SAO another story   作:シニアリー

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少し長くなりましたが、4人が水路ダンジョンへと潜入を開始します。






水運ギルド

 

β版に存在しなかった新たなクエスト《昔日の船匠》で入手した2艘の船、ティルネル号とキズメル号に乗り込んだ4人は、主街区の水路で船の操作の練習をしていた。最初は少し不慣れだったが、徐々に慣れてきた。

 

「ライト、そっちは大丈夫か?」

「あぁ、何とか慣れてきた」

 

ライトが櫂で漕いでいると、前方からキリトが声を掛けてきたので、少し声のボリュームを上げて返事をする。彼とユウキが乗るキズメル号の前には、キリトとアスナが乗るティルネル号が水路を進んでいる。すると、前方からアスナの声が聞こえた。

 

「ねぇ、このまま街の外まで行ってみない!?」

「良いね、それ!」

 

彼女の提案にユウキがすぐに同意するが、それを良しとしない男子2人が口を開いた。

 

「いきなり外はちょっとな。確かにコツは分かってきたけど、もうちょっとだけ練習させて欲しい!」

「前に同じく。それに、水運ギルドの連中だって居るんだ。何も起きない訳がない」

 

船の素材を独占しているギルドに見つかって、何かトラブルが起きないとも限らない。更に、彼らの方が船の操作技術は上だ。戦闘になった時、出来上がった船を傷付けられるのは避けたい。彼らの言い分を聞いたアスナとユウキはコクリと頷いた。

 

現在の時刻は午前5時50分。ロモロ老人の建物で休息を取ったとは言え、硬い床に座っただけでは、十分に休めなかったようだ。その証拠に、ティルネル号を漕ぐキリトは大きな欠伸を、ライトは重い瞼を持ち上げる為、手で目を擦っている。そんな彼らに、少女達が呆れながら口を開いた。

 

「2人とも、すっごく眠そうだね?」

「あんな硬い床で、十分な休息なんて取れる訳ないでしょ? 一旦、宿に戻る?」

 

揺り椅子で睡眠を取った女子2人は全く問題なさそうだが、硬い床に座っただけの男子2人は違う。まだ休み足りないキリトは、思わず苦笑を零して言った。

 

「じゃあ悪いけど、そうさせて貰うよ!」

 

キリトはそう言うと、櫂を操作して南のメイン水路に出て、街の中央にある転移門広場を目指した。ライトもティルネル号の後を追い、櫂を漕ぎ続ける。前方に大きな岸壁が見え、西と東には小舟が停留している場所があった。彼らは西の船着き場に船を近付け、難航しながらも船を停める事に成功した。

 

「「お疲れサマ!」」

 

アスナとユウキが労いの言葉を掛けると、キリトとライトは適当に返事を済ませ、ロモロ老人から渡されたゴンドラの取り扱い説明書の通りに、まず舫い綱を係留柱に掛けた。

 

「ねぇ、ホントにこれだけで大丈夫なの?」

 

綱を柱に掛けたライトに向かって、ユウキが少し心配そうに言う。ライトは説明書を見ながら、彼女の疑問に答えた。

 

「こうすれば、綱は固定状態になって、解除できるのは所有者だけと、説明書に書いてあったからな!」

 

作業を完了させると、目の前に位置ロックが固定された確認ダイアログが出現した。これで、システム的に他のプレイヤーが綱を外す事は出来なくなった。4人は桟橋を渡り歩き、最寄りの宿前に到着した。

 

「もう朝の6時か……集合は11時にしよう?」

 

3人はキリトの言葉に頷くと、宿の中へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋で休息を取ったライトとキリトは、設定した《起床アラーム》の音で目を覚まし、扉を開けて部屋を出ると1階でアスナ達と落ち合い、宿を後にして屋台へと足を向けた。

 

辿り着いた4人を迎えたのは、観光目的で集まる多くのプレイヤー達で賑わう屋台だった。濃厚なチーズが焦げる香ばしい香りが食欲をそそり、どれを頼もうかと考えていたライトが、少し離れた場所が騒がしい事に気付いた。

 

「何かしら?」

 

どうやらアスナも気付いたようだ。そして、ユウキもその場所へ視線を向ける。しかし、キリトだけ見当違いな回答が出た。

 

「俺は魚フライ定食にしようかなーって…」

 

