SAO another story   作:シニアリー

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タイトル通り、4人が彼女との再会を果たします。

前半は、フィールドボス戦を書きましたので、今回はだいぶ長くなってしまいました。


騎士との再会

 

フォールンエルフと水運ギルドの取引を目撃し、細部の情報を手にした翌日だった。ライトはキズメル号の船尾に立ち、船を停泊させていた。操舵のコツも掴め、スムーズに動かせるようになり、キリトも慣れた様子で、ティルネル号を右側に停めていた。そんな彼は、目の前の景色に感嘆した様子で呟いた。

 

「よくもまぁ、ここまで造ったもんだ…」

 

その言葉に、ライトは小さく頷いた。すると、左側に停泊させている中型船から、聞き慣れた野太い笑い声が届いた。

 

「ハッハッ、お陰で昨日の《熊森》は大騒ぎだったぞ。俺達は素材集めには苦労はしなかったから、あっという間だったがな。と言っても、ノーマル素材だけだから自慢にもならんが…」

 

巨漢の両手斧戦士、エギルだった。昨日の夜中まで操舵の練習をしていたらしく、櫂さばきは中々様になっている。

 

「じゃあ、爺さんのとこには並ばなくて済んだのか?」

「あぁ、攻略本が配布されてからは1番乗りだったぜ。その次に来たDKBの連中には嫌な顔されたがな。あのデータを集めてくれたのは、お前達なんだろ? 礼を言わないとな、ご苦労さん!」

 

エギルはそう言ってくれたが、実は攻略本に掲載した《昔日の船匠》クエストは前半だけなのだ。水路ダンジョンでの出来事はアルゴと話し合った結果、危険すぎると判断した為に載せなかった。

 

その判断が間違っていたとは思わないが、思うところがあるらしく、キリトは複雑にしていた。そんな中、ティルネル号の座席に腰掛けるアスナが、微妙な表情でエギル達の船を見ていた。

 

「ピークォッド号って、あんまり縁起の良い名前とは思えないけど」

「ボクもそう思うな」

 

アスナだけでなく、キズメル号に乗るユウキも同意した。エギル達が乗る中型ゴンドラは、全体が落ち着いた茶色で、船首両側には黒い文字で【Pequod】と書かれていた。

 

少女達の言葉に、船に乗る仲間が「だから言ったんだよ」とボヤいた。そのやり取りを不思議そうに眺めるキリトに、アスナが丁寧な解説をした。

 

「ピークォッド号っていうのは、『白鯨』でエイバブ船長が乗ってた船の名前よ。最後には、モビー・ディックに沈没させられちゃうの」

「因みに、エイバブ船長はそのモビー・ディックに片足を食べられて、船員達に報復の指示を続けてたらしいよ?」

「へ、へぇ〜……そうなんだ」

 

ユウキが細部の情報を教えてくれた事に、キリトは感嘆した。すると、ライトが気になった様子で話しかける。

 

「どうして、そんな名前を付けたんだ?」

 

話を聞く限り、名前はあまり良いものとは呼べない。沈んだ船の名前を付けるのは、精神的ダメージが出るかもだが、エギルはニヤリと笑った。

 

「逆に考えれば、デカい白クジラと戦うまでは沈まねぇってこったろ? 少なくとも、あそこで戦うのは、クジラじゃなくてカメらしいしな」

 

彼はそう言って、視線を前方に向けた。ライトも釣られて、直径3m程の真っ青な湖水を囲う切り立った断崖を見る。ここは、第4層の中央部にあるカルデラ湖の入り口で、フィールドボスが待ち構えている。

 

船に乗ったままの戦闘に、ライトは若干の不安を覚えていた。確かに、今まで船を操舵しながら戦ってきたが、ボス戦はまた違う。

 

すると突然、『じゃーんじゃーん!!』という大きな音が響き渡った。視線を音源へ向けると、幾つか目を引く船が見えた。船体をブルーに染め、縁はホワイトに塗り分けた3隻のゴンドラが前方の右側に停泊している。

 

反対側には、全体をモスグリーン、縁をダークグレーに染め分けた同じく3隻のゴンドラが浮かんでいる。右側がDKB、左側がALSの船で、乗っているのは総勢21人だった。3層の時は18人だったが、攻略を進めるうちに増えたと考えていると、先程の銅鑼の音を鳴らした青い船に乗るリンドが声を張り上げた。

 

