SAO another story   作:シニアリー

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やっと更新できました。中々、書く気が起こらず、ズルズルと先延ばししてしまいました。

今回は、主人公2人の新しい剣が登場します。そして、オリ主の持つ剣が、今後の展開に大きく関わってくる形となっています。

そして、その剣と関連する人物も登場します。では、どうぞ!


新たな剣・クエスト開始

 

お店を後にした4人はその後、神殿や広場などで《遺物》が落ちていないか探し回った。《遺物発見ボーナス》が付与される《ブルーブルーベリータルト》のお陰で格段に見つけやすい為、片っ端から光る物を拾い集めた。

 

軽く100枚を超える銅貨にネックレス、アクセサリーなどが揃い、コルと換金すればかなりの量が手に入ると思われる。そして、辺りに光る物がない事を確認すると、バフのアイコンが点滅を始めて消えた。

 

「ふぅぅぅ…」

 

一息ついたアスナは、ひび割れのベンチに腰掛けるユウキの隣に座る。そして、毛布に置かれてた数多くのお宝を見やる。ユウキは既に、目をキラキラさせて集まった宝石を眺めていた。

 

「これは、ハマるとヤバいわね」

「うん、もう止められなくなっちゃうよ!」

 

お宝探しを中断できないと分かったアスナとユウキに、キリトがβ時代の事について話し出す。

 

「だろ? βの時は、レベルアップを放ったらかして、遺物拾い専門になる奴も居たんだぜ。そのプレイヤー達は敬意を込めて、《ヒロワー》って呼ばれてたけどな?」

「敬意もクソもないだろ?」

 

その話をすると、ライトがあからさまな苦笑を零した。アスナも同じ事を考えながら、毛布の上にある多数の宝石から1つを手に取る。途端、彼女の心に罪悪感のような想いが込み上げる。

 

「ねぇ、私達でこんなに取っちゃって良かったの?」

「えっ?」

 

質問の意図を図りかねているキリトに、アスナは更に話を続ける。

 

「もしメンテがなくて、遺物が復活しないなら、後から来る人達が何も…」

「あっ!?」

 

彼女の言葉を耳にしたユウキが、慌てて気付いたと同時に、一気に暗い表情となった。拾った遺物はNPCショップでコルに交換できると、キリトは言っていた。つまり、一般プレイヤーが《圏外》に出て、コルを稼ぐ必要がない貴重なチャンスなのだ。またと無いその機会を奪ってしまったと感じていると、キリトが小さく呟いた。

 

「…優しいんだな」

「……ちょ…別に……何それ?」

 

アスナは思わず慌ててしまう。すると、キリトも少し照れた様子で話を再開する。

 

「気に病む必要は無いよ。俺達が拾ったのは、この街に落ちてる遺物全部と比べると、本当にちっぽけなものだからさ!」

 

罪悪感を覚える自分達を思っての言葉が、キリトから送られて軽く肩にポンと手が置かれた。途端、アスナの胸から何かが溢れそうになり、彼女はそれを必死で抑えようと、俯いて唇を噛み締める。

 

後先考えずに遺物を拾ってしまったのは事実だが、圏外に出て攻略組として戦う事だってとても怖い。そして、自分が守ると決めたユウキが死ぬのも怖い。それらの感情がない交ぜとなって、強い衝動へ変わっていく。それらの恐怖から解放され、何もかもを捨て去って、キリトの胸元で泣き喚き、頑張ったと慰めて欲しい。

 

しかし、自分達は暫定的なパーティーだ。そうなれば、自分は守られる立場になってしまうと思った。彼女は決して、それを良しとしない。βテストの知識と抜群の戦闘力を併せ持つキリト、ずば抜けたゲーム感に卓越した戦闘センスと洞察力を持つライトが前で戦っている。それを考えると、彼らの負担を更に掛ける訳にはいかない。自分を姉のように慕っているユウキの事を考えるなら尚更だ。

 

「うん、ありがと。でも、遺物拾いはもう満足かな」

「…ボクも、これ以上拾うのは止めとく。他の人達にも悪いからさ」

 

ユウキもまた罪悪感を感じていると、アスナには思えた。少しでもそれを和らげたかったアスナだが、それより先にライトが口を開いた。

 