どうやら相当に腹が減っているようだ。船を造る《昔日の船匠》クエストで疲れたのは間違いなく、宿ではすぐに爆睡してしまったが、今は食欲の方が勝っているのかと、ライトは苦笑を浮かべて彼に声を掛けた。

 

「違うぞ、キリト…あれを見てみろ!」

 

キリトはライトが指を差した方向に目をやった。少なからずのプレイヤーが広場を立ち去り、西の方角へ向かっていく。4人は顔を見合わせると、様子を見に行こうと、彼らの後を追いかけた。

 

屋台を後して、西の広場に足を踏み入れた途端、突き当たりの岸壁に大勢の人だかりが見えた。50人程が集まっている場所の向こうには、船着き場しかない。

 

「ねぇ、今ボクすっごい嫌な予感がしてるんだけど…」

 

ユウキの言葉に、3人は同時に首を縦に振った。50人のプレイヤーが集まる向こうで、何か問題が起こっているのは間違いない。4人が歩行スピードを速めて群衆を掻き分けると、ある意味で予想通りな光景が映った。

 

視線の先には、桟橋の根元で睨み合う6人編成の2パーティーが立っていた。右側のパーティーは緑一色の攻略主力ギルド《アインクラッド解放隊》で、左側は青い胴着を装備した同じく攻略主力ギルド《ドラゴンナイツ・ブリゲード》だ。

 

両者が互いに睨みを利かせていると、先に口を開いたのはトゲトゲ頭の解放隊リーダー、キバオウだった。

 

「相変わらず話の分からんニーチャンやな。ええか、この2つの船を先に見つけたんはワシら解放隊やぞ!こっちが先に調べんのは当然の事や!」

 

ドスの利いた声で主張するキバオウだが、負けじと《ドラゴンナイツ・ブリゲード》のリーダー、リンドが反論する。

 

「責任者のあんたが来たのは、俺より2分も遅かったじゃないか。こちらは既に調査を始めていた、難癖を付けるのは止めて貰いたい!」

「難癖やて!? そっちこそ屁理屈捏ねるんはやめぇや! ワシらの見張りを退かしといて、偉そうな事が言えんな!」

「ここは圏内だ! プレイヤーを無理やり動かす事が出来ない事なんて知ってるだろう!?」

 

お馴染みの展開を繰り広げる光景に、アスナが危機感と脱力感が混ざった声で呟いた。

 

「…私、何て言いって良いのか分からないわ」

「……こんな時は、うへぇ…って言ったら良いと思うよ?」

「………うへぇ…」

 

そんなやり取りの傍らで、ライトはこうなる可能性があると考えなかった自分にため息を吐いた。4層のテーマは水路なのだから、今までの層のように、プレイヤー達が歩いて移動する事は出来ない。誰もが移動方法を見つけようとするのは当たり前だ。

 

黄色のカーソルを示すNPCが乗っていない船が、広場に近い船着き場にあれば、攻略集団の目に止まる可能性は極めて高い。

 

「…兎に角だ、この場を切り抜ける方法が2つ思い付いた。1つ目は奴らのほとぼりが冷めるまで、屋台で昼飯を食いながら待つ。2つ目は奴らの間に割って入り、造船クエストについて説明する」

「1つ目は無理だと思うな。ほとぼりが冷める気がしないもん!」

 

ライトが2つの内容を言い終えた直後、ユウキが最初の提案を即座に却下した。そして、ライトは視線を前方に向けた。今もまだ言い合いを続けるリーダー達の様子を見れば、彼女の言う通りだと思える。ならば、残された2つ目の選択肢しかないが、アスナは頷かなかった。

 

「2つ目も却下ね」

「へっ…何で?」

 

その理由が分からないキリトが、逆に彼女に聞き返した。

 

「その事を話したら多分…『ジブンら、抜け駆けは許さへんで!ワシらの船が出来るまで、クエストに協力せんかい!』…って言われそうだから」

 

キバオウの口調を真似た言葉に、3人は背筋を震わせた。そんな事を言うとは思いたくないが、完全には否定できない。何よりも平等な思想を持つ彼の言動を思えば、アスナが推測した言葉は高確率で的を得ていると思った。

 

「そりゃもう、うへぇだけじゃ済まされないな」

「それに、気になる事があるの!」

 