「時間だ。それではこれより、第4層フィールドボス《バイセプス・アーケロン》の攻略を開始する! 船を使っての大規模水上戦闘は全員が未経験だろうが、恐る必要はないぞ! 雑魚戦で経験した通り、モンスターによる攻撃ダメージは、その殆どを船が吸収してくれるからな!」

 

耐久値が高そうな船なのは、一目瞭然なので安心だろう。ライトがそう思っていると、左側のALSが恨めしそうな表情で睨んでいるのに気付いた。恐らく、同じ数の船を用意できたまでは良かったが、銅鑼までは準備できなかったのだろう。すると、リンドが高々と握った拳を突き上げた。

 

「事前の会議で説明したように、《アーケロン》の攻撃パターンは単純だ! 2つの頭の向きに注意しておけば、突進攻撃は喰らわない。回避のタイミングはこの銅鑼で指示するから、聞き逃さないでくれよ!」

 

今の情報を提供したのは、ライト達なのだ。ボスのパターンを知る上では、どうしても偵察役が必要だ。正式版に追加された《昔日の船匠》で1番に船を造った立場として、ボスの偵察は引き受けようと、キリトが言ったのだ。3人は別に反対する事なく、無事に偵察を完了させた。

 

「それでは、移動を開始する。ボスが出たら、打ち合わせ通りのフォーメイションで包囲!ーーードラゴンナイツ艦隊、前進!」

 

リンドがサッと右手を振り下ろして叫ぶと、DKBの旗艦《リヴァイアサン号》と両側の2隻が動き始めた。すると、それに続いてキバオウも腕を振りながら叫んだ。

 

「よっしゃあ、ワシらも行くでぇ! 解放隊、全艦発進〜ん!!」

 

ALSの旗艦《アンリーシュ号》と左右の船も操舵者が櫂で船を漕ぎ始めた。

 

「…どうしてあそこまで派手にするんだよ?」

 

先陣を切ったDKBの艦隊にある大きな銅鑼を見ながら、ライトがポツリと呟いた。銅鑼が必要なのは分かるが、別に大きくする必要は無い筈だ。そんな彼の独り言は、ティルネル号の船尾に立つキリトにも聞こえた。

 

「まぁ、気分的なもんだろう。さて、こっちも行きますか」

「その必要があるのか?」

 

キリトが呼びかけるも、ライトはうんざりした様子で言った。その反応に、キリトは歯切れが悪い表情となった。彼がそんな様子なのは、フィールボスの陣形が関係しているのだ。

 

彼らの船が配置されたのは、硬い鱗でダメージが通らない側面なのだ。それなら、別に参加する必要はないと思ったが、左側から大きな拳が突き出され、直後に野太い声が響き渡った。

 

「そう言うなよ、ライト。俺達も、連中に負けてねぇとこを見せつけてやろうぜ!」

「「「おう!」」」

 

巨漢の言葉に、仲間達3人が気合いの入った声で応じた。更に、アスナとユウキが真剣味を帯びた眼差しで深々と頷く。こうなっては、自分だけやる気を出さない訳にはいかない。少年達は頷き合い、彼らと同じように拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスの名は《双頭の古代亀(バイセプス・アーケロン)》と言い、姿は大型の亀モンスターだ。攻撃パターンは2つの頭による噛み付きと、左右のヒレでの水面叩き、そして全長20mの巨体から繰り出される突進攻撃のシンプルなものだ。

 

噛み付きやヒレ攻撃は大した事ないが、突進攻撃を受けた時に船が転覆する恐れがある。更にそこから追撃を受ければ、最悪の状況を生む。幸い、突進攻撃は左右の双頭が同じ方向を向く為、そこに注意すれば回避は可能だ。

 

「回避!!」

 

リヴァイアサン号に搭載された銅鑼が鳴った直後、リンドの張り詰めた大声が聞こえた。目をやると、アーケロンに詰め寄った4隻のゴンドラが、すぐに左右に移動した。ライトも念の為、キズメル号を後退させる。すると、アーケロンが2つの双頭を持ち上げて突進してきた。

 

沢山の水飛沫が宙を舞い、波が船を揺らす。櫂を立てて揺れを最小限に抑えたライトは、転覆した船が居ないか確認した。全船が回避できたようで、転覆した船は1つも無かった。次に、突進攻撃を仕掛けた奴のHPを確認すると、既に半分を切っていた。

 

移動するアーケロンを追う為、ティルネル号とキズメル号は移動を開始する。すると、右手にレイピアを握るアスナが振り向き、キリトに訊ねた。

 

