SAO another story   作:シニアリー

39 / 69
水路の都市に欠かせない移動手段のゴンドラ。

今回はその素材集め回です。


最高の船造り

 

アルゴと別れた4人はその後、大行列となっているゴンドラ乗り場に向かったが、キリトがとんでもない案を出した。なんと、幾つか海を進む船を踏み台にして目的の街に渡りきったのだ。

 

その際、キリトがアスナに対して、色々とやらかしてしまったが、どうにか無事に辿り着く事に成功した。そして、訪れたのは街の北西地区だった。4人は水路を流れるゴンドラを呼び止めて、指定の場所を伝えると、割り勘でコルを支払う。

 

キリトの所為で不機嫌だったアスナだが、ゴンドラの船首側に陣取ると、途端に機嫌を良くして、ユウキと共に左右の街並みを見渡す。

 

玄関ポーチの水際で子供達がおもちゃの船を浮かべて遊んでいたり、水鳥の親子が彼らのすぐ横を泳いでいたりと、とても落ち着いた雰囲気が感じられ、暖かい太陽の光が更に引き立てる。

 

「あっ、あそこの家、売り物みたいよ?」

「ホントだ、綺麗な家だね!?」

 

視線を辿ると、確かに2階建ての1軒屋に《FOR SALE》と書かれた木製の立て札がある。この綺麗な街並みなら、さぞかしあの家も立派だろうと思ったが、ライトは家を買おうとは一切思わなかった。すると、隣に座るキリトが言う。

 

「値段は見ない方が良いぞ。ガックリするくらい高いからな」

 

すると、途端にアスナとユウキが不満そうな表情で口を開く。

 

「なによ、夢がないわね!」

「住んでみたいって思うのも良いと思うけど?」

 

2人の気持ちも分からなくはない。透き通った綺麗な水が流れ、真っ白い建物が建ち並ぶ街は申し分ない程に気品と美しさを感じる。だが、よくよく考えてみれば、物件を買うのに躊躇う理由は色々ある。

 

「この層の物件はあんまりオススメしないな!」

「何となく分かるぞ。まず移動手段が面倒な上に、ゴンドラに乗るだけでコルが掛かるんだからな」

 

美しい景色に目を奪われがちだが、思い止まってじっくり考えてみると、ライトの言う通りだ。移動する為だけにお金が掛かる層の物件を購入するのは考え物だ。

 

「それもそうね。眺めは素敵だけど、そこを考えると、買うのは躊躇っちゃうわ」

 

アスナが静かに言うと、隣に座るユウキが苦笑を零して頷いた。あの物件以外にも、この層には幾つか売り物に出されている家があるだろうが、現時点でそれを購入するメリットは無い。すると、緩やかに流れるゴンドラが指定の場所に到着した。

 

船着場の近くにあったのは、かなり古びた大きな建物だった。その建物に近付き、ライトが汚れた窓から中を覗くと、揺れ椅子に座るNPCの姿を見つけた。

 

「アルゴって凄いよね、こんな所まで見つけちゃうなんてさ!」

「あの人を超える情報屋なんて、このアインクラッドに居ないんじゃないかしら?」

 

それには、少年達も同感だった。恐らく、想像も付かない手法で情報を入手していると思うが、それを細部まで知りたいとは思わない。例え聞いても、彼女はきっと『その情報はタダじゃ教えられないナァ』とか言って、煙に巻かれるのがオチだ。

 

「とりあえず、入ってみよう?」

 

キリトはそう言って、古い建物の玄関に近付き、扉を叩いてノックする。すると、数秒して中から無愛想な返事が聞こえた。

 

「鍵は掛かっとらん。用があるなら勝手に入れ」

 

キリトが小さく溜め息を吐くと、ゆっくりドアを開けた。中に居たのは、今にも壊れそうな揺れ椅子に腰掛ける真っ白な髪と顎髭、肌は良く焼けた老人だった。右手には酒瓶、左手にはパイプを持ち、片目で4人をジロリと睨むが、特に何も言わなかった。ライトとキリトは頷くと、老人に近寄った。