「この正式サービスでも、メンテが行われないと決まった訳じゃないんだ。それに、自分の命が懸かった状況で、他のプレイヤーの事を心配するなんて、簡単に出来る事じゃない…だから、そんなに罪悪感を覚える必要はないと、オレは思う」

「…うん、ありがとう!」

 

どこかぎこちなく彼が答えると、ユウキの表情が少し和らいだ。アスナも彼女の様子が落ち着いた事に安堵していると、キリトも続けて口を開く。

 

「ライトの言う通りだ。それに、そもそも街中の遺物拾いは、ただのオマケみたいなものなんだ」

「…うん……うん?」

「…へぇ?」

 

一瞬、アスナとユウキは思考が停止し、どういう事かと訊ねる。

 

「…それってどういう事?」

「転移門広場や他の場所にも、DKBやALSを見なかっただろ?…言い方は悪いけど、あいつらなら資金集めだって言って、真っ先に拾おうするのに」

「お前、奴らの前で絶対にそれを言うなよ?」

 

ライトがやや引き攣った顔で言うと、キリトは思わず苦笑を零した。もしこの場でどちらかのギルドと居合わせたら、嫌味に留まらず暴言を吐かれそうだ。キリトは表情を戻し、左の人差し指を真下に向けた。

 

「あいつら多分、下に潜ってるんだ」

「…下に何かあるの?」

「カルルインの街の下には、デッカい地下墓地もとい、ダンジョンが広がってるんだ。浅いとこは圏内だからそっちが本命で、街中で拾える物なんてたかが知れてるんだよな」

「……は?」

「だから、これくらいで罪悪感を覚える必要はないよ。さ、鑑定屋に行ってコルに変えて貰おうぜ。その後に…」

「は? はぁ? はぁぁぁぁ!??」

 

腹の底から叫び声を上げたアスナは、右拳をしっかりと握り締めた。

 

「それをっ! 先にっ!! 言いなさいよね!!!」

 

放たれた拳はキリトの脇腹に打ち込まれると思われたが、圏内ではプレイヤーを傷付ける事は出来ないので、プレイヤーを保護する《コード》が出現し、紫色の光が神殿を照らしただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナの怒りが収まった後、一行はNPC鑑定屋の所に向かい、集めた遺物をじっくり鑑定して貰った。宝石はどれもD級品、アクセサリーやネックレスに《吟唱》スキル熟練度+3、ブレスレットには《調合》スキル熟練度が+4、指輪の1つがスタン耐性+1の微妙な性能だった。

 

もう1つが《燭光》という見慣れない効果があった。店を後にして歩くアスナは、見慣れない効果を持つ指輪を注視していると、前を歩くキリトが提案する。

 

「その指輪、ちょっと便利だから、誰か装備しとけば?」

「えっ…そうなの? でも、キリト君は?」

「俺はもう両手に装備してるからさ!」

 

彼はそう言うと、両手を3人に見せる。右手の人差し指には黒エルフの野営地で、司令官から報酬として受け取った筋力+1の指輪、左手の薬指にはヨフェル城のヨフィリスから貰った《シギル・オブ・リュースラ》がある。

 

それを見た途端、アスナは自分の頬が熱くなるのを感じた。城主から指輪を貰い、何も考えず自身も左手の薬指に通した。ライトとユウキはどちらも右手の指に通していたので、結婚指輪みたいだと思ってしまった。

 

そんな事を思い出したが、サッと頭を振って切り替える。そして、ユウキとライトを含めて誰が装備するかと相談しようとしたが、それより先にライトが口を開いた。

 

「オレも同じように装備できない、2人で相談したら良い!」

 

ライトも、少女達に両手を見せた。確かに指輪が1つずつあるので、アスナはユウキと相談しようと向き直った。

 

「ユウキ、これ着ける?」

「う〜〜ん、ボクは大丈夫かな。アスナが着けなよ?」

「そう……じゃあ、ありがたく貰うね!」

 

ユウキの返答を聞くと、アスナは空いている右手の中指に謎の《燭光》を装備した。鑑定屋に残りの遺物をコルに交換して貰った4人は、それぞれ均等に分け合った。

 

 

 