げんなりした口調から、一気に真剣な口調へ切り替えたアスナに、3人が注目する。すると、彼女は視線をティルネル号とキズメル号に移した。

 

「あの船は今のところ、移動不能オブジェクトなのよね?」

「その筈だよ」

「なら同時に、破壊不能オブジェクトでもあるのかしら?」

「「「っ!」」」

 

その言葉に、3人は沈黙した。基本的に圏内ではプレイヤーを傷つける事は出来ない。破壊不能オブジェクトも紫色のシステム障壁に遮られるので無理だ。だが、それ以外のオブジェクトは圏内でも破壊できる。例えば、この層の屋台で売られている食べ物だ。そして、問題のティルネル号とキズメル号は、一見すれば破壊不能オブジェクトに見える。

 

しかし、あの2艘の船に取り付けられた衝角の事を考慮すれば、一概にそうとは言えない。彼らの船に装着されている衝角は、恐らく他の船やモンスターを攻撃する為の物だ。つまり、それが装着されたという事は、破壊可能オブジェクトの可能性が高い事を意味している。

 

「破壊不能じゃないかもしれないな。圏内なら保護されるかもだけど、マニュアルを読んでみないと確信は持てない」

「なら、あの人達が調べてダメなら、叩いてみようとか思わないうちに、船を動かした方が良いわね」

 

それが本当に実行されるなら、何としても避ける必要がある。2つの船に愛着を持つ彼女達の気持ちを考えれば、船が傷つくのは耐えられないだろう。更に、あの連中がこのまま調べて何も出なければ、のこのこと帰るとは思えない。

 

「じゃあ、あの2人が言い合ってる隙に、船に乗るしかないって事だよね?」

「えぇ。悪目立ちするのはイヤだけど、あの人達も時間の無駄使いはしないでしょうしね」

「強行突破だな。なら、2人はロープを柱から外してくれ。その間にオレ達は先に飛び乗って出航の準備をする!」

 

4人は顔を見合わせると、グッと頷いた。そして、船着き場に降りると、小走りで桟橋へと駆け寄った。

 

「すんません、ソコ失礼しまーす」

「「「「「っ!?」」」」」

 

キリトの礼儀正しい声に、青と緑の集団がギョッとして仰け反る。彼らの間をすり抜け、キリトはティルネル号、ライトはキズメル号に飛び乗る。2人が櫂を立てている間に、アスナとユウキがそれぞれの舫い綱をサッと外した。

 

「何でや!?」

 

どれだけ外そうとしても、取れなかった舫い綱が簡単に取れた事に、キバオウがそう叫ぶのは当然だ。しかし、そんな事に目もくれず、少女達は船に飛び乗った。同時にキリトとライトが、素早く櫂を漕いで船を桟橋から発進させた。

 

「お、おい、お前達! その船はどうやって…」

「造船クエストの詳細は《攻略本》に載せるから、もうちょっと待ってくれ!」

「ま、待たんかい! っちゅうか、またお前らかーい!」

 

キバオウの喚き散らす声を聞きながら、2人は櫂を漕ぎ続けて移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、4人は自分達の装備を更新する為、圏内にあるNPCショップを回った。水運ギルドが一体何の目的で船に必要な木材を独占しているのか。その真相も突き止めようと少女達が言った為、装備の更新を完了させた一行は、まず昼食にしようと人気が少ない船着き場に停めて、隠れ家風のレストランへ入った。

 

適当に料理を注文し、水運ギルドが現れる時間帯に追跡を開始すると決め、その後は他愛もない会話をしながら食事を終えて、アルゴと合流し、船を造るクエストの情報を提供した。

 

 

 

 

 

 

 

12月23日、金曜日、午前0時20分。ここまで時間が掛かるとは思わなかったと、ライトは内心でため息を吐いた。いや、彼だけでなくキリト、アスナ、ユウキもそう思っている筈だ。これ程までに広大な水没ダンジョンに潜入すれば尚の事。

 

 

今から7時間以上前、アルゴに造船クエストの情報を提供した彼らは、ロービアの商業エリアをくまなく探索し、4時30分頃にやっと大型船を見つけたのだ。

 