 

「ご老人、何か困っているのか?」

 

このまま黙っていても、何も起こらないと分かったライトは、声を掛けてみる事にした。従来のMMOゲームはある場所に着けば、そこで待つNPCに声を掛けると、クエストを授与される為、そのパターンで試みた。

 

「…何も困っとらん。さっさと出て行ってくれ」

 

どうやら失敗のようだ。老人はそう言うと、右手に持つ酒を呷る。NPCが何も答えてくれない場合、自力で突き止めるしか無いが、残念ながら今はヒントすら掴めていない。

 

ライトは辺りを見渡した。壁には巨大な魚の剥製だの、束ねられた獣の革など、錆び付いた(もり)など、色々な物がありすぎて何がヒントなのか分からない。

 

「(何かないか? 何か…っ!)」

 

ライトはヒントを探し当てようと、本棚に近付いて気付いた。床に見慣れない、長さ10cm程度の錆び付いた釘がある事に。ライトはしゃがむと、その釘を拾い上げた。

 

「(何だ、この釘?……どこかで見たような…)」

「ライト、何か見つけたの?」

 

しゃがみ込み、何かをずっと見詰めているライトに、ユウキが声を掛けた。キリトやアスナも不思議そうにしていると、ライトは振り向いて右手に持つ釘を3人に見せる。

 

「これを知ってるか?」

「あっ…それ、特殊な用途の釘だよ。普通の釘よりも、食い込む力が強いらしいよ…だったよね、アスナ?」

「えぇ。だから、古い建物や木造船にも使われるらしいわ!」

「…そうか! でかしたぞ、ライト!」

 

アスナがそこまで言った途端、キリトが声を上げて感嘆した。そして、彼は椅子に座る老人の正面に立ち、大きく息を吸ってから口を開いた。

 

「ご老人、俺達に船を造ってください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空は日が沈み、月明かりがよく見える。辺りを見渡せば、目に映るのは何本もそびえ立つ樹木だけだ。淡い月光が夜の森を照らす光景は悪くないが、今のライトはそんな気分ではなかった。

 

美しい光景に対して、地面は水分をたっぷり含んでいるのか、歩く度にブーツが僅かに沈む。戦闘になれば、動きずらい事この上なしだ。

 

「…はあぁぁ……何でこうなる?」

「ライト、今ので溜め息つくの3回目だよ!」

 

周囲を警戒しながらも、うんざりしたように呟くライトに、隣を歩くユウキが口調を厳しくして言った。だが、彼がそう思うのは仕方ない。本来なら、このクエストはとっくに終わっているのだから。

 

4人が引き受けたクエスト名は《昔日の船匠》と言うらしい。遡る事少し前、キリトが酒瓶を持った老人のNPCに『船を造ってくれ』と言ったが、老人はこう答えた。

 

『ワシはもう、船大工はやめたんじゃ。水運ギルドの連中に船造りに必要な素材を全て独占されてしまってな。それでも船を造って欲しいなら、南東の森に行って、防水に必要な熊の脂を取ってこい。ただし、ヌシ熊に出くわしたら逃げた方が身の為じゃ。奴からなら、最高級の脂が取れるじゃろうがな』

 

最後の方は明らかに挑発めいた言葉だったが、アスナとユウキはその言葉に乗ってしまった。だが、それよりもライトが気になったのは、老人が口にした内容だったが、答えてはくれないと感じた。

 

 

 

 

4人はそれから南東の森に進み、二手に別れて探す事になった。キリトからは、β時代のヌシ熊は6人で構成されたパーティーも蹴散らしたそうだが、レベルもスキル熟練度も高い為、油断しなければ大丈夫な筈だ。

 

問題は出現する確率だった。二手に別れたまでは良かったが、既に10匹以上は狩っているのに、未だ姿を見せない。

 

