難所を越えた一行は、転移門をアクティベートさせる為、主街区へと向かいます。
過去1番と言って良い程、転移門までの道のりが苦しかったが、4人は無事に陸へ辿り着き、砂浜を歩いている。今の所は浮き輪が移動手段だが、流石にそれをずっと強いられるとは思えない。ゲームである以上、何かのクエストをクリアすれば、もっと楽に攻略できる方法があると考えられる。
「あっ…みんな、門が見えたよ!」
すると、前を歩くユウキが前方を指差して言った。見ると、坂の頂上に石造りの苔が生えた門が見えた。途端、ユウキが待ちきれない様子で走り出す。
「待って、ユウキ!」
そして、アスナも彼女の後を追う。一体どんな景色が広がっているのかと、ライトに続いてキリトも、2人の後を追いかけた。そして、目の前に広がる光景に息を呑む。
「綺麗な街ねぇ!」
「うん。まるで、水の都市だよ!」
広がるのは、太陽の光を反射させる真っ青な水面、真っ白に輝く美しい建物。また違った言葉で表現するなら、湖に浮かぶ白亜の都といった風景だ。
「…そうか……完成品はこうなる筈だったのか」
βテストで見た光景と違っていたのは、あの時はまだ未完成だったからだと、キリトは納得した。すると、先を歩くアスナとユウキが、急かすような口調で言う。
「2人とも、早く行きましょ?」
「他の所も見てみたいしさ!」
やれやれと言った様子で、キリトとライトは2人に追いつく為、歩行スピードを上げた。
視界に《INNER AREA》が表示されたのは、街の正門を潜ったのと同時だった。ここからが、命の数量であるHPの安全が保障される《圏内》で間違いない。
ライトは基本、街のどこからが《圏内》で、どこからが《圏外》かを覚えるようにしている。地形を覚えておく事で何かが起こった時、最悪《圏内》に入れば、死ぬ事はないからだ。安全の為にも、一切の損はない。
4人が歩き続けると、その先には無数のゴンドラが止まる船着場が待っていた。
「ゴンドラがいっぱいある!」
「素敵、ヴェネツィアみたい!」
イタリアの北東部に位置する都と比べると、確かに似ていた。その都市を参考にして、この層を作り上げたと思われる。しかし、浮き輪以外の移動手段があるのなら、最初から設定しておけと、ライトは思わざるを得なかった。
停留所のゴンドラは1人乗りのサイズから、10人程が乗れそうな大型サイズまで見える。銅板に書かれた案内書に目を通すと、1回利用するだけで50コル必要らしい。毎回乗るたびに50コルを払うのは難儀だが、船のサイズに関係なく、全て同じ額なだけマシだろう。
「これで良いか?」
「あぁ。別にどれでも良い」
停留所に到着して、キリトが4人乗りの白いゴンドラを指差す。ライトはすぐに返答したが、アスナとユウキは真剣な様子で考えてから頷いた。4人が船着場の階段を降りると、順々に船に飛び乗る。すると、麦わら帽子を被り、横縞シャツを着た逞しい青年が明るく話しかけた。
「《ロービア》の街にようこそ!どこまで行っても、50コルだよ!」
「じゃあ、転移門広場までお願いします!」
「おうよ、任せな!」
紫色の支払い画面が出現し、それが消えると、船頭のNPCが長い櫂を使って、船を動かし始めた。直後、5人が乗った船がするりと動き出した。
「…4層のテーマは《水路》って感じか……なぁ、水路って英語で何て言うっけ?」
「チャネル!」
キリトの質問にアスナが答える。彼女はユウキと一緒に、とても楽しそうに景色を眺めていた。光が反射する澄み渡った水に、真っ白に輝く美しい建物を見れば、そうなる気持ちも分かるが、ライトはそれよりある事が気になった。身を休める《圏内》ですら水路があるなら、当然《圏外》にもある可能性が高い。
「すまない、この船は街の外には出られるか?」
泳げない彼にとって、圏外での戦闘は死を意味する。せめて、自分達が乗っている船があれば、どうにかなると考えた。もし、街の外まで行けるのなら、今後は浮き輪を使う必要は一切ない。
「悪りぃな、そいつは無理だ。俺の仕事場は、このロービアだけだからな!」
「他に、街の外に連れて行ってくれる船はないか?」
「すまねぇ、そいつは答えられねぇな」
