないだろう。

 

「リンドさん、キバオウさん」

 

頭の中で、あれやこれやと考えていると、隣に立つキリトが睨み合う2人に声を掛けた。リンドとキバオウは揃って、キリトに視線を向けた。

 

「知っての通り、俺達はビーターだ。エルフ戦争キャンペーン・クエストの報酬が何だったか、どんな効果を持ってるかは知ってる。でも、俺達がキャンペーンを進めてるのは、報酬アイテムが目的じゃない。レベルを上げて装備を鍛え上げて、フロアボスを倒す為だ。あんたらだって、苦労してギルドクエストをクリアしたのは、そうやって言い争いをする為じゃないだろ?」

 

キリトの言葉を聞き終えた直後、キバオウが2人に向かって指を差しながら言い放った。

 

「横からしゃしゃり出てきてクエストを掻っ攫ったくせに、偉そうなこと言うなや! 報酬アイテム目的やないってどうやって証明するんや? どうせ心の中じゃ、早く次のクエストに行きとうてしゃない「キャンペーン・クエストはここで中断する!」…あぁん?」

「っ!」

 

その言葉に、ライトは隣に立つキリトに目を向ける。対して、キリトも彼に目を向けていた。だが、すぐに視線を外すと、両ギルドのリーダーに続きを話す。

 

「俺達はこれから、迷宮区の攻略を開始する。あんたらがクエスト1章ずつ進めて、そうやっていがみ合ってるうちに、迷宮区の宝箱も鉱石素材も開け放題だしな。最悪、攻略メンバーを勝手に集めてボス部屋に突入するかもだぜ!」

 

それを聞いた面々の表情が、驚きと怒りと呆れが合わさったような顔になった。そんな中、ライトは彼の意図に気付き、納得していた。

 

つまり、報酬アイテムがボス攻略に必須と思い込んでいるキバオウを黙らせるには、エルフクエストを途中で放棄し、迷宮区突破に勤しめば良い訳だ。そうすれば、自分達はクエスト目的ではないと思わせられる。

 

「そうだな。こいつの言う通り、オレ達はただ、ビーターとして、攻略組として、やりたいようにやるだけだ!」

 

いち早く反応したのは、キバオウだった。

 

「折角6章まで続けたクエストを投げ出すっちゅうんか?」

「…そうだ」

 

応じたのはキリトだった。だが、それが意味するのは、もうキズメルと行動を共に出来ないという事だ。それに、大型キャンペーン・クエストで得られる利益は絶大だ。莫大な経験値に加えて、超が付くレアな装備も、今後手に入らないかもしれない。すると突然、甲高い声が響いた。

 

「出来る訳ねーだろ!?」

 

その場所に目をやると、ALSの集団に、右拳を盛んに振り回す男が立っていた。モスグリーンの胴衣に黒っぽいスタンデッド・レザーアーマーを装備し、目と口だけに穴が空いている同色のマスクを装着していた。

 

「そいつら、フカしてんだ! 2人だけで迷宮区の突破なんて出来る筈もねぇ! 迷宮区に行くフリして、自分らだけキャンペーン・クエストを進めようとしてるんだ!」

 

聞き覚えのある声だった。第1層ボス戦が終わった直後、ディアベルの死を咎められた時に聞こえた声。更に、2層ボス戦終了時に《レジェンド・ブレイブス》を人殺しと糾弾した男の声と同じだった。

 

「ビーター野郎どもに騙されんな!そいつらの所為でディアベルさんは死んだんだぞ! そんな奴ら無視して、俺達も早くキャンペーンに…」

「黙っとれや、ジョー!」

 

キバオウがジョーと呼ばれたプレイヤーに命じると、彼はしぶしぶ引き下がった。すると、今度は藍色のシミター使いが口を開いた。

 

「キリトさん、ライトさん。あんた達の実力は承知しているが、流石に2人だけで迷宮区を突破するのは無茶だろう? それに、キャンペーン・クエストを放棄するって言葉、簡単には信じられない。元βテスターのあんた達なら、連続クエストをクリアして得られるものの大きさを、十分理解している筈だ。それに…」

 

一旦、そこで言葉を区切ると、リンドは鋭くギラついた目付きで、キリトとライトを捉えた。

 

「あんた達のパーティーメンバーはどうしたんだ? もしかしたら、あんた達が俺達を足止めしている間に、あの2人がキーアイテムを持って帰って、キャンペーンを進めている可能性も考えられなくはない!」

 