鑑定屋を後にして街中を歩く最中も、アスナは若干だが、申し訳なさを感じていた。しかし、キリトから地下墓地にも大量の遺物が落ちていると聞かされ、少し心が落ち着き、この収入は攻略の為に使おうと決めた。

 

「さて、この後どうする?」

 

後方からライトの声が聞こえた。特に予定も決めていなかった為、キリトが腕組みして考えると、暫くして口を開いた。

 

「これから、4層に降りようと思ってる。子爵様に報酬アイテムを貰わないと!」

 

1つ下の4層にあるヨフェル城での激戦が思い出される。キリトとライトが1対1で指揮官と副官を倒した後、城主ヨフィリスは城を救ってくれたお礼として、子爵家伝来の品々を報酬として渡そうと言ってくれた。フロアボス戦でハプニングが起き、受け取るのは見送りになった為、今から貰いに行こうと考えたのだ。

 

「ねぇ、キズメルにも会えるかしら?」

 

ヨフェル城にまだ滞在している可能性があると考えたアスナは、キリトに向かって訊ねた。すると、彼は少し考える素振りを見せた。

 

「…それは分からないけど、まだ居ると良いな」

 

確信している訳ではないが、彼もキズメルがまだ滞在している事を願っていると感じた。そして、それは自分達だけでなく、ユウキやライトも同じだと思っている。

 

「じゃあ、これから4層に戻る?」

 

アスナの隣を歩くユウキが問いかける。時刻は夜の21時30分と表示されており、遅すぎる時間帯ではない。これからの予定は、この層のクエストを消化する事だが、報酬アイテムを入手した後で構わない筈だ。

 

「そうだな、じゃあ転移門でロービアに戻って、今夜中に素材を集めますか?」

「またあの面倒くさいやつか…」

 

すると、ライトがため息と共にうんざりした口調で言った。4層の主街区は水路がテーマの為、ゴンドラを作る必要がある。しかし、4人が造った2隻の船はヨフェル城の桟橋に停泊している故、ヨフィリス子爵に報酬を貰う為には、新たなゴンドラを造るしかない。

 

「ロモロおじいちゃんにも会いたいし、頑張って素材を集めようよ?」

「えぇ、あの人にはお世話になったしね?」

「えーっと、今回はフツーのゴンドラで良いんですよね?《幻の熊脂》とか要らないやつで…」

 

キリトが恐る恐る訊ねる。出現率が低い上に、倒すのに時間が掛かるヌシ熊を相手にするのは勘弁願いたいと思ったのだ。見れば、ライトもかなり面倒くさそうな顔をしている。アスナはユウキと顔を見合わせると、やれやれと言わんばかりに頷いた。

 

「しょうがないわね、フツーので我慢するわ」

「それじゃあ、行こっか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人はその後、転移門で第4層主街区《ロービア》に降り立った。最上層が開通されたが、街はまだ人で活気付いていた。その事を話し合いながらも移動を開始しようとした時、彼らと同じ攻略組に属する、キリトがアニキ軍団と呼んでいるリーダー、エギルと出会った。

 

彼は、キリトが第2層でネズハから譲り受けたアイテム《ベンダーズ・カーペット》を持っていた。聞けば、余分なアイテムをNPCショップで店売りするのと、プレイヤーと取引の差を確かめていたようだ。その最中で木材の話が出た為、アスナが余っているかと訊ねたが、この層は船の移動を強いられるので売り切れだった。

 

エギルに掻い摘んで事情を説明すると、彼は快く自分達の船を貸してくれた。ピークォッド号に乗り込んで、交代で操舵しようと少年達は話し合い、最初はキリトが漕ぐ事になり、ロービアの南門を抜けてフィールドへ進む。

 

フィールドボスが住み着いていた《カルデラ湖》に到着し、ライトが交代して操舵する。道中で何度かモンスターと遭遇するも、問題なく倒して進む。エギルから借りたピークォッド号は、ティルネル号やキズメル号と比べると少し大きい為、狭い谷に擦らないよう慎重に操舵する。そして、白い霧が漂うと空間を通過すると、目的地のヨフェル城が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