情報によれば、手掛かりは木の上に刻まれた4本の爪痕だが、それらしい物すら見当たらない。恐らくだが、このクエストはヌシ熊でなくても、普通の熊の脂を入手すればクリア出来る筈だ。何故なら、あの老人は『ヌシ熊からは最高の脂が取れる』と言っただけで、『取ってこい』とは一言も言ってない。

 

 

「この手のクエストは、見つけるのにかなりの時間が掛かるぞ。それに、キリトが言ってたが、例えゴンドラを造ったとしても、次の層には持ち運べないんだ!」

「ボクもアスナも、そんな事は分かってるよ。でもね、何となくだけど、あのおじいちゃんは、ボク達よりもずっと船が大好きで仕方ないって思うんだ。そんな人に中途半端な素材を持って行くなんて、絶対にしちゃいけない気がする!」

 

強い意思を感じさせる瞳で言われれば、ライトは何も言えなくなってしまった。

 

《所詮はNPCから与えられたクエスト》

 

とは、彼は口に出来なかった。それを言う事は、自分達と共に過ごした、誇り高いリュースラの騎士キズメルを侮辱する事を意味する。

 

「…向こうも似たようなやり取りをしてそうだ」

 

ライトは独りごちた。今の自分達と同じ構図が、キリトとアスナも出来上がっていると思ったその時、2人の耳に獣が発する勇ましい咆哮が届いた。

 

 

ゴオオオォォォォ!!!

 

 

「ライト!」

「分かってる!」

 

2人はすぐに、咆哮が聞こえた場所へ走った。恐らく、キリトとアスナが先にヌシ熊を見つけたのだろう。もしそうなら、すぐに合流する必要がある。ブーツが僅かに沈みながらも、所々に溜まっている泉に注意しながら走り抜ける。

 

スピード型のユウキはスラスラと木々の間をすり抜けるが、ライトはバランス型なので、どうしても彼女より遅くなる。2人が走るにつれて、戦闘音は激しさを増す。やはり、この先で彼らが戦っている可能性が高い。

 

その時、2人の視界に紅蓮の炎を思わせる赫い光が飛び込んだ。ヌシ熊が何かしらのソードスキルを使ったと思ったが、キリトが『熊はソードスキルを使わない』と言っていた。β版と変更されている可能性もあるが、もしそれが違うなら、第2層で出現した新たなボス《アステリオス・ザ・トーラスキング》が使った、遠隔攻撃の《ブレス》という事になる。

 

「ライト、急ごう!」

「あぁ!」

 

2人は全力疾走で駆け抜けた。そして、漸く拓けた場所に辿り着いたが、その光景に息を呑む。

 

拓けた湿地の奥に、2本のツノが生えた超巨大な熊が目付きをギラつかせていた。更に、奴の正面にある木や湿地が、炎で燃やされたかの如く、真っ黒に焼け焦げていた。キリトとアスナの姿を探そうと、周囲に目をやると、1〜2m離れた泉から2人が出てきた。

 

「アスナ、キリト!」

「「っ!?」」

 

ライトとユウキは、泉から顔を出した2人に近付いて手を掴み、泉から引っ張り上げた。

 

「ありがとう、ユウキ!」

「大丈夫、2人とも?」

「あぁ…けど、少し厄介な事になった」

「あれがヌシ熊か。しかし……大きすぎないか?」

 

2本のツノが生えたヌシ熊改め【Magnatherium】マグナテリウムは分厚い灰色の毛皮、真っ赤に輝く2つの目玉に、鋭い凶悪な牙と爪を持っていた。

 

「あんなの絶対、熊じゃない」

「俺もそう思う」

 

2人の言う通り、明らかにあれは熊ではない。熊に似た何かの怪物だ。しかし、ファンタジー世界にはあのような怪物が居ても不思議はない。

 

暢気にそんな事を考えながら、ライトはマグナテリウムを観察する。奴はまだ動かず、こちらを向いたままだ。すると、キリトがライトとユウキに耳打ちする。

 

