SAO another story   作:シニアリー

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《泡影のバルカローレ》最終回を迎えました。

最近、スケジュールが詰まりすぎて、中々書く時間がありませんでした。笑

そして、かなり長くなってしまいました。では、どうぞ!


戦う理由

味方の門兵6人は1列の横並びで、それぞれの武器を構えていた。対して、敵は6人の隊列を3つも並べている。最後尾には指揮官の白騎士と、その副官と思われるマント付きの剣士が控えている。

 

ライトは隊列を組む森エルフ達に視線をフォーカスさせる。表示されたカラー・カーソルは濃い赤を示し、固有名は《フォレストエルブン・ライトウォリアー》と記されていた。

 

「(さて、どうする?)」

 

このまま門の近くで戦闘を続行する手はあるが、湖で戦っている黒エルフ達が突破されれば、またも敵の援軍が押し寄せて来る。戦闘経験が少ないこの城の兵士達は正直、当てにならない。こちらがジリ貧になるのは時間の問題だった。すると、隣に立つキリトが口を開いた。

 

「みんな、ここで5分だけ持ち堪えてくれないか?」

「…何か策があるのか、キリト?」

 

ライトの問いに、キリトは暫くして硬く頷いた。それを見た彼は敵軍に視線を向けると、背中に吊るす《アニール・ブレード》を引き抜いた。そして、それが合図となったようにユウキ、アスナ、キズメルが各々の武器を手に取る。

 

「頼んだぞ、相棒!」

「任せろ、相棒!」

 

キリトは、この状況を打開できる切り札があると踏んだ。ライトはそう信じて、キリトを城の中に行かせた。彼が戻って来る時こそ、黒エルフがこの戦いを切り抜ける瞬間だと、何故かそう思えた。

 

「ユウキ、アスナ、キズメル、行くぞ!」

「うん!」

「分かったわ!」

「無論だ!」

 

刹那、4人は突撃してきた敵を迎え撃った。ライトに接近する敵兵が鋭い踏み込みによる突きを放ったが、彼はその突きを横へと弾き、接近して膝に蹴りを放った。

 

「グアァ!?」

 

ライトが装備するミリタリーブーツは、打撃効果にプラス判定が付与される。つまり、通常のブーツよりも威力とダメージ量が高いのだ。敵が体勢を崩した瞬間を、ライトは見逃さない。装備する盾を湖に蹴り飛ばし、ソードスキル《ホリゾンタル》を与える。

 

「ガアァァァッ!!?」

 

その斬撃は、森エルフを湖へ吹き飛ばした。ライトは目もくれず、敵を戦闘不能にしようと、体術スキルも駆使して縦横無尽に動き回り、森エルフ達を湖に落下させる。ユウキやアスナ、キズメルも1人だけに集中せず、全体を見て常に動き回りながら戦っている。

 

「兵士達、敵を取り囲むのだ! まずは、あの人族の小僧から片付けろぉ!!」

 

後方に陣取る指揮官が指示を下し、ロングソードをライトに突き付けた。それに応じた兵士達が、ライトを囲もうと多人数で襲いかかる。だが、ユウキとアスナ、キズメルがそれを許さず、前に出て兵達を迎え撃つ。

 

「やあああぁぁ!!」

「せあああぁぁ!!」

「ハアアアァァ!!」

 

武器のカテゴリーは違う筈だが、3人は同時にソードスキルを発動させ、襲いかかる敵を吹き飛ばす。それを見たライトは、頼もしいなと心底そう思った。

 

 

 

 

キリトが城の中に入ってから、3分が経っただろうか。門を守る黒エルフ達も応戦しているが、戦闘経験が少ないのか、どこか動きがぎこちなく見える。この状態が続けば、必ず限界を迎えてしまう。

 

「人族めえぇぇ!!?」

「しっ!」

 

剣を振りかぶった森エルフが間合いを詰める。対して、ライトは下がろうとはせず、相手が剣を振り下ろす瞬間に体を攻撃の軌道から外し、相手の腕を取って足払いを仕掛けた。

 