「ねぇ、βの時はどんなモンスターだったの?」

「…ゾウガメみたいな奴だったな。甲羅は結構硬いけど、動きがやたら鈍かったから、そこまで苦労しなかったよ」

 

自分の記憶を思い出し、キリトは手短に説明した。β版のテーマは乾いた《涸れ谷》だったが、アップデートによって水没した。つまり、そうなる予定でβ版もフィールボスを亀に設定したのだろう。

 

「じゃあ、やっぱりこの層が水に沈んじゃったのは、予定通りだったんだね?」

「まず間違いない。主街区にある建物も、玄関が2階の位置にあったからな!」

 

《昔日の船匠》のクエスト開始点に移動する最中、売り物に出されている物件や、その他の建物を見ていたが、全て玄関が2階に設置されていた。すると、キズメル号のすぐ横をALSの6人乗りゴンドラが猛スピードで通り過ぎようとした。

 

「流石のビーターさん達も今日はLA取れねぇな!」

 

という言葉を投げかけて、彼らは行ってしまった。途端、少女達が憤慨した様子で口を開く。

 

「何よアレ、フォーメーションを決めたのはそっちじゃない!?」

「こんな配置、ボク達にLA取らせない為の嫌がらせだよ!!」

「まぁまぁ。ずっと横に居れば、ダメージは受けないからさ」

 

彼女達をキリトが宥める一方で、ライトは操舵しながらボスに不審な点は無いか注意深く観察していた。この陣形を説明された時点で、LA獲得は無理だと諦めていた。故に、β版の行動パターンに違いは無いかと警戒していた。

 

同時に、彼は《昔日の船匠》で水路ダンジョンの事も考えていた。βには無かったフォールンエルフと水運ギルドの取引、ノルツァー名乗るフォールンエルフの将軍、そして彼が言っていた人族に残された《最大の魔法》、最後に《しかるべき相手》の正体。

 

多くの情報がこの短期間で一遍に押し寄せている為、整理が必要だと考えていると、前方からユウキの張り詰めた声が聞こえた。

 

「ライト、ゲージが赤くなるよ!」

「っ!」

 

先程までヤケクソに《バーチカル・アーク》を放っていた彼女だが、今はボスのHPがレッドゾーンに突入した為、パターン変化に注意している。ライトは何かしらの変化が起きると考え、ボスの姿全体が見渡せる位置まで移動した。

 

キリトもティルネル号を後退させ、様子を見ようとしていた。だが、メインを務めるアタッカーの船が、まだ停留して攻撃をしている。様々な光のソードスキルが発動し、アーケロンの双頭を包む。そして、HPが残り1割を下回った

 

 

 

 

ーーーその時

 

 

「おい、全員離れろ!!」

 

エギルの叫び声が亀の甲羅越しに聞こえた。見れば、ボスが2本の首と前ビレ、後ろビレ、最後に尻尾を甲羅に巻き付けようとしていた。事前情報には無かったモーションだが、次の動きは想像に容易かった。

 

「不味い、回転するぞ!」

 

キリトが張り詰めた声で叫んだ。接近している状況でボスが回転すれば、彼らの船が巻き込まれて転覆、最悪は船同士が衝突して死者が出る可能性も否めない。

 

「ライト、どうしよ!? このままじゃリンドさん達が!」

 

ユウキの叫び声が届いた。今にも高速回転しようとするボスと、そのモーションに気付かない2大ギルドを見ながら、ライトは瞬時に思考を巡らせた。そして、1つの方法を思い付き、キリトに呼びかけて櫂を漕ぎ出した。

 

「ユウキ、屈め! キリト、突っ込むぞ!」

「っ…そうか! アスナも屈め!」

 

攻撃を仕掛けようとする相手に近付くのは得策と思えないが、キリトは彼の考えを察し、両手に持つ櫂でティルネル号を動かした。すると、アーケロンがグググっと力を入れるのが分かった。もう時間が残されていないと分かり、ライトは全力で櫂を漕いだ。その時、隣からキリトの叫び声が届く。

 

「知った事か! 俺だって、このポジションを譲る気は無いからな!!」

 

こんな状況でなければ、意味不明なその言葉について問いかけていたが、今は無視してボス討伐を優先する。そして、キズメル号とティルネル号の衝角が、アーケロンの横腹に深く突き刺さった。

 