ゲーム世界なら、何かしらのヒントが隠されているパターンが多い。だが、それを見つける為のヒントを持つNPCは、彼ではなかったらしい。少しだけヒントを得られるかもと期待したが、どうやら見当違いだったらしい。
「転移門を開いたら、まずは情報収集だ!」
「…そうだな」
街のどこかに必ず、移動手段を見つける為のヒントを持つNPCが居る筈だ。転移門を開いたら、まずはそれを突き止める。すると、4人の前に大きな岸壁が出現し、船頭のNPCが見事な操作でゴンドラを南側の船着場に停止させた。
「お待ちどうさん、また乗ってくれよ!」
船を降りた4人がNPCにお礼を言うと、船は船着場から離れ、元の場所に戻った。目的の場所まで送り届けるように設定されているのかと、ライトが思っていると、少女達が瞳をキラキラさせて言う。
「すっごく楽しかった!」
「…そ、そうか」
ライトからすれば、少し大袈裟ではと思うが、感情豊かなこの少女からすれば、ゴンドラに乗るという体験がとても楽しかったのだろう。
「帰りも乗ろうね!」
「の、乗るしかないからな」
面倒見の良いお姉さんタイプのアスナも、今はまるで無邪気な子供のような顔だ。そんな2人の姿を見たライトは、本当に仲の良い姉妹だと思った。
一行は4層に設置されている転移門に近付き、アクティーベートを完了させた。その後、門から現れる沢山のプレイヤーが見えた。観光目的で訪れるプレイヤーが大半を占めていると考えられる。何故なら、殆どのプレイヤーが4層の街並みを見渡しているからだ。
しかし、そんなプレイヤーばかりではない。最前線に追いつく為、レア武器が売られているNPCショップを探している者や、腰に鍛冶屋用のハンマーをぶら下げて、街の案内書に目を通す少女も居る。
「前線組に追いつこうとしている連中…だな?」(小声)
「多分な…でも正直、何時までも4、50人ぐらいだったら、どこかで難航する筈だから、今後彼らが参加してくれるのは凄くありがたいよ!」(小声)
今後のゲーム攻略を考えるなら、まずは攻略組の人数を増やす事が重要だ。層を登るにつれて、レベルはどんどん高くなるだけでなく、トラップの頻度も増す筈で、少人数では対処しきれない場面も出てくる。
だからこそ、攻略組入りを目指す彼らや、そのプレイヤー達を支える生産職の存在は感謝してもしきれない。
「…とりあえず、一休みしよう」
キリトの言葉に3人は頷くと、広場の外周部にある宿を目指した。
宿へと到着した4人は、まず横並びで2つの部屋を取った。3層主街区《ズムフト》での過ちを繰り返す訳にはいかない。部屋を取った彼らは、今後の行動を検討する為、一旦キリトとライトの部屋に集まった。男女に別れて向かい合う形でソファに座り、部屋に置かれたカップにお茶を注いで飲む。すると、ライトが口を開いた。
「2人は、船が好きなのか?」
ゴンドラに乗っている間、楽しそうに目を輝かせており、今もまだその余韻が残っていると、ライトには感じられたのだ。すると、2人は少し微笑みながら言った。
「ボク、船に乗った事なかったからさ、1度は乗ってみたいって思ってたんだ!」
「船自体にはそうじゃないけど、ゴンドラに乗るのは、私も憧れてたから!」
現実世界の事について訊くのは、マナー違反になる。だが、何となく気になったからか、ライトは口を開いた。今度は、彼らの会話を聞いていたキリトが言う。
「そっか。なら、4層が水浸しになったのも、悪い事ばかりじゃなかったんだな」
「…ああぁ……βテストの時は、水路はなかったのね?」
「乾いた《涸れ谷》って言ってたもんね?」
キリトは頷いて話し出す。
「まぁな。地味な街だったから、あんまり憶えてないけど…そのうち思い出すだろう……今後の予定としては、補給やメンテや装備を更新して、受けられるクエストを受けて、情報を集めようと思ってるけど…」
「問題はその移動の時に、浮き輪を使いながら、mobと戦う必要があるって事だな?」
ライトの言葉にキリトは頷く。β時代と同じく、この層のテーマが《涸れ谷》だったら、地に足を付けて問題なく戦闘が可能だが、水中での戦闘は息を止めて水の中に潜る必要がある。武器を扱う時に感じる水の抵抗、体の動かし方が全く違うと言っても過言じゃない。