「ウワアァッ!?」

 

倒れ込んだ森エルフの眉間に、ライトは体術スキル《閃打》を放った。

 

「ガアァっ!?」

 

急所を突かれ、森エルフは意識を失った。

 

「(くそっ、耐久値が限界か!)」

 

ソードスキルで敵を斬り伏せる時に、愛剣が軋む感触が伝わるのだ。剣同士が衝突する度に、耐久値の限界が迫っていると分かる。武器を失えば、抵抗する術は殆ど無くなる為、体術スキルで温存させたいのだ。森エルフの指揮官・副官と戦うまでは。

 

「おのれぇぇぇ!!?」

 

隊列を組む2列目がライトを捉え、2人の兵士が一気に距離を詰めようとした。まず、右から接近する兵が踏み込んで突き技を仕掛けた。だが、ライトは体をずらして攻撃の軌道を外しながら抑え込むと、敵の剣に自分の剣を滑らせながら接近し、柄頭で喉を突いた。

 

「グエェッ!?」

 

1人が怯んだ隙に、ライトはもう1人との間合いを詰める。最小限の動きで放つ斬撃を森エルフは何とか盾で凌ぐが、拳や蹴りの連携で防御が崩れた。そして、左足による蹴り上げで盾を弾いた彼は、ソードスキル《バーチカル・アーク》で吹き飛ばした。

 

「舐めるなぁぁ!!?」

 

すると、喉を突いた1人目の兵士が横から向かってきた。迎撃しようとライトが構えた直後だった。

 

「ライト、スイッチ!」

「っ!」

 

後方からの言葉に、ライトは横へ跳んだ。すると、彼の傍を凄まじいスピードで走り抜ける者が現れた。ソードスキル《ソニック・リープ》を発動させたユウキが、森エルフの兵士を吹き飛ばしたのだ。アスナと並んで凄まじいスピードと威力に感心していると、彼女が警戒しながら声を掛けた。

 

「ライト、大丈夫?」

「問題ない。それに、あいつが戻るまで倒れる訳にはいかないからな!」

 

彼は信じている。《はじまりの街》を共に飛び出し、攻略に向けて背中を預けながら進み、必ず援軍を連れて戻って来る《相棒》を。自分を1人にせず、辛い役目を一緒に背負ってくれたキリトは、決して逃げてなどいないと。

 

 

 

 

ーーーその時だった。

 

 

 

まるで、ライトの言葉に応えるように、ヨフェル城の門が左右に開かれた。そして、その場から黒い影が飛び出し、ライト達に襲いかかろうとした森エルフを斬り伏せた。その人影を見たライトは、小さな笑みを溢した。

 

「遅かったな…キリト?」

「悪い。ちょっと時間が掛かった!」

 

漆黒のロングコートを纏った少年が、そこに立っていた。キリトも同様に小さな笑みで答える。ユウキ、アスナ、キズメルも彼が戻ってきた事に安堵の表情を浮かべた。

 

「援軍は来たのか?」

「おう!」

 

その問いに、彼はニヤッと不敵な笑みで答え、ヨフェル城の門を指差した。そこに目をやると、左目に深い傷跡が刻まれた長髪を後ろで束ねる黒エルフが立っていた。その者は右手に持つ細剣を上空に掲げると、湖全体に響き渡る声量で叫んだ。

 

「私は、リュースラの騎士にしてヨフェル城主、レーシュレン・ゼド・ヨフィリス!!」

 

途端、桟橋で戦うキズメルが鋭く息を呑んだ。

 

「リュースラの兵士達よ! 私は今こそ長きに渡る不在を詫び、そしてそなたらに希う! この戦いには、王国の未来が掛かっている。女王陛下の為、友と家族の為、今ひとたび立ち上がり、私と共に戦ってくれぇぇ!!」

 