リンドの言葉は見当外れだが、否定する事が出来ない問いだった。今頃、アスナとユウキはキズメルの天幕でスヤスヤと寝ている筈だ。無言で立ち尽くす少年達に、罵声や怒鳴り声が浴びせられる。それを頭の片隅で聞きながら、ライトは思考を巡らせていた。

 

モルテとローテムは、この2つのギルドを衝突させる為に、あの場所で自分達を待っていた。いや、あわよくば、今後も邪魔が出来ないように抹殺しようと考え、《半減決着モード》のデュエルを申請した。だが、そんな事をしても、誰も何も得をしない。

 

「何とか言えよ!」

 

そんな中、ALSのジョーと呼ばれた男が、キリトとライトを睨み付け、金切り声で喚き立てる。

 

「どこにいるんだよ、あの女どもは!? 抜け駆けでクエストを進めてるんじゃねーのかよ! 違うってんなら、ここに出してみろよぉ!?」

 

 

 

 

「ボク達ならここに居るよ!」

 

 

 

 

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

突如、幼くも凛とした声が聞こえた。ライトは幻聴かと思ったが、丘を下る小道の中程で立ち尽くすプレイヤー達が、何かに押されるように左へ右へ流される。すると、丘の麓のT字路に分かれた大木の裏から、2人のプレイヤーが出てきた。

 

赤みがかったフードケープに、えんじ色のチュニック、レザースカート。そして、栗色のロングヘアに榛色の瞳を宿したプレイヤー。もう1人は、少し濃い紫色のフードケープに、白のチュニック、紫紺のレザースカートを履き、黒紫色のセミロングヘアと瞳を持ったプレイヤーだ。両者の腰には、月明かりに照らされて、冴え冴えと輝く細剣と片手剣が見える。

 

突然の乱入者に、リンドとキバオウも数歩だけ横へ移動する。クリアになった道を歩く、攻略集団で2人だけの女性プレイヤー、アスナとユウキは毅然とした足取りで、少年達に近付く。アスナはキリトの右側、ユウキはライトの左側に辿り着き、全く同じタイミングで振り返ると、攻略集団全員の顔を見据える。

 

「この人達とパーティーを組んでいる以上、私達も迷宮区に行きます! そして行くからには、ボス部屋を目指すわ! 確か、最初にボス部屋に到着した人がレイドリーダーなのよね?」

 

その言葉にいち早く反応したのは、リンドとキバオウだった。そして、後方に控える16人のプレイヤー達も低くざわめく。誰もが何も言えないのは、彼女達がいきなり現れたのもそうだが、腰に装備されている新しい武器《シバルリック・レイピア》と《リュナイト・ソード》が、異様な圧迫感を出しているからだと、ライトがそんな事を考えていると、またあのジョーの金切り声が聞こえた。

 

「俺、俺知ってる! そいつら、碌に迷宮区のマッピングしねーで、ちょろちょろ残り物の宝箱を開けてたんだ! そんな奴らが4人に増えたって、ボス部屋まで行ける訳がねぇ!」

 

ここまで自分達を敵視する理由がどこにあるのかと、ライトは内心で思った。答えが見つかる筈もない疑問だが、直接あのジョーに訊いても、答えてくれるとは思えない。そんな中、真横に立つキリトが口を開いた。

 

「そう思うなら、別に俺達の事は放っておけばいいだろ、ジョーさん?」

「言われねぇでも放っとくっての! もういいだろキバさん、こんな奴ら放っておいて、早く次の…」

「何度も言わすなや、ジョー。暫くその口閉じとけ!」

 

ドスの利いた声に、ジョーはギリっと歯を噛み締めて後ろに下がった。キバオウは体ごと4人に向き直ると、トゲトゲ頭をガシガシ掻きながら言った。

 

「…ワシには、何やもう分からんわ! あんたら、ホンマに報酬アイテム無しでボスに挑もうっちゅうんか? ボス戦にちっとでも必須やっちゅうんなら、それを検証してからでも遅ないやろ?」

 

キバオウの言葉は最もだ。命を賭けた極限状態で、情報無しにボスに挑むのは自殺行為にも等しい。

 

「…確かにな……が、それが本当かどうかを検証するなら、2つのギルドのうち、どちらかがクエストを辞退するべきだ。それが出来ないなら、また今回みたいな言い争いが起きるぞ! それは、どちらも望んでいない筈だ?」

 

ライトの言葉に、DKBとALSのメンバー達が顔色を変えた。懲りずにジョーがまた何かを叫ぼうとするが、隣の両手剣使いが黙らせる。彼らはお互いの顔を見合わせたが、揃ってフンっと鼻らを鳴らした。その時点で、ライトは盛大な溜め息をしたくなった。そして、予想通りの返答がリンドから聞かされる。