ライトが櫂を操舵して停泊させ、桟橋に飛び乗る。そして、近くに停まっている2隻の船、ティルネル号とキズメル号に、全員が懐かしい目を向けた後、頷き合って城に近付く。キリトが左手の指輪《シギル・オブ・リュースラ》を掲げると、衛兵が守っていた門が簡単に開いた。まずは城主に挨拶に行こうと階段を登り、最上階の5階に到達し、右側に見える大扉をノックする。

 

「入りなさい!」

 

時刻は既に深夜だが、すぐに中から美声が聞こえてきた。代表してキリトが扉を開けると、以前に訪れた暗闇の時とは違い、燭光やランタンの温かな光が部屋を照らしている。そして、執務室のデスクの奥には長身の黒エルフが立っていた。

 

ヨフェル城の城主、レーシュレン・ゼド・ヨフィリス子爵は、ライト達に背を向けていたが、クルリと振り返った。1本に結んだ長髪に整った美貌だが、最も目を引くのが左目から顎まで通る古傷だ。キリトによれば、《最大の恥辱の証》らしく、それを隠す為に部屋に篭っていた。だが、今はその考えを改めたらしい。

 

「キリト、ライト、アスナ、ユウキ、戻ってきたのですね」

「はい。その…城主様と、約束しましたから」

 

本当は報酬品を貰う為にだが、キリトが堂々とそんな事を言える筈もない。すると、アスナが城主に一礼してから話しかける。

 

「夜遅くにお邪魔してすみません、城主様」

 

彼女に習ってユウキも頭を下げる。訪れる必要はあったが、夜中に出向くのも迷惑だと思い謝罪したが、ヨフィリスは小さく頭を振った。

 

「構いませんよ。この城を守ってくれたそなた達なら、何時でも歓迎です。さぁ、こちらにどうぞ」

 

ヨフィリスから招かれた4人は、デスクの前まで移動する。辺りを見回しても他のNPCの姿が見えなかった為、ユウキがヨフィリスに訊ねる。

 

「あの城主様、キズメルはどこに?」

 

城のどこかに居ると思った彼女が訊ねると、ヨフィリスは灰色の隻眼を向け、躊躇いがちに言った。

 

「残念ながら、彼女はもうこの城には居ません」

「「「えっ!?」」」

 

その言葉に、ユウキとアスナ、キリトが小さく声を零し、ライトは緋色の瞳を細めた。ヨフィリスはデスクの上で手を絡ませると、落ち着いた口調で話し始めた。

 

「騎士キズメルは、神官団の指示により《翡翠の秘鍵》と《瑠璃の秘鍵》を第5層の砦に運ぶ任に就きました。今頃はもう到着している筈です」

「……そうですか」

 

ユウキは顔を俯かせて、寂しそうな声色で応じた。そんな彼女の背中に、アスナが優しく手を添える。彼女もまたキズメルに会えるのを楽しみにしていた為、少し暗い表情をしている。そんな2人に、城主ヨフィリスが声を掛ける。

 

「キズメルも、そなた達に会いたがっているでしょう。機会があれば、砦を訪れてみて下さい。その印章があれば、門は開く筈です」

「はい…必ず!」

「ありがとうございます、城主様!」

「なるべく早く行ってみます」

 

アスナ、ユウキ、キリトが順番に答えて、ライトは静かに頭を下げた。すると、子爵は小さく微笑み、右手で部屋の壁際を指差した。全員がそこに注視すると、がっしりとしたチェストが置かれていた。

 

「そなた達には、城を守ってくれた謝礼と褒賞を渡していませんでしたね。改めて、あの箱から好きな品を2つずつ持っていくと良い」

 

すると、4人の視界にクエスト報酬のダイアログが表示された。ライトが表示された画面をスクロールする。魅力的な性能を持つアイテムに目を通していた

 

 

 

ーーーその時

 

 

「っ…」

 

ある1つの品に目が止まった。いや、止められたと言うべきか。

 

それは彼が使っていた《アニール・ブレード》と同じ片手直剣だった。ライトはその剣が表示された欄をタップして実体化させる。剣を持った瞬間、重心が軽く傾くような感覚に襲われた。つまり、それ程この剣が重いという事だ。

 