その叫びが響き渡った刹那、あらゆる音が消え去り静寂が包み込んだ。そして、それを破ったのは、現在も湖や桟橋で戦い続ける全ての黒エルフの圧倒的な雄叫びだった。尚も戦い続ける者、湖に落ちたエルフまでが、剣や拳を突き上げて叫ぶ。

 

「「「「っ!?」」」」

 

突然、怯える者を奮い立たせるような、勇ましい効果音が鳴り響いたと思えば、キズメルも含めたライト達5人のHPバーに複数のアイコンが点灯した。ライトが反射的にそれらに目を通すと、軽く苦笑いを零した。

 

《ATK上昇》支援魔法に《DEF上昇》バフ。更に、黄色い爆発マークの《ノックバック効果上昇》バフと四つ葉のクローバーの《幸運判定ボーナス》が灯ったのだ。これら全てが城主ヨフィリスから齎されたと考えるなら、誠に恐ろしいなと、ライトは内心で考えていたが、呑気に思考に浸っている場合でもない。

 

「ライト、行くぞ!」

「おう!」

 

2人の兵士が強襲を仕掛けてきたが、幾つもの支援魔法が付与された少年達には相手にならなかった。上段からの斬撃を軽く弾いただけで、兵士達が大きくノックバックを起こした。そして、隙だらけの胴体に、2人はソードスキルを発動させて湖に叩き落とした。

 

戦況は初めから黒エルフが圧倒的に不利だった。だが、リュースラの騎士ヨフィリスと名乗る城主が現れただけで、形勢が逆転しようとしている。この状況に、ライトは城主が持ち合わせる圧倒的なカリスマ性に思わず舌を巻いた。とは言え、これで黒エルフが息を吹き返したので、この勢いを維持できればと思ったが、敵がそれを許す筈もない。

 

「恐れるな! 城主1人増えたところで、我らの優位は揺るがぬ!!」

 

桟橋の奥から大声が響き上がった。後方に構える指揮官が大振りのロングソードを引き抜き、前方に向けて振り下ろす。すると、森エルフの兵士達6人が横一直線に並び、全く同じタイミングで剣を上段に構えた。6つの鋼の刃に薄青い光が帯びると、キリトが苦い声を漏らした。

 

「まさか、多重同時ソードスキルか!?」

「ちっ、厄介だな!」

 

ライトも思わず、舌打ちをしてしまった。あの色と構えから考えて、放たれるのは《バーチカル》だが、6人が同時に放つソードスキルの威力は侮れない。対応策はライト達も同時にソードスキルを放つ事だが、武器のカテゴリーが違うソードスキルを合わせるの難しい。

 

「左右に避けなさい!」

 

途端、有無を言わさない声が届き、キリトとアスナ、キズメルと1人の兵士が右に。ライトとユウキ、兵士2人が左にギリギリまで退避した。瞬間、敵兵達6人が桟橋を踏み切り、青い平行線を描いて迫る。全てのソードスキルを防ぐのは不可能に近いが、ライトは桟橋を踏みしめ、《アニール・ブレード》を頭上に掲げて凌ごうとした

 

 

 

 

ーーーその時

 

 

 

「っ!!?」

 

後方から、凄まじい速さで飛翔する純白の光の槍が見えた。流星のように光るそれは、ライト達の隙間を通り抜け、スキル発動中の敵兵士達に接触し、途轍もない衝撃波を生み出した。

 

そこには、限界まで体を前傾姿勢に倒し、レイピアを真っ直ぐ突き出したヨフィリスが立っていた。ライト達との距離は軽く10mは離れている。つまり、この距離を一瞬で移動したのだ。

 

「…今のソードスキルは……」

「《フラッシング・ペネトレイター》」

 

ライトは、城主が放ったソードスキルに見覚えがあった。βテストの公式サイトの紹介動画でエフェクトと技名を見ただけだが、その目に間違いはなかった。すると、敵の指揮官がヨフィリスに憤怒の表情を向けた。

 

「ライト、迎え撃つぞ!」

「おう!」

 