「ライト、ユウキ、聞いてくれ。黒焦げになってる地面を見れば分かるだろうけど、あいつは2層のボス戦に出た《アステリオス・ザ・トーラスキング》と同じように《ブレス》を使ってくる。しかも、雷じゃなく炎属性のな!」

 

念の為、合流したライトとユウキに奴が放ったブレスの属性を説明した。背後に目をやると、地面は焼け焦げ、木も裏側まで焦げていた。それを見るに、あのブレスを躱す方法は泉に身を沈めるしかないと思われる。

 

「キリト、その炎ブレスはβの時に設定されてたのか?」

「噂程度には聞いた事あるけど、ここまでとは思わなかった!」

 

ブレスの威力を前に、キリトは簡潔に話す。確かに、ここまでの範囲攻撃なら、6人パーティーが全滅したのも頷ける。

 

「どうする? 逃げる?」

 

攻撃パターンも何も掴めていない状況で、戦闘を続行するのは危険だ。キリトの提案に賛成する方が賢いが、このまま引くのは納得いかないと、アスナとユウキの顔がそう言っていた。

 

「無理して戦う必要はないけど、もう少しだけ情報収集してみない?」

「ボクもその方が良いと思う…あの熊の攻撃パターンを掴めれば、次は倒せるんじゃないかな?」

 

確かに一理ある。今は倒せないかもしれないが、パターン攻撃を把握できれば、次に挑む時に対処は可能だ。更に、もしこの森にうっかりプレイヤーが1人で入り、あの熊に遭遇すれば、高確率で危険な目に遭う。自分達が出来る限りの情報を集めたら、攻略組に『このエリアは危険だ』と知らせる事が出来る。

 

「…分かった。なら、街の方に戻りながら情報を集めよう!」

「まぁ、それが1番妥当な判断だな」

 

男子2人組も頷くと、素早く構えた。すると、長い硬直時間が解かれ、ヌシ熊が4人に前進し始めた。

 

「大木まで走るんだ。木を間に挟んで、突進させないようにする!」

 

4人は動き出し、ヌシ熊と距離を取ろうとする。しかし、その巨体に似合わない速さで、奴は彼らの後を追う。

 

「ギャズゴロアアァァ!!」

 

熊らしからぬ、けたたましい咆哮が4人の耳に轟いた。照準をライト達に合わせ、2本のツノで突き刺そうとする。4人は走って木を陣取り、奴の突進を無効化しようとする。

 

「よーし……そのまま突っ込んでこい!」

 

太い樹木は直径2mは超えている為、あの木に頭をぶつければ、ヌシ熊もタダでは済まないと、キリトは言っていたが、ライトは気を休めなかった。

 

あの巨体がそびえ立つ大木にぶつかっても、果たして耐えられるかと。しかも、額にツノが生えているのだから、あの木を砕いてしまう恐れもある。そんな不安を抱いた為か、ライトの予感は的中してしまった。

 

「うっそおぉぉっ!!」

 

スピードを全く緩める事なく大木に激突したまでは良かったが、額に生えた2本のツノでその大木を粉々に打ち砕いてしまった。多少、スピードは緩まったが、それでも突進は止まらず、凶悪なツノが迫り来る。

 

「っ!? 下がれ!!」

「ライト!?」

 

刹那、ライトが最小限の動きで剣を構え、刀身に光を灯す。

 

「おおおぉぉぉ!!!」

 

 

ガアアァァァン!!!

 

 

「「「っ!!?」」」

 

単発ソードスキル《スラント》を踏み込みと同時に発動させ、威力を上げた斬撃と2本のツノが衝突した。

 

「くおおぉぉぉぉ!!?」

 

しかし、突進の威力は想像以上に激しい上に重く、迎え撃ったライトを後方へと弾き飛ばした。3mも後退させられ、大木に背中を打ち付けた事でHPが減少してしまった。

 

「…はぁぁ……重いな」

 