 

「それは無理な相談だな、ライトさん。序盤ならまだしも、こちらも向こうも、既に6章まで進めてしまっている。ここで放棄すれば、失う物が大きい!」

「…なら、仕方ない。オレ達は迷宮区の攻略を開始するだけだ!」

「残念だが、その言葉も今はハッタリとしか思えない。いくらあんた達でも、4人だけで迷宮区の突破は、可能かもしれないが難航する筈だ! 正式版とβ版の違いが生じているんだからな!」

 

正直に言うと、リンドの言う通りだ。ボス部屋に続く迷宮区の攻略は、決して簡単ではない。この世界はゲームなのだ。ボスに近付くにつれてレベルがハードになるのは、RPGとして当然だ。すると、ライトの隣に立つユウキが、1歩前に出て堂々と言い放った。

 

「ボク達4人だけじゃないよ!」

 

彼女がそう言った瞬間、ライトは斜め後方から微かな音を捉えた。

 

その場所へ振り向くと、見知った顔が見えた。オニキス色の瞳を宿し、ペールパープル色の艶やかな髪に、黒と金地に紫の象嵌が施された優美なブレストプレートが露わになった。左腰にはロング・サーベルを装備し、俯く顔を持ち上げた。サイドに伸びる髪が揺れ、絶世の美貌を宿す顔と長耳が現れた。

 

言葉を失い、呆然と見上げるプレイヤー達を見据え、キリトとライトの間に割って入った彼女は、凛冽な声を発した。

 

「我が名はキズメル。リュースラ王国エンジュ騎士団に所属する近衛騎士である!」

 

ライト達の《5人目》のパーティーメンバーにして、リュースラの気高き騎士キズメルは尚も続ける。

 

「盟約により、我、人族の剣士キリト、ライト、アスナ、ユウキと共に《天柱の塔》へ赴かん! 我が刃の前に、例え塔の守護獣といえども、朝露の如く散り果てるであろう!」

 

すると、まるで怯えたような表情を浮かべるリンドが後退して、言葉を投げかけた。

 

「…キリトさん、ライトさん。そこに居て大丈夫なのか?」

「…ん?」

「えっ…何が?」

 

彼の言っている意味が解釈できない2人は、改めて問い返す。

 

「そのダークエルフ、カーソルが真っ黒だぞ……最初に戦ったエリートmobよりも、強いんじゃないのか?」

 

2人は納得した。考えてみれば、黒エルフ側に属するライト達やALSにとっては、リュースラの民はNPC扱いだ。しかし、森エルフ側を選んだDKBにとっては、モンスターの分類に入る。

 

「カーソル黒いって、ホンマか?」

「あぁ……もし戦闘になったら、この人数でも勝てない」

「何でや? 何でそんなえげつないモンが連中の味方してんねん!?」

 

キバオウの言葉を聞いたキズメルが、両隣に立つキリトとライトに向かって、小さく囁く。

 

「人族の言葉は、私が思っている以上に複雑なのだな」

 

彼女が言っているのは、キバオウの関西弁の事だろう。彼女はこの世界と共に作られた存在なのだから、何を言っているのか分からなかったと思われる。すると、キリトが驚くべき内容を口にした。

 

「…キズメル、俺達はキズメルと違って、この世界で生まれた訳じゃないんだ。ずっと遠い場所からここに連れて来られて、自分達の世界に戻る為に戦ってるんだ!」

 

ライトは内心で青ざめた。NPCである彼女に、一体何を吹き込んでいるのかと。高性能なAIだとしても、あらかじめ作られた設定と違っていれば、情報処理など出来ない筈だ。しかし、キズメルは不思議そうな顔をしたが、やがて唇を動かした。

 

「無論、知っているとも」

「…えっ?」

「今まで敢えて問わなかったが、それが人族に残された最大のまじないなのだろう? 異国より戦士を召喚し、《天柱の塔》を1つに繋げる為に戦わせている……我ら黒エルフも、似たようなものさ。森エルフから全ての聖堂を守り抜き、聖堂の封印を保つ為に、長い戦いを続けているのだから」

「…そ、そうかな」

 

彼女にとっては、そのような認識なのだと知れたが、これ以上は探る必要はないかもしれない。すると、エンジュ騎士は淡い微笑みを浮かべて4人に言った。

 

「我らは転移のまじないで層を行き来できる故、人族が執心する《天柱の塔》に立ち入る必要はないが、そなたらが望むなら、力を貸そう。だが…そうだな、その代わり…」

 