細剣カテゴリーに分類される《フラッシング・ペネトレイター》は最上位ソードスキルだが、それ故に硬直時間が長い。その隙を埋める為、少年達が同時に動き出し、前傾姿勢のヨフィリスを追い越した。白騎士の指揮官にはキリトが、副官にはライトが当たる。

 

「ヌアアァァ!!」

「はあぁっ!!」

 

これまでの敵兵とは全く違う、鋭くも重い踏み込みからの斬撃に、ライトは下段からの振り上げで対応する。しかし、剣の耐久値に限界が来ている。ミシ、ミシ、と金属が軋む音を耳に歯を噛み締め、副官《フォレストエルブン・ヘビーウォリアー》と鍔迫り合いをしていると、彼が怒声を上げた。

 

「人族の小僧、何故貴様は黒エルフの為に戦うのだ!?」

「っ…何だと?」

 

予想外の問いに、ライトは意味が分からず問い返す。森エルフの副官はブロードソードを持つ手を握り締め、彼に向かって再び問いかける。

 

「この戦いは、太古の昔から続く我ら森エルフと黒エルフの戦いなのだ! なのに何故、何の関係もない人族の貴様が、黒エルフに力を貸すのだぁ!?」

「っ…」

 

自分が戦う理由を問われ、ライトは口を閉ざした。何故、森エルフではなく、黒エルフに力を貸すのか。いや、この戦いに首を突っ込むのか。その疑問は、今まで考えた事も無かった。最初は確かな理由もなく、3人が決めた判断に従っただけだ。

 

どちらに味方しようが、メリットは何も変わらない。なら何故、自分は今こうして、黒エルフの為に命を懸けて戦っているのか。

 

「ハアアァ!!」

「ぐっ!?」

 

鍔迫り合いの最中に考え事をしていた所為か、ライトは剣を持つ手が緩んでしまった。その隙に、副官が彼の腹部に前蹴りを放った。ライトは防御できずに喰らい、数歩だけ後退した。

 

副官が更なる追撃を仕掛けようと間合いを詰めるが、ライトはすぐに体勢を立て直し、予備動作を極力なくした最小限の動きで相手との間合いを保って避ける。

 

「喰らえぇぇ!!!」

 

すると、副官が斬撃を仕掛けようと、素早い踏み込みでライトに接近する。だが、彼はその場で状態を低く構えたまま動かない。そして、斬撃がライトの首を襲う寸前、副官の視界からライトの姿が消えた。

 

「っ…ガアァッ!?」

 

その刹那、副官が呻き声を上げた。斬撃が振り下ろされる瞬間、状態を更に低くして回避と同時に、胴体に横薙ぎの一線を振るった。無駄のない動きに、森エルフは一旦距離を取る。

 

「戦う理由、か」

「っ!?」

 

ライトが不意に呟いた言葉に、副官は視線を上げる。彼は顔を伏せて、何かを考えているように見える。奇襲に備えようと構える彼に、ライトが顔を持ち上げて再び話し出した。

 

「あの時から、オレはこの世界で1人で戦う筈だった。だから…本来なら、オレはこの場に立つ筈がなかった。だが、オレを1人にしなかった相棒が、そして仲間達がリュースラの民の為に戦っている!……なら、オレも彼らの為に戦うだけだ」

 

それが、ライトが自分で導き出した答えだった。そして、刀身の至る所に罅が入る《アニール・ブレード》を持ち上げて構える。すると、森エルフの副官が鬼の形相を浮かべ怒号を上げた。

 

「戯言を!? 我ら森エルフは千古の昔から黒エルフと秘鍵を巡り戦い続けてきた! 全てはこの蒼穹に浮かぶ牢獄からあらゆる命を解放する為だ! それを、人族の貴様に邪魔はさせんぞぉぉ!!!」

 

剣と盾を構えて迫る副官に、ライトはその場で迎え撃った。耐久値が限界に迫る剣で戦う以上、長期戦は避けたいが、単に攻め込んでも盾で防がれる。ライトは回避を中心に、避けられない斬撃は剣で弾き、鋭い踏み込みで斬りかかる。だが、森エルフの副官なだけあり、盾による防御も精度が高い。