8mを超える巨体の突進攻撃を味わい、彼の頬を冷や汗が伝った。生身で受ければ命は無い上に、剣で受け止めようとするのも不可能だ。土壇場でソードスキルを発動させた為、ノックバックだけで済んだが、喰らっていたらと思うと洒落にならない。

 

「ライト、大丈夫!?」

「あぁ、何とかな。」

 

彼女からポーションを受け取り、栓を開けて飲み干す。それにより減少したHPが回復していくが、大きな問題が発覚した。あのヌシ熊は例え大木にぶつけても、突進は無効化できないらしい。これでは、奴を倒すのは至難の技だ。

 

遠距離からは《炎ブレス》、大木をも粉砕する突進力。キリトが厳しい顔で思考を巡らせていると、ライトが声を掛けた。

 

「1本で駄目なら、2本だ!」

「「「っ!?」」」

「奴が1本目の木にぶつかった時、少しスピードが落ちた。つまり、何本かあのツノ頭に木をぶつければ、いずれは止まる筈だ!」

 

彼はそう言うと、剣尖を構え直した。大木を破壊する突進は恐ろしいが、塵も積もれば何とやらの如く、幾つもの大木に激突させれば、必ず停止する筈だ。

 

「成る程、試してみる価値はあるな!」

「えぇ、このままノコノコと帰るのは真っ平ゴメンだわ!」

「ボクも、まだ諦めるのは早いよね?」

 

ライトの案に乗った3人は、素早く動き出し、ヌシ熊から距離を取った。すると、背を向けた4人にヌシ熊が吠えると、追いかけようと走り出す。そして、今度は間に2本の木を陣取り、迎え撃とうとする。念の為、大木から十分に距離を取り、何時でも迎撃の準備を整える。

 

「ゴロアアァァァ!!!」

 

 

バキイィィィン!!!

 

 

1本目の大木が見事に粉砕され、2本目へと迫り来る。そして、最後の大木と2本のツノが再び衝突し、粉々に砕かれた。だが、ヌシ熊はその場で停止し、追撃を仕掛ける事は無かった。

 

一安心だが、油断は出来ない。2本の大木で突進を止められるのは分かったが、数にも限りがある。全て破壊されれば、突進を止める術がない。

 

「…このまま行けば」

「あぁ。ちょっと厄介だな」

 

ライトに続き、キリトも思わず呟く。その後も、2本の大木を使って、どうにか突進を躱す。しかし、反撃の手が思い付かないまま、次々に大木が破壊されていく。

 

「ぬうう、魔法が欲しいぜ……氷プラス物理属性の、デッカいツララをどっかんどっかん撃てるやつ…そしたら、絶対ダメージ入るのに!」

「世界観が崩壊するような妄想してないで、どうするのよ?」

 

正直に言うと、ライトも同感だった。体長8mはある化物に魔法攻撃は特別有効だが、このSAOに魔法は存在しない。代わりにソードスキルが実装されているからだ。やはり、木を間に挟む戦法を使いながら、圏内の街《ロービア》に戻るしかないと、意識を切り替えようとした時だった。

 

「ねぇ、みんな……あの熊、ツノが木に当たった後、すぐには動かないね?」

 

ユウキがポツリと呟いた言葉に、3人はヌシ熊に顔を向ける。確かに彼女の言う通り、奴は自分のツノで粉砕した木がある場所で止まって歯を食い縛り、ライト達を威嚇していた。

 

だが、例えそうでも、ヌシ熊を倒すには接近する以外に道はない。もうかなりの大木を使ってしまった手前、猶予はあまり残されていない。何か策は無いかと考えようとした途端、キリトが声を上げた。

 

「みんな、ちょっと作戦があるんだけど、聞いてくれないか?」

「「「っ…」」」

 

3人は不思議がるも、キリトの言葉に耳を傾ける。彼の話に耳を傾けながらも、4人は警戒を怠らない為、常にヌシ熊を視界に捉える。作戦を話し終えた途端、ライトが最初に口を開いた。

 

「その役目はオレがやる!」

「頼むぞ、ライト!」

 