そこで、キズメルは4人と向かい合う。

 

「…いつか、そなたらが生まれた国の話を聞きたい。どんな家族の元で、どんな風に暮らしてきたのか」

「……あ、あぁ。分かった…約束する」

 

キリトがそう答え、アスナとユウキも笑みを浮かべていたが、ただ1人だけ、ライトだけが顔を伏せていた。そんな彼に、キズメルが声を掛けた。

 

「ライト、どうかしたのか?」

「……いや、何でもない」

 

彼はそう言ったが、キズメル以外の3人は少し心配そうな目をしていた。これまでも少ないが、現実世界の事について話した事があったが、彼は決して自分の事を語ろうとはしなかった。そして、どこか辛そうな顔になるのだ。3人がキズメルに何か言葉を掛けようとしたが、それより早く、別の人物が遮った。

 

「待たせたな、一応の合意には達した!」

 

2大ギルドの話し合いが終わったようで、DKBリーダーのリンドが丘の斜面を登って、発言を続けた。

 

「結論から言うと、俺達《ドラゴンナイツ・ブリゲード》と、キバオウさんの《アインクラッド解放隊》は、両方ともキャンペーンクエストを辞退する」

 

どちらか1つのギルドが辞退するのは納得できなかったから、この結論に達したのだろう。

 

「だが、キャンペーンの報酬がボス戦に必須であるかどうかも検証する必要がある。そこで、その役目をキリトさん達に頼みたい」

「それは構わないが、あんたらはどうするんだ?」

 

キリトがそう訊くと、リンドに変わって、キバオウがやけっぱち気味に喋り始めた。

 

「決まっとるやろ! ワイらは迷宮区をマッピングするんや。あんたらだけに任して死んでしもうたら、目覚めが悪いやろ!」

「…成る程」

 

思わず苦笑いを零すキリトが呟き、隣のアスナも「ものは言いようね」と囁く。それを聞いて、ユウキは軽く頷く。しかし、これ以外の選択肢はないだろう。2つのギルドを扇動したモルテは、今後も何か仕掛けてくる可能性が高い。そして、口元に切り傷があるローテムと名乗る男も同じくだ。

 

「了解。ボス戦は21日の予定だったな。なら、20日の夕方には結果を報告する。一応、それを信じて貰う必要があるけどな」

 

キリトがそう言うと、リンドは強張っていた口の端を持ち上げて言った。

 

「今更そこにケチはつけないさ。」

 

リンドはそこで言葉を区切ると、今度はライトに視線を移した。

 

「ライトさん、あんたはさっきこう言ったな?『攻略組として、するべき事をするだけだ』と。悔しいが…あれを聞いて俺は、ディアベルさんを思い出したよ」

 

唇を噛み締めて言い続けるリンドの言葉に、この場の全員の視線が集まる。

 

「…ディアベルさんは、1層のトールバーナーで開かれた、第1回の攻略会議で言ったんだ。『ボスを倒し、第2層を突破して、このデスゲームを、何時かきっとクリア出来る事を伝えなくちゃいけない。それが、俺達の義務なんだ』ってな。俺は…あの人の遺志を継いだつもりだった。あの人が作る筈だったギルドを作って、最強に育て上げて……それが俺の責務だと」

 

恐らくそれは、今まで彼が胸の内に秘めていた想いなのだろう。彼の独白にDKBだけでなく、ALSのメンバー全員が押し黙った。暫くの沈黙の後、リンドは俯いた顔を戻すと、ライトを凝視した。

 

「…良い機会だ、1つだけ教えてくれ。1層での、ディアベルさんの最後の言葉を聞いたのはライトさん、あんたなんだな……あの人は最後に、何て言ったんだ?」

 

途端、ライトの脳裏に、第1層でのディアベルの顔が思い出される。彼の最後の遺言にして、最後の命令が、ライトの口から発せられた。

 

「…『後は頼む、ボスを倒してくれ!』……彼はそう言った」

 

ディアベルの最後の言葉を聞いたリンドの唇が震え、再び深く俯いた。やがて、震える声がライトの耳に微かに届いた。

 

「…倒すさ、この層のも…次の層も、その次も……DKBはその為に結成したんだからな」

 

俯いたまま、仲間達の方に振り向くと、握り締めた右拳を突き出す。それに習って、サブリーダーのハフナー、メンバーのシヴァタ、ナガ、そして名前の知らない2人のプレイヤーも突き出す。

 

背筋を伸ばし、振り返ったリンドはライト達とキバオウ達を交互に見ると、固い口調で宣言した。

 