4人は商業エリアを抜けて、南の水門から街を出た大型船の追跡を開始した。細い天然水路を潜り抜け、突き当たりの大きな滝を通り過ぎると、この巨大な水没ダンジョンがポッカリと口を開けていた。大型船の乗組員達は慣れた様子で櫂を漕ぎ、暗い洞窟内へと入った。

 

4人は頷き合い、彼らの後を追う為に洞窟に潜入した。見失わないように注意しながら、距離を取りつつ櫂を漕いでいたが、モンスターと何度かエンカウントするうちに、とうとう見失ってしまったのだ。

 

「はあぁぁ……全然見つからないね」

 

後方のキズメル号に乗るユウキが、顔に手を置きながらため息と共に呟いた。洞窟に入った時間は午後6時頃だったので、そろそろ集中力の限界が来ている筈だ。

 

「扉がある所はやたら多いのに、ハズレばっかりじゃない」

 

今度はうんざりした様子でアスナが口を開く。4人は洞窟に入ってから、何度目か分からない程に扉を開けている。しかし、そのどれもが何の手掛かりもないハズレなのだ。しかし、MMORPGではありがちな展開だ。簡単に物事が展開する方が滅多にない。

 

「それがMMORPGだ。今までのダンジョンだって、すぐには攻略できなかっただろう?」

「そうそう。それにさ、行き止まりには大抵、宝箱や便利なアイテムがあるじゃん!」

 

それを理解しているからこそ、キリトもライトも根気強く調査を続行している。更に言えば、ゲームの展開として、扉の向こうには強力なアイテムや武器がドロップする事が多い。勿論、トラップも仕掛けられている可能性があるが、この層の適正レベルを遥かに上回る4人には、油断しなければ大した問題ではない。

 

「どうせまたサビサビの剣でしょ?」

「あっ、甘く見ちゃイカンですよ。鍛冶屋で修復して貰ったら、どレアい掘り出し物だった! って事が100回に1回は起きるからな」

「確率は低いね?」

「逆に高確率だったら、攻略がサクサク進むがな」

 

軽い談笑をしながら、一行は櫂を漕ぎながら進み続ける。すると、突然アスナが小さく声を掛けた。

 

「っ…待って、ストップ!」

「「「っ!?」」」

 

左手をキリト達の方向に突き出した事で、キリトは櫂を水面に垂直に立ててゴンドラを停止させた。ライトも衝突させない為、櫂を突き立てて止めた。

 

「どうした?」

 

キリトが小声で訊ねるが、彼女はティルネル号から身を乗り出すと、真剣な様子で振り向いた。

 

「この先に広い空間があるみたい。誰かの話し声が聞こえるの!」

「…じゃあ、近付いてみようぜ?」

 

そこから、ゴンドラが動き出した。暗い水路を進み続けると、前方に広い水面が飛び込んできた。恐らく、何本かの洞窟が繋がる場所なのだろうと推測し、慎重に近付けていく。

 

ティエルネル号を入り口付近で停止させ、キズメル号を少し後方の位置で横に停止させた。船首の場所に移動したキリトとライトは、アスナやユウキと共に広いホールを覗き見る。

 

かなり広い作りで5、6個の洞窟が見えるに加えて、中央には水面から伸び上がる幅広の階段があり、そこから桟橋が伸びている。

 

「…かなり広いな?」

「うん。洞窟の中にこんな所があったなんてね」

「見て、さっきの船乗りの人達よ!」

 

アスナが示す場所に目線を向けると、そこに追跡していた数名の乗組員が桟橋に立っていた。彼らは大型船に数多く積まれている木箱を運び出そうとしている。そんな中、ライトは荷揚げをする連中から箱を受け取っている男に注目する。

 

「っ…あいつらは!」

「「「っ!?」」」

 

視界のフォーカスを合わせた途端、その男達の正体が分かった。ライトに続いて3人も同じ反応を示す。腰に取り付けた細いシミターに、背が高く痩せ型で、ダークグレーの革鎧を装備し、顔全体を覆面で隠している。しかし、最も重視すべきは、覆面を着けても隠しきれない長い耳だ。

 

「…フォールンエルフ」

 

キリトが呟いたそれは、第3層で初めて登場した、キズメルと共に秘鍵を運んでいる最中に襲撃してきたエルフ族だ。問題は、どうして彼らがこの場所で水夫と接触しているかだ。

 