すると、背中の甲羅から水蒸気が噴き出し、奴の巨体が膨れ上がってポリゴンとなった。ライトは被害を受けた船が無い事を確認し、目の前に表示されているウインドウを見る。コルやドロップアイテム、ラストアタック・ボーナスを確かめると、ユウキに目をやった。

 

「ユウキ、大丈夫だったか?」

 

船首の近くに位置していたユウキに被害が及んでいないかと思い、訊ねたのだ。

 

「うん……それより…」

 

ユウキはHPも減っておらず、軽く濡れた程度で済んだようだ。軽く返事をすると、彼女はキリトに目をやった。同様に、アスナもキリトに奇妙な視線を送っていた。

 

「…このポジションって、何の事?」

 

それは、キズメル号に乗る2人も思った事だ。3人から同時に浴びせられる視線に、キリトは軽く肩を竦めて答えた。

 

「ゴンドレリーのポジションだよ!」

 

疑い深い回答だったが、根掘り葉掘り聞き出す必要もないと、ライトは思った。少女達も一応は納得し、問いたださなかった。

 

「よし、とりあえず行こう!」

 

キリトはそう言うと、カルデラ湖の出口を目指した。ライトも後に続こうと、櫂で操舵する。仏頂面、しかめっ面、膨れっ面のドラゴンナイツや解放隊を横切る中で、エギル達がサムズアップしてくれたので、4人は軽く手を振ってから湖を出ようとすると、キリトが唐突に話しかけた。

 

「そ、それにしてもさ」

「え…な、何?」

「…どうかした?」

 

考え事をしていたアスナは少し遅れて反応し、ユウキも斜め後ろに顔を向ける。一方のライトは、操舵しながら彼の話に耳を傾ける。

 

「いや、大した事じゃないけど……この層、街から街への移動が面倒だよな。今までだったら、歩きかダッシュで普通に移動できたのに」

「それもそうだな。移動手段としては、船か泳ぎしか無理だからな」

 

アップデートされる前は、移動に手間が掛かる事は無かっただろうが、今は違う。そんな彼らの言葉に、前方の2人も同意する。

 

「あはは…だよね。でも、主街区の街はすっごく綺麗だったから、全部が悪くなった訳じゃないと思うよ?」

「川にはモンスターが出るけど、観光目的の人はロービアで満足できるでしょうしね……あ、でも…アルゴさんはどうするのかしら?」

 

ふと思い付いたアスナの疑問に、キリトが答えた。

 

「確かにな。流石のあいつも、今回は主街区から出てこないかもな」

「オレっちをナメるなヨ、キー坊」

「っ!?」

「「へっ!?」」

「いや、ナメめちゃいないけどさ……って、うおわぁ!!」

 

突如、聞こえる筈がない声が届いた。突然の事に、キリトは櫂を誤操作してしまい、ゴンドラが激しく揺れた。前席に座っていたアスナが、バランスを取りながら声が聞こえた方を見る。

 

そこには、ティルネル号とキズメル号の間に入って、全く同じ速度で移動している《鼠》のアルゴが居た。彼女は何と、水面をアメンボのように滑っていた。

 

「な、何なんだ、そのアイテム!? 一体どこで?」

「ニャハハ。主街区で良い物を見つけてナ」

 

ライトの質問に、アルゴは適当に答えると、キズメル号に乗り込んでユウキの正面に座った。そして、足に装備された物を4人に見せる。何時も履いているブーツではなく、木製のフローターが装着されたサンダルだ。

 

「そんなの売ってたのかよ!? なら、主街区で苦労して船を造る必要なんか…」

「ところがドッコイ、装備要求AGIがめちゃくちゃ高い上に、使う時は思いっきり装備重量を減らす必要があるんだよナー。おまけにちょっとでもバランスを崩すとひっくり返るし、この状態で戦闘は絶対無理だヨ!」

「その割には、あんまし変わってないように見えるけど?」

 

キリトが言うように、アルゴは会う度に装備しているフード付きマントを着ている。すると、彼女は3本ヒゲが描かれた顔を動かして、ニシシと笑った。

 

「そう見えるか? この下、実は装備ナッシングかもしれないぞ?」

「「アルゴ(さん)!?」」

「ニョフフフ」

 

途端、アスナとユウキが赤面して叫んだ。すると、そんな2人の反応が面白かったのか、彼女は楽しそうに笑った。そんな中、ライトが話しかけた。

 