 

「(どちみち、こっちから仕掛けるしかないか!)」

 

ライトは内心で呟くと、右手に持つ《アニール・ブレード》を握り締めた。そして、森エルフの斬撃を大きく後方ステップで回避し、右足で地面を勢い良く蹴った。両者の距離が2mに達した時、ライトが剣を大きく振りかぶり、その刀身に淡い光を纏わせた。同時に、副官は盾を構えて両足を踏み締めた。

 

「おおぉっ!!」

 

ライトは2連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》を放った。城主ヨフィリスによって付与されたバフアイコンの効果で、威力が上がった斬撃に副官は後退する。そして、最後の斬撃を振り下ろした。

 

 

ガアアァァァン!!!

 

 

ライトはソードスキルよるノックバックで盾を弾こうとする。しかし、副官は彼が放った斬撃を盾でいなそうと傾けた。それにより、ライトが放った斬撃の軌道は逸れてしまった。

 

「取ったああぁぁ!!!」

「ライトぉぉ!!?」

 

副官と後方で待機するユウキの叫び声が響く。硬直を課せられるライトに向けて、刀身が振り下ろされる。その鋭利な刃が、彼の頭に迫った時、副官は確かに見た。彼の瞳が宿す、真っ直ぐに見据える緋色の眼光を。直後、彼の視界からライトの姿が消えた。

 

「グアァァッ!?」

 

刹那、一筋の光が弧を描きながら、ブロードソードを持つ副官の右腕に打ち込まれた。硬直で動けない筈のライトが、両手を地面に付けて上体を崩しながらも、光を帯びる左足で副官の右腕に蹴りを放っていた。

 

《武器のカテゴリーが違うソードスキル》が連続して発動可能だと言う事は、既に分かっていた。だから彼は、敢えて自分からその隙を作り、攻撃を誘ったのだ。

 

「おおおぉぉぉ!!!」

 

体術スキル《水月》が、副官の右腕に命中した事で、彼はブロードソードを手放してしまった。ライトはそのまま左足を振り切って横回転すると、一気に間合いを詰める。対する副官は、残っている盾を構えてライトの攻撃を防ごうと試みる。

 

斬撃が来ると予想し、正面からの衝撃に備える森エルフだが、予想していなかった攻撃が襲った。

 

「ヌオォッ!!?」

 

左手に装備された盾が真上に吹き飛ばされた。ライトは突き技を出すと見せかけて、実は相手の盾を蹴り飛ばす事が目的だった。体術スキル《弦月》による後方宙返り蹴り技が見事に決まると、ライトはそのまま空中で1回転して着地した。同時に、アニール・ブレードを担ぎ、ガッと地を蹴った。

 

「おおおぉぉぉ!!!」

「グガアアァァァ!!?」

 

上段突進ソードスキル《ソニック・リープ》が、黄緑色の軌跡を描いて一直線に進む。それを受けた副官は宙を舞い、大きな弧を描いて湖へ落下した。

 

 

そして、次に聞こえたのは、ぴきっ…という儚い金属音だった。ライトは前傾姿勢を戻すと、右手に持つ剣を見る。《アニール・ブレード+8》の刀身が2つに折れ、切っ先は細かなポリゴンとなり消滅していた。

 

「…はぁぁ…はぁぁ」

 

ライトは呼吸を整えると、半壊したアニール・ブレードを鞘に戻した。そして、辺りを見回すと、同じく折れた剣を鞘に戻すキリトの姿が映った。どうやら、彼も指揮官との決闘に勝利したようだ。

 

キリトはライトの視線に気付くと、ゆっくりと歩み寄る。ライトもまた同じように彼に近付き、2人は桟橋の中央で拳を合わせた。

 

「勝ったな?」

「当然だ!」

 