刀身は磨き抜かれた重厚感のある輝きを宿しているが、最も目を引くのがその長さと幅だ。《アニール・ブレード》の刀身の長さや幅と比べると、少なくとも1.5倍はあると思われる。鍔はシンプルな横に伸びたデザインで、その中央と柄頭には彼の瞳と同じ緋色の宝石が埋め込まれている。

 

持ち手の部分と合わせて見ると、十字架のように見える。途端、執務内に城主ヨフィリスの声が響き渡った。

 

「その剣はっ!?」

「「「「っ!?」」」」

 

ヨフィリスは驚いた顔で、ライトが持つ剣を凝視していた。隻眼の瞳が限界まで見開かれていたが、落ち着きを取り戻し、ライトの瞳を見据えた。

 

「その剣は、大地切断以前より続く我がヨフィリス子爵家の、初代ヨフィリス子爵が使っていた、伝説の剣です」

「「「「っ!!?」」」」

 

その言葉に、この場の全員がライトが持つ剣に目を向ける。《大地切断》以前という事は、この浮遊城アインクラッドにエルフ達が囚われる前の話だ。

 

「私も詳しくは知らないのですが、初代ヨフィリス子爵はその剣を携え、フォールンエルフの将軍ノルツァーを敗北にまで追いやったとか」

「「「えぇぇっ!?」」」

 

ライトは再び、自身が持つ剣に目をやる。右手で握った感触は、今まで使ってきた剣よりも明らかな重みを感じた。それだけで、この剣が破格の性能を持っていると感じられる。

 

漆黒のカーソルを持つあの男を、敗北にまで追い詰めたとあれば、伝説の剣と呼ばれるのは至極当然。しかし、初代ヨフィリスが使っていたという事は、この剣は黒エルフだけでなく、ヨフィリス子爵家にとっても大切な剣だと思われる。ライトがそんな事を考えていると、まるで彼の思いを察したように子爵が声を掛けた。

 

「人族の剣士ライトよ、その剣を受け取るが良い!」

 

ヨフィリスの言葉に、ライトは耳を疑った。そして、緋色の瞳を向けて問いかける。

 

「何故です? この剣はリュースラの民にとって…そして、ヨフィリス子爵家にとっても大切な剣の筈。いくら協力体制にあるとは言え、人族のオレにこの剣を譲るなんて…」

「その剣は、持ち主を選ぶと言われています。我らエルフ族がこの浮遊城に囚われる前にも後にも、その剣を扱えたのは、初代ヨフィリス子爵だけでした。そして、その剣は我らエルフ族ではなく、人族の剣士であるそなたを持ち主に選びました。ならば、私もそれに従うだけです!」

 

城主の言葉に、ライトの視線がその剣に向けられる。数ある報酬品の中から、この剣が目に止まったのは、ライトの意思では無かった。

 

鍔は紺色で十字架のようなシンプルなデザインだが、重厚感のある銀色の刀身からは、並々ならぬ気配が感じられる。ゲームの世界で剣が持ち主を選ぶ事など無い筈だが、子爵が言う通り、ライトはまるで導かれるようにこの剣を見つけた。ならば、この剣が彼を持ち主として認めたという事か。

 

「…ありがとうございます、ヨフィリス子爵!」

 

ライトは姿勢を正して子爵に向き直り、感謝の言葉と共に頭を下げた。すると、ヨフィリスはその言葉に、傷が残る美貌を綻ばせた。

 

ライトは左手で剣をタップして、ウインドウを出現させた。そこには、【初代ヨフィリスだけが扱えた伝説の剣にして、選ばれた者には絶大な力を与える】という説明文と共に、窓の1番上に剣の名前が記されていた。

 

 

《ソード・オブ・カイザー》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

褒賞品を貰った4人は、ヨフェル城で一夜を過ごし、朝食を取って出発した。ピークォッド号で主街区のロービアに戻り、東桟橋に停泊させると、エギルにお礼のメッセージを送った。転移門を使って、第5層の《カルルイン》に着いた4人を迎えたのは埃っぽい空気ではなく、ロービア以上に水分を含んだ空気だ。しかも、それは水滴となってライト達に降り注ぐ。

 

「……雨?」

 

空から降り注ぐ雨だと認識すると、アスナとユウキは急いでフードを被った。

 

「雨だなこりゃ…」

 