「アルゴ、その状態で戦えないなら、この船に乗っていけ。その方がずっと安全だ」

「お、悪いナ。ラー坊」

 

彼の提案をありがたく受け取り、キズメル号はアルゴを乗せたまま、ティルネル号と共にカルデラ湖を後にした。その間、ユウキとアスナ、アルゴは楽しそうに女子トークをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

5人が辿り着いた場所はウスコと呼ばれ、一言で表すなら《浮かぶ村》という言葉が当てはまる。さざ波が絶え間なく揺らし、ギシギシとした音が聞こえる。

 

キリトとライトは、2つの船を舫い綱でしっかり停泊させると、前を歩く女性陣の後を追う。行き先は、この村でただ1つのレストランらしい。

 

「…こじんまりとしてるな」

「確かに。」

 

1番後ろを歩くライトが呟くと、キリトが肯定した。この場所は、何の変更も施されなかったと考えると、正式版でも特に重要なエリアでは無さそうだと思い、レストランを目指した。

 

暫く歩くと、目先にはトロピカルなレストランが建っていた。湖に面したオープンテラスの中央に5人は座り、露出度が高いNPCの女性に注文を頼んだ。すると、籐椅子の背もたれに体を預けたキリトが、息を吐いた。

 

「はー……これでやっとこ、4層も半分攻略か」

「やっとこって…まだ4層に来てから、3日しか経ってないのよ。ハイペースだわ!」

「だよね。2層や3層に比べると、過去最高記録だよ!」

 

アスナとユウキから指摘されたキリトは、不思議そうな声を出す。

 

「そうだっけ?……4層に登ってきたのが12月21日だから、22、23、24……あ、ホントだ!」

「お前、もう呆けたのか。早すぎるだろ?」

「それじゃあ、キー坊じゃなくてキー爺だナ?」

「それは勘弁して下さい!」

 

アルゴの揶揄いに、キリトはたじたじな様子だ。そのタイミングで、各々が注文した色鮮やかな飲み物が届いた。全員がグラスをカチンと打ち合わせ、喉へと流し込む。

 

1層とは比較にならないペースで攻略が進むようになり、ライトはどこか感慨深いように息を吐いた。すると、横で半分程カクテルを飲み終えたキリトが口を開いた。

 

「DKBとALSはまだ追いついてないけど、時間の問題だしな……あいつらが来る前に、この村で受けられるクエストを全部受けとこうぜ?」

「同感だ。もう少しレベルを上げておきたいし、またあの連中に何か言われるのは面倒だからな」

 

他の攻略組がそれぞれの船を造っている間、4人は主街区にあるクエストの全てを終わらせたのだ。経験値が大幅に溜まったが、彼らはこの層の適正レベルを優に超えている為、レベルアップにはまだ足りない。

 

残り1、2回クエストを受ければ、上がる筈なので早めに上げておこう思ったのだ。しかし、女性陣3人は顔を見合わせると、口々に話し始めた。

 

「そんなに急ぐ必要ないと思うよ?」

「エギルさん達は知らないけど、大ギルドの人達は主街区に戻るそうよ?」

「2人の言う通り、焦ってこの村のクエストを受けなくて良いんだゾ。キー坊、ラー坊」

 

彼女達の言葉に、2人は揃って不思議と訝しさが合わさった表情となる。訳が分からない様子に、ユウキとアスナ、アルゴは気の毒そうな顔をした。

 

「…やっぱりナー」

「ライトとキリト、誘われなかったんだね?」

「まぁ、あの人達もそう言ってたしね」

 

少年達は一体何の話をしているのか把握しかねている。そんな彼らに、アスナとユウキが説明する。

 

「キリト君さっき、今日は12月24日って言ったわよね?」

「だったら、今日が何の日かもう分かるよね?」

 

そう言われたライトの頭に、現実世界で毎年行われている大きなイベントが蘇った。

 

「…クリスマスイブ、か」

「あっ、そうだった……って、待てよ。まさかあいつら、それで主街区に戻ったのか? フィールドボス戦をやけに急いでたのも、それが理由なのか?」

 

すると、3人は小さくコクリと頷いた。そして、最後にアルゴがイベントの内容を話した。

 

「今夜、2つのギルドでクリスマス壮行会って言うのが行われるんだヨ!」

「…な……な……なんじゃそりゃああああぁぁぁぁ!!!!??」

 

キリトの絶叫が周囲に響き渡り、4人は急いで耳を塞いだ。

 

 

 