ライトは頷いて3人から少し離れると、ヌシ熊に向き直って大きく声を出した。

 

「おい、オレが相手だ! こっちに来い!!」

 

ライトは背中を見せ、ダッシュで離れていく。本来、熊に背中を向けるのは現実世界でも自殺行為だが、これこそがキリトが考えた作戦だった。ヌシ熊は標的をライトに定め、強靱な牙を宿す口を大きく開く。奴の喉の奥に赤い光が瞬き、炎属性のブレスが放たれようとした

 

 

ーーーその時

 

「今だ!」

「「うん!!」」

 

合図と当時に、3人がヌシ熊に向かって全速力でダッシュし、そのまま股下をスライディングで潜り抜けた。そして、すぐに急ブレーキで体を反転させ、3人は殆ど同時にソードスキルを叩き込んだ。

 

「はああぁぁぁ!!」

「やああぁぁぁ!!」

「せああぁぁぁ!!」

 

片手直剣上段突進ソードスキル《ソニック・リープ》と細剣上段突きソードスキル《ストリーク》が、ヌシ熊の尻尾の部分に炸裂した。

 

「ギュルオオォォォォ!!!」

 

ダメージを与える事に成功したが、ここで予想外な事が起きた。ソードスキルによる攻撃を受けたヌシ熊が悲鳴を上げ、突然タゲ取りをしていたライトに向かって、猛スピードで突進したのだ。

 

「まずっ!ライト、逃げろ!」

「ライト、避けて!」

「ライト君!」

 

ヌシ熊の想定外の速い突進に、キリト、ユウキ、アスナは急いで叫んだ。そんな中でも、ライトは冷静だった。先程よりも突進のスピードが速いと感じ、ライトはその場で止まり、ギリギリまで引き付けた。

 

「く!」

 

そして、額に生えたツノが体に当たる直前で、大きく右側へ跳んだ。直後に途轍もない破砕音が2度も轟き、ライトの後ろにあった2本の大木が倒れた。

 

「ライト、大丈夫か?」

「あぁ、問題ない……それより見ろ、奴のHPが随分減ってないか?」

 

体を回転させ、受身を取った事でHPの減少を防ぎ、立ち上がってヌシ熊を見ろと伝える。キリト達は釣られてヌシ熊に目をやる。大木に激突した奴は静止状態のままだが、HPバーを確認すると、確かに満タンだった筈が3割以上も削られていた。

 

「本当だ…さっきのボク達の攻撃だけであんなに」

「…もしかしてあれ、倒せるんじゃない?」

 

アスナがそこまで言った時、ライトは瞬時に思考を巡らせた。ヌシ熊の弱点部分があの尻尾の部分だとすれば、このパーティーで最大のダメージ力を放つ《シバルリック・レイピア》と《リュナイト・ソード》を持つ少女達にアタッカーを任せれば、勝てるかもしれないが、確固たる確証が無い。ライトは素早くキリトに目配せすると、キリトは小さくだが、サッと頷いた。

 

「やってみる価値はあると思う…俺とライトがあいつの攻撃をソードスキルで弾くから、アスナとユウキはスイッチでダメージを与えてくれ。ただし、深追いはするなよ?」

「了解!」

「オッケー!」

「そうと決まれば、行くぞ!」

 

4人の意見が纏まったところで、ライトの掛け声と共に全員が湿った地面を踏み締め、ヌシ熊に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、やはりと言うべきか、何と言うべきか。アスナとユウキの主武装《シバルリック・レイピア》と《リュナイト・ソード》のスペックは、破格の代物だと思わせるに十分な活躍を見せた。厄介な炎属性のブレスは、アスナが泉が湧いている場所を覚えていたので、大ダメージは受けなかった。

 

「ほら、勝てるって言ったでしょ?」

「アスナの言った通りだね?」

 

流石の2人も疲労は見えるが、ニッコリと笑っていた。やはり、破格のスペックを持つ剣とそれに見合う剣技の才能、息の合った連携は恐ろしいと言わざるを得ない。

 