キリトはげんなりした口調で呟くと、コートの裾を立てた。ライトはため息を吐いて、両手をズボンのポケットに突っ込んだ。装備が濡れてしまうと動きにくい為、早く動こうとユウキが声を掛けた。

 

「ねぇ、雨宿り出来る所に行こうよ?」

 

時刻は朝の8時過ぎだが、それにしては周囲の人影は少ない。

 

「つっても、朝飯はもう食ったし、武器も更新したばっかりだから、道具屋にも用は無いな」

「もう、屋根がある所ならどこでも良いわよ!」

 

長々と話すキリトに、アスナが小声で叫ぶ。すると、キリトは少し考えてから、前髪の水滴を払って答えた。

 

「じゃあ、昨日受けたクエストを消化するか。ライトとユウキもそれで良いか?」

「大丈夫だよ!」

「問題ない」

「この雨の中で?」

「屋根があるから大丈夫!」

 

キリトはそう答えると小走りに移動し、3人も後を追う。広場を通り抜けて、未だ足を踏み入れていない街の北部を進む。暫く移動すると、前方の広場に建つ巨大な遺跡が見えた。

 

半ば破壊され、遺物拾いの際に見た神殿より不気味だ。だが、キリトは躊躇いなく進み、ライトも幾分か警戒しながら中に入る。アスナとユウキは不安そうにしながらも頷き、2人に続いて入る。衣服や防具に付着した水滴を払い、アスナが前に立つキリトに訊く。

 

「ここは?」

「地下墓地の入り口だよ。他にもあるけど、ここがメインかな」

「…ちょっと不気味だね?」

 

辺りを見渡しながら、ユウキが静かに呟いた。薄暗い広間は視界がはっきりせず、無意識に周囲を警戒してしまう。すると、彼女に同意する形でライトが口を開く。

 

「地下墓地というだけの雰囲気はあるな……メインって事は、ここには沢山のクエストがあるのか?」

「そりゃもう山程な!」

 

キリトはそう答え、ウインドウを開いて可視化モードに切り替えた。そして、注文済みのクエストリストを3人に見せる。

 

「この《迷子のジェニー》ってやつは、女の子のペットの子猫を地下墓地で探すやつだし、《悪趣味な収集家》ってやつは特定の遺物を拾い集めるやつだし、《30年の嘆き》ってやつは地下墓地のどっかを彷徨ってる悪霊を…」

「「にえっ!!」」

 

途端、少女達が短い叫び声を上げた。そして、アスナがキリトの口を塞ぎ、有無を言わさぬ眼力で黙らせる。ライトは突然の事に驚き、ユウキの方を見る。彼女の顔は少し青白くなっている一方、キリトはアスナの両手から解放されると、少し間を置いて問いかけた。

 

「……今の、にえっ、って何?」

「…ロシア語の『ノー』よ」

 

どうして急にロシア語が出てきたのかと、誰もが最初に思うだろう。しかし、それよりも先に気になる事があったライトが2人に訊ねる。

 

「ロシア語が出てきたのは置いておくとして、何がノーなんだ?」

「ええっと、それは……クエストのネタバレ禁止がだよね、アスナ?」

「えっ…え、えぇ。そうよ!」

 

側から見れば、何をそんなに慌てているんだと言いたくなる。事実、ライトも訝しそうな表情をしているが、キリトはその返答に納得した顔を浮かべた。

 

「ああぁ、成る程な。確かにネタバレしてからやるのも面白くないな……じゃあ、これからやるクエストは基本的に口出ししないから、2人が進めて良いよ!」

「そ……そう。なら、そうさせて貰うわね。2人は準備できてるの?」

「何時でも良いぞ?」

「もちろん!」

 

ライトは静かに答え、キリトは自身の背中に吊るす新たな剣《ソード・オブ・イヴェンタイド》の鐔をチン、と鳴らした。そして、アスナとユウキを先頭に、4人は墓場の入口へ向かった。




出ました。新たな剣《ソード・オブ・カイザー》

将軍ノルツァーを敗北にまで追い込んだ《初代ヨフィリス》とは、一体何者なのか。それは、まだ先の話で書いていくつもりです。

次回、4人がクエスト消化に乗り出します。しかし、少女達の前に立ちはだかるは、苦手なオバケ系のモンスターです。


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