その後、何の知らせも受けていない少年達は、3人から事の詳細を聞いた。件の《クリスマス壮行会》は、24日の夕方から開催される飲み放題食べ放題のイベントだった。クリスマス会という名目で一般プレイヤーに大盤振る舞いし、ギルドの評判を高めると同時に、新規加入募集者を募るのが目的らしい。

 

当初はALSだけだったが、それを聞きつけたDKBも対抗しようとして揉めた挙句、共同開催で手打ちとなったようだ。

 

「第3層であれだけいがみ合っていた連中が、今度はクリスマス共同開催か」

「お互い対抗意識を燃やした結果がこれか。まぁでも、連中が共同でイベントをやろうってのは、大いに喜ばしい事だな」

 

どこか皮肉げに語る2人に、気の毒そうな表情で少女達がフォローする。

 

「2人を誘おうって意見が出たかった訳じゃないんだよ? でも、どうして何時もLAを持って行く奴らに無料で飯を奢るんだって意見が出て…」

「それならいっそ、2人を誘わずに秘密にしておこうって結果になって終わったのよ!」

 

それを聞き、ライトは毎回のボス戦で殆ど自分達が入手に成功していると改めて感じた。加えて、ビーターという悪名もある為、誘わなかった事に納得がいく。むしろ、自分達を誘おうと言ってくれたプレイヤーが居た事に驚く。

 

「因みに、アスナさんとユウキさんは誰からその話を聞いたんですか?」

「フィールドボス攻略会議の時に、DKBのシヴァタさんから。後で2人に謝っておいて欲しいって言ってた」

「…ふうーん」

「ボク達だけなら来てもいいって言ってたけど」

「…ふううーん」

 

まるで拗ねた子供のように顔を顰めるキリトに、ライトが少し呆れながら口を開いた。

 

「キリト、ガキみたいな反応するな。オレ達は基本的に《あの出来事》で連中から疎まれてるんだぞ。しかも、毎度毎度LAを手に入れてるからな。逆に、誘おうって意見が出た事が驚きだ」

「…悪い、ライト」

 

すると、キリトはどこかバツが悪そうな表情で謝った。考えてみれば、彼は初心者のビギナーだ。そして、さっき口にした《あの出来事》とは、間違いなく《ビーター宣言》の事だと分かる。

 

1層のボス戦後、大勢の前で嘘の発言をした所為でギルドから疎まれる事となった。本来なら、彼がそんな扱いを受ける必要はない。あの時、自分が言っておくべきだったのだ。このデスゲームが始まった初日に、1人の友達を置いて行った卑怯な自分が。

 

すると、まるでその思考を読んだかのように、隣に座るライトが口を開いた。

 

「キリト、あの時の事を気にしてるなら、それは時間の無駄だぞ。あれはオレが勝手にやった事だ。お前が負い目を感じる必要はどこにもない!」

「……サンキューな、相棒!」

「っ…ふっ!」

 

第1層の《はじまりの街》から、ここまで共に戦い抜いてきた目の前の少年は、キリトにとって背中を任せられる相棒だった。そして、彼の口から直接言われたライトは、一瞬だけ目を見開いて軽く笑った。すると、そんな2人の様子に、女性陣が口を開いた。

 

「仲良いね、ライトとキリトって?」

「ホント、そうよね?」

「ニャハハハ…息もピッタリだしナ!」

 

少年達はお互いの顔を見合わせると、どこか含みがある笑みを浮かべた。そして、注文した軽食を食べる終えると、アルゴが椅子から立ち上がった。

 

「さて、オイラはそろそろ主街区に戻るかナ」

「えっ、もう? こんなに早く戻るなら、何でわざわざこの村に来たんだ?」

 

不思議に思ったキリトが思わず訊ねると、アルゴはニヤリと笑って答えた。

 

「そりゃモチロン、店売りのアイテムやクエストのデータ集めだヨ。壮行会の方も一応、覗いておきたいしナ。じゃあまたナー、アーちゃん、ユーちゃん、キー坊、ラー坊」

 

軽くヒラっと手を振ったアルゴは、ニヤリ顔を付け加えてドアの方へ向かう。すると、急に立ち止まって振り返った。

 

「おっと、忘れてタ。メリークリスマス」

「メリークリスマス、アルゴさん。気を付けて」

「またね、アルゴ。メリークリスマス」

「め…メリクマ」

「メリークリスマス」

 