「βテストの時はどうだったの?」

「いや、こんな所でフォールンに出会した事は無かったし、こんなダンジョンも存在しなかった!」

 

それが本当なら、このエリアそのものが正式版に新しく追加されたステージで、まず間違いないだろう。いや、もっと言えばこのクエストの展開そのものが、新たにアップデートされたという事だ。

 

「ねぇ、これってフォールンエルフと水運ギルドの人達が取引してるって事なのかな?」

「まず間違いない。あれを見てみろ!」

 

ユウキが確かめるように言うと、ライトが即座に肯定してホールの中心を指差した。視線を向けると、そこでは彼らが水運ギルドの連中に、何かが大量に入った袋を渡している。

 

「十中八九、中身は大量の金貨だろうな?」

「同感だ。仮に全部が1,000コル金貨だとすると……20,000コルくらいかな」

「帰りに襲おうなんて考えてないでしょうね?」

 

袋の中身が何なのか見当が付いたライトに、キリトがすぐに同意した。あの袋に入っている金貨の金額の目安をしていると、途端にアスナから釘を刺された。

 

「そんな事しないよ。あの水夫、強そうだし」

「まぁ、良いわ…兎に角、あの木箱の中身を調べてみる必要がありそうね!」

「ボクもそう思う。それにもしかしたら、水運ギルドの人達がフォールンエルフに接触した理由が分かるかもしれないし!」

 

確かにその通りだ。水運ギルドがフォールンエルフに接触しているのは、見過ごせない事態だ。彼らが何を企んでいるのか、その真相を突き止めた方が良いと考えれる。キリトとライトも彼女達の考えに賛成だった。だが、ここで動きが起こった。水夫達が中央の桟橋に止めていた大型船の舫い綱を解いたのだ。

 

「っ…不味い!」

「ヤッバ!」

 

こちらに引き返してくると考えたライトは、一目散に船尾へ戻って、ティルネル号の横に停めていたキズメル号の配置を後ろに移動させた。キリトも同じように船尾に立つと、櫂を握って後退の準備する。

 

「こっちに来る!」

 

アスナが素早く振り向き、緊迫した声で伝える。瞬間、ライトは握っていた櫂を使って、キズメル号を後ろに漕ぐ。キリトも続いてティルネル号を漕ぎ出す。しかし、このホールに辿り着くまでに別れ道はなかった為、隠れるスペースはどこにもない。

 

更に、スピードの出ないバックでは、すぐに追い付かれるのが目に見えている。故に、残る選択肢は1つだけだ。キリトはそれを3人に伝えようと声を掛ける。

 

「みんな、途中にあった扉に身を隠すぞ!」

「ま、待ってよ。それじゃ、ティルネル号とキズメル号はどうするの?」

「ボク達の船は、アイテムストレージに収納できないんだよね!?」

「何とか見つからないように隠すしかないだろう? ユウキ、オレが合図したら、船から降りて舫い綱を掛けてくれ!」

「アスナも頼む!」

 

彼女達の言う通りだが、この場所で見つかれば戦闘になるのは間違いない。敵の本拠地に潜入している以上、見つかれば生存率は絶望的だ。アスナとユウキは2人に向き合うと、グッと力強く頷いた。

 

道中に発見した扉の近くに2つの船を止めると、少女達は陸に上がって少年達から投げ渡された舫い綱を係留柱に掛けた。そして、扉を開いて中へ飛び込んだ。そこには、折り畳まれた白い布が2枚落ちているだけの、何もない部屋だった。

 

「これは…」

 

ライトは床に置かれた2枚の布に近付いて触る。それはかなり軽く、4人で隠れても有り余る面積だった。その布が2枚もこの部屋に置かれているのは不自然だ。

 

「とりあえず、この布に「待て!」…っ!?」

 

キリトの言葉を遮ったライトは、銀色がかった灰色の生地を叩き、プロパティ・ウインドウを出現させる。その窓にはやたら長い説明文が書かれ、その文に目を通す。

 

【アルギロの薄布:水中で暮らす珍しい蜘蛛の糸で織った布。周囲を水に囲まれた場所でだけ、この布で覆ったものを見えなくする】

 

その説明文を読み終えた瞬間、4人は顔を見合わせて頷くと、背後の扉に近付いて少し押し開けた。水運ギルドの船がまだ来ていない事を確認すると、キリトとライトが1枚ずつ布を持って、ティルネル号とキズメル号に被せる。