笑みを浮かべる少年達に、戦いを見ていたアスナとユウキが近付く。しかし、2人の表情は決して晴れやかとは言えない。その理由を、キリトとライトは何となく察した。

 

「そろそろ寿命だったからな。良くここまで持ってくれたよ」

「同感だ。この剣には、助けられた!」

 

2人はそう呟くと、湖の方に目を向けた。森エルフ達は次々と船を捨て、湖へ飛び込む。そして、まだ生きている指揮官・副官と合流すると、泳いで撤退していく。

 

一方、黒エルフ達は湖から桟橋によじ登って整列していく。最後尾の森エルフ達が濃霧で見えなくなると、4人の前に《昔日の船匠》から続く、第2部の《湖上の城塞》が終了した。大量の経験値が加算されると、アスナが声を掛けた。

 

「私達、湖の外に出て、アルゴさんからのメッセージを受信してくる!」

「それじゃ、行ってくるね?」

「あぁ、頼む」

「一応は気を付けろ!」

 

アスナとユウキは頷くと、桟橋に停めているティルネル号に乗り込む。アスナが船尾に立って櫂を操作しようとするが、少々ぎこちない。2人がその光景を見ていると、聞き慣れた声が届いた。

 

「見事な戦いだったぞ、2人とも!」

「…これで、良かったのかな?」

 

キリトは静かにそう呟いた。そんな彼に、キズメルがドシッと肩を叩いた。

 

「もっと胸を張れ。お前達が居なければ、劣勢は覆せなかった。敵の指揮官とその副官を1対1で倒し、秘鍵を守り切ったのだぞ!これ以上、何を望むというのだ?」

 

小さな微笑みで、キズメルはキリトとライトにそう言葉を掛けた。その激励に、キリトは無言で頷き、ライトは詰めていた息を吐いた。すると、今度は城主ヨフィリスが声を掛けてきた。

 

「お前達の剣、惜しい事をしましたね?」

「い、いえ…無茶な使い方をしたのは俺なので!」

「限界が迫っているのは感じていました。ここまで耐えてくれた事に感謝しています」

 

2人の答えを聞いたヨフィリスは、深い傷が残る美貌を綻ばせた。

 

「剣の所為にしないのは良い心掛けですね。刀身が半ば以上残っていれば、城の鍛冶屋に修復させる事も可能だと思いますが?」

 

ヨフィリスの言葉に、ライトとキリトは顔を見合わせると、2人して首を縦に振った。

 

「いえ、この剣は溶かして、新しい剣が防具に造り替えるつもりです」

「そうですか。ならば…」

 

そこで言葉を切ったヨフィリスは、サッと左手を持ち上げた。すると、後方から巨大なチェストを抱えた兵士2人が小走りに近付いてくる。桟橋にそれを置くと、2人の兵士達は戻った。

 

少年達が不思議そうに眺めていると、ヨフィリスは懐から取り出した金色の鍵で開錠して、箱の蓋を開けた。途端、2人の視界を眩い光が射抜いた。そこには、隅々まで磨き上げられた様々な武器やアクセサリーが収まっていた。

 

「これは、ヨフィリス子爵家伝来の品々です。人族の剣士達よ、私からの心ばかりの謝礼として1品。そして、そなたらの武勇を讃える褒賞としてもう1品、何でも好きな物を取りなさい」

「…ふ、2つも良いんですか?」

「無論」

「…そ、それは、俺達4人でですか?」

「勿論」

「は…ははっ、ありがたき幸せ!」

 

キリトが思わず黒エルフの敬礼の構えを取ると、ライトだけでなくキズメルも呆れ顔を浮かべた。すると、キリトが振り返ってライトに呼びかける。

 

「ライト、どれが良いかしっかり選べよ!2つも貰えるからな!」

「いちいち言わなくて良い!」

 

彼はそう返すと、箱の中の武器に目を通そうと近付いた。その時、湖の方から音がしたので、そちらを向く。そこには、ティルネル号を漕いで戻って来る少女達が居たが、どこか焦った表情をしていると感じられる。