「我々DKBは夜が明け次第、迷宮区の攻略を始める。次の会議は、20日の17時にズムフトの会議場にて。では、これで失礼する!」

 

体を翻して背中を向けると、DKBのリーダーとメンバー達は草むらを踏み締め、東方面へ去った。ライトが彼らの遠くなる背中を見送っていると、キバオウが悪態をついた。

 

「ケッ、相変わらずえっらそうなガキやな! ディアベルはんの遺志は、ワシかてたっぷり受け継いどるわ! おう、ワイらも行くで! 連中には負けてられへんからな、先にボス部屋見つけんのはこっちや!」

「「「「「「おう!!」」」」」」

 

リーダーの言葉に野太い声で返すと、メンバー達は反対の西側に歩き去ろうとする。すると、最後尾を歩くキバオウが少しだけ、ライト達に体を向けた。

 

「おい、小僧ら…」

 

そこで一旦、口をつぐむと、頭に手を置きながら言った。

 

「…キリト…はん……ライト…はん…」

 

途端、アスナとユウキが「ぶふっ」と奇怪な声を小さく上げた。幸い、キバオウには聞こえなかったようで、唖然としている少年達に向けて続ける。

 

「結局ジブンらには、クエストを持ってかれたんやからな、礼は言わへんぞ。ただ……あんたらみたいのが、前線組に1人や2人おってもええかなって思ってな。それだけや!」

 

言い終えると、仲間を追って背中を向ける。そんな背中に、キリトとライトが声を投げかけた。

 

「…次からは『はん』なしで良いよ」

「右に同じく…」

 

返事代わりに右手を軽く上げると、今度こそ仲間と共に振り返らずに去った。草むらを踏む足音が完全に消えたのを確認して、ライトは肩の力を抜くと、横から強烈な視線を感じた。見れば、ユウキが体ごとライトに向き直り、真っ直ぐ見詰めていた。その隣では、キリトとアスナも同じような構造が出来上がっていた。

 

「何か言う事はないの?」

「……黙って抜け出して、すいませんでした」

 

敬語になる程、今のユウキは相当にお怒りだと、ライトは素直に謝った。

 

「…色々と仰りたい事もあると思いますけど」

「当然よね」

 

女性陣から詰め寄られる男性陣は、大きく肩を落としたい気分になっていた。

 

「でもまぁ、野営地に戻ってからにしておくわ」

「ここじゃ、安全とは言えないもんね」

 

それはつまり、野営地に帰れば酷く長い説教が待っている事か。若干の後悔を感じながら、ライトは視線をキズメルに移すと、彼女はALSが歩き去った西側を見ていたが、笑みを浮かべて言った。

 

「人族の騎士団も、それなりのものではあるのだな。無論、我がエンジュ騎士団には、まだまだ及ばぬが」

「ま、まぁね。俺達は騎士団じゃなく、《ギルド》って呼んでるけど」

「ほう、覚えておこう……しかし、キリト、ライト。あまり無茶をするのは感心しないな。私が目を覚まし、お前達が居ない事に気付かなかったら、ここにも辿り着けなかっただろう」

 

正直、彼女が目を覚ましてくれたお陰で、何とかこの場を乗り切れたと言っても過言ではない。

 

「すまなかった、本当に」

「す、すいません…それと、ありがとう」

 

先に目を覚ましたキズメルが、アスナとユウキを起こして、ここまで駆け付けてくれたのかと、ライトが納得していると、今度はアスナとユウキが口を開いた。

 

「追いかけようって言ったのは、ボク達なんだよ…多分、無茶な事してると思ったからね!」

「実際にしてた訳だけど。全くもう、私にはギルドの人達と対立するなとか言ってたくせに…」

 

女性陣が揃って、呆れた表情を浮かべると、男性陣は肩身を狭くして答えた。

 

「すいません。そして、ありがとう」

「悪かった……ありがとう」

 

2人は改めて、彼女達に謝り、そして感謝した。

 

「それじゃ、迷宮区は彼らに任せて、俺達はこいつを司令官どのに届けに行こうぜ!」

 

コートの右ポッケにしまっていた指令書を取り出して、キリトが4人にそう呼びかけた。




残すところ、1話となりました。

基本的にオリ主の戦闘スタイルは、剣術と体術を織り交ぜたカウンター型のタイプです。なので、敵に回すと中々に戦いにくい相手です。

因みに、ローテム戦で見せた、後ろを向いて、両手を地面に付けながら放つ蹴り技は《躰道》の《海老蹴り》という技です。
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