「さっきのモンスター、カーソルがかなり赤かったから、油断は出来ないわね!」
「それに、出てくるモンスターがあれ1種類だとは思えないよ!」
3層の扉を開き、渓谷に流れる川を泳いでいた時に襲われた、背ビレだけが妙に大きい魚型のmobだけがポップするとは思えないユウキの言葉に、ソファに座る3人は即座に頷いた。もっと様々な種類のモンスターが今後、必ず湧出する筈だ。その為の対策を練る必要がある。
「あ、そうだ!」
すると、突然アスナが声を上げたと思えば、ウインドウを開いて操作を始めた。そんな彼女にユウキが声を掛ける。
「どうしたの、アスナ?」
「みんなの分の水着を作ろうと思うの。これから攻略するのに、必要かと思ってね!」
そう言えば彼女は、スキルスロットに《裁縫》を取っていると思い出したキリトが、アスナにある事を頼む。
「それなら俺にも、牛印じゃない奴を作ってくれよ…地味な奴でお願いします」
両手を合わせ、頭を下げてお願いするキリト。確かに、彼が履いているあのパンツは、正直ダサい。彼が言う通り、何も描かれていない地味な物の方が似合ってるかもしれない。すると、その願いを聞いたアスナが、どこか妖しい笑みを浮かべて言った。
「じゃあ、くま印とねこ印とかえる印から選ばせてあげるわ。ライト君もこの中から選んでね?」
「待て、何で動物の印限定なんだよ!?」
「ええぇ〜…アスナ、ボクもその中から選ばないとダメなの?」
不満そうに言うユウキだが、アスナは優しく微笑んでから言った。
「大丈夫、ユウキにうんっと可愛いやつを作ってあげるから!」
「ホント? 今から楽しみだよ!」
ユウキはそれを聞くと、とても明るく楽しそうに笑った。彼女の満面の笑みに、アスナもつられて思わず笑みが零れる。傍から見れば微笑ましい絵だが、生憎キリトとライトはそんな風に思えなかった。動物の印が入った水着を、本気で作る気かと心配で仕方なかった。
正直な事を言うと、3つの選択肢のどれも選びたくはないが、気が変わって普通の地味な水着を作ってくれる気はしない。2人の少女がワイワイと女子トークを続けていると、キリトが話しかける。
「え、ええと……とりあえず、休憩にしようか。集合は…18時に、1階の喫茶室でどうだ?」
「分かったわ!」
「うん!」
了承したアスナとユウキは、ソファからスクッと立ち上がると、背を向けて扉を開けると、キリトとライトの部屋から退出した。彼女達の背中を見ながら、何気なしにライトは呟いた。
「……本気で動物印の水着を作る気か?」
「…それは勘弁したい!」
《裁縫》スキルを取得しているなら、水着を作るのは可能だが、何も動物の印が入った水着じゃなくても良いじゃないかと、2人は思った。
「…さて、俺達も休もう?」
「そうだな」
集合の時間はまだ先なので、その間に休息を取った方が賢明だろう。ウインドウを開いて、《起床アラーム》を設定すると、2人はベッドに横たわった。4層に到達してから、いきなり危険な状況に陥った為か、すぐに睡魔がやってきた。ライトはそれに抗わず、瞼を閉じて眠り落ちたのだった。
「っ!」
耳元で鳴り響くアラーム音で目を覚ましたライトは、ベッドから起き上がった。隣ではキリトがまだ寝ている。当然だ。何故なら彼は、集合時間の15分前に鳴るよう設定したのだから。
ベッドから立ち上がったライトは、窓に近寄り、街の雰囲気を見物する。あれから約3時間ぐらいしか経っていないが、広場には数え切れない程のプレイヤーが歩いていた。やはり、水路がテーマのこの層は、他とは違った新鮮さを感じさせるのだろう。しかし、今はそれが泳げないライトにとって、仇になっていた。
「…早く、この層の移動手段を見つけないとな!」
窓から広場の景色を眺めるライトは、独り言のように呟いた。すると、ベッドで横になっていたキリトが、大きな欠伸をしながら起き上がった。
「ふああぁぁぁ……早いな、ライト」
「…ぐっすり眠ってたな?」
「そりゃ、4層に登っていきなりあんな目にあったからな!」
起き上がったキリトは現在の時刻を確認する。集合時間まで残り10分はあったので、彼も窓側まで移動し、ライトと共に街の景色を眺めた。そして、広場南側のゴンドラ乗り場から延びるプレイヤーの大行列に気付いた。