「はぁぁぁ……疲れた」

「…流石にな」

 

キリトは地面に座り込み、ライトは呼吸を整えていた。あの巨体から振り下ろされる強撃を剣で受け流し続けた為、疲労の色が窺えるのは当然だ。少女達の方を見ると、ウインドウを開いてドロップアイテムを確認していた。

 

「わっ、凄い!《幻の熊脂》が4つもドロップしてる!」

「ボクにもドロップしてる! え〜っと、他には毛皮とか、爪とか……《火炎熊の掌》?」

「見ない方が良いぞ、グロい物が出てきそうだから」

 

キリトは立ち上がると、ドロップアイテムを確認する。新規入手欄に目をやれば、《幻の熊脂》と《火炎熊の硬角》が1つドロップされていた。恐らく、あのヌシ熊に生えていた2本のうちの1本だろう。

 

ライトもアイテム入手欄を開くと、キリトと同じ《火炎熊の硬角》がドロップしていた。詳しい確認は後だと決め、アイテム欄を閉じて時刻を確かめた。

 

「ふぅぅ……もう11時か。随分とまぁ、遅くまで戦ったな」

「え〜っと、すぐにクエ報告行きます?」

「行くに決まってるでしょ?」

「早くあのおじいちゃんに、集めた素材を届けに行きたいしさ?」

 

4人は踵を返すと、森を抜けて《ロービア》に戻った。森を抜ける途中で、何度かモンスターと遭遇したが、無事に切り抜けられた。

 

そこから、森を抜け出て広場に着くと、24時間営業しているゴンドラを拾い、街の西南エリアまで移動する。

 

 

 

 

幸い、老人の家はまだ明かりが灯っていた為、4人はノックして扉を開ける。4人を出迎えた老人は、相変わらず右手に酒瓶、左手にパイプを持って椅子で揺れていた。4人が彼の前まで移動し、アスナが声を掛けた。

 

「熊の脂、取ってきましたよ」

 

その後に、アスナはウインドウを開いて、ドロップアイテムの《幻の熊脂》をオブジェクト化した。すると、老人が片眉を動かした。

 

「この匂い……ヌシの脂を取ってきよったか」

 

差し出されたヌシ熊の脂が入った壺を手に取ると、クエストログが進行する効果音が鳴り響いた。だが、ここで老人は鼻を鳴らした。

 

「フン、じゃが、これでは足りんな」

 

確かにたった1坪だけでは、最高のゴンドラを造るのは叶わない。すると、彼の言葉を聞いたユウキ、キリト、ライトが順にウインドウを操作し、《幻の熊脂》を幾つもオブジェクト化させて、老人に差し出す。それが功を奏し、クエストログ進行の効果音が鳴り渡った。

 

「フン、よかろう。どうやら本気でこの老いぼれに船を作らせたいようじゃな」

「はい。お願いします、お爺ちゃん!」

 

真剣味を帯びたユウキの声が響くも、彼は腰掛ける椅子から立ち上がろうとせず、左手に持つパイプを吹かしながら、どこか想いを馳せる口調で呟いた。

 

「…言ったじゃろう、水運ギルドの連中に、必要な素材を独占されてしまったと。船を造るには大量の木材が必要なんじゃ。しかも、南東の森にしか育たん丈夫な木がな…それがあれば、丈夫な船を造れるじゃろうて。もっとも、木こりをした事もない素人にやぁ、とても歯が立たんわな…」

 

《昔日の船匠》クエストのパート2が開始されたが、それは意味を成さなかった。4人は顔を見合わせると、再びウインドウを操作し、ヌシ熊の戦闘時に集めておいた大量の《銘木の心材》をオブジェクト化したからだ。

 

 

 




ヒロイン達に振り回されるのが恒例となった主人公2人。

オリ主は基本的に面倒くさがりな面がありますが、効率的に物事を進めようとした結果でございます。

次回は、彼らの船が完成されます。そして、近付くフォールンの暗躍。

では、また次回

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。