 

船首から船尾までしっかり覆うと、被せた布の表面が周囲の水と同じ色へ変わってしまった。至近距離から目を凝らしても見えない程なので、気付かれる恐れは無いに等しい。すると、大型船が洞窟に入ってきた。

 

「マズッ!」

「急ぐぞ!」

 

2人はすぐに身を翻して、奥に隠れると扉を閉めた。暫くして大型船が通った水音が彼らの耳に届いた。どうやら気付かれずに済んだようだ。こんな場所で見つかれば、クエストが失敗するだけでなく、自分達も命の危険に晒される。

 

「はぁぁぁ……良かった、見つからなくて」

「私、この手の…スニーキング…だったかしら? これ系のクエスト嫌い!」

 

何とかやり過ごせた途端、ユウキが扉に背中を預けて座り込んだ。中々に緊張させられる場面だったのだ。そう思うのは当然だろう。その証拠に、アスナも同じような口調でそう話している。

 

「VRMMOだと、緊張感が倍増するよな……ライト、助かった。お前があの布の効果に気付いてくれて」

「布1枚の面積はオレ逹全員が隠れてもまだまだ余裕があった。それがこの部屋に2枚もあるって事は、オレ達が隠れる為じゃなく、船を隠す為に使うんじゃないかと思ってな!」

 

それを聞いたキリトは、感心したような反応を示す。あの状況で冷静に物事を考えて対処する判断力は素晴らしいと言える。

 

「…大丈夫そうだな」

 

慎重に扉を押し開けて、周囲の様子を伺ったライトは、3人と共に部屋から外に出る。すると、大型船が向かった方向を見ていたアスナが声を掛けた。

 

「どうする、あの船を追う?」

「いや、多分だけど主街区に戻るだけじゃないかな?」

 

水運ギルド達は取引の為の木箱を渡し、代わりに大量の金貨を受け取った。彼らの後を追跡しても、他の情報を得られるとは思えない。ライトはすぐにクエストログを確認する為、右手でウインドウを開いた。出現した窓には簡潔な文章が書かれている。

 

【荷船の秘密を探れ】

 

 

「クエストログはさっきと変わってない。あの木箱の中身を突き止めるしかなさそうだな」

「じゃあ、行くっきゃないね。フォールンエルフが何をしようとしてるか暴かないと!……ふああぁ」

 

ユウキが頼もしい事を言ってくれるが、やはり長時間も気を張っている所為で疲れが出たのだろう。アスナも眠そうな顔をしている。一旦ここで中断する選択肢もあるが、一応の確認をしておこうと、ライトが声を掛ける。

 

「疲れてるなら、一旦切り上げるか?」

「今日までに終わらせないといけない訳じゃないから、また明日でも大丈夫だけど」

 

暫定的だが、パーティーメンバーが疲れて集中力が疎かになっているなら、せめてもの気遣いは必要かもと思い、少年達は声を掛けた。アスナとユウキは僅かに微笑むと、サッと首を横に振った。

 

「ありがと、でも大丈夫。明日にしたら、またここまで来なきゃいけないんだから!」

「それに、ここで切り上げたら、荷物の中身が何なのか気になって眠れないと思うしさ!」

 

それを聞いた男子2人は、小さく頷き合き、ティルネル号とキズメル号に被せた布を剥がすと、木箱の中身を突き止める為に動こうとしたが、その前にキリトが少し落胆した声を出した。

 

「やっぱりなー…調子に乗って使いすぎると、簡単に壊れそうだ」

「本当だ、もうこんなに減ってる」

 

見れば、彼とアスナが例の布のプロパティ・ウインドウを開いて覗き見ていた。ライトも同じようにウインドウを出現させて確認した。すると、たった数分使っただけで耐久値が1割以上も減少していた。

 

「…あまり長い時間は探索できないな」

「じゃ、急がないとだね?」

 

プロパティ・ウインドウをライトと共に覗き見ていたユウキがそう言うと、3人はしっかりと頷いた。

 




今回は以上となります。

原作を読んでて思いましたが、ゴンドラの操作って説明書を読んだだけで出来るものですかね?

ゲームの世界だから、こんなのもアリって事ですかね。
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