「しまったな……あれじゃあ、乗るのに結構な時間が掛かりそうだ」
「…こればっかりは仕方ないんじゃないか?」
ゴンドラの数には限りがある。多くのプレイヤー達が乗りたいと思えば、必然的に大行列が出来てしまう。しかし、最初から並んでいる人達の間に入って、順番抜かしをするのは論外だ。予約を取るシステムも存在しない筈なので、結局のところ、並んで待つしかない。
「まぁ、待つしかないか?」
「変なトラブルが起きても、面倒なだけだからな!」
ライトの言う通り、もし自分達が順番抜かしをすれば、他のプレイヤーから批判の声が上がり、面倒な事になる可能性がある。はっきり言ってそれは、時間の無駄でしかない。キリトは頷いて、1階の待ち合わせ場所の喫茶室に行く為、ライトに呼びかけようとした時だった。
武装した5人のプレイヤー達が、先頭に並んでいた集団を押しのけ、ゴンドラに乗り込もうとした。当然、並んで待っていたプレイヤー達は抗議の声を上げた。だが、5人組のプレイヤーのリーダーらしき両手剣使いが怒鳴り返した。すると、それを聞いたであろうプレイヤー達は渋々引き下がった。
「『一般プレイヤーより、俺達、攻略組が優先されるべきだ!』…みたいな事を言ったのかもな?」
「多分な…そりゃマズイよ、ハフさん」
5人組の正体を見抜いた2人は、様子を見ながら呟いた。青色の胴衣を装備した彼らは、3層のクエストで誕生した、リンドが率いる《ドラゴンナイツ・ブリゲード》のメンバーだ。そして、先程の怒鳴り声を上げたのは、サブリーダーの両手剣使い、ハフナーというプレイヤーだ。
彼の思いも、分からなくはないが、前線組が特権意識を表し、他のプレイヤーから反感を買うような事態は避けるべきだ。攻略組を目指して、レベル上げをしているプレイヤーだって、確実に存在するのだ。
「だが、攻略集団に背を向けてるオレ達がどうこう言うべきでもないな!」
「それは間違いない」
ギルドに属していない余所者の自分達が、彼らに意見する資格はないと言うライトに、キリトは異議なく同意した。攻略の主力である2大ギルド、DKBとALSのどちらでもない4人が割り込めば、更に問題がヒートアップしてしまう。
面倒事は極力避けようと決めた2人は、待ち合わせの場所の喫茶室に行く為、剣以外の装備を整えて部屋を出た。渡り廊下を歩き、1階へと続く階段を降る。喫茶室が見えると、そこにはアスナとユウキが既に席に座っていた。
「お待たせしました」
「すまない、少し遅れた」
そう言って辺りを見渡したが、4人以外のプレイヤーは見当たらなかった。
「そんなに待ってないわ。」
「ボク達も今来たとこだし」
2人はこの喫茶室のメニューから視線を滑らせて、キリトとライトに目を向けながら言った。休憩の後は、この層での情報収集をする予定だが、まずは腹ごしらえをするのもアリだ。
「ちょっと早いけど、ここでメシ食ってく?」
「それなら、屋台で食べましょ?」
「外で食べるのも良いしね!」
「なら、出るか?」
4人は椅子から立ち上がって外に出ようと歩き出す。喫茶店の扉付近に立って、お辞儀をするNPCに軽く会釈して広場に出ると、既に空は茜色に染まっていた。石造りの街並みはランタンやかがり火で照らされ、美しく落ち着いた雰囲気を感じる。
4人は移動を開始し、転移門の東側に建ち並ぶ、目算で5、6軒のお洒落な洋風屋台に目を通す。晩飯になりそうな屋台は、たったの3軒ぐらいしかない。そのどれもが魚介メインの食べ物のようだ。
「オレ達が買ってくるから、そのベンチに座って待っててくれ」
「どれが食べたいとかあるか?」
少年達は屋台から視線を外して女性陣に何を頼むのかを尋ねる。
「ライトのと同じで良いよ?」
「キリト君と同じで良いわ!」
2人は目線を交差させた。屋台は沢山ある筈だが、自分達と同じ物を頼むのは、何か変な事を考えているのかと思ったが、考えすぎだと振り払い、頷いてから屋台に足を向ける。
キリトは焼いた魚と香草類を平たいパンで挟んだパニーニらしき物。ライトはチーズと焼いた魚が詰まったストロンボリのような物を選んだ。それぞれ2つずつ購入し、コルを支払って彼女達が待つベンチに戻る。