全員が答えると、情報屋は颯爽と消えた。彼女がこの村のクエストやアイテムの情報を入手する目的は、攻略を進める為の《攻略本》発行だと想像に容易い。

 

「本当はアルゴさんこそ、真っ先にクリスマス会に招待されるべきなのにね?」

「うん、1番危険な役目をしてくれてるのにさ!」

 

2人の言葉から察するに、アルゴもクリスマス会には呼ばれていないのだろう。2大ギルドには、情報屋アルゴという名前に嫌悪感を抱くプレイヤーも存在する。売れる情報は何でも売り、尚且つ安売りはしない。そのポリシーが原因だろうが、何故そこまでするのかと疑問も抱く。

 

ライトはそんな事を考えながら、グラスに残っていた水を飲み干した。そして、ユウキとアスナに声を掛けた。

 

「主街区に戻ったらどうだ?」

「「へぇ?」」

「2大ギルドから誘われてるんだろ? だったら、顔を出しに行っても良いぞ?」

「パーティーに行きたいなら、俺達はどっかで時間潰してるから、別に気兼ねしなくて良いよ?」

 

ライトに続いてキリトも少々ぎこちないが、ユウキとアスナに言葉を掛ける。彼女達は正式に招待を受けている為、パーティーに顔を出す権利はあるが、2人は首を横に振った。

 

「お気遣いなく。元々、行くつもりは無かったから」

「ボク達、大袈裟なパーティーとか、あんまり好きじゃないからね?」

「そう…なのか? でも…」

 

やはり、自分達に気を遣っている部分があると、キリトは思った。それに、年頃の少女としては楽しいパーティーに参加したいと思っても不思議はない。すると、どこか寂しそうな懐かしむような表情で、アスナが答えた。

 

「…向こうでも、大きいパーティーとかそんなにやらなかったから」

「「っ…」」

 

その言葉に、少年達の顔が強張る。『向こう』という言葉は、間違いなく現実世界の事だ。アスナの隣では、ユウキが気遣うように背中に優しく手を添えていた。

 

そんな2人の様子を見たライトとキリトは、何か言葉を掛けようとしたが出来なかった。出会った当初から、アスナとユウキが親しい関係なのは想像できた。彼女達が現実世界で、どのような生活を送ってきたかは分からないが、その時の事を思い出す2人の表情は、笑顔とは言えなかった。

 

それを考えると、何か辛い事があったのかと考えさせられる。

 

「ひゃっ!?」

「ど、どうしたの、アスナ!?」

 

突然、アスナが声を上げた。驚いたユウキは、どうしたのかと訊ねる。アスナは左手で頬に付着した何かを確かめる。

 

「…水?……あっ!」

「これって…雪?」

 

見上げると、曇り空からゆっくりと落ちる幾つもの白点が映った。それらはライト達が居るテラスにも降り注ぎ、湖を背景にして幻想的で美しい光景を生み出していた。そんな中、アスナがポツリと呟いた。

 

「……何よもう、こんなのずるいわ。せっかく主街区から逃げて、クリスマスの事、考えないようにしようって思ったのに」

「…アスナ」

 

寂しさと僅かな哀しさを思わせる声色だった。

 

そんな彼女に、ユウキは何故か近寄ろうとせず、何かを我慢するかのように唇を噛んだ。

 

横目でそれを見たライトは、彼女の反応に一抹の訝しさを覚えた。だが、今ここでその事を訊こうとはしなかった。すると、そんな空気を断ち切るように、キリトが話しかけた。

 

「あのさ、みんなに案内したい場所があるんだ。着いて来て欲しい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトに促された4人は、ティルネル号とキズメル号に乗り込んだ。降りしきる雪の中をゆっくりと前進して、夕暮れ近くの三日月湖を横切ると、水路となる川に出て南を目指す。

 

モンスターが出現する気配が無かった為、キリトは櫂を漕ぐスピードを速める。雪の所為で少し視界が悪い為、ライトも見失わないように急いで漕ぐ。すると、4人の視界に上層の底まで到達している1本の塔が見えた。間違いなく、迷宮区タワーだと推測できる。

 

「まさか、あそこに行くつもりじゃないわよね?」

「ち、違うよ。目的地はこっちの方!」

 

即座に否定したキリトは、眼前の右左に別れた2つの道を指差し、南東へ進む。黒ずんだ岩肌に刻まれた、彫刻のような模様を見ながら、右へ左へと曲がる。

 