 

「アスナ、ユウキ、凄いぞ。2つだぞ、2つ!」

 

一方のキリトは気付く様子もなく、手招きと声掛けで呼びかける。ティルネル号が桟橋に到着すると、アスナとユウキは急いで乗り移り、2人に向かってダッシュで近付く。

 

「キリト君、ライト君、大変よ!暫く前に出発しちゃったって!」

「誰が?」

「決まってるでしょ!フロアボス攻略レイドがよ!」

「「っ!?」」

 

アスナの言葉に、キリトとライトは驚愕する。

 

「待て、早すぎるぞ! 今朝の情報では、ボス攻略は明日の午後からだった筈だ!」

「それが、今日の午前中にもう到着しちゃったから、最寄りの村で一旦補給してから、午後1番でボス攻略を始めたろうやないかい!…って意見が出たみたいなんだ!」

 

ユウキの説明で、誰が言い出したのかが分かり、ライトは頭を抱えたい衝動に駆られた。ボス攻略戦は、他の戦闘とまた違う。予定を早めて、不足の事態が発生する可能性だって考慮できる。

 

「レイドが出発した時間は分かるか?」

 

キリトがそう訊くと、アスナがウインドウを開いて確認を取る。

 

「今から55分前!」

「…なら、このフロアは連中に任せよう。今から行っても、間に合わないだろうからな」

 

ヨフェル城から迷宮区タワーまで、どんなに急いでも1時間30分は掛かる。キリトの言う通り、今から全速力で向かっても、既に終わっているだろう。アスナとユウキもそれを理解したのか、彼の言葉に頷いた。ライトも、一抹の不安を残しながらも頷こうとした時だった。

 

「キリト、ライト、アスナ、ユウキ。《天柱の塔》の守護獣に挑むのか?」

「あっ…うん。まぁ俺達じゃなくて、他の仲間達が挑むみたいだけどな」

 

すると、キズメルの顔が僅かに翳る。

 

「お前達が信用する者達なら、心配はないだろうが……確かこの塔の守護獣は…」

「私達は伝承でしか知りませんが、この4層の守護獣は奇怪な力を持つと言われています」

 

キズメルの説明を引き継いだヨフィリスの言葉に、4人は怪訝な表情を浮かべる。

 

「この層の守護獣はヒッポカンプと呼ばれ、前半分が馬で後ろ半分が魚の化け物です。それは、どんなに乾いた場所でも泉を湧き出させ、海に変えてしまうとか」

 

4人の表情が驚愕に染まった。それはつまり、ボス部屋その物が海に変わり、プレイヤーを溺れさせるという事だ。彼らがその情報を得ていないと仮定すると、全滅する恐れがある。

 

「キリト、ユウキ、アスナ、行くぞ!」

「分かってる!」

「ごめん、キズメル。ボク達の仲間が危ないから、もう行くね?」

「また必ず戻ってくるから!」

 

兎に角、一刻も早くボス部屋を目指す必要があると判断したライトが、3人に呼びかける。キリトは素早く反応し、ユウキとアスナはキズメルに別れの言葉を言う。すると、彼女は心外そうな表情を浮かべて言った。

 

「こういう時、人族は《水臭い》と言うのだろう。勿論、私も行くさ!」

「「「「えっ」」」」

 

4人が驚きの声を上げると、キズメルの後ろからヨフィリス子爵が顔を出した。

 

「では、私も行きましょう!」

「「「「ええええぇぇぇ!!!?」」」」

 

 

 

 

 

 

キズメルとヨフィリス子爵が同行し、ライト達は急いで迷宮区を目指していたが、その過程で情報屋のアルゴと鉢合わせた。

 

その時の、黒エルフ2人のカーソルを見た彼女は、流石に顔を青ざめたが、共に行くと宣言した。そして、そこから全員がボス部屋に突入する為、迷宮区を登っていく。黒エルフ2人の猛攻であっという間にボス部屋に辿り着き、扉を開けた。