アスナとユウキに片方を渡すと、2人は代金を払う為、ウインドウを開こうとしたが、キリトとライトがそれを押し止めて言う。
「オゴリで良いよ!」
「右に同じく…それに、大した額じゃないからな!」
パニーニは2つで合計24コル、ストロンボリは2つで28コルだった。ライトの言う通り、この額のコルが引かれた程度でコル不足に陥る問題はない。
「じゃあ、お言葉に甘えるわ」
「ありがと!」
開いていたウインドウを閉じて、アスナとユウキはお礼を言った。結局、同じ食べ物を頼んだのは何故なのかと、ライトは思ったが、今更な問題なので3人と一緒に食べようとした時だった。ベンチの奥から誰かの手がグイッと伸びてきた。
「悪いナ、お2人さン」
唐突に姿を見せたのは、地味な色のフード付きマントを装備した、アインクラッドで1番と言っても過言ではない凄腕の情報屋《鼠のアルゴ》だった。情報屋はユウキの隣にササッと移動してベンチに腰掛けた。
「相変わらず見事なハイティングスキルだけど、これは俺達の晩飯だぞ!」
「ふーン、アーちゃんには奢ったのに、オイラには冷たいんだナ……キー坊が眠ってる間に、速攻で情報を集めてやったのにナー」
「う!」
アルゴのその言葉に、キリトはバツが悪そうな声を出した。実は宿で4人が身を休める少し前、キリトはメッセージでアルゴにこの層のクエスト情報を依頼していた。そして、彼女がここに居るという事は、頼んだ依頼は完了した事を意味する。たったの3時間で依頼を終えるとは、流石は凄腕の情報屋だと、ライトは舌を巻いた。
「だから、せめてゴハンくらい奢ってくれても良いと思うんだけどナー?」
「わ、分かったよ。何を奢ればいいんだ?」
途端にアルゴはニヤッと顔を綻ばせて言った。
「オイラ、チーズたっぷりのピザが食べたいナァー」
その言葉を聞き終える前に、キリトは全速力でピザが売られている屋台にダッシュすると、すぐに戻ってピザを両手で差し出した。
「無理なお願いしてすいませんでした!」
「うむ、くるしゅーナイ」
「…キリト君の使い方、上手ですね?」
「ニョフフフ、処世術だよ」
唖然としながらアスナがそう言うと、アルゴは奇怪に笑ってそう答えた。5人は「いただきます」と言ってから、それぞれが持つ軽い夕食を食べ始める。
3層が攻略されてから今の今まで、殆ど何も口にしていなかった4人は無言で食べ進める。アルゴも依頼を完了させるまで何も食べていなかったと、ガツガツで食べ進める。あっという間に食べ終わった5人は、食べ疲れたように息を吐いた。すると、アルゴが腰にぶら下げたベルトポーチの1つから、羊皮紙のスクロールを引っ張り出した。
「今回は特急割り増し料金……と言いたいけど、さっきのチーズマシマシに免じて通常料金にしとくヨ。500コル」
キリトはコートのポケットから1枚の金貨を取り出すと、アルゴに差し出した。「毎度!」と言って、金貨と羊皮紙を交換して受け取る。キリトがそれをタップすると、自動的にくるくると開いた。
「何それ?」
広げられた紙を指差したユウキに、キリトは中身を確認しながら答えた。
「クエストNPCの位置が記されてる紙さ」
内容を聞いた途端、アスナが呆れる様な視線を照射して言った。
「アルゴさんには調べて貰って悪いけど、そんなの自分で歩けば済む事じゃないの!」
「オイラもそう言ったんだけどナー。だいたいキー坊は、βの時にここのクエ全部経験済みだロ?」
アルゴの言う事は事実だ。確かにキリトは、β時代に第4層に存在する全てのクエストを経験している。故に、今見ている羊皮紙は彼にとって必要ないのだ。なのに何故、そんな依頼をアルゴに頼んだのか。すると、紙に目を通すキリトが口を開いた。
「俺の記憶とクエストマップデータを照らし合わせたかったんだ!」
それだけ答えると、キリトは再びマップを覗き込み、クエストマークを指でタップして潰していく。そして、最後の1つのクエストが立つ場所で止まった。
「ここだ!」
「そこに行けば、この層の移動手段が手に入るかもしれないのか?」
「多分な!」
ニヤッとライトに笑みを浮かべて、キリトはそう言った。