ウスコの村を出てから1時間が経過した時、薄暗くなってきた谷間の行く手を真っ白い壁が阻んだ。

 

「あれ、行き止まりだよ?」

 

キズメル号の席に座るユウキが、前方を見ながら言った。しかし、キリトは櫂を漕ぐスピードを緩めず、全員に聞こえるように言う。

 

「大丈夫、あそこが目的地だ」

「で、でも、先が全く見えないわ。壁とかがあったら…」

「平気だって、ただの霧だよ。いや、ちょっと違うかな」

 

彼の言葉に、首を傾げるアスナとユウキだが、キズメル号の櫂を漕ぐライトは、視界を覆う濃い霧に見覚えがあった。そして、ティルネル号を先頭に深い濃霧へと入った。暫くすると、爽やかな森の香りが漂ってきた。

 

「…この霧って、まさか!」

 

何やら察しが付いたアスナが声を出すと、ユウキも彼女の考えを理解したようだ。すると、4人の視界を覆っていた霧が一気に晴れ、直後にカルデラ湖よりも広大な湖と、その中央に屹立する巨大な城…いや、砦が見えた。

 

「あっ…あの旗って!」

 

ユウキが、砦の大屋根に高く掲げられた旗に気付いた。漆黒の布地に、角笛と曲刀が交差した模様の旗は、全員に見覚えがある。現在4人が受けているエルフクエストの黒エルフを象徴する物だ。

 

「…綺麗」

「こんなお城、初めて見たよ!」

 

少女達はキラキラと目を輝かせる。櫂を漕ぐライトも、目の前にそびえ立つ砦を見て、一言だが小さく呟いた。

 

「…圧巻だな」

 

現実世界ではお目にかかれない代物だ。2艘の船はそのまま、仄かに照らされた桟橋に近付き、空いているスペースに停泊させる。船から桟橋に上がると、アスナとユウキは砦を見上げた。

 

「現実世界で見た、どんなお城よりも素敵!」

「ホントだよ、こんな綺麗なお城があるなんて!」

「それじゃ、中に入ろうぜ!」

 

キリトの案内で、3人は城へ入ろうと門へ歩み寄る。見張り役である門兵から足止めを喰らったが、キリトが携えていた紹介状を掲示すると、問題なく通してくれた。

 

「「うわあぁぁぁ!!?」」

 

中へ入った途端、女性陣から歓声が聞こえた。粉雪を被った植木や生け垣、鋳鉄の柵がランプに照らせれている。キリトは3人を誘導し、前庭から正面のエントラスへ向かう。大扉を開けて中に入ると、赤い絨毯が敷かれたメインホールがあり、中央には大理石の噴水が水面を揺らしている。

 

「随分と豪勢な砦だな?」

「だろ? β時代にもここに来た事があってさ。ただ、色々と変更が加わってるから、この場所にあるかは半信半疑だったけどな……因みに、名前は《ヨフェル城》って言うんだ」

「2人とも、あちこち見て回ろうよ!」

「他の場所がどうなってるか見たいしさ!」

 

キリトとライトが話し合いをしていると、興奮した様子で女性陣が辺りを見渡している。ここまで豪勢な砦なら、他の場所も目を剥く程に立派だろうが、キリトは頷かずに伝えた。

 

「いや、先に行く場所は決まってるんだ!」

 

そう言うと、キリトは3人を連れて通路を右へ曲がった。何人かの兵士達とすれ違い左へ曲がると、小さなドアが見えた。扉を開けて通ると、城の前庭程ではないが、神秘的な雰囲気を感じる場所が映った。

 

黒い小さな花を付けたイバラが行く手を遮る。4人は雪が積もった石垣を通ると、誰かが先に通ったと思われる足跡を発見した。それを辿ると、イバラの迷路を抜けて美しい庭園が見えた。

 

そして、見つけたのだ。1つのベンチに腰掛ける、4人が見知った人物を。向こうもこちらに気付き、ベンチから立ち上がると、一目散に近付いて来る。艶やかな褐色肌に長く伸びた耳、ユウキよりは薄い紫色の髪を持った美しい女性は、腕を広げて迎えるアスナとユウキに躊躇なく抱きついた。

 

「ユウキ! アスナ!」

 

抱きついた女性が2人の名前を呼ぶと、アスナとユウキも同時に彼女の名前を呼んだ。

 

「「キズメル!」」

 




ちょっと書きすぎました。

本来はもっと短めにする予定でしたが…笑
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