 

途端、大量の水が流れ出てきた。やはり内部は浸水していたが、エギルから全員の無事を聞かされ、未だに言い合いを繰り広げる2大ギルドのリーダーに、キリトが声を掛けようとしたが、それより早くヨフィリスが口を開いて黙らせ、腰のレイピアを高々と掲げた。

 

「人族の剣士達よ、戦うつもりなら立ち上がりなさい。そうでないなら、静かにしていなさい。どちらにせよ、あの守護獣は剣士キリト、ライト、アスナ、ユウキとの盟約により、私が屠ります!」

 

と同時に、剣尖から円心円状のオーラが広がり、それにプレイヤー達が触れた途端、HPゲージに4種のバフがアイコンが灯った。

 

「リュースラの騎士ヨフィリスの名において命じます。立てる者は立ち、私に従いなさい!」

 

レイドメンバー全員が立ち上がり、武器を持って雄叫びを上げるまで、時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

「城主様って不思議な人だったよね?」

「そうね。何年も病気のふりをして、真っ暗な部屋に閉じこもり続けるなんて」

 

次の層に続く階段を登っていると、後方から少女達の会話が聞こえた。実は城主ヨフィリスは病気など掛かっておらず、左目に刻まれた傷を隠す為に、あの暗い部屋に居座っていたのだ。

 

「あの傷が付いた理由、キズメルに訊けば教えてくれるかな?」

「ちょっと、詮索するのはやめなさいよね!」

「そっちが始めたんだろ?」

 

そんなやり取りをしている間にも、ボス部屋ではドロップアイテムの分配大合戦が行われているだろう。ライト達は参加していないが、恐らく呆れるほど醜い言い争いが続いていると思われる。

 

「だけどさ、あの傷にどんな理由があっても、城主様は良い人だったよね?」

「そう…だな。わざわざオレ達を迷宮区に送り届けてくれたからな」

「しかも、フロアボス戦も手伝ってくれたし!」

 

すると、アスナが更に付け加える。

 

「それだけじゃないよ。多分あの人、最後の攻撃を手加減して、キリト君にラストアタックを譲ってくれたんだよ」

「そ、そうかもな」

 

その言葉に、キリトは苦笑いを浮かべる。そうして階段を登り続けると、行く手の彼方に次の層に繋がる扉が見えた。

 

この先に、新たなフィールドと更なる強大な敵が待っていると考えていると、後ろから響いていた足音が消えている事に気付いた。それは、キリトも同じで振り向くと、アスナとユウキが何か言いたげな顔をしていた。

 

「どうかしたのか?」

 

キリトがそう訊くと、2人は示し合わせたかのように、言葉を紡いだ。

 

「ボク達って」「私達は」

「「何時まで一緒に居るの?」」

 

数秒の沈黙が場を支配した。アスナとユウキは真っ直ぐな瞳で、キリトとライトを見据える。すると、最初に答えたのはライトだった。

 

「…何時か分からない別れが来る時まで、かもな」

「俺の力が、必要なくなる時まで」

 

それに続いて、キリトも答えた。それを聞いた少女達は、張り詰めた糸が緩んだかのように顔を綻ばせた。ライトは視線を前方に向けて、第5層の扉を見据えると、ゆっくりと登り始めるのだった。

 




本当に、漸く第4層の物語が終わりました。

ここから、映画化された《冥き夕闇のスケルツォ》に入っていきます。個人的には、この章はけっこう好きな方で、書きたいなと考えていました。

時間がある時に、読んで頂けると幸いです。


戦闘描写ですが、オリ主が体術で主に膝に蹴りを狙ったのは、鎧を装備する相手の胴体を狙っても、大してダメージを与えられないので、鎧が覆われていないかつ、体勢を崩しやすい膝を集中的に狙った形にしました。

そして、副官との戦闘で体を地面に倒して放つ蹴り技は、ローテム戦でも見せた《躰道》の蹴り技《変態卍蹴り》が元になっています。
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